『機動警察パトレイバー THE MOVIE』 20年前の幻想の国

 日本も変わったものだ。
 劇場版パトレイバー全作の一挙上映会に参加して、つくづく感じた。

 『機動警察パトレイバー THE MOVIE』及び『機動警察パトレイバー2 the Movie』は、時代と世代を色濃く反映させた作品である。
 公開時期は、前者が1989年、後者が1993年だ。つまり、前者はバブル景気の真っ最中に作られ、後者はバブル崩壊の影響がようやく深刻になりつつあるころに作られている。
 この作品は、バブル崩壊前の、失われた20年に苦しむ前の日本だから作れたものだ。

 物語の背景には東京の大規模開発がある。レイバー(と呼ばれる搭乗型マシン)を大量投入しての建設工事は、まさしく当時の現実のような景気の良さだが、もちろん私が云うのはそんなことではない。
 タイトルから判るとおり、本作は警察官が主人公である。劇場版らしく事件は派手で大規模で、警察や自衛隊、在日米軍まで巻き込んでいる。そして企業は強く、金儲けに邁進しており、犯罪者たちは理念を抱いて国家に挑む。
 平たくいえば、みんな元気なのである。

 『機動警察パトレイバー2 the Movie』の犯罪者は、警察や自衛隊を混乱させ、国のあり方を揺るがそうとする。見方を変えれば、国家というものが、理念を抱いた者によって挑戦されるほど巨大な存在であるということだ。映画の作り手はそう考えたからこそ、この対立軸を設定したのだろう。
 警察内の対立、あるいは警察と自衛隊との対立も、それぞれが強者であればこそ絵になるのだ。映画は、おそらく無自覚のうちに、前提条件として強く大きな国家を思い描いている。
 押井守監督をはじめとした作り手は、日本という国が強く大きいと思っていた。だからこそ、国が登場すれば戦い甲斐があり、映画としてもスケールが増すと思っていた。


 しかし、失われた20年を経た私たちには、国の違う姿が見える。
 政権は1年程度しか持ちこたえられず、警察は腐敗ぶりをさらしてきた。
 政府は情報管理もままならず、警察から自衛隊からも、重要な情報が漏れ続けている。
 米国の存在感も低下しつつあり、子供が親に反抗するように反米を唱える時代ではなくなった。子供が親に反抗するのは、親が強い庇護者だからである。強くもなく、庇護者でもなかったら、反抗する相手にはならないのだ。

 かつて、国家は強大で、若者は反体制を唱えた時代があった。
 監督の押井守氏は1951年生まれ、脚本の伊藤和典氏は1954年生まれだから、あさま山荘に立てこもった連合赤軍のメンバーと同世代である。1947年から1949年までのベビーブームに生まれた団塊の世代にはちょっと遅れているものの、当時、国家はまだまだ反抗するに足る相手であったろう。
 この映画は、「強く大きな国家」という幻想があった時代、幻想を抱いた世代の産物なのである。


 面白いことに、劇場版第3作『WXIII 機動警察パトレイバー』が封切られたのは2002年3月だ。制作開始よりおよそ9年弱の年月を経ての公開だそうである。
 つまり、1990年代末期から2001年までのITバブルの時代に作られたわけだ。
 1953年生まれの高山文彦監督は、背景画に米帝国主義に反対する立て看板を挿入したりして、押井守監督と同世代であることを強調しつつ、ここでもまた警察や自衛隊や米軍の暗躍を描く。
 やはり国家権力をネタにするには、景気が良くて国が元気でないといけないということか。


 とはいえ、いまだに強く大きな国家を求める人はいるようだ。
 社会・経済への国の介入を求める人たちが前提にしているのは、国には介入する力と満足な結果をもたらす能力があるという想いだ。
 しかし、2010年公開の『東のエデン 劇場版 II Paradise Lost』では、大学生の春日が過去のものを「唾棄すべき団塊の世代の遺物」と云い捨て、学生仲間の起業に加わる。
 「会社も国も守ってくれない。結局頼れるのは、家族と友達しかいないんだ」
 こう語る20~30代の男女にとって、大企業や国家にアプローチする本作は、あまりにも幻想的に見えることだろう。
 彼らは、水戸黄門がいつでも印籠を出せるわけではないことを知っているのだ。


