『プレーンズ2/ファイアー&レスキュー』 友情、努力、勝利の先にあるもの

Planes: Fire & Rescue 【ネタバレ注意】

 なぜレスキュー隊なのか?
 その苦い味付けに驚いた。

 飛行機レースを描いた前作から一転して、『プレーンズ2/ファイアー&レスキュー』ではレスキュー隊の訓練生となったダスティが森林火災の猛威に立ち向かう。
 冒頭のレースシーンのスピード感、中盤から繰り広げられるレスキューシーンの大スペクタクル。どこをとっても迫力ある映像は前作『プレーンズ』を凌ぐほどで、本当に面白い。
 劇場を出た小さな子供が父親に「怖かった」と話していたが、たしかに火に囲まれて絶体絶命の危機に見舞われるスリルは半端ではない。もちろんその子も、怖くて嫌だとかもう観たくないというわけじゃないだろう。それほど凄い体験だったのだ。
 子供向けと思われそうな本作だが、老若男女だれが観ても楽しめる立派な娯楽作である。
 それどころか、派手なレスキューシーンの陰で語られるほろ苦い物語は、大人にこそジンと来るのではないだろうか。

 前作は、農薬散布機でありながら世界一周レースに挑むダスティを通して、少年ジャンプのような「友情、努力、勝利」が通用しないシビアな現実を描いていた(詳しくは前作の記事「『プレーンズ』は友情、努力、勝利を超えた」を参照されたい)。
 そのスタンスは本作にも受け継がれている。
 レースに出れば連戦連勝、いまや押しも押されぬチャンピオンのダスティ。世界中にファンがいる彼は故郷プロップウォッシュ・ジャンクションでも人気者であり、まさに幸せの絶頂にいた。
 けれども本作は彼が手にした「勝利」の先を描く。

 彼を待ち受けていたのは残酷な「挫折」だった。
 ギアボックスを損傷した彼は、レッドゾーンいっぱいまで出力を上げることができなくなってしまう。出力を上げられないなんて、レーサーには致命的だ。
 直すには部品の交換が必要だが、彼の部品は久しく以前に製造中止になっている。複雑すぎて手作りできるものでもない。
 開巻早々、ダスティはレーサー生命の危機に瀕してしまう。

 それからのストーリーは、いわば「友情、努力、勝利」の否定だ。
 故郷にはダスティの友人がたくさんいる。彼らはダスティのためなら苦労も厭わない。
 みんなは八方手を尽くして交換部品を探してくれるけれど、どこの工場にも倉庫にも見つからない。彼らの友情はダスティの気持ちを和らげてはくれるが、事態の解決には役立たないのだ。
 また、ダスティの故障は努力とは関係ない。努力が足りないから故障したわけではないし、努力すれば故障が克服できるものでもない。あえて云うなら、練習に打ち込み過ぎたことが部品の劣化を速めたのかもしれない。

 ダスティが消防士に志願するのは挫折の結果だ。
 火事騒ぎを起こしてしまった彼は、町のみんなのために消防士になろうとするが、同時にそれはレーサーを続けられない自分の居場所を探す行為でもある。
 ダスティばかりではなく、彼が入隊したピストンピークのレスキュー隊も転身してきた者ばかりだった。最初から消防士を目指した者はいやしない。前職は貨物運送だったり、軍用機だったり、スター俳優だったりと、そこには様々な経歴の者が集まっていた。彼らはそれぞれの過去を抱え、このレスキュー隊にやってきたのだ。
 格納庫の壁には、かつて所属した隊員の写真が飾られているが、そこに飾られる条件はただ一つ。墜落すること。
 レスキュー隊は勝利の栄光にはほど遠い世界だった。


 映画館は親と一緒に来た小さい子供でいっぱいだった。
 本作のメインターゲットは、就学前の子供や小学校低学年くらいだろう。
 「友情、努力、勝利」の物語で盛り上げれば、それはそれで喜ぶはずだ。
 ところが本作は、ユーモアとスリルとスペクタクルで楽しませながら、ほろ苦い挫折の物語を織り込んできた。
 そこに作り手の哲学がある。
 プロデューサーのフェレル・バロンはこう語る。
---
誰もが人生で何らかの喪失を経験したと思います。時代の変化に直面したり、失恋したり、キャリアを損なったり。多くの人がやり直さなければなりませんでした。本作で、ダスティは農薬散布機には戻れません。彼はそこにとどまらず、前進しなければならないのです。
---

 私が本作に驚いたのはそこだった。
 まだ挫折したことのない子供たちに――時代の変化に直面したり、失恋したり、キャリアを損なったりしたことのない子供たちに――先回りして挫折の経験を説くとは、なんという配慮だろう。

 考えてみればとうぜんのことなのだ。
 挫折してから――たとえば挫折して荒れた生活に堕ちたり、挫折に耐え切れず自殺してから――挫折への対処を説く物語を提示するのでは遅い。まだ挫折を味わう前に、挫折しても人生はやり直しがきくのだと伝えなければならないのだ。
 「挫折を味わう前」がいつなら良いのかは難しいところだけれど、少なくとも本作を観に来た子供たちに遅すぎることはないだろう。挫折を乗り越えるダスティや、様々な過去を持ちながら苦難に立ち向かう隊員たちの姿を、いつか挫折を味わったときに思い起こすに違いない。

 そう、本作が描くのは勝利の先にある挫折と再起なのだ。
 チャンピオンのダスティですら挫折する。ましてや、多くの人はチャンピオンにもなれない。
 それでもピストンピークの隊員たちは消防士として活躍している。
 
