【投稿】ガミラス第二帝国の戦争準備  ガトランティス軍とガデル・タラン(その3) /『宇宙戦艦ヤマト2199』ガミラス考察補論集1 小説~ガトランティス戦争編~

 久しぶりの記事になるが、T.Nさんの『宇宙戦艦ヤマト2199』に関する投稿の続きを公開する。これもまた、「イスカンダルの王権とデスラーの人物像について」の一部を構成するものだ。
 ブログの更新に時間を要してしまい、原稿を託してくださったT.Nさんと楽しみにされていた読者諸氏にお詫び申し上げる。

 ヴェルテとガデルのタラン兄弟の対話を通し、第三の話題である「ガトランティスによる戦争の変化」を考察する本稿では、これまで以上に豊富な図版に加えて動画も用意されている。
 文中の年表は、本論考が想定するガミラスの歴史そして本論考独自の未来像を示し、論考の行く末をますます期待させてくれるだろう。

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『宇宙戦艦ヤマト2199』 ガミラス考察補論集1

思考実験としての続編小説~ガトランティス戦争編~

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2. ガミラス第二帝国の戦争準備
ガトランティス軍とガデル・タラン(その3)

宇宙戦艦ヤマト2199 公式設定資料集[GARMILLAS] 「まず初めに、いくつかの基本的概念について改めて確認しておこう。機動戦と火力戦は、それぞれどういうものであるのか」

 ガデルは大小マゼラン世界で歴史的に行われてきた機動戦と火力戦についてのおさらいを始めた。

 「…まず機動戦だが、機動戦とは戦闘力の主要な構成要素である『火力』と『機動力』の内、機動力で戦いに勝利しようとする方法論である。機動戦を用兵の根幹とする場合、艦艇には第一に機動性が求められ、火力はそれを損なわない程度に装備される。隊形は機動の容易な縦隊を基本とし、戦闘は主に分散した縦隊によって行われる。部隊の散開と集中が迅速かつ頻繁に行われる為、戦場の状況は目まぐるしく変わり流動的である。
 尚、機動戦は彼我の艦艇が高速で動き続けるため、射撃の有効射程は距離八千(km)以下と最大射程に比べて大幅に短くなる」(※45)

(※45)この文章における機動戦は、ガミラスがヤマト2199劇中で見せた戦いを基に想定した概念である。詳細については過去の記事「ガミラス第二帝国の戦争準備  イスカンダル帝国の興亡史」並びに記事中の図7図18図28を参照の事。

 ガデルが昨日の講義で兄に話した機動戦について、文字列と図表が次々にホログラムボードに浮かび上がり、現れた図形がアニメーションのように動き回る。

 「…次に火力戦であるが、火力戦は『火力』と『機動力』の内、火力で戦いに勝利しようとする方法論である。火力戦の性質は、あらゆる意味で機動戦とは対照的である。艦艇には何よりも火力が求められ、機動性は副次的な存在である。隊形は火力の発揮が容易な横隊を基本とし、戦闘は散開した横隊と密集した横隊の併用で行われる。大威力の火砲を用い、遠距離から射撃を行いつつ敵に接近する為、戦場の状況は変化が緩慢で固定的である。
 一般に、火力戦は艦艇が高速で動かない為、射撃の有効射程は距離二万から三万(km)、状況によってはそれ以上と機動戦に比べ著しく長大となる」(※46)

(※46)この文章における火力戦は、波動砲で宇宙を支配した古代イスカンダル帝国の時代に一般的だったと想定している戦いの様式である。詳細は過去の記事「ガミラス第二帝国の戦争準備  イスカンダル帝国の興亡史」並びに記事中の図5図17を参照の事。

 機動戦と全く対照的な火力戦についての説明を終えると、ガデルは次に両者の歴史について言及を始めた。

 「このように、機動戦と火力戦はそれぞれが全く相反する性質を持っている。それ故に、我々の(大小マゼラン)世界において両者は、一方が盛んになれば一方が衰退するという歴史を辿って来た。
 まず、古代アケーリアスからイスカンダル帝国の時代にかけては、火力戦が戦いの主流であった。現代的な機動戦はまだ生まれておらず、最強の艦載砲たる波動砲を擁するイスカンダルが覇者として君臨した。
 続いてイスカンダル帝国滅亡の時代から現代にかけては、機動戦が戦いの主流となった。機動戦はそもそも、イスカンダルの波動砲を打ち破るために発達し、イスカンダル帝国滅亡後の戦乱の時代に火力戦を衰退させた。その後機動戦はいくつかの変化を経て、我々(ガミラス)がその最終的な勝者として君臨するに至った」(※47)

(※47)古代イスカンダル帝国と波動砲の栄枯盛衰の歴史については過去の記事「ガミラス第二帝国の戦争準備  イスカンダル帝国の興亡史」を参照の事。また、ガミラスが覇者となった理由と経緯については前々回の記事「ガミラス第二帝国の戦争準備  ガトランティス軍とガデル・タラン(その1)」を参照の事。

 これまでの講義内容に簡単に触れ、ガデルは更に話を進める。

 「そして現在、機動戦は凋落し火力戦が復権しようとしている。これは我々やガトランティスという統一帝国同士が、巨大な戦争を始めたからに他ならない。ガトランティスの大侵攻を受けた際、我が軍はそれまで彼らに有効だった機動戦を用いて彼らを撃退しようとした。しかし万を超える大軍同士が激突した新しい戦場では、機動戦の手法はその尽くが機能しなかった。我々にとってそれは、従来の我が軍のシステムの敗北のみならず、機動戦それ自体の凋落をも意味する出来事だった。何故そうなったのか。従来の戦いと何が違っていたのか。それを説明する為に、これから次のように話を進めていきたい。
 まず、古代の火力戦の歴史について述べた上で、数百隻から数千隻の規模で我が軍とガトランティス軍が対決するモデルを示す。これにより、大侵攻以前のガトランティスとの戦いが、我々にとって古代末期の戦乱の再現であった事が理解できるだろう。そして機動戦がそもそも、何故火力戦に優位足り得たか、その要因もまた明らかとなるだろう。
 次に、一万隻の規模で我が軍とガトランティス軍が対決するモデルを示す。これにより、戦いの規模の拡大がガトランティス軍、ひいては火力戦の優位に傾く様を見る事ができるだろう。
 最後に、小マゼランと大マゼランの会戦について説明する。これにより、小官が従来の我が軍のシステムではガトランティスに勝てないと危惧するに至った全貌が明らかとなるだろう。
 以上の三つの段階を踏んで、第三の話題、『ガトランティスによる戦争の変化』を解説する事とする」

 今夜の講義の第三項目について、ガデルはその概要を示した。

宇宙戦艦ヤマト2199公式設定資料集[Earth] この項目は、ガトランティスの大侵攻を述べるだけではない。古代から現代に至るまでの戦争の変遷そのものが議論の焦点となる。何故そうするのであろうか、いささか迂遠とも言うべき内容だった。

 こうした弟の講義を、ヴェルテは自身の過去を脳裏に思い浮かべつつ聴いていた。

 ――従来のシステムではガトランティスに勝てない。

 そう言い切ったガデルの一言は、ヴェルテにとって認識済みと言えどもやはり衝撃的なものであった。

 “昔と何と変わってしまった事か”

 ヴェルテは改めてそう思わずにはいられなかった。

 かつての弟は、自らが生み出した従来のガミラス軍のシステムに絶対の自信を持っていた。勃興期のガミラスで確立されたそれは、大小マゼラン統一の成果を上げ、天の川銀河でも、ガトランティスに対しても数多くの勝利を収めていた。昔の弟は栄光の絶頂にあったと言っても過言ではなかったのである。ヴェルテは七年前のガミラス帝国建国記念式典で弟が述べた言葉を今でもはっきりと思い出す事ができた。

 「その蛮族共も、まもなく一掃されるでしょう」

 当時小マゼランに侵入を繰り返していたガトランティスに、式典参加者達の話題が及んだとき弟が総統に述べた言葉である。

 ガミラス軍のシステムは、優秀な将が用いれば如何なる敵にも勝利する事ができる。弟はそう信じていただろう。ヴェルテ自身も含め、その場にいた誰もがガミラス軍の勝利を信じて疑わなかった。それが、まさか僅か数年後に滅亡の淵へと立たされてしまおうとは。弟も誰も、夢にも思っていなかったのである。(※48)

(※48)この文章にて対談を行っているガデル・タランとヴェルテ・タランは、かつて勃興期のガミラスで軍制改革に携わり、大小マゼラン統一の立役者の一人になったと想定している。詳細については前々回の記事「ガミラス第二帝国の戦争準備  ガトランティス軍とガデル・タラン(その1)」を参照の事。

 ヴェルテはガトランティスの侵攻を受けた大マゼランの惨禍を記憶から呼び戻した。

 ガトランティスの大侵攻が始まったあの時、ヴェルテはデスラーと共に天の川銀河に潜伏していた。ヤマトに敗れ九死に一生を得た後、デスラーが銀河系方面軍を掌握し大マゼランへの捲土重来を窺う最中(さなか)に、ガトランティスは小マゼラン、更には大マゼランへの侵攻を開始したのである。

 挙兵したデスラーと共に急遽大マゼランへ帰還し、そこで彼が見たのは今まで想像すらできなかった程の一大破局であった。小マゼラン方面軍は既に全滅し、大マゼランの星々はガミラス帝星のあるサレザー恒星系周辺を残し尽くがガトランティス軍に制圧されていた。ガミラス地上軍は根こそぎ薙ぎ倒され、諸惑星ではガトランティス軍の大規模な劫略と奴隷狩りが繰り広げられていた。そしてガミラスに残された航宙艦隊はサレザー恒星系に追いつめられ、もはやガトランティス軍の進撃を待つばかりの状況となっていたのだった。

 この正に“ガミラス最後の日々”を、弟は帝星司令部でどのように過ごしていたのか。ヴェルテには想像もつかなかった。

 栄光の絶頂から奈落の底へ一度に突き落とされ、弟は何を考えたのか。忙しく過去を回想しつつ、ヴェルテはホログラムボードに向かい合い次の話の準備をするガデルの背中を見つめていた。

 「…それでは最初の話に入ろう。古代において火力戦はどのように発達を遂げ、衰退に至ったのか」

 ガデルは兄の方に身体を向けると、古代の火力戦について講義を再開した。

 「古代の戦争に関して、我々はこれまで戦った数多くの種族を基に推測する事ができる。特に光速を超えられなかった未開の種族達の軍隊は、“原初の時代”の戦争の姿を我々に示してくれると言えるだろう」

宇宙戦艦ヤマト2199 1/1000 国連宇宙海軍 連合宇宙艦隊 メ号作戦セット そのように言うとガデルは、ホログラムボードに今までガミラスが戦ってきた種族達の艦艇を表示した。大小マゼランや天の川銀河の、何十という種族達の艦が列を成して空中に浮かび上がる。それらの中には、地球のキリシマ型戦艦やムラサメ型巡洋艦の姿もあった。

 ガデルは話を続ける。

メカコレクション宇宙戦艦ヤマト2199 キリシマ 「ここに示したのは、空間跳躍の技術を持たない種族達の艦艇である。形状を仔細に見れば明らかであるが、これらは一様に長射程の巨大火砲、即ち“収束型艦首砲”を装備している。このような装備を持つのは彼らにとって必然であっただろう。何故なら、空間跳躍できない彼らにとって、敵とは常に無限遠から徐々に接近してくるものだったからだ。敵との距離を一度に詰める事ができず、未熟な科学力ゆえに機動性能も低い。更には極めて広大かつ障壁の無い惑星間の空間。このような条件の下では、遥かな超遠距離から射撃できる側が一方的に有利であった。(※49)
 原始的な彼らの姿を見れば、宇宙の戦争は歴史上火器の発達が最も古くに起きたであろうと推測する事ができる。敵よりも遠距離から砲撃を行い勝利する。古代の火力戦は、この思想から全てが始まり発達していったと考えられている」(※図68及び図69、図70及び図71参照)
ガトランティス軍とガデル・タラン 図68

69update

ガトランティス軍とガデル・タラン 図70

ガトランティス軍とガデル・タラン 図71

(※49)ガデルの「惑星間の空間は極めて広大で障害物が無い」という発言については、科学書の以下の記述を基にしている。
図解入門 よくわかる宇宙の基本と仕組み――太陽系には多数の小惑星があります。その数は大雑把な軌道がわかっているもので34万個以上、正確にわかっているものだけでも13万個以上にのぼります。このほとんどが主要部小惑星です。なので、単に小惑星というと主要部小惑星だけ指す場合もあります。
 これだけの数があるため、主要部小惑星帯は微小な小惑星が密集して雲のように見えるというイメージを持っている人も多いことでしょう。けれども、実際の太陽系は先ほど述べたように予想以上に広大な広がりを持ちます。実際の主要部小惑星帯はどのように見えるのでしょうか?
 木星などによる重力の影響で小惑星の分布は一様ではありません。また、分布範囲も火星軌道と木星軌道の間に留まらず、その軌道も同一平面からはずいぶん離れた立体的なものになっています。けれども、典型的な様子を調べるために、ここでは火星軌道と木星軌道との間の同一平面上に一様に広がっていたとしたらどうなるかを計算してみましょう。この場合、小惑星が広がっている範囲は1.7×10^18[km^2]になります。ここに13万個が一様に散らばっているとすると平均間隔は210万kmほどになります。これは地球と月の距離の5倍以上です。つまり、特別に密集しているところでない限り、ひとつの小惑星から別の小惑星が、形がわかるほどの距離で見えることはないのです。
(半田利弘 「図解入門 よくわかる宇宙の基本と仕組み」 秀和システム P.31)

 ここまで言うとガデルは、ホログラムボードに表示された艦艇を消し次にアケーリアス時代の艦艇を表示した。全長数kmを超えるアケーリアスの巨大艦と、数百m程度に過ぎない“眷属達”の中小艦が表示される。

 「…今表示したのは古代アケーリアス時代の艦艇である。原初の時代から古代アケーリアス文明成立の時代にかけて、火力戦は次のように形成されたと考えられている。
 まず、勝敗が火器の射程以外にセンサーの性能でも左右される為、それを欺瞞する技術が大きく進歩を遂げた。これに加え、空間跳躍が戦いに導入された為、戦う者は常に予期しない方角から敵の砲撃を受ける可能性が高まった。その結果、どの方角から攻撃されてもすぐに射線を変更できる、“小規模な横隊戦列”が戦闘隊形として一般化した。こうした状況下で古代アケーリアスは、センサーを無効化する遮蔽技術を擁し、“眷属”達に 小規模な横隊戦列を採らせる事で歴史上最初の宇宙の支配者となった」(※図72及び図73参照)
ガトランティス軍とガデル・タラン 図72

ガトランティス軍とガデル・タラン 図73

 古代の火力戦の成り立ちについて言及すると、ガデルはホログラムボードにイスカンダル帝国時代の艦艇を表示した。古代イスカンダル艦と、従属種族達の中小艦がアケーリアスの艦艇を上書きするように空中に浮かび上がる。

 「このアケーリアスを討ち滅ぼし火力戦を進化させたのが、ここに表示したイスカンダルの軍隊である。アケーリアスの時代からイスカンダル帝国の時代にかけて、火力戦は次のように変化した。
 第一に、センサーを欺瞞できる敵を薙ぎ倒すため広範囲を一度に照射できる“掃射型艦首砲”が発達した。敵が遮蔽装置等を使用しその正確な位置が分からなくても、敵を徹底的かつ効率的に撃破できるようになったのだ。波動砲とは正にそうした火砲の王者的存在であった。(※図74及び図75、図76及び図77参照)
ガトランティス軍とガデル・タラン 図74

ガトランティス軍とガデル・タラン 図75

ガトランティス軍とガデル・タラン 図76

ガトランティス軍とガデル・タラン 図77
 第二に、艦首砲の斉射で部隊が一度に全滅する危険性が高まった為、それを避けるべく小規模な横隊戦列は艦同士の間隔が広がり、戦列の縦深が薄くなった。その結果、アケーリアス時代に比べ戦列の展開する範囲が拡大した。更に時代が進むと、イスカンダルの波動砲への対処として“散開した隊形”も数多く使用されるようになった。(※50)(※51)
 …これを見てもらいたい。これは当時の隊形をアケーリアス時代のそれと比較したものだ」

 そのように言うとガデルは、ホログラムボードに古代の戦闘隊形を表示した。縦・横・奥行きの隊列数が等しいアケーリアスの横隊戦列に対し、イスカンダル帝国時代の横隊戦列と“散開した隊形”は奥行きが僅か一列の紙の様に薄い形状をしていた。(※図78参照)
ガトランティス軍とガデル・タラン 図78

(※50)イスカンダル帝国の波動砲については、過去の記事「ガミラス第二帝国の戦争準備  イスカンダル帝国の興亡史」の図20図22を参照の事。

(※51)文中でガデルが述べる古代の軍事革新と、それに伴う火砲の威力の軍拡競争の結果、宇宙を引き裂く究極の火力を持つ――即ちこれ以上の破壊力は宇宙に存在し得ない――波動砲が誕生したと考える事ができるのではないだろうか。

 ガデルは話を続ける。

 「図を見れば容易に理解できるが、狭く分厚いアケーリアスの戦列は掃射型艦首砲の斉射を受ければ最前列から最後列まで一度に薙ぎ倒され全滅してしまう。これに対し横に薄く広がるイスカンダル帝国時代の隊形は、斉射を受けても被害を免れる部分を大きくする事ができた。
 このように古代の火力戦は、火砲の脅威の増大に伴い隊形を変化させた。その結果、ある重要な状況が火力戦にもたらされる事となった。それは、戦いに艦の機動性能が求められるようになったという事だ。
 どういう事であるかを示そう。仮に、ここに表示したアケーリアスとイスカンダルの小規模な横隊戦列が、横から奇襲を受けたとしよう。この攻撃に対し、艦を立方体状に配列するアケーリアス時代の戦列は、艦の向きを一斉に変える事で応戦した。一方横に薄く広がるイスカンダル時代の戦列は、横からの攻撃に戦列自体を回転させて応戦した。艦を機動させる必要の無いアケーリアスの方式に対し、イスカンダルの方式は艦に機動性能が必要であった。
 この『戦いに機動性が求められる』状況は、“散開した隊形”について考えれば更に明瞭となる。小規模な横隊戦列よりも広範囲に広がるこの隊形は、艦首砲、特に波動砲による被害を局限する事ができた。その反面、大きく広がるが故に攻撃の向きを迅速に変える事ができず、側面から攻撃を受けると簡単に壊滅する欠点を有していた。従って“散開した隊形”が多用されるようになると、その側面に迅速に移動・攻撃できる機動性能が艦艇に求められる事となった」(※図79参照)
ガトランティス軍とガデル・タラン 図79

 ホログラムボードの図を動かしつつ、ガデルは古代の火力戦の発展に言及した。

 「…かくして、イスカンダル帝国の時代に古代の火力戦は一通りの完成を見た。火砲の斉射に耐久性を持つ“散開した隊形”と、それよりは機動性に優れる小規模な横隊戦列が状況に応じ使い分けられる。そして敵の弱点に機動して砲撃する方策が追求され、艦艇には火力だけでなく機動性も要求されるようになった。
 こうした状況下でイスカンダル帝国の軍隊は、波動砲という最強の艦首砲と二つの戦闘隊形を巧みに組み合わせる事で宇宙の覇者として君臨した。彼らは波動砲で敵戦列を散開させ、自軍の小規模な横隊戦列にその側面を打撃させる方策を多用した。また、逆に自軍の戦列に敵を引き付けその側面を波動砲で攻撃する方策も好んで用いた。当時としては柔軟なシステムを持つイスカンダル軍は、古代の戦場ではまさしく完全無欠の存在に見えた事だろう。
 ところが、『戦いに機動性をも要求する』当時の火力戦の論理は、やがて火力戦そのものを衰退させる一大要因となった。何故なら、宇宙とは元来、惑星上を含めたあらゆる戦場の中で最も機動力を生かした戦いに適しているからだ」

 独特の発達を遂げていく古代の火力戦の様相から、その衰退の予兆へと話が進んだ所でガデルは話を中断した。ホログラムボードに手をかざし、一つの立体図を表示する。そこには艦艇と思しき多数の物体が二次元の平面上と三次元の空間内に配列されていた。それぞれ横隊戦列を形成しているように見える。(※図80参照)
ガトランティス軍とガデル・タラン 図80

 ガデルは話を再開した。

 「これを見てもらいたい。これは平面上と立体空間内にそれぞれ千個ずつの兵棋を並べ横隊戦列を形成させたものだ。戦列の幅に注目してもらいたい。平面上の戦列が仮に横百列・縦深十列の横隊を敷くとすると、立体空間の戦列は縦深を僅か一列にしても縦・横三十数列の範囲でしか展開できない。両者を攻撃するとして、どちらが側面に回り込み易いだろうか。図を見れば明瞭であるが、平面上では千個程度の兵棋でも広大な戦列を作り敵の機動を遮る事が可能である。一方、立体空間ではそれは兵力不足で困難である。(※図81及び図82参照)
ガトランティス軍とガデル・タラン 図81

