『ワンダーウーマン』の二段構えのラスト

「ワンダーウーマン」オリジナル・サウンドトラック Soundtrack 【ネタバレ注意】

 何と、こんなアレンジで来たか!
 映画『ワンダーウーマン』についてほとんど白紙の状態で観に行った私は、意表を突いた設定に驚いた。

 この映画については白紙でも、ワンダーウーマンを映画デビューさせるためにスーパーマンとバットマンが前座を務めたような『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』で彼女の勇姿は目にしていたし、リンダ・カーター主演の1970年代のテレビドラマも見ていたから、基本設定は知っている。だから、アマゾネスの島からやってきた鉄腕美女ワンダーウーマンが、ドイツ軍をバッタバッタとなぎ倒す、そんな映画だろうとタカをくくっていた。

 ところが、アマゾネスの島のワンダーウーマンがドイツ軍をバッタバッタとなぎ倒しているというのに、この映画はどうもおかしい。米国軍人スティーブ・トレバーの乗った飛行機がやけに古臭いし、ドイツ兵の服装も野暮ったい。
 原作やテレビ版と同じような話だと思いこんでいて、すぐには判らなかったのだが、この映画はなんと第一次世界大戦を舞台にしていたのだ!

空飛ぶ鉄腕美女ワンダーウーマン (3枚組) [DVD] 1941年にマンガ界に登場したワンダーウーマンは、40年代のマンガの例にもれずプロパガンダ的性格が強かった。キャプテン・アメリカがナチス・ドイツや大日本帝国と戦ったように、星条旗をあしらったコスチュームの彼女も、第二次世界大戦を背景にもっぱらナチス・ドイツと戦っていた。

 けれども、敵役がナチス・ドイツならコテンパンにやっつけていい時代は終わっている。第二次世界大戦当時を舞台にした映画『キャプテン・アメリカ ザ・ファースト・アベンジャー』(2011年)でキャップが戦った相手は、ナチス・ドイツそのものではなく、その中に巣くう秘密結社ヒドラだった。これは、ナチス・ドイツの非道は許さないが、今のドイツのことを思えば、ドイツだからと敵扱いするのはもうやめようというハリウッドからのメッセージにほかなるまい。

 キャプテン・アメリカに負けじと、女もナチス・ドイツを許さない姿勢を誇示していたワンダーウーマンが、2017年に銀幕に登場するに当たって、ドイツをどう描くのか、誰を悪者扱いするのか。私はそこに興味があった。
 だから映画がはじまって、相変わらず戦争中が舞台で、ドイツが敵だと判ったとき、私は一瞬『キャプテン・アメリカ ザ・ファースト・アベンジャー』よりも後退した世界観だと思ってしまった。
 うかつだった。ドイツ相手のアクション映画を撮るだけであれば、第二次世界大戦を舞台にすればこと足りる。


■あだ名は"ワンダーウーマン"だった

 世界大戦のさなか、アマゾネスの島に不時着した米国軍人スティーブ・トレバーを助けたダイアナは、スティーブとともに島を出て、ワンダーウーマンとなってドイツ軍と戦う――というテレビシリーズ同様のストーリーを繰り返しながら、この映画はあえて第一次世界大戦当時を舞台にすることで、ナチス・ドイツを敵扱いするステレオタイプやプロパガンダから脱している。いや、少し云い方を変えよう。この映画は、ナチス・ドイツを敵扱いするステレオタイプやプロパガンダに陥ることなく、1970年代のテレビドラマと同じようなストーリーを描くことに成功している。

空飛ぶ鉄腕美女ワンダーウーマン (3枚組) [DVD] リンダ・カーターが主演した70年代のドラマ『ワンダーウーマン』の大ファンだったパティ・ジェンキンス監督は、本作を撮るのが長年の夢だった。2005年に映画化のチャンスがあったけれど、出産のために降板した彼女にとって、(他の監督による映画化の試みが潰えて)最終的に監督ができたのは幸運だったという。
 リンダ・カーターのドラマが好きだったパティ・ジェンキンス監督は、スパイダーマンの映画に1960年代のアニメのテーマ曲が流れたり、『レゴバットマン ザ・ムービー』にやはり1960年代のテレビドラマのテーマ曲が流れたりしたように、本作でもドラマ版の主題歌を流したかったそうだ。残念ながら、今回の映画にあの軽快な主題歌が似合うシーンを見つけることはできなかったけれど、エンドクレジットの謝辞にはマンガ家のジョージ・ペリッツやジム・リーやクリフ・チアンらだけでなくリンダ・カーターの名も上げている。

