『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』 がんばれキング!

ゴジラ キング・オブ・モンスターズ(オリジナル・サウンドトラック) インポート ゴジラ、ラドン、モスラはいずれも単独主演映画を持つスター怪獣だ。1954年公開の『ゴジラ』、1956年の『空の大怪獣ラドン』、1961年の『モスラ』は、タイトル・ロールの怪獣が出現することで充分に観客を魅了する作品だった。

 残念ながら、ゴジラ、ラドン、モスラのようなズバ抜けた魅力を持つスター怪獣を次々に生み出せるものではない。
 東宝怪獣映画で怪獣が単独主演した作品には、他にも『大怪獣バラン』(1958年)があるけれど、バランは、まぁ何というか、子供が絵に描きたくなるようなスター性に欠けていたように思う。
 1964年には初の宇宙怪獣、その名も『宇宙大怪獣ドゴラ』が銀幕に登場した。着ぐるみでは表現できない不定形生物への挑戦等、たいへん意欲的な作品だったが、怪獣映画なのにストーリーの多くを宝石強盗の話が占めたり、肝心なドゴラが断片的にしか登場しなかったりと、これまた怪獣映画好きには満たされないものが残る作品だった。

 そこで打ち出された新機軸が対戦ものだ。ゴジラが無名のアンギラスと戦うのとはわけが違う。米国モンスターの代表キングコングと日本のモンスターの代表ゴジラ、東西のスター怪獣が同じ映画で共演し、どちらが強いか競い合う。『キングコング対ゴジラ』はとてつもなく贅沢な、驚くべき企画だった。狙いは当たって、1962年に初公開されたこの映画は、日本怪獣映画史上最大の動員数を誇っている。
 続いて東宝は国内の二大スター、ゴジラとモスラが対戦する『モスラ対ゴジラ』(1964年)を放った。まるで三船敏郎とアラン・ドロンが共演した『レッド・サン』を発表したかと思えば、三船敏郎と勝新太郎の共演作『座頭市と用心棒』を放つようなものだ(いや、公開順では『レッド・サン』より『座頭市と用心棒』が先だけど)。

 ここまでゴジラは悪役だった。人間と交流し、ある程度人間と意思の疎通もできるキングコングやモスラは、人間の味方のいいヤツだ。一方、暴れまわり破壊するだけのゴジラは、プロレスでいえば悪役レスラー。とうぜん、勝負はいつもゴジラの負けである。
 『キングコング対ゴジラ』は引き分けと云われているが、キングコングだけ悠然と泳ぎ去り、ゴジラは水没したまま行方知れずなのだから、(ゴジラは水中を潜行したのかもしれないが)印象としてはキングコングの勝利であろう。
 
 2014年のアメリカ映画『GODZILLA ゴジラ』は、ゴジラ第一作からこのあたりまでのゴジラ映画をよく研究して作られていたと思う。日本のゴジラ映画が持つ原水爆のメタファーや、ゴジラは苦戦する側であることを、米国人の知る『怪獣王ゴジラ』のイメージと矛盾しないように混合したのは見事であった(詳しくは「『GODZILLA ゴジラ』 渡辺謙しか口にできないこと」を参照されたい)。

 さて、キングコングとゴジラの対戦カード、モスラとゴジラの対戦カードで観客動員を図った東宝だが、もういけない。あと対戦させるのはラドンくらいしか残っていないが、ゴジラとラドンではプロレスができないし、ラドンのカードを切ってしまったら後には何も残らない。
 ――と東宝の制作陣が考えたかどうかはともかく、ここで画期的な手が考案される。『モスラ対ゴジラ』の同年に『宇宙大怪獣ドゴラ』を放った後、前代未聞の大怪獣を誕生させたのだ。タイトル・ロールになってきたスター怪獣のいずれをもしのぎ、それどころかゴジラ、ラドン、モスラの全スター怪獣が総力戦を挑まなければ敵わないほどの史上最強の大怪獣、キングギドラの登場だ。

三大怪獣 地球最大の決戦 <東宝Blu-ray名作セレクション> なにしろキングギドラは強くてかっこいい!
 『三大怪獣 地球最大の決戦』のキングギドラは、ゴジラやラドンが身長50メートルなのに倍の100メートルの大きさ。黄金に輝く体に巨大な翼、サタンが三つの顔を持つように龍のごとき首が三つもある、神話伝説の集合体のような姿。
 地球怪獣の武器で一番飛距離が長いのはゴジラの白熱光線だろうが、キングギドラは三つの首のすべてから引力光線を吐くことができる。すなわち、ゴジラとラドンとモスラの三匹を同時に相手にしても、引力光線で対抗できる。キングギドラの前ではゴジラもラドンもモスラも雑魚でしかない。五千年前に一匹だけで高度な金星文明を滅ぼしたといわれるキングギドラは、宇宙最強の怪獣なのだ。

