『レゴバットマン ザ・ムービー』はバットマン映画の真打だ!

レゴ(R)バットマン ザ・ムービー ブルーレイ&DVDセット(初回仕様/2枚組/デジタルコピー付) [Blu-ray] 遂に大傑作『LEGO ムービー』の世界を受け継ぐ映画が誕生した!
 『LEGO ムービー』の続編『The Lego Movie Sequel』は2019年までお預けだが、スピンオフ作品のトップを飾って『レゴバットマン ザ・ムービー』が登場だ。それは『LEGO ムービー』の面白さのツボを押さえつつ、『LEGO ムービー』と対をなす、コインの表裏のような作品だ。

 『LEGO ムービー』の魅力の一つは、映画会社やシリーズ物の枠を超えた豪華キャラクターの共演だった。バットマンやスーパーマン、グリーン・ランタンやワンダーウーマン等々、DCコミックスのスーパーヒーローが一堂に会す上に、DCには無関係なミュータント・タートルズやハリー・ポッターシリーズのダンブルドア校長や『ロード・オブ・ザ・リング』のガンダルフまで登場し、はてはハン・ソロやチューバッカらスター・ウォーズ・シリーズのキャラクターまでもが顔を見せた。
 対する『レゴバットマン ザ・ムービー』は、スーパーヴィランの共演だ。ジョーカー、ペンギン、トゥーフェイス、ベインらバットマンシリーズでお馴染みの悪役たちが集結するのに加え、次のような凶悪ヴィランが登場する。

 ・ハリー・ポッターシリーズの最も危険な闇の魔法使いヴォルデモート卿
 ・『キングコング:髑髏島の巨神』のキングコング
 ・『グレムリン』のグレムリン
 ・『タイタンの戦い』の海の怪物クラーケンと魔物メデューサ
 ・『マトリックス』のエージェント・スミス
 ・『ロード・オブ・ザ・リング』の冥王サウロン
 ・『オズの魔法使』の西の悪い魔女
 ・『ジョーズ』のホホジロザメ
 ・『ジュラシック・パーク』のティラノサウルスとヴェロキラプトル
 ・『ドクター・フー』のダレク族
 ・『大アマゾンの半魚人』の半魚人
 ・『魔人ドラキュラ』のドラキュラ伯爵
 ・『アルゴ探検隊の大冒険』の骸骨剣士

 まだまだたくさんあると思う。ちなみに、ここに挙げた作品のうち、本作を制作・配給するワーナー・ブラザースが権利を持つのは『マトリックス』までで、『ロード・オブ・ザ・リング』以降の作品には関与していないはずだが、そんなことはお構いなしの最凶の布陣が楽しい(本作では、マーベルとルーカスフィルムを含むディズニー作品には触れなかったようだ)。
 もちろん、DCコミックスのスーパーヒーローたち――ジャスティス・リーグやスーパーフレンズのメンバー等――も大集合してくれて賑やかだ。

 ところが、本作は孤独な男の物語でもある。

 『LEGO ムービー』の主人公エメットはどこにでもいる平凡な建設作業員だった。王子でも王女でもスーパーヒーローでもない彼のことなんか誰も気に留めない。エメットの存在すら知られていない。『LEGO ムービー』は、哀れで孤独な凡人の物語だった。
 対する『レゴバットマン ザ・ムービー』の主人公はもちろんバットマンだ。ゴッサム・シティ一の有名人、ジャスティス・リーグの創立メンバー、誰もが憧れるスーパーヒーローである。
 この点だけ見れば『LEGO ムービー』のエメットとは対照的だが、彼もある意味で哀れで孤独な凡人だった。広い屋敷で、たった一人でとる食事。一緒に映画を観る人もいなければ、話す相手もいない。子供の頃から面倒をみてくれた執事のアルフレッドにさえ心を開けず、孤独な生活を忘れようと悪の撲滅に打ち込む日々。みんなと同じように振る舞うことで、実は誰にも相手にされていないことに気づかないようにしていたエメットと、代わり映えしない男だった。

 本作は、『LEGO ムービー』の逆を行きつつ、その実、同じ主題を繰り返している、まさに『LEGO ムービー』と表裏一体の作品なのだ。
 仕事はそれなりにこなしていても、ときに滑稽でときに哀しいバットマンの日常生活。それは本当に切ない。


レゴバットマン ザ・ムービー Soundtrack 驚くべきことに、本作は『LEGO ムービー』同様のメタ構造も秘めている。
 『LEGO ムービー』に唖然としたのは、『8 1/2』を顔色なからしめるほど高次の視点から物語を、映画を、「レゴ」を語っていたからだ。
 本作も負けてはいない。『レゴバットマン ザ・ムービー』が驚異的なのは、バットマンを主人公にしたまぎれもないバットマン映画でありながら、往年のバットマン映画を批判し解題する、メタ・バットマン映画にもなっているからだ。
 
