『スパイダーマン:ホームカミング』 過去のシリーズとは大違い!

「スパイダーマン:ホームカミング」オリジナル・サウンドトラック Soundtrack 【ネタバレ注意】

 2002年に公開されたサム・ライミ監督の『スパイダーマン』は傑作だった。その傑出したシリーズを中止してリブートするなんて、大それたことに違いなかった。
 ところが2012年に公開された『アメイジング・スパイダーマン』は、まさにアメイジングな作品だった!その続編『アメイジング・スパイダーマン2』も、涙なくしては観られない傑作だった。

 それが再びリブートされた。
 前作からたった三年しか経っていないのに、また新しいスパイダーマン映画が公開される。さすがにもう楽しめないだろうと思ったが、とんでもなかった。2017年の『スパイダーマン:ホームカミング』は、スパイダーマンというキャラクターの奥深さを改めて感じさせるものだった。

 本作の原題は、邦題と同じく『Spider-Man: Homecoming』。題名に付けられた homecoming には三つの意味が込められているのだろう。
 一つには、「帰宅」とか「帰郷」の意味がある。すなわち、『スパイダーマン:ホームカミング』とは、「スパイダーマンが帰ってきた」ということだ。三年ぶりの新作に、多くのファンが喜んだはずだ。
 二つ目は、劇中で描かれるホームカミングパーティーのこと。これは、高校や大学で行われる年に一度のイベントだ。このイベントには卒業生や旧職員が招かれるから「ホームカミング」と呼ばれるが、在校生にとっても大切な場であるのは映画を観ればお判りのとおり。本作のクライマックスもホームカミングの夜だ。

 そして三つ目が、マーベル・スタジオが制作する一連のヒーロー映画群、マーベル・シネマティック・ユニバーススパイダーマンが帰ってきたことを指す。
 これまでのスパイダーマン映画は、ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメント傘下のコロンビア・ピクチャーズが制作してきた。しかし、とうとうウォルト・ディズニー・カンパニーの子会社マーベル・スタジオが参画し、アベンジャーズと同じ世界で活躍できるようになったのだ。

 本作をつくることが決まる前、ソニーはマーベル・シネマティック・ユニバースとは別にスパイダーマンを中心にした映画の世界を計画していた。スパイダーマンの恋人でもある女盗賊ブラックキャットや、強敵ヴェノム、悪党同盟シニスター・シックスの映画や、『アメイジング・スパイダーマン』の第三弾、第四弾も予定されていた。『アメイジング・スパイダーマン』シリーズに主演したアンドリュー・ガーフィールドの出演契約も済んでいたという。
 けれども、『アメイジング・スパイダーマン2』が成績不振に終わると、ソニーはマーベル・スタジオからの提携の申し出を受け入れ、これらの計画をキャンセルしてしまった(かろうじてヴェノムの映画は作られるようだが)。そして誕生したのが『スパイダーマン:ホームカミング』だ。

 スパイダーマンはこれまでマーベル・シネマティック・ユニバースに加わっていなかったのだから、「帰郷」と表現するのはおかしいかもしれない。
 だが、かつてスタジオを持たなかったマーベルが、ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメントを口説いてスパイダーマンを映画化してもらい、世界でもっとも売れているマンガX-MENを20世紀フォックスから映画デビューさせ、それらの積み重ねの上にこんにちのアメコミ映画の全盛があるとはいえ、マーベル・スタジオが次々にヒットを飛ばせるようになった今、マーベル・コミックスでもっとも知名度の高いヒーロー、スパイダーマンをみずからのスタジオから世に出せるのは、何より嬉しいに違いない。「ホームカミング」という命名には、その喜びが込められていよう。
 そう、本作はみんなが愛するスパイダーマンを、愛情たっぷりに描いた映画なのだ。


スパイダーマン ホームカミング:プレリュード (ShoPro Books) 単行本 マーベル・シネマティック・ユニバースの過去の作品と同じように、本作でも主人公ピーター・パーカーを導くのはニック・フューリーのはずだった。それがトニー・スタークに替わったことから、アイアンマンとスパイダーマンの共演が実現した。
 原作マンガのスパイダーマンはアベンジャーズのメンバーだったから、映画でアベンジャーズに加わってもおかしくはない。しかし、本作で面白いのは、アイアンマンたちとの絡みよりも、アベンジャーズとは無関係に進行するピーターの学園生活や彼の孤軍奮闘だ。それだけピーター・パーカー=スパイダーマンというキャラクターに魅力があるということだ。

