『この世界の片隅に』ウチを見つけてくれてありがとう
![この世界の片隅に (特装限定版) [Blu-ray]](http://ecx.images-amazon.com/images/I/71hGfAEvtzL._SL160_.jpg)
その瞬間、『この世界の片隅に』の素晴らしさに驚いていた。
ゆっくりとした、温もりのあるモノローグは、『まんが日本昔ばなし』の語りのようだった。
これは凄いことだ。まだはじまって数秒しか経たないのに、私は圧倒されていた。『まんが日本昔ばなし』の語りといえば市原悦子さんである。20年近くのあいだ、語りに加えてありとあらゆる登場人物を演じ分けた名優だ。芹川有吾監督が『サイボーグ009 怪獣戦争』のヒロイン、二面性を持つヘレナを演じられる人物として起用し、高畑勲監督も『太陽の王子 ホルスの大冒険』の不安定な心を抱えるヒロイン・ヒルダに起用した、難しい役をお願いするならこの人しかいないという大女優だ。
やや舌足らずな喋り方は、市原悦子さんより可愛らしいが、弱冠23歳の能年玲奈さんがあのベテランを思い起こさせる演技で長編アニメーション映画を引っ張っていくとは、まったく驚くべきことだった。
能年玲奈さんは2016年11月現在、のんという芸名で活躍している。映画のクレジットものんであるが、ここでは本名の能年玲奈で表記させていただく。
映画『この世界の片隅に』は昭和8年から昭和21年に至る、広島市と呉市で暮らしたすずの人生を描いている。
何を食べたとか、服をあつらえたとか、掃除をしたとか絵を描いたとか、日常のことがとても丁寧に描写されている。暮らしの細部が克明に描かれれば描かれるほど、食事を作るのにも掃除をするのにもささやかなドラマがあることに気づかされる。
本作で印象的なのは、誰もがニコニコしていることだ。失敗もあれば困ったこともある。けれども失敗が笑いを誘い、困ったことに呆れかえり、登場人物たちはいつも笑顔で過ごしている。事件らしい事件がなくても、悲喜こもごもを笑い飛ばす日常の繰り返しから、生きることそのものの楽しさが滲み出ている。
主人公すずを演じた能年玲奈さんも「ごはんを作ったり、お洗濯をする楽しさがわかってきて、生活をするのが楽しくなりました!」と述べるほどだ。
日常がじっくり描かれているだけに、日常と戦火が交わるときは衝撃的だ。
晴れ渡った気持ちの良い青空を戦闘機が飛び、のどかな畑の上を爆音が轟き、対空砲火の煙の下をちょうちょが舞う。まるで観客も呉の住人になったかのようにすっかり慣れ親しんでいた風景が、突然の戦闘で引き裂かれる。
そして、生きること、楽しいことが、前触れもなく断絶する。その辛さ、悲しさ。
しかし、私は日常と戦争を対比して語ってはいけないと思う。平和な日常が続く時期と、悲惨な戦争が続いた時期に分けて考えるのは、ちょっと違うと思うからだ。
たまたま日本は70年以上にわたって戦争をしないできたが、これはとても珍しいことだろう。米国は第二次世界大戦後も間断なく戦争をし続けている。今も米兵は世界各地に展開している。そのあいだも米国では人々が楽しい日常を送り、ディズニーパークで遊んだり映画鑑賞に興じたりしている。
日本も20世紀の前半まではひっきりなしに戦争していた。本作冒頭の昭和8年は日本が国際連盟を脱退した年であり、少女すずが波のうさぎの絵を描いていたときも大陸では大日本帝国と中華民国の戦いが続いていた。

片渕須直監督は、まだ平和にどっぷりひたっていたすずがのんびり眺めていたのはマリアナ沖海戦で負けて帰ってきた艦隊であると解説して、こう述べている。「彼らは片隅にいて世界が見えていないんだけど、その向こうには大戦争をしている本物の世界があって、それをあの段々畑から眺めているという風に描こうと思ったんです。」
この映画は2010年に企画がはじまり、2016年の劇場公開まで六年かかっている。
先ほど日本は70年以上にわたって戦争をしていないと書いたが、本作の制作と並行するように、我が国は2011年から南スーダンに自衛隊を派遣し、2016年の今も内戦状態の彼の国に自衛隊員を留めている。
私たちの日常はいつだって戦場と地続きなのだ。
観る者がそのことを実感するのは、本作が丁寧な日常の描写から語り起こしているからだ。
