『スター・ウォーズ/クローン大戦』 スター・ウォーズは七部作と言っても過言ではないのだ!

スター・ウォーズ クローン大戦 Vol.2 [DVD]スター・ウォーズ クローン大戦 VOLUME ONE [DVD] スター・ウォーズ・シリーズがいかに面白いことか。
 それを改めて実感させてくれるのが『スター・ウォーズ/クローン大戦』だ。
 よく知っているのに見たこともない世界――それはスター・ウォーズ・シリーズの大きな魅力だ。「オリジナルのスター・ウォーズには、サイエンス・フィクション、侍映画、西部劇、オペラ、連続ラジオドラマ、レースカー映画、噛み合わないカップルのコメディ、アラビアのロレンス、マペットに第二次世界大戦ドキュメンタリーの影響があった。」(Stephen Marche)と云われるように、その源流は古今東西の様々な作品に求められる。一つひとつの要素は既知のものでも、こんな装いで、こんな見せ方をするなんて、驚くべき新鮮さ。そんな驚きを与えてくれたのがこのシリーズだった。


■スター・ウォーズ・シリーズが一級品である理由

 『クローン大戦』のゲンディ・タルタコフスキー監督はインタビュー[*1]に答えて、「シリーズ初となる水中でのジェダイの戦いぶりは見ものだ。(映像作品では初登場となる)ARCトルーパーはクローン部隊の隊長格だ。(略)手信号や指示の仕方がとてもクールなんだ。今までとは違う『スター・ウォーズ』が味わえる。」とその新しさを強調する。

 同時に、スター・ウォーズの世界を壊さないように慎重に取り組んでもいる。新たな敵機の登場を計画しても、エグゼクティブ・プロデューサーのジョージ・ルーカスが要望すればとりやめる。登場人物の構成もルーカスの希望に従って変更し、新たなキャラクター、賞金稼ぎダージもルーカスの案に基づいてデザインする。DVDでタルタコフスキー監督の音声解説を聞いていると、これはジョージの希望、これもジョージの要望、ここはジョージの意見で変更といった話の連続だ。新しいアイデアに対して「ジョージが承認してくれるか心配だった」とも述べており、作品の隅々までスター・ウォーズ世界の創造者ジョージ・ルーカスの意向に沿うよう配慮していることがよく判る。本作はまぎれもなくジョージ・ルーカスが作ったスター・ウォーズ・シリーズの一部なのだ。

 作品をつくる上で何ごともジョージ・ルーカスの承認が必要なのは、なにも彼が権力者だからではない。
 スター・ウォーズについてもっと詳しく、もっとも適切な判断を下せるのが彼だからだ。「スター・ウォーズについて詳しい」とは、劇中世界の出来事やら設定やらを知っているといった表面的なことではない。作品の表現の意図や、その背景にある精神・思想をもっとも深く理解しているということだ。ジョージ・ルーカスの思想を形にしたのがスター・ウォーズ・シリーズなのだからとうぜんだ。

108ピース ジグソーパズル STAR WARS スター・ウォーズ エピソード5~帝国の逆襲~(18.2x25.7cm)] さらに、ルーカスがSFに精通しており、古今東西のナラティヴ・アートのコレクターであることも重要だろう。
 ナラティヴ・アートとは、物語的な要素を帯びた芸術作品のこと。対極にあるのが抽象絵画だ。SF好き、ファンタジー好きならご存知のように、多くのSFアート、ファンタジーアートは(小説のブックカバーだったりするから)物語的な要素を帯びている。私が好きなロドニー・マシューズ、武部本一郎、生頼範義といった偉大な芸術家の作品は、いずれも豊かな物語を伝えてくれる。
 SFやアートに造詣が深いジョージ・ルーカスなればこそ、SF映画、SFアニメを作る際には何を参考にすればいいのか的確に指示し、新規性のあるアイデアと使い古されたアイデアを見極めて作品の陳腐化を防ぎ、何が良くて何がダメなのか明確に判断することができたのだと思う。彼の存在が、スター・ウォーズ・シリーズを一級の作品にしていたのだ。

