『ガメラ 大怪獣空中決戦』の衝撃とゴジラシリーズ

ガメラ 大怪獣空中決戦 大映特撮 THE BEST [DVD] 怪獣映画を観ると心が洗われる。いい映画を観ると、ではない。怪獣映画ならではの効能と云うか、怪獣映画を観たあとの清しさには一種独特のものがある。
 それをとりわけ強く感じるのが『ガメラ 大怪獣空中決戦』だ。この映画の持つ力強さ、感動、カタルシスは、ちょっと他では味わえない。

 この映画の魅力はたくさんあるが、公開時に一番驚いたのは仰ぎ見る映像の多さだった。怪獣は見上げるほど大きい存在なのに、それまでの怪獣映画ではスタジオに作ったミニチュアのセットをのしのし歩くパターンが多く、天井が映り込んでしまうためかカメラが上に向けられることはほとんどない……と思っていたら、この映画は見上げるショットの連発だった。ギャオスもガメラも人間の目の高さから見上げる映像ばかり。しかも視界(スクリーン)からはみ出す大きさだ。ガメラが天高く昇っていく映像なんて、ひっくり返るほど驚いた。

 「(特技監督の)樋口さんは絵コンテを描いてた人なんで」本作の特撮助監督だった神谷誠氏はトークショー[*]で口にした。「なんで絵コンテどおりに撮らないんだ、と云っていて。『こんなの撮れない』と云われて、じゃあって自分でやりはじめた人だから。」
 今ならクリーチャーも背景もCGIにすればどんなアングルでも撮れるのかもしれないが、当時は見たこともなかった構図の連続にたまげたものだ。そんな「怪獣映画じゃ無理だよね」という思い込みを蹴散らしてくれたのが、『ガメラ 大怪獣空中決戦』の凄さだった。


 豪勢なストーリーにも痺れてしまう。
 とうぜんベースは1967年公開の『大怪獣空中戦 ガメラ対ギャオス』であり、ギャオスが光に弱いことや足をちぎって逃げるところなど多くの要素が本作に受け継がれている。だが、プロットの大枠はゴジラ映画史上(日本怪獣映画史上)最大のヒット作『キングコング対ゴジラ』(1962年)をなぞったものだろう。
 一見、関係なさそうな謎の環礁(ガメラ側)の話と怪鳥(ギャオス側)の話が交互に映し出され、遂に福岡ドームで両者が激突。戦いは一度では決着がつかず、次のラウンドへ持ち越される……という流れは、キングコングとゴジラの戦いそのままだ。
 他ならぬ『キングコング対ゴジラ』を下敷きにするとは、まったく感心してしまう。

 そもそも『キング・コング』(1933年)にしろ『ゴジラ』(1954年)にしろ、キングコング自身、ゴジラ自身が驚異的な存在なのだから、対戦相手なんて必要なかった。大暴れするモンスターを描けば映画になった。『キングコング』には恐竜が、『ゴジラの逆襲』(1955年)にはアンギラスが登場して戦ったが、彼らは時代劇で云えば斬られ役。あっさり負けてコングやゴジラを引き立てるだけだった。『空の大怪獣 ラドン』(1956年)にしろ『モスラ』(1961年)にしろ、映画の中心はラドンやモスラの出現そのものだった。

キングコング対ゴジラ 【60周年記念版】 [Blu-ray] そこに打ち出された新機軸が対戦ものだ。米国モンスターの代表キングコングと日本のモンスター代表ゴジラが、なんと同じ映画で共演してどちらが強いか競うというのだから、飛び抜けて豪華な企画だ。今では29本あるゴジラ映画の第三作とされる『キングコング対ゴジラ』だが、制作当時はシリーズの枠を超えた破天荒な企画だったに違いない。
 その大ヒットに気を良くしたか、東宝はこれまた主役級のモスラをゴジラと対戦させる『モスラ対ゴジラ』(1964年)を作り、対戦ものの量産時代に突入していく。
 かつて大スターの共演を意味した対戦ものも、『地球攻撃命令 ゴジラ対ガイガン』や『ゴジラ対メガロ』に至ると、主役のゴジラが斬られ役をなぎ倒すような映画になってしまった。それは第二作『ゴジラの逆襲』と同じ「ゴジラ一強時代」に戻ったことを意味する。

 そんな風にゴジラシリーズを眺めていた私にとって、平成にガメラ映画を復活させるその*第一作*に『キングコング対ゴジラ』のプロットを持ってくるとは驚きだった。『キングコング対ゴジラ』は第一作用の話じゃないのだから。それは勝新太郎と三船敏郎が共演した『座頭市と用心棒』のような、アラン・ドロンとジャン=ポール・ベルモンドが共演した『ボルサリーノ』のような、すでに名のある二大スターのどちらの顔も立てるためのプロットなのだ。

