『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』 恐ろしい可能性

 「他人の不幸は蜜の味」
 嫌な言葉だが、これはまぎれもない事実である。
 脳科学を研究する放射線医学総合研究所が、「他人の不幸は蜜の味」と感じる脳内のメカニズムを明らかにしている。他人に不幸が起こると、脳内の線条体と呼ばれる部位が活動し、心地よい感情が喚起されるというのだ。
 認めたくはないものの、私たちの脳には他人の不幸を喜ぶ性質があるのだ。

 『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』が描くのは、傍聴人が眺めた裁判の模様である。
 裁判において、傍聴人にできるのは法廷を眺めることだけだ。いや、「傍聴人は眺めるだけで良い」と云うべきかもしれない。
 法廷で説明される犯罪の内容や、被告の将来を左右する量刑は、傍聴人にとっては他人事だ。目の前で関係者が泣こうが喚こうが、それは傍聴人には関係なく、まさに「他人の不幸」でしかない。

 このような、不謹慎ともいえるシチュエーションをとおして、多くの人にはあまり縁のない裁判と、傍聴人を含めた人々の心理を紹介するのがこの映画である。
 とはいえ、蜜の味があまりにも甘美だと、不謹慎が度を過ぎてしまう。そうすれば観客の反発を招くのは必至だ。
 かといって、蜜の味がまったくないと、観客にとっても面白みがない。
 豊島圭介監督は、きわどい舵取りをしながら、映画全体をぬるい笑いに染め上げていく。


 本作で改めて気づかされるのは、裁判官も人の子という当たり前の事実である。検事も弁護士も人の子である。とうぜん人目が気になる。他人からは立派に思われたいし、できれば手を抜いて楽もしたい。

 ここで私たちが認識しておくべきなのは、今日の裁判が自由心証主義に基づいていることだろう。
 民事訴訟法では、このことを次のように定めている。
---
(自由心証主義)
第二百四十七条  裁判所は、判決をするに当たり、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果をしん酌して、自由な心証により、事実についての主張を真実と認めるべきか否かを判断する。
---

 自由心証主義は、自白偏重等に陥ることを避け、何ものからも自由な心証こそが適切な判断をくだすという点で、重要な考え方である。
 しかし、先に述べたように裁判官も人の子だ。頭脳にも体力にも精神にも限界がある。
 その恐ろしさは、裁判の当事者となった人が語るところである。

 黒木亮氏は、自身の裁判で、証人尋問の最中に裁判長が堂々と居眠りをしていたことに驚いたという。
 さらに、裁判官が控訴理由書を読まずに口頭弁論に出てきたこともあったそうだ。控訴の理由書を読まずに、どうやって控訴に臨むのだろう。
 黒木亮氏はこう綴る。
---
弁護士は「裁判官っていうのは髪の毛を引っつかんで、書面に顔をこすりつけでもしない限り、書類を読みませんから」と吐き捨てるように言っていた。
---

 本作にも、とぼけた裁判官らが登場する。
 もちろん彼らとて、勉学に励み、法曹として経験を積んできた人間である。それがなぜコメディ映画の題材になってしまうのか。
 黒木亮氏は、人手不足の問題を挙げる。

---
 こうした問題の原因は、ひとえに裁判官の数が不足していることにある。2004年の最高裁の資料では、人口10万人当たりの裁判官数は、日本が1.87人であるのに対して、米国10.85人、英国7.25人、ドイツ25.33人、フランス8.78人である(出典-1)。

 そのため、日本の裁判官は、1人当たり200~300件の事件を担当させられ、慢性的な過剰労働状態にある。1人で400件以上を担当している裁判官もいる(出典-2)。こうした過酷な状況の中で、裁判官たちは処理件数を競わされ、それによって出世に影響が出るのである。

出典:(1)『日本司法の逆説』(西川伸一著、五月書房、2005年5月)P.27、(2)同P.39
---

 一つひとつの裁判に、じっくり取り組み、吟味しているわけにはいかない。迅速に片をつけなければ、出世にも響く。
 そんな姿は、『BOX 袴田事件 命とは』でも見られたところである。


 そして、本作ではさらに恐ろしいことが示唆される。
 人の子である裁判官や検事たちが、他人の目をまったく気にしないのは不可能だ。意図するしないにかかわらず、傍聴人(裁判の観客)の有無やその反応が気になってしまう。そのため、観客(傍聴人)の存在が裁判の流れに影響しかねないのだ。
 もちろん、人目があれば、先に紹介した裁判官の居眠りなどを防げるかもしれない。そういう効果も期待できるが、ことはそれだけで済まないかもしれない。
 客席を意識しつつ裁判が進行するとしたら、なんと恐ろしいことだろうか。

 映画は、そんな可能性を示唆しながら、観客を放り出す。
 絶対安全な観客席で映画を見ている我々こそ、「他人の不幸は蜜の味」を楽しんでいることを見透かしたかのように。


裁判長!ここは懲役4年でどうすか [DVD]裁判長!ここは懲役4年でどうすか』  [さ行]
監督/豊島圭介  脚本/アサダアツシ
出演/設楽統 片瀬那奈 螢雪次朗 村上航 尾上寛之 鈴木砂羽 木村了 堀部圭亮 斎藤工 徳永えり 日村勇紀
日本公開/2010年11月6日
ジャンル/[ドラマ] [コメディ]

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tag : 豊島圭介 設楽統 片瀬那奈 螢雪次朗 村上航 尾上寛之 鈴木砂羽 堀部圭亮 斎藤工

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ナドレックさん、こんにちは!
こちらの作品を探そうとおもいまして、
新聞のシネマナビで検索しましたが、

出ません…。

あれれ?愛知県近辺ではどこもやっていないのでしょうか…。
寂しいです。

映画を観る観客の心理も似たものなのですね!?