空襲に怯えて防空壕に隠れる日々も、原爆に焼けただれて体が腐っていくときも、これまでの日常とどこかで繋がっている。
恐ろしいことが起きたのに、暮らしがめちゃくちゃに破壊されたのに、"良かったこと"を見つけ出してニコニコしている家族たち。
日常の裏にある"まやかし"にもすずは気がついてしまう。
それでも、だ。
それでも生きていこうと思えるのは、日常の楽しさが――生きることの楽しさが描かれていたからだ。
まやかしがあると知ってもなお、自分と家族で築いていくこの上なく大切な日々。
観客の誰もが泣いていた。場内のあちこちからすすり泣きが聞こえてきた。
上映が終わると、拍手が自然に湧き起こった。場内に広がる拍手。拍手。
はじめて観た映画なのに、私はずっと昔からこの作品に出会うのを待っていたような気がする。
これからずっと大切にするものに、ようやく出会えたような気がする。

監督・脚本/片渕須直 原作/こうの史代
出演/能年玲奈(芸名のん) 細谷佳正 尾身美詞 稲葉菜月 牛山茂 新谷真弓 小野大輔 潘めぐみ 岩井七世 小山剛志 津田真澄 京田尚子
日本公開/2016年11月12日
ジャンル/[ドラマ] [戦争]

⇒comment
こんにちわ
>これからずっと大切にするもの
そうそう、この映画はこれからの我々の人生においてもずっと大切にしたい作品でもありますよね。
本当はもっとたくさんの言葉を用いてこの映画を余すことなく評価したいのに、それが出来ないほどの素晴らしさ。
こういう映画も稀有なだけに、余計に大切にしたくなりましたよ。
そうそう、この映画はこれからの我々の人生においてもずっと大切にしたい作品でもありますよね。
本当はもっとたくさんの言葉を用いてこの映画を余すことなく評価したいのに、それが出来ないほどの素晴らしさ。
こういう映画も稀有なだけに、余計に大切にしたくなりましたよ。
記憶の器に
はじまった瞬間、声に引き込まれますよね。
のんさんとすずさんの出会いは奇跡でした。
9.11の時にアメリカにいて、日常が突然戦争になるのを経験しましたが、時間が経つの連れて最初の衝撃は薄まり、戦争が日常と同化していきました。
日常がじわじわと戦争に侵食されて行くすずさんたちとは逆ですが、平時と戦時が表裏一体、地続きなのはその通りですね。
今だってPKOに鬼いちゃんを送ってる家庭はあるんですから。
私はこの映画を体験して、記憶の器として愛しい人びとの記憶を受け継いだ気がします。
ずっと、大切にしたい映画体験でした。
のんさんとすずさんの出会いは奇跡でした。
9.11の時にアメリカにいて、日常が突然戦争になるのを経験しましたが、時間が経つの連れて最初の衝撃は薄まり、戦争が日常と同化していきました。
日常がじわじわと戦争に侵食されて行くすずさんたちとは逆ですが、平時と戦時が表裏一体、地続きなのはその通りですね。
今だってPKOに鬼いちゃんを送ってる家庭はあるんですから。
私はこの映画を体験して、記憶の器として愛しい人びとの記憶を受け継いだ気がします。
ずっと、大切にしたい映画体験でした。
Re: こんにちわ
にゃむばななさん、こんにちは。
そうなんです。たくさんたくさん語りたいのに、膨れ上がる思いがあるのに、うまく言葉にできません。
映画を観終わった後、茫然としました。説明できない、強烈なものに貫かれて。
それを表現できればいいのですが、今はこれで精いっぱいです。
本当に優れた作品はそういうものですね。彫刻や絵画の素晴らしさを言葉では伝えられないように、これほどのアニメーション映画はどだい言葉で語れるものではないのでしょう。
そうなんです。たくさんたくさん語りたいのに、膨れ上がる思いがあるのに、うまく言葉にできません。
映画を観終わった後、茫然としました。説明できない、強烈なものに貫かれて。
それを表現できればいいのですが、今はこれで精いっぱいです。
本当に優れた作品はそういうものですね。彫刻や絵画の素晴らしさを言葉では伝えられないように、これほどのアニメーション映画はどだい言葉で語れるものではないのでしょう。
Re: 記憶の器に
ノラネコさん、こんにちは。
9.11のときにアメリカにいたとは、たいへんな思いをされましたね。
