『劇場版 神聖かまってちゃん ロックンロールは鳴り止まないっ』の正体

 【ネタバレ注意】

 音楽を映画にするのは難しい。
 それらはまったく違うものなのだから、互換性がないのは当たり前だ。

 けれども、バンドを取り上げた映画は多い。
 バンドを題材にすれば、仲間との葛藤を描くこともできるし、コンサートというイベントを描くこともできるので、等身大でありながら映画に物語性を付与しやすいのだろう。
 とうぜん、あくまで映画だから、いくら演奏シーンがあっても、背景に楽曲が流れても、それは音楽ではない。バンドメンバーに密着すれば、そのメンバーへの親しみは覚えるが、音楽の魅力は別だ。
 さりとて、楽曲ばかり取り上げるわけにもいくまい。映画の観客はミュージック・ビデオの連続上映を見に来るわけではなく、映画なりの物語や人物の掘り下げを期待する。それが音楽に優先するのだ。『白いリボン』のミヒャエル・ハネケのように、映画音楽を用いることを良しとせず、音楽を用いるのは自らの失敗を隠蔽する行為だと考える監督すらいる。


 中には『のだめカンタービレ』のように、音楽の魅力と映画の魅力の双方を描いた例も存在する。この作品は、ナレーションによる楽曲の解説を交えつつ、演奏シーンにCGIやアニメーションを散りばめて、音楽の魅力を視覚化し映画として伝えようと試みている。

 『のだめカンタービレ』とはまったく方向性が異なるものの、『劇場版 神聖かまってちゃん ロックンロールは鳴り止まないっ』もロックンロールの魅力を表現した映画だ。
 本作は、神聖かまってちゃんなるバンドの映画だが、それは「神聖かまってちゃん物語」でもなく「神聖かまってちゃんがやって来る/ヤァ!ヤァ!ヤァ!」でもない。すなわち、神聖かまってちゃんのたどってきた軌跡を描くわけでもなく、彼らの素顔に迫るわけでもない。
 まさしく『劇場版 神聖かまってちゃん』の名のとおり、本作は神聖かまってちゃんのアルバムを劇場用映画として楽しむ作品だ。

 そこでは並行して4つのストーリーが語られる。
 プロ棋士を目指す高校生の「青春まっしぐら篇」、保育園で問題視される5歳児とシングルマザーの「闘う母と息子篇」、神聖かまってちゃんのマネージャーが「引きこもり撲滅キャンペーン」に乗っかってバンドを売り出すか悩む「音楽業界はつらいよ篇」、そして神聖かまってちゃんのボーカル、ギターのの子がコンサートを間近に控えながらリハーサルに行きもせずに膝を抱えて座っているだけの映像が、交互に映し出される。
 それらは互いに関連するわけではない。全体として一つの物語を構成するわけでもない。

 アルバムに収められた楽曲と同じである。
 アルバムの曲は、一つひとつが独立した音楽になっており、まとめて聴かなきゃいけないわけじゃない。コンセプト・アルバムと呼ばれるものでも、その魅力は一つひとつの楽曲にある。それでもアルバム全体を通して聴けば、それはそれで楽しい。

 そして4つのストーリーそれぞれも、さして物語性があるわけではない。
 ロックの歌詞が叙事詩ではないのと同じように、高校生の疾走感や、5歳児の反骨や、マネージャーのジレンマを表現するにすぎない。膝を抱えたの子に至っては、本当にただ座っているだけで、なぜリハーサルに行かないのか、座りながら何を考えているのか説明されない。
 しかし、それでいいのだ。本作は神聖かまってちゃんのアルバムの劇場版なのだから、『ロックンロールは鳴り止まないっ』等の楽曲を聴いたときに湧き上がる感情を、映画館の観客にも感じさせられればいいのだ。


 だから、神聖かまってちゃんの音楽は、物語上のキーにはならない。
 5歳児は父を捨てる。別居している父のことを母と同じくらい好きだと云っていた少年が、父に買ってもらった大事なOSを捨ててしまう。しかしそれは神聖かまってちゃんの音楽を聴いたからではない。
 引きこもりの兄に代わって将棋のアマ王座決定戦に臨む少女は、戦績を報告し続ければ将棋好きの兄がいずれ部屋から出てくると期待している。彼女は並みいる対戦者を打ち負かし、勝ち続けるが、しかしそれは神聖かまってちゃんの音楽を聴いたからではない。
 当たり前だ。ロックを1曲聴いたからって、人生変わるものではない。何かが解決するわけでもない。どんな名曲だって、それを聴く者の人生においてはごく些細な位置しか占めない。

 でも、少しだけ、ほんの少しだけ、何かが変わっていくかもしれない。
 ブラジルでの蝶の羽ばたきがテキサスで竜巻を引き起こすかもしれないように、この音楽を聴くことが、この映画に接することが、私たちの人生に何かをもたらすかもしれない。
 引きこもり撲滅の応援歌になんかしなくても、この音楽で変わる人がどこかにいるかもしれない。


劇場版 神聖かまってちゃん ロックンロールは鳴り止まないっ Blu-ray劇場版 神聖かまってちゃん ロックンロールは鳴り止まないっ』  [か行]
監督・脚本・編集・プロデューサー/入江悠
出演/二階堂ふみ 森下くるみ 坂本達哉 宇治清高 三浦由衣 劔樹人 野間口徹 堀部圭亮 坂井真紀 神聖かまってちゃん
日本公開/2011年4月2日
ジャンル/[ドラマ] [青春] [音楽]
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【theme : 日本映画
【genre : 映画

tag : 入江悠 二階堂ふみ 森下くるみ 宇治清高 三浦由衣 劔樹人 野間口徹 堀部圭亮 坂井真紀 神聖かまってちゃん

⇒comment

あれ

何か凄く堂々と映画に対しての正しい解説が書かれているのに、誰一人コメントしてない。「かまってちゃん」がそれくらいのメジャー感という事なのだろうか。

二階堂ふみ、よかったなあ。

Re: あれ

ふじき78さん、こんにちは。
いやいや、当ブログがそれくらいマイナーということでしょう。

キャストはみなさん、良かったですね。
監督が上手く魅力を引き出しているんでしょうね。

No title

すごく見に行きたくなる解説でした。
ぼくには彼らの音楽がちっともわかりませんがw映画なら楽しめるかもしれません

Re: No title

lochtextさん、コメントありがとうございます。
私も正直なところ神聖かまってちゃんの音楽がとりたてて好きなわけではないのですが、この映画の中で聴くと不思議と素敵なのです。一見の価値アリかと思います。

そうそう

ありがとう

Re: タイトルなし

mさん、コメントありがとうございます。
面白い映画でしたね。もっと注目されるといいですね。
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11年/日本/90分/青春・音楽ドラマ/劇場公開(2011/04/02) −監督− 入江悠 −プロデューサー− 入江悠 −脚本− 入江悠 −編集− 入江悠 −主題歌− 神聖かまってちゃん −出演

劇場版 神聖かまってちゃん ロックンロールは鳴り止まないっ

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