あ、愛知女子もとっても嫌な人間なのかもしれないです…。

嫉妬深い性格の人々に縁があります(笑)
そういう方々の円満の為にいつもサウンドバック役になっております。(笑)散々叩かれた後はちゃんと干して頂いております。(笑)

是非ともトラックバック下さい!
と言いたいのですが、どこにしてもらおう…。

ナドレックさんが困ってしまわれますね。。

もし、ですから。

勿論、また今度でも結構でございます!ゆっくり機会を待ちますので。

それではどうもお邪魔しました。
ごきげんよう

Re: この記事気に入りました~♪

愛知女子さん、こんにちは。
嫉妬深い性格の人々に縁があるとは……それは誰しもそうかもしれませんe-454
残念ながら、本作は今のところ東海地方では上映していないようです。
微妙な面白さなので、いずれ機会があれば確かめてみてください。

よろしければ教えてください!

ナドレックさん
どうもいろいろとありがとうございました。
そして再び書き込みお許し下さいませ。
こちらの作品は、
東京ではどちらの劇場で上映されているのでしょうか!?
とても知りたいです。
差し支えなければ教えてくださいませ。

Re: よろしければ教えてください!

愛知女子さん、こんにちは。
上映館を知りたいとき、私は Yahoo!映画 等を利用しています。
たとえばこちら↓のサイトで、上映中の映画館を知ることができます。
http://info.movies.yahoo.co.jp/detail/tyst/id337458/

ちなみに私は、ヒューマントラストシネマ渋谷で鑑賞しました。
今のところ都内ではここだけのようです。

安全が一番

> 絶対安全な観客席で
> 映画を見ている我々こそ

とは言え、三日に一回ダンプカーが飛び込んでくるような映画館もきついしなあ。シネコンの新名物として「他人の不幸味ポップコーン」ってのはいいかもしれない。

どうもありがとうございます!

ナドレックさん
こんにちは!

愛知女子です。
三度失礼します<(_ _)>

Yahoo!で検索できました!これは便利です☆☆☆
今後いろいろと活用させて頂きます。
ナドレックさんいつもご親切に教えてくださいまして、ありがとうございます。

また、今回の素敵な記事を早速送って下さいましてありがとうございます。
とても嬉しいです♪

こちらの映画が話題になって愛知県にも上映に繋がれば…。
と奇跡を待っております!(笑)
多分実現しないでしょうが…。
ですから、のんびりDVD化を待つことに致します。

ではでは
今後ともよろしくお願い致します。

Re: 安全が一番

ふじき78さん、こんにちは。

>「他人の不幸味ポップコーン」

ハニーポップコーンと呼ぶより、はるかにお洒落ですね。

Re: どうもありがとうございます!

愛知女子さん、こんにちは。
近々に愛知県でも上映とのこと、おめでとうございます。
本作のぬるさを楽しんでくださいe-454

うちの

長女が愛知の大学に行ってるのですが、愛知女子さんは、なかなか前向きですねえ。

なにげなく、さらっと描かれましたが、怖いものを内包してましたね。
人を裁く裁判官も当然人の子であり、さまざまな要因に左右される可能性は大いにありますよね。
裁判の絶対はない・・ということから三審制があるのでしょうが、笑いの中に、うすら寒さを感じます。
一応、この年まで、裁判にはご縁がなく、これから先も縁がないのでは・・と思ってますが、いつなんどき、何が起こるか分からない!というあたりもあまねく描いた、丁寧な作品でした。

Re: うちの

sakuraiさん、こんにちは。
愛知女子さんの前向きさは見習いたいと思いますe-257
本作は一応コメディ映画ではありますが、描かれている内容は笑いごとではないですね。映画だから笑ってますけど。
おっしゃるとおり、いつ自分(あるいは身近な人)が当事者として法廷に立つことになるか判らないわけで、そんな点にも目配りできた作品ですね。

邦画コメディ・・・・

お笑い芸能人を多用することが多いが
まあ2~3人くらいまでの出演なら
許せるかな・・・・・・・・

内容は面白かった
一部本屋雑誌で裁判の実態なんかを
掲載することが増えたが
映像したらこうなるのかと・・・・

海外のコメディーでは
何でこんな作品にこんな大物が!!と驚くが
その手の手法とか見習ってほしい
(平田満くらいか?しかしあの人も脇役がメインだしな~
もっとも主役+”脇役”の重要性をわからない人も多いが)

また鈴木砂羽のオーバーな演技とか
あんなコメディーも見たくない

Re: 邦画コメディ・・・・

すわっと 優優さん、こんにちは。
主演の設楽統さんは、お笑い芸人さんなんですね。本作を観た時点ではまったく知りませんでした。

本作は、どんなにいい加減な裁判官が登場してもコメディの域を出ないように心がけていますが、自分が被告や原告だったら笑っていられないでしょうね。
いろいろと考えさせられる映画です。
Secret

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