すずの声には驚きました。魅力的な女優さんだと思ってはいましたが、表情とか仕草とか視覚的な要素を排除して声だけになったとき、それでもこれほど存在感があるとは思いませんでした。
すずは自分の生き方を「記憶の器」と表現しますが、この映画自体が偉大な「記憶の器」ですね。
片渕監督のインタビュー記事を読んで、その膨大な調査と緻密な考察にまた驚きました。当時のことを知る人たちに話を聞いて、戦火で失われて資料も残っていない街の光景を絵で再現しているのですから、この映画が歴史の資料にもなることでしょう。どんな人がどんなところでどんな風に暮らしていたのか、この映画はそれを体験させてくれますね。
ここで受け継いだ「記憶」を、いつまでも伝えていきたいものです。
9.11のときにアメリカにいたとは、たいへんな思いをされましたね。
すずの声には驚きました。魅力的な女優さんだと思ってはいましたが、表情とか仕草とか視覚的な要素を排除して声だけになったとき、それでもこれほど存在感があるとは思いませんでした。
すずは自分の生き方を「記憶の器」と表現しますが、この映画自体が偉大な「記憶の器」ですね。
片渕監督のインタビュー記事を読んで、その膨大な調査と緻密な考察にまた驚きました。当時のことを知る人たちに話を聞いて、戦火で失われて資料も残っていない街の光景を絵で再現しているのですから、この映画が歴史の資料にもなることでしょう。どんな人がどんなところでどんな風に暮らしていたのか、この映画はそれを体験させてくれますね。
ここで受け継いだ「記憶」を、いつまでも伝えていきたいものです。
No title
インテリジェント。
この映画を褒める声ばかりなので、疑って(笑)今日まで見に行かずにいました。都心を避けて隣県に行って少し空席もありゆったりと見られましたし、観てビックリ。
静かな始まり、広島の暮らしから始まり呉での暮らしでおきることを丸ごと表現し続けて戦後まで。とにかく全部まるごと描いてそれであとは観客の想像というか考えに任せる。こういう映画好きです。
人類学者顔負けの表現の仕方。巨匠たちの陰にこんな才能の方がいたなんて。
先日「君の名を」見たばっかりでその余韻も冷めないまま、またすごいのを観てしまいました。風立ちぬ、のように華美ではないけど、私は風立ちぬよりこっちのほうが素直に見ることができます。
肩の力抜けているように見えますが、よくぞ当時の生活とそれに影響するものをここまでつなげて描けたものだなあ、と。とにかく、インテリジェントという言葉が頭をよぎりました。海外にだしても普遍的価値を認めてもらえる作品だと感じました。皆さんがこぞって2回、3回と見に行く理由が分かります。
この映画を褒める声ばかりなので、疑って(笑)今日まで見に行かずにいました。都心を避けて隣県に行って少し空席もありゆったりと見られましたし、観てビックリ。
静かな始まり、広島の暮らしから始まり呉での暮らしでおきることを丸ごと表現し続けて戦後まで。とにかく全部まるごと描いてそれであとは観客の想像というか考えに任せる。こういう映画好きです。
人類学者顔負けの表現の仕方。巨匠たちの陰にこんな才能の方がいたなんて。
先日「君の名を」見たばっかりでその余韻も冷めないまま、またすごいのを観てしまいました。風立ちぬ、のように華美ではないけど、私は風立ちぬよりこっちのほうが素直に見ることができます。
肩の力抜けているように見えますが、よくぞ当時の生活とそれに影響するものをここまでつなげて描けたものだなあ、と。とにかく、インテリジェントという言葉が頭をよぎりました。海外にだしても普遍的価値を認めてもらえる作品だと感じました。皆さんがこぞって2回、3回と見に行く理由が分かります。
Re: No title
魚虎555さん、こんにちは。
みんながみんな褒めていると、眉に唾をつけたくなりますよね。
でも、どんなに期待のハードルを上げても裏切らないのがこの映画の凄いところです。
本作を鑑賞したお年寄りが、今はもうない我が家や原爆で亡くなったご両親をスクリーンの中に見つけて感動するそうですが、そんな話を聞くとこちらまで感動します。主要登場人物の背後に映った街の人々が、一人ひとり実在の人物であるとはまったく驚きです。街並みを再現するだけでは足りず、そこに住んでいる方も全部含めて街なんだ、と片渕監督は考えたそうです(NHKテレビ「おはよう日本」 2016年10月19日放映)。
