『モンスターVSエイリアン』のオマージュとは?
【ネタバレ注意】
なかなかの痛快作。
作中に子供キャラが登場しないので「これで子供にウケるかな」と心配したが、そんなことはおかまいなしに様々な作品へのオマージュをこれでもかと突っ込んで笑わせてくれる。
以下に、ストーリーをおさらいしながら、怒涛のごときオマージュの一端を紹介。
主人公スーザンは、飛来した隕石にぶつかって巨大化してしまう(1958年『妖怪巨大女』)。
連れて行かれたエリア51で仲間になるモンスターは、ゴキブリ頭のコックローチ博士(1958年『蝿男の恐怖』)、半魚人のミッシング・リンク(1954年『大アマゾンの半魚人』)、液状生物のBOB(1958年『マックィーンの絶対の危機』のBLOB)、放射能で巨大化したムシザウルス(ムシなので1954年『放射能X』のようだが、東京に出現したところは一瞬1954年の『ゴジラ』かと思わせる)。
透明人間(1933年『透明人間』)もいたらしいが、姿は見せない(見えない)。
リメイクされてる作品が多いものの、昔のモンスター映画のオマージュにアメリカの子供たちは楽しめるのかと疑問を感じた。
しかしエイリアンの探査ロボットと接触するために大統領が登場する場面のBGMが The B-52's の Planet Claire であるあたりから、本作を子供向けに作っているわけではないと悟る。
大統領はキーボードを叩いて音楽によるコンタクトを試みる(1977年『未知との遭遇』)。さらに調子に乗ってアップテンポの曲(1984年『ビバリーヒルズ・コップ』のアクセル・F)を演奏し、ヴァルカン式挨拶(1966年『スター・トレック/宇宙大作戦』)をした挙句に、ロボットに指先で接触しようとする(1982年『E.T.』)。
探査ロボットが暴れだすと、大統領は自ら武器を取り戦う(1996年『インデペンデンス・デイ』)が、護衛のサングラスの男たち(1997年『メン・イン・ブラック』)に保護される。
ここで、アメリカ軍と探査ロボットとの戦いが描かれるわけだが、ミサイルに書かれた "ET, GO HOME" の文字には笑った。
作戦会議で核兵器の使用をためらわない大統領の狂いっぷりは、ストレンジラブ博士以上だ(1964年『博士の異常な愛情』)。
会議では「ジャック・バウアーに相談するか」などと話しているが、これはもちろんW.R.モンガー将軍をキーファー・サザーランドが演じているから。『24 -TWENTY FOUR-』のファンには愉快な展開だが、残念ながら私は日本語吹替版で観た。
会議の結果、スーザンたちモンスターズの出動となる。
この、エイリアンにモンスターたちが対抗するというコンセプトは、ゴジラシリーズの多くが当てはまるので元ネタを特定しにくいのだが、作中でモンスター襲撃の命令を発するセリフ「Destroy All Monsters!」は『怪獣総進撃』(1968年)の米国公開時のタイトルだそうだ。なるほど。
敵のギャラクサーはイカが成長した怪人で、バイラス人(1968年『ガメラ対宇宙怪獣バイラス』)に良く似ている。
そのクローン軍団(2002年『スター・ウォーズ エピソード2/クローンの攻撃』)との戦いがクライマックス。まったく同じ外見の敵が大挙して迫るのは、『マーズ・アタック!』(1996年)を思わせなくもない。
そして宇宙船の自爆装置のカウントダウンに駆り立てられ(1979年『エイリアン』)、最後は『ゴジラ』が原典だと思っていたら『モスラ』(1961年)だったことが判明して終わる。
とどめに、エンドクレジットで再び The B-52's の Planet Claire を流してくれる。
かように本作は、古今東西の映画へのオマージュが満載だ。ここに挙げた他にもたくさんのネタがあるだろう。
子供たちには判らないネタが多いだろうが、大人になって原典に触れる喜びが待っている。
興味深いことに、この作品はデートムービーには向かない。
