『プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命』 これはパスティーシュ?

 【ネタバレ注意】

 公開前に何度も予告編を観ていたけれど、予告編はわざと劇中の時系列をぼかしていたので、てっきり銀行強盗と警察官が対決する話だと思ってしまった。まずは物語の構造が判らないように予告編を編集してくれたことに感謝したい。『プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命』は構造こそが一番面白いところだから。

 ここではアッサリ書いてしまうが、本作は親子二世代の歴史を描いた年代記になっている。141分の上映時間はやや長尺だが、内実は主人公が三人いるトリロジーなのでダレることはない。

 というか、私は本作をパロディあるいはパスティーシュとして大いに楽しんだ。
 表向きは犯罪を扱ったシリアスなドラマである。そう観ても充分に優れた作品だが、同時にスター・ウォーズ・シリーズのパロディとしても面白いのだ。
 デレク・シアンフランス監督は、随所にスター・ウォーズっぽさを散りばめている。ライアン・ゴズリング演じる主人公の名前は「ルーク」だし、ジェイソン少年が黒人の養父に実父のことを尋ねる場面では、養父がダース・ベイダーの口まねをして「私がお前の父親だ」と告げる。これは『スター・ウォーズ/帝国の逆襲』のダース・ベイダーのセリフだ。

 こんなとこにも監督のスター・ウォーズ好きな面がうかがえるし、何よりも本作のストーリーがスター・ウォーズ・シリーズを下敷きにしたとしか思えない。
 本作最初の主人公は、天才ライダーのルーク。銀行強盗の素質を持つ彼は、ベン・メンデルソーン演じるロビンに師事して凄腕の銀行強盗に成長していく。銀行強盗は犯罪だが、ここでは金融帝国に挑む自由の騎士だと解釈しよう。
 連戦連勝のルークを阻むのが、次の主人公エイヴリーだ。新米警察官エイヴリーはルークを殺して称賛される。そして15年後、エイヴリーは強大な権力を握るようになる。
 年代記の最後は、ルークの息子ジェイソンがエイヴリーを討つ話だ。何も知らずに養父に育てられたジェイソンは、実父の師だったロビンに会って過去の事件を知り、父の仇エイヴリーとの戦いに赴く。

 こうしてみれば、本作の人間関係がスター・ウォーズ・シリーズに符合することが判るだろう。
 天才ライダー・ルークは、スター・ウォーズ エピソード1~3の主人公アナキン・スカイウォーカー。
 彼を導くロビンは、ジェダイの騎士オビ=ワン・ケノービ。
 ルークを殺すエイヴリーはシスの暗黒卿ダース・ベイダー、もしくはダース・ベイダーの後ろにいる銀河帝国皇帝パルパティーンだ。
 父の仇討ちに臨む息子ジェイソンは、アナキンの子ルーク・スカイウォーカーに当たる。何も知らずに養父に育てられたルーク・スカイウォーカーは、ジェダイの騎士オビ=ワン・ケノービと出会って過去の出来事を知り、銀河帝国との戦いに参加する。

 ちょっと待って、アナキン・スカイウォーカーは殺されたわけじゃなく、暗黒面に堕ちてダース・ベイダーになったんでしょ、とのご指摘もあろうが、アナキン・スカイウォーカーとダース・ベイダーが同一人物というのは後付けの設定と云われる。『スター・ウォーズ』一作目(『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』)の頃は、オビ=ワン・ケノービの口からアナキンを殺したのはダース・ベイダーだと説明されていた。
 だから、息子が父の仇を討ちに行く本作は、もしかしたらあり得たかもしれないもう一つのスター・ウォーズ・シリーズを思わせる。

 デレク・シアンフランス監督は、本作を父と子の話だと述べている。
 米国の父子の物語のお手本が、いまやスター・ウォーズ・シリーズとは面白い。
 ただ、スター・ウォーズ・シリーズは父子のことばかりを描いたわけではない。主人公たちはフォースの均衡を取ったり、分離主義勢力や銀河帝国との戦いで忙しかった。だから父子の情愛に充分な時間を割いてはいない。
 その点、本作の主人公たちは、子供への思いあるいは父への思いから行動しており、スター・ウォーズ・シリーズに不足するものを補っている。しかも善悪の立場を相対化することで、暗黒面への誘惑が身近にあることも描いている。
 そんな符合を楽しみながら観ると、本作はますます面白い。


プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命 [Blu-ray]プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命』  [は行]
監督・原案・脚本/デレク・シアンフランス
原案・脚本/ベン・コッチオ  脚本/ダリウス・マーダー
出演/ライアン・ゴズリング ブラッドリー・クーパー エヴァ・メンデス レイ・リオッタ ベン・メンデルソーン マハーシャラ・アリ デイン・デハーン エモリー・コーエン
日本公開/2013年5月25日
ジャンル/[サスペンス] [ドラマ] [犯罪]
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【theme : アメリカ映画
【genre : 映画

tag : デレク・シアンフランス ブラッドリー・クーパー エヴァ・メンデス レイ・リオッタ ベン・メンデルソーン マハーシャラ・アリ デイン・デハーン エモリー・コーエン

⇒comment

No title

新年早々違うTB送ってしまいました。失礼しました。

Re: No title

margot2005さん、こんにちは。
当該TBは削除しておきました。
お気になさらないでください。

すごーーーい

ぱちぱちぱち!
目からうろこどころか、魚一匹落ちました。

No title

『プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命』 、背後にスターウオーズがあったのですか。勉強になります。年代記なのはわかってましたがモチーフはどこから拾ってきたのか判りませんでした。海外で見たので忙しくてよく考えずにそのままでしたから宿題がひとつ解けてラッキーな気分です。この年代記、嫌いじゃありません。
年の締めの時のナドレックさんが本来というかそういう感じなのですね。普段の記事はサービス精神にあふれているということが良くわかりました。私はこの年末記事のほうが好きです(どちらかといえば)。

デイン・デハーンの悲しげだけど挑戦的な目が好きで、この後しばらくしてからクロニクルを観てますます気に入りました。

Re: すごーーーい

sakuraiさん、こんにちは。
記事に書いたことは勝手な解釈ですけれど、観ているときから「これ、スター・ウォーズじゃねーか」としか思えませんでした。スター・ウォーズとの類似を指摘する記事が見当たらなかったので、ちょっと書いてみました。
案外デレク・シアンフランスもスター・ウォーズ新作の監督に向いてるんじゃないかと思います:-)

Re: No title

魚虎555さん、こんにちは。
こんなネタを記事にしても面白くないだろうなと思って公表をためらっていたので、読んでいただけて嬉しいです。
私がもっとも楽しんで書いているのは4月1日の記事かもしれません。いや、悪ノリは控えるようにします。

デイン・デハーンはいいですね!『クロニクル』も彼の魅力が存分に引き出されていたと思います。
今年公開の『アメイジング・スパイダーマン2』でも大きな役で出演するので、とても楽しみです。

No title

こんにちは。
「スターウォーズ」!思いもよりませんでした。
なるほど~、ルークですものね。非常に面白く読ませていただきました。

アメリカは父と息子の葛藤を描く作品が多いですよね。
日本の父は家庭の中でinvisibleだから・・・。

Re: No title

ryokoさん、こんにちは。
日本の父はinvisibleですか!
そうかもしれませんね。父母と子供で構成される家族でも、実質は男性一人と母子家庭が同居しているだけだと云われますし。

『スター・ウォーズ』を念頭にこの作品を見返すと、ちょっとニヤニヤしてしまいそうです。
この監督が今後どんな物語を紡いでくれるのか、とても楽しみですね。
Secret

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