『アベンジャーズ/エンドゲーム』 ありがとうアベンジャーズ
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こんな映画が作れるとは!
『アベンジャーズ/エンドゲーム』には感服するばかりだ。
2008年の『アイアンマン』にはじまり、11年の歳月と21作品に及んだマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)が、22作目の『アベンジャーズ/エンドゲーム』で遂に堂々たる結末を迎えたのだ。
過去、映画界でこんなことはなかっただろう。
MCUは全世界の興行収入が100億ドルを超える大ヒットシリーズで、アベンジャーズだけを見ても第一作『アベンジャーズ』が15億ドル以上の興収を叩き出し、第二作『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』が14億ドル、第三作『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』が20億ドル以上に達する凄まじさだ。なのにマーベル・スタジオは、作ればまたヒットすると判りきっているMCUの物語にけりをつけてしまった。無理にでも続編を作って儲け続けようとする会社が多い中で、とてつもない英断だ。
映画の本数だけでいえば、男はつらいよシリーズや007シリーズのほうが多いけれど、それらの長寿シリーズに一貫した物語はない。作れる限り、作り続ける。その繰り返しなだけだ。
MCUのヒーローたちは、誰もが主役級で自身の人気シリーズを持っているのに、クロスオーバーすることでそれぞれの物語が緊密に絡み合い盛り上がり、本作において一斉にすべての物語が終焉を迎えた。
アメコミではしばしば目にする手法だが、それをそのまま映画に持ち込むなんて、そしてそれを成功させてしまうなんて、いやはや脱帽だ。
もちろん、これからもマーベル・シネマティック・ユニバースの名の下で、マーベルのマンガを原作にした映画が作られていくだろう。ヒーローたちが集結してアベンジャーズを名乗ることもあるだろう。だが、とにもかくにも多くの作品群に広がっていた作品世界に一つの区切りがついたのだ。
マーベル・スタジオのケヴィン・ファイギ社長は、これまでの22作品を「インフィニティ・サーガ」という呼び名でくくっている。
「私たちは、これまでにないやり方でシリーズを終わらせたかったのです。ハリー・ポッターもロード・オブ・ザ・リングも原作本が少ないから終わりました。でも私たちは、22本もの映画を通して物語を完結させるのが面白いだろうと考えたのです。」
マーベルの無限ともいえる膨大な原作があればこその発言だろう。
シリーズ全体を通してのメッセージも強烈だ。
MCUの幕開けとなった『アイアンマン』は、天才発明家のトニー・スタークがその優れた科学力を兵器に使うのはやめようと決意する物語だった。科学技術をどう使うかという問題は、アイアンマンシリーズを貫くテーマである。
並行して描かれたハルクやキャプテン・アメリカの物語も、科学技術の使い方の是非を問う姿勢が背景にあった。マイティ・ソーが活躍したのは、「充分に発達した科学技術は、魔法と見分けが付かない」世界だ。
こうして科学技術のあり方を問い続けたMCUは、『ブラックパンサー』で明確なメッセージを打ち出した。その使い方をしっかり考え、科学技術を発展させてこそ、多くの命を救い、人々を幸せにできるということ。科学技術を発達させ、世界中の人がその恩恵に与れるようにすることが、ヒーローたる者に求められる崇高な行いであること。そのメッセージが共感を呼んだから、『ブラックパンサー』はヒーロー単体の映画としてはMCU最大のヒットを飛ばしたのだろう。
映画『ブラックパンサー』をもってMCUのメッセージは観客に充分すぎるほど伝わったと思うが、ダメ押しに登場したのがサノスだった。

しかし、無農薬の作物には相当の手間がかかるから大量生産できないし、品種改良しなければ野菜や果物は育ちにくく味や栄養が劣ったままであろう。添加物を加えない食品は痛みやすく(食中毒を起こしやすく)長持ちしないおそれがある。それでも裕福な人なら作物を厳選して、おいしいものを満足のいくまで食べられるかもしれないが、こんな生産性の低いことをしていては世界人口を支えられない。本来は、農薬の使い方はどうあるべきか、添加物はどのようなものが良いのか等を検討するべきであろうが(そしてそういう検討はとっくになされているのだが)、農薬全否定、添加物全否定に陥って抜け出せない人もいるようだ。それは、世界人口を支えなくても良いという考え、――見知らぬ人を切り捨てても良いという考え方に直結しよう。
それをサノスは実行に移した。世界人口の半分を亡きものにし、自分用の農園で自分一人が納得できる野菜作りをして、均衡の取れた(持続可能な)世界になったと喜んだ。サノスが恐ろしいのは、これに近い考え方の人が現実にいるからだ。科学の研究や技術の発達に背を向け、無農薬、無添加等を良いことととする生産者、流通業者、消費者の行き着く先は、サノスの世界であることを本作は示している。
