『ポチの告白』 ポチと呼ばれるのは誰か?
2010年4月22日、阪本順治監督と高橋玄監督のトークショー付きで、『ポチの告白』が上映された。
映画館大賞2010の特別部門「あの人の1本」で、阪本順治監督が高橋玄監督の『ポチの告白』を選んだのである。
『KT』や『闇の子供たち』を世に送り出した阪本監督らしい選定だ。
カジュアルな格好の阪本監督に比べて、高橋監督は黒のスーツ、黒のシャツに、ネクタイと靴下だけが真っ赤な、インパクトのある服装で登場した。
eiga.com のニュースでも報じられているが、ここではニュース記事から漏れていることを記憶を頼りに紹介しよう。
『ポチの告白』は、「日本最大の暴力団」である(と劇中で語られる)警察と、その身内である裁判官及び検察の腐敗と悪行をさらけ出した作品である。
制作したグランカフェ・ピクチャーズのサイトでは次のように紹介している。
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本作に登場する警察犯罪事件の数々は、日本を代表するジャーナリスト・寺澤有氏が綿密に調査した事件資料を元に描かれている。本物のジャーナリストが、日本の警察問題を正面から斬り込む本作に全面協力をしたことで、迫真のリアリティが実現した。
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そこで描かれるのは、警察という"家族"の中での馴れ合い・庇い合い、外の人間に対する嘘と暴力と搾取だ。
そしてまた、記者クラブという囲いの中で飼いならされたメディアが、警察の実態を覆い隠すさまもしっかり描く。
その酷さは、いくら劇映画とはいえ、あまりにも現実離れして見える。
ところが高橋監督はこう語る。
「上映後に一番聞かれるのが、いくらなんでもこれはないでしょう、ということ。でも、ある上映では愛媛県警の元警察官の仙波敏郎さん-この人は、一人だけ裏金用の架空の領収書を書かなかったために35年間出世できず、巡査部長のままだった人で、いま本がベストセラーになってますが-その人が来て、『高橋さんはまだ上品に撮ってますね』と云うと、実際に警官だった人がそう云うので、みんな黙っちゃいますね。」
阪本監督も、タイを舞台に子供の売春と臓器売買を描いた『闇の子供たち』について語った。
「『闇の子供たち』は、タイ側の云うことは判っているので、それに従ってタイバージョンも作ってあるんですが、いまはああいう状況なので公開できないんです。でも公開すると、こんなことはないという人が出てくるでしょうね。」
eiga.com の記事にあるように、阪本監督は『闇の子供たち』に関して「ドキュメンタリーで撮った方が良かったのでは」と云われるそうだ。
しかし両監督とも、劇映画だから語れることがあると強調する。
ここで阪本監督は、『闇の子供たち』に登場する、ゴミ袋に入れて捨てられた女の子のことを語った。「(重い性病のため売り物にならなくて)女の子が捨てられて、自力でゴミ袋から出て、故郷に這って帰るシーンがあるけれど、そんな女の人の一生にかかわることを、ドキュメンタリーとしては撮れないですよ。」
高橋監督も『ポチの告白』について念を押す。
「映画なので演出はありますが、ここに出てくるのは全部本当のことです。高知白バイ事件とか検索してみてください。」
進行役の方からは、上映に当たっての圧力について質問があった。
eiga.com には「上映には圧力がつきもの」と書かれているが、高橋監督によれば、『ポチの告白』に関して監督への圧力はなかったそうだ。
「劇場には警察の方から『まさかアレを上映するんじゃないでしょうね』という電話があったそうです。その劇場は、そんなのこっちの勝手だと上映しちゃいましたが、劇場側が自主的に上映を取りやめることはありましたね。」
阪本監督は、金大中事件を描いた『KT』の撮影中、弁当を買いに行くにも尾行されたそうである。
また、『闇の子供たち』の撮影のためにタイへ行ったときは、身辺に気をつけたという。
「その前にドイツの監督が脅されたという記事を読んでいたので。まず現地の会社と組んで、一緒にやるようにして。俳優さんも、本当ならちょっといいホテルに泊まるんでしょうけど、スタッフと同じところに泊まるようにしました。向こうは、警官が非番のときは雇えるので、撮影中もガードしてもらいました。」
ちなみに、阪本監督も高橋監督も、これらの映画を撮ったことにより、NGO等から講演を依頼されるようになったそうである。
