『北のカナリアたち』 カラスがカナリアになった!?

 これはたいへん面白い企画だ。
 東映創立60周年を記念して、吉永小百合さんの主演映画を公開する。となれば、吉永小百合さんのイメージや、年配客が中心となるであろう客層を考えても、真面目な感動作が期待される。東映が目指すのは、2009年に公開した『劔岳 点の記』のような趣の作品だろう。
 だから『北のカナリアたち』は、『劔岳 点の記』で雄大な山々をカメラに収めた木村大作氏を撮影に迎え、実に真面目な感動作として作られている。

 『北のカナリアたち』公開の2ヶ月ほど前、東宝が高倉健さんの6年ぶりの主演作『あなたへ』を公開している。
 『あなたへ』と『北のカナリアたち』は、日本を代表する大スターを主役に据え、人気・実力のある若手やベテランを脇に配して、主人公の旅の模様を綴る点で共通しており、感動作として似たような売り方をされる可能性もあっただろう。

 だが、吉永小百合さんが強烈なアクセントとして取り込んだのが、湊かなえ氏の小説だ。
 同氏の小説を映画化した『告白』がどす黒い悪意や残酷さを描いたことを思えば、『北のカナリアたち』が単に心温まる感動作に留まるはずがない。
 湊かなえ氏の小説が次々にテレビ化、映画化されているのも、その強烈なインパクトが買われてのことだろう。本作も「湊かなえ原案」を掲げることで、感動作を期待する年配客とはまったく異なる客層にリーチできる。

 正直、この組み合わせには脱帽だ。
 湊かなえ氏のミステリーの鋭さと、吉永小百合主演作に期待される安定感と、東映創立60周年記念の大型プロジェクトの風格との、すべてを併せ持つ本作の構想にたどり着いたとき、制作陣はガッツポーズだったに違いない。


 湊かなえ氏が「原作」ではなく「原案」とクレジットされていることが示すように、本作は原案とされる短編小説『二十年後の宿題』とは大きく異なる。
 私はこの小説をきちんと読んではいないが、『二十年後の宿題』は20年前の事故を引きずる元生徒たちを一人ひとり訪ね歩き、事故の真相とこれまでの人生を浮かび上がらせる作品だという。このような構成は『舞踏会の手帖』や『春との旅』でもお馴染みであり、面白い作品の王道といえるだろう。

 そのまま映画化しても良さそうなのに、本作では『二十年後の宿題』にはない要素が付け加えられている。
 舞台は北の島に変更され、生徒は全校でたった6人しかいないことにされた。島にやってきた女性教師の下、生徒たちは歌が好きになり、ことあるごとに合唱している。はじめのうちこそ山下達郎作曲の『クリスマス・イブ』なんてハイカラな曲を歌っているが、それは現代風に見せるためだろう。物語は「唄を忘れたカナリヤは……」という歌詞で知られる童謡『かなりや』を中心に進む。
 『二十年後の宿題』とは関係ないこれらの要素は、どこから来たのだろうか。

 本作の題名『北のカナリアたち』は、直接的には20年前の事件を機に歌わなくなった生徒たちのことである。
 だがそこには、何年経ってもカラスのことを歌い続けた子供たちとの対比が込められていよう。その子供たちはいつだって「カラス なぜ啼くの」ではじまる童謡『七つの子』を歌っていた。
 『北のカナリアたち』で歌われる『かなりや』を聴きながら、私はそこには流れていない『七つの子』を思い出して涙していた。

 あなたにとって、オールタイム・ベスト1の映画は何だろうか。
 よく挙げられるのは『市民ケーン』や『第三の男』『東京物語』『七人の侍』等であるが、私はこの質問に対して『二十四の瞳』と答えることにしている。
 映画に感動して泣くことはあっても、涙が枯れる経験をしたのはこの作品だけだ。私は『二十四の瞳』の最初から最後まで泣き続け、人間には2時間36分も出し続けるほどの涙のストックがないことを知った。
 島の分校にやってきた女性教師。全校で12人しかいない生徒たち。子供らは彼女を慕い、いつもみんなで歌をうたっている。けれども戦争を挟んだ20年近い歳月が、子供たちの運命を様々に変遷させる。
 1954年に公開された木下恵介監督の『二十四の瞳』は、教師と生徒の交流や、生徒の戦死を通して命の大切さを描いた傑作だ。とりわけ印象的なのが、子供たちの歌う『七つの子』であり、その歌声を聴くだけで映画のシーンが思い浮かんで涙がこみ上げる人もいよう。

