『謝罪の王様』 ごめんなさい!

 【ネタバレ注意】

 映画がはじまってすぐに、私は拍手したい気持ちになった。

 常々、映画を作るからには是非やって欲しいことがあった。
 今はどこの映画館でも映画の前にマナー広告を上映する。曰く、上映中はお静かに、前の席を蹴らない、携帯電話の電源はオフ、マナーモードでも振動や点滅が迷惑になります等々、観客の一人ひとりがとうぜん守るべきマナーについて注意を喚起する。

 ところが、マナー違反をする人は往々にしてマナー広告を見ていない。本編開始ギリギリにポップコーンを抱えてきて、ボリボリくちゃくちゃ物音を立てはじめる。
 だから、注意喚起は映画本編の中でやった方が良い。私はそう考えていた。本編にいかに無理なくマナー広告を織り込むか、それも作り手の腕の見せ所だと。

 『謝罪の王様』がこれをやってくれたのを観て、私は大いに感心した。
 本作は映画館で上映される東京謝罪センターの広告からはじまる。劇中のスクリーンには東京謝罪センター所長の黒島譲が映し出され、劇中の観客が座る椅子の背もたれには、「お喋り禁止」等のマークがあしらわれている。次々に登場するマークを観ていると、場内にケータイの着信音が鳴り響き、客の一人がポップコーンを床にぶちまけてしまう。こんなみっともない状況で周囲の怒りをなだめるためにするべきこと、それが謝罪だ。
 見事なオープニングである。
 映画のスタイルと、上映中のマナーについて一瞬にして観客に理解させるオープニング。私は本作が素晴らしい映画であると確信した。

 しかも題材がいかしている。
 「そもそも謝罪会見にリハーサルは必要なのかとか、誰が何秒頭を下げたとか。日々感じる違和感を笑いに仕立てる視線は、さすが宮藤さんだと思います」
 そう語るのは、主人公黒島譲を演じる阿部サダヲさんだ。[*]
 しばしばテレビや新聞紙上をにぎわす謝罪会見。その奇妙な「儀式」に目を付けるとはまことに上手い。

 本作は宮藤官九郎氏の脚本にしては珍しい風刺物だ。公式サイトによれば、『なくもんか』の次なる題材を検討する中で、水田伸生監督が宮藤官九郎氏に風刺喜劇を提案したという。
 社会にはさまざまな対立軸があるけれど、人間関係を謝罪する側とされる側として切り取った本作は、謝罪の場だからこそ表れる人となりを浮き彫りにしている。

 物語の構成も気持ちが良い。
 本作はオムニバス形式であり、六つのエピソードからなっている。
  CASE1 倉持典子
  CASE2 沼田卓也
  CASE3 南部哲郎/壇乃はる香
  CASE4 箕輪正臣
  CASE5 和田耕作
  CASE6 黒島譲

 ところが単純なオムニバスではなく、それぞれのエピソードが絶妙に絡み合い、後々への伏線になっており、意外性に富んだ精緻な職人芸を見せてくれる。
 はじめのうちこそ謝罪師・黒島譲の面白おかしい謝罪テクニックに笑ってしまうが、そのうちテクニックなんて関係なく誠心誠意謝る話や、表立った謝罪がない話が挟まって、徐々に物語のスケールが大きくなっていく。

 そして気付くのは、本作の主眼が謝罪ではなく、赦しにあるということだ。
 黒島は云う。謝罪を求めている人は、引っ込みがつかなくなっているだけで、赦すタイミングが欲しいのだと。もしかしたら謝罪の相手の方が、自分に非があったと気に病んでいるかもしれない。
 テレビを点ければ、「世間をお騒がせして申し訳ございません」と頭を垂れる有名人を目にすることがあるけれど、テレビカメラに謝っても視聴者が溜飲を下げるだけだ。本当に詫びるべき相手は別にいる。
 本作は大失態を演じて謝罪する破目に陥った人に突っ込みを入れつつ、タイミングを逸して赦せなくなっている人や、当事者でもないのに尻馬に乗って非難している無責任な外野たちをもひっくるめて風刺する。

 ここから浮かび上がってくるのは、人間同士のコミュニケーションの何たるかだ。
 結局のところ謝罪とはテクニックを駆使するものではなく、相手の事情を汲みとって、言葉を尽くす気持ちなのだ。
 その大きなテーマを、本作は二重三重の笑いのオブラートにくるんで難なく観客に飲み込ませる。
 映画を観終えた後、観客誰もが清々しい気持ちで劇場を後にするだろう。