 「72年も戦ったのに!」
 バットマン最大の敵を自認するジョーカーは叫ぶ。

 そのとおり、1939年に創造されたバットマンにとって、ジョーカーは最古参の宿敵だ。
 アメコミファンも観客もそのことを知っているのに、これまで映画の中では秘密だった。1960年代のテレビドラマや1966年の劇場版でジョーカーはバットマンと戦ったのに、1989年に公開されたティム・バートン監督の『バットマン』はジョーカーの誕生から説き起こし、ジョーカーの死をもって幕を閉じた。ところがジョーカーは、何食わぬ顔で2008年公開のクリストファー・ノーラン監督作『ダークナイト』にも登場し、バットマンとは初対面であるかのように駆け引きした。これらはおかしいことではない。1966年の映画と1989年の映画と2008年の映画はそれぞれ独立に作られたものだから、物語上の関連はない。バットマンとジョーカーが宿敵であることを知っているのは、映画の作り手と受け手だけで、作中人物は知らないというのが暗黙の了解だった。

 『レゴバットマン ザ・ムービー』の登場人物たちは、そのお約束を破ってしまった。ジョーカーは長年戦い続けたバットマンとのあいだに特別な関係を求めるし、執事アルフレッドはバットマンことブルース・ウェイン を「2016年も2012年も2008年も2005年も1997年も1995年も1992年も1989年も、1966年でさえも代わり映えしませんな」とたしなめる(これらはすべてバットマン映画の公開年だ)。作中人物は知らないはずのコミック・ブックとバットマン映画の歴史を、彼らは平然と口にする。
 パロディだから――では済ませないのが、本作の恐るべきところだ。

 悪人といえども殺さないのが(日本のヒーロー物と比較したときの)アメコミの特徴だ。そこには倫理上の理由もあるだろうし、マーケティング上の理由もあるだろう。ともあれ、多くの悪役が逮捕されたり禁錮刑に処されたりしながら、命は奪われずに済んできた。機会が来れば、彼らはまたヒーローとの戦いに身を投じた。

 けれども、アメコミを原作とした映画は、この特徴をきちんと受け継いでこなかった。
 1989年の『バットマン』でジョーカーは死んでしまうし、1992年の『バットマン リターンズ』でペンギンも死んでしまう。2005年の『バットマン ビギンズ』ではラーズ・アル・グールが死に、2008年の『ダークナイト』ではトゥーフェイスが、2012年の『ダークナイト ライジング』ではベインが死んでしまった。
 大人向けの映画では、子供向けマンガの倫理は踏まえなくて良い――ということではなかったはずだ。大ヒットした1978年の『スーパーマン』は悪の天才レックス・ルーサーを殺しはしなかったし、1980年の『スーパーマンII 冒険篇』でもゾッド将軍らは氷の裂け目に突き落とされるだけ、1984年の『スーパーガール』のセレナも幽閉されるだけだった。2000年の『X-メン』はマグニートーを捕らえて終わり、2003年の『X-MEN2』のストライカーも殺されはしない。
 かと思えば、2013年の『マン・オブ・スティール』のスーパーマンはゾッド将軍を殺してしまった。

 『レゴバットマン ザ・ムービー』が、過去のバットマン映画に言及しつつ、バットマンとジョーカーたちの関係が永続的なものであることを示すのは、過去作の批判にもなっている。多くの悪役を殺した過去のバットマン映画の存在を認めればジョーカーだって死んでいるはずなのに、それらを劇中では現実の出来事として扱い、一方でバットマンとジョーカーの途切れることのない戦いの日々を振り返るのだから、痺れるほど皮肉な設定だ。

 『レゴバットマン ザ・ムービー』では、犯罪者たちはアーカム・アサイラムに収容され、人知を超えた魔物たちもファントムゾーンに幽閉されるだけで生き長らえている。
 罪を犯した者は社会からの退場を迫られる。しかしそれは命を奪うことではない。世界のどこかには居場所があり、なんぴとたりとも世界から退場させられることはない。
 少なからぬアメコミ映画がないがしろにしてきたそのことを、本作は改めて強調している。

 本作のクライマックスは、世界を救うためにスーパーヒーローもスーパーヴィランも関係なしに手を繋ぐところだ。比喩ではなく、文字どおり力一杯に手を繋ぐ。

 そしてバットマンは悟るのだ。これまで粛々と悪人と戦うばかりで、悪人もまた人間であり喜怒哀楽や自尊心があるとは考えもしなかった。そんな自分のほうが、人間らしさを失っていたことに。悪を懲らしめるのは生き甲斐にはなり得ず、優先すべきは人と繋がり、家族を作ることなのだということに。
 バットマンにとっては、悪を倒したり陰謀を粉砕するよりも、誰かと食卓を囲んだり、一緒に映画を観ることのほうがはるかに難しかった。
 本作を観て、身につまされる人もいるだろう。


 嬉しいのは、劇中で1960年代のバットマンのテーマ曲が流れることだ。サム・ライミ監督やマーク・ウェブ監督のスパイダーマン映画で、1960年代のテレビアニメ『スパイダーマン』のテーマ曲が流れたのと同じ趣向だ。
 過去の作品への敬意と愛情に溢れていて、生半可な気持ちでバットマンを取り上げたのではないことが伝わってくる。


