『東京裁判』 恥ずかしい私

 東京裁判が、昭和天皇の誕生日である4月29日の起訴に始まり、その判決にしたがって平成天皇(当時皇太子)の誕生日である12月23日に絞首刑が執行されたとは知らなかった。

 もちろんこれが偶然であろうはずがない。
 昭和天皇の誕生日(現昭和の日)になると11ヶ国の検察官から起訴されたことを思い出し、皇太子(当時)の誕生日(現天皇誕生日)には被告人28名のうちの7名が絞首刑に処されたことを思い起こすように、とのGHQの思惑であろう。

 恥ずかしながら、私は映画『東京裁判』を観るまで、このような符合をまったく知らなかった。
 『東京裁判』が「日本人なら観なければ」と云われるのももっともである。


 本作については、すでに多くの人が多くのことを語っている。
 それでもあえて強調したいのは、この映画が実に面白いということだ。
 たぶん本作を観た人なら、戦争や日本や各国について思うところを語るだろう。それは大事なことである。
 しかし私はまず第一に、本作がとても面白くて、長大な上映時間でありながらまったく飽きさせないことに感心する。

 本作は、広範な記録映像を編集した作品である。
 中心になるのは、米国防総省が保管していた東京裁判に関する記録だが、そこに日米欧中のニュースフィルムや写真等を織り交ぜることで、様々な視点を提供する。
 ここでは、大きく3つのストーリーが並行して語られる。

 ・東京裁判とは何なのか、そして2年半にわたる裁判がどのように推移したのかを描く。
 ・東京裁判が対象とする1931年(昭和6年)の満州事変からの日本の歩みをたどり、戦争に彩られた世界史をあぶり出す。
 ・東京裁判が行われていた1946年から1948年における世相と、戦争後の日本人の姿を描く。

 膨大な記録映像を、ただ繋ぎ合せても退屈なだけだろうが、そこはさすがに小林正樹監督である。
 多くの素晴らしい劇映画を作ってきた監督は、277分という4時間半を超える上映時間にもかかわらず、観客の目を捉えて離さない。

 この映画の題材の重さや、その映像が現実であることを考えるとき、「面白い」という表現は不謹慎に聞こえるかもしれない。
 しかし私はここがポイントだと思う。
 いくら大事なことが映っていても、面白くない記録を何時間も見続けるのは、何らかの必要に迫られた研究者でもない限り難しいことだ。
 小林正樹という一流の監督が編集し、様々なシークエンスを挿入し、カットバックを多用して、みずから書いたナレーションを佐藤慶さんに語らせることによって、私のように歴史を学校教育以上には知らない人間でも、すんなりと理解できる映画になった。
 驚くべきことに、小林監督が構図を決めて撮影したシーンはないはずなのに、出来上がった映画は確かに小林正樹監督の作品である。過去の劇映画と比べても、まったく遜色のない面白さだ。
 277分は、長いどころか、昭和の歴史を収めるには短すぎるほどだ。それほど充実した時間である。


 映画『東京裁判』に興味は尽きない。

 そもそも東京裁判を行うことに根拠はあるのかという疑問は、多くの人が呈してきたが、まさに東京裁判の開始に当たって弁護団が論じたのもその点であった。
 かと思えば、GHQに要請されて日本人の戦犯を受け持つことになった米国人弁護士たちが、いかに熱心に、鋭く弁護したか。
 そして、裁判を通じて日本の統治を完成させようとするGHQと、その意図を知らず、みずからの思いを主張する被告人たち。

 それらの様子が、その表情、口調、立ち居振る舞いを通して伝わってくる。
 文章を読んだだけでは、なかなか実感し得ないことである。


 もちろん、小林正樹監督の「作品」である以上、これはあくまで小林監督が捉えた東京裁判である。
 どの映像を採用するか、どの順番で見せるか、ナレーションに何を語らせるか、どの場面を音楽で盛り上げるか、音声を付けるか消すか、すべては小林監督の考えに基づいている。

 それを承知してもなお、スクリーンに映し出される映像に、私たちは衝撃を禁じえない。


東京裁判』  [た行]
監督・脚本/小林正樹  脚本/小笠原清  原案/稲垣俊
ナレーター/佐藤慶
日本公開/1983年6月4日
ジャンル/[ドキュメンタリー] [戦争]

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tag : 小林正樹 佐藤慶

⇒comment

この映画を

見たのは、学生の時でしたから、公開のときかあ。30年近くも前になりましたが、いまだにインパクトの大きい映画です。
まだまだ汚い映画館で、椅子がやたらぎしぎしでしたが、観客のほとんどが爺さんばっかり。
同じ日本史専攻のゼミの友人と行きましたが、明らかにわれわれが一番若かったです。
そう、面白い!と言っては不謹慎なのですが、あのとんでもない長尺のドキュメンタリーを面白く見せた手腕!というのは、とんでもないですよね。
小林正樹という人のバランスの良さと、彼が思うエンタメの見事さは、比類ないものだと思います。

ただ、この映画の時、そこら中の爺さんが、トイレに立つ、立つ、立つ、立つ。。。。。
あっちの爺さんが立ったと思うと、今度はこっちの爺さんばったん、ぎったん、シーソー状態で。。。
もう頼むから、黙って座ってて!!というが一番の思い出です・・・。

Re: この映画を

sakuraiさん、こんにちは。
この映画は小林正樹監督ならでは、ですね。この題材でこの長さで面白い映画にするなんて、余人の及ぶところではないと思います。
公開当時、武満徹ファンの友人が音楽目当てでこの映画を観に行って大騒ぎしていましたが、私は裁判のドキュメンタリーが面白いわけがないと思って無視していました。それはたいへんな心得違いであったと痛感しています。

爺さんのトイレは……歳を取ると仕方ないですね。4時間半だからなぁ。
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