だからこそ、科学の鎧をまとったアイアンマンや、科学の力で超人になったキャプテン・アメリカらは、全力でサノスを叩き潰さねばならなかった。たとえ勝利する可能性が1400万605分の1であっても、戦わなければならなかった。


前作の最後に、サノスによって世界中の半分の人々が消し去られた。残ったのはアイアンマン、ハルク、ソー、キャプテン・アメリカ、ブラック・ウィドウ、ホークアイ――つまり、マーベル・シネマティック・ユニバースのフェイズ1に登場し、これまでユニバースを支えてきた古参ヒーローたちだ。
世界の人々の半分が消滅し、それはヒーローといえど例外ではなかった、という云い訳を用意することで、フェイズ2以降に登場したドクター・ストレンジやブラックパンサー、スパイダーマン、スカーレット・ウィッチ、ファルコン、ウィンター・ソルジャー、ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーのほとんどのメンバーたちにいったん退場していただき、フェイズ1のヒーローたち(と本作でマーベルとの契約が切れるその役者たち)の最後の見せ場を作ったのだ。
フェイズ2以降のヒーローで活躍するのは実質的にアントマンだけであり、彼をあえて前作には登場させなかった(彼は通常とは異なる時空間にいた)ことを伏線にして、古参ヒーローの引退と新ヒーローたちへの交代を見届ける役を務めさせる。この壮大な仕掛けに心底感心した。
しかも、徹頭徹尾戦闘の連続だった『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』に比べ、本作はなんと静かで物悲しいことか。
『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』では、観客がMCUの作品を隅々まで知っていることを前提にして、キャラクターの紹介や背景説明を省いた激しい戦闘の連続を描くことができた。
本作もまた観客がMCUの作品を隅々まで知っていることを前提にしているが、それは『インフィニティ・ウォー』とは反対にキャラクターの内面をじっくり描き、一人ひとりの物語に決着をつけるためだった。両作とも、作り手がこれまで作ってきた作品世界に自信を持ち、足を運んでくれる観客を信頼しているからできることだろう。
各キャラクターのこれまでの苦悩と葛藤を知る観客には、本作の初期メンバーたちの物語が胸に迫るに違いない。
アイアンマンことトニー・スタークの傲慢さの裏には、父への反発が隠れていた。アイアンマンシリーズは、そんなトニーの心情と父への思いの変化を軸にしていた。
本作でみずからも父となり、また父の思いに直接触れたトニーは、かつて傲慢な億万長者だったことなど微塵も感じさせない安らかな表情をしている。
怪物ハルクに変化することを恐れ、人目を避けて暮らしつつ、危機が迫るとハルクの力を利用して乗り切っていたブルース・バナーは、自分がハルクであることと折り合いを付けられるようになった。ブルースが、ハルクでもある自分を肯定して人前に出られるようになるなんて、あの『インクレディブル・ハルク』の悲劇からは考えられなかったことだ。
父から立派な王になることを期待され、みずからもその期待に応えようと苦悩していたマイティ・ソーは、ソーらしさを受け入れてくれる母との会話を経て、自分なりの生き方を見つけた。
素性の知れない孤独なスパイだったブラック・ウィドウことナターシャ・ロマノフは、アベンジャーズの面々を家族と呼ぶほどに愛し、家族への愛に身を捧げた。ナターシャにとってそれは本望だったに違いない。
ホークアイは本作で改めて妻子の愛おしさ大切さを実感していたが、私はアベンジャーズのメンバーとの、特にブラック・ウィドウとの関係の描き方が感慨深かった。
フェイズ1ではブラック・ウィドウと強い絆で結ばれていたはずのホークアイは、フェイズ2でアベンジャーズを脱退し、フェイズ3の『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』ではブラック・ウィドウと対立してしまう。
しかし、本作でホークアイとブラック・ウィドウの変わらぬ絆の強さが描かれたのは嬉しかった。ブラック・ウィドウと行動を共にするのがホークアイなのは、しごくもっともだと思う。

私がMCU全作を通じて一番悲しかったのが、スティーブとマーガレット・"ペギー"・カーターとの別れだった。わりと明るく楽しく観られた『キャプテン・アメリカ ザ・ファースト・アベンジャー』だが、最後の最後にスティーブとペギーが70年という時間で引き裂かれてしまうラストはとてもショックだった。
それだけに、おそらくはアベンジャーズの中でもっとも過酷で痛ましい人生を歩んだであろう(にもかかわらず常に一番不屈であろうとした)スティーブが、本作でようやく個人としての慎ましく幸せな暮らしを手に入れたことに涙を禁じ得ない。
本作は単なる『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』の続編ではなく、シリーズ物の最後のエピソードというだけでもない。
