『クリスマスのその夜に』 世界中でお祝いしよう!

 「クリスマスはお祝いしないの。イスラム教だから。」
 『クリスマスのその夜に』の予告編に流れたセリフを耳にして、私は奇異に感じた。
 それじゃあまるで、イスラム教徒は12月25日に何もしないみたいじゃないか。12月25日を祝うのが、キリスト教徒だけみたいじゃないか。

 『クリスマスのその夜に』に登場する少年はいじらしい。
 ムスリムの少女がクリスマスのお祝いはしないと云うので、自分も自宅のパーティを欠席して少女と一緒に過ごすことにする。

 しかし現実には、たとえばイスラームに基づいて統治されているイラン・イスラム共和国でも、12月25日を祝っている。ムスリムだから何もしないとは限らない。
 もちろん、祝っているのはイエス・キリストの誕生ではないけれど。
 欧州北部でもキリスト教化する前からゲルマン神話の主神オーディンに豚などを捧げていたし、欧州南部もギリシャ・ローマ神話に登場するワインの神バッカス(ディオニッソス)の生誕を12月25日として祭を行っていたという。
 キリスト教に関係なく、まず12月25日頃にお祝いをする習俗が世界中にあり、そこに新興のキリスト教が入り込んだのだ。

 海上知明氏は、12月25日に祝祭が行われる理由を次のように説明している。
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 欧州の自然風土のうち、緯度が高いということがクリスマスイブを12月24日に、クリスマスを12月25日にさせた理由である。欧州では、夏の昼の長さとは対照的に、冬は日照時間が極端に短くなる。だんだんと日の入りが早くなるにつれて、太陽が再び出てこないのではないかという恐怖が生まれてくる。しかし、冬至を境に日照時間は再び長くなっていく。このため北欧などの地方で、冬至の翌日を、太陽が生まれ変わった日として祝っていたが、これが12月25日の冬至祭である。
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 冬至祭はイラン発祥のゾロアスター教でも行わた。
 インドやイランで信仰された古い神ミトラは、ゾロアスター教の太陽神となり、またミトラ教の主神として2世紀にはローマ帝国にも広まっていく。そのミトラ神の誕生日が12月25日だったのだ。現代のイランでも祝っているのはミトラ神の生誕祭である。
 冬至と、その後の日照時間の伸びを祝っているのだから、およそ北半球では共通した祭なのである。


 そして、いったん民衆に定着した祝日や祭日は、あとから変えられるものではない。
 私たちの身近な例としては4月29日が挙げられよう。
 昭和時代、この日は天皇誕生日とされていた。そして憲法記念日やこどもの日と併せて大型連休になることから、人々はレジャー・観光に繰り出し、それを当て込んで産業も形成された。
 やがて平成時代になると天皇誕生日は別の日に移ったが、4月29日を平日に戻すことなどいまさら誰も望まない。そこで、名称を変えながら4月29日を休日にし続けていることは、私たちもよく知るところだ。

 ましてや冬至祭は、日照時間の切り替わりという地球規模の現象を祝う祭だ。
 宗教が変わろうが、国体が変わろうが、祭をなくせるものじゃない。
 それゆえ、イエス・キリストの誕生日は4月から9月の間と考えられているにもかかわらず、キリスト教においても12月25日に降誕祭を行う。

 それをキリスト教徒はクリスマスと呼び、イランではシャベ・ヤルダと呼ぶが、家族みんなで過ごすのは同じである。
 中国でも冬至には餃子等を食べて家族団欒で過ごすというし、日本ではゆず湯に入ってカボチャを食べる。

 だから、「オレはクリスチャンじゃないから関係ないよ」なんて野暮なことは云いっこなしだ。この日は、家族や大切な人と一緒に過ごして、ご馳走を食べればいい。
 どうしてもキリスト教色が気になるなら、仏教徒として祝ってはどうか。
 ミトラ神は西方に伝わってミトラ教を形作り、その要素はキリスト教に習合されたが、他方、東方に伝わって大乗仏教にも習合された。そしてミトラの呼び名はミイロ、ミロクと変遷し、今では弥勒菩薩として知られている。
 弥勒は56億7千万年後に姿を現すというが、その日は12月25日に違いない。


 この北半球に住むみんなが祝う冬至のころを、どう過ごそうかと考えるなら、『クリスマスのその夜に』を観に行くのがオススメだ。
 家を追い出された夫がなんとか子供にプレゼントを渡そうとたくらんだり、偶然の再会に驚く男女がその夜の過ごし方に戸惑ったりと、この映画はクリスマス・イヴの様々なエピソードを繊細に綴っていく。
 本作にはちょっとしたユーモアと、ほろ苦さと切なさがある。それは冬の寒さの厳しさを知り、日が伸びていく喜びを噛みしめるのに相応しい。
 独りでしみじみと観ても、大切な人と一緒に観ても、豊かな時間となるだろう。

