『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』 万人に薦めたい

Mission: Impossible - Fallout (Music from the Motion Picture) その面白さに満足した上、万人に自信をもって薦められる映画は滅多にない。
 だから、『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』のような作品に出会うとたいへん嬉しい。

 147分の長丁場にもかかわらず、本作は観客の目を釘付けにして離さない。
 作り手たちは、主人公イーサン・ハントを次から次へと危機的状況へ突き落す。任務遂行中の思わぬ事故や、敵味方の計算外の行動、恐るべき奸計と巧妙な罠。まったくもって脱出は不可能(impossible)と思われるこれらの状況を、イーサン・ハントと彼の仲間たちがいかにして突破するかが本作の見どころだ。

 派手なアクションが売り物の本シリーズだが、他のアクション映画と一線を画すのは、アクション以上に緻密な計略やどんでん返しの連続が知的興奮をもたらすからに他ならない。あるときは原作のテレビシリーズ『スパイ大作戦』(1966年~)のような知略機略で難局を打開し、またあるときは息もつかせぬ壮絶なアクションで観客を圧倒する。そのサスペンスとアクションのさじ加減が堪らない。

 その上、前作『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』で古典的なパターンを踏襲したクリストファー・マッカリー監督は、本作で再び監督・脚本に就任すると、またも温故知新というべき古典的なネタを披露してくれた。
 厳重に警護された護送車の襲撃とか(1971年の『ルパン三世』第1テレビシリーズの第6話「雨の午後はヤバイゼ」等を思い出す)、仕掛けられた爆弾の配線を切って爆発を食い止めるとか(1974年の『ジャガーノート』以来の伝統)、懐かしいネタが続出だ。
 フランスのせせこましい道を疾走するカーチェイスは、アンリ・ヴェルヌイユ監督のフレンチ・アクション『華麗なる大泥棒』(1971年)あたりを思わせる。そういえば、『華麗なる大泥棒』をはじめ数多くのアクション映画に主演したジャン=ポール・ベルモンドも、トム・クルーズと同じくスタントマンに頼らず、アクションをみずからこなすのを売りにしていた。


 今回残念だったのは、ジェレミー・レナー演じるウィリアム・ブラントが登場しないことだ。アベンジャーズシリーズスケジュールと競合して出演できなかったのだが、実はジェレミー・レナーの登場シーンは三日もあれば撮影できたかもしれなかった。クリストファー・マッカリー監督は、映画冒頭のプルトニウム引き渡しのシーンで、ブラントを死なせるつもりだったのだ。仲間の一人を死なせれば、怒りに燃えるイーサン・ハントの復讐劇として映画を盛り上げ易いと考えたのかもしれない。
 だが、ジェレミー・レナーが「三日分のギャラをもらってブッ飛ばされに行くなんてご免だ」と断ったために、この案は没になった。ありがとうジェレミー・レナー。

 もともと『スパイ大作戦』は、固定のメンバーで回すドラマではなく、そのときどきのミッションに応じた最適なエキスパートが集まって作戦を遂行する作品だったから、ブラントが一回くらい休んでもおかしくはない。イーサン・ハントの元ネタであろう、マーティン・ランドーが演じた変装の名人ローラン・ハンドも、はじめの頃はレギュラーメンバーではなかった(そもそも『スパイ大作戦』のメンバーは政府機関の所属ではなく、本業を別に持つ民間人で、ミッションのために都度招かれた人々だった)。

映画 ミッション インポッシブル フォールアウト 映画 ポスター 42x30cm ヴァネッサ・カービー [並行輸入品] ブラントの代わりといっては何だが、本作には興味深い人物が加わっている。劇場版第一作『ミッション:インポッシブル』に登場した武器商人マックスの娘、ホワイト・ウィドウだ。
 ヴァネッサ・レッドグレーヴが演じたマックスは、第一作でイーサン・ハントにCIAの極秘情報を盗ませようとした張本人である。本作でもイーサン・ハントは、ヴァネッサ・カービー演じるホワイト・ウィドウのせいで無茶な作戦を実行する破目になる。劇中でホワイト・ウィドウとマックスの間柄を匂わせるのは、ホワイト・ウィドウが口にした亡き母に関するスピーチくらいだが、こんな風にシリーズを通して人間関係が広がっていくのは面白い。