 その彼が、スター・ウォーズ史の重要な出来事を描くべく作ったのが『スター・ウォーズ/クローン大戦』だ。
 ジョージ・ルーカスは云う。「スター・ウォーズ史においてクローン戦争は全宇宙を揺るがす大事件だと言えるだろう。だが映画で描かれるのは、この戦争の始まりと終わりだけだ。過程には全く触れていない。この"アニメ"は、その過程を描くのに最適だと思えた。この大戦のさなかに起こる出来事は、物語を深める要素ばかりだからね。」[*2][*3]


■『クローン大戦』の位置づけ

 『スター・ウォーズ/クローン大戦』がどういうものか説明しておこう。
 カートゥーン ネットワークで放映されたこの作品は、大きく二つのパートに分かれている。DVDの Volume One に収められたチャプター1からチャプター20までと、Volume Two に収められたチャプター21からチャプター25までだ。チャプター1からチャプター20までで計70分、チャプター21からチャプター25までで計64分あり、両方を通して観れば2時間を超える堂々たる長編映画のおもむきだ。

スター・ウォーズ クローン大戦 VOLUME ONE [DVD] 2002年5月公開の『エピソード2/クローンの攻撃』は、クローン戦争の開戦を描く映画だった。そして、2003年11月から『クローン大戦』のチャプター1~10が放映され、2004年3月からはチャプター11~20が放映された。合わせて20のチャプターは、惑星ムーニリンストにおけるアナキン・スカイウォーカーとオビ=ワン・ケノービの活躍を縦糸に、他の星々でのジェダイたちのエピソードを横糸にして、銀河中で繰り広げられる壮大な戦いの物語を紡いでいた。
 タルタコフスキー監督は「ジョージは好きにやらせてくれた。ストーリーも任されたんだ。工夫するほどに満足してもらえたよ。」と語っており[*1]、ジョージ・ルーカスの厳しい監修の下とはいえ、ある程度自由に作ることもできたようだ。「工夫するほどに満足してもらえた」という言葉からは、創意工夫を重視するルーカスらしさもうかがえる。

 だが、終盤になってルーカスから重要な注文があった。急遽、『エピソード3/シスの復讐』の敵役であるグリーヴァス将軍を登場させるように要請されたのだ。かくして、本作のチャプター20がグリーヴァス将軍のシリーズ初登場となり、たった一人でジェダイ六人を相手に勝利するその圧倒的な強さを見せつけられたところで『クローン大戦』の前半は終わる。


スター・ウォーズ クローン大戦 Vol.2 [DVD] 『クローン大戦』の後半、チャプター21~25に関しては、ゲンディ・タルタコフスキー監督らが好きにやらせてもらったチャプター1~20とは趣向が異なる。
 タルタコフスキー監督は「物語のアイデアはジョージのものだ。勝手に作ったわけではない。」と強調する。「クローン大戦の終盤の話なんだ。」[*4]
 ジョージ・ルーカス自身も述べている。「『クローン大戦』の第2シリーズは、『エピソード3』へのいわば導入部だ。詳しい背景を知ることができる。」[*3]
 このような位置づけで作られたチャプター21~25は、2005年3月から放映され、そのすぐあとの同年5月に『エピソード3/シスの復讐』が米国で封切られた。

 ルーカスの「詳しい背景を知ることができる」という言葉は、どう考えても控え目すぎる。『クローン大戦』を観ていなければ判らないことがたくさんあるのだ。
 『クローン大戦』の後半は忙しい。パダワンだったアナキンの騎士への昇格、惑星タトゥイーンのジャンク品から組み立てられてみすぼらしかったC-3POが美しい金色のボディに変わる経緯、パドメのそばにいたはずのR2-D2がアナキンと行動を共にするようになった理由、アナキンの髪型の変化、右目の上下を走る傷、どれも『クローン大戦』を観ていなければ判らないことばかりだ。アナキンの義手は『エピソード2』と『エピソード3』とで違って見えるが、アナキンほどの者が再び腕を失うとしたらいったい何があったのか、誰しも興味を抱くところだろう。