レゴ(R)バットマン ザ・ムービー ブルーレイ&DVDセット(初回仕様/2枚組/デジタルコピー付) [Blu-ray]レゴバットマン ザ・ムービー』  [ら行]
監督/クリス・マッケイ
出演/ウィル・アーネット ザック・ガリフィアナキス マイケル・セラ ロザリオ・ドーソン レイフ・ファインズ ジェニー・スレイト ヘクター・エリゾンド マライア・キャリー チャニング・テイタム ビリー・ディー・ウィリアムズ
日本語吹替版の出演/山寺宏一 子安武人 沢城みゆき 小島よしお
日本公開/2017年4月1日
ジャンル/[コメディ] [アドベンチャー] [ファミリー]
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【theme : 特撮・SF・ファンタジー映画
【genre : 映画

tag : クリス・マッケイウィル・アーネットザック・ガリフィアナキスマイケル・セラロザリオ・ドーソンレイフ・ファインズ山寺宏一子安武人沢城みゆき小島よしお

⇒comment

家族

云うまでもないが、家族とは血縁関係によって結ばれた者に限らない。法律上の手続きを経れば成立するものでもない。
本作でバットマンが到達する家族に血縁関係はまったくないし、法的枠組みの介在も必要としていない。では、家族とは何なのか、という点については、本作をご覧になった方に説明は不要だろう。

No title

こんちは。
枝葉末節的な話ですが、そうですねえ。日本では悪玉を殺してしまうんですよね。
これは特撮ヒーロー物ウルトラマンが怪獣を退治するという所から始まっているのでしょうね。ウルトラマンが相対するのは手負いの熊やスズメバチみたいな凶暴な獣。生け捕りにするよりは殺害する方が安全の為に望ましいという判断でしょう。
アメコミ映画(特にバットマン)で生け捕りにしないのは、バットマンを私刑者として明確に描くという一面があるのかもしれません。

それにしても、この話題になる時、日本の「星雲仮面マシンマン」は凄い。敵を倒しただけでは飽き足らず敵を改心させてしまう。やはり、これが一番でしょうなあ。

Re: No title

ふじき78さん、こんにちは。
『星雲仮面マシンマン』は特筆すべき作品ですね。相手を殺さない特撮ヒーローは稀有な存在でした。『月光仮面』の「憎むな、殺すな、赦しましょう」という理念を久しぶりに受け継いだものだったと思います。

おっしゃるとおり、ウルトラマンは相手を殺してしまう代表格です。
ただ、凶暴な獣に限らず、バルタン星人のように地球人をはるかにしのぐ文明の持ち主も殺しています。しかも、宇宙をさまよう難民であるバルタン星人との地球移住に関する交渉の失敗が争いの原因なのに、難民問題に対処しようとせず、二十億人以上の難民を殲滅してしまうのですから、ウルトラマンこそ凶暴だと思います。
でも、敵を殺すということはウルトラマンからはじまったわけではなく、もともと敵は殺すのが当たり前だったのではないでしょうか。特撮ヒーローに先行する剣劇ヒーローが、すでにバッサバッサと敵を切り殺して人気を博していました。

このあたりのことは以前の記事で取り上げたことがあります。
http://movieandtv.blog85.fc2.com/blog-entry-182.html
http://movieandtv.blog85.fc2.com/blog-entry-194.html

敵だったけれど殺さない、という考え方のほうが特殊で、今はそれを広めていく過程にあるのかもしれません。

なんと!

今まで全くのノーマークでしたが、この記事を読んで、
見ていないことが恥ずかしくなってきました。
速攻で見てきます!

スーパーヴィランのファンにとっても最高の映画かもしれませんね!

Re: なんと!

BK477さん、こんにちは。
本作のスーパーヴィラン大集合は、まさにレゴだからできる夢の競演です。
是非々々ご覧ください。

No title

覚悟はしてましたがあまりの情報量に「一時停止してキャラ名をいちいち検索したい!」という衝動に駆られました。特にダーレクと海の怪物クラ―ケンは解説がなければわからなかった… 
バットマン映画といえば『ダークナイト』が最高峰、という方が多くおられますが、その『ダークナイト』も長い長いバットマンの歴史の1ページなのだな…という思いを新たにさせられました
あとバットマン不殺問題ですが、けっこう見殺しというか死ぬとわかってて放置、ということはたまにあるみたいですね。この辺で面白いギャグが出来そう(不謹慎)

Re: No title

SGA屋伍一さん、こんにちは。
ホント、豪華なキャラクターが大挙して登場するので嬉しい悲鳴。とても目で追い切れませんでした。
ところで過去のバットマン映画にも言及していた本作ですが、さすがに1940年代の映画までは触れませんでしたね。バットマン映画第一作は第二次世界大戦中の公開ということもあって敵は日本人。今となっては人種差別的すぎるのでしょうか。

>けっこう見殺しというか死ぬとわかってて放置

とはいえ、死んでそうに見えて実は生きているのがアメコミですから;)
Secret

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