『砂の惑星』を体験する
かつて雑誌のアンケートで好きなSF映画3つを問われ、SF作家の荒巻義雄氏は次の作品を挙げていた。
『砂の惑星』
『バーバレラ』
『フラッシュ・ゴードン』
他のSF作家や翻訳家が『2001年宇宙の旅』や『スター・ウォーズ』等を挙げる中で、異彩を放つ回答だった。
この1点をもって、私は荒巻義雄ファンである(ビッグウォーズシリーズの続きを書いてください)。
氏の名前を知らしめたものとして、多数の架空戦記小説がある。
歴史にifは禁物だが、もしもデヴィッド・リンチが『スター・ウォーズ/ジェダイの復讐』のオファーを断らずに監督していたら、と想像することがある。
ダークサイドの描写は暗くグロテスクになり、ルークは月や手が迫る不気味なイメージに苦しんだことだろう。
もっとも、『スター・ウォーズ/ジェダイの復讐』の撮影時、毎日ジョージ・ルーカスが現場に来て指示を出したそうだから、リンチはリチャード・マーカンドのようには折り合えなかったかも知れない。
いやいや怪物映画の『エレファント・マン』をヒューマンドラマに見せかけて日本中を感動で揺さぶったデヴィッド・リンチなら、スター・ウォーズ サーガの衣を被ってもリンチらしい映画を作ったはずだ。
映画『砂の惑星』も、小説『デューン/砂の惑星』のストーリーをきちんと踏襲しているにもかかわらず、リンチの悪夢のようなイマジネーションに満ち溢れた作品だ。
公開当時、『エレファント・マン』をヒューマンドラマだと思い込んでいた諸氏は、『砂の惑星』に期待を裏切られ、競うように酷評した。
『エレファント・マン』の前に作った『イレイザーヘッド』を観ていたなら、デヴィッド・リンチの悪趣味は判ったはずなのに。
原作者フランク・ハードートは、スターログ誌のインタビューで「画面を切り取って、額に入れて飾っておきたい」と語っている。
それほどまでに、デヴィッド・リンチが作り上げた映画空間は圧倒的だ。
何しろ狭苦しい。
王宮の低い天井や異様に細長い集会場などが、苦しいほどの圧迫感を与える。
惑星規模、いや惑星間の出来事を描いているのに、『イレイザーヘッド』の狭いアパートの一室や、『エレファント・マン』の牢獄のような居室に閉じ込められているかのごとく。
そして、画面はあくまで薄暗い。
分厚い雲に覆われ雨が降り続ける惑星カラダン。空が真っ黒な煤煙に覆われている惑星ギエディ・プライム。そして砂漠の星アラキスは、開放的な空が広がるはずなのに、物語は暗く狭い地下で進行する。
暗い画面が延々続き、瞳孔が大きく開いてしまった頃、闇の中に閃光がひらめく!
