『パリ20区、僕たちのクラス』 教育の場に登場したのは?

 上海といえば、黄浦江(こうほこう)に沿って林立する高層ビル群が有名だ。
 日本とは建築基準が異なるためか、東方明珠電視塔(とうほうめいじゅ-でんしとう)のように大胆なデザインの建物が並んでいる。
 黄浦江の対岸で、高層ビルを背景に記念撮影した人も多いだろう。
 上海を訪れた旅行者の多くが撮影するので、ビルの上には企業の看板が大きさを競っている。

 そして、美しい写真を撮るために絶好のポイントを探していると、ひときわ目立つのがNECのマークである。
 上海旅行の写真を見返せば、人物の後ろに「NEC」の文字がくっきりと浮かんでいることに、改めて気づくだろう。


 映画を観ていても、企業名等が目に入ることは多い。
 劇中に商品等を登場させるプロダクト・プレイスメントによって、『ビバリーヒルズ・チワワ』ではホンダ車が疾走し、『グーグーだって猫である』ではわざわざ小泉今日子さんが花王の「ニャンとも清潔トイレ」を片づけるカットが挿入される。

 映画に登場するパソコンといえば、DELLやLenovoの製品が多いように思うが、ソニー・ピクチャーズが制作した007映画でジェームズ・ボンドが使っていたのはVAIOだった。


 そんな中、『パリ20区、僕たちのクラス』では珍しくNECのパソコンが登場した。それも大量に。

 授業シーンで生徒たちの前に並んでいたのは、モニターがAcer製、本体がNEC製のパソコンである。
 本作は、原作者である元教師のフランソワ・ベゴドーがみずから主役を務めたドキュメンタリータッチの映画だ。カメラは手ブレを押さえもせず、生徒たちの生き生きとした表情を写し取る。
 にもかかわらず、生徒たちがどんなに騒いでもおしゃべりしても、AcerとNECのロゴは隠れることなく、肩越しにしっかり見えている。
 この作品がどんなにドキュメンタリーらしく見えても、あくまで監督の演出の下に役者が演じている映画なのだということを思い出させる瞬間だった。
 そして、これほどドキュメンタリーっぽさを前面に出した作品でありながら、ロゴが隠れないように配慮させる各社のしたたかさに恐れ入った。
 教室にはヒューレット・パッカード製のプリンタもあったが、これなどチラリと映るだけである。

 それにしても、NECは良い作品を選んだものだ。
 『パリ20区、僕たちのクラス』はカンヌ国際映画祭で最高のパルム・ドールを受賞しており、永く語り継がれるだろう。
 しかも、題材は子供の教育という、どこの国、いつの時代でも頭を悩ませるものだ。多くの国で上映されるに違いない。

 そして他ならぬ教育のためにNECの製品が使われているのも印象が良い。軍や諜報機関が使うよりも、よほど親しみが持てる。
 劇中、生徒の幾人かが興味のあることに「パソコン」を挙げているが、いまどきの子供がパソコンに興味を持つのは当然だ。
 作品内容とプロダクト・プレイスメントという手法とが、無理なく結びついた例だろう。

 NECは、2012年度に売上高4兆円と海外比率25%を目指すという。
 この映画1本で海外比率が高まるわけではないが、いつもDELLやLenovoの製品を見ていた目には、日本メーカーの登場は新鮮であった。


パリ20区、僕たちのクラス [DVD]パリ20区、僕たちのクラス』  [は行]
監督・脚本/ローラン・カンテ  脚本・編集/ロバン・カンピヨ
出演・原作・脚本/フランソワ・ベゴドー
日本公開/2010年6月12日
ジャンル/[ドラマ]
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【theme : ヨーロッパ映画
【genre : 映画

tag : ローラン・カンテ フランソワ・ベゴドー

⇒comment

すごいね!

スポンサーまで観るとは! 恐れ入りました。
そう、これってフィクションなんですよね。
それにしても良くできていたと思います。 自分的には傑作。

Re: すごいね!

rose_chocolatさん、コメントありがとうございます。
本作は、教師の経験者が原作を書いて、脚色して、中学生と一緒に出演もしているので、現実のクラスの様子に近いのでしょう。

そう考えた上で、まず出だしから驚きました。
生徒たちに、名前を書いた紙を立たせるように指示したシーン。日本だったら、教師が完成形を示して、紙の折り方も示して、それでも生徒はどうすればいいか判らないと云ったり、横目で他の人を見たりすると思います。
ところがパリの生徒たちは、思い思いに紙を折り曲げて完成させていく。
形はてんでんばらばらですが、名前が見えるようにするという点では、どれも目的を達しています。

さらに、授業のあいだは、悪態や暴言にあふれているように見えますが、ちゃんと教師と生徒のキャッチボールになっています。
みんな教師の言葉を聞いていて、それに対して思うことを発言している。
聞いてないとか、勝手に喋ってるわけではないんですね。
日本では、こんな活発なディスカッションはなかなかできないのではないでしょうか。

問題のあるクラスを描いているのでしょうが、いいところが一杯あるなと感じました。

TBありがとうございます。

>この作品がどんなにドキュメンタリーらしく見えても、あくまで監督の演出の下に役者が演じている映画なのだということを思い出させる瞬間だった。

何が映されていて何が映されていないか、そのことに敏感でいなければならないと改めて教えられますね。
確かにロゴはその試金石なのかもしれません。

Re: TBありがとうございます。

きぐるまんさん、コメントありがとうございます。
プロダクト・プレイスメントといっても、『ハンサム★スーツ』を「洋服の青山」が開発したり、 『秘密結社 鷹の爪 THE MOVIE3』のように商品の出現度合いをギャグにするなら、笑えばいいだけですけどね。
商品の登場のさせ方は、今後ますます細心の注意が必要になると思います。