 アイアンマンことトニー・スタークや彼の運転手ハッピー・ホーガンの登場も、その活躍で映画を盛り上げるのではなく、大人である彼らとの対比によってまだ15歳のピーターの少年らしさを印象づける。私は『アメイジング・スパイダーマン』の記事で「ピーター・パーカーの低年齢化に反比例するように、大人は大人らしく思慮深くなった」と書いた。本作ではその傾向がますます強まり、前作以上に低年齢化したピーターが、年季の入った大人たちを相手に、文字どおり"大人顔負け"の活躍をして楽しませてくれる。

 過去二回のシリーズと比べると、本作の特徴が良く判る。
 トビー・マグワイア主演の『スパイダーマン』シリーズは、「持てる者」の物語だった。好きな女の子に相手にされず、いじめられっ子だったピーターが、「大いなる力」を持つ者となり、「大いなる責任」を自覚して、人間的に成長する。そこに観客は共感し、感情移入した。
 アンドリュー・ガーフィールド主演の『アメイジング・スパイダーマン』シリーズは、「持たざる者」の物語だった。両親を失い、叔父さんを失い、大切な人・愛する人を失いながら、それでも闘い続ける彼の姿に、観客は涙し、悲しみを共有した。

 トム・ホランド主演の『スパイダーマン:ホームカミング』は、そのどちらでもない。本作のピーターは両親のことに触れないし、ベン叔父さんの死も過去のことになっている。スパイダー・パワーを得て動揺する様も描かれない。それどころかスパイダー・パワーを活かしたくて仕方のない彼は、一流校学力コンテストの主力選手としても尊敬されているし、片想いの相手リズ(後のスーパーヒロイン、ファイアスター)とも上手くいくし、ゼンデイヤ演じるちょっと変わった女の子にも惚れられているみたい。ピーターの学園生活は、スクールカーストの底辺であえいでいた過去作とはうって変わって、けっこう充実している。
 端的なのが、ピーターと同じ高校に通うフラッシュ・トンプソンの扱いだ。『スパイダーマン』シリーズでも『アメイジング・スパイダーマン』シリーズでも、フラッシュはピーターをいじめる乱暴者だった。ところが本作のフラッシュは、ピーターを愚弄しようとして空振りしているお調子者だ。学業でも部活でもみんなから一目置かれるピーターに、何とか恥をかかせようとするものの、気がつけばピーターの株が上がるばかり。

 過去のスパイダーマン映画は、ピーターの情念や悲しみを丁寧に描くことで観客に感情移入させ、主人公と同一視させることで魅了してきた。
 しかし、「大いなる責任」に苦悩したり、喪失の悲しみに捉われることなく充実した毎日を送る本作のピーターを、観客は自己と同一視しないだろう。ときには失敗することもあるこの少年を観客は好感をもって見守るが、彼は決して観客自身ではない。
 では、本作のピーターは何者なのか。
 その答えは、スパイダーマンのお馴染みのキャッチフレーズに集約される。彼は、「あなたの親愛なる隣人(Your Friendly Neighborhood)」なのだ。


 もっとも、本作のピーターはまだ15歳の少年とはいえ、とても思慮深く理性的だ。

 『スパイダーマン:ホームカミング』の最大の見どころは、追いかけていた悪党バルチャーが、よりによって想いを寄せるリズの父親だと判ってからの展開だ。
 このときのために、本作では冒頭からバルチャーことエイドリアン・トゥームスが家族思いの人物として描かれていた。家族のため、娘のために働かなければならない彼は、大富豪トニー・スタークの事業と競合して仕事を失い、非合法な道に走らざるを得なくなる。口を開けば家族への思いと金持ちへの恨みごとを繰り返す彼は、観客から同情されやすいキャラクターだ。

 注目すべきは、バルチャーの正体を知ったピーターに葛藤も逡巡もないことだ。ピーターは、リズの父親だからと戦うことをためらったり、手控えたりしようとは考えない。
 リズと両親の様子を見れば、深い愛情で結ばれた家族であることはピーターにだって判る。父親が犯罪者と知ればリズは嘆き悲しむに違いない。家庭は滅茶苦茶になり、リズの生活は一変してしまうだろう。だから、バルチャーの正体を知ったピーターは顔面蒼白になり、リズへの申し訳なさでいっぱいになる。
 それでも彼はバルチャーとの戦いに急行する。なぜならバルチャーはを犯しているからだ。見逃したり手加減したりすれば、バルチャーはこれからも法を犯し続けるだろう。父親の犯罪を止めなければ、もっとリズを悲しませることになる。そこに迷いがないからピーターは戦える。

