『宇宙戦艦ヤマト2199 第二章 太陽圏の死闘』 なぜデスラーは風呂に入るのか?

 『宇宙戦艦ヤマト2199 第二章 太陽圏の死闘』には驚いた。
 今回の上映は、全26話で構成されるリメイク版のうち、『第一章 遥かなる旅立ち』で描いた第1話、第2話に続く第3話から第6話までの4回分をまとめたものだ。独立した劇場映画として企画したものではなく、本来テレビの30分番組として放映されるシリーズの一部を取り出したに過ぎない。
 ところが驚いたことに、本作は2時間枠の1本の映画として十二分に面白いのだ。

 本作の中心をなすのは、地球を飛び立ったヤマトと、冥王星前線基地の司令官シュルツとの戦いだ。
 今にして思えば、オリジナルの第1テレビシリーズにおいて、シュルツごときは下っ端だった。彼が命じられたのは、ガミラス本星から遠く離れた未開人の文明を捻りつぶすだけの任務であり、彼はガミラス帝国の末端に位置するにすぎない。

 ところが本作では、シュルツの肌の色がガミラス人らしい青ではなく、地球人のような肌色であるという第1テレビシリーズの齟齬を逆手に取り、シュルツたちを植民惑星ザルツ出身の二等市民と設定した。ガミラス人に征服された星の生物であるがゆえに、ガミラス人とは肉体的特徴が異なることにしたのだ。
 この設定の妙により、シュルツの株はグッと上がった。第1テレビシリーズにおける、僻地で走狗として使われるガミラス人ではなく、二等市民でありながらガミラス艦隊を任される有能な高級将校として見ることができるようになった。
 さらに本作ではシュルツの家族を登場させてシュルツという人物に奥行きを与えると同時に、古代守が沖田十三を守ったようにシュルツもまたザルツ人の部下にはかけがえのない人物と見られている様子を描き、シュルツの行動がガミラス帝国におけるザルツ人の浮沈にかかわることまで示唆している。

 こうしてヤマトとシュルツの戦いは、単なるイスカンダルへ向かう途上の局地戦から、地球とザルツ星それぞれの命運を担った重大事へと発展した。
 両者の戦いを盛り上げるには、充分すぎるほどの背景である。


 そして本作は、木星、土星、冥王星を舞台にして、副題どおり太陽圏でのヤマトとシュルツの死闘を描く。
 各話は次のように特徴的なエピソードを含んでいる。

 第3話:ヤマトがワープのテストを実施したところ、思いもよらず木星付近にワープアウトしてしまう。第1テレビシリーズで登場した木星の浮遊大陸というロマンチックな設定を残しつつも、自然に生まれた大陸ではなく人工的に持ち込まれたものとして理屈を付ける。ここでの見どころは、もちろん初のワープと波動砲発射である。

 第4話:土星の衛星でのガミラス軍との戦い。シュルツは、木星の戦いからヤマトがこれまでの地球艦とは異なるものであることに気づき、ヤマトのクルーを捕虜にして、情報を得ようとする。並行して、真田志郎が『中原中也詩集』を読むシーンを挿入する等、人物像の掘り下げも怠らない。

 第5話:いよいよ冥王星でのシュルツとの直接対決だ。シュルツが繰り出す反射衛星砲での猛攻に、さしものヤマトも危機に陥る。

 第6話:前話に続く冥王星での激戦。航空隊とヤマトとの連携による反撃に次ぐ反撃の大迫力。

 5~6話は前後編になっているが、そればかりではなくシュルツとの攻防戦として見たときに3~6話が見事に起承転結になっている。シュルツがヤマトに注目し、その力量を見極めようと戦いを仕掛ける第3話。引き続きヤマトの情報を得るため、今度はアプローチを変えて地上戦で迫る第4話。そして反射衛星砲を生かしたシュルツの作戦にヤマト撃沈かと思われる第5話と、急転直下、ヤマト側の作戦が戦況を覆す第6話。第1テレビシリーズでは第4話から第8話までの5回を要した内容を、きれいに起承転結の4回にまとめている。
 特に冥王星での戦いのエスカレーションぶりと盛り上がりには、誰しも目を見張るだろう。
 まさに1本の映画のように構成された、その面白さに唸らされる。


