『映画 怪物くん』 みんな元気にな~れ!

 これは日本映画のファンには嬉しい贈り物だ。
 小説にしろ映画にしろ、異郷での冒険譚は娯楽の王道である。ターザンもアラン・クォーターメインもシンドバッドもインディ・ジョーンズも異郷へ分け入って冒険したし、グローバル化により異郷と呼べる別天地がなくなると、異郷冒険映画はVFX技術の力を借りてSFやファンタジーとして生き続けた。
 ところが日本映画に限ってみると、異郷冒険譚といえるものがあまり思い浮かばない。

 洋邦で差が生じた理由は、自文明と他文明の捉え方の違いをはじめいろいろ考えられるだろうが、制作費が高くつくことも一因だろう。
 実写ではロケにしろセット撮影にしろ大掛かりになるだろうから、日本ではもっぱらアニメがSFやファンタジーを担ってきた。

 そんな中では珍しい、堂々たる邦画実写の異郷冒険譚が、谷口千吉監督、三船敏郎主演の『大盗賊』(1963年)と『奇巌城の冒険』(1966年)である。堺の豪商が南の国で冒険する『大盗賊』、そして遣唐使が架空の国で活躍する『奇巌城の冒険』、いずれも仙術・妖術が入り乱れ、日本映画らしからぬスケールだ。
 ところが、近年その流れを受け継ぐ映画が見当たらない。
 演劇では、日本を脱出した石川五右衛門が南の島で大暴れする『五右衛門ロック』のような痛快作もあるのに、なんと淋しいことか……。

 と残念がっているところに登場したのが、『映画 怪物くん』だ。
 舞台となるのはインド半島にある「カレーの王国」。お馴染み怪物くん一行が、王家乗っ取りを企む大悪党を相手に、念力を駆使して大立ち回りを演じる冒険譚だ。
 異国でお姫様を助け、友情を育み、怪物を退治する定番の展開に、やや滑り気味のギャグをまぶした底抜けぶりは、『奇巌城の冒険』に勝るとも劣らない。

 なにしろ脚本は『半分の月がのぼる空』や『おにいちゃんのハナビ』で観客のハートを鷲掴みにした西田征史氏だ。それらの作品で観客をボロ泣きさせた氏が、うって変わって馬鹿映画とおバカ映画の微妙なラインを狙ってくる。
 それを『ゴールデンスランバー』等で冴えた演出を見せてくれた中村義洋監督がテンポ良く映像にするのだから、楽しいことこの上ない。


 さらに本作は、意外にも現代の日本が抱える課題を中心に据えている。鋭く世相を斬る映画なのだ。

 怪物くんと対決する岩石男が企む悪事は、なんとヘリコプター・マネーである。ヘリコプター・マネーとは、ヘリコプターで空から金をばら撒くような景気対策のことをいう。人々がばら撒きを喜んでジャブジャブ金を使えば景気が良くなるという考え方だ。
 本作ではさすがにヘリコプターは登場しないが、塔の上から民衆に向かってダイヤをばら撒くのはまさしくヘリコプター・マネー。バカバカしい計画だと思われるかもしれないが、実際に2009年に日本政府は定額給付金と称して国民1人につき12,000~20,000円をばら撒いたのだから、岩石男を笑えない。
 もっとも定額給付金をばら撒くには何がしかの財源が必要だが、岩石男は魔力でダイヤを生み出すので、財源に悩むことはない。

 しかし、財源を気にせず金をばら撒けばどうなるか、特撮ファンなら先刻ご承知だろう。
 1972年、『レインボーマン』に登場した御多福会(おたふくかい)は大量の現金をばら撒いた。そのためハイパーインフレが巻き起こり、日本経済は大混乱、人々の生活は行き詰った。経済的に日本を葬ろうという恐るべき作戦だ。
 幸いカレーの王国ではそこまで進行しないが、ダイヤのばら撒きに民衆が群がる様子は、政府のばら撒きを期待する国民を想い起こさせて痛烈だ。