 『三大怪獣 地球最大の決戦』でのゴジラとラドンの対戦を見ればこの二匹の力はほぼ互角と判るし、『モスラ対ゴジラ』でモスラはゴジラに勝っている。だからゴジラ、ラドン、モスラの三大怪獣が揃えばゴジラ三匹以上の戦力ともいえるけれど、それでもこの映画でキングギドラを撃退するにはスター怪獣三匹が同時に死力を尽くさねばならなかった。
 しかも、そうまでしてもキングギドラを倒すことはできず、三大怪獣たちは王者キングギドラが地球に嫌気がさして宇宙に帰っていくの見送るのがやっとだった。
 ああ、なんてかっこいいんだ、キングギドラ。お前こそは怪獣映画史上最高の存在だ。

 続く1965年の『怪獣大戦争』でも、キングギドラはゴジラとラドンを相手に暴れまくった。
 『三大怪獣 地球最大の決戦』では、ゴジラ、ラドン、モスラの三大怪獣が勢揃いしてようやくキングギドラを撃退できたのだから、ゴジラとラドンだけで敵うわけがない。キングギドラはゴジラ、ラドンとともに海へ転落したあと、海面に浮上できないゴジラとラドンを尻目に悠然と宇宙へ去っていった。

 その後もキングギドラは、地球侵略を企む宇宙人の助っ人として『怪獣総進撃』(1968年)や『地球攻撃命令 ゴジラ対ガイガン』(1972年)にも登場するが、とにかく強い強い。地球の怪獣たちが協力し、集団で袋叩きにしなければ、どうにも対抗できない相手だった。
 マーベル・シネマティック・ユニバースの「インフィニティ・サーガ」に例えれば、キングギドラはちょうどサノスのポジションだ。スーパーヒーローたちが束になって挑むことでようやくどうにか対抗できる、最強の敵なのだ。

 

 最高に強くて最高にかっこいい、人気怪獣キングギドラの様子がおかしくなったのは、時代が平成に変わってからだ。

 平成ゴジラの敵として昭和ゴジラシリーズからカムバックした初めての怪獣がキングギドラなのは、その人気からしてとうぜんのことだ。けれども、そのカムバック作『ゴジラvsキングギドラ』(1991年(平成3年))は、あろうことかキングギドラをゴジラと1対1で戦わせてしまった。しかも、この映画のキングギドラはなんとゴジラに負けてしまう。
 ゴジラシリーズが『メカゴジラの逆襲』(1975年)でいったん中断した後、1984年に再開されるまでのあいだに、ゴジラ復活を願う声の高まりとともにゴジラの神格化が進んでいたのでもあろうが、曲がりなりにもキングギドラを名乗る怪獣をたかがゴジラ一匹ごときに敗北させてしまうとは、キングギドラの何たるかを見失った大失策であったと思う。

 ここからキングギドラは転落の道を歩む。

 『モスラ3 キングギドラ来襲』(1998年)では、サブタイトルに名を残すほどの大物として扱われながら、劇中では白亜紀の幼体の頃にモスラ一匹に敗北した上、成長した現代においても強化型モスラ(鎧モスラ)に敗北する。

 さらに2001年公開の『ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃』では、バラゴン、モスラと一緒になってゴジラ一匹を倒そうとする始末。
 当初の予定どおりバラゴン、アンギラス、バランの三匹がゴジラと戦うのであればバランスが取れていたと思うが、人気怪獣のネームバリューをたのんだ会社の判断により登場怪獣が差し換えられ、ゴジラより強いはずのモスラとキングギドラがゴジラに手こずる映画になってしまった。
 映画そのものは滅法面白かったけれど、登場怪獣の選択は(作品の質の面では)判断ミスといえよう。

 キングギドラは人気があるから1996年版『モスラ』のデスギドラや『ゴジラ FINAL WARS』(2004年)のカイザーギドラといった亜種も考案されたが、いずれもモスラ一匹、ゴジラ一匹に倒される体たらく。
 アニメーション映画『GODZILLA 星を喰う者』(2018年)のギドラも、ゴジラ一匹に撃退されてしまう。

映画 ゴジラ キング・オブ・モンスターズ ポスター 2019 キング オブ モンスターズ 以前、私は怪獣映画を次の三つに分類した(詳しくは「『ガメラ2 レギオン襲来』が最高峰なわけ」を参照されたい)。
 1. タイトル・ロールの怪獣が中心の映画:『ゴジラ』『キング・コング』『空の大怪獣ラドン』等
 2. スター怪獣同士が対戦するもの:『キングコング対ゴジラ』『モスラ対ゴジラ』等
 3. スター怪獣が他の怪獣をやっつけるもの:ゴジラvsシリーズ等

