『おにいちゃんのハナビ』 もっとも違うのは何か?

おにいちゃんのハナビ [Blu-ray] 奇しくも、同時期によく似た映画が公開された。
 だが、本当に似ているだろうか。

 その映画とは、『君が踊る、夏』と『おにいちゃんのハナビ』だ。
 類似点はたくさんある。
 ・実話に基づく物語
 ・舞台は地方都市
 ・難病の少女
 ・仲間とうまくいかない「おにいちゃん」
 ・祭りに向けて頑張る
 ・父とは距離がある
 ・母親役は宮崎美子さん(やはり同時期に公開中の『悪人』も)

 劇場を押さえられなかったのか、公開時期が映画で取り上げた祭りが終わってからになったのも、同様である。
 昨今の日本映画を見ていると、題材がバンド難病ばかりだが、とりわけこの二作はよく似ている。

 しかし、『君が踊る、夏』と『おにいちゃんのハナビ』が似ているのは、表面的なことだけだ。
 この二作には決定的に違うところがあり、そのためにずいぶんと味わいが異なる。


 それは主人公たる「おにいちゃん」の立脚点だ。
 『君が踊る、夏』の主人公・新平は、舞台となる高知市の出身だ。今でこそ東京で生活しているが、郷里の高知には一緒によさこい踊りを踊る友人・知人がたくさんおり、そこが彼の帰る場所だ。

 一方、『おにいちゃんのハナビ』の主人公・太郎は、中学生のときに家族と一緒に東京から新潟県の片貝町(かたかいまち)に引っ越してきた。片貝町に暮らして何年も経つが、友人は一人もいない。
 片貝町の他に帰るところなんてない太郎は、自室に引きこもったまま家族とも顔を合わせなくなってしまう。
 誰からも相手にされず、孤独な中学時代を過ごした太郎は、『カラフル』の主人公にも重なる。


 片貝町には、人生の節目々々に昔からの仲間が集まり、みんなで花火を打ち上げる伝統がある。成人になっても、中学時代、いやもっと前からの思い出を共有する仲間たちが集まるのは、たしかに素晴らしい。
 しかし、その結束が強ければ強いほど、その思い出が大切であればあるほど、途中からやってきた太郎は入り込む余地がない。

 『君が踊る、夏』では、新平がカメラマンとしての夢を選ぶか踊りを選ぶかで逡巡するシークエンスがあるが、どちらを選んでも彼にはよさこい踊りの仲間や、スタジオの良き先輩たちがいる。新平が、どんなに苦労しようとも、挫折を味わおうとも、仲間がいることの喜びを噛みしめるのに対して、『おにいちゃんのハナビ』の太郎は、どこにも居場所がない苦しみを抱え続けるしかない。


 社会学では、個人と国家のあいだにある集団を中間集団と呼ぶ。
 それは会社組織や学校のクラスであったり、町内会のような地域的な集まりだったり、家族や親戚だったりする。よさこい踊りのチームや、花火を打ち上げる片貝町の同級会も、中間集団といえるだろう。
 人はこれらの集団に帰属することで、居場所を確保し、安心する。

 しかし今や、会社は一生を捧げて帰属する集団ではなくなり、繰り返される組織再編と人の出入りにより隣の人が何をしているかも判らなくなっている。
 父祖代々の土地に住み続けるわけにもいかず、地縁も断ち切られている。
 家族でさえ、一緒に食卓を囲むことすらできなくなっている。
 人々は既存の中間集団に帰属することができず、それでいて人とのつながりを欲し、孤独に吹きさらされているのだ。

 その点で、『おにいちゃんのハナビ』は極めて今日的である。
 他人に対して積極的に話しかけることができず、花火作りの仲間入りもできないまま、自室にこもる太郎こそ、現代の、そしてこれからの私たちの姿を端的に表している。