ハルコンネン男爵軍の襲撃である。
映画館の暗闇の中、目を凝らさねば見えないような暗い画面に慣れきっていたので、爆発の光が眩しくてしょうがない。
そして音についても強烈なものがある。
サンド・ウォームを呼ぶために用いるサンパー。サンパーが出す不快な音に劇中の人物は耳をふさぐ。
私はこの映画を丸の内ピカデリーで観たが、広い場内に耳を圧するサンパーの音が満ち、耳をふさぎたいほどの不快さだった。
この映画はストーリーを楽しむようなものではない。
カタルシスを覚えたり、感動にむせび泣くものでもない。
音を、光を、圧迫感を、体験するものなのだ。
原作『デューン/砂の惑星』をもっと明るく映像化した作品を楽しみたいなら、『風の谷のナウシカ』を観れば良い。ウォームの恐ろしさも、救世主物語も堪能できる。
オーニソプター(羽ばたき式飛行機)は、『天空の城ラピュタ』で楽しめる。
そもそも原作小説が、『アラビアのロレンス』にドラッグ文化を配合した内容だ。
晴天の下で砂漠の民が戦う姿は、デヴィッド・リーンが1962年に映画にしてくれている。
残念ながら映画『砂の惑星』は、興行的には失敗した。
そこでデヴィッド・リンチは、次にこじんまりと判りやすい『ブルーベルベット』を作った。
酷評された『砂の惑星』とはうってかわって、全米批評家協会賞をはじめ多くの賞に輝いた。
そのためだろう、ウィキペディアには「低予算では非常にできの良い作品を作るのに、『砂の惑星』に代表されるように製作費が大きくなると駄作を作る」と書かれているが、これは誤りである。
リンチは、自分のイマジネーションをそのままスクリーンに映し出しても誰もついてこないことを『砂の惑星』で学んだのだ。『ブルーベルベット』は悪趣味とイマジネーションを抑え気味にしたから、傑作であることが観客にも判ったのだ。
遠慮なしに異形の世界を作り上げた成果は、『砂の惑星』にこそある。
あっぱれなのは、ディノ・デ・ラウレンティスだ。
『砂の惑星』でデヴィッド・リンチの好き勝手にさせて、興行的に失敗したにもかかわらず、見放さずに『ブルーベルベット』を監督させる。
『天国の門』で大失敗したマイケル・チミノに『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』を作らせたり、いやはや、たいしたプロデューサーである。
『砂の惑星』 [さ行]
監督・脚本/デヴィッド・リンチ
製作: ラファエラ・デ・ラウレンティス 製作総指揮: ディノ・デ・ラウレンティス
音楽/ブライアン・イーノ、TOTO
出演/カイル・マクラクラン ショーン・ヤング ホセ・ファーラー ポール・スミス スティング マックス・フォン・シドー
日本公開/1985年3月
ジャンル/[SF]
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『砂の惑星』
『バーバレラ』
『フラッシュ・ゴードン』
他のSF作家や翻訳家が『2001年宇宙の旅』や『スター・ウォーズ』等を挙げる中で、異彩を放つ回答だった。
この1点をもって、私は荒巻義雄ファンである(ビッグウォーズシリーズの続きを書いてください)。
氏の名前を知らしめたものとして、多数の架空戦記小説がある。
歴史にifは禁物だが、もしもデヴィッド・リンチが『スター・ウォーズ/ジェダイの復讐』のオファーを断らずに監督していたら、と想像することがある。
ダークサイドの描写は暗くグロテスクになり、ルークは月や手が迫る不気味なイメージに苦しんだことだろう。
もっとも、『スター・ウォーズ/ジェダイの復讐』の撮影時、毎日ジョージ・ルーカスが現場に来て指示を出したそうだから、リンチはリチャード・マーカンドのようには折り合えなかったかも知れない。
いやいや怪物映画の『エレファント・マン』をヒューマンドラマに見せかけて日本中を感動で揺さぶったデヴィッド・リンチなら、スター・ウォーズ サーガの衣を被ってもリンチらしい映画を作ったはずだ。
映画『砂の惑星』も、小説『デューン/砂の惑星』のストーリーをきちんと踏襲しているにもかかわらず、リンチの悪夢のようなイマジネーションに満ち溢れた作品だ。
公開当時、『エレファント・マン』をヒューマンドラマだと思い込んでいた諸氏は、『砂の惑星』に期待を裏切られ、競うように酷評した。
『エレファント・マン』の前に作った『イレイザーヘッド』を観ていたなら、デヴィッド・リンチの悪趣味は判ったはずなのに。
原作者フランク・ハードートは、スターログ誌のインタビューで「画面を切り取って、額に入れて飾っておきたい」と語っている。
それほどまでに、デヴィッド・リンチが作り上げた映画空間は圧倒的だ。
何しろ狭苦しい。
王宮の低い天井や異様に細長い集会場などが、苦しいほどの圧迫感を与える。
惑星規模、いや惑星間の出来事を描いているのに、『イレイザーヘッド』の狭いアパートの一室や、『エレファント・マン』の牢獄のような居室に閉じ込められているかのごとく。
そして、画面はあくまで薄暗い。
分厚い雲に覆われ雨が降り続ける惑星カラダン。空が真っ黒な煤煙に覆われている惑星ギエディ・プライム。そして砂漠の星アラキスは、開放的な空が広がるはずなのに、物語は暗く狭い地下で進行する。
暗い画面が延々続き、瞳孔が大きく開いてしまった頃、闇の中に閃光がひらめく!