 『北のカナリアたち』は、ミステリー的な要素を除けば『二十四の瞳』そのものである。それも、壺井栄の原作小説よりも、木下恵介監督・脚本の松竹映画に近い。生徒たちが合唱大会を目指すのも、今どきの子供が童謡を歌うシチュエーションを無理なく作るためだろう。
 もちろんそれは、東映が創立60周年記念作において松竹の代表作を真似た、なんてことではない。
 それがカラスからカナリアへの変化である。

 『二十四の瞳』の公開当時、子供が教師を慕うこと、教師が子供を思いやること、何年経っても支えあう友情を育むことは、ごく自然に受け入れられた。だからこそ作品を象徴する歌として、「可愛 可愛と啼くんだよ」と子供への限りない愛を歌った『七つの子』が取り上げられたのだろう。
 しかし、現代の作品である大ヒットした『告白』や『二十年後の宿題』は、そんな牧歌的な世界ではない。教師といえども一人の人間としての情念があり、ときに生徒との関係は険しくなる。
 この相反する二つの世界を象徴するのが「唄を忘れたカナリヤは……」という歌だ。

 『かなりや』の歌詞は残酷だ。歌わなくなったカナリアを前に、みんなで寄ってたかって、棄てようか埋めようか鞭でぶとうかと相談するのだ。カナリアはカラスの子のように無限の愛情を注がれてはいないのである。
 救いは、「いえ、いえ、それはなりませぬ」と一人が止めに入ることだ。優しく接してやれば忘れた歌を思い出すはずだと、カナリアの可能性を信じる人が現れるのだ。

 『北のカナリアたち』における「二十年前の宿題」は、「歌を忘れたカナリアの気持ちを考えること」だった。
 歌を忘れたカナリアは、さぞ不安がっているだろう。歌を忘れてしまったことで本人も辛い思いをしているのに、周りの者は棄てるだの鞭でぶつだのと話している。こんな心細いことはない。
 誰か、止めに入る人はいないのだろうか。きっとまた歌えるはずだと、可能性を信じてやる人はいないのだろうか。
 世間の期待に沿えなかったカナリアの気持ちを、私たちは考えているだろうか。

 大切なものを忘れたのは、はたしてカナリアなのか、私たちの方なのか。


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監督/阪本順治  脚本/那須真知子
出演/吉永小百合 柴田恭兵 仲村トオル 森山未來 満島ひかり 勝地涼 宮崎あおい 小池栄子 松田龍平 里見浩太朗
日本公開/2012年11月3日
ジャンル/[ミステリー] [ドラマ]
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【theme : サスペンス・ミステリー
【genre : 映画

⇒comment

こんにちは。

苦しみと悲しみから救われるという逆パターンのミステリーに、ほっこりしました。
(キャストで観に行くと決めたものの、湊さん原作と知り、躊躇していたのです。)

小・中の頃の、悪い事は叱り、良い事は誉めてくれた先生達、を懐かしく思い出しました。

はる先生に受け持ってもらった生徒達は歌えるようになりましたが、
世の中に大勢いる歌えなくなったカナリア達の救いに、この作品がなればいいですね☆。

Re: こんにちは。

みぃみさん、こんにちは。
私は原案が『告白』の湊さんであることに気づいておらず、思わぬミステリー風味にお得な気分でしたe-257
この作品の云わんとするところが、多くの人の心に響けば良いと思います。

ナドレックさんの

思い入れを知ることができただけで、この作品の価値があったと思います。

ばあさんたちは当然吉永小百合を目当てに見に行きましたが、かなり面喰ったようです。

Re: ナドレックさんの

sakuraiさん、こんにちは。
『二十四の瞳』は吉永小百合さんのバイブルだそうです。
http://www.cinematoday.jp/page/A0003449

『まぼろし探偵』の可憐なヒロインも、『二十四の瞳』に感動したんですね。
『二十四の瞳』もいつかブログに取り上げたいのですが、難しいです。思い入れが強すぎて。

>ばあさんたちは当然吉永小百合を目当てに見に行きましたが、かなり面喰ったようです。

吉永小百合さんや高倉健さんには固定ファンがいますから、そのイメージは大切にしなければなりませんね。
その点で本作はギリギリの冒険作だと思います。

No title

歌を忘れたカナリアは~いえいえ、それはなりませぬ。だってまだ商品価値があるんだもん

という訳で小林幸子のことなんかを連想しつつ、演技的には相変わらず森山未来にやられたあ。

Re: No title

ふじき78さん、こんにちは。
森山未來さんは飛び道具ですね。忍者部隊月光風に云えば、「最後の手段」。スペシウム光線やライダーキックのように、本当は最初に使えばいいんだけど、それでは決着が付いてしまうから最後まで取っておく。
ずーっと焦らしておいて、観客の期待が充分に高まったところで「どや」と出すのでしょう:-)
Secret

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