 キングギドラは、分類2のスター怪獣同士が対戦する映画に、スター怪獣をしのぐ大スターとして乱入した真打のはずだった。なのに、平成以降はゴジラやモスラといったスター怪獣にやっつけられる分類3の怪獣に堕してしまった。
 あの最高に強くて最高にかっこいい、怪獣の王たるキングギドラを、東宝は敵役の中の単なる一匹にしてしまったのである。


 アメリカ映画『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』の制作が報じられたとき、私はとても不安だった。『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』にはラドンもモスラもキングギドラも出るという。ゴジラよりもラドンよりもモスラよりも圧倒的に強いはずのキングギドラは、そのキングとしての尊厳を守れるのだろうか。
 そもそも米国ではゴジラが「怪獣王ゴジラ(Godzilla, King of the Monsters!)」と呼ばれる一方で、キングギドラは単にギドラ(Ghidrah)と呼ばれる。キングギドラ様の「キング」を外すとはとんでもない失礼だが、「キング」の称号はすでにゴジラに捧げていたのである。

 結論からいえば、不安は的中してしまった。
 2014年の『GODZILLA ゴジラ』が昭和ゴジラシリーズに通じる雰囲気を醸し出していたのに対し、『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』は平成以降のvsシリーズ色が強かった。ゴジラとラドンとモスラが出現してキングギドラと戦う点は『三大怪獣 地球最大の決戦』を、またキングギドラをモンスターゼロと呼んだり、怪獣たちを機械で操る設定は『怪獣大戦争』を下敷きにしているものの、ゴジラが『ゴジラvsデストロイア』のときのように全身真っ赤になったり、口から白熱光線を発するだけでなく全身から謎のパワーを放射して敵を倒したりと、すっかり平成ゴジラの趣きであった。

 そしてキングギドラがラドンを打ち負かし、モスラを倒すのはとうぜんながら、平成以降のゴジラシリーズの例に漏れず、ゴジラ一匹に敗北してしまう。

 なんということだろうか。
 舞台を米国に移したハレの場で、あの負けてばかりの悪役レスラーだったゴジラに、天下のキングギドラが敗れたのだ。

 キングギドラが大好きな私は悲しくてならない。
 がんばれキングギドラ。くじけるなキングギドラ。お前が宇宙最強の怪獣であることは多くの人が知っている。「キング」の座を奪い返すまで、戦い続けろキングギドラ!


ゴジラ キング・オブ・モンスターズ(オリジナル・サウンドトラック) インポートゴジラ キング・オブ・モンスターズ』  [か行]
監督・原案・脚本/マイケル・ドハティ
原案・脚本・制作総指揮/ザック・シールズ  原案/マックス・ボレンスタイン
出演/カイル・チャンドラー ヴェラ・ファーミガ ミリー・ボビー・ブラウン 渡辺謙 チャン・ツィイー ブラッドリー・ウィットフォード サリー・ホーキンス チャールズ・ダンス トーマス・ミドルディッチ
日本公開/2019年5月31日
ジャンル/[アクション] [アドベンチャー] [SF]
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【theme : ゴジラシリーズ
【genre : 映画

tag : マイケル・ドハティ カイル・チャンドラー ヴェラ・ファーミガ ミリー・ボビー・ブラウン 渡辺謙 チャン・ツィイー ブラッドリー・ウィットフォード サリー・ホーキンス チャールズ・ダンス トーマス・ミドルディッチ

⇒comment

No title

吹き替え版では「キングギドラ」と呼ばれてました。

Re: No title

ばたぞーさん、コメントありがとうございます!
吹き替え版のスタッフはいい仕事してますね。終始「ギドラ」としか呼ばないアニゴジは寂しかったからなぁ(アニゴジも好きだけど)。

No title

アニメ版は仕方ない部分がありましたね。ギドラは異星人の言葉なのに、何で英語の「キング」が入ってるんだと突っ込まれてしまいますから。

この映画(と、アニメ版)はキングギドラ復権の第一歩というか、昭和のある時期からやたらと他人に操られて「三つも首があってお前に自分の意思はないのか」と思ってしまう怪獣が、対戦結果はともかく設定上は圧倒的だったので次に期待です。

なにより良かったのが、短い尺でも恐らく初対戦だったはずのラドンとモスラの一騎打ちが見られたことです。とにかくラドンのかっこよさが素晴らしい。監督が一番好きだというのも納得です。

Re: No title

未記入さん、こんにちは。
本作の、ギドラを操ろうとしたらギドラのあまりの強さのために操れない描写はいいですね。
『怪獣大戦争』以降のキングギドラは宇宙人等に操られてばかりでしたが、キングギドラほどの大怪獣が野放図に暴れると世界が滅んでしまいますから、それはそれで、操られることで力が制限されている感じでいいと思いましたが。
今後キングギドラが復権していくといいですね。

本作のラドンは『ゴジラvsメカゴジラ』のファイヤーラドンぽくて、監督のvsシリーズ好きが窺えます。
Secret

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