ガトランティス軍とガデル・タラン 図82
 次に、戦列の厚みに注目してもらいたい。長大かつ分厚くできる平面上の戦列は、仮に側面から攻撃を受けても壊滅するまである程度の時間抵抗を続ける事ができる。これに対し幅が狭く厚みも無い立体空間の戦列は、側面から攻撃を受けるとごく短時間で壊滅してしまうだろう。(※図83参照)
ガトランティス軍とガデル・タラン 図83
 一般に、宇宙は火力戦を行う者にとって本質的に困難を抱えた戦場である。この図の立体空間のように戦列の弱点へ機動され易く、一旦それを許せば簡単に壊滅してしまうからだ。一方で機動力に優れる者にとっては、多大な可能性の開かれた戦場でもある。平面である惑星上のどの地形よりも機動に適し、それに成功すればたとえ火力に劣っても容易に勝利する事が可能だからだ。火力戦の全盛期であった古代においても、この宇宙の特性を生かし機動で勝利しようとする手法が台頭するのは、言わば歴史の必然であった。
 それにより、戦いに機動性をも要求された古代の火力戦は、艦艇の機動性能が向上していくにつれ正面からの火力の応酬で勝敗を決する事が少なくなっていった。そして大部隊の連続ジャンプが可能な低出力系統波動エンジンが登場すると、この趨勢は決定的となった。機動を駆使されると、火力戦を試みる側はどのようにしても敵を横隊戦列の火力で叩き伏せる事が困難となったのだ」(※図84及び図85参照)
ガトランティス軍とガデル・タラン 図84

ガトランティス軍とガデル・タラン 図85

 古代の火力戦が凋落していく過程に言及すると、ガデルは畳み掛けるように話を続ける。

 「この変化が絶対で後戻りできない事を示したのが、イスカンダル帝国滅亡後の戦乱の時代であった。次代の覇権を巡り(大小マゼランの)諸種族が争ったこの時代は、戦いに関する様々な可能性が試された時代だった。イスカンダル帝国を破った機動戦が、果たして他の敵にも通用する戦い方であるのか。火力戦を試みる側は、機動性に優れる艦を用いれば、或いはゲシュタムジャンプを駆使すれば機動戦を打ち破れるのか。機動戦に対する火力戦の敗北と衰退に至った古代末期の戦乱の“実験”は、遥かな時を経て現代の我々とガトランティスとの戦いに多大な知見を与える事となった」

 古代の話から一転、現代へとガデルは話を急展開させた。そしてヴェルテに問い掛けるように話を続けた。

 「ここで今一度、ガトランティス軍について述べた下りを思い返してもらいたい。彼らは機動性に優れる小型艦艇で横隊戦列を形成し、大部隊で空間跳躍を行う事ができる。この彼らの様式は、(古代末期の)戦乱の時代に火力戦を行う側が試みたシステムと非常によく似ている。彼らは言わば、“古代の実験的な火力戦”で我々に戦いを挑んできたとも言えるのだ。機動戦の原理を追求したシステムを持つ我々は、従って彼らと戦うにあたり古代の先例を参考にする事ができた。
 純粋な機動戦と、改良された火力戦の戦い。(ガトランティスの)大侵攻以前の戦いは、前者の勝利に終わった古代末期の戦乱を再現する場となった」

 これまで話してきた古代の戦争史は現代のガトランティスとの戦いと直接に繋がっている。その事を示唆すると、ガデルはいよいよ現代のガミラスとガトランティスの戦争について言及を始めた。

 「それではここから、現代へと視点を戻し次の話に移ろう。大侵攻以前、我が軍とガトランティス軍の戦いはどのようなものであったのか。
 大侵攻以前の戦いは、周知の通り小マゼラン外縁部に襲撃を繰り返すガトランティス軍を、我が軍が捜索し撃滅するというものだった。戦いは散発的であり、敵は大抵の場合数百隻、時に数千隻程度の軍勢で作戦行動をとっていた。
 この戦いの規模は、古代末期の戦乱のそれと同程度である。数千隻以下の軍勢同士が戦う次元では、従来の我が軍のシステムは古代同様あらゆる状況でガトランティスの火力戦に優位に立つ事ができた。
 …これを見てもらいたい。この図は小マゼランで行われた戦闘の一つを再現したものだ」

 そのように言うとガデルはホログラムボードに両軍の布陣図と思しき立体図を表示した。ガデルが解説を加える。

 「ここで今表示しているのは我が軍とガトランティス軍の初期配置である。我が軍は空間機甲師団千隻余りが偵察大隊の通報を元にガトランティス軍近傍にゲシュタムアウトし、旅団毎に縦隊戦列を展開させる。対するガトランティス軍は千隻余りの兵力で、六百隻余を横隊戦列に展開させ、残り四百隻を戦列背後の空母の護衛に付ける。
 予期せぬ形で我が軍と遭遇したガトランティス軍は、彼らの戦い方に従い航空機を急ぎ発進させ、その間動けない空母を戦列で守る態勢を採った。対する我が軍は敵戦列との射撃戦が始まる前に実体弾(※ミサイル・魚雷)の大量発射で敵戦列の一角に突破口を開け、旅団の一つを突入させる」(※図86及び図87参照)
ガトランティス軍とガデル・タラン 図86

ガトランティス軍とガデル・タラン 図87

 戦端が開かれるまでの状況を手短に述べると、ガデルは立体図を変化させた。互いにかなり広い間隔をとり布陣するガミラスの縦隊戦列のそれぞれから、実体弾と思しき小さな記号が射出される。それらは長方形の形をしたガトランティスの横隊戦列の四隅の一つに集中すると、戦列の隅をごっそり削り取るように消滅させた。するとガミラスの縦隊戦列の一つが突進し、敵戦列に開いた突破口へと突入する。その瞬間、ガトランティス軍の横隊戦列は突破口の部分から見る見る内に消滅を始めた。ガミラスの縦隊戦列は楔を打ち込むように敵の横隊戦列を深く貫くと、その背後にいる空母の護衛部隊を消滅させていく。やがて縦隊戦列が敵戦列を突破し、空母を包囲にかかった。その時までには既に、ガトランティス軍はその兵力の殆どを失い潰え去ってしまっていた。(※図88及び図89、図90参照)
ガトランティス軍とガデル・タラン 図88

ガトランティス軍とガデル・タラン 図89

ガトランティス軍とガデル・タラン 図90

 ガデルが解説を加える。

 「今再現した戦闘で留意すべきは次の点である。
 まず第一に、数百隻規模の横隊戦列は展開する複数の縦隊戦列を遮る事ができない。図に表示された我が軍の旅団同士の間隔に注目してもらいたい。 我が軍の旅団が展開する範囲を、ガトランティスの戦列は全く覆えていないのが判るだろう。そしてガトランティス軍は、この戦いでは空母を守る必要上横隊戦列を積極的に機動させなかった。この二つの要因により、我が軍はいとも簡単に敵戦列の弱点へ機動する事ができた。
 続いて第二に、数百隻規模の横隊戦列では実体弾の大量攻撃を完全には防げない。図においてガトランティス軍の戦列六百隻が、我が軍千隻余りの攻撃を受けた事に注目してもらいたい。防御砲火に限界があり、しかも数的に劣勢な態勢で実体弾を受けた結果、ガトランティス軍の戦列は突破口の形成を許す事となった。
 そして第三に、数百隻規模の横隊戦列は静止した状態で側面に攻撃を受けるとごく短時間で壊滅する。これは先程立体と平面の戦場の違いについて述べた事の繰り返しになるが、三次元空間に展開する数百隻の(横隊)戦列は、幅が狭く厚みも無いため横からの攻撃に耐久性が無い。ましてその場に踏み止まり機動しなければ、簡単に命中弾を受け短時間で全滅するのは自明と言えよう。従って宇宙の戦場では、攻撃を受けた際に機動する事は死活的に重要である。にもかかわらず空母を守る為それを怠ったガトランティス軍は、それによりあっさりと全滅する事となった。
 …以上、ここまでは数百隻規模でガトランティスの横隊戦列と我が軍の縦隊戦列が戦うモデルを示した。この規模では、ガトランティスの横隊戦列はその小ささ故に、我が軍の展開する複数の縦隊戦列に対し圧倒的に不利であるのが判るだろう。
 次は規模を少し拡大し、千隻の横隊戦列と縦隊戦列が戦うモデルを示す。これも先のものと同様、過去の実戦を再現したものである」

 ガミラスの機動戦とガトランティスの火力戦の対決について最初のモデルを示すと、ガデルは次の立体図を表示した。先程まで表示していたものより少し大きな、正方形状の横隊戦列と思しき図形が表示されている。それと相対するように、三つの縦隊戦列らしき図形が互いにかなり広い間隔を取って配置されていた。

 「…ここで今表示しているのは、ガトランティス軍千隻と我が軍の師団千隻弱である。ガトランティス軍は兵力の殆どで横隊戦列を形成し、我が軍は三個旅団各三百隻余がそれぞれ縦隊戦列を敷き展開する。
 このモデルにおいてガトランティス軍の戦列は、規模が数百隻から千隻に増えた事で火力が飛躍的に増強され、我が軍の実体弾の攻撃を跳ね返す事が可能となっている。一方戦列の展開範囲は未だに狭く、我が軍の展開範囲を十分に覆えているとは言い難い。ガトランティス軍は自ら積極的に機動を仕掛け、我が軍の旅団を一つずつ優勢な火力で叩き各個撃破する事を目指した。対する我が軍は旅団毎に散開し、敵戦列の包囲を目指す。戦闘はまず次のように推移した」(※図91参照)
ガトランティス軍とガデル・タラン 図91

 そのように言うとガデルは立体図を変化させた。

 ガミラス軍の三つの縦隊戦列がガトランティス軍を包囲するように散開し、前進を始める。これに対しガトランティス軍は敵の縦隊戦列の一つに狙いを定めると、それを自軍の横隊戦列の正面に捉えるように機動を始めた。

 立体図の変化が止まるとガデルは解説を加える。

 「この図のように、ガトランティス軍は我が軍の旅団の一つを捕捉し横隊戦列の正面火力で一気に粉砕しようとした。成功すれば残りの旅団が側面に回り込む前に、敵は我が軍の各個撃破を行う事ができる。これに対し我が軍は、敵に狙われた旅団に味方の(敵側面への)機動が完了するまで時間稼ぎを行わせた。次のように機動させたのだ」

 短い説明を終えるとガデルは再び立体図を変化させた。

 ガトランティス軍に狙われた縦隊戦列が、何とか側面に回り込もうと大きく旋回し斜めの態勢になった、と思いきや、戦列から実体弾の記号が射出された。それらを浴びたガトランティス軍の動きが少しの時間鈍る。その間に縦隊戦列の艦艇が一斉にUターンし、ガトランティス軍から遠ざかる態勢となった。ガトランティス軍はそれを追いかける。しかしその時にはガミラス軍の別の縦隊戦列が、ガトランティス軍側面のすぐ近くにまで迫っていた。(※図92及び図93参照)
ガトランティス軍とガデル・タラン 図92

ガトランティス軍とガデル・タラン 図93

 「…図のように、ガトランティス軍に狙われた旅団は敵を引き付けるだけ引き付けた後で実体弾を射出し、後退した。ガトランティス軍は実体弾で機動を妨害され、旅団が後退した事でその早期撃破に失敗した。この結果我が軍の残りの旅団は敵側面に接近し、攻撃を狙える態勢となった。
 ガトランティス軍はこの二つの旅団にそれぞれ二百隻の兵力を振り向け阻止に向かわせた。彼らはあくまで後退する我が軍の旅団の撃破を目指し、一部の兵力のみで他の(ガミラス軍の)旅団の足止めを行わせたのだ。
 その結果、戦闘は次のように推移した。敵の阻止を受けた我が軍の二つの旅団の動きに注目してもらいたい」

 ヴェルテに注意を促すと、ガデルは立体図を変化させた。

 ガトランティス軍の横隊戦列が一つの大きな図形と二つの小さな図形に分かれる。大きい図形は逃げるガミラス軍の縦隊戦列を追いかけ、小さい図形はガトランティス軍側面に襲い掛かろうとしていた二つの縦隊戦列を遮るように立ち塞がった。二つの縦隊戦列から実体弾の記号が射出される。それらを受けた二つのガトランティス軍部隊の動きが止まる。二つの縦隊戦列は突進を続け、遂にはガトランティス軍部隊のすぐ脇を通り過ぎるように突破を果たしてしまった。突破されたガトランティス軍部隊の図形が見る間に消滅していく。二つの縦隊戦列は敵部隊を撃破し、ガトランティス軍“本隊”の側面へ到達した。その瞬間、今度は後退を続けていた縦隊戦列が艦艇を一斉にUターンさせ、ガトランティス軍“本隊”に襲い掛かる。最終的にガミラス軍は壊走を始めたガトランティス軍“本隊”を筒状の包囲陣で包囲し、彼らを壊滅へと追い込んでしまった。(※図94及び図95、動画1参照)

 ガデルが解説を始めた。

 「図のように、敵側面に向かう二つの旅団は阻止を試みる敵部隊を容易に撃破した。これは二つの理由による。一つは旅団が敵に対し数的に優位で、しかも敵の横隊が小規模であった為だ。この条件では旅団は実体弾で敵の動きを妨害し、その隙に敵の脇を通り抜ける方策が成立した。そしてもう一つは、>敵に後退や機動が許されなかった為だ。もし彼らが損害を避けるため後退、或いは横に逃れる機動を行えば、旅団は敵の本隊に殺到しただろう。故に彼らは無理にでもその場に踏み止まらざるを得ず、当然の結果として壊滅してしまったのだ。
 ここに示したモデルから、二つの事が指摘できる。
 一つは劣勢な部隊の後退の重要性だ。先程述べた二つのガトランティス部隊が後退できずに壊滅する一方、最初に敵に狙われた我が軍の旅団が後退により壊滅を免れた事に注目されたい。実戦においてあまりに多く見過ごされる基本であるが、身を守る障壁の無い宇宙で壊滅を避けるには、劣勢な部隊はその場に留まらず後退や機動で敵の攻撃を回避するのが鉄則である。
 そして指摘の二つ目は、やはり千隻規模の艦艇が火力戦を行う事の困難性である。千隻規模の軍勢では、火力戦は装備や作戦をどのように工夫しても機動戦に対し劣勢となるのだ。詳細を説明しよう」

 そのように言うとガデルは、立体図をあたかも映像記録を“早戻し”するように変化させた。ガトランティス軍が軍勢を分割した場面で変化が止まる。

 図が静止したのを確認すると、ガデルは解説を再開した。

メカコレクション 宇宙戦艦ヤマト2199 No.06 ラスコー級 プラモデル 「このモデルにおいて、ガトランティス軍は最初に兵力を分散させず、我が軍の二つの旅団に側面へ迫られた時も僅かな兵力しか割かなかった。これは攻撃目標の旅団に兵力を集中しようとした為である。だが何故そうしたのだろうか。それは、『大火力で敵を叩き勝利する』という火力戦の様式を行うには、彼らは兵力を集中させる必要があったからだ。
 周知のように、ガトランティスの小型艦艇は艦首砲を持たない為、大火力を発揮するにはまとまった数を必要とする。殊に戦闘の初期の段階では、彼らは我が軍の実体弾を防ぐ為兵力をできる限り集中する必要があっただろう。そうしなければ、先に示した数百隻規模の(横隊戦列の)モデルのように、実体弾の集中射で突破口を開けられ突入されるからだ。
メカコレクション 宇宙戦艦ヤマト2199 No.07 ククルカン級 プラモデル しかし、兵力の集中に固執した結果、彼らは分散した縦隊に自軍側面への攻撃を許し壊滅する事となった。彼らは言わば、一つのジレンマに陥っていたのだ。兵力を集中すれば側面を叩かれ、逆に分散させれば敵を火力で叩けなくなる。積極的な機動を行うという手法も、モデルで示したようにジレンマの解決にはならなかった。歴史的な文脈で見れば、彼らは古代末期の戦乱で火力戦を試みる者と同じ困難に直面したと言えよう。かつて、艦首砲を装備する鈍重なイスカンダル帝国の軍隊は機動戦の前に敗れ去った。では、艦首砲を棄て機動性に優れる艦艇を用いれば火力戦は戦えるのか。結果は『兵力を集中せねば火力で叩けず、集中すれば側面を叩かれる』というジレンマだった。
 従って、古代やガトランティスの事例を見れば、次のように結論付ける事ができるだろう。千隻規模の軍勢では、火力戦は装備や作戦をどのように工夫しても、機動戦に勝利する事は困難なのだ」

 千隻未満の軍勢では火力戦はどのようにしても機動戦に勝てない。何故そうなるのかについてガデルは力を込めて語った。

 「…以上、ここまでは千隻規模でガトランティスの横隊戦列と我が軍の縦隊戦列が戦うモデルを示した。この規模においても、ガトランティスの横隊戦列は展開する我が軍の複数の縦隊戦列に対し、『容易に側面を攻撃される』という点で未だに不利であるのが理解できるだろう。ならば、規模を更に拡大すれば、横隊戦列のシステムは縦隊戦列の攻撃を防御し得るだろうか。次はそれについて述べよう。
 次に示すモデルは、実戦ではなく先程の千隻の戦いのモデルに手を加えたものである」

 千隻の戦いのモデルについて言及し終えると、ガデルは次の立体図を表示した。正方形状の横隊戦列と三つの縦隊戦列が対峙する、そこまでは先程までの戦いのモデルと一緒だった。しかし、よく見ると横隊戦列は二枚重ねの構造になっている。(※図96参照)
ガトランティス軍とガデル・タラン 図96

 「…ここで今表示しているのは、ガトランティス軍二千隻と我が軍の師団千隻弱である。我が軍は図にあるもの以外に千隻の予備兵力を後方に置いているものとする。ガトランティス軍の布陣を見てもらいたい。彼らは千隻の横隊戦列の背後に同規模の第二戦列を配置している。これは最前線の戦列の側面や背後を守らせる為だ。この陣形は今夜の講義でガトランティス軍について述べた項の、ガトランティス軍の戦列の構造と同じものである。しかし、(ガトランティスの)大侵攻以前の戦い、数千隻以下の軍勢同士が戦う次元では、ガトランティス軍は第二戦列を敷く事は無かった。何故だろうか。それは仮にそうしても、これから示す展開になったと考えられるからだ。
 図の変化を見てもらいたい。我が軍は図にある旅団のみを敵の前面に出し、後方の旅団をゲシュタムジャンプで投入する」

 モデルについての説明を行うとガデルは立体図を変化させた。ガトランティス軍と対峙しているガミラス軍の三つの縦隊戦列が敵を包囲するように散開し、前進を始めた。これにガトランティス軍が何か行動を起こすと思った刹那、彼らの上下左右側面を覆うようにリング状の包囲陣が現れた。ガトランティス軍は前方をガミラス軍の縦隊に立ち塞がれ、側面から後背にかけてをワープアウトしたガミラス軍に襲われ、最終的に小さな球形陣に纏まった。ガミラス軍はそれを完全包囲する。(※図97参照)
ガトランティス軍とガデル・タラン 図97

 図の変化が止まった所でガデルが解説を始めた。

 「図のように、我が軍は一部の旅団のみを敵の前面に出して敵に展開を強い、後方に控えた残りの旅団にゲシュタムジャンプで側面を襲わせるだろう。そうなれば敵は球形陣を形成し耐える他無くなる。だがそうした所で長くは抵抗できないだろう。何故なら、二千隻の艦艇で作る球形陣は展開する空間が小さく、火力戦での火砲の有効射程圏内に陣形全体が収まってしまうからだ」

 解説を行いつつガデルは図の一部を変化させた。ガトランティス軍を包囲するガミラスの包囲陣の一点から円錐状の図形が伸びていき、ガトランティスの球形陣をすっぽりと覆う。

 「…図の変化した部分を見てもらいたい。これは我が軍の火砲の有効射程範囲だ。一般に、包囲され高速で機動できない艦艇に対する有効射程は、火力戦のそれと同じ距離二万から三万程度となる。図から明瞭なように、ガトランティス軍の陣形はこの範囲内に殆ど収まっているのが判るだろう。こうなると我が軍は火砲の全てを敵陣の任意の一点に集中できる。これに対し包囲されたガトランティス軍は、外側の我が軍に良くて兵力の半数以下の火砲しか集中できない。その結果ガトランティス軍は砲火で圧倒され、短時間の内に壊滅する事となる」(※図98参照)
ガトランティス軍とガデル・タラン 図98

 ガミラス軍がガトランティス軍の球形陣に思いのまま集中砲火を浴びせ壊滅させていく様を立体図のアニメーションで示すと、ガデルは話を続けた。

 「このように、二千隻のガトランティス軍が仮に第二戦列を用意しても、彼らは我が軍の攻撃で壊滅すると考えられる。つまる所、数千隻の軍勢の次元では第二戦列は防御の役に立たないのだ。それ故に、大侵攻以前の戦いで彼らは第二戦列を用いる事は無かった。実際の戦闘では、彼らは後方に予備兵力を控えておき横隊戦列の側面を襲う我が軍を空間跳躍で叩くという手法を採った。だがそれに対しても、我が軍は容易に敵の反撃を排除できた。空間跳躍で投入された敵部隊を、我が軍もゲシュタムジャンプで予備部隊に襲わせる事ができたからだ」

