『アイアムアヒーロー』はゾンビ映画なの?(その2)
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以下は、ぺぐもんさんのコメントへの返信として書いたものであり、文中の「本記事」とは前回の「『アイアムアヒーロー』はゾンビ映画なの?」を指している。
【ぺぐもんさんのコメント】
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タイトル:そうでしょうか?
ゾンビ映画では、『アイアムザヒーロー』的なキャラは、『バタリアン』、『キャプテン・スーパーマーケット』、『アンデッド』、『ショーン・オブ・ザ・デッド』、『ゾンビーワールドへようこそ』などで、80年代から現代まで連綿と語られており、完全に定型化してると思われます。
当然、その流れに『ゾンビランド』があり、『アイアムアヒーロー』が続いています。
特に『ショーン・オブ・ザ・デッド』(2004)の影響は大きいでしょう。(ダメ社員が、世界の崩壊でヒーローになることを望む・・・と構造も似ていますし、映画版『アイアムアヒーロー』の妄想の繰り返しは『ショーン・オブ・ザ・デッド』の映画技法の引用です)
80年代にすでにゾンビ映画ブームはあり、アジアでも亜流のゾンビ映画であるキョンシーものが作られ、ヒットし、日本でもテレビ放送されてます。
それが『幽幻道士』シリーズで、落ちこぼれチーム(有能な者もいますが)がキョンシー退治をしながら活躍するロードムービー(『西遊記』をベースにしているのでしょうが)があります。
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ぺぐもんさん、コメントありがとうございます!
『来来!キョンシーズ』、盛り上がりましたねー。
『ワールド・ウォーZ』の記事が長過ぎた気がしたので、今回はコンパクトにまとめるつもりだったのですが、問題点の整理と共有が不充分だったかと反省しています。
ぺぐもんさんのコメントを拝見して、「そうでしょうか?」と疑問を呈されているのは次の二点であろうと推察しました。
(1)私が、ゲーム『バイオハザード』第一作が発売された1996年以降にゾンビ物の市場が大きくなったと書いたことに対し、ゾンビ物はもっと前(80年代)から盛んだったはずであるという市場動向についての疑問
(2)私が、『アイアムアヒーロー』は日本らしい作品だと述べたことに対して、欧米のゾンビ映画にも似たような作品があるはずだという疑問
認識は合っておりますでしょうか。
どちらの点も、そのとおりだと思います。
それを認めた上で、記事本文を書くときに削ったことを含めて少し補足したいと思います。
(1)「ゲーム『バイオハザード』第一作が発売された1996年以降にゾンビ物の市場が大きくなったと書いたことに対し、ゾンビ物はもっと前(80年代)から盛んだったはずであるという市場動向についての疑問」について
ウィキペディアに「ゾンビ映画の一覧」というページがあります。
このジャンルを愛好する方が執筆されたのでしょう、数多のゾンビ映画が紹介されています。
本記事執筆時点でこのページに掲載された作品を年代別に集計すると次の結果になります。
1930年代 2本
1940年代 4本
1950年代 3本
1960年代 9本
1970年代 21本
1980年代 62本
1990年代 32本
2000年代 162本
2010年代 24本
これを見ると、80年代にいったんピークがあり、90年代にやや沈静化したのち、2000年代に激増して80年代を大きくしのいだように思えます。日本における映画の劇場公開数が90年代までは500~700本台、2000年代は600~800本台と、あまり大きく変動せずに推移していることを考えると、ゾンビ映画の激しい増減が目立ちます(「ゾンビ映画の一覧」には劇場未公開作も含まれているので、あくまで傾向を掴む上での参考としてご覧ください。また、日本での劇場公開数は、2010年代に入るとシネコンの増加と連動するようにビックリするほど増えるのですが、これは本論と関係ないので割愛します)。
Wikipediaの「List of zombie films」でも同様の傾向です。
1930年代 3本
1940年代 8本
1950年代 9本
1960年代 17本
1970年代 28本
1980年代 69本
1990年代 40本
2000年代 178本
2010年代 97本
やはり80年代にいったんピークがあり、90年代にやや沈静化したのち、2000年代に激増しているように見えます。
ウィキペディアなので正確性・網羅性の保証はありませんし、情報が揃いやすい近年の作品ほど記述が充実するのかもしれないとは思いますが、ここに見られる傾向はわりとゾンビ物に接してきた体感に近いのではないでしょうか。
偶然ながら、ぺぐもんさんが例示してくださった作品にも同じような傾向が見られます。
『バタリアン』(米・1985)
『キャプテン・スーパーマーケット』(米・1992)
『アンデッド』(豪・2003)