 


 さて、物語が進行するにつれて、どんどん限界を超えた解決不能な状況に陥ってしまいながら、それでも任務を遂行しようとする主人公の奮闘は、まさにミッション:インポッシブル(不可能作戦)の名に相応しい。
 だが、何をもって「不可能な状況」と見るかは、主人公の特性に大きく左右されるだろう。主人公の知力・体力・技能等に応じて、可能か不可能かの境目は変わるはずだ。

 たとえば、『トータル・リコール』(1990年)における囚われの主人公が脱出するシークエンスは、とても印象的だった。
 アーノルド・シュワルツェネッガー演じる主人公は、椅子に手足を固定され、完全に体の自由を奪われていた。状況を打開しようにも、主人公には秘密兵器もなければ特殊能力もない。この場に駆け付けてくれる仲間もいない。まさに絶体絶命の大ピンチ、脱出は不可能と思われた。
 ところが、シュワルツェネッガーは「ウガーッ!」と力むと、なんと手足の拘束具をブチブチと引きちぎって、立ち上がってしまうのだ。頭脳プレーもなければ、テクニックもなんにもない。ただ力任せにちぎるだけ。
 筋骨隆々のシュワルツェネッガーならではの、彼にしかできない脱出方法だった。それだけシュワルツェネッガーの筋肉には、観客の反論を許さない説得力があったのだ。現在これができるのは、ドウェイン・ジョンソンくらいだろう。
 かように、何が可能で何が不可能かは、主人公(と演じる俳優)の特性によって変わってくる。

 では、トム・クルーズ演じるイーサン・ハントにとっての不可能な状況とは、いったい何か。
 25,000フィート(7,620メートル)もの高さの飛行機から飛び降りる高高度降下低高度開傘か(トム・クルーズはこのスタントを一年かけて練習した)、ビルからビルへ飛び移りながらの追跡か(このときトムはビルにぶち当たって足首を骨折し、七週間撮影に戻れなかった)、ヘリコプターを強奪しての襲撃か(ヘリコプターを操縦するため、トムは2,000時間の飛行訓練を行った)。
 いずれも、とてつもなく危険で遂行不能としか思えないことばかりだが、あえて云うなら、イーサン・ハントでなくてもアクション映画の主人公なら直面したかもしれない状況だ。


【映画パンフレット】ミッション:インポッシブル/フォールアウト Mission: Impossible - Fallout 本作のイーサンをもっとも苦しめ、彼を特徴づける過酷な状況。それは倫理感、道徳感とのせめぎ合いであろう。
 激しい銃撃戦や肉弾戦を繰り広げる本作では、敵味方ともに死傷者が出る。その中で、イーサンが暴力の矛先を誰に向けて誰に向けないのか。その悩ましい選択が彼を苦しめる。
 容疑者を拷問すればたやすく真相に近づけそうなとき、主人公がアッサリ拷問する映画もある。手っ取り早い方法だが、それだと観客は安易な暴力シーンを見せられるだけだ。拷問せずに真相を得ようとすれば、途端に難度が高くなる。だが、そこに挑むのが「ミッション:インポッシブル」シリーズだ。

 映画によっては、本当に相手を殺して良いかどうか深く考えずに、とっとと殺してしまう作品もある。『ダイ・ハード/ラスト・デイ』(2013年)では、ニューヨーク市警察の刑事がロシアに行って敵対する相手を殺しまくった。ニューヨーク市警察の刑事だろうが何だろうが、ロシアでは一旅行者でしかないのだから、ロシア当局に捕まってしかるべきだが、彼は自首もせずに帰国してしまう。
 『エクスペンダブルズ』(2010年)では、米国の傭兵たちが他国に行って現地の兵士を殺しまくった。たとえ兵士たちに命令している黒幕が腹黒いヤツだとしても、個々の兵士は職務に忠実に働いているだけなのに、傭兵たちはお構いなしに外国兵を殺していた。