 一通りの解説を終えるとガデルは第二戦列のモデル図を消した。そして一枚の横隊戦列と三つの縦隊戦列が対峙する、一つ前の立体図を表示し、変化させた。

 横隊戦列が縦隊戦列の一つに狙いを定め機動する。狙われた縦隊は敵を引き付けて後退し、残り二つが敵の側面に迫る。そこまではガデルが先に示した展開と一緒だった。しかしその直後、横隊戦列の近辺にガトランティス軍の新手の部隊が突如出現した。それらはガミラス軍の二つの縦隊戦列をそれぞれ半包囲するように機動する。するとその背後を襲うようにガミラス軍の新手の部隊が突如出現し、反撃を受けたガミラスの縦隊戦列と敵を挟撃する態勢となった。ガトランティスの横隊戦列の周囲を巡る戦いは最終的にガミラス側が勝利し、横隊戦列は側面を襲われ壊滅する結末を迎えた。(※図99及び図100、図101及び図102 、動画2参照)

 ガミラスとガトランティス両軍の部隊が目まぐるしくワープアウトし、動き回る立体図の変化が終わるとガデルが解説を始めた。

 「この図のように、千隻の横隊戦列を攻撃する我が軍は、敵の反撃をゲシュタムジャンプにより撃退できた。ここで重要なのは、ガトランティス軍が横隊戦列を守るため予備兵力の投入を余儀無くされているという事だ。これにより彼らは機動可能な戦力が先に枯渇してしまい、我が軍が新たに仕掛ける攻撃に対応できない状況となる。我が軍からすれば、最後に残った味方の予備を敵の弱点へゲシュタムジャンプで投入し、崩壊に追い込むのは容易な事であった。
 それでは、第二戦列や(予備兵力の)空間跳躍で横隊戦列を防御するのをやめ、単純に二千隻で横隊戦列を形成すればどうなるだろうか。そうした所で彼らの運命は変わらないだろう。何故なら、我が軍は一部の兵力で敵戦列の注意を引き付け、予備兵力にゲシュタムジャンプで側面や後方を襲わせるからだ。そうなれば横隊戦列は簡単に壊滅する。
 従って、これまで述べた事から次のように結論する事ができるだろう。数千隻に規模を拡大しても、ガトランティスの横隊戦列は我が軍の縦隊戦列の攻撃を防御できない。故に、数千隻の規模においても、ガトランティスの火力戦が我が軍の機動戦に勝利するのは困難であるのだ」

 解説を終えると、ガデルは大侵攻以前のガミラスとガトランティスの戦いについて総括を始めた。

 「…以上、ここまでは様々な条件で我が軍とガトランティス軍が戦うモデルを示してきた。これらから、数千隻以下の軍勢同士が戦う次元では、従来の我が軍のシステムはあらゆる状況でガトランティスの火力戦に優位に立つ事を実感できただろう。
 このようになる究極の要因とは何なのだろうか。それは、ひとえに横隊戦列の展開範囲の狭さに帰結できる。散開する我が軍を叩くには、千隻以下の横隊戦列は展開範囲があまりに不十分であるのだ。我が軍のごく一部しか捕捉できない為、戦列は捕捉できない我が軍の部隊の攻撃に常に晒され、貴重な戦力を戦列の防御に割かざるを得なくなってしまう。その防御も、数千隻の軍勢の次元で成り立たないのはこれまで見てきた通りである。従ってこの次元で彼らが我が軍に対抗するには、戦力を最初から集中せずに分散し、我が軍の攻撃を回避できるよう高速で機動を続ける必要がある。つまり、我が軍が行う機動戦と変わらない様式となってしまうのだ。しかしそれをしたとしても、彼らの不利は動かないだろう。何故なら、彼らの艦艇の装備は機動戦に対応していないからだ」(※図103参照)
ガトランティス軍とガデル・タラン 図103

 ガトランティスのシステムが劣勢になる理由を語り、ガデルの総括は結論へと進む。

 「例えば、彼らの小型艦艇は実体弾を僅かしか装備していない。機動する縦隊で通常戦わない為、実体弾を装備する必要性が低いからだ。だがそれ故に、彼らは機動戦を行えば常に我が軍の実体弾で機動を妨害される。また、彼らは我々とは異なり、短時間の休憩を挟んだ連続ジャンプが可能なエンジンを持たない。それ故、彼らは機動戦となれば、我々のゲシュタムジャンプを多用した急襲と撤退に常に翻弄される。機動戦を行ったとしても、彼らは我が軍に劣勢であり続けるのだ。(※52)(※53)(※54)
 こうした事から、大侵攻以前、我が軍はガトランティスに対し絶対的な優位にあると認識していた。システムで優越し、古代の歴史が示した通り彼らの火力戦に勝利し続けた。それに加え、我が軍は小マゼランに二万を超える艦艇を配し、侵入を繰り返す彼らを数的にも圧倒していた。当時の我が軍は、自分達が如何なる意味でも盤石であるという幻想に、全くの意味で囚われてしまっていたのだ」

宇宙戦艦ヤマト2199 公式設定資料集[GARMILLAS]
(※52)小型艦艇の分野におけるガミラス艦とガトランティス艦の実体弾装備については、「公式設定資料集[GARMILLAS]」及び「宇宙戦艦ヤマト2199全記録集 vol.3」には次のように記載されている。

【 ガミラス艦 】
  • クリピテラ級航宙駆逐艦: 魚雷発射管6門、ミサイル発射管8門、四連装ミサイル発射機2門
  • ケルカピア級航宙高速巡洋艦: 魚雷発射管10門、六連装ミサイル発射機1門
  • デストリア級航宙重巡洋艦: 魚雷発射管4門
  • メルトリア級航宙巡洋戦艦: 魚雷発射管6門

宇宙戦艦ヤマト2199 COMPLETE WORKS-全記録集- Vol.3&脚本集【 ガトランティス艦 】
  • ククルカン級襲撃型駆逐艦: 量子魚雷噴進機2門
  • ラスコー級突撃型巡洋艦: ミサイル発射管10門、量子魚雷噴進機2門

 両軍の艦艇を比較すると、実体弾の装備数は巡洋艦では拮抗するものの、「最も配備数が多い」駆逐艦ではガミラスがガトランティスを大きく凌駕している。したがって両者が雷撃戦を行った場合、ガミラス軍は“単純な弾数の差”によりガトランティス軍を圧倒すると考えられる。

(※53)ガミラスの実体弾の使用法については、前々回の記事「ガミラス第二帝国の戦争準備  ガトランティス軍とガデル・タラン(その1)」の図14図17図18を参照の事。

(※54)ガトランティスのワープ機関の性質については、前回の記事「ガミラス第二帝国の戦争準備  ガトランティス軍とガデル・タラン(その2)」の注釈41を参照の事。

 「ガデル、一つ質問してもいいか」

 大侵攻以前の戦いの総括が終わると、それまでずっと弟の講義を聴いていたヴェルテが口を開いた。

 「同等の兵力で数千隻以下の軍勢同士が戦えば、従来の我々(ガミラス軍)のシステムが優勢になるのは分かった。なら、相手が兵力で勝る場合はどうなるんだ?従来のシステムは多少の兵力差も覆してしまう程優勢だったのか?」

 兄の疑問にガデルは回答する。

 「一般に、我々が行う機動戦は包囲等を行うのに数が重要となる為、我が軍はガトランティス軍や大小マゼラン諸国軍を問わず、敵の撃滅を目指す際には敵と同等以上の兵力で戦う事を原則としていた。逆に敵が優勢であれば、我が軍は増援の到着まで極力戦闘を避けていた。兄さんが聞きたいであろう『小兵力で敵の撃滅を目指す』という状況は、そもそも(ガトランティスの)大侵攻以前は殆ど生じなかったのだ。小規模な戦闘が行われるに過ぎなかった大侵攻以前は、我が軍は常に敵を数でも圧倒し続ける事ができた
 ただ唯一、戦いの初期の段階で敵兵力を計るため威力偵察を行う場合、我が軍は大抵兵力で勝る敵と戦う事となった。そうした状況では、我が軍は次のように戦った」

 そこまで言った所でガデルはホログラムボードに手をかざし、一枚の図を表示した。それに指を走らせ変化させつつ、彼は淀み無く話し続ける。

 「…まず、自軍を三つに分け、第一隊を敵の前方に進出させる。第一隊を見た敵が戦力を展開させた時点で、我が軍は第二隊をゲシュタムジャンプで投入し、敵側面を襲わせる。同時に第一隊はゲシュタムジャンプで離脱し、次の行動に備える。
 側面を襲われた敵は高い確率で新たな戦力を空間跳躍で投入し、第二隊を迎撃するだろう。その場合我が軍は第三隊をゲシュタムジャンプで投入し、敵増援の背後を襲わせる。
 この時点でもし敵に予備兵力が残っていれば、敵は更に増援を空間跳躍で投入し第三隊を迎撃するだろう。その場合我が軍は一旦離脱していた第一隊をゲシュタムジャンプで投入し、新たな敵増援の背後を襲わせる。同時に第二隊はゲシュタムジャンプで離脱し、次の行動に備える。
 この状況でもし敵が総兵力で我が軍を圧倒しているなら、敵はまだ温存している予備兵力を空間跳躍で投入し、第一隊を迎撃するだろう。その場合、我が軍は離脱した第二隊を再びゲシュタムジャンプで投入し、新たな敵増援の背後を襲わせる。同時に第三隊はゲシュタムジャンプで離脱し、次のゲシュタムジャンプで味方の撤退を援護する。(※図104参照)
ガトランティス軍とガデル・タラン 図104
 このように、三つの隊を順番にゲシュタムジャンプで投入・離脱させる手順を繰り返せば、敵は最終的に殆どの戦力を戦場に投入する事となる。こうして敵を戦場に引きずり出す事で、我が軍は敵の総兵力を計っていたのだ。
 大侵攻以前、この威力偵察の手法はガトランティス軍に対しては特に有効だった。彼らはそのエンジンの特性ゆえに、一旦戦場へ空間跳躍すればすぐには再跳躍で離脱できず、殆どの場合戦闘が終了するまで戦場に留まり続けたからだ。我が軍は戦場に現れた敵を数え上げ、それを上回る兵力を戦場の宙域へと呼び寄せた。こうして我が軍は、『数で以て敵を制圧する』という機動戦の基本を実践し続ける事ができた。
 …以上、回答としてはそれでよろしいだろうか」

 弟の詳細な回答に対し、ヴェルテはよく分かったと応じた。彼は弟に小休止を求めると、座っていた椅子の肘掛けにもたれかかり、考えを纏め始めた。

 ヴェルテにとって、弟が語ってきた大侵攻以前のガミラス軍の優位は想像以上のものであった。 機動戦の原理を極限まで追求した従来のガミラス軍のシステム。それは「機動力で包囲を成し、数で以て敵を制圧する」という機動戦の論理を完璧に体現し、ガトランティスの火力戦を破り続けた。そしてその勝利は、「宇宙の戦争は火力主体から機動力主体へと不可逆的に変化する」という弟の示した歴史観の正しさを証明したかに見えた。当時の弟と、おそらくは参謀本部の首脳陣達がこれにより更に自信を深めたであろう事は、これまでの話からも十分に窺う事ができた。

 ならば、とヴェルテは思った。

 それならば、今夜の講義、弟が今述べている第三の話題の冒頭で言及された、「機動戦の凋落」とはどういう事であるのか。弟にとってそれは、一体どのような意味合いを持つのか。今起きつつある、機動力が火力を凌駕した歴史を完全に逆転させる事象。それは間違い無く弟が抱いてきた歴史観、ひいては哲学までをも根底から打ち崩した事象であっただろう。

 だからこそ、弟はガトランティスの大侵攻から話を始めるのではなく、古代の歴史から戦争を語り直す迂遠な試みをしたのではないか。弟は自らの見識の全てを、文字通りの無から問い直さなければならなかったのだ。今から語られるであろう弟の戦いの論理、それがどのような道程を辿り、どのような結論へと行き着くのか。しかと見届けねばならない。ヴェルテはそのように思ったのだった。

 少しの時間が経ち、考えを纏め終えたヴェルテは姿勢を正して椅子に座り直した。弟の方を向く。ガデルはホログラムボードに新しいモデル図を表示し終え、兄の様子を静かに見守っていた。

 ヴェルテは講義の再開を促した。ガデルは了解したと短く答えると、再び話し始めた。

 「それでは次の話に移ろう。ガトランティスの大侵攻により、現代の戦いの様相はどのように変化したのか」

 そのように話を切り出すと、ガデルはホログラムボードに表示した図を兄に指し示した。(※図105参照)
ガトランティス軍とガデル・タラン 図105

 「ここで今表示しているのは、小マゼラン及び大マゼランの会戦を基に、一万隻を超えるガトランティス軍と従来の我が軍が戦うと想定したモデルである」

 二つの大兵団が対峙するモデルを、ガデルはゆっくりと回転させて見せた。多数の縦隊戦列の前に、二重の巨大な横隊戦列が立ち塞がるようにして聳(そび)えている。

 「…この図において、ガトランティス軍は今夜の講義で説明した通りの陣形を敷いている。即ち、第一戦列四千隻と第二戦列四千隻が展開し、突撃縦隊四千隻弱が空間跳躍で投入されるべく後方の宙域に置かれている。
 これに対し、我が軍は図のように十二個旅団四千隻弱を敵の横隊戦列前面に展開し、予備兵力約八千隻を後方の宙域に置いている。我が軍は一部の兵力で敵に戦力を展開させ、温存した大部分の兵力で敵の弱点である側面をゲシュタムジャンプにより打撃する事を企図している。(※図106参照)(※55)
ガトランティス軍とガデル・タラン 図106
 この状況は大侵攻以前、数千隻以下の軍勢同士が戦う次元であれば、我が軍の必勝形と呼ぶべきものであった。しかし、現在、我々は戦いの規模が巨大化し、一万隻を超える軍勢同士が戦う次元を迎えた。その次元では、従来の我が軍はどのようにしても敵を打ち破る事が困難となる。
 それを示す為に、ここでは大侵攻以前の戦いと比較しつつ、我が軍が最善と思われる行動を採った場合の戦いの推移を解説する事としよう」

(※55)ガトランティスの「巨大な横隊戦列」の姿については、前回の記事「ガミラス第二帝国の戦争準備  ガトランティス軍とガデル・タラン(その2)」の図26から図32までを参照の事。

 現代の新たな戦いの様相について、ガデルは話の導入部分を述べた。彼は次に、図の一部分を強調するように兄へ指し示した。

 「まず、図の横隊戦列の広がりに注目してもらいたい。先に解説してきた戦いのモデルと異なり、横隊戦列は前面にいる我が軍の旅団の展開範囲をほぼ十分に覆っている。仮に旅団が側面への機動を行った場合、横隊戦列は機動を行う事で我が軍の旅団のかなりの部分をその火線に捕捉する事ができるだろう。(※図107参照)
ガトランティス軍とガデル・タラン 図107
 次に、この兵力規模になると、ガトランティス艦の“輪胴砲塔と副砲のシステム”はその本来の威力を発揮するようになる。それにより横隊戦列は我が軍の実体弾の大量攻撃を尽く防ぎ、更には火線に捉えた我が軍の部隊を一個旅団単位で瞬時に壊滅させる事が可能となる。(※56)
 それ故に、この図において我が軍は、敵前面の(ガミラス軍)旅団が敵に展開を強いた時点で予備兵力を投入し、敵前面の旅団をゲシュタムジャンプで退避させる。このまま敵の正面にいたのでは敵砲火で壊滅する危険性が高いからだ。
 よって、戦闘は次のように推移する」

(※56)ガトランティス艦の“輪胴砲塔と副砲のシステム”については、前回の記事「ガミラス第二帝国の戦争準備  ガトランティス軍とガデル・タラン(その2)」の図33から図42までを参照の事。

 そのように言うとガデルは立体表示されたモデル図を変化させた。

 ガトランティス軍の側面を覆うように巨大なリング状の包囲環が出現する。同時に彼らの前方にいたガミラスの縦隊戦列の一団が、一斉にUターンし遠ざかったと思った瞬間、突如小さな光を放ち消滅した。(※図108参照)
ガトランティス軍とガデル・タラン 図108

 「…このように、我が軍は敵側面に予備兵力八千隻全てをゲシュタムジャンプで投入し、敵の覆滅を狙う。同時に敵前面の旅団は包囲に加わらずゲシュタムジャンプで離脱し、予備兵力として敵の反撃に備える。
 これに対するガトランティス軍の次の行動に注目してもらいたい。小マゼランの会戦の戦例から、彼らは次のように陣形を変更すると考えられる」

 兄に注意を促すと、ガデルは立体図を変化させた。

 ガトランティス軍の第一戦列と第二戦列が、それぞれ前進と後退を行いつつ内側へ急速に収縮する。それらは見る間に多角柱状の陣形へと組み変わっていった。一方、ワープアウトしたガミラス軍は隊伍を整えると一呼吸遅れる形で包囲の環を狭める。

 図の変化はガトランティス軍が陣形の変更を終えた所で止まった。その姿を見たヴェルテが眉間にしわを寄せる。(※図109及び動画3、動画4参照)

 ヴェルテは言った。

 「…これは突撃縦隊と同じ隊形ではないのか」

 ガトランティス軍の陣形は、ガトランティスの突撃縦隊と良く似た形状をしていた。八千隻の艦艇が巨大で図太い多角柱の姿に配置され、しかもその多角柱の片端、かつて横隊戦列の側面だった部分に多数の艦艇が集中しているように見える。(※図110参照)(※57)
ガトランティス軍とガデル・タラン 図110

(※57)ガトランティスの突撃縦隊については、前回の記事「ガミラス第二帝国の戦争準備  ガトランティス軍とガデル・タラン(その2)」の図52から図56までを参照の事。

 ガデルが解説を始めた。

 「兄さんの言われるように、ガトランティス軍は我が軍が側面にゲシュタムアウトしたと判った時点で機動を行い、突撃縦隊に類似した球形陣へと陣形を組み替える。
 この変化で留意すべきは次の点である。
 第一に、側面を攻撃されたガトランティス軍、特に横隊戦列側面にいた部隊は機動により壊滅を免れる。八千隻もの我が軍の部隊の攻撃にもかかわらず、それらは高速の機動により攻撃をかわし、損害を極めて軽微に抑えてしまう。
 続いて第二に、ガトランティスの巨大な横隊戦列は、その規模ゆえに戦列の中心部に広大な空間を確保している。この空間がある故に、戦列の部隊は戦列内部へ向け高速の機動を行っても渋滞や混乱を起こさない。これにより、彼らは高速の機動で我が軍の攻撃をかわしつつ、迅速に陣形を組み替える事ができる。(※図111参照)
ガトランティス軍とガデル・タラン 図111
 そして第三に、陣形変更で形成された球形陣は、この兵力規模になると我が軍の攻撃に対し強靭な耐久性を発揮する。これを見てもらいたい。これは我が軍の火砲の有効射程を示したものだ」

 そのように言うとガデルは図の一部を変化させた。ガトランティス軍を包囲するガミラスの包囲陣の一点から円錐状の図形が伸びていく。それはガトランティスの球形陣の一部を貫き、陣形の中心辺りに到達した所で伸びを停止した。(※図112参照)
112update

 「…図のように、我が軍の火砲の有効射程は最大でも敵の陣形の中心部辺りまでしか到達しない。そうなると、我が軍の砲火は球形陣表面の任意の一点に対し、最大でも兵力の半数を大きく下回る数しか集中できなくなる。一方ガトランティスの球形陣は、包囲陣の任意の一点に対し、球形陣の部位によっては我が軍の集中射と同程度の火砲を集中できる。つまり一万隻を超える戦いの次元では、包囲は球形陣に対し圧倒的な火力の優位を失ってしまうのだ。
 ここで今一度、数千隻の戦いの次元、二千隻の戦いのモデルにおける包囲を振り返ってみよう。そこでの包囲陣は、球形陣の任意の箇所に全ての火砲を集中できた筈だ。これにより包囲陣は、良くて兵力の半数弱の火砲しか集中できない球形陣を火力で圧倒し、容易に壊滅させる事ができた。
 これに対し、一万隻を超える戦いの次元では、包囲にこうした効果は期待できない。包囲陣の集中射の優位は失われ、球形陣は火力で包囲陣と対等の存在になるからだ。更にこの次元では、撃破すべき敵の艦艇数が非常に多く、その数ゆえに防御砲火も熾烈となり、敵の覆滅に尚更時間を要するようになる。結果としてこの次元では、数千隻の戦いの次元と打って変わり球形陣は強靭な耐久性を発揮するようになるのだ」
(※図113及び図114、図115及び図116 参照)
ガトランティス軍とガデル・タラン 図113

114update

ガトランティス軍とガデル・タラン 図115

ガトランティス軍とガデル・タラン 図116

 話を続けつつガデルは大侵攻以前の戦いのモデル図を再表示し、先に表示していた立体図と並べるようにして変化させた。小規模な球形陣が包囲陣から集中砲火を受け急速に消滅していくのに対し、大規模な球形陣はいつまでも敵の砲火に耐え続ける。その様子を兄に示すと、ガデルは話を次に進めていった。

 「…以上に挙げた三つの要因により、ガトランティスの巨大な横隊戦列は我が軍の攻撃を防御し切ると考えられる。その上で彼らは次のように反撃を行う。図の変化を見てもらいたい」

 ガデルの言葉と共に立体図に変化が起きた。球形陣へ変化し少しの時間ガミラス軍の砲撃に耐えていたガトランティス軍が、艦艇を分厚く配した箇所を先頭にガミラスの包囲陣へ突進を始めた。ガトランティス軍を覆うリング状の包囲環が歪み始める。ガトランティス軍の突撃を受けたガミラスの部隊が後退を始める。その構図が明らかになった所で、立体図は変化を停止した。(※図117参照)
ガトランティス軍とガデル・タラン 図117