しかし阪本監督は、長年その問題に係わっている活動家ではないし、映画のオファーを受けてにわか勉強して作品に取り組んだ自分でもいいのかと尋ねるようにしているそうだ。
また、両監督が一致して語っていたのは、講演依頼等は東京よりも地方で多いということ。
高橋監督は、「自分なんか東京では埋もれてしまう」とおっしゃっていたが…。
ところで、奇しくも高橋監督は、警官と映画監督の孫だそうである。
父方の祖父が警官、母方の祖父が『白蛇伝』『少年猿飛佐助』等で名高い藪下泰次監督だそうだ。
そんな高橋監督が『ポチの告白』を撮るのも何かの縁なのだろうか。
「せっかく雨の中をお出でくださったのだから」と、高橋監督は他にも面白い話を披露してくださったが、ここでは割愛する。
お二人の話はたいへん興味深いものばかりだった。
そしてトークショーの後に上映された『ポチの告白』は、日本国民必見の1本であった。
たいへん失礼ながら、当初、題名からはどんな映画か見当もつかなかった。
しかし映画を観た後は、『ポチの告白』という題の重みをズッシリと感じている。
私は、両監督とスタッフの方々への感謝を胸に、劇場を後にした。
『ポチの告白』 [は行]
制作・脚本・監督・編集/高橋玄 原案協力/寺澤有
出演/菅田俊 野村宏伸 川本淳市 井上晴美 井田國彦 出光元
日本公開/2009年1月24日
ジャンル/[ドラマ] [犯罪]
映画ブログ
映画館大賞2010の特別部門「あの人の1本」で、阪本順治監督が高橋玄監督の『ポチの告白』を選んだのである。
『KT』や『闇の子供たち』を世に送り出した阪本監督らしい選定だ。
カジュアルな格好の阪本監督に比べて、高橋監督は黒のスーツ、黒のシャツに、ネクタイと靴下だけが真っ赤な、インパクトのある服装で登場した。
eiga.com のニュースでも報じられているが、ここではニュース記事から漏れていることを記憶を頼りに紹介しよう。
『ポチの告白』は、「日本最大の暴力団」である(と劇中で語られる)警察と、その身内である裁判官及び検察の腐敗と悪行をさらけ出した作品である。
制作したグランカフェ・ピクチャーズのサイトでは次のように紹介している。
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本作に登場する警察犯罪事件の数々は、日本を代表するジャーナリスト・寺澤有氏が綿密に調査した事件資料を元に描かれている。本物のジャーナリストが、日本の警察問題を正面から斬り込む本作に全面協力をしたことで、迫真のリアリティが実現した。
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そこで描かれるのは、警察という"家族"の中での馴れ合い・庇い合い、外の人間に対する嘘と暴力と搾取だ。
そしてまた、記者クラブという囲いの中で飼いならされたメディアが、警察の実態を覆い隠すさまもしっかり描く。
その酷さは、いくら劇映画とはいえ、あまりにも現実離れして見える。
ところが高橋監督はこう語る。
「上映後に一番聞かれるのが、いくらなんでもこれはないでしょう、ということ。でも、ある上映では愛媛県警の元警察官の仙波敏郎さん-この人は、一人だけ裏金用の架空の領収書を書かなかったために35年間出世できず、巡査部長のままだった人で、いま本がベストセラーになってますが-その人が来て、『高橋さんはまだ上品に撮ってますね』と云うと、実際に警官だった人がそう云うので、みんな黙っちゃいますね。」
阪本監督も、タイを舞台に子供の売春と臓器売買を描いた『闇の子供たち』について語った。
「『闇の子供たち』は、タイ側の云うことは判っているので、それに従ってタイバージョンも作ってあるんですが、いまはああいう状況なので公開できないんです。でも公開すると、こんなことはないという人が出てくるでしょうね。」
eiga.com の記事にあるように、阪本監督は『闇の子供たち』に関して「ドキュメンタリーで撮った方が良かったのでは」と云われるそうだ。
しかし両監督とも、劇映画だから語れることがあると強調する。
ここで阪本監督は、『闇の子供たち』に登場する、ゴミ袋に入れて捨てられた女の子のことを語った。「(重い性病のため売り物にならなくて)女の子が捨てられて、自力でゴミ袋から出て、故郷に這って帰るシーンがあるけれど、そんな女の人の一生にかかわることを、ドキュメンタリーとしては撮れないですよ。」
高橋監督も『ポチの告白』について念を押す。