1958年公開の長編アニメーション映画『白蛇伝』は、宮崎駿監督がアニメーションの世界に入るきっかけの一つだそうですが、それほど特別な作品でありながら、宮崎監督は『白蛇伝』に登場するその他大勢の顔がいいかげんに描かれていることを問題視しています。美男美女の主人公の他は、どうでもいい顔に描かれていて、「どこに魂があるんだ」と感じたそうです。
だから宮崎監督は、「映画を作る時に、その他大勢をバカにして描くなってことをよくスタッフにいいます」(「宮崎駿講演採録 アニメーション罷り通る (なごやシネフェスティバル'88にて)」)。宮崎監督のアニメでは、その他大勢の名もなき人々も「いい顔」をしてますよね(『ルパン三世 カリオストロの城』の埼玉県警の機動隊員とか)。
この考え方をさらに徹底したところに、本作はあるのでしょう。
そうは云っても、宮崎駿監督と片渕須直監督では方向性が違います。
宮崎駿氏は天才アニメーターであり、極論をいえばすべての発想が「絵を動かす」ことに集約されます。
他方、片渕須直監督はアニメーションの仕事をずっとしてきましたが、アニメーターではありません。天才演出家ではあるが絵を描けない高畑勲氏のスタンスに近いでしょうね。
本記事のリンク先のインタビューでも、片渕監督は『ちびまる子ちゃん』の芝山努氏や『じゃりン子チエ』の高畑勲氏を引き合いに出しながら、みずからを表現者と呼んでいます。そして、「表現者としてのアニメーション作り」へのこだわりを語っています。
魚虎555さんが『風立ちぬ』よりこちらのほうが素直に見られたというのも、本作には「絵を動かして見せる」というアニメーターとしての気負いがないからかもしれませんね。
暮らしで起きることを丸ごと表現した効果は、特に映画後半で胸を打ちます。
空襲で焼けた街並みは過去の映画でも観たことがありますが、呉の街をさまよったり、そこに住む人と出会って楽しく語らった描写を通じて、観客もすずと一緒に街で過ごした後になって、何もかも焼き尽くされて塵芥と化した土地を観るのはこれまでにない衝撃です。
軍艦大和には2700人も乗っているというセリフには、たしかに凄いなぁと思いますし、やがて沈んでしまうことを知っている観客は悲劇に思いを馳せもしましょう。
でも本作がとりわけグッと来るのは、すずが「そんなにたくさんの人のご飯を作るのはたいへんだろう、洗濯はどうやって……」と漏らすからですね。劇中では滑稽な会話のように描かれますが、食事や洗濯の心配をした途端に、港に浮かぶそれは2700人で操作する軍艦ではなく、2700人の大所帯が暮らす大きな住まいに感じられます。それだけ大勢の人が毎日食事して洗濯して暮らしていたのに、彼らを乗せたままこの船は沈んでしまうのです。
水原哲が重巡洋艦青葉での水兵生活を思い出すところでも、描かれるのは甲板いっぱいに干された洗濯物です。
描写の隅々、セリフの端々まで生活感を持たせることで、これほどまでに作品に重みが出るものなのかと思い知らされました。
インテリジェント――その言葉はこの作品にピッタリですね。
みんながみんな褒めていると、眉に唾をつけたくなりますよね。
でも、どんなに期待のハードルを上げても裏切らないのがこの映画の凄いところです。
本作を鑑賞したお年寄りが、今はもうない我が家や原爆で亡くなったご両親をスクリーンの中に見つけて感動するそうですが、そんな話を聞くとこちらまで感動します。主要登場人物の背後に映った街の人々が、一人ひとり実在の人物であるとはまったく驚きです。街並みを再現するだけでは足りず、そこに住んでいる方も全部含めて街なんだ、と片渕監督は考えたそうです(NHKテレビ「おはよう日本」 2016年10月19日放映)。
1958年公開の長編アニメーション映画『白蛇伝』は、宮崎駿監督がアニメーションの世界に入るきっかけの一つだそうですが、それほど特別な作品でありながら、宮崎監督は『白蛇伝』に登場するその他大勢の顔がいいかげんに描かれていることを問題視しています。美男美女の主人公の他は、どうでもいい顔に描かれていて、「どこに魂があるんだ」と感じたそうです。