 このことは、ややもすると太郎個人の性格の問題にされかねない。

 しかし映画は、太郎だけでなく、彼の父親もまた同様であることを示唆する。
 個人タクシーの運転手である父親に、帰属する組織などあろうはずがない。彼は、娘の治療代を稼がなくてはならず、子供たちを連れて地域の集まりに参加してやることもできない。朝から晩まで働きづめで、家族と一緒に食卓を囲むこともない。
 自室に引きこもる太郎と、タクシーの運転席に座り続ける父とは、相似した存在なのだ。


 『おにいちゃんのハナビ』では、ここにスーパーマンが登場する。
 誰彼なしに話しかける妹である。それは『カラフル』の早乙女君に相当する。
 妹の存在がすべての転機となるので、彼女をどう描くかが本作のカナメなのだが、その重要な役どころを谷村美月さんが見事に演じている。彼女の笑顔が、スーパーマンに存在感を与えている。
 妹を中心に、兄と父が変わっていく姿が本作の見どころだ。

 彼らは、地域に残る中間集団、すなわち花火仲間の同級会への参画を図るのだが、最後の詰めは兄でも妹でもなく父によってなされる。それが、本作を単なる変わり者のおにいちゃんの成長物語にとどめず、重層的にしている。


 幸いにも、この町にはまだ中間集団が息づいており、よそ者を受け入れる懐の深さもあった。
 しかし、いつでもどこでもそうとは限らない。
 私たちは花火を見上げるとき、誰かと一緒にいられるだろうか。


おにいちゃんのハナビ [Blu-ray]おにいちゃんのハナビ』  [あ行]
監督/国本雅広  脚本/西田征史
出演/高良健吾 谷村美月 宮崎美子 大杉漣 早織 尾上寛之 岡本玲 佐藤隆太 佐々木蔵之介 塩見三省
日本公開/2010年9月25日
ジャンル/[ドラマ]
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ジェット・リーの映画「海洋天堂」

ナドレックさん、はじめまして。今回の映画と直接関係のないコメントで申し訳ありません。


ジェット・リーがアクションを封印して自閉症の息子との情愛を演じる映画「海洋天堂」(原題)が今年中国・香港・台湾などで公開されたのをご存じでしょうか。

ジェット・リーは脚本に感動し、ほぼノーギャラでこの映画への出演を決めたそうです。

この映画の音楽担当は、久石譲さんです。医学監修には日本人も関わっているそうです。


しかし、この映画は娯楽作ではないので興行的に不安があるのか、日本での公開はまだ決まっていません。

そこで、この映画の日本公開を目指して『ジェット・リーの「海洋天堂」を日本で観たい!』という活動を以下URLのサイトで行っていて、ネットで賛同メッセージを募っているそうです。
http://oceanheaven.amaterasuan.com/
誠に勝手なお願いなのですが、もしよろしければこの活動に少しでもご協力いただければ幸いです。

(注…私はこの日本公開活動の運営者ではありません)


映画「海洋天堂」のストーリーです

水族館に勤める王心誠(ジェット・リー)は、妻を亡くして以来、自閉症の息子の大福を男手ひとつで育ててきました。
大福は海で泳いだり、水中の生物と触れ合うのが好きでした。
大福が22歳になり、心誠は将来の息子の自立について考えていました。
そんな中、心誠が末期がんに侵されていることがわかり…


香港版予告編動画(英語字幕付き)
http://www.youtube.com/watch?v=F6MGxP2_oi8

Re: ジェット・リーの映画「海洋天堂」

まっぴさん、こんにちは。
ご紹介いただいたサイトを訪問し、応援メッセージを書いてきました。
考えてみたら、ジェット・リーがアクションしていない映画を観たおぼえがありません…。

ナドレックさん今晩は。
私達もついに遠出して観てきました!
いい映画でした。もっと多くの人に観て欲しい映画ですね!
愛知に唯一やっているせいか劇場はかなりの人々色々な世代が埋まりましたよ!
きょうだい愛。いいですね。
お父さん役は最近ゲゲゲの女房にお父さん役で出ていた大杉漣。お母さん役は君が踊る、夏に母親役で出ていた宮崎美子。確かに類似点多過ぎです!
食卓場面も印象的でした。
おにいちゃんのハナビは笑いや涙、盛り沢山のドラマで色々な世代の立場から深く考える事が出来て大変良かったです。
花火大会に行った事がないのですが、近年縮小減少傾向とか…。
自腹で奉納する花火へ込めた想い。それをしみじみ見上げる事出来る様はは感無量でしょうね!
まして自分で仕込むのであれば、素晴らしい伝統文化ですね!