 『ガメラ 大怪獣空中決戦』の作り手がひとひねりしたのは、ガメラとギャオスのどちらも無名の状態からはじめたことだ。ゴジラシリーズが何度リブートしても1954年の第一作だけは無視できない(平成ゴジラシリーズ(vsシリーズ)もミレニアムシリーズも第一作の続きとしてはじまった)のとは大違いだ。ガメラもギャオスも長年にわたり愛されてきた人気怪獣だが、過去はなかったことにして、本作では人知れぬ謎の環礁と正体不明の怪鳥から説き起こしている。ストーリーが進むにつれて、両者はスターとしての存在感を身につけていき、クライマックスではともに貫禄たっぷりになって対峙する。
 観客の興味が一方に偏らないように配慮したバランス感覚が素晴らしい。

 そうはいっても、主役がガメラであることは誰もが知っている。その分を割り引くためか、本作では、ガメラがややぞんざいにいきなり巨大な姿を現すのに対して、ギャオスのほうは幼体時からじっくり丁寧に成長過程を描写する。さらにガメラを巡ってはアトランティスだのオリハルコンだのルーン文字だのとファンタジー等の定番と云える(現実味のない)用語を散りばめていながら、ギャオスに関しては遺伝子の型や繁殖方法に迫ることでリアルな存在として描き出す。
 この異なるアプローチにより、ギャオスにも主役のガメラに対抗できるほどの存在感が備わり、クライマックスの対決シーンが盛り上がる。

大怪獣空中戦 ガメラ対ギャオス 大映特撮 THE BEST [DVD] しかも、幼いギャオスはガメラに襲われたらひとたまりもないので、映画の作り手はギャオスが互角に戦えるようになるまでハンデを与えている。政府がギャオスを希少動物として保護する一方、ガメラを脅威として攻撃することにしたため、ガメラは自衛隊とも戦わねばならないのだ。「ガメラ」対「ギャオス+自衛隊」という構図ができ上がり、ガメラはギャオス退治を阻まれたまま、遂にはギャオスの成長を許してしまう。政府が判断の誤りに気づくのは、ギャオスが成長しきって手に負えなくなってからだ。
 実に巧い展開だ。計算されつくした脚本に頭が下がる。


 もちろん、いくらガメラとギャオスが互角といっても、これはガメラ映画なのだから、ガメラは特別な存在として観客に受け入れられなければならない。
 そこで本作では、藤谷文子さんがガメラと心を通わしてガメラとシンクロする少女浅黄(あさぎ)を演じる。観客は浅黄に感情移入しながら、間接的にガメラにも感情移入する。ガメラが傷つけば浅黄も傷つき、痛々しい少女の姿は観客の心を揺さぶってくる。

 これはテレビアニメ『マジンガーZ』と同じ手法だ。本来、機械でしかないマジンガーZは壊れようが停止しようが視聴者に関係ないはずだ。しかし、搭乗者の兜甲児が絶叫したり苦しんだりすることで、マジンガーZのダメージが兜甲児のダメージとして感じられ、視聴者は兜甲児を介してマジンガーZの"痛み"を知る。
 同じように、本作の観客は浅黄を通してガメラの痛みを共有する。そしてガメラとギャオスの存在感が同等でも、やっぱりガメラを応援したくなる。
 こうして書いていると、改めてこの映画の素晴らしさに圧倒される。

 『ガメラ 大怪獣空中決戦』の公開時は知る由もなかったが、続く第二作、第三作で浅黄がガメラと精神感応できなくなり、徐々にガメラとの距離が開いていくのも、シリーズを俯瞰すると泣かせる展開だ。


 こんな緻密な脚本を前にしたら、削ったりできるものじゃない。
 2016年7月6日のトークショー[*]で、金子修介監督はプロデューサーから「脚本が長い」と云われたことを明かした。「プロデューサーとは必ずそう云うものですが」と断りながら、金子監督は脚本を削りたくないので、できるだけ短く撮って95分に収めたと語った。
 云われてみればセリフのテンポが速いし、ショットはすぐに切り替わる。95分にこんなに詰め込むなんて普通じゃない。
 まるで黒澤明の『椿三十郎』だ。黒澤版『椿三十郎』は、登場人物がみんな(聞き取れないくらい)早口でまくし立て、ポンポン場面が飛んで、盛りだくさんの内容なのに98分で終わってしまう。同じ脚本でも、森田芳光監督のリメイク版は119分だ。あの内容なら119分になるのはもったもだと思うけれど、面白いのは断然黒澤版。『ガメラ 大怪獣空中決戦』もそんな勢いのある映画だった。

               

平成ガメラ4Kデジタル復元版Blu-ray BOX 『ガメラ 大怪獣空中決戦』は怪獣映画史上に燦然と輝く作品だと思うが、あえて細かいことを云わせてもらえば、プルトニウムの説明はしっくり来なかった。伊原剛志さん演じる米森良成(よねもり よしなり)は映画冒頭でプルトニウムが人体に有害であると述べ、また後半ではプルトニウム239の半減期が2万4千年であることを説明する。