だから宮崎監督は、「映画を作る時に、その他大勢をバカにして描くなってことをよくスタッフにいいます」(「宮崎駿講演採録 アニメーション罷り通る (なごやシネフェスティバル'88にて)」)。宮崎監督のアニメでは、その他大勢の名もなき人々も「いい顔」をしてますよね(『ルパン三世 カリオストロの城』の埼玉県警の機動隊員とか)。
この考え方をさらに徹底したところに、本作はあるのでしょう。
そうは云っても、宮崎駿監督と片渕須直監督では方向性が違います。
宮崎駿氏は天才アニメーターであり、極論をいえばすべての発想が「絵を動かす」ことに集約されます。
他方、片渕須直監督はアニメーションの仕事をずっとしてきましたが、アニメーターではありません。天才演出家ではあるが絵を描けない高畑勲氏のスタンスに近いでしょうね。
本記事のリンク先のインタビューでも、片渕監督は『ちびまる子ちゃん』の芝山努氏や『じゃりン子チエ』の高畑勲氏を引き合いに出しながら、みずからを表現者と呼んでいます。そして、「表現者としてのアニメーション作り」へのこだわりを語っています。
魚虎555さんが『風立ちぬ』よりこちらのほうが素直に見られたというのも、本作には「絵を動かして見せる」というアニメーターとしての気負いがないからかもしれませんね。
暮らしで起きることを丸ごと表現した効果は、特に映画後半で胸を打ちます。
空襲で焼けた街並みは過去の映画でも観たことがありますが、呉の街をさまよったり、そこに住む人と出会って楽しく語らった描写を通じて、観客もすずと一緒に街で過ごした後になって、何もかも焼き尽くされて塵芥と化した土地を観るのはこれまでにない衝撃です。
軍艦大和には2700人も乗っているというセリフには、たしかに凄いなぁと思いますし、やがて沈んでしまうことを知っている観客は悲劇に思いを馳せもしましょう。
でも本作がとりわけグッと来るのは、すずが「そんなにたくさんの人のご飯を作るのはたいへんだろう、洗濯はどうやって……」と漏らすからですね。劇中では滑稽な会話のように描かれますが、食事や洗濯の心配をした途端に、港に浮かぶそれは2700人で操作する軍艦ではなく、2700人の大所帯が暮らす大きな住まいに感じられます。それだけ大勢の人が毎日食事して洗濯して暮らしていたのに、彼らを乗せたままこの船は沈んでしまうのです。
水原哲が重巡洋艦青葉での水兵生活を思い出すところでも、描かれるのは甲板いっぱいに干された洗濯物です。
描写の隅々、セリフの端々まで生活感を持たせることで、これほどまでに作品に重みが出るものなのかと思い知らされました。
インテリジェント――その言葉はこの作品にピッタリですね。
No title
予告のクレジットで「のん」と表示された時「だれ?」と思いましたが、今ではもう完全に能年さんではなく「のん」さんとして頭にインプットされています。それほどなはまりっぷりでした。これからも逆境に負けないで活躍してほしいところです。
ひとつ変わっているのはこういう戦争モノでは夫は大抵戦地に派遣されて生死不明になるものですが、周作さんは戦局が厳しくなってもずっと内地にとどまっているんですよね。その辺が独特というか厳しい中にもほのぼの感を生み出しているように感じました
ひとつ変わっているのはこういう戦争モノでは夫は大抵戦地に派遣されて生死不明になるものですが、周作さんは戦局が厳しくなってもずっと内地にとどまっているんですよね。その辺が独特というか厳しい中にもほのぼの感を生み出しているように感じました
Re: No title
SGA屋伍一さん、こんにちは。
私は当ブログの記事を書くときに心がけていることがあって、その一つが役者さんについては語らないということです。
それでも『味園ユニバース』の渋谷すばるさんのように語らずにいられない役者さんはいるもので、本作の能年玲奈(のん)さんも触れないわけにいきませんでした。
スカーレット・ヨハンソンが『her/世界でひとつの彼女』の声の演技だけでローマ国際映画祭の最優秀女優賞を受賞したことを思えば、本作の能年玲奈(のん)さんもあらゆる栄誉を受けてしかるべきでしょうね。
> ひとつ変わっているのはこういう戦争モノでは夫は大抵戦地に派遣されて生死不明になるものですが、周作さんは戦局が厳しくなってもずっと内地にとどまっているんですよね。その辺が独特というか厳しい中にもほのぼの感を生み出しているように感じました
