『牛の鈴音』はリンに似ている
毎日、野良仕事を欠かさない年老いた父。
「こき使われてばっかりだ」と愚痴り続ける母。
『牛の鈴音(すずおと)』は、2人の日常を綴るだけのドキュメンタリーだ。
父は脚が悪いために自力では歩けない。だから牛に車を引かせて野良に出る。
毎日、野良仕事を欠かさないのだから、牛も毎日牛車を引く。
牛ももう40歳。牛の寿命は、大切に育てても20歳程度なので、40歳とは驚くべき高齢だ。
それだけに、父は自分よりも先に牛が死ぬなんて思っていない。
口には出さぬまでも、自分と老妻と牛との生活が、死ぬまで続くと思っている。
母の文句には切りがない。
「農薬を使えば、苦労して草取りなんかしなくていいのに。」
「仕事のしすぎで腰も曲がってしまった。」
「なんでこんな人に嫁いじゃったんだろう。」
それぞれの愚痴はつじつまが合わない。もう歳なんだから仕事はやめようと云いつつ、貯金がないとこぼし、子どもの世話になって肩身の狭い思いをするのは嫌だと嘆く。
こうして、母の愚痴を聞き、牛の衰えを目にしながら、父は今日も手を真っ黒にして野良仕事に精を出す。
野良仕事は過酷だ。
母は、機械や農薬を使って少しでも楽をしたいと願っている。
その愚痴は、「エコ」とか「オーガニック」といった言葉の軽さを蹴散らしてしまう。
しかし父は、足を引きずり地を這って働きながら、将来の展望とか、夢とか野心といったことから隔絶した、ある種の平穏を得ているように見える。
牛の首につけた鈴は、あたかもリンをリン棒で打つかのごとく澄んだ音色を響かせる。
2人と、牛にとって、変わることなく繰り返すこれらの日々は幸せなのだろうか?
夫婦について、白石一文氏がこんなことを語っている。
---
松井秀喜は日本人で初めて大リーグのワールドシリーズでMVPに選ばれました。ほかにもイチローとか、ビル・ゲイツとか、松下幸之助とか、そういう人たちの成功というのは分かりやすいですよね。社会的な成功を収めた人物についてはたくさんの成功本が世間にあふれています。
一方、本当に仲良く添い遂げた夫婦は、社会的には何ら注目されることもなく、偉人伝に描かれることもありません。
---
2人のことは、観客には窺い知れない。
英訳題は『OLD PARTNER』。父にとって、牛であり、母である。
我々は、やがて迎える牛との死別、その喪失感の幾ばくかを、共に感じるばかりである。
『牛の鈴音』 [あ行]
監督・脚本・編集/イ・チュンニョル
出演/チェ・ウォンギュン イ・サムスン
日本公開/2009年12月19日
ジャンル/[ドキュメンタリー]
映画ブログ
「こき使われてばっかりだ」と愚痴り続ける母。
『牛の鈴音(すずおと)』は、2人の日常を綴るだけのドキュメンタリーだ。
父は脚が悪いために自力では歩けない。だから牛に車を引かせて野良に出る。
毎日、野良仕事を欠かさないのだから、牛も毎日牛車を引く。
牛ももう40歳。牛の寿命は、大切に育てても20歳程度なので、40歳とは驚くべき高齢だ。
それだけに、父は自分よりも先に牛が死ぬなんて思っていない。
口には出さぬまでも、自分と老妻と牛との生活が、死ぬまで続くと思っている。
母の文句には切りがない。
「農薬を使えば、苦労して草取りなんかしなくていいのに。」
「仕事のしすぎで腰も曲がってしまった。」
「なんでこんな人に嫁いじゃったんだろう。」
それぞれの愚痴はつじつまが合わない。もう歳なんだから仕事はやめようと云いつつ、貯金がないとこぼし、子どもの世話になって肩身の狭い思いをするのは嫌だと嘆く。
こうして、母の愚痴を聞き、牛の衰えを目にしながら、父は今日も手を真っ黒にして野良仕事に精を出す。
野良仕事は過酷だ。
母は、機械や農薬を使って少しでも楽をしたいと願っている。
その愚痴は、「エコ」とか「オーガニック」といった言葉の軽さを蹴散らしてしまう。
しかし父は、足を引きずり地を這って働きながら、将来の展望とか、夢とか野心といったことから隔絶した、ある種の平穏を得ているように見える。
牛の首につけた鈴は、あたかもリンをリン棒で打つかのごとく澄んだ音色を響かせる。
2人と、牛にとって、変わることなく繰り返すこれらの日々は幸せなのだろうか?