Re: タイトルなし

愛知女子さん、コメントありがとうございます。
この映画、公開規模がささやかなのがもったいないですね。たくさんの人の目に触れるといいのですが。
花火大会は近年減少傾向なんですか。
打ち上げの前に自分の想いをアナウンスしてもらうなんて素晴らしいと思いますが、続けていくためには多くの人の努力が必要なんでしょうね。

No title

いつも素敵なレビューを有難うございます。
私も、やっと観ることができました。
おばあちゃんとのやり取りが大好きです。
おばあちゃんのうちから季節が感じられ、ラストは~(ToT)
トラバを送らせて下さい。m(_"_)m

Re: No title

ほし★ママさん、こんにちは。
この作品は上映館が少ないですが、もっと知られていいですよね。
私も、おばあちゃんが良かったと思います。
途中までは、もっとストーリーに絡むのかと思ったのですが、これくらいがさりげなくていいんでしょうね。

スーパーマン

やはりスーパーマンは、非日常ですから、消え去る運命だったのでしょうかね。
妹の存在は超人的でしたわ。

とっても今日的でありながら、見せる絵は昭和の匂いとでもいいましょうか、見てる方が恥ずかしくなるような部分もあったのが、どこかほっとさせてもらいました。

「君が踊る、夏」は、どうしても見る気が起きず・・・。WOWOWに来たら見ることにしますわ。

しっかし、宮崎美子は、見事に日本のお母ちゃんになってしまいましたね。
京塚まさ子か!

Re: スーパーマン

sakuraiさん、こんにちは。

京塚昌子!
ですねe-257
どの映画を見ても、故郷のお母ちゃんは宮崎美子さんですね。
篠山紀信の写真を見て、なんちゅう美少女かと驚いたのも今は昔…。

No title

遅コメ失礼します。

いやあ、泣いた。泣かされた。
おにいちゃんとお父さんの相似は気が付かなかったですねえ。そういう意味では家族を再興しようとする母と妹の女性陣と家族の再興を阻もうとする父と兄の男性陣のせめぎあいの映画だったのかもしれません。

Re: No title

ふじき78さん、コメントありがとうございます。
この映画、バケツに3杯泣かせますね!(byペッピーノ)
この映画を観ると、家族が食卓を囲み続けるには、不断の努力が欠かせないと痛感します。
Secret

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おにいちゃんのハナビ

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映画『おにいちゃんのハナビ」劇場鑑賞。

新潟先行公開でご覧になったすみちんさんの満点レビューに始まり ネッ友さんの好評価が続く本作 大好きな高良くん主演だし、ず

『おにいちゃんのハナビ』

  □作品オフィシャルサイト 「おにいちゃんのハナビ」□監督 国本雅広 □脚本 西田征史□キャスト 高良健吾、谷村美月、宮崎美子、大杉漣、早織、尾上寛之、岡本玲、佐藤隆太■鑑賞日 10月9日(土)■劇場 109CINEMAS川崎■cyazの満足度 ★★

おにいちゃんのハナビ/高良健吾、谷村美月

余命わずかな妹とその兄の絆を実話に基づいて描いたヒューマン・ストーリー。似たような作品構図の『君が踊る、夏』よりも実力ある出演者が揃っていたこともあってこちらのほうは期待してました。私は廣木隆一監督の『M』を観てからの高良くん贔屓で、その後、数々の作品

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