おっしゃるとおり、戦争中であっても夫との生活が描かれ続けることで、他の戦争映画にはないほのぼの感が生まれてますね。
同時に、軍や軍需産業の関係者はここまで戦況が悪化しても戦地に赴かずに済んでいたということに、暗く冷たい思いも湧きます。男はみんな兵隊に引っ張られる時代に、軍需産業を営んでいたおかげで戦争に行かずに済んだという宮崎駿監督の一族を思い出します。
本作は、北條家とは対照的に夫も息子も兵隊に取られていく刈谷さんを描くことで、世の中のおかしさを表現してますね。
私は当ブログの記事を書くときに心がけていることがあって、その一つが役者さんについては語らないということです。
それでも『味園ユニバース』の渋谷すばるさんのように語らずにいられない役者さんはいるもので、本作の能年玲奈(のん)さんも触れないわけにいきませんでした。
スカーレット・ヨハンソンが『her/世界でひとつの彼女』の声の演技だけでローマ国際映画祭の最優秀女優賞を受賞したことを思えば、本作の能年玲奈(のん)さんもあらゆる栄誉を受けてしかるべきでしょうね。
> ひとつ変わっているのはこういう戦争モノでは夫は大抵戦地に派遣されて生死不明になるものですが、周作さんは戦局が厳しくなってもずっと内地にとどまっているんですよね。その辺が独特というか厳しい中にもほのぼの感を生み出しているように感じました
おっしゃるとおり、戦争中であっても夫との生活が描かれ続けることで、他の戦争映画にはないほのぼの感が生まれてますね。
同時に、軍や軍需産業の関係者はここまで戦況が悪化しても戦地に赴かずに済んでいたということに、暗く冷たい思いも湧きます。男はみんな兵隊に引っ張られる時代に、軍需産業を営んでいたおかげで戦争に行かずに済んだという宮崎駿監督の一族を思い出します。
本作は、北條家とは対照的に夫も息子も兵隊に取られていく刈谷さんを描くことで、世の中のおかしさを表現してますね。
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トラックバックの反映にはしばらく時間がかかります。ご容赦ください。『この世界の片隅に』
ありがとう。この世界の片隅にうちを見つけてくれて。
これは万の言葉を用いても表現することの出来ない、今年の、いや日本映画界における屈指の稀有な傑作。見終わると他の映画 ...
この世界の片隅に・・・・・評価額1800+円
どっこい、私は生きている。
「夕凪の街 桜の国」で知られる、こうの史代の名作コミックを、「マイマイ新子と千年の魔法」の片渕須直監督が、6年越しのプロジェクトとして長編アニメーション映画化。
戦時中の広島県呉市を舞台に、ある一家に嫁いだ少女の目を通した、市井の人々の戦時下の“日常”の物語だ。
同じ時代の広島を描いた「夕凪の街 桜の国」のアナザーストリーとも言える作品で、どこにでもある...
劇場鑑賞「この世界の片隅に」
それでも、生きていく…
詳細レビューはφ(.. )
http://plaza.rakuten.co.jp/brook0316/diary/201611140000/
劇場アニメ「この世界の片隅に」オリジナルサウンドトラック [ コトリンゴ ]
「この世界の片隅に」劇場アニメ公式ガイドブック [ 『この世界の片隅に』製作委員会 ]
この世界の片隅に
第二次世界大戦中の昭和19(1944)年、広島。 絵が得意な18歳の少女すずは、呉の海軍に勤務する文官・北條周作の妻となる。 夫の両親、義姉の径子や姪の晴美、ご近所との付き合いの中で、すずはだんだん主婦らしくなっていく。 戦争であらゆるものが欠乏していき、日本海軍の一大拠点で軍港の街として栄えていた呉は、何度も空襲に襲われる。 そして、昭和20(1945)年の夏がやってきた…。 アニメーション。
「この世界の片隅に」普通の視点から見た先に知る戦争の中での普通は生き抜く事であり残された者たちは普通への一歩を歩んでいく
「この世界の片隅に」はこうの史代原作の漫画をアニメ映画化した作品で第2次世界大戦時に少女が軍港の呉に嫁ぐ事になりそこで一般人として普通の生活を送るも戦争の影が次第に呉 ...