 「…このように、ガトランティスの球形陣は形状が類似した突撃縦隊と同様の行動に出る。即ち戦力を集中させた部分を前面に押し立て、我が軍の包囲陣を破砕するべく突進を開始するのだ。これに対し、突撃を受けた我が軍の部隊は後退して攻撃を凌ぐ。
 この状況で我が軍が採り得る方策は三つある。
 一つは敢えて敵に道を開け突撃をかわす事。
 一つは予備兵力を投入し突撃を撃破する事。
 そして最後の一つは包囲を保ったまま敵と同航戦を行う事だ。
 しかし、そのいずれを採っても我が軍は最終的に壊滅へ追い込まれる。それぞれの場合について説明しよう」

 そのように述べるとガデルは立体図を複製し、三個の図を並べて見せた。そのうちの一つに手をかざし、再び話し始める。

 「まず最初の敵の突撃をかわす方策だが、その場合敵は包囲陣を突破後我が軍を逆包囲するだろう。この図のように」

 ガデルは手に触れた立体図を変化させた。

 ガトランティス軍の突撃の進路上にあるガミラス軍部隊が四方に散開し突撃をかわそうとする。ガトランティス軍は逃げ遅れた敵部隊を球形陣の火線に飲み込み消滅させると、逃れた敵部隊を追いかけるように球形陣を解き散開を始めた。リング状から“コの字”状になったガミラスの包囲陣を、彼らは突破口周辺から順次包囲していく。ガミラスの包囲陣が“コの字”から弓状へ更に形を崩し、それをガトランティス軍が殻のように覆った所で図の変化は終了した。(※図118及び図119、動画5参照)

 ガデルが解説を始める。

 「…今見たように、ガトランティス軍は突撃地点前面の我が軍の部隊を撃破しつつ、包囲を突破する。その後彼らは航空機を発進させ我が軍の後退を妨害しつつ逆包囲を完成させる。彼らが逆包囲を始めると、我が軍にはそれを防ぐ手立てが無い。状況を救うべく我が軍が予備兵力をどのように投入しても、彼らは後方に控えた突撃縦隊でその背後を襲い撃破するだろう。従ってガトランティス軍に包囲の突破を許すのは、我が軍にとって望みの無い選択となる。
 それでは、ガトランティス軍の突撃を予備兵力の投入で撃退する方策はどうだろうか。これは小マゼランの会戦で我が軍が実際に採ったものである。しかしその選択は、彼らにとって理想的と言うべき状況だろう。何故なら、予備兵力の投入されるガトランティス軍の突撃地点前方は、正に突撃縦隊を投入すべき“戦いの焦点”となるからだ。従ってこの方策では、我が軍は次のように壊滅へと追い込まれる」(※58)

(※58)ガデルが文中で述べた“戦いの焦点”とは、ガトランティスの用兵を表す概念の一つである。詳細は前回の記事「ガミラス第二帝国の戦争準備  ガトランティス軍とガデル・タラン(その2)」及び記事中の図61及び図66を参照の事。

 そのように言うとガデルはホログラムボードに並んだ二つ目の立体図に手をかざし、図を変化させた。

 ガトランティス軍の突撃進路上にガミラスの増援部隊がワープアウトし、敵に圧迫されていた味方と合流した。その瞬間、ガトランティスの突撃縦隊がワープアウトし、彼らの隊列を横殴りにするように突進した。攻撃を受けたガミラス軍部隊が粉々になり消滅する。その後、突撃縦隊とガトランティス軍本隊は隊形を解いて散開し、“コの字”状になったガミラスの包囲陣を逆包囲にかかった。(※図120及び動画6、図121及び動画7参照)

 一つ目の立体図のようにガミラス軍が包囲された所で図の変化は終了し、ガデルが解説を始めた。

 「図のように、突撃縦隊の攻撃を我が軍の部隊は押し留める事ができない。結果として我が軍はガトランティス軍に包囲の突破を許し、最初の図のように逆包囲を受け壊滅に追い込まれる。
宇宙戦艦ヤマト2199 1/1000 ナスカ級キスカ それでは、ガトランティス軍の突撃に包囲を保ったまま同航戦を行う方策はどうだろうか。この最後の方策は、おそらくはこの状況では最善の選択だろう。我が軍は突撃縦隊に備え予備兵力を温存しつつ、その一部で包囲陣を補強する。そして包囲陣を堅持し、その火力で敵の撃滅を目指す。これにガトランティス軍はどのように対処するか。彼らは我が軍と同航戦になった時点で航空機を発進させ、我が軍の包囲を崩しにかかるだろう。図の変化を見てもらいたい」

 ガトランティス軍の反撃について言及すると、ガデルはホログラムボードに並んだ三つ目の立体図を変化させた。

 ガミラスの包囲陣がガトランティス軍と併進を始め、両者は同航戦の態勢になった。そこへガミラスの増援がワープアウトし、移動を続ける包囲陣の“側面”の部分に合流した。増援を受けたガミラス軍部隊はガトランティスの球形陣の“側面”部分に砲火を集中させる。砲火の圧迫を受けたガトランティス軍部隊は、球形陣の内部へ向けジリジリと後退を始めた。(※図122及び図123参照)
ガトランティス軍とガデル・タラン 図122

ガトランティス軍とガデル・タラン 図123

 このままガミラス軍が球形陣を押し潰すかと思われたその時、航空機と思しき多数の記号が球形陣内部から飛び出した。それらは砲火で圧迫を続けるガミラス軍包囲陣“側面”の部隊へと突入する。すると突入を受けたガミラス軍部隊の隊列が渋滞し、同航戦から落伍を始めた。やがてガミラス軍包囲陣の“側面”部分に間隙が生じる。
その間隙へ向け、今度はガトランティス軍球形陣“前面”の部隊が一部を残して突入を開始した。彼らが間隙へと近付いた所で立体図の変化は止まった。(※図124及び図125参照)
ガトランティス軍とガデル・タラン 図124

ガトランティス軍とガデル・タラン 図125

宇宙戦艦ヤマト2199 1/1000 ナスカ級キスカ 「…このように、我が軍は予備兵力の一部を投入し、攻撃し易い敵球形陣の“側面”部分に集中射を加える。しかし、この攻撃では我が軍は敵球形陣の側面を迅速に撃滅できない。突撃縦隊の攻撃に備える必要上、予備兵力の投入が不十分となるからだ。それにより我が軍が敵の撃滅に手間取る間に、敵は航空機で包囲陣の一角に突破口を生じさせる。
 突破口が生じると、次にガトランティス軍は戦力の集中する球形陣“前面”の部隊を突入させるだろう。そうなれば我が軍は残された予備兵力を投入せざるを得なくなる。もし敵が包囲を突破すれば、包囲陣は局所的に逆包囲を受けるからだ。
 こうして、我が軍は予備兵力の殆どを投入し、敵の新たな攻撃への対応力を失う。後はもう説明は不要だろう。ガトランティス軍は突撃縦隊を“戦いの焦点”となった突破口周辺に投入し、我が軍は壊滅へと追い込まれる」

 どのようにしても敗北するガミラス軍の姿に嫌気が差したのか、ガデルは珍しく投げやりな言葉で説明を締め括ると立体図を変化させた。

 ガミラス軍包囲陣の“側面”に開いた危険な間隙を塞ぐようにガミラス軍の増援がワープアウトした。同時に手薄になったガトランティス軍球形陣の“前面”を攻撃するべく、それまで球形陣に追いかけられる状態だったガミラス軍包囲陣の“前面”の部隊が一斉に向きを変えた。彼らの近傍にガミラス軍の増援がワープアウトし合流する。その直後、 ガトランティスの突撃縦隊がワープアウトした。それはガトランティス軍球形陣の前方から側方にかけてを猛然と突き進み、進路上のガミラス軍を粉砕した。(※図126及び図127参照)
ガトランティス軍とガデル・タラン 図126

ガトランティス軍とガデル・タラン 図127

 ガミラス軍の最後の攻撃の試みが潰え去り、ガミラス軍が敵に逆包囲されていく。その光景を兄に示すと、ガデルはこの戦いのモデルについて総括を始めた。

 「以上、ここまでは一万隻を超える戦いの次元において、従来の我が軍のシステムがどのような事になり得るかを示した。ガトランティスの火力戦に対し、我が軍の駆使する機動戦の手法、『有利な位置への機動』、『包囲』、『近接戦闘』の尽くがこの次元では無効となってしまう事に驚かれたのではないだろうか。
 ゲシュタムジャンプや機動による敵側面への打撃は効果が無く、包囲でも迅速に撃滅できない。更に近接戦闘では敵の突撃縦隊を止められず、大型艦艇の火力に薙ぎ倒される。何故このようになってしまうのか。それは、『数』と『機動力』という、機動戦を成立させる二つの要素の有効性がこの次元では失われてしまうからだ。詳細を説明しよう」

 何故数千隻以下の戦いのモデルと対照的な結果になるのか。その理由についてガデルは言及する。

 「…まず『数』であるが、機動戦は包囲を行うのに数を揃える事が重要とされる。しかし一万隻を超える戦いの次元では、数だけで勝利する事は困難となる。彼我の艦艇数の増大により、敵の横隊戦列は火力が著しく強化され、展開範囲もまた巨大化するからだ。火力と広大な空間を持つ故に、敵はこのモデルが示すように我々の攻撃を高速の機動でかわし、強靭な球形陣を形成する事ができる。これに対し火力に欠ける従来の我が軍のシステムは、敵の機動を抑え込む、或いは球形陣を破砕するのに敵を圧倒する数を用意しなければならない。しかし万を超える敵の大軍を数で圧倒するのは、現実問題として不可能である。
 次に『機動力』についてであるが、機動戦は高速の機動やゲシュタムジャンプを駆使し、速攻による敵の弱点の打撃や包囲を行う事で敵を撃滅する。 しかし一万隻を超える戦いの次元では、機動に成功するだけで敵を撃滅する事はできない。このモデルが示すように、敵はかなりの長時間にわたり組織的な抵抗力を維持し、攻撃を行う我が軍を釘付けにする。その結果、我が軍は身上とする機動性を失ってしまい敵の反撃の餌食となる。本来機動性に優れない筈の大型艦艇にさえ捕捉される、鈍重な標的と化してしまうのだ。こうした事態を避けるには、最低でも敵の隊列を迅速に崩壊させ行動の自由を得る必要がある。しかし従来の我が軍のシステムには、その為の手段が存在しない」

 戦闘の巨大化という環境の変化を前にして機動戦の原理は限界を迎える。その詳細を説き、話は次に進む。

コスモフリートスペシャル 宇宙戦艦ヤマト2199 メダルーサ級殲滅型重戦艦 メガルーダ 「…結局の所、このモデルから言える事は何なのであろうか。それは、一万隻を超える戦いの次元では、火力が勝敗を決する重要な要素になって来るという事だ。従来我々が重視してきた『数』や『機動力』は、無論戦いが巨大化した世界でも重要であり続けるだろう。しかし、その世界において、敵の機動を阻止し迅速に撃滅する事、そして堅固な敵の隊列を崩壊させる事はそれらだけでは実現できない。このモデルが示すのは、実に大火力こそが今述べた二つを成すのに必要とされるという事である。
 ここで今一度、ガトランティス軍のシステムについて思い返してもらいたい。彼らの横隊戦列は、巨大な規模になると大火力を効率的に用い、高速で機動する敵部隊を次々に粉砕する事ができる。そして彼らの突撃縦隊は、大型艦艇の大火力で敵戦列を突き破り、崩壊させる事ができる。火力戦を行うガトランティス軍のシステムは、正に我々が新たな戦いの世界で求められたものを、システムの基礎の次元で有していたのだ」

 火力戦の再発見と言うべき認識を示し、ガデルの話は結論へと向かう。

 「…従って、戦いが巨大化するこれからの世界では、我々はガトランティス軍と同じ火力戦へとシステムの転換を迫られる。これまで機能していた我が軍の機動戦のシステムは有効性を失い、逆に我が軍に劣勢だったガトランティス軍のシステムが全ての要素で従来の我が軍のそれを圧倒するようになる。ガトランティスの大侵攻から五年余り、小官は我が軍の在り方に危機感を覚え、今日この日までシステムの転換に心血を注いで来た。それは以上の冷厳な事実を、小マゼラン及び大マゼランの会戦で見せ付けられたからだ。
 では、小官はあの当時、二つの会戦に一体何を見たのか。それをこれから兄さんに話す事としよう。これにより、『敵が全てにおいて従来の我が軍を上回った』過去の惨禍の実相をより深く理解できるだろう。そしてこの項において、何故小官が古代の戦争から話を進めて来たのか、その理由もまた兄さんに示す事ができるだろう」

 最後にガトランティス軍の脅威を述べて、ガデルは一万隻の戦いのモデルについて総括を終えた。

 ガデルが話を続ける間、ヴェルテはずっと弟の示す新たな戦いの姿を理解するのに意識を集中させていた。

 ヴェルテにとって、モデルで示された内容は俄には信じ難い程のものだった。ガトランティスに対しあれ程優位を誇ったシステムが、ここまで完膚なきまでに敗れるとは。彼我の動員兵力が極大化すれば、戦場の様相はこうも変わってしまうのか。

 深刻な表情でホログラムボードを見つめるヴェルテに、ガデルが声をかけた。

 「それでは、この項の最後の話に移ろう」

 弟の一言にヴェルテは思わず身構える。その様子を一瞥し、ガデルは言葉を続けた。

 「…我々にとって、小マゼラン及び大マゼランの会戦とは一体何であったのか」

 ガデルは今夜の講義の第三項目、「ガトランティスによる戦争の変化」の最後の話題について話し始めた。

 「まず最初に、(ガトランティスの)大侵攻開始前後の状況について述べておこう。あの当時、兄さんが天の川銀河にいた頃、大小マゼランは軍事面で混乱の真っ只中にあった。各惑星で大規模な蜂起が続き、大マゼランではヤマトに全滅させられた基幹艦隊の残余が、小マゼランでは小マゼラン方面軍がそれらの鎮圧にあたっていた」

 ガトランティスの侵攻直前の状況を語るガデル。その口調は、大侵攻からかなりの年月が経った今でも悲痛さを滲ませるものであった。

 「ヤマトにより失われた戦力は回復しておらず、ヤマトに破壊されたワープゲートネットワークも復旧していない。蜂起による混乱でそれらは解決の目処すら立たない状況だった。その結果、当時の小マゼラン方面軍は完全に孤立した状態に置かれていた。この状況を衝き、ガトランティス軍は小マゼランへ一大攻勢を仕掛けてきた」

 ガデルは当時のガミラス帝国の窮状を手短に述べた。(※図128参照)
ガトランティス軍とガデル・タラン 図128

 弟の言葉を反芻しつつ、ヴェルテは昔を回想する。

 ガトランティスの大侵攻前夜、ガミラス帝国は正に瓦解の危機に直面していた。ヤマトのバレラス襲来による“デスラーの死”と親衛隊の全滅の結果、大小マゼランの各地で反乱の嵐が吹き荒れた。ガミラス帝星ではデスラーと叔父のエーリク・ヴァム・デスラーに滅ぼされた諸公国の遺民が再び蜂起し、征服した諸惑星では原住民ばかりか当地へ追放同然に送り込まれた純血ガミラス人移民までもが反乱に立ち上がった。蜂起で帝国の工業生産は麻痺し、艦艇の生産はおろか、バラン星に存在したワープゲートネットワークの中枢の再建もできない状態に陥っていた。

 ヴェルテは当時潜伏していた天の川銀河で、デスラーと共にこうした情勢を銀河系方面軍の協力で逐一把握していた。

 帝国を如何に再建するか。

 デスラーが捲土重来の機会を窺い、ヴェルテが事態収拾の計画を立案していた正にその時に、ガトランティスの大侵攻は開始されたのだった。

 昔を語るガデルは、次に大侵攻直後のガミラス軍の状況について言及を始めた。

 「当時の小マゼランの防衛体制は次のようなものだった。配備兵力二万隻余の内、各地の哨戒を行う『前哨』が三千隻超、敵撃滅の主力を担う『主隊』が九千隻弱、基幹艦隊から分派された『戦域予備』が八千隻余り。この内『前哨』と『主隊』は三つの戦区に分けられ、それぞれの戦区の防衛を担当した。
 この体制において、我が軍は敵の侵入に次のように対処する事としていた。
 第一に、最初に接触した部隊は戦闘を威力偵察に留め後退、敵の動向と兵力の把握に努める。
 第二に、その後の反撃に際し、敵の兵力が小規模な場合は周囲の前哨部隊と主隊が協同して攻撃を行い、大規模な場合は戦域予備が出動し攻撃に加わる。(※図129参照)
ガトランティス軍とガデル・タラン 図129
 この仕組みは大侵攻以前は良く機能し敵を撃退し続けた。しかし、大侵攻が始まると我が軍の防衛体制は破綻した」

 そこまで言った所でガデルはホログラムボードに小マゼラン銀河を表す立体の模式図を表示した。そこへ次々と図形を書き込んでいく。

 「…この図を見てもらいたい。これは敵の侵攻地点を示したものだ。彼らは小マゼランの三箇所に、それぞれ七千から八千隻の兵力で侵攻を開始した。
 これに対し我々帝星司令部は、小マゼラン方面軍に独力での撃退を命じた。
 以上が大侵攻開始前後の状況である」

 ガデルは話に一区切りつけると、当時のガミラス軍首脳部の認識について言及する。

 「この時点では、小官を含め帝星司令部は状況を悲観視していなかった。確かに司令部は敵が小マゼラン方面軍を上回る兵力で侵攻してきた事に驚愕した。しかし敵が戦力を不可解にも分散させていた事から、我々(帝星司令部)は敵を各個撃破可能であると判断した。そこで我々は小マゼラン方面軍に対し、これまでのように戦区毎に対処するのではなく、でき得る限り兵力を結集し各個撃破を行うよう命令を下した。
 現在の視点で見れば、当時の我が軍は二つの点で窮地に陥っていた。
 一つはこの時点で従来の我が軍のシステムは破綻していたという事だ。大侵攻以前、従来の我が軍は『数で以て敵を制圧する』という機動戦の原則に従い、常に敵を上回る兵力を動員してきた。しかし、大侵攻でガトランティスは我々を上回る兵力を動員した。これは現在の我々からすれば、まさしく『機動戦に基づくシステムが今後成り立たなくなる』という事を示唆する事象だった。
 そしてもう一つの点は、敵が我々を詳細に理解していたという事だ。彼らは当時の帝国の情勢や我が軍のシステム、更には小マゼラン方面軍の兵力、配置、動向に至るまでを把握していた。
 これについての事情は、兄さんの方が詳しい事と思う」

 ガデルはガミラス軍が小マゼランの破局へと向かっていく過程を、淡々とした口調で語った。一方、話を聴いていたヴェルテは、弟が最後に彼へ問い掛けるような言葉を述べた事に小さく反応を示した。

 「…ガトランティスの通信技術についての話か」

 「そうだ、兄さん」

 ヴェルテの問いにガデルは回答した。

 ヴェルテは視線を弟から床に向け、腕を組み少しの時間考える姿勢をとった。ヴェルテは大侵攻当時、ガトランティスがガミラスの超空間通信を傍受していた事件について記憶を蘇らせたのだった。

1/1000 大ガミラス帝国航宙艦隊 ガミラス艦セット4 ハイゼラード級航宙戦艦&デラメヤ級強襲揚陸艦 ガトランティスの大侵攻は、そもそもガミラスが混乱の只中にある時期に行われた。ワープゲートネットワークが崩壊し軍隊が蜂起の鎮圧に忙殺され、帝国が総力を挙げた軍事行動を取れない正にその時に、ガトランティスは小マゼラン銀河への侵攻を開始したのである。これは果たして偶然だったのか。そうでないとすれば、彼らはどうやってガミラスの窮状を察知したのか。外宇宙から飛来し大小マゼラン銀河に人脈を持たないガトランティスは、ガミラス軍の動向を漏洩する協力者を得る事自体が不可能であった。では、彼らはどうしたのか。大小マゼラン銀河を飛び交う超空間通信を傍受、解読していたのではないか――。

 デスラーがガトランティスを撃退した後で立証されたその仮説を、ガミラスで最初に示したのはアベルト・デスラーその人であった。昔を回想するヴェルテは、天の川銀河を出立し大マゼラン銀河へ向かう途上、デスラーが自分に述べた言葉を思い出した。

 “なかなか蛮族達も侮れないじゃないか。さすがに外宇宙から遥々飛来しただけの事はある――。”

 ガトランティスの盗聴の可能性を洞察し、その科学技術の優秀性をデスラーは評価した。その時のデスラーの言葉を、ヴェルテは脳裏にしっかりと焼き付けていた。(※59)

(※59)科学技術に関して、ガトランティスは(ガミラス側の「蛮族」という認識とは裏腹に)幾つかの分野でガミラスを凌駕しているとこの文章では想定している。その一つである通信技術の優位は、劇中のある描写を基にしている。映画「星巡る方舟」では、ガトランティスは地球艦のヤマトを知っているばかりか、ヤマトの装備する超威力の火砲(波動砲)の存在まで把握している事が示された。彼らにとって全く見ず知らずの筈の艦艇の情報を、彼らはどのようにして入手したのだろうか。ガトランティスが大小マゼラン銀河辺縁部で部隊を活動させていた事実から推測するに、彼らはガミラスと戦う傍らその超空間通信を逐一傍受しており、それらを解読した結果ヤマトについても知り得たと想像する事も可能なのではないだろうか。