「映画なので演出はありますが、ここに出てくるのは全部本当のことです。高知白バイ事件とか検索してみてください。」
進行役の方からは、上映に当たっての圧力について質問があった。
eiga.com には「上映には圧力がつきもの」と書かれているが、高橋監督によれば、『ポチの告白』に関して監督への圧力はなかったそうだ。
「劇場には警察の方から『まさかアレを上映するんじゃないでしょうね』という電話があったそうです。その劇場は、そんなのこっちの勝手だと上映しちゃいましたが、劇場側が自主的に上映を取りやめることはありましたね。」
阪本監督は、金大中事件を描いた『KT』の撮影中、弁当を買いに行くにも尾行されたそうである。
また、『闇の子供たち』の撮影のためにタイへ行ったときは、身辺に気をつけたという。
「その前にドイツの監督が脅されたという記事を読んでいたので。まず現地の会社と組んで、一緒にやるようにして。俳優さんも、本当ならちょっといいホテルに泊まるんでしょうけど、スタッフと同じところに泊まるようにしました。向こうは、警官が非番のときは雇えるので、撮影中もガードしてもらいました。」
ちなみに、阪本監督も高橋監督も、これらの映画を撮ったことにより、NGO等から講演を依頼されるようになったそうである。
しかし阪本監督は、長年その問題に係わっている活動家ではないし、映画のオファーを受けてにわか勉強して作品に取り組んだ自分でもいいのかと尋ねるようにしているそうだ。
また、両監督が一致して語っていたのは、講演依頼等は東京よりも地方で多いということ。
高橋監督は、「自分なんか東京では埋もれてしまう」とおっしゃっていたが…。
ところで、奇しくも高橋監督は、警官と映画監督の孫だそうである。
父方の祖父が警官、母方の祖父が『白蛇伝』『少年猿飛佐助』等で名高い藪下泰次監督だそうだ。
そんな高橋監督が『ポチの告白』を撮るのも何かの縁なのだろうか。
「せっかく雨の中をお出でくださったのだから」と、高橋監督は他にも面白い話を披露してくださったが、ここでは割愛する。
お二人の話はたいへん興味深いものばかりだった。
そしてトークショーの後に上映された『ポチの告白』は、日本国民必見の1本であった。
たいへん失礼ながら、当初、題名からはどんな映画か見当もつかなかった。
しかし映画を観た後は、『ポチの告白』という題の重みをズッシリと感じている。
私は、両監督とスタッフの方々への感謝を胸に、劇場を後にした。
『ポチの告白』 [は行]
制作・脚本・監督・編集/高橋玄 原案協力/寺澤有
出演/菅田俊 野村宏伸 川本淳市 井上晴美 井田國彦 出光元
日本公開/2009年1月24日
ジャンル/[ドラマ] [犯罪]
映画ブログ
⇒comment
世に広めたい
冤罪作り調書を良心の呵責のない刑事を目の前で見てきたので、日本の警察権力は(出世した一部の…あの時の刑事は特に)トラウマです。
Re: 世に広めたい
警察権力によってトラウマが取れない国民の一人さん、こんにちは。
たいへんな目に遭われたようですね。
この映画が描いたことは、まだまだ氷山の一角なのかもしれません。もっと外部の目が入っていかなければいけないのだと思います。
たいへんな目に遭われたようですね。
この映画が描いたことは、まだまだ氷山の一角なのかもしれません。もっと外部の目が入っていかなければいけないのだと思います。
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まず、本作の語り口には考えさせられた。この映画の上映時間は3時間15分もある。しかしストレスもなく最後まで観ることが出来た。通常、こういう長尺の映画を作る場合は、作家性を前面に押し立てたような心象風景的なショット(それも、通常は長回し)を多用するか、...
ポチの告白
優しく親切な巡査だった竹田八生は、三枝課長に気に入られて刑事に抜擢されるが、実直さゆえに上司と組織に従ううちに、次第に警察の行う犯罪に手を染めていく。 暴力団と共産党はお断りの「警察バー」なんてものがあり、上司の言葉は絶対で、寮生活も勝手に決められるし..
09-32「ポチの告白」(日本)
刑事(でか)の正体
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...
ポチの告白 (2006)
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この作品で警察...