 また、シュルツが二等市民として位置づけられる一方、ガミラス帝国のトップであるデスラー総統が登場するのも第二章の目玉だ。
 ヒーローよりもヴィラン(悪役)に惹かれる私にとって、デスラーは『宇宙戦艦ヤマト』でもっとも魅力的なキャラクターだった。無慈悲で冷酷で尊大で、すべての人間を虫ケラとしか思っておらず、帝国の支配者たるべく生まれてきた男――それがデスラーだ。
 第1テレビシリーズ放映当時の悪役といえば、毎回ヒーローに煮え湯を飲まされて「おのれ、○○め!」と悔しがる者ばかりだったのに、デスラー総統は感情をたかぶらせることもなく、何人たりとも逆らえない威圧感で他を圧倒した。

 しかし、シリーズを通じてデスラーほど変質したキャラクターはいないだろう。
 続編映画『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』に再登場したデスラーは、すっかり様変わりしていた。帝国の支配者たる尊大さは失われ、虫ケラごとき地球人と心を通わせるほど人情味のある人物と化していた。
 『さらば――』公開時に西崎義展氏はデスラーを「武人」と呼んだが、それは本来ドメル将軍の役どころであり、デスラーが武人になるのは支配者からの降格である。
 その後のシリーズでもデスラーはたびたび登場したものの、古代たちに便宜を図ったり、火急の際には駆けつけてくれたりと、すっかりただのイイ奴になってしまった。

 このような変質を目の当たりにしてきたファン諸氏は、『宇宙戦艦ヤマト2199』のデスラーのキャラクターデザインを見て、不安を覚えたのではないだろうか。
 事前に公表されたデザインからは、デスラーが若々しいハンサムに感じられて、オリジナルとはずいぶん違う印象を受ける。こんな軽々しい兄ちゃんが、ガミラス帝国の総統たる威圧感をかもし出せるのだろうか。

 だがキャラクターデザインを担当した結城信輝氏は、パンフレット掲載のインタビューにおいて、デスラーを若いイメージにした狙いを次のように語っている。
---
旧作のデスラーが何歳なのかわかりませんが、古代のライバルキャラとするには、やや年齢が上じゃないかということが、当時から個人的に引っかかっていたんです。もうひとつ、今回はデスラーにローマ帝国皇帝のイメージをダブらせたのも、若くしようと思った理由でした。デスラーはあのガミラス帝国を一代で築き上げたのか、それとも代々世襲されてきた総統の地位を何らかの形で手に入れたのかはわかりませんが、いずれにせよ知略謀略なしには為し得なかったわけですから、そうした非情な辣腕家、若きネロやコモドゥスの様なカリスマであることを感じさせたかったんです。
---

 たしかにデスラーのキャラクターデザインは変化したが、単にウケを狙って若い美形にしたわけではないのだ。
 実際、完成した作品を見ると、デスラーの顔には幾本もの皺が描き込まれ、決して若々しいだけの兄ちゃんではない。その尊大な眼差しや、口元に宿る冷たさは、まさしく第1テレビシリーズの無慈悲なデスラーそのものだ。

 デスラーといえば入浴シーンでもお馴染だが、本作でデスラーがローマ風呂に入るのは、なにも過去の名場面の再現ではない。
 日常的に風呂に入る日本人はあまり自覚していないけれど、世界広しといえども風呂に入るのは日本人と古代ローマ人くらいなのだ。ましてや広い湯船を独占して一人で湯に浸かるのは、日本人を除けば、ローマ帝国の権力者ならではの贅沢であろう。
 映画『スカーフェイス』でも、アル・パチーノがギャングのボスとして登場する場面では一人で風呂に入っていた。それは暴君の権力とカリスマを象徴しているのだ。

