『紀元前1万年』から不幸になった?

 【ネタバレ注意】

 華麗な挿絵で世界中にファンを持つ武部本一郎画伯。
 その絵の中から抜け出したような可憐さが、カミーラ・ベル演じるヒロインにはあった。
 まるでエドガー・ライス・バローズの代表作『火星のプリンセス』のヒロイン、デジャー・ソリスのようであった。

 『紀元前1万年』という作品そのものも、エドガー・ライス・バローズの小説『時間に忘れられた国』やペルシダーシリーズを映像化したかのようだ。
 いずれも過去に映画化されているのだが、それらよりもバローズらしい野蛮人賛歌になっている。
 文明への批判・懐疑心と、野性味あふれる生活が持つ力強さは、ターザンシリーズをはじめとしてE・R・バローズが繰り返し描いてきたものだ。

 特に、敵の帝国を倒すために、多くの部族が集結してくる場面など、E・R・バローズのファンなら懐かしさに感極まることだろう。
 文明を体現する暴君が、嘘のベールに隠れ、民衆を恐怖で支配していながら、正義のために立ち上がった野蛮人の前ではあまりにも無力なところなど、バローズ作品に見られる究極の野蛮人賛歌である。
 その無力さが物足りないという向きもあろうが、「文明」は人類の浅知恵が作り出した口先だけのものであるという風刺性を前面に出すためには、避けられない展開であった。

 ローランド・エメリッヒ監督がE・R・バローズのファンかどうかは知らないけれど、野蛮人モノの王道を良く理解しているのは確かである。


 しかし、雄々しき野蛮人たちも、ラストにおいて禁断の実に手を出してしまう。

 部族が二度と飢えなくなる秘密が、穀物の種を手に入れることなのは、『アンデス少年ペペロの冒険』を想わせて、懐かしい味わいである。
 しかし、狩猟採集の生活を捨てて、穀物を育てる定住生活に移行することが幸せとは限らない。
 否、農耕中心の生活は、肉体的にも精神的にも狩猟採集生活より劣ると云われている。

 下に、石井 彰氏による狩猟採集生活についての記事を引用しておこう。

---
 実は、数十万年に及ぶ人類史(人類の定義によって長さは大幅に異なってくるが)の99%を占めていた狩猟採集時代の生活水準は、何と産業革命前の大半の農民の生活水準よりずっと良く、現代の先進国の水準により近かったというのが人類学の通説である。
(略)
人類学調査や、考古学的な様々な証拠から、狩猟採集民の方が、周辺の農耕民や遊牧民よりも栄養状態や体格が良く、より健康で平均寿命も長く、かつ精神的にも健全で、労働時間はずっと短くて余暇生活はより長く充実しているということが判明している。

 まず、狩猟採集民は果物・木の実やイモ類などバラエティに富んだ採集食料に加えて、様々な動物、魚介類など狩猟食料という栄養価が高い様々な旬の食料を常食にしている。人口密度が低ければ、これらの狩猟採集にかかるのは、1日数時間のみであり、残りの大半の時間は遊戯・儀式・おしゃべり・休息に充てている。
(略)
 産業革命前の農民は自ら栽培した同じ穀物ばかり食べざるを得なく、栄養的に偏っていて味覚的にも貧しく、労働時間もはるかに長い。人口密度が高く定住しているので、人間や家畜の排泄物や農業廃棄物、肥料などに取り囲まれる不潔な環境に閉じ込められ、移動による気分転換もできず、集団内の上下関係も厳しく精神的にも不安定である。
---

 農耕をベースに定住生活を始めた野蛮人たちは、やがて「階級」や「財産」といった概念を生み出し、「文明」を築いてしまうのだ。


紀元前1万年 [Blu-ray]紀元前1万年』  [か行]
監督・脚本・制作/ローランド・エメリッヒ  脚本/ハラルド・クローサー
出演/スティーヴン・ストレイト カミーラ・ベル  ナレーター/オマー・シャリフ
日本公開/2008年4月26日
ジャンル/[アドベンチャー] [SF]

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