 ヴェルテは弟に質問した。

 「確かに彼らはガミラスの超空間通信を傍受し、暗号の解読すらしていた事が分かっている。しかし訊きたいのだが、盗聴は彼らの諜報活動の内どれ程の比重を占めていたんだ?大侵攻以前の戦いも彼らにとっては諜報、或いは威力偵察の一環だったのではないか」

 「あくまで小官の見解であるが」

 ヴェルテの問い掛けにガデルは回答する。

 「これから述べる小マゼランの会戦の経過から盗聴は大規模に行われていたと考えられる。彼らが大侵攻以前に襲撃で得た機材や捕虜が決して多くない事を考慮すると、諜報活動としての重要度は盗聴の方が上であった可能性もある。
 また、大侵攻までの戦いが我々の軍事力を計る威力偵察であった可能性は低いと小官は考えている。威力偵察としてはあり得ない程の損害を彼らは出しているからだ。
 もし仮にそうであれば、我々の与えた損害が威力偵察の枠内に収まると逆算して、ガトランティスの総兵力は数十万隻の規模になると考えなければならない。しかし彼らは大マゼランの会戦の敗北から現在まで、大規模な軍事行動を起こしていない。それは会戦で失った数万隻の損害が極めて甚大で、戦力の再建に時間を要しているからだろう。従って、彼らの総兵力は我々と同じ数万隻規模であり、大侵攻以前の侵入も失った兵力の大きさから威力偵察ではないと考えるのが妥当と小官は判断している」

 回答を終えるとガデルは話を再開した。

1/1000 ガミラス艦セット2 (宇宙戦艦ヤマト2199) 「…話を戻そう。我々帝星司令部の命令を受けた小マゼラン方面軍は次のように行動した。小マゼランに侵攻した三つの敵軍の内、二つにそれぞれ一個師団千隻弱を充て牽制と監視を行わせる。そして残り一つに集結した戦力一万八千隻余をぶつけ各個撃破を目指す。
 しかし先程述べたように我が軍の動向は全て敵に把握されていた。敵は我が軍から秘匿していた主力三万隻余を、小マゼラン方面軍本隊が狙った軍に増援し彼らを待ち受けた。ガトランティス軍が戦力を分散させていたのは、我が軍を誘い出す罠だったのだ」

 小マゼランの会戦に至るまでの経緯を語り終えると、ガデルはホログラムボードに表示していた小マゼラン銀河の模式図を変化させた。

 小マゼランの各所にガミラス軍を示す記号が現れ、それらが一部を残して一つの大きな記号に纏まっていく。その最中(さなか)、小マゼランを徘徊する三つのガトランティス軍とは別に、もう一つの巨大なガトランティス軍の記号が浮かび上がるようにして現れた。星々から離れた恒星間空間に出現したそれは、味方の一つへ合流し更に巨大な記号へと膨れ上がる。そこに向け、集結を終えたガミラス軍の記号が直進していった。

 ガミラス軍が確実な破滅へ気付かず向かって行った事にヴェルテが恐怖する中、ガデルは小マゼランの会戦について語り始めた。

 「こうして、小マゼランの会戦は開始された。戦いはまず最初に、我が軍が恒星系内で遊弋するガトランティス軍を発見した所で始まった」

 話を続けつつガデルはホログラムボードに表示していた図を変化させる。小マゼラン銀河の内部、両軍が激突した部分が拡大表示され、小マゼラン銀河の全体図を上書きするように入れ替わった。図は顕微鏡のように小マゼラン銀河を拡大していく。銀河から星々の集う星域へ、星域から恒星系へ、そして恒星系内部の内惑星近傍へ。やがてそこにガトランティス軍らしき小さな物体が現れた。ゴマ粒のように小さなそれは拡大されていき、最後に併進する二つの小規模な横隊戦列へと姿を変えた。(※図130参照)
ガトランティス軍とガデル・タラン 図130

 「これを見てもらいたい。これは戦闘直前のガトランティス軍の布陣である。彼らは我が軍の基地を破壊した後、千隻の横隊戦列を二つ併進させた状態で遊弋していた。敵の兵力を七千から八千隻のままと誤認していた小マゼラン方面軍は、敵が恒星系内外に伏せているであろう本隊を引きずり出すため次のように攻撃を仕掛けた」

 会戦が始まる直前の状況を解説し、ガデルはホログラムボードの立体図を両軍の配置図へと置き換えた。ガトランティス軍の二つの横隊戦列の片一方に、ガミラス軍の十二個の縦隊戦列が対峙する。(※図131参照)
ガトランティス軍とガデル・タラン 図131

 ガデルはガミラス軍の意図について言及を始めた。

 「まず、敵の片方の横隊戦列正面に十二個旅団四千隻弱を展開し、前進させる。各旅団の展開範囲により、このまま推移すれば我が軍は眼前の横隊戦列を包囲し、もう一方の横隊戦列の側面も脅かす事ができる。これを防ぐ為、敵は必ず我が軍正面の横隊戦列周囲に本隊を空間跳躍させるだろう。こうして出てきた敵軍の側面と背後を、小マゼラン方面軍はゲシュタムジャンプで叩く予定だった。(※図132参照)
ガトランティス軍とガデル・タラン 図132
 しかし、戦闘は次のように推移した」

 立体図を動かしつつ説明していたガデルは、図を元に戻し再び変化させた。

 ガミラス軍に狙われた横隊戦列の周囲に次々と新たな横隊が出現する。それらは既存の横隊戦列と合流し、見る間に一つの巨大な横隊戦列へと姿を変えた。そして更にその背後に、もう一つの巨大な横隊戦列が出現する。ガトランティス軍は二重の巨大な横隊戦列を形成し、前進するガミラス軍を真正面に捉える態勢となった。(※図133及び動画8参照)

 「…このように、敵は大部隊を空間跳躍させ二万隻近い兵力で二重の横隊戦列を形成した。予想を遥かに上回る大軍に、敵前面の前衛部隊は危機に陥った。敵の戦列は展開範囲が大きく回避できない。そして背後を第二戦列に守られているため味方とのゲシュタムジャンプによる挟撃は成り立たない。横隊戦列の正面火力をまともに受ける危険に彼らは直面した。これに対し、小マゼラン方面軍は控えていた予備兵力一万四千隻の内、大半である一万二千隻を敵側面へ投入し、包囲陣を形成させた」(※図134及び図135参照)
ガトランティス軍とガデル・タラン 図134

ガトランティス軍とガデル・タラン 図135

 状況を挽回し、敵の覆滅を狙う小マゼラン方面軍。ガデルは図を変化させた。

 ガトランティス軍の周囲にガミラスの大部隊がワープアウトし、巨大なリング状の包囲陣を形成しようとしていた。ガデルが兄に示した一万隻の戦いのモデルよりも巨大な包囲である。弟の講義が無ければ、ヴェルテの目にはガミラスの迅速な勝利は疑いなく見えた事だろう。しかし――。

 「…図のように、小マゼラン方面軍は理想的な位置に予備兵力をゲシュタムアウトさせ、敵戦列の攻撃を受けようとしていた前衛部隊をゲシュタムジャンプで退避させた。理想的な態勢に、小マゼラン方面軍は敵を撃滅できるかと思われた。しかし、彼らは敵に損害らしい損害を与える事ができなかった。先に説明した一万隻の戦いのモデルと同じ展開になったからだ」

 淡々と説明を続けるガデルは図を変化させた。

 ワープアウトしたガミラス軍が隊伍を整える僅かな時間の間に、ガトランティスの諸部隊が一斉に機動を開始した。横隊戦列外周の部隊は戦列の中心方向へ雪崩れ込み、戦列中央の部隊は逆に外側へ向けて膨れ上がる。ガミラス軍が後を追うように包囲を狭める中、見る見る多角柱状の球形陣が形成されていった。(※図136及び動画9、動画10参照)

 ガトランティス軍が壊乱も壊滅もせず陣形変更を終えたのを見届けると、ヴェルテが口を開いた。

 「ガデル、質問しても良いか」

 ヴェルテは自身の前にホログラムを表示し、弟に問い掛ける。

 「一万隻を超える大軍を投入したのに、本当に小マゼラン方面軍は敵に大きな損害を与える事ができなかったのか?包囲で横隊戦列の端のみを攻撃するのなら、彼我の兵力規模が拡大すればそれだけ攻撃側の火力密度も増す筈だ。例えばお前の示した一万隻の戦いのモデルでは、包囲陣は数千隻の戦いのモデルよりも濃密な火力を敵戦列の外周部に及ぼせるだろう。小マゼラン方面軍は一万隻の戦いのモデルよりも大兵力だったのだから、その火力で敵戦列の外周部分だけでも迅速に撃滅できなかったのか?」(※図137参照)
ガトランティス軍とガデル・タラン 図137

 「兄さんの言うように、我が軍は正にその効果を小マゼランの会戦で期待していた」

 ヴェルテの質問に対し、ガデルはあたかもそれを待っていたかのような表情で話し始めた。

 「これは小官がこれから述べるつもりであった事だが、我々は大侵攻を受けるまで、機動戦の手法は巨大な兵力が激突する“会戦”でも有効であると考えていた。理由は兄さんが述べたのと同じ理屈だ。即ち、敵が数万という未曾有の大軍であっても、我が方が大兵力を敵の弱点に投入できれば火力の集中で迅速に撃滅できる。
 (小マゼランの)会戦の図を見てもらいたい。小マゼラン方面軍が敵戦列の外周部分を撃破すれば、敵は兵力の数分の一を失う事になる。一万二千隻という大兵力を以てすればそれは迅速に達成可能であり、敵が更に予備兵力を有していたとしても、それが投入される前に我が軍は勝利を決定付けられると考えられた。(※図138参照)
ガトランティス軍とガデル・タラン 図138
 しかし、実戦はそのようにはならなかった。彼らは高速の機動で我が軍の攻撃をかわし、殆ど損害を出さなかった。我々は攻撃を受けた際の機動の重要性、それも過去の戦いで自ら実践し熟知してきた筈の原則を、改めて敵に教えられる事となったのだ」

 数万隻という巨大な艦隊同士が激突する“会戦”。大小マゼラン世界では歴史上存在しなかったこの新たな戦いの姿を、ガミラスは正確に予見できなかった。ガミラス人にとって衝撃的であろう事実を兄に明かし、ガデルは更に話を続ける。

 「もし小マゼランの会戦で、我が軍の包囲陣が敵を迅速に撃滅しようとするなら、我が軍は次の手段のいずれかを採る必要があっただろう。
 一つは機動する敵部隊を瞬時に薙ぎ倒せる巨大火砲、ないしは火力システムを用いる事。
 もう一つは敵の二重の横隊戦列前面と背後に戦力を配し、陣形変更そのものを阻止する事。
 しかし従来の我が軍のシステムでは、そのいずれもが実行不能であった。当時の我が軍は艦首砲も、ガトランティスの“輪胴砲塔と副砲のシステム”に相当するものも持たなかった。そして敵の巨大横隊戦列の正面火力に対抗し、更には制圧できるだけの大兵力や火力システムが無かった。
 従って火力に欠け、機動による打撃も無効化した従来の我が軍には、ガトランティスとの正面切った会戦に勝利する術(すべ)が無かったのだ」

 会戦という戦いの様態に適応できなかった従来のガミラス軍。その実際についてガデルは言及を終えた。彼は一呼吸置くと、小マゼランの会戦のその後の展開について話し始めた。

 「かくして、ガトランティス軍は小マゼラン方面軍の攻撃を凌ぎ巨大な球形陣を形成した。そして我が軍の包囲陣を突き破り、逆包囲するべく突撃を開始した」

 ガデルは図を変化させた。

 ガトランティスの球形陣が周囲を周回するガミラス軍に向け猛然と突進を開始する。その突進にガミラスの包囲陣が歪み始め、このまま突破かと思われた刹那、突如ガミラスの大部隊が敵の攻撃正面にワープアウトした。それらは敵の圧迫を受けていた味方と合流する。(※図139参照)
ガトランティス軍とガデル・タラン 図139

 突破を狙うガトランティス軍をガミラスの大軍が正面から迎え撃つ。その構図が明らかになった所でガデルは話を再開した。

 「図のように、敵の反撃を受けた小マゼラン方面軍は、この時点で控えていた部隊の全て、即ち予備兵力の残り二千隻と退避していた前衛部隊四千隻を投入した。この時ガトランティス軍の“前面”には約六千隻のガトランティス艦がいたと報告されている。そして敵の突撃針路上には、包囲陣の一部を成す約三千隻の味方艦艇がいた。
 投入された部隊はそれらと合流し、敵の突進を火力の集中で撃破する態勢を採った。小マゼラン方面軍がそうしたのは、あくまで敵の迅速な撃滅を目指した為だ。局所的に敵を上回る九千隻の兵力で半包囲を敷き、敵の突撃を集中射で破砕する。(※図140参照)
ガトランティス軍とガデル・タラン 図140
 しかしこれが我が軍にとって最後の決定的な誤謬となった。ガトランティス軍は“戦いの焦点”となった突破地点近傍に突撃縦隊を投入し、小マゼラン方面軍を粉砕した」

 小マゼラン方面軍の意図と状況、そして最期の瞬間をガデルは説明し、図を変化させた。

 ガトランティス軍の突進を迎え撃つガミラス部隊の側面へ二つの突撃縦隊がワープアウトする。同時にガミラスの包囲陣の周囲四箇所にもガトランティスの別働隊がワープアウトし、包囲陣の背後を脅かすように占位した。(※図141参照)
ガトランティス軍とガデル・タラン 図141

 突撃縦隊がガミラスの隊列を横殴りに直進し一気に粉砕する。攻撃を受けたガミラス艦九千隻が僅かな幸運者を残し全滅すると、ガトランティス軍は突撃縦隊と球形陣の隊形を解き散開した。彼らはガミラスの決壊した包囲陣周辺にいる四つの味方部隊と連携し、敵を逆包囲にかかる。(※図142及び動画11、動画12参照)

 総崩れになるガミラス軍。総突撃に移ったガトランティス軍は逃げ惑う敵に群がり、バラバラになった敵軍の塊を殻のように覆っていった。

 小マゼラン方面軍が殲滅される様子を兄に示し、ガデルは話を再開した。

 「図のように、ガトランティスの突撃縦隊は球形陣の前面にいた我が軍の部隊を捕捉し覆滅した。我が軍はこの時初めてガトランティスの大型艦艇の部隊に遭遇し、その火力の猛威を目の当たりにした。報告によれば、突撃縦隊により味方艦艇九千隻がごく短時間の内に撃破された。
 この惨劇は、敵の火力もさる事ながら次の要因にも由ると考えられる。
 一つは我が軍の部隊が既に敵の球形陣と交戦中で突撃縦隊の攻撃に対応できなかった事だ。彼らは言わば敵の本隊によって釘付けにされ、側背を別働隊に襲われる形となった。
 そしてもう一つの、より重要な要因は、我が軍の部隊が集中射を行う必要上、比較的狭い範囲に密集していた事だ。大兵力が過度に集中した結果、部隊の三次元的な機動性が失われ、直進速度に優れる突撃縦隊の突進を回避できなかった。我が軍にとってこの惨劇は、火力を大兵力のみに頼る事の危険性を知らしめる戦例となった」

 “数の効能”をシステムとして重視してきた従来のガミラス軍。それが彼らに致命的な事態をもたらした事をガデルは述懐した。

 小マゼランの会戦の全貌を語り終えると、ガデルは戦いについて総括を始めた。

 「こうして、小マゼラン方面軍は会戦に敗北した。我が軍の損害はおよそ一万五千隻に上(のぼ)り、参加兵力の八割以上を失う破滅的な数字となった。この我が軍最大の敗北で強調されるべきは、我が軍が決して兵力差のみで敗れたのではなかったという事だ。これまで述べたように、従来の我が軍のシステムは巨大な兵力が激突する“会戦”において数々の問題を露呈した。『火力の欠如』、『機動の無効化』、そして『数の効能の喪失』である。それは同時に、戦いの様式としての機動戦そのものが有効性を失った瞬間でもあった。
 この戦いの変化に、 システムとして装備や編成の全てを機動戦に最適化した従来の我が軍は順応できなかった。次の大マゼランの会戦では、それが極めて明瞭な形で現れた。会戦に適応したガトランティスの火力戦に対し、我が軍はあらゆる面でシステムの劣勢ぶりを露呈し、窮地に追い込まれる事となった」

宇宙戦艦ヤマト2199 1/1000 ナスカ級キスカ 小マゼランの会戦から大マゼランの会戦へと話の軸足を移し、ガデルは総括を終えた。

 ガデルは兄に小休止を求めると、ホログラムボードに向かい合いそのまま物思いに沈む風(ふう)となった。

 ヴェルテは暫くの間姿勢を変えようともしない弟の背中を見つめつつ、考えを纏め始めた。

 ヴェルテが今まで概略でしか知り得なかった小マゼランの会戦。その詳細について、弟は実に多くの事を教えてくれた。参謀本部による戦争様相の予測の失敗、状況認識の錯誤、更には用兵上の誤謬。当事者でなければ知り得ない数々の事実を弟は率直に語ってくれたとヴェルテは思った。

 しかし、弟は故意にであろうか、ただ一つだけ重要と思われる事には触れなかった。ガトランティス人の戦争の才能についてである。

 ヴェルテは大侵攻以前の敗北から小マゼランでの大勝利へ至る、ガトランティスの戦いの過程を脳裏に呼び起こした。

 大侵攻以前、小マゼラン銀河への侵入を繰り返していたガトランティスは、その度に痛烈な反撃をガミラス軍から受けていた。徐々に侵攻兵力を拡大させつつも、戦う毎に数百隻、千隻以上とガミラスの基準では大きな損害を彼らは出し続けていたのである。

 特にヤマトのバレラス襲来直前に行われた一連の戦いは、彼らにとっても壊滅的な敗北になった筈であった。

 ガミラス軍はエルク・ドメル将軍の指揮の下、小マゼラン銀河に侵入した何千隻ものガトランティス軍を尽く屠り、ガミラスの一士官をして次のように豪語せしめる程の大勝利を収めたのだった。

 “これで奴らも暫くは仕掛けてこないだろう――。”

 にもかかわらず、ガトランティスはそれから僅か数年後に再び攻勢を仕掛けてきた。その兵力規模から、おそらくは彼らにとって乾坤一擲の一大攻勢であっただろう。何故このような事ができたのか。

 確かに当時のガミラスは、侵攻の好機と言うべき混乱の只中にあった。しかし彼らはそれまで敗北に敗北を重ね、時に数千隻の軍勢を全て失う大敗北すら喫していた。積み上がった屍の山を前にして、ガトランティスの指導者達にごく常識的な判断力があれば、彼らは再度の攻勢を行う事自体を成算無しと躊躇する筈であった。

 しかし現実の彼らは、それまでを遥かに超える規模の一大攻勢作戦を実施した。

 このような冒険を行い得た理由は何なのか。小マゼランの会戦の戦い方を見るに、ヴェルテは一つの可能性を脳裏から排除しきれなくなった。彼らは我々の軍隊の弱みを良く理解していたのではないか。

 即ち、彼らはガミラス軍のシステムが戦闘の巨大化で効力を失う事を見抜き、戦争の勝利を確信して一大攻勢に踏み切ったのである!