 ジェンキンス監督は、ワンダーウーマンばかりか、リチャード・ドナー監督の『スーパーマン』(1978年)も大好きだった。『スター・ウォーズ』の影響も大きいけれど、自分が今こうしているのは『スーパーマン』を観たからだと述べている。
 実際、ダイアナがロンドンにやってきたときの幾つかのエピソード――回転ドアに戸惑うユーモラスなシーンとか――は、スーパーマンのメトロポリスでの出来事へのオマージュだと云われる。

 長年映画化が取り沙汰されながら、これまで映画化できなかった『ワンダーウーマン』が、パティ・ジェンキンス監督によってはじめて映画になり、評価、興行成績ともに大成功を収めた理由が判るような気がする。
 サンドラ・ブロックやキャサリン・ゼタ=ジョーンズやオルガ・キュリレンコやアンジェリーナ・ジョリーら数々の女優がワンダーウーマン役として噂されてきた(アンジェリーナ・ジョリーは監督候補としても検討された)。しかし、スーパーマンといえば今もってクリストファー・リーヴの印象が強いように、ワンダーウーマンといえばやっぱりリンダ・カーターなのだ。絶世の美女であり、気高く逞しいワンダーウーマンは、元ミス・ワールドアメリカ代表のリンダ・カーターだから演じ得た。それほどキャラクターが確立しているワンダーウーマンの映像化は、スーパーマンやワンダーウーマンの魅力を知り尽した――高校時代のあだ名が"ワンダーウーマン"だったほどの――ジェンキンス監督だからできたのだろう。


Wonder Woman CD, Import さすがにジェンキンス監督は、スーパーヒーロー物の描き方を心得ている。
 リチャード・ドナー降板後のスーパーマンシリーズや『マン・オブ・スティール』に感情移入しにくい理由の一つは、すぐに主人公や敵キャラが大げさなスーパーパワーを発揮して何でも壊してしまうからだ。考えてみて欲しい、『ドラゴンボール』の主人公孫悟空が連載早々いきなり超サイヤ人になって元気玉を放ったら、誰もが白けてしまったはずだ。あれは、ちょっと力の強いだけだった主人公が天下一武道会に出たり数々の敵と戦いながら強くなっていく過程がきちんと描かれているから面白いのだ。
 『スーパーマン』大好き少女だったジェンキンス監督は、本作でワンダーウーマンのパワーを丁寧に段階的に描いている。

 実は、ワンダーウーマンが西部戦線の無人地帯を突破するシークエンスは、カットされるところだったという。映画会社からすれば、ワンダーウーマンが銃撃を浴びながらジリジリ前進する画なんて地味なだけで、早く派手な戦闘シーンに移ったほうが見栄えがすると思われたのかもしれない。
 だが、ジェンキンス監督は、ダイアナの決意と自己肯定を描くためにこのシークエンスは欠かせないと主張した。実際、あの描写があるから、ワンダーウーマンが頼りになることや、不屈の闘志の持ち主であることが、観客にも肌感覚で伝わってくるのだ。いきなり神をも倒すスーパーパワーを発揮されていたら、こうはいかないだろう。


 本作でワンダーウーマンを演じたガル・ガドットも素晴らしい。ミス・ユニバースのイスラエル代表で、前年公開の『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』でワンダーウーマンを演じ、バットマンとスーパーマンの顔色をなからしめるほどの強烈な印象を残したガル・ガドットは、美貌も存在感も申し分ない。
 彼女は、再撮影のとき妊娠五ヶ月だったという。すでにお腹が大きくなっていたので、コスチュームの腹部を緑の布に変えておき、撮影後の視覚効果で見え方を調節したそうだ。スタッフ・キャストが協力し合い、仕事と妊娠を両立できたのは喜ばしいことだ。