 この愉快で楽しい映画に大挙して出演している豪華キャストも見どころだ。
 出番の少ない役ですら個性的な俳優がテンションを目いっぱい上げて演じており、映画全編目が離せない。
 加えて、最後はインド映画のように歌って踊る抜群に楽しい群舞も付いている。
 インド映画以上にポップで、お洒落で、かわいいエンディングは、実に日本らしい締めくくりといえるだろう。

 土下座を日本の伝統的謝罪法と説明することからはじまる本作は、自己主張よりも謝罪を好むのが日本人であることを紹介し、『攻殻機動隊』に狂喜して「押井守、神!」と叫ぶ外国人を登場させることで現代日本を象徴するキーワード「オタク」を取り上げ、やはり日本発のキーワード「カワイイ」まで網羅する。
 本作は緩い笑いを散りばめたコメディであると同時に、挨拶代わりに「すみません」と謝る日本の文化を総括する作品なのだ。
 海外の映画祭からオファーが殺到しているのもさもありなん。こんな映画は他の国じゃ作れない。

 でも、日本を誤解させたらごめんなさい!


[*] 読売新聞 2013年9月27日 夕刊

謝罪の王様 [Blu-ray]謝罪の王様』  [さ行]
監督/水田伸生  脚本/宮藤官九郎
出演/阿部サダヲ 井上真央 竹野内豊 岡田将生 高橋克実 松雪泰子 尾野真千子 濱田岳 荒川良々 松本利夫 川口春奈 鈴木伸之 美波
日本公開/2013年9月28日
ジャンル/[コメディ]
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【theme : コメディ映画
【genre : 映画

tag : 水田伸生 宮藤官九郎 阿部サダヲ 井上真央 竹野内豊 岡田将生 高橋克実 松雪泰子 尾野真千子 濱田岳

⇒comment

見てきます

いつも楽しく拝見させていただいています。
この映画に全く興味がなかったのですが、謝罪の王様を見てきたいと思います。
実は、私も先日お客様に謝罪に行ったのですが、謝罪とは単に頭を下げることとだけではなく、気持ちがこもっているかそうではないかで、その後の展開が大きく異なること身に染みて実感しました。
日本ではよく謝罪会見が行われるですが、お辞儀の文化のある日本ならではの光景なのかもしれませんね。

Re: 見てきます

シンちゃんさん、コメントありがとうございます(「さん」は余計か)。
謝罪がテーマとは、日本らしくてとても面白いですね。謝られれば赦すというのも、同じ共同体に属していればこそなのかもしれません。
加えて本作は、謝罪の仕方、あり方が国や地域によって異なり、自分たちなりに謝っても通じないことを示しているのが興味深いです。

個人的には、土下座に謝罪のイメージはあまりありません。あれは挨拶の仕草でもありますからね。畳の上では両手をついて挨拶するのが普通でしたが、今では洋間が増えたので、謝罪でもない限り両手をつくことがなくなったのかもしれませんね。

どっかの

デパートの高級弁当が、とんでもの材料だった・・・・って、おとといあたりのニュースで出て来たお偉いさんの謝り方!!!
あれは久々に腹立ちましたね。
真面目に誠意のかけらもない謝り方で、克美さんも真っ青でしたよ。
謝罪で大事なのは、タイミングですかね。赦す方も、引くに引けなくなっちゃう。人間関係ってのは、いつの世も難しいです。

Re: どっかの

sakuraiさん、こんにちは。
阪急阪神ホテルズのホテルや店舗等で食材と異なるメニュー表示をしていた件でしょうか?
http://www.hankyu-hotel.com/pdf/press131025.pdf

本作が示すように謝り方にもお国柄なり土地柄があるでしょうから、東日本の人間は関西人の言動に共感できないという面もあるかもしれません。
単に謝り方が上手くないのかもしれませんが。

話はズレますけど、この件に関連してテレビで面白い実験をやってました。
同じハンバーグを片や「手ごねハンバーグ」、片や普通の「ハンバーグ」と表示して試食してもらうと、みんな手ごねの方が美味しいと答えるのです。
ならば「手ごね」と表示するだけで美味しさは向上するのかも:-)
食材や調理法の違いが判る人なんてごく一部で、ほとんどの人はイメージをそのまま受け取ってるんですね。

『謝罪の王様』というタイトルだから、謝罪王朝でのめくるめく謝罪絵巻の元、謝罪王、謝罪王女、謝罪王子などが縦横無尽にも謝罪を繰り返す話かと思ったら違いました。

Re: 王

ふじき78さん、こんにちは。
一子相伝の謝罪方法を巡り、権謀術数が巡らされる宮廷劇もアリだったかも。
Secret

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