『映画 ひつじのショーン ~バック・トゥ・ザ・ホーム~』 なぜ大人の心にしみるのか

ひつじのショーン~バック・トゥ・ザ・ホーム~ Soundtrack 日本で一番ヒットした曲が何かは、みなさんご存知だろう。
 現在は一人のファンが何枚ものCDを買うように仕向ける商法があるけれど、そんなことしなくても本当にヒットする曲は爆発的に売れまくる。
 日本でもっとも売れたシングルは、およそ一家で一枚しか買うことのなかった時代、1975年に発売された高田ひろお作詞・佐瀬寿一作曲の『およげ!たいやきくん』だ。

 『映画 ひつじのショーン ~バック・トゥ・ザ・ホーム~』をご覧になった方なら、私がなぜ『およげ!たいやきくん』を持ち出すのかお察しいただけると思う。

  毎日毎日 ぼくらは鉄板の上で焼かれて 嫌になっちゃうよ……

 子門真人さんが嫌そうに歌うこの曲が大ヒットしたのは、サラリーマンに支持されたからだと云われる。『およげ!たいやきくん』は子供向けのテレビ番組『ひらけ!ポンキッキ』内で流れる童謡だったが、その哀愁に満ちた歌詞はサラリーマンの心にしみた。
 ショーンら牧場のひつじたちも、毎日々々の繰り返しが嫌になっていた。ひつじ小屋から出され、追い立てられ、毛を刈られ、また小屋に閉じ込められる。毎日が同じことの繰り返しだ。

 たいやきくんが店のおじさんとケンカして海に逃げ込んだように、ショーンたちも牧場からの逃走を図る。
 ここからはじまるてんやわんやの大騒動は、実に楽しく愉快である。
 しかし、同時に大人の観客にはしみじみと胸に迫るものがあるだろう。

 騒ぎの中、ショーンたちを厳しく管理してきた牧場主は行方不明になってしまう。意外なことに、牧場から解放されることで外の世界を楽しんだのは牧場主だった。たいやきくんが海での自由な生活を喜んだように、牧場主は都会の暮らしを満喫する。
 弱ったのは、ちょっとバカンスに出かけたいだけだったショーンたちだ。牧場主がいなければ、日々の食事にも困ってしまう。
 かくして、ショーンたちは自分らが逃走を企てたことを棚に上げ、牧場主を連れ戻そうとする。人間とは勝手なものだ(ひつじだけど)。

 ショーンらひつじの群れに牧羊犬ビッツァーを加えた一行は、牧場主を求めて涙ぐましい努力をする。
 セリフがなくても、彼らの気持ちは痛いほど伝わる。この人形アニメのキャラクターは嘆息したり声を上げたりはするけれど、言葉は一切喋らない。
 チャールズ・チャップリンもバスター・キートンもサイレント映画で豊かな感情を伝えたというのに、昨今の映画はセリフで一から十まで説明することが少なくない。それがヒットするのだから、観客がそういう映画を求めているのだろう。だが、できれば映画には映像でこそ語ってほしい。
 本作で共同監督を務めたリチャード・スターザックは次のように述べている。[*]
---
テレビシリーズ開始時は、単純に経済的理由でせりふをなくした。せりふに合わせて動かせば、その分、コストがかかるから。ただ、その場合、言葉ではなく映像の力で物語を語らせる必要がある。それは、作り手にとってとても挑戦しがいがあると気づいた。
---

 セリフがなくても、いやセリフがないからこそ、ショーンたちの素直な思いに私たちは感情移入できる。キャラクターの言葉を聞き取って理解する代わりに、映し出される表情や仕草から観客みずから感情を募らせるからだ。

 ひつじの群れが街を訪ね歩く滑稽さ、ビッツァーの潜入行のスリル、ノラ犬との友情、そしてノラ犬ならぬノラひつじと化したショーンたちが動物収容センターの捕獲人に追われるサスペンス等々、盛りだくさんの冒険は最後まで飽きさせない。

 けれども通奏低音として流れ続けるのは、あるのが当たり前だと思っていた日常がなくなってしまった喪失感だ。
 あんなに逃げたがっていた牧場に、みんなで帰ろうとするショーンたち。髪が薄くなった今になって思わぬ成功を手にし、都会の絵の具に染まっていく牧場主。
 これらの描写が、みんなで暮らした家のかけがえのなさを痛感させる。
 昨日と同じ今日を過ごせることのありがたみに気づかせてくれる。


 子供向けテレビ番組の童謡だった『およげ!たいやきくん』は、サラリーマン層がその存在に気づいたことで日本一の大ヒットになった。
 子供向けの人形アニメとして宣伝される本作も、真価はそれにとどまらない。


[*] 2015年7月10日 読売新聞夕刊

ひつじのショーン~バック・トゥ・ザ・ホーム~ Soundtrack映画 ひつじのショーン ~バック・トゥ・ザ・ホーム~』  [あ行]
監督・脚本/マーク・バートン、リチャード・スターザック
日本公開/2015年7月4日
ジャンル/[コメディ] [ファミリー]
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【theme : アニメ
【genre : 映画

tag : マーク・バートン リチャード・スターザック

⇒comment

No title

染み入りました。製作した人たちの意図に乗せられていることを十分に感じつつ、心に染み入りました。同時にユーモアが随所にちりばめられているのも良いですね。

牧場主がショーンたちに心配され操られていることで平和に毎日が過ぎていく、主従が逆転している、というのがこのシリーズの特徴だと思うのですが、今回は強敵(捕獲人)に対して主人が立ち上がるところが素晴らしかったです。大人の良さを出してくれました。同時に悪役の占める役割の大きさを改めて十分に認識しました。

ショーンが牧場主に都会で対面する場面も泣けますね。擬人化している動物たちの可笑しさも健在で安心です。

観終わったときは、街のネズミと田舎のネズミ、か、はたまた映画「ベイブ2」を思いましたが、本作はそのどれとも違うようです。農夫と動物たちの日常が黄金であることをショーンを見る主な層である幼い子らに示す話なのでは、と。

彼ら幼い子たちはどんなことがあっても今日も明日も保育園や幼稚園、小学校に行くのですから。いろんなことが渦巻く世界に通わざるを得ない。そういう子供たちを勇気づけ、仲間がいるし、うまくいくんだよ、と。もちろん、大人も。

すこし勝手な解釈をしてしまいました。

Re: No title

魚虎555さん、こんにちは。
ショーンたちと牧場主の都会での対面は切ないですね。
おかしさ、楽しさの中にもグッと来る場面がたくさんありました。

>そういう子供たちを勇気づけ、仲間がいるし、うまくいくんだよ、と。

おっしゃるとおり、大人も子供も勇気づけられる映画だと思います。

そのくせ、イギリスらしく(?)ピリリと辛口でもありました。
最後の最後、オバサンが場内の清掃をはじめたのは「いつまで映画館に居座っているの」と云われたようで、きつさと愉しさの両方を感じました。
「映画をさんざん楽しんだでしょう。さぁ現実に戻りなさい。リアルな生活を頑張ってね」と云われたような気がしました。

『バケモノの子』のコメント欄に続く:-)
http://movieandtv.blog85.fc2.com/blog-entry-545.html#comment4517
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