『クレイジー・ハート』の子守唄

 なんともダサくて、だらしがない、ダメ親父である。

 でっぷりと太い腹。
 無精ひげ。
 汗臭そうな、よれよれの服。

 いつでも酒が手放せない。仕事中も酔っぱらってる。
 人生半ばで道に迷う、いわゆるミッドライフ・クライシス(midlife crisis)に襲われて、これまでと同じことはできなくなり、さりとて新しいことも始められない。その焦燥感を酒で紛らわしているのだ。

 その上、何度も結婚に失敗している。
 たしかにこれじゃあ奥さんも愛想を尽かすよ。

 『クレイジー・ハート』の主人公バッド・ブレイクは、中高年男性の誰が見ても親近感を覚えるだろう。いや、自分の方がまだマシだという安心感かも知れない。
 とにかく、世の中の中高年男性は、このダメ親父を古い友人のように感じるはずだ。


 ところがバッド・ブレイクは、スーパーヒーローでもある。
 なにしろ女性にモテモテだ。どの街でも、女性はバッドに言い寄ってくる。
 そしてカントリー歌手バッドのファンは、米国中にいる。買い物に行けば、店の親父がおごってくれる。

 さらに、人もうらやむ作曲の才能に恵まれている。
 みんながバッドの新曲を待っている。才能が枯れたなんてことはない。その気になれば、今でも傑作を生み出せるのだ。


 だから、中高年男性はこの映画を観ていて気分がいい。
 ヒーロー然とした立派な男がスーパーヒーローを演じたなら、我がこととしては観られない。
 ダメ親父がミジメなだけの末路をたどったら、観ている自分までミジメになる。
 ダメ親父なのにヒーローで、家族がいなくてもファンにリスペクトされているのがミソだ。

 中高年男性を主人公にした映画は少なくないし、それらは主演男優の力量のおかけで見応えのある作品になっている。
 近年すぐに思い浮かぶ作品としては、ミッキー・ローク主演の『レスラー』や、仲代達矢主演の『春との旅』が挙げられるだろう。どれも素晴らしい作品だった。

 しかし、映画館を出るときに「いい気分」にはならない。
 結末には何かしらの悲劇が待ちうけており、どちらかといえば、うつむき加減になってしまう。


 ところが本作は、ほどよく「オヤジ賛歌」なのである。

 バッドはダメなところがたくさんあるけど、困難を克服できる。
 若僧に追い抜かれたようでも、一番大事なところではまだまだ負けない。
 でも夢見る年頃ではないから、ちゃんとほろ苦さも付いてくる。
 そのほろ苦さを噛みしめながら、大人の会話ができてしまう。


 こんなにだらしなくて孤独な俺でも、捨てたもんじゃないんだぜ…。

 映画を見終えた親父たちは、日々の不安や重圧でいかれちまった心(crazy heart)を、なだめすかして劇場をあとにする。
 鼻歌でカントリーを唄ったりして、ちょいと酔いしれることだろう。


クレイジー・ハート [Blu-ray]クレイジー・ハート』  [か行]
監督・脚本・制作/スコット・クーパー
出演/ジェフ・ブリッジス マギー・ギレンホール ロバート・デュヴァル コリン・ファレル
日本公開/2010年6月12日
ジャンル/[ドラマ] [音楽]
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【theme : アメリカ映画
【genre : 映画

tag : スコット・クーパー ジェフ・ブリッジス マギー・ギレンホール ロバート・デュヴァル コリン・ファレル

⇒comment

No title

「狂った心臓」というタイトルよりは凄く大人しい映画でした。

日本だったら、泉屋しげるかな。

Re: No title

ふじき78さん、こんにちは。

> 「狂った心臓」というタイトルよりは凄く大人しい映画でした。

大人の映画ですからね。それほど破目は外しませんでしたね。
私には、コリン・ファレルが見どころでした。
友情と打算の両方を抱いた微妙な立場が、面白いと思いました。
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