大きな写真、TV「ワンダーウーマン」リンダ・カーター■スーパーヒロインを際立たせる方法

 本作の時代設定が第一次世界大戦末期の1918年に変えられたのは、その時代のほうが適切だと考えられたからだという。「第一次世界大戦で、私たちははじめて自分たちの文明の根本を見つめることになりました。しかし、私たちはその歴史を本当に知っているとはいえません。この時代は、目の前にいない相手を殺せる機械化された戦争や、女性の権利についての問題等があり、とても興味深いときなのです。」

 1918年は、激しい政治運動のおかげでようやく一部の英国女性に参政権が認められた年である。といっても、英国男性が21歳以上なら参政権が認められていたのに、女性は世帯主か、世帯主の妻か、5ポンド以上の不動産所有者か、大卒者のいずれかで、30歳以上に限るという、厳しく制限されたものだった。英国で男女ともに21歳以上に参政権が認められるのは、10年後の1928年を待たねばならない(日本で女性参政権が実現するには、さらに時代が下って、大日本帝国が壊滅した第二次世界大戦後、日本を占領したダグラス・マッカーサーに「婦人の解放」を命令してもらわねばならなかった)。
 このように女性の権利が制限された時代を背景にすることは、スーパーヒロインを際立たせるのに打ってつけだ。堂々と政治のことに口を挟んだり、みずから戦場へ赴こうとするダイアナは、21世紀なら特別ではないかもしれないが、20世紀初頭ではその言動だけで誰からも注目されるのだ。


 ダイアナがスーパーヒロインなのは、時代設定だけによるものではない。
 彼女は母ヒッポリタ女王から、「武術を学ぶな、家の中で勉強しろ」と厳しく命じられてきた。けれども、彼女は親の云うことを聞かない反骨精神の持ち主だった。親に内緒で鍛錬を続けたおかげで、彼女はアマゾネス最強の戦士になれた。

 親の云うことをきいて(親の期待どおりに行動して)、みずからの可能性を潰してしまう子供は少なくない。たとえば、男女の数学の能力を計測すると有意な差は見られないのに、女子は自分が数学が苦手であると思い込んだり、理系の進路を避けたりするという。こういった女子は、男子に比べて親や社会から数学の能力を期待されて来なかったのだと云われる。
 現代社会でもありがちなこのような親の態度をはね返し、興味のあることに熱心に取り組んだダイアナは、子供の観客にとって立派な規範となろう(ヒッポリタ女王は、親にとっての反面教師となろう)。


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 第一次世界大戦は、飛行機、戦車、潜水艦といった科学兵器が投入され、相手の顔を見ることなく殺せる機械化戦争の幕開けでもあった。とりわけ残虐な兵器が、本作で取り上げられた毒ガスだ。

 本作が他のスーパーヒーロー物とひと味違うのは、これが戦争映画だからだ。スーパーヒーローはどの映画でも派手な戦いを繰り広げるが、多くは現実離れした世界での現実離れした戦いだ。本作のように現実の戦争に赴いて、実在した兵器を巡って実在した軍隊と戦う作品は、戦争映画に分類されるべきだろう。

 前述したように『キャプテン・アメリカ ザ・ファースト・アベンジャー』も第二次世界大戦中の話だったが、あれはヒドラという架空の敵との架空の戦いを描いていた。そうすることで、現実にも劇中でも戦時プロパガンダ用のキャラクターだったキャプテン・アメリカを、戦争物から解放し、全世界に通用する普遍的なスーパーヒーローへと脱皮させる映画だった。
 本作は違う。ワンダーウーマンの名の下に現代的な女性を100年前の戦場に立たせ、戦争とは何か、人間はどうあるべきかを問うた作品だ。人類史上はじめて全世界規模で戦われ、人類の戦争史にとどめを刺す「戦争を終わらせるための戦争」と呼ばれた第一次世界大戦を題材にしたところに、戦争映画としての本気度が現れていよう。