 ハリウッド映画は、規範意識や因果応報といった点についてよく考えて作られていると思う。殺される人間はあらかじめ何かしら悪いところが描かれていたり、善いことをした人間はなにがしかの救いを得たりするように作られている。けれども、ここに挙げたように逸脱した作品も少なくない。こういう作品の場合、観客は、派手なアクションを見せるためには仕方ないのだろうと割り切って付き合うことになる。それはつまり、割り切れる人間だけで楽しむ作品になってしまうということだ。

 殺すか殺されるかの大事件を扱っているから、本作のイーサンとて何人もの悪人を殺さねばならない。
 それでも、死闘を演じる前に「殺すしかないのか、本当に他の手段はないのか」を考えていると思しき「間」が入るのが本作の特徴だ。たとえば敵のヘリコプターに乗り込んだイーサンは、機内の敵を見つめて一瞬動きが止まる。他のアクション映画だったら、アクションの流れを止めてしまうこのような「間」は極力省くものだ。
 本作のイーサン・ハントは、悪人でない限り誰も傷つけない。暴力を避け、犠牲を最小限にするための知恵を惜しまない。
 そういう人間だから、他者が犠牲になるのを避けようとするあまり、ときに自分の首を絞めてしまうことになるのだが、観客は彼がこの難局をどう切り抜けるのかいよいよもって興味をそそられる。倫理的に正しいことをしようとする努力が、作品の面白さを増している。
 倫理的、道徳的に高いレベルで納得できて、しかもその切り抜け方が面白い。だから、本作は万人に薦められるのだ。


映画 ミッション インポッシブル フォールアウト 映画 ポスター 42x30cm トム クルーズ [並行輸入品] ただし、そんなイーサンの姿勢が夢物語であろうことは、映画の作り手たちも知っている。

 不可能と思えることを遂行しようとするイーサンに、CIA特殊活動部隊のウォーカーは「無謀すぎる!(Hope is not a strategy!)」と云って反対する。
 「Hope is not a strategy.(希望は戦略ではない。)」という言葉は、アメリカンフットボールのコーチ、ヴィンス・ロンバルディが云ったとされる他、米上院軍事委員会でヒラリー・クリントン上院議員が口にしたり、ビジネス書の題名にも使われたりするなど、スポーツや軍事やビジネス等の幅広い分野において、ちゃんとした戦略を練らずに行動する人を戒める言葉として知られている。
 この言葉を投げかけられるイーサンは、米国社会では思慮不足で愚かしいと見なされることだろう。

 だが、思慮深いはずの人々が現実に行うことが、善いこととは限らない。
 米上院情報特別委員会は、CIAがおぞましい拷問を行っていたことを明らかにした(CIAは「拷問」ではなく「強化尋問技術(enhanced interrogation techniques)」と呼ぶそうだが)。同委員会の調査によれば、いくら拷問しても効果的な結果は何も生んでいなかったにもかかわらずだ。
 米軍や米民間軍事会社は、戦闘員と非戦闘員との区別すらうやむやなまま、イラクやパキスタン等の人々を「テロリスト」又は「テロリストの仲間」として殺してきた。シリアでは「誤爆」を繰り返し、多くの犠牲者を出してきた。
 そして米国では、市民を守るべき警察官によって多くの人が殺されている罪もないのに射殺され、怪我を負わされている。
 思慮深く、戦略的であるべき人の行動がこれだ。この始末だ。

 何とか暴力は避けよう、犠牲を最小限にするために知恵を絞ろう、一人でも多くの人を助けよう。そのために最後の最後までベストを尽くす。イーサン・ハントが示すのは、そういう姿勢だ。
 彼は現代アメリカの、いや全世界の人々にとっての、行動規範になるだろう。
 目の前のたった一人も、ここにはいない世界各地の人々も、等しく大切に思い、守ろうとする。そんなイーサン・ハントの姿を通して作り手たちが訴えたかったもの。それこそが、いま世界が必要としているものなのだ。