なにしろ男は頼りにならず、男の愛情よりチームの友情の方が強調されるのだから。
敵も男だからとうぜん弱い。
すなわち、かつてのモンスター・怪獣映画が強い男性がかよわき女性を守る話だったのに対し、この作品はたくましい女性がチームワークで困難に打ち勝つ物語になっている。
同じドリームワークス製作の『シュレック』が結婚をゴールとしていたのに、本作は結婚なんかものともしない主人公を描いて対照的だ。これでバランスが取れたということか。
敵が弱すぎるので活劇としてはいささか物足りないが、作り手の意図はそこにはない。
本作は、お母さんが子供の付き合いで観るのではなく、自立した女性が楽しい時間を過ごすのに適しているのかも。
晩婚化が進んだ今日、そんな客層も多いだろう。
もちろんそんなこと考えずに普通にストーリーを楽しんでも、老若男女だれにとっても充分おもしろい作品である。
そしてまたこの作品に好感が持てるのは、過度に3Dを意識しすぎないところだ。
3D映像はビックリするほどの迫力だ。
しかし、奥行きを過剰に強調した演出に陥ることなく、しっかりした構図で作ることに徹している。
家庭でDVD等を楽しむときに、あまりにも3Dっぽい演出ではしらけてしまうという事情もあろう。
ところで、コックローチ博士は頭がゴキブリで体が人間なのだが、『蝿男の恐怖』にならうなら、頭が人間で体がゴキブリというのもどこかにいるのだろうか。
『モンスターVSエイリアン』 [ま行]
監督・原案/ロブ・レターマン、コンラッド・ヴァーノン
脚本/ロブ・レターマン、マイア・フォーブス、ウォーリー・ウォロダースキー、ジョナサン・エイベル、グレン・バーガー
出演/リース・ウィザースプーン キーファー・サザーランド
日本語吹替版の出演/ベッキー 日村勇紀
日本公開/2009年7月11日
ジャンル/[アドベンチャー] [SF] [コメディ]
なかなかの痛快作。
作中に子供キャラが登場しないので「これで子供にウケるかな」と心配したが、そんなことはおかまいなしに様々な作品へのオマージュをこれでもかと突っ込んで笑わせてくれる。
以下に、ストーリーをおさらいしながら、怒涛のごときオマージュの一端を紹介。
主人公スーザンは、飛来した隕石にぶつかって巨大化してしまう(1958年『妖怪巨大女』)。
連れて行かれたエリア51で仲間になるモンスターは、ゴキブリ頭のコックローチ博士(1958年『蝿男の恐怖』)、半魚人のミッシング・リンク(1954年『大アマゾンの半魚人』)、液状生物のBOB(1958年『マックィーンの絶対の危機』のBLOB)、放射能で巨大化したムシザウルス(ムシなので1954年『放射能X』のようだが、東京に出現したところは一瞬1954年の『ゴジラ』かと思わせる)。
透明人間(1933年『透明人間』)もいたらしいが、姿は見せない(見えない)。
リメイクされてる作品が多いものの、昔のモンスター映画のオマージュにアメリカの子供たちは楽しめるのかと疑問を感じた。
しかしエイリアンの探査ロボットと接触するために大統領が登場する場面のBGMが The B-52's の Planet Claire であるあたりから、本作を子供向けに作っているわけではないと悟る。
大統領はキーボードを叩いて音楽によるコンタクトを試みる(1977年『未知との遭遇』)。さらに調子に乗ってアップテンポの曲(1984年『ビバリーヒルズ・コップ』のアクセル・F)を演奏し、ヴァルカン式挨拶(1966年『スター・トレック/宇宙大作戦』)をした挙句に、ロボットに指先で接触しようとする(1982年『E.T.』)。
探査ロボットが暴れだすと、大統領は自ら武器を取り戦う(1996年『インデペンデンス・デイ』)が、護衛のサングラスの男たち(1997年『メン・イン・ブラック』)に保護される。
ここで、アメリカ軍と探査ロボットとの戦いが描かれるわけだが、ミサイルに書かれた "ET, GO HOME" の文字には笑った。