 第一生命が日本の幼児・児童を対象に実施した「大人になったらなりたいもの」アンケート調査でも消防士の人気は高いが、911の災禍を経験した米国では消防士が憧れの職業として不動の地位を確立しているという。
 そんな消防士を、本作では消防士一筋に頑張ってきた者としては描かない。それではかっこいいエリートの物語になってしまうからだ。
 挫折を経験した人でも、消防士にまで這い上がれる。
 消防士が憧れの職業だからこそ、そのメッセージが効いてくる。


 加えて本作が強調するのは、専門家の技術力だ。
 交換部品が手に入らず、修理をあきらめざるを得なかったダスティは、メカニックのマルーのおかげで無事に回復する。
 これは安易な展開だろうか。
 そうではあるまい。マルーが回復させたことで、本作は何を否定しているのか。それを考えれば、この展開は必然的だ。

 友人たちの努力は結局のところ実を結ばなかった。
 事態を解決したのは、マルーのメカニックとしての技術力だ。郷里のドッティには直せなかったダスティのギアボックスを、マルーは見事に直してしまった。
 では、ドッティの技術力が劣っていたのか。
 残念ながらそうなのだ。優れた成果を出すには、高い技術が要求される。
 友情篤いみんなが苦労したのにどうにもならないことでも、技術力のあるベテランなら解決できるのだ。ドッティの名誉のために付け加えるなら、農薬散布機等の修理をしてきたドッティと、過酷な災害現場で働くレスキュー隊を修理してきたマルーとでは、求められる技術が違っていたのかもしれないが。

 レスキュー隊のリーダーであるブレード・レンジャーが繰り返しダスティに説くのもそのことだ。
 全力で最高の仕事をしなければ成果は出ない。成果を出すには、全力で最高の仕事ができるようにならねばならない。
 本作は挫折と再起の物語だが、のほほんとしていて再起はできない。技を磨き、能力を高めて、はじめてプロフェッショナルとしてやっていけるのだ。

 農薬散布機からレーサーを目指す前作にしろ、消防士を目指す本作にしろ、転職することには肯定的だ。
 だが、それが必ずしも華麗なる転身なんかじゃないことに本シリーズの特徴がある。
 どんな仕事だって甘くない。
 子供も大人も、本作を通してそのことを噛みしめるだろう。


Planes: Fire & Rescueプレーンズ2/ファイアー&レスキュー』  [は行]
監督/ボブス・ガナウェイ  製作総指揮/ジョン・ラセター
脚本/ジェフリー・M・ハワード
出演/デイン・クック エド・ハリス ジュリー・ボーウェン コリー・イングリッシュ レジーナ・キング ブライアン・カレン ダニー・パルド マット・ジョーンズ カーティス・アームストロング
日本語吹替版の出演/瑛太 近藤春菜 箕輪はるか 金尾哲夫
日本公開/2014年7月19日
ジャンル/[アドベンチャー] [コメディ] [ファンタジー]
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【genre : 映画

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⇒comment

こんばんは

ドック・ハドソン、レモンカーの秘密結社、スキッパーそして今回のブレードレンジャー・・・カーズシリーズって最初の作品から挫折との向き合い方を描いていますよね(^_^;)
パッと見可愛いのに、内容がすごいシビアなところがなんか胸を打つのかもしれないです。
トム・クルーズのテレビゲーム的な映画のあとに見たのでまたギャップがw

挫折する前に挫折の受け入れ方を伝える・・・こういう内容の作品を子供向けのパッケージで作っちゃうのが素直にかっこいいなあって

Re: こんばんは

ゴーダイさん、こんにちは。
そうなんですよ、すごいシビアなんですよね。
前作のスキッパーなんて、人生の敗残者ですよ。幼児・児童がメインの客層と思われる作品に敗残者のサブストーリーが織り込まれるのも驚きでしたが、そのスキッパーを嘘つきと非難したダスティが本作ではリタイアを余儀なくされるという皮肉な展開。そのダスティを必死に勇気づけようとするスキッパー……くくく泣ける。
本当に、これを子供向けのパッケージで作っちゃうってカッコイイです。

こんばんは

前作はそこそこ楽しんだのですけど、今回は驚きました。
ビジュアルは言わずもがなですが、ここまでドラマの完成度を高めてくるとは。
ダスティの物語は三部作だそうですが、果たして最終作はどういう方向に行くのでしょう。
頂点と、挫折と再起を味わった訳だから・・・・?

Re: こんばんは

ノラネコさん、こんにちは。
そうでした、ギアボックスでした。記事を書くときにこの単語が出てこなくて、何だったかなとIMDbを調べてもエンジンとしか書かれてなかったので仕方なくエンジンと表記していたのですが、ノラネコさんのブログを拝見して、そうだったギアボックスだったと本記事を訂正しました。よく憶えてらっしゃいますね。

私は前作も大いに楽しんで、本作はかなりハードルが高い状態で臨んだのですが、それでもこの展開にはしてやられました。
山火事の描写も凄いですね。プロデューサーのフェレル・バロンによると、本作の映像には75人の特殊効果アーチストがチームを組んで二年半かけたとか。オリジナルビデオの予定だった作品に、よくそこまで注力するものです。

完結編となる次作に期待が高まりますね。
多くの経験を積んだダスティは後輩の育成に取り組むのか、原点回帰で立派な農薬散布機になるのか、それらをミックスして農薬散布機の学校を開くとか……。
いやいや、予想もしない広がりを見せてくれるに違いありません。
Secret

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