 そして映画で流れる歌声が、いつまでも耳に響くはずだ。

  家へ帰りたい クリスマスに 今年こそ
  ふるさとへ帰りたい クリスマスに 今年こそ……


クリスマスのその夜に [DVD]クリスマスのその夜に』  [か行]
監督・制作・脚本/ベント・ハーメル
出演/トロンド・ファウサ・アウルヴォーグ クリスティーネ・ルイ・シュレッテバッケン フリチョフ・ソーハイム セシル・モスリ サラ・ビントゥ・サコール モッテン・イルセン・リースネス ニーナ・アンドレセン=ボールド トマス・ノールシュトローム ライダル・ソーレンセン イングン・ベアテ・オイエン
日本公開/2011年12月3日
ジャンル/[ドラマ]
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【theme : クリスマス映画
【genre : 映画

tag : ベント・ハーメル トロンド・ファウサ・アウルヴォーグ クリスティーネ・ルイ・シュレッテバッケン フリチョフ・ソーハイム セシル・モスリ サラ・ビントゥ・サコール モッテン・イルセン・リースネス ニーナ・アンドレセン=ボールド トマス・ノールシュトローム ライダル・ソーレンセン

⇒comment

文章だけで、お腹いっぱい

「クリスマスは家族みんなで過ごす」。素敵な言葉と同時に、本当にそうだなーと思います。独身の私は、毎年クリスマスになると、友人たちから「今年は恋人と?」と聞かれ、水面下でさぐり合っているんですね。恋人など作ろうと思えば簡単に作れるのに、「本当にこの人で良いのかな?」とデートする度に感じている私がいます。クリスマスとは、キリスト+マスとは「ミス」(お祭りという意味)だそうです。例えば、夏の花火大会ですら、恋人や友人たちと一緒でなければ参加できない日本人。「1人だと恥ずかしい」「1人だとみじめ」とか。映画館ですら、「1人だとみじめ」という風潮が日本にはありますね。巨大スクリーンで、素晴らしい時間なのに。不景気で映画館が次々に閉館しています。寂しく、虚しい時代ですね。改めて「クリスマスは家族みんなで過ごそう」。重たい言葉に感じました。いつもそうなのですが、文章を拝見しているだけで、お腹いっぱいになっています。悪いクセですね。

Re: 文章だけで、お腹いっぱい

匿名さん、こんにちは。
映画館も1人だとみじめですか……。すると私の人生はずっとみじめでしたorz
恋人とは家族候補でもあるのでしょうか。そういう人と過ごすのもまた良し、でしょうね。

近年は巣ごもりクリスマス、おうちクリスマスなんて云われますが、この映画はまさしくクリスマスを家で過ごそうとする人たちの話です。ところが家で過ごせる人、過ごせない人の悲喜こもごもなわけで……。
この映画を観れば、自分なりのクリスマスの過ごし方が見つかるかもしれません。

やっと

見れまして、やっとお伺いできました。
今年の目標は、すでに挫折気味ですorz

前に学校に来ていたALTが、12月はとにかく他人に優しくする気持ちになる月。
クリスマスが当然その要因なんだけど、12月になったとたん、いつもとは違う気持ちになる。ストーブの上に、ハーブを沸かし、気持ちを穏やかに保ち、他人に優しく接する。そんな心持を意識するのが12月だ・・と聞きました。
特別にイブだけ俄かに何かする日本人とは、根本的に違うと感じたのを思い出しました。


あたしもずっと「みじめ」ですかねえ。
ははは。
あたしのペースに合わせたら、相手がかわいそうと思って、ひとりで今日も鑑賞でい!

Re: やっと

sakuraiさん、こんにちは。
体調の悪いところを訪問いただきありがとうございます。
12月は他人に優しくする気持ちになる月ですか。そういう月があるのはいいですね。
でも日本も必ずしもイブだけ何かするわけではありません。ハロウィンが終われば街にはイルミネーションが溢れ、クリスマス商戦が続きます。これはこれで日本の風物かと:-)
それだけに2011年は他人の目を気にしてイルミネーションを控える等で、例年とは違う冬でした。派手なクリスマス商戦を目にすると皮肉の一つも云いたくなるのに、なくなってみると実は寂しさを感じてしまうことを知りました。

そうそう、クリスマス直前に本作を再見したところ、場内は女性の一人客でいっぱいでした。
これはこれでアリなんでしょうね。
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