ハルコンネン男爵軍の襲撃である。
映画館の暗闇の中、目を凝らさねば見えないような暗い画面に慣れきっていたので、爆発の光が眩しくてしょうがない。
そして音についても強烈なものがある。
サンド・ウォームを呼ぶために用いるサンパー。サンパーが出す不快な音に劇中の人物は耳をふさぐ。
私はこの映画を丸の内ピカデリーで観たが、広い場内に耳を圧するサンパーの音が満ち、耳をふさぎたいほどの不快さだった。
この映画はストーリーを楽しむようなものではない。
カタルシスを覚えたり、感動にむせび泣くものでもない。
音を、光を、圧迫感を、体験するものなのだ。
原作『デューン/砂の惑星』をもっと明るく映像化した作品を楽しみたいなら、『風の谷のナウシカ』を観れば良い。ウォームの恐ろしさも、救世主物語も堪能できる。
オーニソプター(羽ばたき式飛行機)は、『天空の城ラピュタ』で楽しめる。
そもそも原作小説が、『アラビアのロレンス』にドラッグ文化を配合した内容だ。
晴天の下で砂漠の民が戦う姿は、デヴィッド・リーンが1962年に映画にしてくれている。
残念ながら映画『砂の惑星』は、興行的には失敗した。
そこでデヴィッド・リンチは、次にこじんまりと判りやすい『ブルーベルベット』を作った。
酷評された『砂の惑星』とはうってかわって、全米批評家協会賞をはじめ多くの賞に輝いた。
そのためだろう、ウィキペディアには「低予算では非常にできの良い作品を作るのに、『砂の惑星』に代表されるように製作費が大きくなると駄作を作る」と書かれているが、これは誤りである。
リンチは、自分のイマジネーションをそのままスクリーンに映し出しても誰もついてこないことを『砂の惑星』で学んだのだ。『ブルーベルベット』は悪趣味とイマジネーションを抑え気味にしたから、傑作であることが観客にも判ったのだ。
遠慮なしに異形の世界を作り上げた成果は、『砂の惑星』にこそある。
あっぱれなのは、ディノ・デ・ラウレンティスだ。
『砂の惑星』でデヴィッド・リンチの好き勝手にさせて、興行的に失敗したにもかかわらず、見放さずに『ブルーベルベット』を監督させる。
『天国の門』で大失敗したマイケル・チミノに『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』を作らせたり、いやはや、たいしたプロデューサーである。
![デューン 砂の惑星 【HDリマスター版】 [DVD]](http://ecx.images-amazon.com/images/I/511RLt6VbwL._SL160_.jpg)
監督・脚本/デヴィッド・リンチ
製作: ラファエラ・デ・ラウレンティス 製作総指揮: ディノ・デ・ラウレンティス
音楽/ブライアン・イーノ、TOTO
出演/カイル・マクラクラン ショーン・ヤング ホセ・ファーラー ポール・スミス スティング マックス・フォン・シドー
日本公開/1985年3月
ジャンル/[SF]


【theme : 特撮・SF・ファンタジー映画】
【genre : 映画】
tag : デヴィッド・リンチ ディノ・デ・ラウレンティス カイル・マクラクラン ショーン・ヤング ホセ・ファーラー ポール・スミス スティング マックス・フォン・シドー
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