『闇の列車、光の旅』 これは銀河鉄道ではない

 闇の中から浮かび上がる巨大な影。
 いかめしい貨物列車。
 一縷の望みを託した人々が、群がり、しがみつく。

 なるほど、この逃亡劇に『闇の列車、光の旅』というタイトルをつけた配給会社の気持ちも判る、印象的なシーンである。
 闇の中の列車は、あたかも星空を駆ける銀河鉄道のように、現実離れして見える。
 しかし、本作はそんなロマンチックなものではない。
 原題は『Sin nombre』。「名無しさん」とでも訳せば良いか。

 陳腐な表現で恐縮だが、『闇の列車、光の旅』は暴力と純愛を描いた作品である。
 名もなき不法移民たちと、抗争に明け暮れるギャングたち。
 暴力が激しければ激しいほど、渦中の純愛が際立つ。
 思えば、『仁義なき戦い 広島死闘篇』も、ヤクザが撃ち合う銃声と、ナレーションの冷たい響きがあったからこそ、男女の愛が輝いた。

 もっとも、『闇の列車、光の旅』の主人公である少年カスペルと少女サイラは、純愛というほどの関係ではない。

 そこまで関係を深めることすらできないまま、2人は追い詰められていく。
 その逃避行は、ギャング同士の戦いを描いた『ウォリアーズ』等を思い起こさせる緊迫感である。
 もちろん、ケイリー・ジョージ・フクナガ監督はアクション映画を撮っているわけではないのだが、2人があまりにも無力なので、追手が迫るたびに観客も緊張するのだ。
 不法移民を取り上げた社会派ドラマとして、淡々とした描き方もできたはずだが、実際そういう描き方でもあるのだが、逃避行というサスペンスが物語をぐいぐい引っ張る力強さは、ただならぬものがある。


 公式サイトによれば、ケイリー・ジョージ・フクナガ監督は、不法移民の実態を知るために、たった1人で移民とともに旅したそうだ。
 本来、1人で行くつもりではなかったのだが、他のメンバーが付いてこなかったらしい。
 それはそうだ、この過酷で命がけの旅を、みずから好んでやる人間はいないだろう。
 しかし現実には多くの不法移民が、このような旅をしている。

 その多くの人々について、我々は名前も知らない。


闇の列車、光の旅 [DVD]闇の列車、光の旅』  [や行]
監督・脚本/ケイリー・ジョージ・フクナガ
出演/エドガル・フローレス パウリナ・ガイタン クリスティアン・フェレール テノッチ・ウエルタ・メヒア ディアナ・ガルシア
日本公開/2010年6月19日
ジャンル/[ドラマ] [サスペンス] [ロマンス]
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【genre : 映画

tag : ケイリー・ジョージ・フクナガエドガル・フローレスパウリナ・ガイタンディアナ・ガルシア

⇒comment

『ウォリアーズ』

こんばんは。

ぼくも『ウォリアーズ』を思い出しました。
ウェブ上ではあれど、
こういう共通の記憶を共有する方にめぐり会えたときは、
とても嬉しいです。
これからもよろしくお願いいたします。

Re: 『ウォリアーズ』

えいさん、コメントありがとうございます!
『ウォリアーズ』、好きなんですよe-257
『闇の列車、光の旅』はしっかりした社会派ドラマですが、フクナガ監督はアクションやサスペンスを撮るのもうまそうですね。
今後の活躍に期待大です。

No title

こんにちは。
TBありがとうございました。

監督が実際に移民たちと旅をしたという話を聞くと、よりリアリティを感じますね。
しかしながら、悲しい現実です。

Re: No title

halさん、コメントありがとうございます。
日本は移民に対して厳しい姿勢ですし、列車の屋根に座る…なんて素朴な方法では入れないので、日本に移民を希望する人はもっと巧妙な手段で法の網をかいくぐっているでしょう。
だから本作のような悲しさよりも、悪質さを感じてしまいがちですが、わざわざ異国に向かう人の背後には複雑な事情があるという点では同じかも知れない、と思いました。

シティ・オブ・ゴッド

はじめまして。
いつもナドレックさんの記事を拝見して、そうか!そういう見方が
あるかぁ!といつも感心しています。
この映画、私は「シティ・オブ・ゴッド」を思い出しました。
逃避行でも移民の話でもないのですが、少年が憧れるギャング団の存在に、
似たものを感じたのです。
大昔の日本の話らしいのですが、ヤクザの親分が ヤクザは社会の行き場の
無い者の受け入れ先として存在意義がある・・・とかなんとか言ったと聞いた
ことがあります。(真偽の程は分かりませんが)
あの弟分の黒人の少年がとても悲しく、印象に残りました。