『ショーン・オブ・ザ・デッド』(英・2004・日本未公開)
『ゾンビランド』(米・2009)
『ゾンビーワールドへようこそ』(米・2015・日本未公開)
単純に集計すると80年代1本、90年代1本、2000年代3本、2010年代1本ですが、『キャプテン・スーパーマーケット』は 『死霊のはらわた』シリーズ の最終作なので80年代の残滓とも云えそうです。余談ながら、『バタリアン』シリーズも80年代に2本作られたのち90年代は1本に落ち着いて、2000年代に入るとまた2本が作られていますね。
80年代にゾンビ映画が増加した原因については専門家の研究に譲りたいと思いますが、私は次のことが関係しているのではないかと想像しています。
・(『エクソシスト』のヒットによるホラー映画人気、『スター・ウォーズ』のヒットによるSFX映画人気を下地にしつつ)1978年の『ゾンビ』がヒットしたことによるゾンビ映画への注目度の増加
・特殊メイク技術等の進歩による作品の質的向上
・レンタルビデオ、セルビデオの興盛によるジャンル映画の買付増加
先の記事で50年代まで遡ってゾンビ映画の流れをたどりながら、80年代のブームに触れなかったのは、80年代に一度ブームがあったということが、記事の趣旨に照らして重要とは思われなかったからです。
今回の記事でもゲーム『バイオハザード』発売以降、すなわち主に2000年代のゾンビ物の興隆を指して市場が大きくなったと述べましたが、それは2009年に連載が開始され、2016年に映画が公開された『アイアムアヒーロー』を語る上で、90年代に沈静化してしまった80年代のブームに触れる必要性が高くないと考えたからです。
90年代にブームが沈静化し、そのまま下火になってもおかしくなかったのに、なぜ2000年代にこれまで以上の興隆を極めたのか、という問題設定でもあります。また、80年代にゾンビ映画のブームがあったにもかかわらず、和製ゾンビ映画の輩出に至らなかったのはなぜか、という問題設定でもあります。
上に挙げた年代別の本数は、その問題意識を本記事をお読みの皆さんに共有していただきたくて集計したのですが、話が散漫になる気がしたので、Twitterでの紹介に留めてブログでは取り上げませんでした。
ところで、キョンシー映画もまた興味深いものだと思います。
キョンシーは死体ですから、たしかにキョンシー映画にはゾンビ映画の亜流としての側面があります。
ですが、キョンシーをゾンビと同一視して良いものか、私は考えあぐねています。日本での『幽幻道士』シリーズ及び『来来!キョンシーズ』の放映時期はアニメ『ゲゲゲの鬼太郎』(第3シリーズ)と重なっており、妖怪物としてくくれる面もあるのではないかと思うのです。
「ゾンビ映画の一覧」が、『霊幻道士』シリーズは掲載しているのに『幽幻道士』シリーズを掲載しないという中途半端な状態なのも、キョンシーの扱いに迷いがあるからかもしれませんね(そのことも、このデータを記事本文で取り上げなかった理由の一つです)。
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ゾンビ映画は半世紀以上にわたり作られてきましたから、ジャンルの枠内とはいえ多様な作品が生み出されています。おっしゃるとおり、『アイアムアヒーロー』に似た要素は先行する作品に見られるでしょう。
にもかかわらず、私は『アイアムアヒーロー』が特異な作品だと思います。
奇しくも、ぺぐもんさんが『アイアムアヒーロー』の先行作として挙げられた6本が『アイアムアヒーロー』の特異性を示しています。これら6本には、『アイアムアヒーロー』と異なる次のような特徴があります。
a. すべて外国映画(英語圏の映画)であること
b. すべてコメディであること
aが重要であることはご理解いただけると思います。もともと本記事は「欧米、特に米国ではゾンビ映画が盛んなのに、日本で盛り上がらないのはなぜか?」という思いから出発しているからです。
ゾンビ映画には半世紀以上の歴史があり、80年代には日本にも大量のゾンビ映画が流入したというのに、これまで日本映画を代表するゾンビ物はありませんでした。まったく作られなかったわけではありませんが、公開規模からいっても、熱心な愛好家向けに特化した作品に位置づけられると思います。
それに対して『アイアムアヒーロー』は全国284スクリーンで公開され、興行収入16.2億円のヒットを記録しました(2016年7月25日東宝発表の「2016年 上半期作品別興行収入(10億以上)」による)。おそらくは日本映画史上はじめて、ジャンル映画の枠を超えて多数の観客を動員するゾンビ物が誕生したのです。
その訴求力はどこにあるのか。それを私なりに考えてみたのが今回の記事となります。
bの「コメディであること」も重要な要素ですね。
コメディを映画の一つのジャンルとして語ることも可能ですが、ゾンビ物のようなジャンル映画の中にあってのコメディは「一捻りした」「変化球」という面が強いと思います。それは、まず正統派の直球があってこそ成立するものでしょう。
