『マディソン郡の橋』からの緊急警告!

 『マディソン郡の橋』は、観る人ごとにまったく異なる顔を見せる物語である。


 まず第一に、熱烈な恋物語だ。
 夫と子供たちの旅行中、1人残った妻フランチェスカは、ローズマン橋を撮影に訪れたカメラマン・ロバートと1日にして恋に落ちる。

 かつて、生まれ育ったイタリアから憧れのアメリカへ渡ってきた彼女は、夢をいっぱい抱いていた。知的な彼女は教師だった。
 それなのに、農場主である夫に教師を辞めるように云われ、息子と娘を産み、野良仕事に精を出して、道を尋ねるロバートに説明もできないほどぼんやりした生活を送っている。
 フランチェスカにとって、写真のために世界を旅するロバートは、ド田舎にはないものすべての象徴だ。
 ロバートと出会って、彼女は久しぶりにウィリアム・バトラー・イェイツの詩集を引っ張り出す。イェイツはノーベル文学賞を受賞したアイルランドの詩人である。

 『マディソン郡の橋』は、そのほとんどがフランチェスカの家での2人きりの会話劇であり、まるで舞台のように濃密に愛の行方を描いている。
 フランチェスカとロバートを除けば、他の人物は登場シーンも少なく、セリフもろくにない。観客が極力2人だけに感情移入するように考慮されているのだ。


 そしてこれは恐怖の物語でもある。
 世間の夫たちを震撼させるドラマである。

 ロバートが優しく冒険心に富んでいるのに比べれば、フランチェスカの夫リチャードはいかにも愚鈍だ。観客がロバートを応援したくなるほどに。
 フランチェスカが食事をつくると、野良仕事から帰ってきた夫や息子は黙々と食べる。
 リチャードとフランチェスカの生活、それは野良仕事と、会話のない食事と、ビール片手にテレビを見ること。

 テレビについて、元NHKディレクターの池田信夫氏がこんなことを書いている。
---
 海外で友人の家に行くと、リビングに大きなテレビが置いてあることはまずなく、奥の部屋に14インチぐらいのテレビがひっそり置いてあったりする。彼らにとっては家族や友人との会話や、読書や音楽が最上の娯楽であり、テレビはほかに娯楽のない貧しい人々のものなのだ。
---

 そしてまた喜多川泰氏は、『お金持ちになるヒント!』と題して次のように述べる。
---
「家に帰ってテレビを見ながら食事をしたり、ビールを飲んだりする生活をやめてください。食事はパートナーと一緒につくったり食べたりしながら雰囲気や会話を楽しみ、テレビを見るかわりに落ち着いた部屋で本を読む習慣を身につけてください。」

「アメリカ映画を思い出してください。お金持ちの家には何がありますか?必ず書斎と大きなキッチンがあります。書斎にはたくさん本が並び、食事はつくるところから雰囲気を楽しみながら友人などを招いて会話を楽しむというのが普通です。テレビを見ながらビールというシーンは出てきません。むしろそういうシーンは、どういう所得層を描写するために使われているでしょうか?決してあなたがなりたくない所得層を描写するために使われているでしょう?」
---

 しかし、リチャードは特に悪い男ではない。フランチェスカを愛しているし、普通に優しい夫である。ごくまっとうな男なのだ。
 なのに、たった4日間、子供たちと旅に出ているあいだに、妻が初対面の男と恋に落ちて、自分や子供たちを捨てて駆け落ちする相談を始めてしまう。
 荷物をまとめ、出て行く気で満々のフランチェスカは、農夫リチャードが見たこともないほど美しく変身している。

 なにしろロバートは、リチャードが失った決定的なものを持っているのだ。
 それは新鮮さである。
 夫とのいつもの食事、いつもの夕べでは決して味わえない新鮮さ。

 危機感を抱け、世のオット諸君!
 その生活は、妻が夢見たものを潰しているのかも知れない。


 そしてこの映画は、ちょっと虫のいい夢物語でもある。

 監督・主演のクリント・イーストウッドは、公開当時65歳。
 世界保健機関(WHO)の定義によれば、すでに前期高齢者である。
 それでも新たな出会いがあり、人妻に口説かれる。
 男は幾つになっても新しい恋ができるという、イーストウッドの伊達男ぶりが匂い立つ。


マディソン郡の橋』  [ま行]
監督・制作/クリント・イーストウッド  撮影/ジャック・N・グリーン
出演/クリント・イーストウッド メリル・ストリープ
日本公開/1995年9月1日
ジャンル/[ロマンス] [ドラマ]

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【genre : 映画

tag : クリント・イーストウッド メリル・ストリープ

⇒comment

面白い!

TBありがとうございます♪

記事を読んでなるほど~と思いました
私は女性なので、その角度からは観ることができませんでしたが
確かに、この物語で一番愚鈍なのは夫リチャードですね・・

Re: 面白い!

Dさん、こんにちは。
コメント&TBありがとうございます。
私はずっとリチャードが気になって仕方ありませんでした。あまりに哀れで…。
ロバートのような海外の珍しい話なんかできないリチャードですが、フランチェスカが物足りない毎日を送っていることには気づいていたのでしょう。死の床でフランチェスカに「君には夢があったんだろう…」と詫びるシーンは、凡夫なりの輝きかと思います。

こんばんは☆

TBありがとうございました☆
この映画は、ホント、観る人によって異なる顔を見せますよねぇ。同感です!
オイラは、素直に感動して思いっきり号泣していましたw

Re: こんばんは☆

トラヴィスさん、こんにちは。
この作品、子どもたちが母の遺品から隠された事実を知る、という設定が上手いですね。
不倫に対して1番反発するであろう子どもの視点を入れることで、観客の反発を先回りして誘導してしまう。
すでに終わった過去のこととしているのも、生々しさを和らげて効果的でした。
雨のシーンは感動でしたね。

プラトニック

プラトニックラブとは、セックスがあれば否定されるのでしょうか。生涯忘れられない4日間。この間、二人は肉体関係となりました。しかしその後は会う事もなく互いを思いながら生涯を閉じます。もし、その後、会う機会が訪れ再びセックスがあったとすれば、ただの不倫関係に落ちてしまうところでしたね。
似たような物語にローマの休日もあげられるでしょう。
また、どちらかの死によってその後の関係が永遠の謎となる物語も、哀愁、タイタニックなど数多くあります。
これらの物語は、高い次元でプラトニックラブと考えてもいいのではないでしょうか。
二度と会えなくなった人を思い続ける。いつの世も人々に共感を呼ぶストーリーなのでしょうね。


Re: プラトニック

のぞみさん、こんにちは。
私はあまり「プラトニックラブ」という言葉を使いません。loveに形容詞は不要と考えるからです。
この作品は恋愛映画であると同時に、日常と非日常を対比させ、非日常に魅了されずにはいられない人間のさがを描いています。子孫のために多様な遺伝子を手に入れるのは生物として自然なことなので、すでに手に入れた遺伝子(子供の父親)に魅力を感じず、異なるタイプの遺伝子の持ち主に惹かれるのはとうぜんのことでありましょう。
もしも主人公二人が再会し、関係を持ったとすれば、それもまた日常になってしまい、非日常ならではの魅力が失われてしまうでしょう。
主人公の男女が二度と会えない短い恋物語は、非日常のまま終わるがゆえにいつまでも魅力を保ち続けるのだと思います。
本作は、その冒頭で一度きりの出会いだったことが明かされており、だからこそ観客の共感を呼ぶのでしょうね。
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