作戦会議で核兵器の使用をためらわない大統領の狂いっぷりは、ストレンジラブ博士以上だ(1964年『博士の異常な愛情』)。
会議では「ジャック・バウアーに相談するか」などと話しているが、これはもちろんW.R.モンガー将軍をキーファー・サザーランドが演じているから。『24 -TWENTY FOUR-』のファンには愉快な展開だが、残念ながら私は日本語吹替版で観た。
会議の結果、スーザンたちモンスターズの出動となる。
この、エイリアンにモンスターたちが対抗するというコンセプトは、ゴジラシリーズの多くが当てはまるので元ネタを特定しにくいのだが、作中でモンスター襲撃の命令を発するセリフ「Destroy All Monsters!」は『怪獣総進撃』(1968年)の米国公開時のタイトルだそうだ。なるほど。
敵のギャラクサーはイカが成長した怪人で、バイラス人(1968年『ガメラ対宇宙怪獣バイラス』)に良く似ている。
そのクローン軍団(2002年『スター・ウォーズ エピソード2/クローンの攻撃』)との戦いがクライマックス。まったく同じ外見の敵が大挙して迫るのは、『マーズ・アタック!』(1996年)を思わせなくもない。
そして宇宙船の自爆装置のカウントダウンに駆り立てられ(1979年『エイリアン』)、最後は『ゴジラ』が原典だと思っていたら『モスラ』(1961年)だったことが判明して終わる。
とどめに、エンドクレジットで再び The B-52's の Planet Claire を流してくれる。
かように本作は、古今東西の映画へのオマージュが満載だ。ここに挙げた他にもたくさんのネタがあるだろう。
子供たちには判らないネタが多いだろうが、大人になって原典に触れる喜びが待っている。
興味深いことに、この作品はデートムービーには向かない。
なにしろ男は頼りにならず、男の愛情よりチームの友情の方が強調されるのだから。
敵も男だからとうぜん弱い。
すなわち、かつてのモンスター・怪獣映画が強い男性がかよわき女性を守る話だったのに対し、この作品はたくましい女性がチームワークで困難に打ち勝つ物語になっている。
同じドリームワークス製作の『シュレック』が結婚をゴールとしていたのに、本作は結婚なんかものともしない主人公を描いて対照的だ。これでバランスが取れたということか。
敵が弱すぎるので活劇としてはいささか物足りないが、作り手の意図はそこにはない。
本作は、お母さんが子供の付き合いで観るのではなく、自立した女性が楽しい時間を過ごすのに適しているのかも。
晩婚化が進んだ今日、そんな客層も多いだろう。
もちろんそんなこと考えずに普通にストーリーを楽しんでも、老若男女だれにとっても充分おもしろい作品である。
そしてまたこの作品に好感が持てるのは、過度に3Dを意識しすぎないところだ。
3D映像はビックリするほどの迫力だ。
しかし、奥行きを過剰に強調した演出に陥ることなく、しっかりした構図で作ることに徹している。
家庭でDVD等を楽しむときに、あまりにも3Dっぽい演出ではしらけてしまうという事情もあろう。
ところで、コックローチ博士は頭がゴキブリで体が人間なのだが、『蝿男の恐怖』にならうなら、頭が人間で体がゴキブリというのもどこかにいるのだろうか。
![モンスターVSエイリアン ボブのびっくりバースデーエディション [Blu-ray]](http://ecx.images-amazon.com/images/I/61ec3OsxpsL._SL160_.jpg)
監督・原案/ロブ・レターマン、コンラッド・ヴァーノン
脚本/ロブ・レターマン、マイア・フォーブス、ウォーリー・ウォロダースキー、ジョナサン・エイベル、グレン・バーガー
出演/リース・ウィザースプーン キーファー・サザーランド
日本語吹替版の出演/ベッキー 日村勇紀
日本公開/2009年7月11日
ジャンル/[アドベンチャー] [SF] [コメディ]

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