『Fukushima 50』 ようやく現れた映画

映画『Fukushima 50』 オリジナル・サウンドトラック 涙が止まらなかった。
 『沈まぬ太陽』で渡辺謙さんと、『空母いぶき』等で佐藤浩市さんと組んだ若松節朗監督の、名優二人を中心に据えた群像劇は見事だった。
 『Fukushima 50』(フクシマフィフティ)は、スケールの大きさといい、ドラマの密度といい、日本映画屈指の作品であろうと思う。


 アメリカ同時多発テロ事件――多くの犠牲者を出した2001年9月11日の大事件――から10年後の映画『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』が、このテロ事件を真っ直ぐに取り上げているのを見て、公開当時、私は次のようにしたためた。

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 (米国は、ここ数年発表された)比喩的な物語ではなく、ストレートにテロの遺族が主人公の映画を作れるほど事件から距離を置き、素材として扱えるようになるまでに10年を要した。
 (1年前の)2011年の東日本大震災を映画にできるほど震災から距離を置き、素材として扱えるようになるには、どれだけの時を要するだろうか。
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 東日本大震災から2年後に公開された『遺体 明日への十日間』は、震災から距離を置いて見るとか、素材として扱うこととは正反対の映画だった。そのときはまだ、映画を作り、上映することそのものが死者への弔いであり、ご遺族と悲しみを分かち合うことだった。

 2011年3月11日の大地震と大津波から9年後、2020年3月6日にその映画は現れた。
 地震と津波が引き起こした福島第一原子力発電所の事故と、決死の覚悟で事故対応に当たった人々――一時期、現場の作業員が約50名になったことから「フクシマ50」と通称される――を描いた『Fukushima 50』だ。


 本作の上映中、涙が止まらなかったのは、家族への愛情が、人と人との思いやりが、映画の中に溢れていたからだ。
 家族とのあいだにだって、いや、否応なく顔を合わせる家族だからこそ、いさかいがあったりギスギスしたり、やりにくいことがあったりもする。けれども、死を目前にしたときに家族に書き残す言葉は、温かで、愛に溢れている。
 作業員一人ひとりに家族がいる。その家族一人ひとりに、言葉に尽くせない思いがある。決死の行動に出る際に、結婚指輪を残していこうか付けていこうか逡巡する作業員。誰もが、お互いのこと、その家族のことを気づかい思いやる姿に、私は涙を止めようがなかった。


 一方で、本作は湿っぽくなりすぎず、たいへん面白い娯楽作に仕上がっている。これはとても大事なことだと思う。

 以前、韓国映画『戦火の中へ』を取り上げて、朝鮮戦争中の悲惨な実話を扱ったこの作品が、悲しさ辛さを描くばかりではなく、抜群に面白いアクション映画でもあることを紹介した。
 韓国映画には、極めて政治的だったり、悲惨だったり、リアルな問題だったりを取り上げても、同時にエンターテインメント性たっぷりで観客を楽しませる作品が少なくない。『タクシー運転手 約束は海を越えて』なんて、多くの民間人が殺された光州事件の悲劇を描きながら、クライマックスは大挙して登場したタクシーのカーチェイスになってしまう。カーチェイスのシーンがなくたって充分に楽しめるし、光州事件の悲惨さの前にはカーチェイスの軽やかさがかえって浮いているようにも感じるのだが、どんなに重いメッセージを扱おうとも、観客は歴史を学びに来ているのでもなければ政治運動のために来ているのでもないのだからまずは楽しませようと工夫する韓国映画のスタンスには頭が下がる思いだった。

小説 Fukushima 50 (角川文庫) 邦画の場合は、政治的な、リアルな問題を取り上げると、深刻な作風になることが多いように思う。でも、もっとエンターテインメント性も追及していいのに、と私は常々感じていたから、『Fukushima 50』には感心した。
 一見してお判りのように、本作はパニック映画の定石を踏んでいる。
 高層ビルの大火災を描いた『タワーリング・インフェルノ』(1974年)あたりを思い出していただくと良いだろう。高さ10メートルを超える大津波などあるはずがないと慢心しているところに大津波が襲ってSBO(Station Blackout:全電源喪失)が起こってしまうところとか、現場に襲いかかる第二第三の危機とか、複数の対策を並行して進めても、どれもなかなか功を奏さないところとか、トップが無能で現場に更なる負担を強いることとか、脚本家が映画のためにこしらえたストーリーのように話が進む。
 もちろんこれは脚本家が映画のためにこしらえたストーリーなのだが、実話をベースにしながら娯楽映画の定石を外さないから、迫真性と面白さが両立している。