No title

皆さんの感想とは方向性が異なりますが‥

アバウトな指示に対して生徒はちゃんと自分なりのやり方で名前を書いて紙を立てる、そのあたりはニヤリとして観てました。また、突っかかってくる生徒と、むきになりながらも返していく教師のやり取りもなかなかの教師側の技量を感じます。

生徒と先生であっても、自由と平等を信じるフランス人らしい互いの行動振りも面白いですし、それを結局はシステムの中で動いていることを感じさせる罰則(退校)や教師の権威ぶり、そして、そういう教師も監査という教師を評価するメタな目が制度に組み込まれていて、彼ら教師も従うべきものがそれなりにあること、同時に、その制度は杓子定規ではなく対話によってなりたっているので温情的なものもありえること、などなど、その赤裸々さを見させてくれたようにかんじます。

教師の感情、教師側の事情、生活の話なども描かれることで、教師は生徒の奉仕者ではない、ということもハッキリ示されるのは好感が持てました。

また、締め方も上手いですねえ。プラトンも持ち出してきて、「この」教育のあり方に(教育を与える側からの希望的観測として)一抹どころか骨太の正当性を付与したかのような。やや、くさい演出かとは思いますが。。

観終わって感じたこととして、フランスにおける権利としての自由と、その自由を保障するための「体制」(そこのところが矛盾だとは思いはしますが)を守るための統制ぶり、を描いた映画として興味深かった、ということでした。

また、手放しで本作品をほめる気には全くならず、西欧の舞台裏を見せられた気分です。生徒と教師が丁々発止で、事件の広がりも多々あるので、一見するとプロトタイプではないようにみえるのですが、実は、プロトタイプとしての教育宣伝を見せ付けられた気がして、見終わってからしばらくは、なんだか「押し付けがましいのでは?」とも感じてました。

今は、まあこういう押し付け作品もフランスの文化だよね、と思っています。

更に些細なことですが、マリ?でしたか退校になる生徒とその母親。制度というものの厳しさ、または例外なき厳然さを映画でも見せたかったのか?、そのあたりの意図はよく判りませんでした。西アフリカ、フランス語圏は、お国ののどに突き刺さった小骨のはず‥ 描き方が少数派に厳しいぞ、と突っ込みたい。

さて、日本では生徒のみならず大人へのセミナーでも、紙に名前を書いて立てる、といわれたら、ほぼ全員が迷うのですが、これは、どうしようもない統制心理で縛られているということの証左でありましょう(笑)。小学生はかろうじて大丈夫、フランスの生徒並に出来るでしょう。

ということで、個々の場面の巧みな演出的風景はあるものの、全体として、何っ?、ていう思いはいまだに持っております。ということで、皆さんの感想とは大いにことなりまして、ごめんなさい。まあ、結論をハッキリ出さない、それが人生でもあるじゃないか、ケセラセラだよ、というのがフランスだから、分析なんかしなくてもいいのかな(笑

Re: No title

 にとりがみさん、コメントありがとうございます。
 フランス人は議論好きと聞きます。会議の時間を延長してでも、それぞれの主張を語り尽くすのだとか。
 本作の教室風景を見ると、さもありなんという気がしますね。

>フランスにおける権利としての自由と、その自由を保障するための「体制」(そこのところが矛盾だとは思いはしますが)を守るための統制ぶり

 これはたいへん興味深い点でしたね。
 教師たちが生徒の評価をする場に、生徒代表が同席するのは驚きました。とうぜん、話し合いの内容は生徒たちに漏れるわけで、生徒から不満も出てくるでしょう。でも、そんな面倒ごとが起きるのが判りきっていても生徒を同席させるとは、たいした制度だと思います。日本では、学校だけでなく会社等でも、評価は密室で行われることが多いでしょうから。
 不平不満が出てきても、それには議論で応じるというフランスらしさなのでしょうか。

 退校になる生徒の件は、おっしゃるとおりしっくり来ませんでした。
 ですが、一見すると温情的、その実は問題先送りな「解決」をするよりも、学校としての態度をはっきり打ち出している本作は「判りやすい」ように思います。
 同時に、その生徒が旧植民地の出身であることは印象的です。そしてまた、議論好きのフランス人に対して、言葉の壁があって議論に参加できない母親も印象に残ります。
 この点は、同じくフランス映画の『96時間』で移民を悪者扱いしているのとは逆の効果があるように思いました。

 本作は結局のところ、教師同士や、教師と生徒とのディスカッションが延々と続くわけで、そこはまさしくフランス文化の産物なのかもしれません。

No title

>教師同士や、教師と生徒とのディスカッションが延々と続く

そういったプロセスにこそ本作の醍醐味があるというご指摘。感服しました。

Re: No title

にとりがみさん、こんにちは。

>全体として、何っ?、ていう思い

それはありますけどねe-257

No title

ユニークな観点でのレビューですね。ありがとうございます。

Re: No title

いちごさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
自分の記事を久しぶりに読み返しました。こんなことを書いていたんですね:-)
面白がっていただければ幸いです。
Secret

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