 そして、なんといっても重要なのが、『エピソード3』ではほとんど描かれなかった"コルサントの戦い"だ。
 『エピソード3』開幕時点でコルサントは戦火に包まれ、パルパティーン最高議長は誘拐されていた。何をどうしたら共和国の首都がそんなことになってしまうのか。なぜ、ジェダイたちは――特にアナキンとオビ=ワンは――そんな事態を許したのか。
 絵コンテ/脚本のブライアン・アンドリューズ曰く「"コルサントの戦い"と聞いて、すぐにイメージが湧いてきたよ。『ジェダイの帰還』の話をファンは憶えているから、"コルサントの戦い"は謀略だったという設定にした。激しい戦闘の中で聖堂も議事堂も無事なんて普通は考えられない。」[*4]
 プロダクション・コーディネーター/脚本のデリック・バックマンはこう語る。「前作以上のものを期待された上に、『エピソード3』のオープニングに繋げるように言われた。パルパティーンはさらわれ、アナキンとオビ=ワンはコルサントにいない。」[*4]

スター・ウォーズ エピソードIII/シスの復讐 スチールブック仕様 [Blu-ray] タルタコフスキー監督は『エピソード3』の脚本を読み込み、設定資料も参照しながら『クローン大戦』を制作したという。『エピソード3』の試写を観て、『エピソード2』と『エピソード3』にギャップがあることに気がつけば、すかさずギャップを埋める出来事を『クローン大戦』に盛り込んだ。そんな彼は、「『シスの復讐』へと続く重要な作品にするため、映画では扱えなかった物語を描いたんだ。」と語っている。[*4]
 「映画では扱えなかった物語」は、登場人物の心理描写にも及ぶ。オビ=ワンとアナキンが、口うるさい師匠と生意気な弟子の関係から、減らず口を叩きながらも互いの力量を認め合う友人同士になっていく変化や、アナキンとパドメが深める秘密の愛、そしてジェダイとして成長するためにアナキンが乗り越えなければならない試練とその過程で彼が直面する自分の中のどす黒いものをも本作は描き出す。


■『クローン大戦』その面白さの秘密

 ルーカスがこれほどまでに重要なチャプター21~25を作らせたのは、なんといってもチャプター1~20の出来が良かったからに違いない。

 チャプター1~20が見どころ満載で切れがある面白い作品になった理由の一つは、1チャプターがたった3分という短さにあるだろう。カートゥーン ネットワークでは、月曜日から金曜日まで、1日1チャプターずつの放映だったので、視聴者は3分だけ見たら後は翌日(又は翌週)まで待たなければならなかった。そのため、作り手はたった3分の中に激しいアクションやミステリアスな要素を織り込み、盛り上げるだけ盛り上げて、視聴者の興味を次回まで引っ張る必要があったのだ(最終回のチャプター20だけは7分間の拡大版)。それをDVDで続けて見たら、濃縮された面白さに目が離せないのはとうぜんだ。

 チャプター21~25は、よりドラマチックな展開が求められたからさすがにチャプターごとの時間が長くなっているが、それでも1チャプターにつき12分程度。切れ味の良さは健在だ。

 そして、チャプター1から25までのすべてを通しで見れば、クローン戦争の様々な断面を捉えた前半を経て、アナキンの劇的な運命の予感と戦争の終盤で否応なく盛り上がる後半となり、あたかもはじめから2時間超の長編映画を意図していたかのような見事な構成が味わえる。
 本作を観れば、必ずや続けて『エピソード3』を観たくなるだろうし、『エピソード3』を観てから本作を観返すといろいろなところで合点がいく。
 スター・ウォーズの前日譚はエピソード1、2、3の三部作ということになっているが、かくのごとく『クローン大戦』も見逃せない作品だ。前日譚四部作の一つと位置づけてもおかしくないし、ジョージ・ルーカスが作ったスター・ウォーズ六部作に本作も加えて七部作と云っても過言ではない。