ゾンビ映画の場合であれば、過去にゾンビ映画をたっぷり観てきて、もうゾンビが出ても怖くないしお約束の展開に笑ってしまう愛好家が一定数いることを期待して作られているのではないかと思います。
ゾンビ映画はホラー(恐怖)映画のサブジャンルのはずですが、コメディタッチのゾンビ映画は、今さらホラー(恐怖)を感じない人向けのさらに小さなサブサブジャンルではないでしょうか。
興行成績もそのことを示しています。
古い映画だと物価の違いやデータ不足で比較できないので、2000年以降の作品について見てみると、大きく稼いでいるのはバイオハザードシリーズや『ドーン・オブ・ザ・デッド』(2004)のようにシリアスな直球作品です(近年のバイオハザードシリーズは、アクション映画の域に入り過ぎな気もしますけど)。
2009年の『ゾンビランド』は、珍しく劇場公開で成功したホラーコメディで、北米に限れば『ドーン・オブ・ザ・デッド』の興収を抜いてゾンビ映画の首位だったこともあります。しかし、その記録は2013年の『ワールド・ウォーZ』に破られてしまいましたし、全世界興収では2002年の『バイオハザード』第一作にも及んでいませんでした。
参考までに、2000年以降を対象に、ぺぐもんさんがご紹介くださった作品と、ゾンビ映画の主なヒット作の興行収入をBox Office Mojoから転載しておきます。
題名 | 製作国 | 公開年 | 北米興収 | 全世界興収 | 備考 |
アンデッド | 豪 | 2003 | $41,196 | $187,847 | |
ショーン・オブ・ザ・デッド | 英 | 2004 | $13,542,874 | $30,039,392 | 日本未公開 |
ゾンビランド | 米 | 2009 | $75,590,286 | $102,391,540 | |
ゾンビーワールドへようこそ | 米 | 2015 | $3,703,046 | $14,860,766 | 日本未公開 |
以上がご紹介いただいたコメディ | |||||
バイオハザード | 英独米 | 2002 | $40,119,709 | $102,441,078 | |
ドーン・オブ・ザ・デッド | 米 | 2004 | $59,020,957 | $102,356,381 | |
バイオハザードII アポカリプス | 英加 | 2004 | $51,201,453 | $129,394,835 | |
バイオハザードIII | 米 | 2007 | $50,648,679 | $147,717,833 | |
バイオハザードIV アフターライフ | 米 | 2010 | $60,128,566 | $296,221,663 | |
バイオハザードV: リトリビューション | 米 | 2012 | $42,345,531 | $240,159,255 | |
ウォーム・ボディーズ | 米 | 2013 | $66,380,662 | $116,980,662 | これはホラー映画か疑問ですが |
ワールド・ウォーZ | 米 | 2013 | $202,359,711 | $540,007,876 |
1980年以降の北米におけるゾンビ映画興収ランキングを見ても(ゾンビ映画と云えるのか疑問な作品も混ざってますが)、上位にコメディはほとんど登場しません。
やはり、シリアスな直球のゾンビ映画で確立された市場がまずあって、その市場が大きいから「ダメ人間が世界の崩壊でヒーローになることを望む」ような変化球のコメディを投げることもできるのだと思います。日本では和製の直球ゾンビ映画が成立していないのに、変化球から投げても意味がないと思うのです。
ご紹介いただいた作品のいくつかが日本では劇場未公開に終わったのは、少なくとも劇場公開には見合わないと判断されたからでしょう。どちらかというと、日本の映画関係者のあいだでは、このような変化球は見習うべき定型というよりも手を出しちゃいけないものと認識されているのではないでしょうか。
先の記事で、ゾンビ映画を作りたいクリエイターはいても作れないのだろう、という趣旨のことを書いたのも、このような状況が想像されたからです。
ところが『アイアムアヒーロー』は金をかけています。2016年4月に公開して国内だけで16.2億円の興行収入を上げましたが、これではペイできてないのではないでしょうか。
興収16.2億円といえば一応ヒットと呼んでも差し支えないでしょうが、境治氏の計算例にならって配給収入が興行収入の50%、配給手数料は(少なめに見て)その30%、宣伝費を(少なめに見て)2億円と仮定すれば、製作委員会には3.67億円しか入ってこない計算になります。制作費を3.67億円以下に収めてやっとトントンです。でも、これだけVFXを使って大掛かりなロケをして、3.67億円で済むとは思えませんね。主演の大泉洋さんは完成報告会見の場で「撮影をしていてもとんでもない予算がかかっているというのはわかりました。邦画としてはとんでもないスケールの映画です。撮影当初から私は若干、胃が痛い思いがしましたね。」とおっしゃっています。
そんな大金を、日本映画ではこれまでヒットしたことのないゾンビ映画に、しかも海外でも主流とはいえない変化球タイプの映画に投入するとは考えにくいです。