 かくして、長年にわたって武人に降格していたデスラーは、本作において遂に支配者としてのカリスマを取り戻した。デスラー総統を贔屓にする私としては、実に嬉しいことである。


 本作は、ガミラス帝国の支配者を描写するとともに、二等市民として扱われる植民惑星出身者も描いており、作り手の帝国観が伺えるのも面白い。
 『宇宙戦艦ヤマト』での地球とガミラスは、ご覧のとおりそれぞれ日本とドイツを模しているが、日本もドイツも大日本帝国とか神聖ローマ帝国と名乗りながらも世界帝国には遠く及ばなかった。
 翻って本作のガミラス帝国は、歴史上名高い世界帝国たるイスラム帝国やモンゴル帝国等を髣髴とさせる仕組みを持っている。かつてイスラム帝国やモンゴル帝国が広大な領土を支配できたのは、それ相応の理由があってのことだ。ガミラスも大マゼラン銀河から天の川銀河に至る大帝国を築くからには、帝国を帝国たらしめる理由があるのだろう。
 この点については、ガミラス帝国の全貌が明らかになってから改めて論じたいと思う。


宇宙戦艦ヤマト2199 (2) [Blu-ray]宇宙戦艦ヤマト2199 第二章 太陽圏の死闘』  [あ行][テレビ]
第3話『木星圏脱出』 脚本/出渕裕 絵コンテ/樋口真嗣 演出/栗原ひばり
第4話『氷原の墓標』 脚本/大野木寛 絵コンテ/出渕裕 演出/別所誠人
第5話『死角なき罠』 脚本/出渕裕 絵コンテ/榎本明広 演出/榎本明広
第6話『冥王の落日』 脚本/森田繁 絵コンテ/神戸洋行 演出/多田俊介

総監督・シリーズ構成/出渕裕  原作/西崎義展
チーフディレクター/榎本明広  キャラクターデザイン/結城信輝
音楽/宮川彬良、宮川泰
出演/菅生隆之 小野大輔 鈴村健一 桑島法子 大塚芳忠 山寺宏一 麦人 千葉繁 田中理恵 久川綾 赤羽根健治
日本公開/2012年6月30日
ジャンル/[SF] [アドベンチャー] [戦争]
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【theme : 宇宙戦艦ヤマト2199
【genre : アニメ・コミック

tag : 出渕裕 西崎義展 菅生隆之 小野大輔 鈴村健一 桑島法子 大塚芳忠 山寺宏一 麦人 千葉繁

⇒comment

第二章コメント、お待ちしておりました!

ヤマト2199第一章の評論、解説に膝を打って以来のファンです。
(他の解説も楽しく読ませて頂いております)

今回は、ヤマト2199を「構成論」「ガミラスの支配考察」の二つでお話して頂きましたね。
他の方々とは異なる視点は、より作品を楽しませてくれます。
ありがとうございます。

私は今回の第二章で、「互いに窮鼠となった者同士の比較」という点で楽しませてもらいました。

互いに愛する者を持ちながら、片や服従し、片や反抗する。
その似た者同士の、互いの持つ「兵器」の特性を最大限に活かしきった戦いに、
年甲斐も無く熱くなりました。

詳細は置いておきますが、沖田とシュルツの決定的な違いは、
互いの持つハードを活かすアイデアでは無く、
そのハードに対する「依存度」では無かったのか?と思います。
結果、ハードへの依存度の高かったシュルツは敗退し、
ハードへの依存をある程度で見きった沖田は、
更なる知恵と工夫を勝利を手にするまで執拗に部下達に要求します。

正に互いに引くことの出来ない一進一退の攻防。
「漢」を描くヤマトの真髄を久々に映像作品から感じとりました。

おっしゃる通り、2時間の映像作品として大変良くまとまっている本作品。
他の切り口もあれば、ぜひ後日にでも公開していただければと思います。

長文、誠に失礼致しました。

Re: 第二章コメント、お待ちしておりました!