 ガトランティス人、その戦争指導者達は愚かではない。それどころか自分達を上回る力量を有しているかもしれない。ヴェルテはそのような懸念を抱いていた。

 弟はかつて蛮族と蔑んでいたガトランティス人を、今どのように思っているのか。

 ヴェルテは次の話を考えているであろう弟の背中を眺めつつ、弟の講義の再開を待ち続けた。(※60)

(※60)この思考実験小説において、筆者はガトランティスの戦争指導者の一人であるシファル・サーベラーを「ガミラスのタラン兄弟に比肩する人物」と想定し、描写していく予定にしている。ガトランティスにおいて“大帝”とまで称される人物(ズォーダー)に仕える、それも丞相という高位の役職にいる人間であれば、(ヤマト2での描写のような)無能力者ではなくやはり図抜けた才知と才覚を有しているのではないかと想像するからである。サーベラーと、それを補佐するラーゼラー及びゲーニッツは、したがってガミラスにとって恐るべき相手であり、後にデスラー共々地球へ一大災厄をもたらす存在になるとこの文章では位置付けている。
 また、ガトランティスの社会形態や文化について、この思考実験小説は独自の解釈を試みている。旧作ヤマトシリーズの描写と、映画「星巡る方舟」、更にガトランティスと同じく漂流生活を送っていた騎馬遊牧民の社会を基に、ガトランティスをれっきとした民衆や家庭生活が存在する一つの文明社会と位置付け、描写していく予定としている。以上の事を念頭に、以降の文章を読んで頂ければ幸いである。

宇宙戦艦ヤマト2199 艦艇精密機械画集 HYPER MECHANICAL DETAIL ARTWORKS 弐 「では、話を再開しよう」

 暫く思案していたガデルが兄の方を向き、兄に話しかけた。

 「大マゼランの会戦において、何が新たに問題として顕在化したのか」

 ガデルは大マゼランの会戦について、前置きの言葉を語り始めた。

 「小官にとって、大マゼランの会戦は正直語るのが難しい戦いである。戦いの経過や状況認識、局面毎の判断を全て伝聞に依らざるを得ないからだ。それらは全て兄さんの方が詳しい事と思う。従って会戦そのものの解説はごく簡単に留め、戦いで明らかとなった問題点を重点的に話そうと小官は考えている。もし事実と異なる論述があれば、遠慮無く指摘して頂きたい」

 弟の言葉に、ヴェルテは僅かな時間目を閉じ感慨に浸る様子を見せた。彼は大マゼラン銀河に帰還した当時の事を脳裏に蘇らせたのだった。

 ヴェルテ・タランとガデル・タラン。この二人の兄弟は、大小マゼラン世界の多くの人々と同様、数奇な運命を辿った人物だった。勃興期のガミラスにおいて軍制改革の立役者となった二人は、ガトランティスの大侵攻の際には互いを敵同士として対峙した。ヴェルテはデスラー率いる反乱軍に属し、ガデルはヒス・ディッツ政権の幕僚として彼らを討伐すべき立場にあったのだった。

 ガトランティス軍が大マゼラン銀河に侵攻し、ガミラスの滅亡が迫る中、デスラーはサレザー恒星系に追いつめられたガミラス航宙艦隊に自身の生存を訴えた。巧みな演説で彼らを味方に加えたデスラーは、ガミラス帝星から数百光年離れた“サレザーの玄関口”と呼ばれる星域において、サレザーを攻略せんと進撃中のガトランティス軍を迎え撃った。世に言う“大マゼランの会戦”である。この会戦にガデルは直接関わっていない。当時の政権首班だったレドフ・ヒスやガル・ディッツと共にあった彼は、ガミラス帝星の帝星司令部で戦いをただ傍観する他無い状況に置かれていたのである。一方デスラーと共にあったヴェルテは、彼の傍らで戦いの一部始終を目撃した。ヴェルテはデスラーが会戦に勝利し、ガトランティスを大マゼランから一掃するに至る全ての経緯の生き証人となったのだった。

 過去を忙しく回想するヴェルテ。当時を思えば、今ここでこうして会話に興ずる事自体が一つの奇跡であるようにヴェルテには感じられた。

 ヴェルテが目を開き、あらぬ方向から弟へと視線を戻す。それを一瞥すると、ガデルは話を再開した。

1/1000 大ガミラス帝国航宙艦隊 ガミラス艦セット3 「メルトリア級航宙巡洋戦艦&次元潜航艦UX-01」 「まず、会戦に至るまでの状況について述べておこう。小マゼランの会戦の敗北後、我が軍は小マゼランから撤退した小マゼラン方面軍の残余五千隻と基幹艦隊三千隻をサレザー恒星系に集結させ、敵の大侵攻開始時に移動命令を出していた銀河系方面軍の到着を待った。
 この時、我々帝星司令部は全くの絶望的な状況にあった。ガトランティス軍が銀河系方面軍の到着前に大マゼランへ到達するのは確実であり、もし(ガトランティス軍が)サレザーを直接衝けば兵力で圧倒的に劣るであろう我々には守る術が無かったからだ。しかし大マゼランに侵攻した彼らは、各地の劫略を優先しサレザーに進撃しなかった」

 ガデルは小マゼランの会戦から大マゼランの会戦の間の時期について言及を始めた。弟の話を聴きつつ、ヴェルテは当時の状況について記憶を脳裏に呼び起こした。

 小マゼラン銀河を征服したガトランティスが、大マゼラン銀河へ向け進軍を開始する。一方、天の川銀河からはガミラスの銀河系方面軍が大マゼラン銀河の救援に向かう。小マゼラン銀河から大マゼラン銀河までは、およそ七万五千光年。十六万光年以上離れた天の川銀河からの救援は間に合わない。ガミラスの援軍が到来する前に、大マゼラン銀河はガトランティス軍の侵攻を受ける運命にあった。銀河系方面軍の全軍を率いるデスラーがおよそ六ヶ月の航行を経て帰還した時には、ガトランティス軍は既に数ヶ月もの間、大規模な劫略を大マゼラン銀河の各所で繰り広げていた。

 大マゼラン銀河に雪崩れ込んだガトランティス軍が、敵の首都星攻略に優先し真っ先に行った事とは何であったのか。それは、ガミラスが各恒星系内に構築した工業宙域の制圧だった。戦闘艦艇や大型船舶、基地設備の生産を行うそれらを確保した彼らは、惑星上で人間や貴金属、工業製品から工芸品に至るあらゆるものを劫略する傍ら、巨大な方舟達の建造を開始した。

 建造に使役した純血ガミラス人や惑星の原住民に対し、ガトランティス人は次のように言ったとされる。

 「お前達が生涯を送る船であるから、心を込めて造れ」

 後に大マゼランの人々から「ガトランティスの奴隷船」と呼ばれたこれらの船は、惑星の住民を乗せて出航する予定であったとヴェルテは戦後に行われた調査で報告されていた。

 人々が地上で暮らす事の無い“宇宙を漂流する帝国”。大侵攻の惨劇は、ガトランティスの社会形態の一端を覗かせた。膨大な数の人間が宇宙で生活するに足る巨大宇宙船を建造する事。これがガトランティスの大侵攻の目的であり、それを可能とする工業力こそ彼らが人間や財物と並び、否、それ以上に垂涎して止まない獲物であったのではないか。ヴェルテはそのように考えていた。

 ガトランティスが求めるものの獲得を優先した結果、サレザー恒星系は幸運にも速やかな滅亡を免れる事ができた。ヴェルテが当時の状況を振り返る中、ガデルは同時期の帝星司令部について言及を続けた。

 「…敵が劫略を優先したのは、我々が焦土作戦を行うのを恐れた為ではないかと考えられる。ともあれ、我々はガトランティス軍がサレザーに来ないのを奇貨として、サレザーの民の脱出の準備と、銀河系方面軍到着後の反攻作戦の計画を進めていた。
 ところが、大マゼランに来たのは我が軍ではなく総統の軍だった。総統の軍は小マゼラン方面軍と基幹艦隊を糾合し、サレザーの攻略を準備していたガトランティス軍を迎撃に向かった。
 以上が大マゼランの会戦までの我が方の状況である」

1/1000 ゲルバデス級航宙戦闘母艦 ダロルド ガデルは大マゼランの会戦に至るまでの帝星司令部の状況について語り終えた。一方、弟の話に耳を傾けていたヴェルテは、弟がある一言を用いた事に密かな注意を向けた。

 総統の軍――。

 弟はガミラスの軍勢を“自分達”と“総統の側”にはっきりと区分した。ヴェルテは弟が内心抱いているであろうデスラーへの感情について、人知れず小さな懸念を脳裏に去来させた。

 ガミラス帝国航宙艦隊全軍を糾合したデスラーが、ガトランティスの大マゼラン銀河攻略軍を破り全滅させた大マゼランの会戦。

 それは、大小マゼラン世界のその後の歴史を文字通りの意味で決定付けた戦いだった。イスカンダル帝国から数千年ぶりに勃興した統一帝国が、これから長きにわたり大小マゼランを支配するのか。それとも、大小マゼラン世界そのものが帝国と共に滅び去るのか。それを決定付けた戦いだったのである。

 デスラーはこの戦いに際し、太古の軍略家を想わせる戦い様を見せた。自軍を圧倒する敵に対し、心理的な罠を仕掛けて敗北に追い込んだのである。それに利用されたのが、ガデルをはじめとするヒス・ディッツ政権の高官達であった。

 総統に一度ならず二度までも騙された。大マゼランの会戦は、弟にはヤマトのバレラス襲来と並ぶデスラーの重大な背信行為になったとヴェルテは考えていた。ガデルはレドフ・ヒスやガル・ディッツ共々デスラーの仕掛けた計略に翻弄され、遂にはガトランティス軍を欺く罠に、知らず知らずの内に協力させられる顛末を迎えたのだった。確かにそれによってガトランティス軍は敗滅し、ガミラスは歴史上有数の戦いに勝利する事ができた。しかしその勝利は、弟にとってこの上なく屈辱的なものであっただろう。ヴェルテはそう確信していた。

 弟は果たして大マゼランの会戦をどのように語るのか。ヴェルテは固唾を呑んで見守っていた。

 「では、小官の目から見た会戦の言及に移ろう」

 徐(おもむろ)に口を開き、ガデルは大マゼランの会戦について語り始めた。

 「この戦いは、作戦術の観点から見れば典型的な『包囲』であった。敵に戦力の投入を強要し、敵が全ての戦力を吐き出した所で自軍の予備を投入、包囲殲滅を行う。総統の軍とガトランティス軍は、互いにそれを行おうとした」

 戦いの概要を述べ、次にガデルは両軍の戦力について言及する。

 「総統の軍は、銀河系方面軍一万隻と、基幹艦隊三千隻、そして小マゼラン方面軍五千隻の計一万八千隻。対するガトランティス軍は、サレザー攻略に進撃中の本隊およそ三万五千隻。
 小マゼランの会戦とは異なり、総統の軍は敵兵力を幸運にも正確に把握する事に成功していた。これに対しガトランティス軍は、会戦の経過を見る限りでは総統の軍の兵力の把握に失敗していた」

 感情を交えずガデルは淡々と語り続ける。その一言一言を、ヴェルテは吟味するような表情で聴いていた。

 小マゼランの会戦において、ガミラスを諜報技術で凌駕し勝利を収めたガトランティス。しかし彼らは、続く大マゼランの会戦では一転して重大な錯誤に陥っていた。天の川銀河で挙兵し大マゼラン銀河に現れたデスラーの反乱軍は、一体どれ程の兵力であるのか。そしてデスラーと帝星司令部との間で、どれ程の部隊が造反、或いは逃亡したのか。ガミラスの混沌の中心にあったデスラーは、その混乱を利用し幾重もの欺瞞を行った。その結果、ガトランティス軍は会戦にどれ程の敵兵力が参戦したのか、正しく見積もる事ができずにいた。

1/1000 大ガミラス帝国航宙艦隊 ガミラス艦セット3 「メルトリア級航宙巡洋戦艦&次元潜航艦UX-01」 これに対し、デスラー軍は帝星司令部を裏切ったヴォルフ・フラーケンと次元潜航艦の偵察により、サレザー恒星系へ進撃するガトランティス軍の兵力を正確に掴む事ができた。

 大マゼランの会戦におけるガミラスの勝利は、こうしたいくつもの偶然と策謀が重なり合った結果得られたものだった。

 ガデルは歴史上稀な性格を持つこの戦いについて、更に言及を続ける。

 「大マゼランの会戦が数ある戦いの中でも特異なのは、彼我の参加兵力の規模も然(さ)る事ながら、包囲のため敵を前線に誘致する手法が対照的だったという事である。総統の軍は、全くの計略によって敵に戦力の全てを吐き出させた。一方ガトランティス軍は、兵器システムによる正統的な手法で敵に戦力の投入を強要した。結果として戦いは、総統の計略の成功により総統の軍の勝利に終わった。しかしこれは僥倖と言うべきものである。戦いを仔細に見れば、総統の軍が逆に敗北した可能性も高かった事は否定しようが無い。
 そこでここからは、会戦の経過を再現しつつ、要所毎にガトランティス軍のシステムと、その優越について解説する事としたい」

 戦いの解説について前置きを終えると、ガデルはホログラムボードにサレザー恒星系と周辺星域の模式図を表示した。立体ホログラムの中に手をかざし、戦場となった辺りを円を描くようになぞる。するとその部分が膨れ上がるように拡大されていき、巨大な水晶球状の姿となった。その中に一つの小規模な横隊戦列が遊弋している。

 「…兄さんがよく知るように、戦いは敵の前哨と思しき千隻の横隊戦列に、小マゼラン方面軍麾下の空間機甲軍が襲撃を仕掛ける事で始まった。以降、ガトランティス軍は敵の全軍と誤認していた小マゼラン方面軍を戦場に引きずり出すべく行動する」(※図143参照)
ガトランティス軍とガデル・タラン 図143

 会戦の始まりについて簡単に言及し、ガデルは図をあたかも映像記録を再生するかのように変化させた。ガトランティスの横隊戦列に向け、小マゼランの会戦で壊滅した空間機甲軍の残余千隻が三つの縦隊に分かれ接近する。既に兵力のおよそ八割を失い燃え滓のような状態であったにもかかわらず、空間機甲軍は巧みな機動で敵戦列の側面を包囲する態勢を整えた。すると横隊戦列の周囲に敵の増援部隊一万七千隻がワープアウトする。ガトランティス軍は二重の巨大な横隊戦列を形成し、猛砲撃を開始した。たちまち空間機甲軍は壊乱状態に陥り敗走する。(※図144参照)
ガトランティス軍とガデル・タラン 図144

 このまま空間機甲軍は全滅かと思われた刹那。追撃するガトランティス軍の前面に小マゼラン方面軍の本隊四千隻がワープアウトした。彼らは敵に立ち塞がるように展開し、実体弾の一斉射を放つ。大量の実体弾の迎撃でガトランティス軍の前進が鈍る。その隙に空間機甲軍は小マゼラン方面軍の戦列を通り抜け、敵から離れる事ができた。その後空間機甲軍はワープし、戦場を一時離脱する。(※図145参照)
ガトランティス軍とガデル・タラン 図145

 ホログラム上でガミラスとガトランティスの両軍が激しく応酬する中、ヴェルテは当時の事を回想していた。

 大マゼランの会戦に先立ち、デスラー軍はいくつかの偽装工作を行っていた。サレザーのガミラス航宙艦隊の間で、造反、逃亡、兵士の反乱というありとあらゆる混乱が起きた末に、小マゼラン方面軍はヒス・ディッツ政権側に残り、基幹艦隊はデスラー軍についたという状況を演出したのである。ガデルをはじめとするヒス・ディッツ政権の高官達は、味方を装う小マゼラン方面軍に空しい命令を繰り返し、結果として超空間通信を傍受するガトランティス軍に大量の欺瞞情報を提供した。その上でデスラー軍は、“最後のガミラス艦隊”となった小マゼラン方面軍がガトランティス軍を迎え撃ち、その間大マゼランの各地で生き残りの兵を必死に集めていた自軍が戦場に急行するという虚構を作り上げた。

 死地にいるガミラス軍をデスラー軍が救うという偽りの作戦。しかし、戦場に急行している筈のデスラー軍の実体は、僅かな通信隊のみの幽霊組織だった。本物のデスラー軍は星々から離れた戦場近くの恒星間空間に潜み、ガトランティス軍を覆滅できる瞬間を待っていた。(※図146参照)
ガトランティス軍とガデル・タラン 図146

 ――デスラーの反乱軍は我々がガミラス軍と戦っている隙に、我々の背後を襲うべく急速に接近している。彼らが到着する前に、我々は眼前のガミラス軍を殲滅すべきである。

 ガトランティス軍がこのように判断し、敵を迅速に覆滅せんと全戦力を投入した所で包囲を仕掛ける。これがデスラー軍の作戦骨子だった。しかしそれを成功させるには、小マゼラン方面軍は敵に全戦力の投入を決意させる程激しく、そしてしぶとく戦い続けなければならない。

 会戦直前、デスラーは各軍の指揮官が秘かに集まった軍議において、小マゼラン方面軍の残余を率いていたゲレナ・ヴァム・ルント、ハイント・グデルの両将軍に、二人が正にガミラスの運命を決する事を説いた。そして彼は、二人に命を預けるという表情で言った。(※61)

 “死力を尽くして戦いたまえ。死力を尽くしてだぞ――。”

 当時を回想するヴェルテは、その時の情景を脳裏に思い浮かべていた。目の前のホログラム上の戦いとそれが一つに重ね合わさる。二人は確かに、総統の言葉通り死力を尽くして戦った。ヴェルテがある種の感慨に浸(ひた)る間にも、ホログラム図の変化は続いていた。

(※61)文中の「ゲレナ・ヴァム・ルント」「ハイント・グデル」という人物名は、筆者がヤマト2199劇中の描写を基に創作した氏名である。(第11話でのエルク・ドメルとガル・ディッツの会話に「ルント」「グデル」という人名が出てくる。)

 ガミラスの空間機甲軍が脱出に成功した後、小マゼラン方面軍は敵と距離を保とうと後退しつつ、敵の側面に回り込むべくその前面を横切る機動を始めた。これを見たガトランティス軍の戦列は前進を止め、併走を始める。同航戦の態勢が明らかになった所で図の変化は停止した。(※図147参照)
ガトランティス軍とガデル・タラン 図147

 「…この状況を見てもらいたい。この時ガトランティス軍は、これ以上前進せずに同航戦を選択した。ここでもし彼らが同航戦を採らず前進していれば、小マゼラン方面軍は巨大な横隊戦列を回避できずに覆滅されていただろう。しかし彼らはそうせず、敢えて敵を生かしたとしか思えない行動を取った。何故なのか。おそらく彼らは、戦場に近づいている架空の総統の軍に挟撃されるのを嫌い、今対峙している敵軍の完全な撃滅を目指したのではないかと考えられる」

 感傷的な気分に浸るヴェルテの心根をあたかも打ち砕くように、ガデルはガミラス軍に有り得た破局を指摘した。

 「…詳細を説明しよう。容易に撃破できる敵を見逃したという点から、彼らは明らかに自軍の優勢を確信していた。しかし彼らは同時に、この時点ではまだ少なくない数の敵部隊が潜んでいる可能性を疑っていた。単純に眼前の敵を屠ったのでは、それらの覆滅は困難になる。敵は戦意を失い、それ以上戦力を投入しないからだ。兵力不明の総統の軍が迫る状況で、敵に挟撃可能な戦力が残る事は好ましくない。よって彼らは、“巨大な横隊戦列の火力と機動を以て敵に戦力の投入を強要する”という、彼ら本来の戦い方を採用したと推測される」

 ガトランティス軍の選択次第で会戦の勝敗は真逆になった事を、ガデルは用兵家の見地から解説した。

 諭すような語り口に、兄が再び緊張を取り戻す。その様子を見届けると、ガデルはホログラム図の変化を再開させた。

 同航戦に入ったガミラスとガトランティスの両軍が大規模な射撃の応酬を始める。程なくガトランティス軍の戦い方に変化が起きた。多数のガトランティス艦が千隻から数千隻の単位で大規模な集中射を始める。ガトランティスの“輪胴砲塔と副砲のシステム”の猛威がホログラム上で展開された。

 各艦が個別に戦う状態から集中射へ、集中射から個別に戦う状態へ、そして再び集中射へ。ガトランティス艦は砲撃態勢を瞬時に切り替え、目標を次々に変更、捕捉する。一つの集中射で数十隻のガミラス艦が失われ、ガミラスの戦列は櫛の歯が欠けるように消滅していく。被害の大きさにガミラスの戦列は艦同士の間隔を広げて散開した。(※図148及び図149参照)
ガトランティス軍とガデル・タラン 図148

ガトランティス軍とガデル・タラン 図149

 ガトランティス軍の統制された砲撃をガミラス軍が凌ぐ間に、ガトランティスの戦列から航空機を示す多数の記号が飛び出した。それらは自軍と併走を続ける敵戦列の“先頭”部分に突入する。すると突入を受けたガミラス軍部隊の隊列が渋滞し、戦列の進行速度が落ちていった。ガトランティス軍は思うように機動できない敵を追い越し、遂にはその前方へと回り込み始めた。ガミラスの戦列が半包囲の危機を迎えた所でホログラム図の変化は停止した。(※図150及び図151参照)
ガトランティス軍とガデル・タラン 図150

ガトランティス軍とガデル・タラン 図151

 「…ここまでの経過で彼らが見せた戦い方に注目してもらいたい。この時見られた彼らの射撃法と航空機運用、それらはこれまで述べてきたように、彼らの兵器システム本来の姿であったと考えられる。この戦いで小官が衝撃を受けたのは、我々と比べ劣っていると思われた彼らの装備が、巨大な規模の戦闘では我々を上回る効果を発揮したという事だ」

 これまで作戦論について語ってきたのと打って変わり、ガデルは彼我の装備の優劣について語り始めた。

 「…詳細を述べよう。
 まず射撃法であるが、彼らの“輪胴砲塔と副砲のシステム”は、兄さんの言う通り高コストであり、大侵攻以前の小規模な戦いでは大した威力も見られなかった。しかし大マゼランの会戦では、それは我々の行う集中射を(標的を次々と捕捉する)敏捷性と効率で凌駕した。この事から、我々は極めて大規模な射撃戦では彼らに劣勢となる事が明らかとなった。
宇宙戦艦ヤマト2199 1/1000 ナスカ級キスカ 次に航空機運用であるが、航空機はそもそも大侵攻以前の戦いでは、彼らの敗北の原因にすらなる代物だった。しかし大マゼランの会戦では、それは“敵の機動を妨害する”という点で我々の実体弾を上回る効果を発揮した。敵艦の近辺に長く留まれる航空機は、標的に短時間で突入する実体弾と比べ、より長時間敵の機動を妨げる事ができる。航空機が巨大な戦列に守られ安全に発進できる“会戦”では、それは我々の装備を凌駕する存在となった」

 ガミラス側の劣勢に言及し、ガデルは再度ホログラム図を変化させる。

 ガミラス軍の前方に回り込み、半包囲の態勢を敷いたガトランティス軍。彼らは第二戦列を投入し、ガミラス軍に強烈な圧力を加えて攻め立てた。ホログラムを見れば疑いようが無い。このままではガミラス軍は壊滅する。敵の攻勢に、ガミラス軍は実体弾の一斉射を放った。大量の実体弾がガトランティスの猛烈な砲火に消える。その間に、ガミラスの全ての艦艇が一斉回頭を行った。それらは最大戦速で後退しつつ、今まで進んでいたのと逆方向、敵の反対側側面に回り込もうと苦し紛れの機動を開始した。(※図152及び図153参照)
ガトランティス軍とガデル・タラン 図152