 東日本大震災と福島第一原子力発電所事故は日本の歴史上まれに見る大災害だから、これまでにないパニック大作がつくれることは映画人なら誰しも思ったはずだ。しかし、事故の重さや遺族の気持ち等々を考えると、エンターテインメント性の追及はためらわれる、というのが正直なところだったろう。
 だからこその9年の歳月であり、その歳月があればこその距離の取り方であろうと思う。
 災害の迫力や、危機また危機の連続がもたらす緊迫感、官邸や東電本店の混乱を描く一方で被災者や作業員(原発の作業員もまた被災者である)やその家族たちに目配りするそれらすべてが、本作をズッシリとした重みがありながら"面白い"映画にしている。


 言うまでもなく、たった122分の映画であの大災害のすべての面を描くことはできない。『Fukushima 50』は2011年3月11日からのわずか数日間の出来事を描いたにすぎないし、その数日間の出来事でさえ、作り手は取捨選択を繰り返さなければならなかったはずだ。
 それゆえ、東日本大震災を題材にした作品がもっともっと作られて、本作とは違う角度から描く映画や、本作が扱えなかった出来事を知らしめる映画が世に出ていくといいと思う。
 同じ原作者の本に基づいた『日本のいちばん長い日』でさえ、ほぼ一日のことを描いた1967年版とそこに至る数ヶ月をも描いた2015年版とでは印象も情報もまったく違った。東日本大震災にしても、そこに至る数年間やそこからの数年間等、取り上げるべきことはたくさんある。

 だからこそ、エンターテインメント性も兼ね備えた本作が公開された意義は大きい。映画は商業的に成功しなければ後が続かないからだ。
 本作以上にエンターテインメント寄りの映画が出てきてもいいし、より深刻なタッチになっても良いと思う。
 これまでにも東日本大震災や原発事故を扱う映画がないわけではなかったが、どちらかというと小規模な公開に留まっていた。
 本作の公開を機に、様々な作品がより一層あの出来事を掘り下げて、これからも人々の記憶に残し続けることが大切であろうと思う。


映画『Fukushima 50』 オリジナル・サウンドトラックFukushima 50』  [は行]
監督/若松節朗  脚本/前川洋一
出演/佐藤浩市 渡辺謙 吉岡秀隆 緒形直人 火野正平 平田満 安田成美 佐野史郎 富田靖子 吉岡里帆 段田安則 篠井英介 田口トモロヲ 津嘉山正種 萩原聖人 堀部圭亮 小倉久寛 泉谷しげる 斎藤工 ダンカン 中村ゆり
日本公開/2020年3月6日
ジャンル/[パニック] [ドラマ]
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【theme : 日本映画
【genre : 映画

tag : 若松節朗 佐藤浩市 渡辺謙 吉岡秀隆 緒形直人 火野正平 平田満 安田成美 佐野史郎 富田靖子

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No title

個人的には「太陽の蓋」の方が好き、と言いたいところだけどあれも5年前で詳細をもう覚えていない。当時の民主党政権を全員、実名で使っていて(実名で使うのは製作者側にそれなりの覚悟があったと思う)、東京中心の作劇だったから原発建屋内はほぼ描かれなかったのじゃなかったっけと思ってる。多分、アレと今回のをミックスして2で割ったらちょうどいいバランスの映画が出来そう。
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『Fukushima 50』

Fukushima 50 2011年3月11日に発生した東日本大震災時の 福島第一原発事故を題材にした人間ドラマ。 東日本壊滅の危機が迫る中で発電所内に 残った人々の姿を描く.. 【個人評価:★★☆ (2.5P)】 (劇場鑑賞) 原作:門田隆将 『死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発』

Fukushima 50

2011年3月11日午後2時46分。 マグニチュード9.0、最大震度7という日本の観測史上最大の地震「東日本大震災」が発生し、巨大津波が東京電力福島第一原子力発電所を襲った。 1・2号機建屋の2階にある中央制御室で、当直長の伊崎利夫は原発の緊急停止であるスクラムを運転員たちに指示。 所長の吉田昌郎は免震棟の緊急時対策室へ急行し、東電本店と連絡を取り合うが…。 ノンフィクション・ドラマ。

『Fukushima50』ニッショーホール

◆『Fukushima50』ニッショーホール ▲渡辺謙って徐々にマイケル・キートンに似てきてない? 五つ星評価で【★★★頑張りが結果に繋がらない】 最後の最後まで残って人身御供のようになって働いた50人が「Fukushima50」という事である。安田成美が若手に二の手三の手と言い、自らも対策室を後にしたあの時から後。んーっ、割と対策としてはあの前までで全てやってしまっていて、あの後はよく...
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