実は、『アイアムアヒーロー』の前に私が注目していたのが、2015年公開の『Zアイランド』です。有名俳優を起用して、全国169スクリーンというゾンビ映画としては大規模な公開でした。監督も有名人だし、お笑いに明るい人だし、ゾンビ映画にアクション要素とコメディ要素を上手く持ち込んで一気に和製ゾンビ映画の存在感を高めるのではないかと注目したのです。
残念ながら『Zアイランド』は興行面でも評判の面でも成功できませんでした。作品そのものの力不足もあるでしょうけど、同じ監督の前作『サンブンノイチ』が週末観客動員数ランキングで初登場8位(興収6345万3200円)、前々作『漫才ギャング』も初登場8位(興収8600万4500円)だったのに、『Zアイランド』は初登場14位という落ち込みは、評判が悪くて客足が伸びなかったというよりも観たいと思う人が最初から少なかったのでしょうから、日本ではゾンビ映画が(コメディタッチにしても)あまり興味を持たれないことを示してるように思います。
日本映画でゾンビ物を成立させるのは難しい……そう感じていたところに公開されたのが『アイアムアヒーロー』です。
驚くことに、「ダメ人間が世界の崩壊でヒーローになることを望む」ような構造を持ちながら、本作はコメディではありません。そして初登場4位、土日2日間だけで動員15万9964人、興収2億2568万8700円を記録します(「CINEMAランキング通信」より)。
本作の作り手は(原作者も含めて)、どうしたらゾンビ物が日本で受け入れられるかという問題意識から考えはじめたわけではないでしょう。もちろん過去のゾンビ映画を観てはいるでしょうが、原作者の花沢健吾氏が発端は破壊願望だったとおっしゃっているように、社会がぶっ壊れてリア充が全滅してしまえばいいのにというルサンチマンが本作の原動力になっています。
正確を期せば、本作は「ダメ人間が世界の崩壊でヒーローになることを望む」話ではありません。自分をダメ人間扱いした世界の崩壊を望む話なのです。そのことは記事本文に書いたのでここでは繰り返しませんが、「破壊衝動を活かせる設定はなんだろう? と考えたら、ゾンビがいちばん合っていた」という花沢氏の言葉どおり、結果的にゾンビ物の体裁をとったに過ぎません。
それが観客に支持されました。
欧米では変化球扱いになるものが、日本では観客のハートのド真ん中をぶち抜く直球だったのです。欧米では一捻りしたつもりのものが、日本ではストレートに求められていたのです。
それを実現したところに『アイアムアヒーロー』の特異性があり、それを受け入れるところに日本らしさがある、と考えるのは穿ちすぎでしょうか。
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監督/佐藤信介 原作/花沢健吾
出演/大泉洋 有村架純 長澤まさみ 吉沢悠 岡田義徳 片瀬那奈 徳井優 塚地武雅 マキタスポーツ 片桐仁 風間トオル
日本公開/2016年4月23日
ジャンル/[ホラー] [サスペンス] [ドラマ]

- 関連記事
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- 『アイアムアヒーロー』はゾンビ映画なの?(その2) (2016/09/13)
- 『アイアムアヒーロー』はゾンビ映画なの? (2016/09/04)
⇒comment
No title
丁寧な返信ありがとうございます。
私の投げかけた疑問は、本記事で言及されている、
「『アイアムアヒーロー』はゾンビ映画のストーリーの定型、キャラクターの定型から外れている」
という点へ向けたものです。
シリアスかコメディかは語り口であって、『アイアムアヒーロー』も同じストーリー、同じキャラクターでコメディにもできます。
『アイアムアヒーロー』は、後発作品としてゾンビコメディの典型をややシリアスなテイストで描いたという面があると思われます。
(ゾンビ・コメディの『ショーン・オブ・ザ・デッド』(2004)との共通点が多い。『ゾンビ』のパロディとして、ジョージ・A・ロメロも認める作品で、『アイアムアヒーロー』はそれのシンクロニシティか、先祖返りさせて、シリアスに戻してオマージュした可能性が高いです)
(リメイク版の『ドーンオブザデッド』も2004年製作です)
映画『アイアムアヒーロー』はコメディではないかもしれませんが、大泉洋というコメディのイメージが強いキャストを配置し、予告編でも音楽などコメディに近いイメージで宣伝しています。
コミカルなシーンもかなり多く、英雄はゾンビコメディの典型的主人公に近いです。
(実際、本編でもコメディ的シーンがかなりあります)
劇場で笑い声もかなり上がっていました。
極論ですが、ホラー・コメディは変化球ですが、ゾンビ・コメディは変化球ではありません。
ゾンビは初期からコメディの素材として多く扱われてきたからです。
ホラー・コメディのジャンルであるスプラッタの元祖である『死霊のはらわた』が変形ゾンビものであることもその証明の一つ。