 本作で描かれるのは、ドイツ帝国を中心とする中央同盟国と英仏等からなる連合国との戦いだが、主人公ダイアナは戦争の陰に軍神アレスがいると考え、アレスの探索に邁進する。これでアレスを退治して平和を取り戻すなら、なんてことはないスーパーヒーロー物だが、そうは問屋が卸さない。

 ダイアナはドイツ軍のエーリヒ・ルーデンドルフ将軍こそ軍神アレスのうつせみの姿とにらみ、ルーデンドルフとの一対一の対決に臨む。現実のエーリヒ・ルーデンドルフは第一次世界大戦後も政治的影響力を保ち、アドルフ・ヒトラーと協力関係を結んだりしたが、本作ではワンダーウーマンとの戦いに敗れ、毒ガス散布作戦の半ばで死んでしまう。
 人々を操って争いを起こしていたアレスは死んだ。これで人々の心は晴れ、戦争は終わるはずだ。――そう考えたダイアナは、ほっとしたように周囲を見回すが、ドイツ兵は毒ガスを搬送し、毒ガス散布作戦は着々と進められている。
 なぜだ!? なぜ、アレスに操られているわけでもないのに、みんな戦争をやめないのだ!?

映画 ワンダーウーマン ポスター 42x30cm WONDER WOMAN 2017 ガル ガドット クリス パイン ショックで茫然とするダイアナに、スティーブが語るシーンが、本作のクライマックスだ。
 これまでも、アレスさえ倒せば戦争は終わると楽観視するダイアナに何か云いたそうだったスティーブは、はじめて強い口調で語りかける。「僕だって悪者のせいにしたい。だけど、そうじゃないんだ。戦争はみんなに責任があるんだ」と。

 スティーブがダイアナに説明することは、戦争をテーマにしたマンガ『サイボーグ009』で主人公009が聞かされたことと同じだ。
 人気マンガ『サイボーグ009』の完結編として描かれた「地下帝国ヨミ編」の終盤で、世の中のすべての争いを考え出し、命令していた「黒い幽霊団(ブラック・ゴースト)」の総統を目の前にした009は、こいつさえ倒せば世界から戦争がなくなると思う。しかし、総統は笑いながら、「黒い幽霊団」を滅ぼすことはできないと説く。
---
「黒い幽霊団」ヲ殺スニハ地球上ノ人間ゼンブヲ殺サネバナラナイ!
ナゼナラ「黒い幽霊団」ハ人間タチノ心カラ生マレタモノダカラダ
人間ノ悪ガ ミニクイ欲望ガ作リアゲタ怪物ダカラダ!
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 『サイボーグ009』の劇場版アニメでもテレビアニメでも同様のセリフがあるから、憶えている方も多いだろう。

 スティーブの言葉を聞いたダイアナは、人間はみんな同じなんだと悟る。
 映画の冒頭で、スティーブがドイツ軍を指差して、あれは悪いヤツらだと説明したのを鵜呑みにしていたダイアナは、ドイツ軍の背後にアレスがいると思い込んだ(観客は、ドイツを悪者扱いするいつものパターンだと思い込んだ)。だが、将軍一人が死んでも戦争は終わらないのが当たり前だというスティーブの言葉に、連合国側も同じなのだと思い知る。これは、正しい側と悪い側の戦いではないのだ。どちらも争いばかりしている、同じような人間たちなのだ。

 映画『ワンダーウーマン』は、悪者をやっつけて世界に平和をもたらそうという勧善懲悪的な雰囲気ではじまりながら、戦場の悲惨な描写を経て、一人のスーパーヒーローではどうにもならない現実を描き出す。そして、戦争とはそういうものなのだ、人の世の争いをひと握りの悪者に帰することはできないのだという結論に行き着いて、スーパーヒーロー物の定石を引っくり返す。スーパーヒーロー物を否定するような結論を提示して、観客に衝撃を与えたのだ。
 映画のクライマックスとしては、これで充分だろう。戦争映画として、見事なラストになっている。
 ギリシャ神話から説き起こし、戦争がやまない人間の歴史を描いてきた本作は、ここで一つの結末を迎えたといえよう。