11年にわたり22本もの映画を生み出してきた作り手たちと、それらに付き合ってきた受け手とが共有する長い長い物語。その「世界」と「歴史」があるからこその感動に満ちたフィナーレなのだ。
『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』と『アベンジャーズ/エンドゲーム』の監督はアンソニーとジョーのルッソ兄弟、そして脚本はクリストファー・マルクスとスティーヴン・マクフィーリーという、『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』から続くチームが手がけたが、本作を作り上げたのは彼ら四人だけではない。『ドクター・ストレンジ』のスコット・デリクソン監督はストレンジというキャラクターをどう扱うべきか彼らと意見交換したし、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の監督・脚本を務めたジェームズ・ガンも彼らに協力し、ガーディアンズの登場シーンにザ・スピナーズの「The Rubberband Man」を流すことを提案した。『マイティ・ソー バトルロイヤル』のタイカ・ワイティティ監督と脚本家エリック・ピアソンも協力し、クリストファー・マルクスとスティーヴン・マクフィーリーが脚本を書いた『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』以降にソーの身に起きた変化を反映させた。本作を手がけた四人のチームは、毎週のように他の監督や脚本家たちと話し合ったという。
この素晴らしい物語を紡いでくれた多くの人たちに感謝の意を表したい。たくさんの楽しさをありがとう。感動をありがとう。勇気と元気を与えてくれてありがとう。
ありがとう、アベンジャーズ。

監督/アンソニー・ルッソ、ジョー・ルッソ
出演/ロバート・ダウニー・Jr クリス・エヴァンス マーク・ラファロ クリス・ヘムズワース スカーレット・ヨハンソン ジェレミー・レナー ドン・チードル ポール・ラッド ジョシュ・ブローリン ブリー・ラーソン カレン・ギラン グウィネス・パルトロー ダナイ・グリラ ベネディクト・ウォン ジョン・ファヴロー ベネディクト・カンバーバッチ クリス・プラット ゾーイ・サルダナ トム・ホランド エリザベス・オルセン アンソニー・マッキー チャドウィック・ボーズマン トム・ヒドルストン デイヴ・バウティスタ ポム・クレメンティエフ セバスチャン・スタン サミュエル・L・ジャクソン ナタリー・ポートマン レネ・ルッソ ロバート・レッドフォード フランク・グリロ ヴィン・ディーゼル ブラッドリー・クーパー
日本公開/2019年4月26日
ジャンル/[アクション] [アドベンチャー] [スーパーヒーロー] [SF]

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【theme : アベンジャーズ】
【genre : 映画】
tag : アンソニー・ルッソジョー・ルッソロバート・ダウニー・Jrクリス・エヴァンスマーク・ラファロクリス・ヘムズワーススカーレット・ヨハンソンジェレミー・レナードン・チードルポール・ラッド
⇒comment
No title
本当にインフィニティサーガは映画史における事件であり奇跡でございました。ずっとリアルタイムでつきあえたのが、今この時代に生まれてよかったと思えるひとつです。
ファンタジー世界に突入していくマイティ・ソーの時も、どマイナーなGotGの時も「大丈夫か?」と心配になりましたし、「このままいくと確実に収拾がつかなくなるだろう」と予想していましたがことごとくわたしの杞憂に終わりました。もうこんな感動は味わえないだろうとも思いますが『アベンジャーズ』1作目の時も同じことを言っていたので、また予想を越えてくれることを期待しちゃいます
ファンタジー世界に突入していくマイティ・ソーの時も、どマイナーなGotGの時も「大丈夫か?」と心配になりましたし、「このままいくと確実に収拾がつかなくなるだろう」と予想していましたがことごとくわたしの杞憂に終わりました。もうこんな感動は味わえないだろうとも思いますが『アベンジャーズ』1作目の時も同じことを言っていたので、また予想を越えてくれることを期待しちゃいます
Re: No title
SGA屋伍一さん、こんにちは。
>ずっとリアルタイムでつきあえたのが、今この時代に生まれてよかったと思えるひとつです。
うんうん。主人公たちと一緒に泣き笑いしながら過ごした10年以上の時間が愛おしいですね。
宇宙物のGotGに話を広げると知ったときは、もう世界観がハチャメチャになると覚悟したものです:-)
シリーズ全作を見返して大小様々なエピソードを拾い上げ、きっちりまとめてくれたルッソ兄弟とマルクス&マクフィーリーコンビには脱帽するしかありません。
ここまでやってしまうと、この後シリーズを続けられるとは思えないのですが、ケヴィン・ファイギならきっとやってくれることでしょう!