 ただ、事実は小説より奇なりとはよく云ったものだ。
 本作では、日本の混乱に乗じて米軍が干渉してくることを懸念するセリフがしばしば語られる。
 しかし、こんな懸念は無用だった。
 2007年に『CIA秘録』が出版され(邦訳は2008年)、今では与野党の有力者がCIAから資金援助を得て活動していたことが知られている。日本の政財界の大物たちはCIAのエージェントだったのだ。いまさら米国の干渉を懸念するまでもない。
 ここにも、日本はまだ干渉されてないという幻想があったのだ。


機動警察パトレイバー 劇場版 [Blu-ray]機動警察パトレイバー THE MOVIE』  [き行]
監督/押井守  脚本/伊藤和典  原作/ヘッドギア
出演/古川登志夫 冨永みーな 大林隆介 榊原良子 井上瑶 池水通洋 二又一成 郷里大輔 千葉繁 阪脩
日本公開/1989年7月15日
ジャンル/[アクション] [サスペンス] [ロボット]

機動警察パトレイバー2 the Movie』  [き行]
監督/押井守  脚本/伊藤和典  原作/ヘッドギア
出演/古川登志夫 冨永みーな 大林隆介 榊原良子 池水通洋 二又一成 郷里大輔 千葉繁 阪脩 竹中直人 根津甚八
日本公開/1993年8月7日
ジャンル/[SF] [サスペンス] [戦争]

WXIII 機動警察パトレイバー』  [た行]
総監督/高山文彦  監督/遠藤卓司  脚本/とり・みき  原作/ヘッドギア
出演/綿引勝彦 平田広明 田中敦子 穂積隆信 古川登志夫 冨永みーな 大林隆介 池水通洋 二又一成 郷里大輔
日本公開/2002年3月30日
ジャンル/[SF] [犯罪] [ロボット]

ミニパト』全3話  [ま行]
監督/神山健治  脚本/押井守
出演/大林隆介 榊原良子 千葉繁
日本公開/『WXIII 機動警察パトレイバー』と同時上映
ジャンル/[コメディ]
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【genre : 映画

tag : 押井守 高山文彦 神山健治 古川登志夫 冨永みーな 大林隆介 榊原良子 千葉繁 竹中直人 根津甚八

⇒comment

No title

>当時、国家はまだまだ反抗するに足る相手であったろう。

あんなくだらない革命ごっこを未だに美化する人がいるんですね(失笑)

Re: No title

未記入さん、こんにちは。
このシリーズは劇場版第一作の公開が1989年、第二作の公開が1993年ですので、そこから四半世紀を経た2017年現在において「未だに」というのは、さすがに当てはまらないように思います。

また、「美化」というのも違うのではないでしょうか。
どの時代にもその時代なりの真実があり、その時代を生きた人でなければ実感しにくいものがあると思います。いくつもの国で次々に革命が成功し、カストロやチェ・ゲバラが英雄視された時代がありました。少し時代は離れますが、お隣の韓国では民主化運動が政権を倒しました。そんな中、当時の日本で革命は起こらないと考える理由があったでしょうか。
時代の当事者だから持ち得るリアリティというものがあるように思いますし、映画にはその片鱗が滲み出ることがあるのだろうとも思います。
「美化」とは、逆にリアルな過去を美しいフィクションで粉飾することですが、本作が美しい粉飾を描いているとは到底思えません。

時代は移り変わっており、それは映画の作り手も承知しています。
『機動警察パトレイバー2 the Movie』から22年を経て公開された『THE NEXT GENERATION パトレイバー 首都決戦 ディレクターズカット』は、そのことを如実に示して興味深いです。
Secret

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