ゾンビ・バイブルの一本である『ゾンビ』でもコメディ的シーンが多くあります。
それと、日本でも、映画以外の漫画・アニメ作品ではゾンビものの小ヒットはけっこうあります。
テレビアニメ作品で漫画『アイアムアヒーロー』(2009年に漫画連載開始)以前に『学園黙示録 HIGHSCHOOL OF THE DEAD』(2006年に漫画連載開始、アニメは2010年)というヒット作品があります。
普通の高校生が、世界の崩壊によってヒーローになっていきます。
シリアスなゾンビ漫画として、初めて長めの連載になった漫画作品です。
同様に小説『屍鬼』(1998)を漫画化した『屍鬼』(2008年に連載開始)もヒットし、アニメ化されこちらもヒットしています。
吸血鬼に近い設定ですが、偶像劇で、中にはこの世界崩壊を望んでいた人物がいます。
私の投げかけた疑問は、本記事で言及されている、
「『アイアムアヒーロー』はゾンビ映画のストーリーの定型、キャラクターの定型から外れている」
という点へ向けたものです。
シリアスかコメディかは語り口であって、『アイアムアヒーロー』も同じストーリー、同じキャラクターでコメディにもできます。
『アイアムアヒーロー』は、後発作品としてゾンビコメディの典型をややシリアスなテイストで描いたという面があると思われます。
(ゾンビ・コメディの『ショーン・オブ・ザ・デッド』(2004)との共通点が多い。『ゾンビ』のパロディとして、ジョージ・A・ロメロも認める作品で、『アイアムアヒーロー』はそれのシンクロニシティか、先祖返りさせて、シリアスに戻してオマージュした可能性が高いです)
(リメイク版の『ドーンオブザデッド』も2004年製作です)
映画『アイアムアヒーロー』はコメディではないかもしれませんが、大泉洋というコメディのイメージが強いキャストを配置し、予告編でも音楽などコメディに近いイメージで宣伝しています。
コミカルなシーンもかなり多く、英雄はゾンビコメディの典型的主人公に近いです。
(実際、本編でもコメディ的シーンがかなりあります)
劇場で笑い声もかなり上がっていました。
極論ですが、ホラー・コメディは変化球ですが、ゾンビ・コメディは変化球ではありません。
ゾンビは初期からコメディの素材として多く扱われてきたからです。
ホラー・コメディのジャンルであるスプラッタの元祖である『死霊のはらわた』が変形ゾンビものであることもその証明の一つ。
ゾンビ・バイブルの一本である『ゾンビ』でもコメディ的シーンが多くあります。
それと、日本でも、映画以外の漫画・アニメ作品ではゾンビものの小ヒットはけっこうあります。
テレビアニメ作品で漫画『アイアムアヒーロー』(2009年に漫画連載開始)以前に『学園黙示録 HIGHSCHOOL OF THE DEAD』(2006年に漫画連載開始、アニメは2010年)というヒット作品があります。
普通の高校生が、世界の崩壊によってヒーローになっていきます。
シリアスなゾンビ漫画として、初めて長めの連載になった漫画作品です。
同様に小説『屍鬼』(1998)を漫画化した『屍鬼』(2008年に連載開始)もヒットし、アニメ化されこちらもヒットしています。
吸血鬼に近い設定ですが、偶像劇で、中にはこの世界崩壊を望んでいた人物がいます。
Re: No title
ぺぐもんさん、コメントありがとうございます。
誤読されているようですが、私の記事に『アイアムアヒーロー』がゾンビ映画のストーリーの定型から外れているとは書いてありません。それどころか、ストーリー定型をきっちりなぞっていることを強調しています。
それから、複数の作品を包括的にコメディと分類するに当たって、自分がコミカルと感じたか否かとか、他の観客が笑ったかどうかで語るつもりはありません。それは個人の好みや気分によりますし、たいていの映画は上映している2時間のうちに多かれ少なかれ笑うところくらいあるでしょう。
私がいくつかの作品をコメディに分類したのは、IMDbやBox Office Mojoがその作品のジャンルをコメディとしているからです。自分がコミカルに感じたかどうかという主観的・気分的なものより、世界中の人の目にさらされているデータベースに基づいたほうが話がこじれなくていいですね。
表「ゾンビ映画の興行収入」の『ウォーム・ボディーズ』の備考欄に「これはホラー映画か疑問ですが」と注釈したのも、Box Office Mojoでは『ウォーム・ボディーズ』のジャンルを「ドラマ」としているからです。たしかに『ウォーム・ボディーズ』は恋愛ドラマだからこのジャンル分けは間違っていません。でもBox Office Mojoの「ゾンビ映画興収ランキング」にも掲載されているので、注釈が必要と考えたのです。
あと、「ゾンビは初期からコメディ…」として『死霊のはらわた』を例示されておりますが、『死霊のはらわた』は1981年の作品です。『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』から13年も経っています。
>『アイアムアヒーロー』は、後発作品としてゾンビコメディの典型をややシリアスなテイストで描いたという面があると思われます。