ロックン・ルール ちなみに、頭が犬のような住民たちが住む惑星ノヴァンが、長編アニメーション映画『ROCK&RULE/ロックン・ルール』へのオマージュだというのも嬉しいところだ。長髪のアナキンを描く際には、『ROCK&RULE/ロックン・ルール』の主人公の髪形(と『科学忍者隊ガッチャマン』の主人公大鷲の健の髪形)を基にしたという。
 犬や猫やネズミが進化した世界で、奇跡の歌声を巡ってロックミュージシャンたちが戦う傑作SFロックミュージカル『ROCK&RULE/ロックン・ルール』は、私も大好きな映画だ。
 「オリジナルのスター・ウォーズには、サイエンス・フィクション、侍映画、西部劇、オペラ、連続ラジオドラマ、レースカー映画、噛み合わないカップルのコメディ、アラビアのロレンス、マペットに第二次世界大戦ドキュメンタリーの影響があった。」と云われるように、スター・ウォーズの世界は作り手が好きだったいろいろなものを注ぎ込むことで豊かになっている。はたしてどこの何を注ぎ込むか、その選択の妙が受け手を感心させるのだ。


■『クローン大戦』の隙間を埋める『クローン・ウォーズ』

スター・ウォーズ/クローン・ウォーズ [Blu-ray] さて、最後に『スター・ウォーズ/クローン大戦』(原題『Star Wars: Clone Wars』)と同じくジョージ・ルーカスがエグゼクティブ・プロデューサーを務めた『スター・ウォーズ/クローン・ウォーズ』(原題『Star Wars: The Clone Wars』)についても触れておこう。

 手描きだった『クローン大戦』と異なり、3DCGで作られた『スター・ウォーズ/クローン・ウォーズ』は、『エピソード3』の公開から三年後の2008年8月に封切られた98分の長編映画と、同年10月から2020年5月にかけて放映・配信された100話以上のテレビシリーズから構成される。

 『クローン・ウォーズ』もまた『エピソード2』と『エピソード3』のあいだを舞台にしているが、アナキンがパダワンではないこと、右目の上下にすでに傷があること、『クローン大戦』のチャプター6が初登場の敵アサージ・ヴェントレスやチャプター20が初登場のグリーヴァス将軍が旧知の存在として扱われていること等から、『クローン大戦』チャプター22の前半の時点からはじまっていることが判る。『クローン大戦』のときは、アナキンの騎士への昇格が描かれたチャプター21を経て、チャプター22の前半で戦争が銀河の各地で何年も続いたことが短時間で語られ、そのまま分離主義勢力の最終作戦である"コルサントの戦い"になだれ込んだ。この、チャプター22で簡単に触れるだけだった銀河各地での数年にわたる戦いを、丁寧に掘り下げたのが『スター・ウォーズ/クローン・ウォーズ』だ。

 ジョージ・ルーカスの助言の下で作られた『クローン・ウォーズ』は、「ジョージの指紋がついた最後のスター・ウォーズ」と云われる。もちろん、とても面白い。
 こちらの作品についても、いずれ取り上げてみたい。


[*1] 「メイキング」 DVD『スター・ウォーズ/クローン大戦 Volume One』所収

[*2] ジョージ・ルーカスはインタビューの中で「animation」ではなく「anime」と口にしている。すなわち、『クローン大戦』はディズニーに代表される「アニメーション」よりも、日本製の「アニメ」のような作りを意識しているのだ。本作が発表された2003年~2005年といえば、ディズニーが第2期黄金期と第3期黄金期の狭間で低迷していた(一方で、日本製の『千と千尋の神隠し』が2003年2月に第75回アカデミー賞の長編アニメーション賞を受賞した)頃である。

[*3] 「『エピソード3』へのプロローグ」 DVD『スター・ウォーズ/クローン大戦 Volume One』所収

[*4] 「メイキング・オブ・『クローン大戦』~神話がつながる時~」 DVD『スター・ウォーズ/クローン大戦 Volume Two』所収

スター・ウォーズ クローン大戦 Vol.2 [DVD]スター・ウォーズ クローン大戦 VOLUME ONE [DVD]スター・ウォーズ/クローン大戦』  [さ行]
制作・監督/ゲンディ・タルタコフスキー  原作/ジョージ・ルーカス
出演/アンソニー・ダニエルズ マット・ルーカス ジェームズ・アーノルド・テイラー コーリー・バートン トム・ケイン グレイ・デライル
日本語吹替版の出演/岩崎ひろし 浪川大輔 森川智之 羽佐間道夫 永井一郎 坂本真綾
日本放映日/2003年11月10日~2005年5月29日
ジャンル/[SF] [アクション] [アドベンチャー]
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