『怪盗グルーのミニオン大脱走』 楽しく暮らそう

怪盗グルーのミニオン大脱走 ブルーレイ+DVDセット [Blu-ray] 【ネタバレ注意】

 前二作、いや番外編の『ミニオンズ』も入れれば過去三作を通して、このシリーズには一貫したものがあった。それが、こうも大きく変えられるとは思わなかった。

 過去の怪盗グルーシリーズに共通していたのは、1960年代の文化への愛とこだわりだ。第一作『怪盗グルーの月泥棒 3D』は、ハゲの怪盗が登場する時点でアンドレ・ユヌベル監督の60年代の快作、怪盗ファントマシリーズを彷彿とさせた。第二作『怪盗グルーのミニオン危機一発』は、60年代にはじまった007シリーズのようなスパイ・アクションだったし、『ミニオンズ』に至っては時代設定を1968年にして、当時の楽曲やテレビ番組の引用をどっさり盛り込んだ賑やかな映画だった。

 ところが、シリーズ第三作『怪盗グルーのミニオン大脱走』は、60年代の権化のはずのグルーが、80年代を引きずる悪党バルタザール・ブラットにけちょんけちょんにやられる話だ。

 小さい頃は天才子役として持てはやされても、「大人の俳優」に転身するのは難しい。必ずしも本人のせいではないのだが、まだ小さいのに有名人になってしまったために、その後の「転落人生」ばかりが報道される例も多い。と、云われると、ドリュー・バリモアやマコーレー・カルキン等、80年代から90年代初頭にかけて一世を風靡した子役たちのその後の苦労を思い浮かべる人も多いだろう。
 80年代に人気子役だったバルタザール・ブラットもそんな一人だ。彼は栄光の80年代が忘れられず、今も80年代風のファッションに身を包み、80年代のヒット曲ばかり聴いている。だから本作はこれまでとはうってかわって、80年代の文化のオンパレードだ。バルタザール・ブラットが登場するたびに、しつこく80年代の曲が鳴り響く。
 『ミニオンズ』で見せた60年代への偏愛はどうしたんだ!? と云いたくなってしまうほど、60年代色は後退している。

 映画を大ヒットさせるには、幅広い客層にアピールする必要がある。子供向け、若者向けの映画といえど、中高年に受けるポイントも押さえておきたい。子供と一緒に映画館に来た親が満足してくれることもあるだろうし、面白ければ中高年だけでも観に来てくれるかもしれない。なにより中高年は、子供はもとより若者と比べても金を持っているはずだから開拓しない手はない。
 かくして2010年代には、80年代あたりを懐かしむ層を意識した映画の公開が相次いだ。日本では『イニシエーション・ラブ』、洋画では『テッド』、『ピクセル』、『アングリーバード』等が80年代の文化を取り上げた。もちろん、本作もその延長線上にある。
 1967年生まれのピエール・コフィン監督にとって、60年代の文化はいくら好きと云ってもリアルタイムで経験したものじゃない。一方で、80年代はみずからの青春時代そのものだろう。だから、これまでの作品の60年代の取り上げ方が、敬意と憧れを感じさせたのに対し、本作の80年代の取り上げ方には、気恥ずかしさと自虐が漂っている。悪党バルタザール・ブラットの、今となっては恥ずかしい大きな肩パッドの紫の服や、ところ構わずムーンウォークせずにいられない病的パフォーマンが、それを表している。

 が、これがいい!
 ネーナの「ロックバルーンは99」やヴァン・ヘイレンの「ジャンプ」といった80年代のヒット曲は、いま聴いても名曲だし、『ラ・ラ・ランド』(2016年)でジャズピアニストの主人公が生活のために渋々演奏していたa-haの「テイク・オン・ミー」だって、やっぱりいい曲だ。
 シリーズも三作目ともなるとマンネリ化が危惧されるが、60年代の雰囲気を謳歌していたところに80年代が殴り込みをかける展開で新味を出すとはおそれいった。
 『ミニオンズ』のクライマックスの大怪獣が60年代らしさの象徴なら(たとえば『キングコング対ゴジラ』の米国公開は1963年だ)、本作で大暴れする巨大ロボット[*]は80年代の象徴だ(『UFOロボ グレンダイザー』は、「世界のテレビを変えた50作」のうち1980年を代表する作品に選出された)。

 受けて立つグルーとドルーの兄弟が、相変わらず60年代臭さぷんぷんなのもいい。奇妙な仕掛けに溢れたクルマで急行するグルーとドルーは、あたかも1968年の人気アニメ『チキチキマシン猛レース』でゼロゼロマシンを駆るブラック魔王とケンケンだ。


怪盗グルーのミニオン大脱走 Soundtrack とはいえ、『怪盗グルーのミニオン大脱走』を観終わって不思議だったのは、いい話だったような感動的だったような、はたまたバカバカしかったような、ごった煮の感情がこみ上げたことだ。とっても面白かったのだが、なんだこれはという感じだった。
 そして映画を反芻してみて、なんて取っ散らかった怪作なのかと実感した。

 前作で怪盗稼業から足を洗い、反悪党同盟のエージェントとして活躍していたグルーは、本作ではバルタザール・ブラットを取り逃がした責任を問われ、妻のルーシーともども反悪党同盟から追い出されてしまう。
 過去、怪盗グルーシリーズが発表されたのは、民主党のオバマ政権のときだった。けれども、本作の公開に先立つ2016年11月の投票で、共和党のドナルド・トランプが大統領選に勝利し、政権スタッフは刷新された。あたかもこれを反映したかのように、本作では反悪党同盟の局長サイラス・ラムズボトムが、いけ好かないヴァレリー・ダ・ヴィンチへ取って代わられてしまう。ヴァレリー・ダ・ヴィンチは、トランプの選挙対策本部長にして現在の大統領顧問であるケリーアン・コンウェイを模したキャラクターだといわれている。とにもかくにも、理不尽にも失職したグルーとルーシーは、今回は公的機関とは一線を画した立場で事件に当たる。