 半減期とは、ざっくり云えば、ある物質が崩壊して(放射線を出して)、その半分が別の物質に変わるまでの期間だ。このように崩壊する物質(放射線を出す物質)を放射性物質と呼ぶ。放射性物質には様々な種類があり、私たちが日常的に接しているものもある(人体にも含まれている)。
 半減期が長いということは、崩壊しにくい(放射線を出しにくい)わけだ。火にたとえれば、半減期が長いのは弱火でチョロチョロといつまでも燃えてるようなものだろう。半減期が短いのは、一気に焼き尽くす大火にたとえられるかもしれない。どちらをどの程度危険視するかは、火を扱う状況によろう。劇中の説明は、まるで永遠に続く大火のようだった。
 2万4千年どころか何億年経っても人体に有害な物質だってあるのに、ことさらプルトニウムに注目するのはバランスが悪いように感じられた。

 そんな細かいことを気にしていた私が驚かされたのが『ガメラ2 レギオン襲来』だった。

(次回「『ガメラ2 レギオン襲来』が最高峰なわけ」につづく)


[*] 「平成ガメラ4Kデジタル復元版Blu-ray BOX」の発売を記念して、週替わりで4K版三作の上映とトークショーが行われた。
 登壇者は以下のとおり。文中のトークショーの内容は記憶を頼りに書いているので、思い違いがあったらご容赦願いたい。

 2016年7月6日 主演女優&監督トークショー
  金子修介監督、中山忍さん

 2016年7月13日 スーツアクタートークショー
  第一作ガメラの真鍋尚晃氏、第二作ガメラと第三作イリスの大橋明氏、第三作ガメラの福沢博文氏
  特撮助監督でギニョリストも務めた神谷誠氏

 2016年7月19日 「ガメラ時代と現在~特撮表現の移り変わり~
  撮影の村川聡氏、視覚効果の松本肇氏
  平成ガメラ三部作公開時は中高生だったという田口清隆氏(『ラブ&ピース』特技監督、『劇場版 ウルトラマンX』監督)

平成ガメラ4Kデジタル復元版Blu-ray BOXガメラ 大怪獣空中決戦』  [か行]
監督/金子修介  脚本/伊藤和典  特撮監督/樋口真嗣
出演/中山忍 伊原剛志 藤谷文子 本田博太郎 螢雪次朗 小野寺昭 長谷川初範 本郷功次郎 久保明 渡辺裕之 松尾貴史 袴田吉彦 風吹ジュン 石井トミコ 渡辺哲
日本公開/1995年3月11日
ジャンル/[SF] [特撮]
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【theme : 特撮・SF・ファンタジー映画
【genre : 映画

tag : 金子修介 樋口真嗣 中山忍 伊原剛志 藤谷文子 本田博太郎 螢雪次朗 小野寺昭 長谷川初範 本郷功次郎

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No title

> 金子監督は脚本を削りたくないので、できるだけ短く撮って95分に収めたと語った。

頑張りすぎて30分まで縮めてもらわなくて本当に良かった。そう言えば昔、三谷幸喜が『THE有頂天ホテル』を撮った時、なるたけ早口で撮ったと言ってて、笑いの間や余韻が破壊されてたので、縮めて大丈夫な物にもジャンルがあるんでしょう。ちなみに「シン・ゴジラ」もこれでもかと早口でした。

とりあえず中山忍という姫様と藤谷文子という偉大なる妹を特撮ファンが手に入れた映画という意味で大好き(ガメラやギャオスも好きだけど)。

Re: No title

ふじき78さん、こんにちは。
笑いには間が大切ですからね。

でもフランキー堺さんを配した『幕末太陽傳』のように、早口が軽快なリズムを生んで心地好いコメディ映画もあるから、早口が効果を上げるかどうかは監督の腕や配役や題材やいろんなものの複合的な結果なんでしょうね。
『THE 有頂天ホテル』は未見ですが、ホテルが舞台であることやグランドホテル方式であることから察するに、現代の『幕末太陽傳』を目指したのではないでしょうか。

『シン・ゴジラ』も、話している内容より早口が生み出す雰囲気や勢いを重視した映画でしたね。一度の鑑賞で理解してもらうつもりもないから(リピーターになってもらう、パッケージ販売や配信での繰り返し鑑賞を促す等)、あのスピードでいいのでしょう。

ところで、2016年7月6日のトークショーに中山忍さんがいらっしゃったのですが、すんごく綺麗でした!
会場を埋めた特撮ファンの前に立つ中山忍さんは、戦闘でボロボロになった宇宙戦艦ヤマトの乗組員の前に現れたスターシャのような神々しさでしたよ。
Secret

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