 ピーターがその判断を即座にできることに(映画の作り手が15歳の少年に即断させることに)、私は感心した。
 2002年の『スパイダーマン』に登場したグリーン・ゴブリンは、ピーターの親友ハリーの父親だった。とはいえ、ピーターは親友の父が敵と知って戦ったわけではない。ピーターの愛する人を次々襲った卑劣漢グリーン・ゴブリンとの決戦に臨んだ彼は、相手がハリーの父と知るや戦いを中断してしまう。親友の父と知って戦い続けることはできなかったのだ。
 これを思えば、なおのこと本作のピーターの信念の強さが判るだろう。この映画の背景には、規範をより強く明確に打ち出すべしという社会の要請の高まりがあるのかもしれない。規範をより強く明確に打ち出さなければという危機感の高まりがあるのかもしれない。
 
 私たちがどうあるべきかを身をもって示してくれる。それが私たちの親愛なる隣人、スパイダーマンなのだ。


「スパイダーマン:ホームカミング」オリジナル・サウンドトラック Soundtrackスパイダーマン:ホームカミング』  [さ行]
監督/ジョン・ワッツ
出演/トム・ホランド マイケル・キートン マリサ・トメイ ロバート・ダウニー・Jr ジョン・ファヴロー ジェイコブ・バタロン ゼンデイヤ ローラ・ハリアー トニー・レヴォロリ ジェニファー・コネリー ドナルド・グローヴァー グウィネス・パルトロー クリス・エヴァンス タイン・デイリー
日本公開/2017年8月11日
ジャンル/[SF] [アクション] [学園] [青春]
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【theme : アクション映画
【genre : 映画

tag : ジョン・ワッツ トム・ホランド マイケル・キートン マリサ・トメイ ロバート・ダウニー・Jr ジョン・ファヴロー ジェイコブ・バタロン ゼンデイヤ ローラ・ハリアー トニー・レヴォロリ

⇒comment

旧作から観てる自分は、ピーターがヴァルチャーを見逃せなかったのは、悪を見逃してベンおじさんが亡くなった後悔があるからだと思いました。
ヴァルチャーからの「見逃せば普通に暮らせる」との誘いが逆にピーターの原点を思い出させた。
その時のスーツがアベンジャーズ関連の新スーツではなく、旧スーツだったのも原点回帰の象徴の一つで、タイトルのホームカミングもヒーロー活動の原点へのホームカミングの意味も含まれていたのかもしれません。

Re: タイトルなし

未記入さん、コメントありがとうございます。

そうですね、ピーターが見逃すはずはないですね。
ただ、従来の作品では、ピーターがその境地に達するまでの葛藤が描かれていましたが、本作はそれを割愛していたのが特徴的でした。
代わりに、他人に頼りたくなる気持ちを脱するところに葛藤を持ってきたのが、本作の新しさですね。

No title

最近何かと邦題を変えがちなMCU映画ですが、「ホーム・カミング」はそのままで来るとは思いませんでした。まあ『スパイダーマン&アイアンマン』とならなくてよかったw
「あなたの親愛なる隣人」であるピーター・パーカーですが、戦うことになるヴィランたちもまた大抵顔見知りやご近所の人というのがなんとも。アメコミ映画も「敵は殺す」というのが主流ですがあくまで彼の命を救おうと奮闘するピーターの姿がまぶしかったです

Re: No title

SGA屋伍一さん、こんにちは。
『スパイダーマン&アイアンマン』とならなくて良かったですね。ましてや『アイアンマン&スパイダーマン』だったら涙でした。

アメコミ映画のスーパーヒーローが敵を殺すようになったのは、いつからでしょう。
70~80年代のスーパーマンは敵を殺したりしなかったし、2000年代前半のX-NENやデアデビルも敵を拘束したり戦闘不能にするだけでした。ティム・バートン監督が80~90年代に撮ったバットマンでは敵が死にましたが、不慮の事故だったり、死ぬのを防げなかっただけです。2000年代前半のスパイダーマンでも敵の死はスパイダーマンの望むところではなく、スパイダーマンは敵の死を悼んでいました。
雰囲気が変わってきたのは2000年代後半からのクリストファー・ノーラン監督のバットマンあたりからでしょうか。このバットマンは積極的に敵を殺すわけではありませんが、平気で見殺しにするというか、敵が死んでも構わないという態度でした。
ひと口にアメコミ映画と云っても、一方でパニッシャーのような大人向けのアクション路線もあったわけですが、スーパーヒーロー物がすっかり大人向けのアクション映画になり、敵を殺すのも辞さないようになったのは、わりと最近のことのように思います。そのような変化の内的要因や外的要因については、研究等もなされているんでしょうね。

平気で人を殺すアメコミ映画が増えた今、人を殺さないのが当たり前の本作は(未成年者に人殺しさせるわけにはいきませんから当然ですが)、アメコミ映画の原点回帰と云えるかもしれません。

あ、だからホームカミング!
Secret

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