ガトランティス軍とガデル・タラン 図153

 死に物狂いで戦うガミラスの小マゼラン方面軍。その希望を打ち砕くように、ガトランティス軍は新たな戦力を投入した。ガトランティスの突撃縦隊がガミラス軍の進行方向近くにワープアウトする。それはガミラス軍を正面から叩き潰すように猛然と突進を開始した。全滅の危機に、小マゼラン方面軍はたまらず戦場を離脱していた空間機甲軍を投入する。空間機甲軍は突撃縦隊の近傍にワープアウトすると、その側面にあらん限りの砲撃を加えた。突撃縦隊の突進速度が鈍る。その隙に散開状態だったガミラスの戦列は上下方向へ更に散開し、突撃縦隊の突撃をかろうじてかわす態勢となった。(※図154及び図155参照)
ガトランティス軍とガデル・タラン 図154

ガトランティス軍とガデル・タラン 図155

 ガデルはホログラム図の変化を停止すると、ガトランティスの大型艦艇について言及を始めた。

 「この時兄さんが目撃したように、ガトランティス軍は小マゼラン方面軍を覆滅できる“戦いの焦点”となった後退針路付近に突撃縦隊を投入した。小マゼラン方面軍は敵の大型艦部隊の攻撃を撃退できず、ただその突進を鈍らせる事しかできなかった。彼らにとって幸いだったのは、攻撃を受けた時点で既に広く散開していた為、最初の被害が限定的で済んだという事だろう。もしそうでなければ彼らの戦列は壊滅的な損害を出して崩壊していたであろうし、総統の作戦も破綻していただろう。小マゼランの会戦と同じ破局を迎えなかったのは、ひとえに僥倖と言うべきである。
 突撃縦隊、特にその先頭の大型艦部隊を撃破できなければガトランティスとの会戦を戦えない。そして従来の我が軍には、それを可能にする装備も、方策さえも無かった。それがこの会戦によって疑問の余地無く明瞭となった」

 かつてガデルが構築し、輝かしい成功を収めた従来のガミラス軍のシステム。それがこの時完全に息の根を止められた。その瞬間を語るガデルの苦悶に満ちた表情は、ヴェルテには一人の人間が発する断末魔の叫びのように思われた。

 「…かくして、ガトランティス軍はそのシステムにより小マゼラン方面軍の全ての戦力を戦場に引きずり出した。後は兄さんが目撃した通りである。ガトランティス軍は全戦力を空間跳躍で投入し、小マゼラン方面軍の包囲殲滅を図った」

 大マゼランの会戦のその後の展開について語ると、ガデルはホログラム図を変化させた。

 後退を続けるガミラス軍の戦列が突撃縦隊の突進をかろうじて回避する。突撃縦隊はガトランティス軍の戦列に踊り込む様に合流すると隊列を解き、味方戦列と共にガミラス軍に追いすがる態勢となった。その直後、ガトランティスの大部隊が立て続けにワープアウトした。ガトランティス軍戦列から見て斜め方向へ退く敵に対し、まず数千隻がその針路を塞ぐように現れる。続いて一万隻が味方戦列と敵を挟撃できる位置に現れ、敵の退路を完全に遮断した。(※図156及び図157、動画13-1及び動画13-2参照)

 ガトランティス軍による完全な包囲が成される正にその寸前でホログラム図は停止し、ガデルが解説を再開した。

 「ここで彼ら(ガトランティス軍)は、度重なる攻撃で敵に戦力の全てを投入させたと誤認し、一気に敵の覆滅を図ったと推測される。この図の直後に総統の軍は(控えていた)銀河系方面軍と基幹艦隊をゲシュタムジャンプで投入し、ガトランティス軍を逆包囲した。小マゼランの会戦と異なり、この時の包囲はガトランティス軍を全滅に追い込む事に成功した。そうなったのは次の要因があったからだと考えられる。
 第一に、ガトランティス軍は包囲を完成した時点で総突撃を行い、隊列を崩していた。
 第二に、彼らは既に第二戦列を投入していた為、球形陣に組み替える為の空間が存在しなかった。
 そして第三に、予備兵力を全て投入した結果、彼らは敵の包囲を外側から粉砕する事ができなかった。
 これらの要因により、ガトランティス軍は包囲に対処できなかったと考えられる。ガトランティス軍は勝利を確信して隊列を崩し、予期せぬ敵の大軍に為す術無く恐慌状態に陥った。そしてどうにか脱出しようと包囲を解いた結果戦列が崩壊し、全軍の破局に至った。そのように小官は推測している」

 会戦の最終局面、ガミラスの包囲をガデルは図に表す事無く言及した。あたかも先を急ぐかのように、彼は大マゼランの会戦について総括を始める。

 「以上が、小官から見た大マゼランの会戦の顛末である。会戦の勝利により我々は滅亡を免れ、軍とシステムの再構築を行う時間を得る事ができた。しかしこの勝利は繰り返し述べてきたように、いくつもの特殊な状況と幸運によって得られたものである。もしガトランティス軍が史実と異なる選択をしていたなら、戦いは真逆の結果となっていただろう。彼らが同航戦を行わなければ小マゼラン方面軍は全滅していたであろうし、最後に数千隻でも予備兵力を残しておけば総統の包囲は失敗していただろう。包囲は打ち破られ、ガトランティス軍は恐慌に陥る事無く反撃に転じ、総統の軍は逆に壊滅に追い込まれたと考えられる」

 ガミラスの勝利が必然ではなく多分に偶然の産物である事をガデルは強調した。この戦いで焦点とすべきは何か。彼は冷徹な口調で言及していく。

 「…従って、我々はこの戦いについて、計略で勝利した事よりもシステムの全ての要素で劣勢となった事実にこそ目を向けるべきだろう。計略による戦いは勝利した状況を次に再現できないが、システムによる戦いはそれが可能であるからだ。会戦の経過を改めて想起されたい。総統の軍は、次には決して起きないであろう僥倖に依らねば勝利する事ができなかった。一方ガトランティス軍は、度重なる誤謬を犯さなければ勝利する事ができた。次に戦えば、彼らは戦場で望む状況を再現し、おそらくは勝利できるだろう。
 我々は、計略ではなくシステムによって勝利する事を目指さなければならない。大マゼランの会戦によって、従来の我が軍のシステムは会戦という新たな戦場の様相に対応できない事が明らかとなった。システムを如何に再構築するか。来たる戦争に向け、小官と参謀本部は厳しい課題を突き付けられる事となった」

 戦争とは本来、科学の実験のように再現性のある勝利を追求するのが常道である。軍事テクノクラートとして“科学的な戦争”のあり方をヴェルテに示し、ガデルは大マゼランの会戦の総括を終えた。(※62)

メカコレクション宇宙戦艦ヤマト2199 No.05 デウスーラII世
(※62)会戦でデスラーが仕掛けた最後の包囲と小マゼラン方面軍のその後、そして大マゼランにおける戦いの顛末の詳細については、後日執筆を行う「デスラーズ・ウォー」にて言及する予定である。

 会戦について語り終えたガデルは、大きく息をついて話を小休止した。質問する事も無く話を聴いていた兄の表情を窺う。ヴェルテは彼から視線を離し、ホログラムボードのある辺りへと視線を泳がせた。徐(おもむろ)に思案を始める。会戦の立体ホログラムを見つめるその表情からは、時折見せていた感傷的な気分と感慨の一切が消えて無くなっていた。

 デスラーの計略によって得られた大マゼランの会戦の勝利。幸運にも功を奏したが、これは何度もできる戦い方ではないし行ってはならない。弟からの数々の指摘によって、ヴェルテはこの戦いが全くの薄氷の勝利であった事を再認識し、戦慄した。ガトランティス軍が後ほんの少しでも用心していれば、或いは単純に力押しで攻め立てていればデスラー軍は敗滅していた。そして自分も弟も、今決して生きてはいなかっただろう。久方ぶりに戦いの恐ろしさを実感したヴェルテは、やがて視線を立体ホログラムから弟の方へと戻す。そして弟に講義の続きを促した。

 兄が感傷的な思い出から恐るべき現実の戦争の世界へと立ち返ったのを確認すると、ガデルは今夜の講義の第三項目、「ガトランティスによる戦争の変化」の最後の纏めに入っていった。

 「以上、ここまでは第三の話題、『ガトランティスによる戦争の変化』について、古代から現代までを俯瞰した解説を試みた。何故現代だけではなく、古代にまで言及を行ったのか。それは我々の直面した戦争の変化が、古代末期に匹敵する一大変化であり、古代との比較無しにはその性格を理解し難いからである。今を理解するのに、我々はまさしく歴史の学術的知見を必要としたのだ。
 ガトランティスによってもたらされた、“現代の機動戦の凋落と火力戦の復権”。一方、古代における火力戦の衰退と機動戦の台頭。一見真逆な両者には、ある一つの共通項が存在する。それは、次のような法則が見られるという事である。
 一つ、戦いの様式が要求する“論理”は、やがてその様式自体を衰退させる一大要因となる
 二つ、ある戦いの様式で成功したシステムは、その成功を支えた要因自体がシステムの凋落の原因になる
 小官が愚考した二つの法則を基に、古代と現代、それぞれの説明を試みよう」

 何故ガトランティスの大侵攻のみを語らずに古代の戦争史から話を始めたのか。その理由をガデルは兄に明かした。戦争には古代から現代まで通底する戦いの、ひいてはシステムの法則が存在する。大侵攻以来思索を重ねてきたであろう弟の言葉に、ヴェルテは全ての注意を傾け聞き入る姿勢を見せた。

1/1000 国連宇宙海軍 連合宇宙艦隊セット2 (宇宙戦艦ヤマト2199) 「…まず古代であるが、古代の火力戦について述べたくだりを思い返してもらいたい。古代の火力戦は、艦首砲の発達で火力を増大させた結果、その有効利用の為、或いは被害を低減する為に機動性が求められる事となった。この火力戦特有の“論理”は、後に機動戦を生み出し火力戦そのものを衰退させる遠因となった。戦いの様式としての火力戦は、言わば自身の中に衰亡へと繋がる因子を最初から孕んでいたのだ。
 そして古代の覇者であるイスカンダル帝国は、最強の火砲たる波動砲を擁し、火力を生かす機動の手法を確立した事で古代の火力戦最大の成功者となった。しかし彼らのシステムは、低出力系統波動エンジンを用い機動のみに特化して戦う機動戦に敗れ去った。高コストでエネルギー消費の嵩む艦首砲を装備する故に、数を揃える事ができず機動性でも大きく差をつけられたからだ。『艦首砲と機動』という彼らの成功を支えた要因は、最終的に彼らの没落の原因へと転化した。
 こうした古代の出来事と同じ現象が、今の時代にも起きたと考えられる」

 古代の戦争史への新たな見解を示し、ガデルは現代へと話を進める。

 「…我々の生きる現代に目を向けよう。現代において、機動戦は高速で機動する敵を捕捉する為、或いは包囲を行う為に数を揃える事が求められた。この機動戦特有の“論理”は、最終的に我々のような巨大な軍隊を現出させ、更には我々やガトランティスと言った、統一帝国同士による戦争という形で戦いの規模そのものを巨大化させた。こうして生まれた会戦という新たな戦いの世界で、機動戦の手法が尽く有効性を失ったのはこれまで述べて来た通りである。古代の火力戦と同様、機動戦も又、自身の中に衰亡へと繋がる因子を孕んでいたと言えるのではないだろうか。
 そして現代の覇者である我々は、火力に優れるが高コストで鈍重な航宙戦闘艦の配備を制限し、高機動かつ軽武装の艦艇から成る大規模艦隊を編成する事で機動戦の最終的な勝者となった。しかし我々のシステムは、我々同様に巨大な兵力を動員できるガトランティスの火力戦に敗れ去った。彼我の兵力の巨大化で我が軍の機動と包囲が無効化し、火力の欠如の為、敵の巨大戦列や大型艦部隊を撃破する事ができなかったからだ。『数と機動力』という我々の成功を支えた要因は、最終的に我々の敗北の原因へと転化したと言えるだろう。
 結論として我々は、古代に起きたのと同じ過程を経て、言わば“世界の崩壊と逆転”を経験する事となったのだ」

 古代と現代、それぞれに起きた戦争のパラダイムシフト。その発生のメカニズムについて、ガデルは彼独自の見解を示した。時代を支配する戦争の様式とシステムそれ自体が、次の時代へ向かうパラダイムシフトを準備し引き起こす。新たな歴史観の提示にまで踏み込んだガデルの話は、結語へと向かっていった。

 「…それでは、こうした戦争史の認識を基に、我々は何を目指すべきであるのか。来たるガトランティスとの戦争に向け、軍とシステムの再構築を迫られた我々は、歴史から何を学ぶべきなのか。
 一つ確実に言えるのは、我々は過去の成功体験を棄てねばならないという事だろう。戦争の一大変化により、従来の我が軍を成功させた要因は、今や強みではなく敗北の原因へと転化した。これ以上従来の方法論に依る事は、古代イスカンダル帝国や戦乱の時代に火力戦を試みた者達と同様、滅びに繋がる道となろう。世界が逆転し、過去の成功も参考にできない我々は、名誉も矜持も捨ててあらゆるものを見直す事を迫られた。過去の事物で我々が失敗と見做した事、価値が無いと見ていた物も、我々は再評価していかねばならなくなったのだ。小官にとって、そうした物の筆頭が波動砲であった。
 古代に廃れ、無用の存在として省みられる事の無かった波動砲と火力戦のシステム。それを小官と参謀本部がどのように再評価し、ガトランティスに対抗し得る新たなシステムとして蘇らせたのか。次の第四の話題では、その全貌について話す事となるだろう」

宇宙戦艦ヤマト2199公式設定資料集[Earth] 最後に自らが波動砲に注目するに至った経緯を述べ、ガデルは今夜の講義の第三項目、「ガトランティスによる戦争の変化」の総括を終えた。

 ガトランティスとの戦争を語るに留まらず、俯瞰的な視点で古代と現代を何度も往復する思想性の高い論考だった。総括を聴き終えたヴェルテは、顎の辺りに手を沿え考える姿勢をとった。少しの時間の後、徐(おもむろ)に弟の方を向き、口を開く。

 「ガデル、質問しても良いか。…お前は話の最初の方で、火力戦から機動戦への移行は歴史的必然だったと言っていたな。ならば、現代の機動戦の凋落も歴史的必然なのか?我々がかつて蒙った敗北は、起こるべくして起きた事だと考えているのか?」

 「…身を焼かれるような質問だ」

 兄の問い掛けにガデルは一瞬視線を揺らし、苦悶の表情を浮かべて言った。

 「如何なる事情であれ、ガトランティスに大敗北を喫した責任は小官と参謀本部にある。まずそれは明確にしておかねばならない」

 敗北の責任を明言し、言葉を続ける。

 「その上で言わせて頂こう。最初の質問だが、機動戦の凋落もおそらくは歴史的必然なのだろう。先程も述べたように、機動戦の論理は最終的に巨大な軍隊を生み出し、統一帝国同士の巨大な戦争という状況をもたらした。そこで機動戦のシステムが敗れた以上、それに歴史的な必然性を見出すのは論理的であると小官は考える。
 そして二番目の質問だが、従来の我が軍が負けるべくして負けたという事は認めざるを得ない。例えば、大侵攻以前の我々参謀本部は、従来の兵器システムに変更を加える必要性を全く認めていなかった。我々は自らを言わば、戦いの進化の最終形態であると自認し、事実打ち続く勝利にすっかり安堵してしまっていたのだ。今から思えば、我々は未来において戦争が巨大化する可能性、もしそうなった場合に自軍のシステムがどうなるかについて、真剣に考えておくべきだった。ガトランティスが大軍を擁しているという推測は、実は当時参謀本部内でも一部で唱えられていたのだ。
 現状に慢心し将来に備えなかった我が軍が敗北したのは、結果論であるが当然であった」

 悲痛ささえ滲ませた弟の悔悟の言葉を聴き終えると、ヴェルテは少しの時間、弟の表情を見つめ慌ただしい様子で考えを巡らせた。

 弟がかつての大敗北で如何に苦悩していたか。それをこの講義で知る事ができた。ガトランティスの大侵攻以前、あれ程栄光の極みにあった弟が、やがてヤマトのバレラス襲来を許し、ガトランティスに大敗北を喫し、果ては総統の計略に翻弄される屈辱を味わった。何故このような事になってしまったのか。弟は己の知見を全て用い、ずっと理由を探し続けていたのだろう。弟の顔を見つめるヴェルテは、今更ながらに胸が痛む感触を覚えたのだった。

劇場版『宇宙戦艦ヤマト2199 星巡る方舟』オリジナル・サウンドトラック しかし、問題はこれからである。弟は総統が復権して以降、軍を再建する過程で波動砲の実戦配備に邁進していった。総統に波動砲艦隊の整備を提言し、自分には総統との連名で波動砲搭載艦である親衛艦の開発と生産を依頼したのである。元来波動砲に冷淡であった彼がそうするに至った経緯は、これまでの講義で十分に語り尽くされた。次はその結果について語られる番であった。弟は果たして、波動砲でどのように戦うつもりでいるのか。

 宇宙を引き裂く危険性を有し、古代イスカンダル帝国の末期に一大惨劇をもたらしたとされる波動砲。史上最強の火砲でありながら、戦争の発達の前に命脈を絶たれ姿を消した波動砲。ガミラスにとって、それは長らく存在すら忘れられた歴史的遺物に過ぎない代物だった。誰も訪れない歴史の倉庫からそれを持ち出し、弟は如何なる戦いのシステムを新たに作り上げたのだろうか。

 ガトランティスの大侵攻から五年余り。彼らとの恐るべき戦争を前にして、苦悩と思索を重ねた弟の試みが実り多きものである事を、ヴェルテは心より願ったのだった。

 「…話はよく分かった。それではガデル、講義を次に進めてくれ」

 「では、講義を再開しよう。これより第四の話題、『我が軍の新たなシステム』について解説する」

 関わる者全てに数奇な運命をもたらす宿業の兵器、波動砲。

 それに対し、ガミラスの出した答えは何か。

 兄の求めに応え、ガデルは今夜の講義の第四項目について話し始めた。

(「ガミラス第二帝国の戦争準備  ガトランティス軍とガデル・タラン(その4)」につづく)

宇宙戦艦ヤマト2199 COMPLETE WORKS-全記録集- Vol.1&2BOX宇宙戦艦ヤマト2199』  [あ行][テレビ]
総監督・シリーズ構成/出渕裕  原作/西崎義展
チーフディレクター/榎本明広  キャラクターデザイン/結城信輝
音楽/宮川彬良、宮川泰
出演/山寺宏一 井上喜久子 菅生隆之 小野大輔 鈴村健一 桑島法子 大塚芳忠 麦人 千葉繁 田中理恵 久川綾
日本公開/2012年4月7日
ジャンル/[SF] [アドベンチャー] [戦争]
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【theme : 宇宙戦艦ヤマト2199
【genre : アニメ・コミック

tag : 出渕裕 西崎義展 菅生隆之 小野大輔 諏訪部順一 中村繪里子 近木裕哉 園崎未恵 大塚芳忠 大友龍三郎

⇒comment

ナドレックさん、T.Nさん

ガミラス第二帝国物語の再開、じっくり読ませていただきました。
銀河方面から舞い戻ったデスラーがデスラー砲なしで、どのようにしてガトランティスを追い払ったのか興味がありましたが、いかにもデスラーらしいやり方で妙に嬉しくなりました。
詳細の公開を期待しています。

ガトランティスはガミラスの超空間通信を盗聴していたとありますが、それなら何故ガトランティスは小マゼランに中途半端な侵入を繰り返したのでしょうか?
威力偵察であった可能性が低いということは、ガトランティスは情報を得ているにも拘らず、ガミラスを侮っていたのでしょうか?