 また、岩石男の出自にも考えさせられる。
 岩石男は怪物界の下層階級の出身で、怪物界のプリンスとして王位を世襲する怪物くんとは正反対の立場だ。本作は格差社会の頂点にいる者と底辺にいる者との戦いでもあるのだ。
 そして岩石男が提起するのは、世襲で地位や権力を得る者の適性に関する問題だ。そこには、怪物くん、お姫様、岩石男それぞれのアプローチがあり、本作のテーマのひとつになっている。これはもちろん、世襲議員がおびただしい我が国への疑問でもあろう。

 このように本作は、日本の現状への風刺に満ちている。
 とはいえ、あくまでコメディなので、あまり深刻になることはない。サラリとした取り上げ方が、また上手いところだ。


 それにしても、時代設定は現代のはずなのに、カレーの王国の人々が手にする武器は剣や弓ばかりで、いったい何世紀の話なのかと思ってしまう。その時代錯誤な描写や、「カレーの王国」なんてふざけた呼称も含めて、インド人が怒るんじゃないかとハラハラした。
 しかしエンドクレジットを見て、インド政府の協力の下にインドでロケしていることを知ってホッとした。
 かつてインドを舞台にした『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』は、インドやヒンドゥー教に対する偏見や人種差別があるとの批判からインド政府にロケを拒否されたというが、「カレーの王国」の洒落っ気は受け止めてもらえたということか。
 もっとも、「カレー」というのはインドの言葉じゃないのだが。


 とにもかくにも『映画 怪物くん』は、愉快、痛快、奇々怪々で、なんだか元気になれる映画である。


「映画 怪物くん」3D&2D Blu-ray映画 怪物くん』  [あ行]
監督/中村義洋
脚本/西田征史
出演/大野智 松岡昌宏 山口達也 八嶋智人 川島海荷 上島竜兵 チェ・ホンマン 上川隆也 北村一輝 鹿賀丈史 稲森いずみ 濱田龍臣 三宅弘城 半海一晃
日本公開/2011年11月26日
ジャンル/[コメディ] [アドベンチャー] [ファミリー]
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【theme : コメディ映画
【genre : 映画

tag : 中村義洋 大野智 松岡昌宏 山口達也 八嶋智人 川島海荷 上島竜兵 チェ・ホンマン 上川隆也 北村一輝

⇒comment

No title

いかん、いかん、面白い映画のような気がしてきた。

No title

ナドレックさんこんにちは!
怪物くん楽しかったですね。
言われてみれば時代設定がめちゃめやでした(笑)
岩男さん死ななくてよかったです。
トラバ送らせてもらいましたw
よろしくお願いいたします。
ξ(⌒-⌒ξ

Re: No title

ふじき78さん、こんにちは。
この温さ、この緩さ、どこを取っても並みの作り手ではありません。
20億円もの制作費を注ぎ込んで60年代風のチープなセットを構築するなど、日本映画らしからぬ姿勢がもっと評価されていいと思うんですけどねぇ。

Re: No title

愛知女子さん、こんにちは。
楽しい作品でしたね。
愛知女子さんがブログに書かれていたエンドクレジットでの子供たちの大合唱、聴きたかったなぁ。
そういう見方が似合う映画ですね。

No title

遅ればせながら昨日(一月十五日)に映画怪物くん観てきました。大野君ファンの私は、観に行きたいけどちょっと年を食っているのでいきずらく、DVDが出るのを待とうと思っていました。そこに主人が、映画館そろそろ空いているだろうからと誘ってくれて行ってきました。(主人は、余り嵐好きでありません)最初怪物ランドを飛び出した理由にもっとなかったんかいな…と思いつつずんずんハマってしまいました。怪物くん、怪物大王、松岡君、上川さんの役が、それぞれじわじわと迫力がでてい良かったとおもいます。主人も、案外よかったと言ってくれてほっとしました。観た後、気持ちがほっとする映画だと思います。

Re: No title

TOMO31さん、コメントありがとうございます。
いいご主人ですね。
私はレイトショーを観に行ったのですが、大きなスクリーンを前にして場内は私一人でした。混雑は避けたいですが、独りぼっちは淋しいです(^^;

映画はおっしゃるとおりホッとするものでしたね。
私はテレビドラマを第1話しか見ておらず、デモキン等の設定が良く判っていません。それでも怪物くん一行や多彩な登場人物たちが面白く、楽しい気持ちになれました。
Secret

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