>ずっとリアルタイムでつきあえたのが、今この時代に生まれてよかったと思えるひとつです。
うんうん。主人公たちと一緒に泣き笑いしながら過ごした10年以上の時間が愛おしいですね。
宇宙物のGotGに話を広げると知ったときは、もう世界観がハチャメチャになると覚悟したものです:-)
シリーズ全作を見返して大小様々なエピソードを拾い上げ、きっちりまとめてくれたルッソ兄弟とマルクス&マクフィーリーコンビには脱帽するしかありません。
ここまでやってしまうと、この後シリーズを続けられるとは思えないのですが、ケヴィン・ファイギならきっとやってくれることでしょう!
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つまらなくはなかったが、気に入らないところがあって。
アベンジャーズ/エンドゲーム
最強を超える敵“サノス”によって、アベンジャーズのメンバーを含む全宇宙の生命は、半分に消し去られてしまった。 再び集結したヒーローたちは、地球に取り残された35億人の未来のために、そして“今はここにいない”仲間たちのために、最後にして史上最大の逆襲<アベンジ>に挑む…。 スーパーヒーロー・アクション。
『アベンジャーズ/エンドゲーム』('19初鑑賞31・劇場)
☆☆☆☆☆彡 (10段階評価で 10+)
4月26日(金) 109シネマズHAT神戸 シアター9にて 13:20の回を鑑賞。 2D:字幕版。
4月27日(土) 109シネマズHAT神戸 シアター9にて 13:20の回を鑑賞。 2D:字幕版。
アベンジャーズ/エンドゲーム
アイアンマン、キャプテン・アメリカ、ソー、ハルクといったマーベルコミックが生んだヒーローたちが同一の世界観で活躍する「マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)」の中核となるシリーズで、各ヒーロー映画の登場人物たちが豪華共演するメガヒット作「アベンジャーズ」の第4作。あらすじ:前作「アベンジャーズ インフィニティ・ウォー」で、宇宙最強の敵サノスに立ち向かうも、ヒーローたちを含めた全人類の...
「アベンジャーズ エンドゲーム」☆ハンパない喪失感
ちらほらと鼻をすすり上げる音も聞こえてきた本作。
私は圧巻の歴代ヒーロー大集合的戦いの前のシーンから涙が頬を伝い、いちいちIMAXの3D眼鏡を持ち上げて涙を拭くのが面倒なくらい。
GW頑張ったご褒美にIMAXにしたけど、3Dが素晴らしすぎて字幕にピントが合いにくく、これなら最初は2D(できれば吹き替え)で見て、2度目をIMAXにするのがいいかも…
『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019)
**** ネタバレ注意! ****2008年の「アイアンマン」から始まった<マーベル・シネマティック・ユニバース>の通算22作目、<フェイズ3>としては10作目、そして<インフィニティ・サーガ>の完結編。……のはずだったが、最近のケヴィン・ファイギの発言によれば<フェイズ3>の締めくくりは次回作「スパイダーマン/ファー・フロム・ホーム」とのこと。ただ実質的には長大なる物語の”完結編”たるに相...