『デビル』 シャマランが監督しない理由

 【ネタバレ注意】

 試写会の案内状を手にして、私は不安でいっぱいだった。
 近年、最低映画を決めるゴールデン・ラズベリー賞候補の常連となっていたM・ナイト・シャマランは、『レディ・イン・ザ・ウォーター』でのワースト監督賞及びワースト助演男優賞(シャマラン自身の演技に対して)の二冠を超えて、前作『エアベンダー』で遂にワースト作品賞をはじめとする五部門を制した。私は『エアベンダー』を心底楽しんだし、続編が作られるのを心待ちにしているが、世間の評判は散々だった。
 そんな、作品を発表するたびに評価が下がる一方の彼が、とうとう監督業から退いて、原案・制作にとどまるのか。『デビル』の案内状を見ながら、そんなことを考えた。

 『デビル』は、M・ナイト・シャマランが書きためたアイデアを若手の映画作家が作品化する"ザ・ナイト・クロニクルズ"プロジェクトの第一弾である。監督をジョン・エリック・ドゥードルが務め、その兄弟のドリュー・ドゥードルが制作総指揮に当たり、脚本はブライアン・ネルソンが担当している。なるほどシャマランの役割は原案・制作だけであり、彼のアイデアは他の作家に託されている。

 だが、シャマランのファンに心配は無用であった。本作にはシャマランらしさがしっかり刻まれている。
 奇妙な設定、スリリングな物語、そして鑑賞後に残るえも云われぬ感慨。シャマラン作品を特徴付けるものが、ここには溢れている。


 映画は、のっけから上下反転した映像ではじまる。
 ダンテが『神曲』で描いたように、悪魔のいる地獄と他の世界とは上下が逆転しているイメージがある。我々のこの世界を逆さまに見る者――それは題名を的確に表しており、その思わせぶりな映像に、観客はたちまち作品世界に囚われよう。

 続いて、5人の男女がエレベーターに閉じ込められる、そんなシンプルでありながら片ときも飽きさせないストーリーが展開する。
 M・ナイト・シャマランがある民話小説から着想した14ページの原案を、起伏に富んだ脚本に仕立てたブライアン・ネルソンはお手柄だし、80分の緊迫した映像にしたジョン・エリック・ドゥードル監督もお見事だ。
 シャマラン自身の監督・脚本で味わえないのは残念だが、シャマランが公式サイトで述べているように、何冊ものノートに書きためたアイデアを彼一人で脚本にして監督するのは無理なのだろう。だとすれば、こんな面白いアイデアはみんなで分担して早く作品化するに限る。


 とはいえ、M・ナイト・シャマランは自分で監督する作品も準備していることだろう。
 では、自分で監督する作品と、本作のように他人に託す作品とでは、何が違うのだろうか。
 その理由はいくつもあろうが、ヒントの一つは、公式サイトに掲載されたシャマランの次の言葉である。
 「僕が観客に見て欲しいと思っているのは、今の時代についての大事なこと、僕の信じている大事なことを語るたくさんのストーリーだ。」

 M・ナイト・シャマランの作品は、それぞれ極めてユニークなアイデアに基づいているにもかかわらず、そこで語られるのは煎じ詰めれば似たようなことである。
 それは倫理や信仰についての、いささか教訓的ともいえる主張だ。
 もしも、観客がシャマラン作品に求めるものが、意外な結末やビックリ箱のような要素であれば、倫理や信仰に関する主張は鬱陶しいだけだろう。さらには、結末の切れ味を殺ぐものだと考えるかもしれない。
 しかしシャマランが、みずからが信じている大事なことを語るために映画を作っているのだとすれば、奇妙な設定やスリリングな物語は観客を導くための方便でしかない。

 そして同じことを語り続けるための方便としては、語り口を変えることも大切だ。同じ監督が同じ語り方をしていたのでは、観客は早晩飽きてしまう。ときには監督や脚本家を取り替えた方が、観客にとっては新鮮で、同じ主張でも耳を傾けやすいだろう。
 事実、観客が『デビル』を観た後に抱く想いは、過去のシャマラン作品に驚くほど似ている。M・ナイト・シャマランは、作品の核となる語りたいことが一貫しているからこそ、他人に作品作りを任せられるのだ。そこにぶれがないからこそ、かえって他人が書いたセリフで他人が演出した作品の方が、世の中に広めやすいと判断したのだろう。

 ザ・ナイト・クロニクルズでは3本の作品を予定しているそうだが、3本と云わず、何冊ものノートに書きためたアイデアのすべてを早く見せてもらいたいものだ。


デビル [Blu-ray]デビル』  [た行]
監督/ジョン・エリック・ドゥードル  脚本/ブライアン・ネルソン
原案・制作/M・ナイト・シャマラン
出演/クリス・メッシーナ ローガン・マーシャル=グリーン ジェフリー・エアンド ボヤナ・ノヴァコヴィッチ ジェニー・オハラ ボキーム・ウッドバイン ジェイコブ・バルガス
日本公開/2011年7月16日
ジャンル/[サスペンス] [ホラー]
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【theme : ホラー映画
【genre : 映画

tag : ジョン・エリック・ドゥードル M・ナイト・シャマラン クリス・メッシーナ ローガン・マーシャル=グリーン ジェフリー・エアンド ボヤナ・ノヴァコヴィッチ ジェニー・オハラ ボキーム・ウッドバイン ジェイコブ・バルガス

⇒comment

次の場所へ行く主人公達

シャマラン映画の好きなところはキャラが、何かを学んで映画の始まりにいたところとは違う、少し良い場所に行く成長の物語があるところです。ひき逃げ犯の、刑事の選択に本当にほっとしたというか胸打たれました。あと、ソファのセールスマンをずっとシャマランだと…w

Re: 次の場所へ行く主人公達

inunekoさん、こんにちは。
おっしゃるとおり、シャマランの映画では主人公に何がしかの心境の変化が訪れますね。ショッキングな映画を作りつつも、シャマランには楽観的な信念があるのだと思います。本作の場合は、最後のセリフにたどりつくための80分だったのでしょう。

映画を観ながら、私もどこにシャマランがいるのかと、ずっと気になっていました。
インド系に近い顔立ちの人が登場するたびに、シャマラン痩せた?シャマラン太った?とハラハラドキドキ…(^^)

シャマランの主題論

ナドレックさんの書かれているシャマランの主題論には全く同感です。
「デビル」を通じて私も似たことを書き留めておりますので、TBさせていただきます。

Re: シャマランの主題論

hychk126さん、コメントありがとうございます。
本作を観て、私はなんだかシャマランが好きになりました。
もちろんこれまでも、作品が公開されれば喜んで観ていたのですが、段々シャマランという人間が好ましく思えてきたのです。
一貫した主題を、今後どのように展開していくのか、興味深いですね。
Secret

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