『サニー 永遠の仲間たち』 彼女が変わらない秘密

 【ネタバレ注意】

 無茶苦茶である。
 『サニー 永遠の仲間たち』の公式サイトによれば、この作品は韓国で740万人を動員する大ヒットを飛ばしたという。
 さもありなん。『過速スキャンダル』で抜群の手際の良さを示したカン・ヒョンチョル監督が、『過速スキャンダル』の各要素を無茶苦茶にエスカレートさせたのが『サニー 永遠の仲間たち』だ。

 『過速スキャンダル』で父、娘、孫の三世代の交流を描いたカン・ヒョンチョル監督は、本作で主人公の高校時代(1986年)と現代(2011年)を交互に映し出すことで、ティーンエイジャーとアラフォーの両方の世界を描いている。しかも本作は主人公と仲良しグループの交流がモチーフであり、グループ7人の群像劇にもなっている。すなわち、< 2つの時代 × 7人 > の計14人が登場し、およそすべての女性がどこかしらに共感できる仕掛けなのだ。
 しかも、映画産業の主要なターゲットである若者たちと、購買力の高いアラフォー世代との両方に目配りするのだから、ヒットするのはもっともだろう。

 さらに、カン・ヒョンチョル監督は『過速スキャンダル』でのラジオ・メッセージという飛び道具に味を占めたようで、本作ではラジオありビデオあり手紙ありと、『過速スキャンダル』の3倍増しで泣ける要素を盛り込んできた。

 加えて 『過速スキャンダル』では父も娘も歌が得意であったのに対し、本作は7人もの人数を活かしてダンスシーンを織り込んでいる。題名の「サニー」とは、彼女たち仲良しグループの名称であると同時に、彼女たちのダンスレパートリーであるディスコ・ミュージック『Sunny』のことでもある。
 『Sunny』に限らず、全編を彩るのは70~80年代のヒット曲の数々だ。ここで韓国の曲ばかり流されると外国の観客は白けてしまうが、カン・ヒョンチョル監督と音楽担当のキム・ジュンソクは、世界中でヒットした曲を厳選して散りばめた。これには日本の観客も、アラフォー世代を中心に懐かしく感じることだろう。
 そして主人公たちのダンスを絡めることで、往年のヒット曲が単なるBGMの域にとどまらないのが心憎い。


 さすが『過速スキャンダル』のカン・ヒョンチョル監督と云いたいところだが、ここまでやると映画はいささか破綻気味だ。
 なにしろ主要人物が14人は多すぎる。
 彼女たち全員に見せ場があり、それぞれの家族が絡みながら高校時代から現代にかけての人生の悲哀を表現するのだから、挿入されるエピソードは無理矢理詰め込んだ感じである。
 その上、泣かせどころが何度も訪れるので、観客はお腹一杯だ。
 けれどもそれらは、映画のどこかしらに共感できるための仕掛けである以上、観客に向けた特盛り大サービスなのだ。

 そして最後に待ち受けるのが、あいた口が塞がらないほどの大団円である。
 ジョディ・フォスター監督のアメリカ映画『それでも、愛してる』(2009年)が安易なハッピーエンドを拒絶して、どんな人生でも真摯に向き合おうとするのに引き換え、本作が大ヒットする韓国といい、『海猿』シリーズがナンバー1ヒットを記録する日本といい、なんて判りやすいハッピーエンドが好きなのだろう。そこには、東洋と西洋の文化の違いもあるのだろう。
 カン・ヒョンチョル監督は呆れるほどの大団円で、そんな私たちの嗜好を満たしてくれる。


 このように本作は、25年ぶりの旧友との再会を通して人生模様を映し出す作品だが、その陰にはもう一つのテーマが存在する。
 それは、趙章恩(チョウ・チャンウン)氏が外見至上主義と呼ぶものだ。
 氏によれば、韓国では美貌も才能の一つと捉えて外見を重視するそうで、就職試験の前には整形手術をするし、老若男女に関係なく誰もがダイエットに励んでいるという。ポータルサイトDaumが2012年1月に小学生2万人を対象にアンケート調査したところ、新年の目標の第1位はダイエットだったそうだ。

 本作も、登場人物が女性ばかりなのもあって、ファッションやお洒落がクローズアップされている。
 高校時代の彼女たちは、靴のブランドを気にしたり、整形手術で二重まぶたになることを夢見ている。
 そして現代では、美容整形で別人のような美貌を手に入れ、玉の輿に乗っていたりする。そこでは美容整形したことなど茶飲み話のネタでしかなく、「あら、キレイになったわね」は挨拶代わりだ。