>(ゾンビ・コメディの『ショーン・オブ・ザ・デッド』(2004)との共通点が多い。『ゾンビ』のパロディとして、ジョージ・A・ロメロも認める作品で、『アイアムアヒーロー』はそれのシンクロニシティか、先祖返りさせて、シリアスに戻してオマージュした可能性が高いです)
そういう面もあるでしょうね。繰り返しになりますが、『アイアムアヒーロー』はゾンビ映画のストーリー定型にきっちりのっとっています。『アイアムアヒーロー』の作り手は原作を取捨選択して映画のストーリーを構築するに当たり、先行するゾンビ映画を研究して、確立された型にはまるように作り込んだのでしょう。
でも、それだけだったら『アイアムアヒーロー』の登場を待つまでもありません。『ゾンビ』の日本公開から37年、『死霊のはらわた』の日本公開から数えても31年もありました。日本にもゾンビ映画を好きな人はいましたし、細々と作られてもいました。
ゾンビコメディを先祖返りさせてシリアスに戻したら、『ゾンビ』のパロディからパロディ要素を抜くことになり、元の『ゾンビ』に戻るだけです。それはただのロメロの亜流ですよね。それを作る機会は何十年もあったわけですし、それでヒットを飛ばせるならとっくの昔に日本はゾンビ映画大国になってます。
オマージュということは意図的にやったとの認識でしょうが、自主映画じゃないのですから、日本では劇場公開にすら至らなかった(こんな映画は公開できないと思われた)『ショーン・オブ・ザ・デッド』と同じことをするために億単位の金を注ぎ込むでしょうか? 金を出す人がいるでしょうか? たまたま似たところもあれば、意図して似せたところもあるかもしれませんが、似せるからにはそこに勝算がなければなりません。
もちろん、『ショーン・オブ・ザ・デッド』が日本で公開されなかったのは、映画の出来が悪いからではありません。面白い映画であることは配給会社の人間にだって判ったはずです。でも日本では一般公開に見合うほど客を呼べないと判断されたわけです。
付け加えるなら、『アイアムアヒーロー』と『ショーン・オブ・ザ・デッド』が似ているのはあくまで表面的、形式的なことだけで、作品が訴えるものはかなり違うと思います。『ショーン・オブ・ザ・デッド』の重要なメッセージが『アイアムアヒーロー』にはない(入る余地がないほどかけ離れている)ので、両作を一緒くたに扱ったら『ショーン・オブ・ザ・デッド』の作り手が悲しむと思います。
過去、何百本もあるゾンビ映画を渉猟すれば、『アイアムアヒーロー』に似た要素を持つ映画を見つけることは容易でしょう。『アイアムアヒーロー』自体も、形式的にはゾンビ映画の定型に沿うことを意図的に行っています。
しかし、注目すべきはそこではないはずです。
日本の映画史上はじめて、興行収入10億円の大台を突破した和製ゾンビ映画なんですよ。なぜそれができたのか、これまでのゾンビ映画とは何が違うのか。そこに思いを馳せないと、本作の価値を見誤ると思います。
なお、小ヒットとは聞きなれない言葉ですが、具体的な収益・利益はいくらぐらいを指すのでしょうか。
映画の場合は、興行収入10億円というラインがありますね。興収10億円では少ない気もしますが、日本映画製作者連盟のデータや映画会社の業績発表が興行収入10億円以上の作品を対象とするのは、ここまで届くことが一つの目安になっているからでしょう(もちろん低予算の映画であれば、もっと少ない興行収入でもビジネスとしては成立することもあるでしょう)。
和製ゾンビ映画は過去にもありましたが、私が『アイアムアヒーロー』を特別視するのは、おそらくははじめて10億円を超えた和製ゾンビ映画だからです。今後、和製ゾンビ映画のヒット作が出ても、市場を切り拓いた先駆者として『アイアムアヒーロー』は語り継がれるでしょうし、語り継がれなければならないと思います。
ぺぐもんさんのおっしゃる「小ヒット」についても、それが意味する売上や利益を教えていただけたら具体的なイメージを抱けるでしょう。
ただ、映画について語るときに他の媒体に言及するのは話がそれるので避けたほうが良いと思います。
『アイアムアヒーロー』の原作者花沢健吾氏は『アイアムアヒーロー』執筆のきっかけとして「漫画ではゾンビものがあまりないなと思ったので、それをやってみようという流れでした」とシネマトゥデイのインタビューで語っていますが、ないわけじゃないんですよね。『アイアムアヒーロー』以前の和製ゾンビ映画でもマンガや小説を原作としたものはありますし、ぺぐもんさんは最近のマンガや小説を紹介されましたが、『ワールド・ウォーZ』の記事で述べたように日本には60~70年代にすでにマンガ『デスハンター』やその小説化『死霊狩り』(ゾンビー・ハンターシリーズ)がありました(ロメロの『ゾンビ』が日本で公開されたとき、やっとゾンビの映画が来たかと思ったのは私だけではないはずです)。
でも、ゾンビを扱ったマンガや小説があったことに言及すると、なぜ映画化されてヒットを飛ばせなかったの?という疑問に舞い戻り、堂々巡りになってしまいます。