『この世界の片隅に』映画@見取り八段
ただ淡々とした暮らしを前向きに送っていた人たちの、送ろうとしていた人たちの、送りたかった時代の人たちの物語を見た。
…
この世界の片隅に
今年、観るべき映画と言い切っても過言ではないっ!
映画「この世界の片隅に」
注目していた作品と、注目していた女優が、こんな形で出会うのは、そうそうあることではない。
いろんな思いがこみ上げてくる。
作品の内容については不 ...
この世界の片隅に
いやあ、本当に今年は素晴らしい邦画の連続ですが、ここに来て最高ともいえるアニメ作品が登場しました。戦前から戦後にかけての広島、呉を舞台に1人の少女の生き様を追った名作です。日本人なら絶対に見るべき作品でしょう。 作品情報 2016年日本映画(アニメ) …
「この世界の片隅に」
2016年・日本/製作:ジェンコ アニメーション制作:MAPPA配給:東京テアトル 監督:片渕須直 原作:こうの史代 脚本:片渕須直監督補・画面構成:浦谷千恵キャラクターデザイン・作画監督:松原秀
負の遺産。『この世界の片隅に 』
広島で育って呉に嫁いだ少女の物語。昭和の初めから戦争直後までを描いたアニメ映画です。
この世界の片隅に
こうの史代の同名原作漫画を、片瀬須直監督がアニメ映画化した作品だ。「マイマイ新子と千年の魔法」も同じコンビだというが未見だ。広島県呉を舞台にして戦前から戦中・戦後の移り変わりを庶民の目から描いた傑作だと思う。呉は普通の田舎と違って軍港なので特殊な存在だけ
この世界の片隅に
アニメ『この世界の片隅に』をテアトル新宿で見ました。
(1)予告編を見て良い作品に違いないと思って、映画館に行ってきました。
本作(注1)の冒頭は、昭和8年12月(注2)の広島市江波。
8歳のすず(声は「のん」)が、川(注3)沿いの道を荷物を背負って歩いて...
この世界の片隅に 監督/片渕 須直
【声の出演】
のん (北條/浦野すず)
細谷 佳正 (北條周作)
稲葉 菜月 (黒村晴美)
【ストーリー】
1944年広島。18歳のすずは、顔も見たことのない若者と結婚し、生まれ育った江波から20キロメートル離れた呉へとやって来る。それまで得意な絵を描いてば...
『この世界の片隅に』
いや〜凄いね。
面白いの何のってもう。
戦争映画で戦争の悲惨さを描いているのに、それでも面白いっていう。
コメディとして作った映画でもここまで笑い声が聞こえてくるって滅多 ...
映画「この世界の片隅に」
映画「この世界の片隅に」を鑑賞しました。
呉の花嫁 こうの史代・片淵須直 『この世界の片隅に』
2016年も残すところあとわずか。そんな大詰めに来て年間ベスト1,2を争うド傑作
この世界の片隅に
さて、こちら評価が高かった映画で見てみたかった作品です
原作者は「夕凪の街 桜の国」は漫画を読んだことがあります
こちらは原作未読で戦争ものぐらいの認識で見ました
なるほどこういう作品だったんですね
あらすじ
1944年広島。18歳のすずは、顔も見たことのない若者と結婚し、生まれ育った江波から20キロメートル離れた呉へとやって来る。それまで得意な絵を描いてばかりだった彼女は...
この世界の片隅に★★★★★
第13回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞した、「長い道」「夕凪の街 桜の国」などで知られるこうの史代の同名コミックを、「マイマイ新子と千年の魔法」の片渕須直監督がアニメ映画化。第2次世界大戦下の広島・呉を舞台に、大切なものを失いながらも前向きに...
映画『この世界の片隅に』
じわじわと染み渡るアニメ。
戦争中の話だけれど、当時の普通の生活を送る18歳で呉に嫁いだすずさんの日常。
その日常の生活に、空襲の激しさや大切なものをなくす悲しみがにじむ。
原作はコミック。
もっと暗めの悲しさが目立つ作品なのかと勝手に予想してたんだけど、
明るく笑いがいっぱいでした。
しょっぱなから自分が出会った人さらいのバケモノの話を絵を描いて妹に話して聞かせ...