 事実、国際美容外科学会(ISAPS)が公表した調査報告によると、韓国では2010年に77万件もの外科的・非外科的美容処置が施されている。
 これは世界で第7位の多さだが、4位の日本(118万件)、1位の米国(331万件)に比べれば少ないように見える。しかし人口との比率で見れば、韓国は1,000人当たり16件にも及び、米国の10件/1,000人や日本の9件/1,000人を上回って世界最多なのだ。
 この報告の注意すべき点は、人数ではなく件数についての調査なので、1,000人当たり16人が美容処置をしているわけではないことだ。ディープな整形マニアが、件数を押し上げている可能性もある。
 ただ、いずれにしろ韓国が美容処置に積極的な国であるのは間違いないだろう。


 かくいう日本も、人口との比率では韓国に負けるものの、美容処置件数の上位国なのは間違いない。就職試験前に限らず整形手術をする人はいるだろし、年の初めに「今年こそは痩せよう」と思う小学生もいるだろう。

 それどころか、日本のテレビを見れば、整形美人ならぬ元・男性の美女たちが番組を賑わしている。彼女たちは外見といい物腰といい、生来の女性に交じっても何ら変わることがない。
 そんな彼女たちを見慣れた観客は、女性の美容整形ぐらいでは驚きもしないだろう。


 そのような中で、主人公は再会した友人たちから繰り返し「あなたは変わらないわね」と言葉をかけられる。それは単に若々しいというだけでなく、「整形していないのね」という意味でもある。
 旧友の中には、美容処置に入れ込んで昔の面影をなくした者もいれば、生活に追われて外見どころではない者もいる。そんな彼女たちのあいだを昔ながらの主人公が訪ね歩くことで、25年も会わなかった親友たちが再会に向けて動き出す。

 もちろん本作は、外見至上主義を否定するものではない。
 美容処置で幸せを手に入れる人もいるし、傷ついた心身を隠せる人もいる。
 美容処置をする人もいれば、しない人もいることが、本作ではラストに向けての伏線になっている。

 いずれにせよ、彼女たちにはどうでもいいことなのだ。
 外見が変わろうと変わるまいと、その友情はいささかも揺らぐことはない。
 私たちの本質は変わらないのだから。


サニー 永遠の仲間たち デラックス・エディション Blu-rayサニー 永遠の仲間たち』  [さ行]
監督・脚本/カン・ヒョンチョル
出演/ユ・ホジョン シム・ウンギョン チン・ヒギョン カン・ソラ コ・スヒ キム・ミニョン ホン・ジニ パク・チンジュ イ・ヨンギョン ナム・ボラ キム・ソンギョン キム・ボミ ミン・ヒョリン
日本公開/2012年5月19日
ジャンル/[ドラマ] [青春]
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ヘルタースケルター

2012年5月19日の封切から2ヶ月も経って本作を取り上げたきっかけは、2012年7月14日公開の『ヘルタースケルター』を観たことだ。

25年

そんなに変わらないもんだなあと思う今日この頃。

女子高だったのですが、卒業20周年と30周年の同窓会をやりました。
結論!何にも変わってないし、変わらない。
人間ってのは、基本変わらないもんだとつくづく感じた同窓会でした。
変わってたら、それは今までの自分を否定してしまうものかもしれません。
成長しないのと、変わらないものはイコールではありませんが、変わらないけど強くなったのは間違いない。
特に女性は、ずっとそこで暮らして行くと言うことができず、いろんなところで順応しないとならないのですが、昔の仲間に会った時の嬉しさは、男性諸氏のそれとはちょっと違うかもですね。
ずっと地元にいる亭主を見てると、なんだか喜びの度合いが違うように感じます。

ヘルター・スケルター・・・書けずにおります。
まあ忙しくて、忙しく、人間おのずと優先順位があることを痛感です。
やっと平常に戻りつつありますが、また明日から連戦・・・。
早く、部活引退してくれ!と願う母です。
当事者が一番大変なのですが、ついてくこっちも超大変・・・。
それもいつか、いい思い出になってほしいとこです。

遅くなって、大変失礼しました。

Re: 25年

sakuraiさん、こんにちは。
お子さんの部活での活躍、おめでとうございます。

>ずっと地元にいる亭主

そこは地域の事情もあるかも知れません。
私の知り合いでずっと地元にいる男性はほとんどいない一方、地元から動かない女性のことを耳にします。

ともかく、昔の友人と会うとみんな変わっていませんね。いや変わっていても、一瞬にして昔に戻るというか。
本作の惹句「人生で一番輝いていた日々が また、やってきた」はちょっと、これまで輝いていなかったみたいで疑問に思いますが、自分という人間の基本が形作られた日々という意味で特別な輝きなのでしょう。

ただ男性は確実に変わるところがあります。頭髪が……。
Secret

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思ってた以上に面白くて、大いに楽しめる内容だった。

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