 もちろん、多くの観客はそんな哲学談義を聞きに来たわけではない。娯楽映画としてのラストが必要だ。映画の作り手は観客を感動させ、喜んでもらうことで、商業的に成功する必要がある。
 押井守流に云えば、「芸術的に成功したとしても、そのエンディングじゃ次の映画は撮れないから」だ。


カサブランカ 製作70周年記念 アルティメット・コレクターズ・エディション(初回限定生産) [Blu-ray]■第二段階のラスト

 本作には、『スーパーマン』(1978年)や『バットマン ビギンズ』(2005)やインディ・ジョーンズシリーズ(1981年~)や『リトル・マーメイド』(1989年)や『カサブランカ』(1942年)からの影響があるという。『スーパーマン』と『バットマン ビギンズ』はスーパーヒーローの起源を描く物語のお手本としてだろうし、インディ・ジョーンズシリーズはナチス・ドイツと戦う冒険譚として、『リトル・マーメイド』は外界を知らないお姫様が海で男性を助けたことをきっかけに外へ飛び出し、最後には助けた男性に助けられる物語として本作のお手本になったのだろう。
 最後の手本は『カサブランカ』だ。戦争中のカサブランカを舞台に、愛する女性と彼女が生きる世界のために、みずから犠牲になる男の泣かせる話が、本作のラストで再現される。

 姿を現した真のアレスとダイアナが激突する中、スティーブ・トレバーは大量の毒ガス弾を始末するため、ダイアナに別れを告げて単身爆撃機に乗り込む。離陸寸前の爆撃機からドイツ兵を蹴り落とし、一人で高空へ昇ったスティーブは、毒ガスとともに自爆する。
 スティーブの犠牲的精神により大勢の死は免れるが、ここで大事なのは、スティーブの犠牲が特攻とは異なることだ。主人公が特攻する映画もときにはあるが、特攻、すなわち特別攻撃は、あくまで敵を殺傷することを目的とする。一方、本作のスティーブは、味方だけ避難させて敵基地で毒ガス弾を爆発させれば敵もろとも毒ガスをなくすことができたのに、あえて誰もいない上空で自爆する。そうすることで、彼は味方を毒ガス攻撃から救うだけでなく、敵の命をも救ったのだ。

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 毒ガスがなくなり、戦いをそそのかす神アレスもいなくなったとき、朝の光が降り注ぐ下で、ガスマスクを被っていたドイツ兵が一人またひとりとマスクを外していく。さっきまではただ殺すべき敵だったのに、マスクの下から現れた素顔は、まだ初々しい若者だった。目を移せば、愛嬌のあるおじさんもいる。彼らは、美しい朝陽が眩しいような、少しくたびれたような格好で立ち尽くしている。
 この人たちを殺そうとしていたのだ。彼らが敵の陣営というだけで。

 ここにも第一次世界大戦を舞台にした意義があろう。第二次世界大戦のナチス・ドイツによるホロコーストを知る人やその遺族が今も悲しみ苦しみを抱える中、ドイツ兵とも仲良くできるというメッセージは、いかに高尚なものであろうと受け止めにくい。第一次世界大戦まで遡り、直接の経験者がいない時代だからこそ、冷静にこの場面を観られるというものだ。

 戦いを終えて、ダイアナは一人つぶやく。
 「私は人間同士が憎み合う恐ろしさを目撃した。愛の強さも目にした。今なら判る。愛だけがこの世界を救えるのだと。」


■世界の平和のために

 本作のキャスティングは絶妙であり、皮肉でもある。
 ガル・ガドット演じるワンダーウーマン=ダイアナ・プリンスは、人間の愛を信じ、敵味方に関係なく救わねばならないと悟るのだが、そこに欺瞞を感じる人々の抗議によって、本作はいくつもの国で上映禁止や公開延期になっている。