夫婦について、白石一文氏がこんなことを語っている。
---
松井秀喜は日本人で初めて大リーグのワールドシリーズでMVPに選ばれました。ほかにもイチローとか、ビル・ゲイツとか、松下幸之助とか、そういう人たちの成功というのは分かりやすいですよね。社会的な成功を収めた人物についてはたくさんの成功本が世間にあふれています。
一方、本当に仲良く添い遂げた夫婦は、社会的には何ら注目されることもなく、偉人伝に描かれることもありません。
---
2人のことは、観客には窺い知れない。
英訳題は『OLD PARTNER』。父にとって、牛であり、母である。
我々は、やがて迎える牛との死別、その喪失感の幾ばくかを、共に感じるばかりである。
![牛の鈴音(うしのすずおと) [DVD]](http://ecx.images-amazon.com/images/I/51vfXOB8AHL._SL160_.jpg)
監督・脚本・編集/イ・チュンニョル
出演/チェ・ウォンギュン イ・サムスン
日本公開/2009年12月19日
ジャンル/[ドキュメンタリー]
映画ブログ
tag : イ・チュンニョル
⇒comment
ドキュメンタリー
邦画のドキュメンタリーは
余計な解説とおまけに余計な「効果音」のおまけつきで
下手糞ですが
この作品はなかなかの作品でした
こんな作品を地上波で流せるほど
日本社会は成熟してないな・・・
余計な解説とおまけに余計な「効果音」のおまけつきで
下手糞ですが
この作品はなかなかの作品でした
こんな作品を地上波で流せるほど
日本社会は成熟してないな・・・
Re: ドキュメンタリー
すわっと 優優さん、こんにちは。
邦画のドキュメンタリーでも、解説や効果音はなかったりしますね。まぁ、いろいろかと。
また、地上波には地上波の役割があるのだと思います。
少なくとも民放地上波はCMを流すための媒体で、視聴者の飽きがこないようにCMの合間にバラエティやドラマを挿入しているようなものです。視聴者がCMを見続けてくれるなら、テレビ番組なんか作らないでCM放映に専念した方が効率的です。
そういう場所で、静かなドキュメンタリーを流すのは難しいでしょうね。
邦画のドキュメンタリーでも、解説や効果音はなかったりしますね。まぁ、いろいろかと。
また、地上波には地上波の役割があるのだと思います。
少なくとも民放地上波はCMを流すための媒体で、視聴者の飽きがこないようにCMの合間にバラエティやドラマを挿入しているようなものです。視聴者がCMを見続けてくれるなら、テレビ番組なんか作らないでCM放映に専念した方が効率的です。
そういう場所で、静かなドキュメンタリーを流すのは難しいでしょうね。
⇒trackback
トラックバックの反映にはしばらく時間がかかります。ご容赦ください。◎『牛の鈴音』◎ ※ネタバレ有
2008年:韓国映画、イ・チュンニョル監督&脚本&編集、チェ・ウォンギュン、イ・サムスン出演。
『牛の鈴音』:老牝牛よ、お前は愛されていたよ @ロードショウ・ミニシアター
丑年の締めくくり、劇場鑑賞の年収めが『牛の鈴音』になるとは、なんたる巡り合わせ。
アメリカン・ドキュメンタリーの雄牛マイケル・ムーアの最新作『キャピタリズム』だということを考えれば、なんとも対極的ですね。
昨年の締めくくりが『ザ・ローロング・ストーンズ...
土に生きる~『牛の鈴音』
OLD PARTNER
韓国の農村。70歳を過ぎた老夫婦と共に農作業に従事する、40歳になる
雌牛がいた。老いて骨と皮になった牛は、余命一年と...
牛の鈴音(2008)OLD PARTNER
その老いぼれ牛は、お爺さんと一緒に30年も働き続けた。
京都シネマにて鑑賞。「牛の鈴症候群」と呼ばれる社会現象を起こしたドキュメンタリーだということもまったく知りませんでした。おそらく一昔前なら、ここまでブレイクしなかったのではないかと思うのです。殺伐...
牛の鈴音
韓国ではミニシアター系とかインディペンデントとかいう作品がヒットすることはほぼないといっていいのに1位になったというドキュメンタリー。自分も足の障害などでガタがきているお爺さんが、もう普通なら寿命を越えているような年寄り牛を耕作や草運びなどに使う。効率...
牛の鈴音
韓国の田舎に暮らす老夫婦の日常を追ったドキュメンタリー。 79歳のチェ爺さんは、40歳という年取った牛を飼っていて、それに荷車や鋤を引かせて畑仕事をしている。長年連れ添ったイ婆さんも、年老いた体で農作業。 チェ爺さんの左足は、子どもの頃の針治療の失敗で、...
牛の鈴音
「生」を全うすること。
それ以外は何も描かない「何もない美しさ」が奇跡のようです。
作品データ
原題:OLD PARTNER
製作年:2008年
製作国:韓国
配給:スターサンズ=シグロ
上映時間:78分
スタッフ
監督:イ・チュンニョル
プロデューサー:コー・ヨ...
『牛の鈴音』
(英題:Old Partner)
ときどき、フォーン相手には喋りにくい映画というものに出くわすことがある。
テーマが真摯すぎてという『ユナイテッド93』は、その代表的な例。
そしてもうひとつが『いぬのえいが』のように、動物との関係を描いた作品だ。
それが「命」を軸にし...
『牛の鈴音』
鈴音ひとつで解り合える。同じ速度で歩いてく。
老いぼれ牛と爺さんの、奇跡のような“生きる絆”
誰も彼らを引き離すことなんてできなかった。
かけがえのない、人生のパートナーだったから。
『牛の鈴音』 英題:OLD PARTNER
2008年/韓国/78min
監督・脚本
「牛の鈴音」
原題ウォナンソリ韓国の片田舎、老い耄れの牛と一緒に暮らす老い耄れの夫婦の一年と少しを追うドキュメンタリー。監督・脚本・編集:イ・チュンニョル出演:チェ・ウォンギュン、イ・サムスン対象が動きの無いものであるためか、カット割が非常に凝っている。それだけでは...
■3. 牛の鈴音
'08年、韓国監督・脚本・編集:イ・チュンニョルプロデューサー:コー・ヨンジェ撮影:チ・ジェウ音楽:ホ・フン、ミン・ソユン素晴らしい映画を見た、という満足感でいっぱいだ。ここにあるのは、最低限のものだけ。現代文明に住む私たちが、当然のように享受しているも
ウルフの鈴音
「ウルフマン」
「牛の鈴音」
【映画】牛の鈴音
2008 韓
mini review 10495「牛の鈴音」★★★★★★★★★☆
韓国で観客動員数累計300万人という大ヒットを飛ばし、インディペンデント映画初の興行成績第1位、歴代最高収益率を誇る感動のドキュメンタリー。農業の機械化が進む中、牛とともに働き、農薬も使用...