マンガを描いたり小説を発表するのに比べると、映画(特に商業映画)は必要とされる人的投資、金銭的投資が桁違いで、実現に要するハードルの高さがまったく異なります。3億円以上集めないと執筆に取り掛かれない小説はないでしょうし、マンガ連載は人気がなければ打ち切ればいいですけど、映画の場合は冒頭10分だけ公開して人気があれば10分ずつ作るというわけにいきません。映画を作るにはたくさんの人に納得・共感してもらって、環境を整える必要があります。
私が映画を対象にして語っているのは、そのハードルをクリアするところまで達したかどうかという問題も前提にしているわけです。
『屍鬼』がアニメ化され、ヒットしたとのことですが、深夜枠TVアニメのビジネスは劇場用映画とは異なります。劇場用映画のヒット作は、一人当たり千数百円の入場料の積み重ねで10億円以上を達成しなければなりませんが、深夜枠TVアニメの狙いはビデオグラム等の販売ですから、一人当たり数千円とか数万円を商品に注ぎ込んでくれれば良いわけです。熱心な愛好家がいれば、その数は限定的でも成立するのです。
映画でもビデオグラムなどの二次収入で投資を回収したり利益を出そうとすることはありますが、映画でヒットといえばやっぱり興行収入で語られますし、それは本当にたくさんの人が劇場に足を運んでくれなければ達成できません。
これもまた非常に高いハードルですね。
深夜枠TVアニメ発であっても、『魔法少女まどか☆マギカ』や『ガールズ&パンツァー』のように劇場で公開され、興行収入の面でも申し分なくヒットする作品はあります。
にもかかわらず、こちらの作品はアニメ化だけでなぜ映画化されないのだろう、と考えてみてはいかがでしょうか。
誤読されているようですが、私の記事に『アイアムアヒーロー』がゾンビ映画のストーリーの定型から外れているとは書いてありません。それどころか、ストーリー定型をきっちりなぞっていることを強調しています。
それから、複数の作品を包括的にコメディと分類するに当たって、自分がコミカルと感じたか否かとか、他の観客が笑ったかどうかで語るつもりはありません。それは個人の好みや気分によりますし、たいていの映画は上映している2時間のうちに多かれ少なかれ笑うところくらいあるでしょう。
私がいくつかの作品をコメディに分類したのは、IMDbやBox Office Mojoがその作品のジャンルをコメディとしているからです。自分がコミカルに感じたかどうかという主観的・気分的なものより、世界中の人の目にさらされているデータベースに基づいたほうが話がこじれなくていいですね。
表「ゾンビ映画の興行収入」の『ウォーム・ボディーズ』の備考欄に「これはホラー映画か疑問ですが」と注釈したのも、Box Office Mojoでは『ウォーム・ボディーズ』のジャンルを「ドラマ」としているからです。たしかに『ウォーム・ボディーズ』は恋愛ドラマだからこのジャンル分けは間違っていません。でもBox Office Mojoの「ゾンビ映画興収ランキング」にも掲載されているので、注釈が必要と考えたのです。
あと、「ゾンビは初期からコメディ…」として『死霊のはらわた』を例示されておりますが、『死霊のはらわた』は1981年の作品です。『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』から13年も経っています。
>『アイアムアヒーロー』は、後発作品としてゾンビコメディの典型をややシリアスなテイストで描いたという面があると思われます。
>(ゾンビ・コメディの『ショーン・オブ・ザ・デッド』(2004)との共通点が多い。『ゾンビ』のパロディとして、ジョージ・A・ロメロも認める作品で、『アイアムアヒーロー』はそれのシンクロニシティか、先祖返りさせて、シリアスに戻してオマージュした可能性が高いです)
そういう面もあるでしょうね。繰り返しになりますが、『アイアムアヒーロー』はゾンビ映画のストーリー定型にきっちりのっとっています。『アイアムアヒーロー』の作り手は原作を取捨選択して映画のストーリーを構築するに当たり、先行するゾンビ映画を研究して、確立された型にはまるように作り込んだのでしょう。
でも、それだけだったら『アイアムアヒーロー』の登場を待つまでもありません。『ゾンビ』の日本公開から37年、『死霊のはらわた』の日本公開から数えても31年もありました。日本にもゾンビ映画を好きな人はいましたし、細々と作られてもいました。
ゾンビコメディを先祖返りさせてシリアスに戻したら、『ゾンビ』のパロディからパロディ要素を抜くことになり、元の『ゾンビ』に戻るだけです。それはただのロメロの亜流ですよね。それを作る機会は何十年もあったわけですし、それでヒットを飛ばせるならとっくの昔に日本はゾンビ映画大国になってます。
オマージュということは意図的にやったとの認識でしょうが、自主映画じゃないのですから、日本では劇場公開にすら至らなかった(こんな映画は公開できないと思われた)『ショーン・オブ・ザ・デッド』と同じことをするために億単位の金を注ぎ込むでしょうか? 金を出す人がいるでしょうか? たまたま似たところもあれば、意図して似せたところもあるかもしれませんが、似せるからにはそこに勝算がなければなりません。