この世界の片隅に
『夕凪の街、桜の国』のこうの史代が描いた漫画を映画化。主役のすずの声をのん(ex能年玲奈)が演じて話題になりました。
昭和の初め、広島市の南部、江波で育った浦野すずは、昭和19年に呉の北條周作に嫁ぐ。新しい土地で早く北條家に馴染もうと懸命に頑張るすず。周...
「この世界の片隅に」 (2016 東京テアトル)
日本のアニメーションは世界一だと思う。その大きな要因はもちろん漫画、劇画の隆盛だ。アニメの原作となることが多いあのメディアは、もう子ども向けである役目をとっくに終え、大人の微妙な心情を描くうえで小説と(は違うアプローチだけれど)ほぼ同じ地点に来た。そんな、(漫画アクション連載の)こうの史代の原作に、練達の演出家がほれ込み、ちょっと信じられないくらいぴったりな声優(のん)が加わると、このように...
この世界の片隅に
日常と隣り合わせの戦争
* * * * * * * * * *
冒頭の方で、私のような世代には懐かしい「悲しくてやりきれない」の曲が、
柔らかなコトリンゴさんの歌声で流れます。
淡い色使いのアニメで表された昭和、
それも戦前の時代へ、私はスーッと引きこ...
「この世界の片隅に」
すごく評判がいいようだけど…。
「この世界の片隅に」☆ほのぼのと過酷
ほのぼのとした画風にのんびりとした歌声、のんの暢気な台詞・・・
こんな柔らかで温かいところからは到底想像出来ないような、過酷な現実が突き付けられる。
なのにあれ?こんなにも辛く哀しい現実に、なぜかふわりと優しい風が吹いているよ?
『この世界の片隅に』 2017年1月3日 TOHOシネマズ市川
『この世界の片隅に』 を鑑賞しました。
パスポートでの7本目。(8本目はバイオハザード2回目)
【ストーリー】
1944年広島。18歳のすずは、顔も見たことのない若者と結婚し、生まれ育った江波から20キロメートル離れた呉へとやって来る。それまで得意な絵を描いてばかりだった彼女は、一転して一家を支える主婦に。創意工夫を凝らしながら食糧難を乗り越え、毎日の食卓を作り出す。やがて戦争は激しく...
この世界の片隅に
こうの史代の同名コミックを、
アニメ映画化。
監督は片渕須直。
舞台は第2次世界大戦下の広島・呉。
広島から呉に嫁いできた、
ぼーっとした主人公すず、
すずの周囲の人達の日常を描きます。
海軍の拠点の呉は空襲の標的になって
すずは戦争によって
多くのものの喪...
この世界の片隅に
評価:★★★【3点】(11)
巷の高評価に釣られ、スルーのままでいけない映画と判断。
この世界の片隅に
この世界の片隅に
'16:日本
◆監督:片渕須直「マイマイ新子と千年の魔法」
◆主演:のん、尾身美詞、細谷佳正、稲葉菜月、牛山茂、新谷真弓、小野大輔、岩井七世、潘めぐみ、小山剛志、津田真澄、京田尚子、佐々木望、塩田朋子、瀬田ひろ美、たちばなことね、世弥きくよ、渋谷天外
◆STORY◆昭和19年、18歳の少女・すず(声:のん)は生まれ故郷の広島市江波を離れ、日本一の軍港のあ...
この世界の片隅に
IN THIS CORNER OF THE WORLD
2016年
日本
129分
ドラマ/戦争
劇場公開(2016/11/12)
監督:
片渕須直
脚本:
片渕須直
主題歌:
コトリンゴ『悲しくてやりきれない』
声の出演:
のん:北條(浦野)すず
細谷佳正:北條周作
稲葉菜月:黒村晴美
尾身美詞:黒村径子
小野大輔:水原哲
潘めぐみ:浦野すみ
岩井七世:白木リン
牛山茂:北條円太郎
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この世界の片隅に (2016)
第13回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞したこうの史代の同名コミックを、「マイマイ新子と千年の魔法」の片渕須直監督がアニメ映画化能年玲奈から改名したのんが主人公すず役でアニメ映画の声優に初挑戦。公開後は口コミやSNSで評判が広まり、15週連続で興行ランキングのトップ10入り、したのだそう。第90回キネマ旬報トップテンで「となりのトトロ」以来となるアニメーション作品での1位を獲得する...