住人さん、こんにちは。
なるほど第二章は、反射衛星砲を過信し、自分の考えをトップダウンで部下に押し付けたシュルツと、波動砲に頼らず、部下の意見を吸い上げた沖田艦長との、マネジメントの違いが勝敗を決したと云えますね。互いの知略を尽くした戦いぶりには、手に汗握りました。
ただ、波動砲を使わない合理的な説明があれば、なお良かったと思います。敵基地の場所も判らないのに波動砲発射によるダメージは避けたいとかナントカ、ちょっとセリフを加えて欲しかったなと。まぁ、それは些細なことです。

それにしても、本作に関しては書きたいことがありすぎて困ります。今回もあれこれ書いていたのですが、散漫になるので内容を絞りました。
まだまだ先は長いので、のんびり書き継いでいこうと思います。
どうぞお付き合いください。

No title

ガミラスにはいいテルマエがいるらしい。次章はテルマエが主役になるのだな、きっと。そして、イスカンダルがあんな状態になったのは、きっといいテルマエがいなかったからに違いない。

Re: No title

ふじき78さん、こんにちは。
ガミラスの風呂担当は命がけでしょう。デスラー専用風呂の湯加減が悪かったら、銃殺は免れないでしょうね:-)

ナルホドです。

はじめまして。
評論、楽しく拝見させて頂きました。
宇宙戦艦ヤマト2199、特に第二章には、私も驚きました。
旧作の素晴らしさは今更語るべくもないのですが、それゆえにリメイクの難しさは推して知るべしです。その難題に、監督はじめスタッフは見事な回答を示してくれました。
オリジナルの最大の欠点?であった、とりあえず作戦なしでツッコメ的な部分が、緻密な作戦行動と機転の効いた決断の描写に演出されていて、とてもナットクし興奮しました。
バリアもなしにやられ放題の旧作ヤマトが、波動防壁という論理的?な設定を加えて強くてカッコいいヤマトになったことも嬉しい変更点ですね。
書きたいことは山ほどありますが、とりあえずこのくらいで。
では。

Re: ナルホドです。

たぐっちさん、コメントありがとうございます。
波動防壁という設定はいいですね!
こういう仕掛けがないと、ガンガン被弾する激しい戦闘を描けませんし、ファンにとっては旧作の空間磁力メッキを彷彿とさせて決して唐突ではない。
また、おっしゃるとおり、きちんと作戦を立案して行動しているのが納得性を高めて、グイグイ作品世界に引き込まれます。

ヤマト2199について書き始めると、本当に止まりません:-)
第七章までじっくり取り上げていきたいと思いますので、よろしくお願いします。

『テルマエ・ロマエ』の見過ぎか?

どもっ、ICAです。確かに、2199は、言いたい事だらけですね。

入浴に対する考察は、すごく参考になりました。丁度『テルマエ・ロマエ』を観た後だったので、あの後、デスラー総統が、湯船の中に沈んで、古代ローマにスリップしちゃったりしないかと、ついつい妄想にひたってしまいました。

ローマの若き皇帝をイメージしたという話は、すごく納得です。帝都バレラスや総統府の美術デザインも、力が入っていて素晴らしかったです。

おそらくは、地球との文明レベルの差は、地球のように何度も文明が破滅してリセットせずに、ずっと文明が長く続いたせいなのでは、と思ったりしました。

それにしても、地球の側に、もう少しガミラスに対して興味をもって研究しようという人物がいないのが疑問です。そういう人物が1人でもいれば、その人物を突破口にして、コンタクトの可能性が開かれ、ガミラスの実像についての解明も、進んでよいと思うのですが…。

Re: 『テルマエ・ロマエ』の見過ぎか?

ICAさん、こんにちは。
私がこんな記事を書いたのも、『テルマエ・ロマエ』の印象が残っていたからで:-)
『カリギュラ』において、ピーター・オトゥール演じるティベリウス帝がプールのような風呂に入っていたのも印象的です。

地球とガミラスは、そもそもなぜ開戦したんでしょうね。
第三章を観ると、そこにも旧作ファンを驚かせるような仕組みがあるようです。
楽しみですね。
Secret

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