もちろん、『ショーン・オブ・ザ・デッド』が日本で公開されなかったのは、映画の出来が悪いからではありません。面白い映画であることは配給会社の人間にだって判ったはずです。でも日本では一般公開に見合うほど客を呼べないと判断されたわけです。
付け加えるなら、『アイアムアヒーロー』と『ショーン・オブ・ザ・デッド』が似ているのはあくまで表面的、形式的なことだけで、作品が訴えるものはかなり違うと思います。『ショーン・オブ・ザ・デッド』の重要なメッセージが『アイアムアヒーロー』にはない(入る余地がないほどかけ離れている)ので、両作を一緒くたに扱ったら『ショーン・オブ・ザ・デッド』の作り手が悲しむと思います。
過去、何百本もあるゾンビ映画を渉猟すれば、『アイアムアヒーロー』に似た要素を持つ映画を見つけることは容易でしょう。『アイアムアヒーロー』自体も、形式的にはゾンビ映画の定型に沿うことを意図的に行っています。
しかし、注目すべきはそこではないはずです。
日本の映画史上はじめて、興行収入10億円の大台を突破した和製ゾンビ映画なんですよ。なぜそれができたのか、これまでのゾンビ映画とは何が違うのか。そこに思いを馳せないと、本作の価値を見誤ると思います。
なお、小ヒットとは聞きなれない言葉ですが、具体的な収益・利益はいくらぐらいを指すのでしょうか。
映画の場合は、興行収入10億円というラインがありますね。興収10億円では少ない気もしますが、日本映画製作者連盟のデータや映画会社の業績発表が興行収入10億円以上の作品を対象とするのは、ここまで届くことが一つの目安になっているからでしょう(もちろん低予算の映画であれば、もっと少ない興行収入でもビジネスとしては成立することもあるでしょう)。
和製ゾンビ映画は過去にもありましたが、私が『アイアムアヒーロー』を特別視するのは、おそらくははじめて10億円を超えた和製ゾンビ映画だからです。今後、和製ゾンビ映画のヒット作が出ても、市場を切り拓いた先駆者として『アイアムアヒーロー』は語り継がれるでしょうし、語り継がれなければならないと思います。
ぺぐもんさんのおっしゃる「小ヒット」についても、それが意味する売上や利益を教えていただけたら具体的なイメージを抱けるでしょう。
ただ、映画について語るときに他の媒体に言及するのは話がそれるので避けたほうが良いと思います。
『アイアムアヒーロー』の原作者花沢健吾氏は『アイアムアヒーロー』執筆のきっかけとして「漫画ではゾンビものがあまりないなと思ったので、それをやってみようという流れでした」とシネマトゥデイのインタビューで語っていますが、ないわけじゃないんですよね。『アイアムアヒーロー』以前の和製ゾンビ映画でもマンガや小説を原作としたものはありますし、ぺぐもんさんは最近のマンガや小説を紹介されましたが、『ワールド・ウォーZ』の記事で述べたように日本には60~70年代にすでにマンガ『デスハンター』やその小説化『死霊狩り』(ゾンビー・ハンターシリーズ)がありました(ロメロの『ゾンビ』が日本で公開されたとき、やっとゾンビの映画が来たかと思ったのは私だけではないはずです)。
でも、ゾンビを扱ったマンガや小説があったことに言及すると、なぜ映画化されてヒットを飛ばせなかったの?という疑問に舞い戻り、堂々巡りになってしまいます。
マンガを描いたり小説を発表するのに比べると、映画(特に商業映画)は必要とされる人的投資、金銭的投資が桁違いで、実現に要するハードルの高さがまったく異なります。3億円以上集めないと執筆に取り掛かれない小説はないでしょうし、マンガ連載は人気がなければ打ち切ればいいですけど、映画の場合は冒頭10分だけ公開して人気があれば10分ずつ作るというわけにいきません。映画を作るにはたくさんの人に納得・共感してもらって、環境を整える必要があります。
私が映画を対象にして語っているのは、そのハードルをクリアするところまで達したかどうかという問題も前提にしているわけです。
『屍鬼』がアニメ化され、ヒットしたとのことですが、深夜枠TVアニメのビジネスは劇場用映画とは異なります。劇場用映画のヒット作は、一人当たり千数百円の入場料の積み重ねで10億円以上を達成しなければなりませんが、深夜枠TVアニメの狙いはビデオグラム等の販売ですから、一人当たり数千円とか数万円を商品に注ぎ込んでくれれば良いわけです。熱心な愛好家がいれば、その数は限定的でも成立するのです。
映画でもビデオグラムなどの二次収入で投資を回収したり利益を出そうとすることはありますが、映画でヒットといえばやっぱり興行収入で語られますし、それは本当にたくさんの人が劇場に足を運んでくれなければ達成できません。
これもまた非常に高いハードルですね。
深夜枠TVアニメ発であっても、『魔法少女まどか☆マギカ』や『ガールズ&パンツァー』のように劇場で公開され、興行収入の面でも申し分なくヒットする作品はあります。
にもかかわらず、こちらの作品はアニメ化だけでなぜ映画化されないのだろう、と考えてみてはいかがでしょうか。