余談ですか……
「イスカンダル」はギリシャ語源で「人類の守護者」という意味があります。
こちらの方がイスカンダル星のイメージに合うと思うのですが、ヤマトにおけるイスカンダルの命名者がこの点に言及していないのが残念です。

感想のお礼と疑問について

Pinさん

T.Nです。

 文章を読んで頂き、ありがとうございます。

 成功した巨大軍隊の参謀次長がいかにも語りそうな内容を考えるのが非常に難しかった上に、欲を出して大量の図像と動画まで作ったので記事を公開できるまで3年もかかってしまいました。非常に申し訳なく思っています。

 参謀次長のガデルの立場に立って考えてみると、彼は現実世界の用兵理論家達(ジョン・F・フラーやミハイル・トハチェフスキー、ハインツ・グデーリアン等)が行ったのと同様に、戦争史の分析から戦いで考慮すべき原則を導き出し自らの用兵理論を構築していくと考えられます。なのでガデルが自身の考案した用兵システムを語る次の記事は、これまで彼が語ってきた話を土台にする更に高度な内容になる筈であり、今までで最も執筆の難易度の高い記事になるのではないかと考えています。

 宇宙を引き裂く危険性を有し、非常に厳しい使用上の制約のある波動砲をどのように使うのか。かつて戦いを決定づける決戦兵器として用いられ、時代遅れの役立たずとなって廃れてしまった波動砲をどのように現代の状況に適合するよう翻案して使用するのか。

 立体空間の戦いに最適化した、即ち地球上の戦いではありえない隊形や運用がいろいろ出てくるので、おそらく図像無しには表現が困難な内容になると思っています。私自身の文才の限界であまりに更新速度が遅いので、たぶん描き易いであろう別の記事と同時並行して執筆する事を考えています。




>銀河方面から舞い戻ったデスラーがデスラー砲なしで、どのようにしてガトランティスを追い払ったのか


 ガデルがこれから語る波動砲(デスラー砲)を用いたシステムでは、波動砲はそれで戦いを決定づける決戦兵器にはならないと想定しています。ガデルのシステムにおいて波動砲は確かに重要な役割を担うのですが、敵撃滅の主役となるのはあくまで波動砲を持たない通常艦艇であり、波動砲搭載艦はその支援兵器に留まるとしています。その意味でガデルのシステムは、波動砲について多くの人が考えるであろう運用とは著しく異なるものになると思います。

 元々この考察記事のシリーズは、「波動砲が本当に凄い兵器なら、何故ガミラスも他の種族も波動砲を持っていないのか」について考える事から出発しました。古代イスカンダル帝国の昔から西暦2200年代に至るまで、ガミラスをはじめとする諸種族は当然のことながら、波動砲を作る時間も頭脳も科学技術も持ちえたであろうと考えられます。にも関わらず、何故誰も使っていないのか。結局現実世界の歴史と同じく、「いくら破壊力の大きな兵器でもそれだけでは戦いに勝てない」という法則を再確認する方向で論考が進んでいきました。この事は奇しくも、波動砲の実戦配備へ突き進むであろう地球に非常に暗い未来が待っている事を暗示させます。

 波動砲を古代イスカンダル帝国の如く戦場を支配する決戦兵器と仰ぐ地球は、果たしてどのような運命を辿るのか。ガミラスとの戦争によって地上の工業と農業が絶滅してしまったヤマト2199の地球は、コスモリバースで地球環境が回復しても深刻な日用品不足と食糧不足に直面すると考えられます。したがって私は思考実験小説内での地球の状況を次のように想定しています。

 ──ガミラスの再侵略に怯える地球は、市民が貧窮と飢餓にあえぐのを余所に残された資源の全てを再軍備へと振り向ける。それも来(きた)る戦争で役に立つかはなはだ疑わしい決戦兵器(波動砲艦)の造成に。

 つまるところ、地球はかつて国を傾けてもはや戦力として怪しい戦艦大和を建造した大日本帝国とよく似た状況になるのではないかと私個人は考えています。そうした中でガミラスの軍事力を実体験で知っているヤマトの古代や真田は、おそらく次のように主張するのではないでしょうか。

 ──もし戦争になれば地球に勝つ見込みは無い。地球は目先の軍備に波動エネルギーを使うのではなく、百年の大計を立て、今目の前で飢えている人々のために波動エネルギーを使うべきだ。

 さながら大日本帝国における山本五十六のような立場に二人は立たされるのではないでしょうか。再軍備の狂気に陥っていく地球と、ヤマト2でのセリフのように「地球は本当に、救われてよかったのか」と苦悩する古代と真田の姿を思考実験小説でゆくゆくは描写したいと考えています。




>ガトランティスはガミラスの超空間通信を盗聴していたとありますが、それなら何故ガトランティスは小マゼランに中途半端な侵入を繰り返したのでしょうか?
威力偵察であった可能性が低いということは、ガトランティスは情報を得ているにも拘らず、ガミラスを侮っていたのでしょうか?


 この疑問については、ガトランティスの国制が大きく関係していると想定しています。なので、ここではまず先にガトランティスの姿について述べてから、疑問に答えるという形を取りたいと思います。

 最初に、この思考実験小説ではガトランティスの国家形態を次のように想定しています。

 ──ガトランティスは都市船団を擁し宇宙を漂流し続ける諸部族の連合体である。

 このように考えている理由は次のようなものです。



 (理由1)
 ズォーダーのいる都市要塞がいくら巨大でも、それ単体では二つの島宇宙を支配する巨大軍事国家のガミラスに対抗できるだけの人的資源を賄えない。


 少なくとも数十の有人惑星と、おそらくは数百億の人間を擁するあろうガミラス帝国に対抗するに足る人的資源がガトランティスにあるとすると、果たしてその人間達はどこに住んでいるのでしょうか? また、ヤマト2199のテーマに即しガトランティス人にも地球人と同じく家族や民間人がいると想定した場合、戦闘員をはるかに人数で上回るそれらは果たして皆都市要塞の中だけで暮らしていけるのでしょうか? さらに、国家としてのガトランティスには、膨大にいるであろう奴隷達にあてがう住居を一体どうしているのかという問題も存在します。

 原作に即して考えてみた場合、例えばヤマト2第3話のナレーションでは次のような解説が出てきます。

 ――大宇宙の覇者を以て任じる彗星帝国ガトランティスは、アンドロメダ大星雲を制圧し、銀河系宇宙にその魔の手を伸ばさんとしていたのだ。彗星要塞の超重力は邪魔な星々を飲み込み、文明と資源を持つ豊かな星は悪魔のようなその前衛艦隊によって踏みにじられ、破壊され、住民は奴隷化されていた。

 ナレーションから判断する限り、ガトランティスは多数の星を破壊しそこに住んでいた膨大な数の人間を奴隷としてどこかに住まわせていることになります。端的に言って、彼らを住まわせるには都市要塞は狭すぎるし何より彼らは戦闘の邪魔になるのではないでしょうか。

 奴隷の問題を横に置いとくとしても、ガトランティスが何世代にもわたって膨大な(クローンではない、ヤマトらしく実に人間臭い)兵士を賄うには、最低限その家族達が次世代の兵士を産み育てられる程度に快適な環境を用意する必要があります。人心を癒す庭園が要るし、農場も牧場も更には科学技術や文化の維持発展に不可欠な博物館や研究施設も必要になります。それらすべてを都市要塞内だけで用意するのは、さすがに苦しいのではないでしょうか。

 こうした事から、私はガトランティスについて、「ガトランティスには都市要塞以外にも巨大な住居船や庭園船、農場船や牧畜船さらにはドック船や研究船までもが存在しており、それらは都市船団を形成している」と思考実験小説において想定しています。



 (理由2)
 資料と映像におけるゴラン・ダガームと、その一党の描写。


 映画「星巡る方舟」では、ゴラン・ダガームとその一党がメガルーダの艦橋にて「ダガームに勝利を! 一族に栄光を!」と気勢を上げるシーンが出てきます。このセリフからは、ダガーム達が「一族」とみなす人々をメガルーダ或いはその艦隊に同乗させている事を伺えます。さらに、「ヤマト2199全記録集vol.3」ではダガームについて次のような解説が出てきます。

 ──帝星ガトランティス・グタバ方面大都督。二つ名は〈雷鳴(らいめい)〉。重戦艦メガルーダに座乗する小マゼラン(グタバ)銀河遠征軍司令官。大帝より静謐の星探索の命を受け、一隊を率いて弱体化したガミラス防衛線を突破、大マゼラン銀河に侵入してきた。出自は卑しい身分だったが宙族の頭目として頭角を表し、国民遊撃団扱いで暴れていたところが大帝の目にとまり、直参の戦士として取り立てられた。

 解説で述べられたダガームの経歴は、歴史に類例を求めるとマムルークやコサック、中国史における無数の遊牧民出身兵(※三国志の烏桓とかが有名でしょうか。)と非常によく似ています。彼らはまさに周囲の人々から賊扱いされた人々であり、略奪と戦いに明け暮れ、周囲の国から遊撃部隊に組み込まれたり王直属の軍団兵となったりしていたからです。したがってダガームとその一党は、地球の歴史に照らし合わせて考えると遊牧民のように「一族郎党で漂流民の船団を作り、略奪と戦いに明け暮れる」半生を送っていたと想像することができるのではないでしょうか。



 (理由3)
 ヤマト2199の資料に記された、「諸侯」の存在。


 「ヤマト2199全記録集vol.3」では、シファル・サーベラーについて次のような解説が出てきます。

 ──帝星ガトランティス丞相。二つ名は〈白銀(しろがね)〉。大帝の寵愛を受け帝国丞相に登り詰めたと噂されている妖しい美貌の女性官吏。政治面で大帝を補佐し、諸侯の頂点に立って権力を振るう。

 解説を見る限り、ヤマト2199のガトランティスには「諸侯」と呼ばれる人々の存在が想定されていたと判ります。この諸侯達はどこかの銀河の惑星に領地を持っているのでしょうか? 原作(ヤマト2)の描写を考慮すると、その可能性は低いように思われます。「もしそうなら大領地を持っているであろうズォーダー大帝は何故、自分の領地を放置してわざわざとんでもない辺境の田舎惑星たる地球に自らやって来たのか」という疑問が生じるからです。また、ヤマト2第17話におけるズォーダーの発言、

 「──旅はわが先祖の遺志。過去から未来永劫へと続くガトランティスの心だ。やめるわけにはいかぬ」
 「──この宇宙は我がガトランティスの遠大な旅のためにある。全宇宙は我が故郷(ふるさと)」

 を見ると、ズォーダー達は先祖代々宇宙の旅を続けているように解釈できます。大帝と諸侯達は、地上の領土を放置して旅をずっと続けているのでしょうか…? 原作(ヤマト2)の描写を考慮すると、大帝と諸侯は元来、惑星上に領地を持たず永遠に放浪を続ける人々であると考えるのが自然であるように思われます。

 このようにガトランティスを「船に乗って宇宙をさまよう人々」であると想定すると、彼らの謎の行動のいくつかを説明する事ができます。例えば、彼らは進行途上にある星を破壊して回っていますが、何故このような馬鹿げた事をするのでしょうか。開拓して領地にすれば良いのに。それは彼らがそもそも、惑星上に住むこと自体に価値を認めていないからではないでしょうか。そしてズォーダーが自ら地球くんだりにまでやって来るのも、彼らが“本土となる惑星”を持っていないからだと考えれば、その奇妙な行動を無理なく理解できるのではないでしょうか。

 では、ガトランティスが惑星上に住まない人々であるとすると、諸侯達は都市要塞に住んでいるのでしょうか?  それは考えにくいように思われます。諸侯達はそれぞれ都市要塞の一角を占拠して「領地」と称しているという奇妙な状態になってしまうからです。彼らはやはり、大帝が都市要塞を持つのと同じく、自らの“領地”となる船ないし船団を有していると考えるべきではないでしょうか。

 以上の事から、私はガトランティスについて、「惑星に定住しておらず、惑星上に領地も持たない。諸侯達はそれぞれ自らの“領地”となる船ないし船団を有している」という想定を行っています。



 (理由4)
 無補給航行の可能なエンジンによる、定住しない生活様式の可能性。


 ヤマト2199の世界には、波動エンジンを代表とする「無補給航行の可能なエンジン」と、オムシスのように半永久的に稼働する食料プラントの二つが存在します。こうした技術が存在する世界では、「惑星に定住せず永遠に船で暮らす」人々が必ず一定の割合で存在するだろうと私個人は考えています。

 ここで例えば、キャプテン・ハーロックを例にして考えてみましょう。良く知られるように、ハーロックはどの国にも属さないアウトローであり、宇宙をさすらい自由を謳歌する義賊の一団です。彼らは果たして、宇宙を永遠にさすらい続けるのでしょうか? 物語上の彼らは若く、将来の人生設計など欠片も考えないであろう無頼漢ですが、それでも長い人生の間に伴侶を得て家族ができて、やがて村なり町なりを形成できるまでに人数が増えた場合、彼らはどうするのでしょうか?

 どこか地上に安住の地を見出すのか? それとも船団を作り未来永劫自由に宇宙をさすらうのか?

 ヤマト2199の世界でハーロックのようなアウトローの一団がいた場合、彼らには未来永劫自由に宇宙をさすらう選択肢があり得ます。「無補給航行可能なエンジン」と「半永久的に稼働する食料プラント」の二つが技術的に可能だからです。自由を謳歌する義賊の一団が、土地に縛られる生涯を嫌い船団を自らの独立王国と成し宇宙を自由に旅して生きていく道を選ぶ。ガトランティス人とはそのような人々の遥か遠い子孫なのではないかと私は想像しています。宇宙をさすらう決断を下した人々が世代を重ね、やがて部族と言ってもよい集団を形成できるまでに人数が増える。そして同じように生きる他の部族を糾合して国家としての形式を整え、古今の国々と同様に侵略や破壊を行うようになりついには漂流民の一大帝国を形成するに至る。これがガトランティスの姿であると想像する事もできるのではないでしょうか。



 以上、これまでに挙げた四つの理由により、私は思考実験小説におけるガトランティスの国家形態を、「都市船団を擁する漂流民の部族の連合体」であると想定しています。

 このような国家とそこに住む人々は、歴史上の遊牧民とよく似たメンタリティーと行動様式をとると考えられます。農耕民のような毎日代わり映えのしない定住生活を好まず、旅のごとき自由な移動生活を繰り返す。土地を中心に集団が結集するのではなく、傑出した資質を持つ統率者の権威によって結集する。生活に必要な資材(住居や道具の材料など)を得るのにしばしば略奪が必要とされ、資源の配分を巡るトラブルが絶えない。トラブルの調停がうまくいかないとたちまち集団が分解してしまうが、一度(ひとたび)傑出した資質を持つ裁定者が現れるとその者は多数の部族を心服させて巨大な連合体を形成し、その軍事力を率いて略奪遠征に出発する。

 旧作ヤマトシリーズ、特にヤマト2においてズォーダー大帝は次のような言葉を残していますが、それらは見方によっては実に遊牧民の指導者(可汗・単于)らしい言葉であるように私には思われます。


 「──旅は我が先祖の遺志。過去から未来永劫へと続くガトランティスの心だ。やめるわけにはいかぬ」
 「──この宇宙は我がガトランティスの遠大な旅のためにある。全宇宙は我が故郷(ふるさと)」
 「──宇宙の秩序は力によって築かれる。それは法によってのみ保たれる。その法とは私なのだ。この私の力こそが、全宇宙に調和と秩序をもたらすのだ」


 前置きが長くなりましたが、それではPinさんから頂いた最初の疑問に立ち返りましょう。思考実験小説において、大侵攻以前のガトランティスは、何故中途半端な侵入を繰り返したのか。

 歴史上の遊牧帝国のような漂流民諸部族の連合体であるガトランティスは、中央アジア及び東アジアの歴史になぞらえて言うなら次のような状況であったと想定しています。

 ――大侵攻(入寇)以前のガトランティスは、大小マゼラン銀河(南)の帝国と接触した漂流民(遊牧民)の部族たちがそれぞれ思い思いに彼らの日常生活の一部である略奪行を行う段階に留まっていた。

 王朝時代の中国の北辺では、中華帝国と遊牧帝国の戦争以外にも遊牧帝国に属する大小雑多な部族たちの略奪行が無数に行われてきましたが、ヤマト2199本編の時点での大小マゼラン銀河はそれと同じ状態であったとしています。「漂流民の可汗」たるズォーダー大帝は、ガトランティス諸部の部族達が大小マゼラン銀河に到達した際、当初彼らの要求通り彼らが好きに略奪行を行うに任せていた。この略奪行がドメル将軍をはじめとするガミラス軍の反撃でことごとく撃退され、やがてヤマトのバレラス突入に端を発するガミラス帝国の混乱が始まり、機を捉えた大帝が断を下し遂には

 「可汗(大帝)の号令の下、傘下の諸部族が組織化された軍団となって南方(ガミラス)へ向け一斉に進撃を開始する」

という、(まるで五胡十六国時代のような)ガトランティスの大侵攻へと事態が立ち至ったと思考実験小説では想定しています。

 尚、Pinさんが疑問で書かれているように「ガトランティス側が当初、ガミラスを甘く見ていた」のは大いにあり得る事です。ガトランティスの軍団は(これまでの記事で書いてきたように)独自の歴史を経て発達を遂げた軍隊であり、特に大型艦艇や航空機、機動性に富む横隊戦列といった諸兵科を高度に組み合わせるシステムは、彼らをして常勝の軍団たらしめていたと想像する事もできるでしょう。その意味において、大侵攻以前の戦いでガトランティス軍を破り続けたガミラスは、彼らが本当に久しぶりに遭遇した強敵であったと言えます。

 では、ガトランティスは盗聴で得た情報を大侵攻以前の戦いで活用しなかったのか? 実はこれについて、後日執筆予定のデスラーズ・ウォーではある場面を想定しています。

 ガミラス銀河系方面軍が大マゼラン銀河へ向かう途上、デスラーからガトランティスの盗聴の可能性を告げられたヴェルテは彼にこう述べます。

 ――もし彼らがガミラスの通信を盗聴していたのなら、彼らは今までの(小マゼラン銀河の)戦いで容易に勝利していた筈だ。なぜ彼らは負け続けたのか?

 これに対しデスラーは次のように答えます。

 ――暗号の解読に成功したのがごく最近の事だったのか、或いは盗聴の事実を我々に悟られないよう敢えて(情報を)用いなかったのか。これから仕掛ける大規模な戦争のために、敢えて用心していたという事だよ。

 大マゼランの会戦以前のデスラー達の立場に立って考えると、彼らにとってガトランティスの盗聴はあくまで状況から推論した仮説であり、確定情報ではありません。デスラーとヴェルテ、二人の乗るガイデロール級戦艦“デウスーラ”の艦長となっていたハルツ・レクターは、デスラーが大マゼランへの出立前に流した偽情報――天の川銀河でデスラーを僭称する者が大規模な反乱を起こした――や大マゼラン到達後ヴォルフ・フラーケンに敢行させた次元潜航艦での偵察といった様々な行動を通じて、ガトランティス軍の盗聴の事実に迫っていきます。ガトランティス軍の情報にまつわる謎について、デスラーズ・ウォーはガミラス側の立場から叙述していく予定としています。

 一方、今後の執筆予定である「ガトランティス帝国」の章

 http://movieandtv.blog85.fc2.com/blog-entry-511.html#4-2.

 では、ガトランティス側の立場からガトランティス軍の情報戦の謎について言及していきます。この章は主にシファル・サーベラーの物語になると思っていますが、例えば次のような話を現時点では構想しています。


 ――大帝の寵愛を受け帝国丞相へと登り詰めたと噂される“白銀(しろがね)”のシファル・サーベラー。彼女の位階である丞相とは、諸侯達の頂点に立ち、ゆくゆくは帝国の後継者にもなり得るとされる地位である。しかし、彼女は本当に、皆の目する通り大帝の跡を襲うつもりであるのか。もしそうであるならば、彼女は諸侯達に対し、自らの力量を誰もが認める功績によって認めさせねばならなかった。

 ガトランティス諸部が外宇宙の放浪を終え大小マゼラン銀河へ至った時、サーベラーはガトランティスの民に向け、自らが指導者たるに相応しい人物であると証明する機会を与えられた。ガミラスを甘く見た部族達がそれぞれ思い思いに小マゼランへの略奪行を試み撃退される中、サーベラーとその一党は銀河間超空間通信の盗聴を主とする情報収集に力を注いだ。妖艶な見た目とは裏腹に智謀を隠し持つ彼女は、地道な努力の末、遂にガミラスの暗号の解読とガミラス軍の全貌の解明を果たす。程なくしてガミラスが混乱に陥った時、サーベラーはガミラスとの戦いをためらうようになった諸侯達に対し、今こそ進攻すべきである事、そして何よりガミラスの軍勢が巨大な戦いでは力を失う事を説いた。戦いの理(ことわり)を説くサーベラーの発言は大帝を動かし、最終的に彼女はガミラスの小マゼラン方面軍を全滅させ、小マゼラン銀河の征服を成し遂げるという大功を立てた――。


 ガミラスを農耕民のような惑星上に住む人々の「定住民の帝国」とするなら、ガトランティスはこれまで書いてきたように遊牧民の如き「漂流民の帝国」です。両者の戦いは、人類史をモチーフに色々と視点を切り替えて叙述できる物語になるのではないか。現在の所、私はそんな風に考えています。




>「イスカンダル」はギリシャ語源で「人類の守護者」という意味があります。こちらの方がイスカンダル星のイメージに合うと思うのですが、ヤマトにおけるイスカンダルの命名者がこの点に言及していないのが残念です。


 イスカンダルについては、現在それについて書く章である「ガミラス第二帝国のユリーシャ」の初めの部分の執筆を進めています。ガデルの話の続きよりも先に投稿できると思います。

 帝国が滅んだ後のイスカンダルは、他の諸種族とどのような関係を持っていたのか。政治勢力としてのイスカンダル王国は、国として諸国とどのような外交関係を結んでいたのか。そして大小マゼラン世界の中で生きるイスカンダル人は、世界において如何なる立ち位置、存在であったのか。

 帝国滅亡後のイスカンダルは、「人類の覇者」から「人類の守護者」へと姿を変えるが、それは力による「守護」ではなく、自ら星々を救う人身御供となる事での「守護」だったのではないか。

 イスカンダル人の視点でガミラス帝国を見る内容になるので、これまで書いた記事中でガデルやヴェルテが語るのと同じ世界の話をしているとはとても思えないぐらいに、物語の雰囲気が変わるだろうと考えています。

 筆が遅すぎてヤマトがいつまでたっても発進できないでいるのですが、商業作品ではまず描かれないであろう内容を中心に叙述を続けていく所存です。

 よろしくお願い申し上げます。
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