Re: シティ・オブ・ゴッド

 mi~yaさん、はじめまして。
 拙ブログをごらんいただき、ありがとうございます。
 私は残念ながら『シティ・オブ・ゴッド』を観ていないのですが、面白そうですね。
 ぜひ機会を見つけて観てみたいと思います。

 ところで『闇の列車、光の旅』については、もっと書きたいことがありました。

 ここに登場するギャングたちは、固い絆で結ばれ、裏切りは許さないですね。他の団体とは敵対的です。
 日本の共同体……ムラやカイシャも、内輪の結束は固く、よそ者には冷たいという特徴があります。加入したり、脱退したり、再加入したりは、なかなか自由にはできません。

 ところが、他国の共同体は、それほど厳しくないらしいのですね。わりと出入りに寛容です。ある共同体をやめて、他の共同体に移ることができる。米国にしろ中国にしろ、転職なんて誰でも数回は経験しますよね。
 厳しいのは、マフィアとかギャングといった裏社会の共同体です。

 他国では裏社会を支配する掟が、日本では表も裏も支配している。
 …ということを書きたかったのですが、裏づけとなるデータを見つけられませんでした。
 今のところ、私の妄想でしかありません。
 『シティ・オブ・ゴッド』を観るころには、もっと見識を深めておきたいと思います。

No title

「シティ・オブ・ゴッド」は一見の価値ありまっせ。
ぜひ。
続編みたいなものもありましたが、そっちはあまりお勧めしない。
その辺にぽんと落ちてる銃を拾って、ニカッと笑う子供の顔が忘れられません。
命を懸けて行ったアメリカに何があるんでしょうねえ。
そんな暗澹たる未来も鑑みながら、やるせない気持ちになりました。
この邦題は明らかに「天国の口、終わりの楽園。」を意識してつけたんだろうなあと思った次第です。

Re: No title

sakuraiさん、こんちには。
『シティ・オブ・ゴッド』、ぜひ観たいと思います。

>命を懸けて行ったアメリカに何があるんでしょうねえ。

そうなんですよね。もちろん無事に辿り着いて欲しいものの、でも着いたからといって何があるというのか。この映画が笑顔で終われないのもそこですね。

ウォリアーズ

「ウォリアーズ」観たいなあ。

主人公の男女がキムタクと黒木メイサだったら、メイサはアメリカでキムタクの××を××に××ない。

Re: ウォリアーズ

ふじき78さん、こんにちは。
あー、それはネタバレでしょう。まずいでしょう。
『ウォリアーズ』観たいですねぇ。

あっ

まずいか?
文章ラスト、キムタクの××を××に××ない。に伏せ字してもらえますか。

Re: あっ

FC2ブログは、ブロガーでもコメントの編集はできないんです。
コメントを入力した本人が、コメント時にパスワードを設定(して編集する意思があることを示)していたときのみ、編集できます。
その点、ライブドアブログはいいですね。

あれれ

初めて編集してみたらコメントがどこかに飛んでしまった。な、謎が多すぎる。

まあ、なければないでいいんですが(大勢に影響ないんで)。

Re: あれれ

編集されたコメントを改めて承認しましたので、また表示されました。
というわけで、FC2ブログは少々複雑です。

列車も作品も詰め込みすぎたかな

良い作品だったが
短い作品の中に
少年の恋愛
ギャング
密入国
少女(家族)と描きすぎたかな?

シティーオブゴットはブラジルの犯罪を
「ブラックユーモア」を交えて描いた秀作
確かテレビドラマが先でヒットしたから
映画化された、同じ監督達が
今度は警察側を描いた
「エリートスクワッド BOPE]みたいな
作品を製作した、こちらも皮肉が
南米の料理のスパイスみたいに
たっぷり効いていたな・・・・・・

Re: 列車も作品も詰め込みすぎたかな

すわっと 優優さん、こんにちは。
先日『シティ・オブ・ゴッド』を観ました。
強烈な映画ですね。実話ベースというのがなんとも。
人間集団が国家規模になる前の人類史を振り返るようでした。

本作があれこれ描きすぎというご指摘は、たしかにそうかも知れません。
ただ、私にはそこがいいところでした。
私は幕の内弁当が好きなのです。
Secret

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