Mission: Impossible - Fallout (Music from the Motion Picture)ミッション:インポッシブル/フォールアウト』  [ま行]
監督・制作・脚本/クリストファー・マッカリー
出演/トム・クルーズ ヘンリー・カヴィル ヴィング・レイムス サイモン・ペッグ レベッカ・ファーガソン ミシェル・モナハン アンジェラ・バセット アレック・ボールドウィン ヴァネッサ・カービー ショーン・ハリス
日本公開/2018年8月3日
ジャンル/[アクション] [サスペンス] [アドベンチャー]
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【theme : アクション映画
【genre : 映画

tag : クリストファー・マッカリー トム・クルーズ ヘンリー・カヴィル ヴィング・レイムス サイモン・ペッグ レベッカ・ファーガソン ミシェル・モナハン アンジェラ・バセット アレック・ボールドウィン ヴァネッサ・カービー ショーン・ハリス

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No title

時々前作の人気キャラをあっさり殺してしまってひんしゅくを買う続編ありますよね。今年もあれやこれやありましたが、ミッション・インポッシブルはそうならなくてよかった。あとこの辺で絶妙にひねってきたのが『デッドプール2』でした。
本来スパイというものは非情に徹しなければならないものですが、正義のヒーロー然としてるのがやっぱりハントの魅力…というか個性ですね。その辺はTVドラマ版からの伝統なのでしょうか。わたしはそっちはよく知らないのですが

Re: No title

SGA屋伍一さん、こんにちは。

>時々前作の人気キャラをあっさり殺してしまってひんしゅくを買う続編ありますよね。

『G.I.ジョー バック2リベンジ』とかですね。
『デッドプール2』は……「フォローが遅いよ!」と云いたいです。2時間ずっと腹立てながら観ていた私の気持ちはどうなるのだと。
本作は人気キャラが殺されることにはなりませんでしたが、主人公イーサン・ハントの永遠の思い人のはずのジュリアが、会うことは叶わなくても相思相愛だと思っていた二人の関係が、大きく変化していたのはショックでした。


ちなみにこのシリーズ、原作になったテレビドラマは『スパイ大作戦』という題名ですが、Impossible Missions Force は政府の諜報機関ではありませんでした。何らかの分野で功成り名遂げた民間人が、金はもういらないから自分の専門性を世の中の役に立てたいと集まって、普通なら不可能と思われる難題を解決する話でした。
映画版の Impossible Missions Force は米国の政府機関となりましたが、テレビ版メンバーの志を受け継いでいるように思います。少数のエキスパートが知恵を絞って難関を突破する冒険物、『ナバロンの要塞』や『鷲は舞いおりた』に近いと云えましょうか。
Secret

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『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』('18初鑑賞55:・劇場)

☆☆☆☆- (10段階評価で 8) 8月3日(金) 109シネマズHAT神戸 シアター9にて 12:25の回を鑑賞。 2D:字幕版。

「ミッション:インポッシブル/フォールアウト」

インポッシブルだぁー!

ミッション:インポッシブル フォールアウト

何者かに複数のプルトニウムが盗まれた。 3つの都市が核の標的となり、イーサン・ハントとIMFチームに、同時核爆発を未然に防ぐミッションが下される。 猶予は72時間。 正体不明の敵を追う彼らの前に、CIAエージェントのウォーカーが立ちはだかり、更にいくつものフォールアウト(予期せぬ余波)が降りかかる…。 人気スパイアクション第6弾。 ≪<不可能>が連鎖する!≫

ミッション:インポッシブル/フォールアウト

トム・クルーズ主演の人気スパイアクション「ミッション:インポッシブル」シリーズ第6作。前作に続いてクリストファー・マッカリーがメガホンをとり、シリーズで初めて2作連続の監督を務めた。共演はシリーズおなじみのサイモン・ペッグ、ビング・レイムス、前作から続けて登場するレベッカ・ファーガソンのほか、ウォーカー役で「マン・オブ・スティール」のヘンリー・カビルが初参戦した。あらすじ:盗まれた3つのプル...

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