 ところが、バルタザール・ブラットとの対決が映画の中心なのかというと、そうでもない。グルーと双子の兄弟との再会バナシが大きな割合を占めているし、脈絡なくアグネスのユニコーン探しが挿入されるし、ルーシーは親としてどう振る舞うか悩んでいて、ミニオンたちはグルーと袂を分かって放浪している。前二作と同じように愛する者が連れ去られ、それを助けに行く展開はあるものの、誘拐目的の事件ではないから、これまでと違って救出劇がクライマックスにはならない。
 個々のエピソードはほとんど交わることなく並行して進んでいき、最後になってようやく一同が顔を合わせる程度だ。どうにも欲張り過ぎて、雑然とした印象である。もっと整理できたはずなのに、これでは話の焦点がはっきりしない。

 けれども、本作が微笑ましいのはアグネスら子供たちのエピソードがあるからだし、楽しいのはミニオンたちが相変わらずバカをやっているからだ。角が片方欠けた羊は待ち望んでいたユニコーンではなかったけれど、それでも変わることなく可愛がる顛末は、多様な生き方を肯定するこのシリーズに相応しく感動的だ。
 仕事を干されてグレてしまったブラットと、親の遺産を食い潰しながらそんな自分を変えたいドルーと、職がないことに負い目を感じて復職に懸命なグルー。中年男たちが三者三様にあがく姿は、スラップスティックの中にも悲哀を漂わせる。

 そして気がつくのだ。こんな風にいろんなことが並行して起きているのが私たちの日常なのだと。職場にしろ家庭にしろ親戚縁者のことにしろ、いつだってこちらの都合に関係なく事件は降りかかってくる。それこそが私たちの暮らしだから、本作が取っ散らかっているのはとうぜんなのだ。
 バルタザール・ブラットとの戦いも、ミニオンとの関係も、ドルーとの付き合いも、仕事のことも、子供たちとの暮らしも、様々なことがやがて落ち着くべきところに落ち着いていく。その畳みかけるようなハッピーエンドが、本作のごった煮の楽しさの正体だ。


 エンディングは、ピンク・パンサーシリーズのオープニングを思わせる古風なアニメーション。バルタザール・ブラットが退場した後は、また60年代風に逆戻りだ。
 やっぱりこれでこそ怪盗グルーだ。
 終わり良ければすべて良し、である。


[*] 数々のロボットアニメに敬意を表して「ロボット」と表記したが、本来ロボットとは自動機械のこと。人間が乗り込んで操縦するタイプは、正確には人型の重機と呼ぶべきだろう。


怪盗グルーのミニオン大脱走 ブルーレイ+DVDセット [Blu-ray]怪盗グルーのミニオン大脱走』  [か行]
監督/ピエール・コフィン、カイル・バルダ
出演/スティーヴ・カレル クリステン・ウィグ トレイ・パーカー ミランダ・コスグローヴ スティーヴ・クーガン ジェニー・スレイト ジュリー・アンドリュース
日本語吹替/笑福亭鶴瓶 生瀬勝久 芦田愛菜 中島美嘉 松山ケンイチ 山寺宏一 宮野真守 いとうあさこ 須藤祐実 矢島晶子
日本公開/2017年7月21日
ジャンル/[ファミリー] [コメディ] [ファンタジー] [アドベンチャー]
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【genre : 映画

tag : ピエール・コフィンカイル・バルダスティーヴ・カレルクリステン・ウィグトレイ・パーカー笑福亭鶴瓶生瀬勝久芦田愛菜中島美嘉松山ケンイチ

⇒comment

No title

巨大ロボットは何かアレに似てるなー。サンダーバードの操り人形。すると60年代なのだった。そして凄く雑然としてとっ散らかってるけど一つの物語である、と。何か冒険要素を取り込んだ「サザエさん」みたいですね。

Re: No title

fjk78deadさん、こんにちは。
あの巨大ロボットは、まさにおもちゃの人形が巨大化したようなものですからね。頼りない動きは、『サンダーバード』の人形あたりを狙ってやっているのかもしれません。
三姉妹が巨大ロボットの胸の部分に幽閉されていたので、てっきり石川賢版『グレンダイザー対グレート・マジンガー』のように戦闘に備えて人質にされたのかと思いました;-)

No title

やはりピクサー・ディズニーにくらべると教育的要素はオマケ程度というか、バカバカしさが過ぎるあたりがこのシリーズの持ち味だと思います。『BAD』を歌いながら悪事を働くあたりとかくだらなすぎて最高ですね…
『ミニオンズ2』が前作の続きだとすれば今度は70年代あたりにスポットがあてられるような気がします。おっさんの趣味を全開にしながら子供たちもきちんと喜ばせているあたりがすばらしいですね

Re: No title

SGA屋伍一さん、こんにちは。
バカバカしさに徹するのは難しいですよね。いい話、ためになる話にしたい誘惑に打ち勝つのはたいへんだと思いますが、イルミネーション・エンターテインメントはバカバカしさを疎かにしなくてたいしたものです。
同時に、おっさん趣味へのこだわりには、どこまで掘っても掘り切れないほどの奥深さもあって、もう無尽蔵に楽しめます。
この後も『ミニオンズ2』『ペット2』『シング2』が続くかと思うと、ワクワクしますね。
Secret

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