 世界から戦火が絶えることはないが、この一世紀、とりわけ動乱が続いているのが中東だ。
 2014年7月、イスラエル軍がパレスチナのガザ地区を攻撃し、街は壊滅、11万人が家を失い、多くの子供を含む1,500人以上の市民が死亡した。世界中から非難されたこの虐殺のさなか、かつてイスラエル軍の戦闘トレーナーだったガル・ガドットは「私たちが正しい」「イスラエル軍を愛す」といったイスラエルの正当性を主張するメッセージを発信した。
 周辺国の人々からすれば、こんな人物がスクリーンに登場して愛だの平和だの説く映画は観たくないということだ。一方、イスラエルでは、世界的な映画スターとなったガル・ガドットを押し立てれば、イスラエルの負のイメージを払拭できると喜ぶ人がいる。

 皮肉なことに、『ワンダーウーマン』の成功でスターの座を掴み、これからもワンダーウーマンを演じる予定のガル・ガドットは、今後発言に気をつけなければならないだろう。世間はワンダーウーマンを演じる俳優にワンダーウーマンらしい振る舞いを期待するに違いない。

 戦いに正しい側と悪い側などなく、人間はみな同じであると知ったワンダーウーマン。愛だけが世界を救えるというワンダーウーマンの言葉は、ガル・ガドットの心に響いているだろうか。


「ワンダーウーマン」オリジナル・サウンドトラック Soundtrackワンダーウーマン』  [わ行]
監督/パティ・ジェンキンス
出演/ ガル・ガドット クリス・パイン ロビン・ライト ダニー・ヒューストン デヴィッド・シューリス コニー・ニールセン エレナ・アナヤ ユエン・ブレムナー サイード・タグマウイ ユージーン・ブレイヴ・ロック ルーシー・デイヴィス
日本公開/2017年8月25日
ジャンル/[戦争] [アクション] [アドベンチャー] [ドラマ]
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【theme : 戦争映画
【genre : 映画

tag : パティ・ジェンキンス ガル・ガドット クリス・パイン ロビン・ライト ダニー・ヒューストン デヴィッド・シューリス コニー・ニールセン エレナ・アナヤ ユエン・ブレムナー サイード・タグマウイ

⇒comment

こんばんは!

TBコメントありがとうございます~

>『マン・オブ・スティール』に感情移入しにくい理由の一つは、すぐに主人公や敵キャラが大げさなスーパーパワーを発揮して何でも壊してしまうからだ。

本当に同感なんですよ!
あと小さい頃に見たスーパーマンの映画って悪と戦う戦士よりは、超人的な力のレスキュー隊みたいな印象があって、なんか最新作のスーパーマンはキャラクターとして怖いなって思っちゃいました。
私が一番好きなアメコミが『DCスーパーヒーローズ』でスーパーマンが北朝鮮とか世界中に食料を届ける話で、すごい切ないんですけど、それこそ髪ではなく“人類の理想系としての優しさ”がにじみ出ていたスーパーマンだったな、と思いました。

あれ、ワンダーウーマンのはなししてないや(^_^;)個人的にはメガネかけた秘書のファッションの彼女が一番面白かったです!

Re: こんばんは!

ゴーダイさん、こんにちは。
そうそう、スーパーマンは人を助けるんですよね。バットマンのように悪を懲らしめるためにヒーローをやってるわけじゃなく、生まれつき凄いパワーを持っているので、せっかくだから人助けをしているのがスーパーマン。墜落しそうな飛行機があれば支えてあげて、脱線しそうな列車があれば無事に通過させてあげる。
DCエクステンデッド・ユニバースのスーパーマンは戦うのに忙しくて、そんな大らかな人助けはしなくなりましたね。それが現代的なのかどうか私には判りませんが、少々寂しい気がします。記者としてのクラーク・ケントも、悪を追求することに血道を上げてましたしね。

その点、ワンダーウーマンは、もともと悪に打ち勝ち、世界を変革するのが使命です。それはこの映画にもしっかり受け継がれていましたね。

リンダ・カーターはメガネをかけた秘書の姿も素敵でしたが、ガル・ガドットの秘書のファッションも素敵でした。
この映画でダイアナが秘書の役回りを果たすことはあり得ないわけですが、もう少しメガネをかけていてもいいのになと思いました。
Secret

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