『一番美しく』の3つの見方

 かつて、フジテレビで放映した番組に『欽ドン!良い子悪い子普通の子』があった。
 黒澤明監督が戦時中に撮った『一番美しく』を、良い子悪い子普通の子が見てみると…。


・良い子の見た『一番美しく』。

 まず最初に「情報局選定国民映画」のテロップが現れ、本作が日本国民必見の映画と位置付けられていることが判る。
 開巻早々、工場内の放送で、女子挺身隊員をはじめとした工員たちに対し、増産に向けて精神力を発揮するよう鼓舞するシーンがある。これで観客である国民も勇気づけられる。
 そして描かれるのは、自己犠牲を厭わずに、国のために尽くす乙女たちの姿だ。
 彼女たちは、みずから申し出てきついノルマを増やしてもらう。
 たとえ体を壊そうとも、みんなと一緒に戦車や戦闘機の部品を作れない辛さに比べればなんでもない。助け合い、支え合って、優れた部品を一つでも多く作ることが、彼女たちの喜びなのだ。
 隊員の親たちも、国に尽くしたい気持ちは一緒である。たとえ母が病気でも、公務を放り出させるわけにはいかないから、娘には知らせない。
 寮母も上司たちも、彼女たちの働きに期待しているのだ。


・普通の子の見た『一番美しく』。

 この映画は、戦時下でも元気に振る舞う女性たちの姿と、それでも滲み出る辛さ、悲しさを描いた作品だ。
 ノルマの辛さに負けないように、気晴らしのバレーボールに興じて元気を出そうとしながらも、やがてバレーボールをすることすら苦痛になってしまう乙女たち。
 みんな仲良しのはずなのに、つまらないことからいさかいになってしまい、それをまた後悔してさめざめと泣く乙女たち。
 母が病気と聞けば、本当は駆けつけたくてたまらないのに、彼女たちは公務の重さに身動きとれない。
 気丈に公務に専念しようとしても、後から後から涙が湧いてきて止まらない。
 隊員たちが健気だからこそ、親にも会えずに働かざるを得ない「戦時下」という状況が浮かび上がる。

 寮母も上司も、彼女たちを心配する気持ちは親同然だ。無理をしすぎているんじゃないかと、胸を痛めている。


・悪い子の見た『一番美しく』。

 これこそ黒澤明ただ一つのホラー!
 女子寮に伝わるタヌキ伝説の恐怖。
 タヌキなんてくだらないと笑っていた乙女たちだが、ある者は謎の熱病にかかり、またある者は屋根から落ちて負傷してしまい、一人また一人と職場から脱落していく。
 次の犠牲者は誰だ!?
 クライマックスは、みんなの念を集めて戦うサイキックウォーズに突入だ。
 乙女たちの祈りのパワーは、やがて絶対不可能と思われた奇跡を引き起こす。

 黒澤明は後年、『』に鬼を登場させたり、『八月の狂詩曲(ラプソディー)』では空飛ぶ大目玉を登場させたりと、超自然的な描写もいとわない監督である。
 監督2作目にして、早くもこんな奇怪な物語を作っていたのは注目に値する。

               

 さて、本作は戦時中の映画なので、情報局による検閲があった。
 その上で「情報局選定国民映画」とされたのだから、検閲官はおそらく良い子の見方をしたに違いない。

 一方、『黒澤明、自作を語る』によれば、木下恵介監督は、黒澤明の作品の中で本作が一番好きだという。
 あまり湿っぽくならず、にもかかわらず女性たちの心情をくっきりと浮かび上がらせた本作は、なるほど女性を主人公にした作品で定評のある木下監督の好みだろう。

 観る人によって、本作の受け止め方はずいぶん変わる。
 黒澤明したたかなり。


一番美しく』  [あ行]
監督・脚本/黒澤明
出演/志村喬 清川荘司 菅井一郎 入江たか子 矢口陽子
日本公開/1944年4月13日
ジャンル/[ドラマ] [戦争]

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