日本インターネット映画大賞への投票 2018年度
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お読みくださる皆様、コメントをくださる皆様、ありがとうございます。
これからもぼちぼちやっていきますので、よろしくお願い致します。
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さて、今年も応援したい作品を以下に挙げて、日本インターネット映画大賞に投票したいと思う。
応援したいと思う作品は、必ずしも優れた作品、面白い作品と一致するわけではないが、そこには人を惹き付けるものがあると思う。
[日本インターネット映画大賞 作品賞投票ルール(抄)]
■選出作品は3作品以上10作品まで
■選出作品は2017年1月~2018年12月公開作品
■1回の鑑賞料金(通常、3D作品、4DX作品、字幕、オムニバス等)で1作品
■持ち点合計は30点
■順位で決める場合は1位7点、2位5点、3位4点、4位3.5点、5位3点、6位2点、7位1.75点、8位1.5点、9位1.25点、10位1点
■作品数で選ぶ場合は3作品各10点、4作品各7.5点、5作品各6点、6作品各5点、7作品各4.28点、8作品各3.75点、9作品各3.33点、10作品各3点
■自由に点数を付ける場合は1点単位(小数点は無効)とし1作品最大点数は10点まで可能
■各部門賞の1票は2ポイントとなります
■各部門賞に投票できるのは個人のみ
■日本映画ニューフェイスブレイク賞は男優か女優個人のみ
■日本映画音楽賞は作品名で投票
■外国映画ベストインパクト賞は個人のみ
■私(ユーザー名)が選ぶ○×賞は日本映画外国映画は問いません
■日本映画作品賞3作品以上の投票を有効票
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【日本映画作品賞】 点数記入にて投票
「万引き家族」 10点
「若おかみは小学生!」 10点
「空飛ぶタイヤ」 4点
「レオン」 3点
「パンク侍、斬られて候」 3点
【コメント】
今回は点数を記入したが、少しアクセントを付けたかっただけで大きな意味はない。
『万引き家族』は是枝裕和監督の真価が発揮された作品だ。監督の優れた手腕がキャスト・スタッフの底力を引き出し、その見事なアンサンブルが監督に新たな力を与える。そんな好循環で、これまでとは違うところに到達した印象だ。
『若おかみは小学生!』は、高坂希太郎監督の長編デビュー作。と同時に、何を隠そう当ブログでようやく取り上げた吉田玲子脚本作品である。すべてのスタッフ・キャストの仕事に感銘を受けた。
※ 日本インターネット映画大賞運営委員会から、『この世界の片隅に』は選考対象外との連絡があったので、本作の投票を取り下げ、点数の配分を見直した(コメント欄参照)。
『空飛ぶタイヤ』は、組織の不正を扱うような硬派な映画がもっと日本で作られることを願って取り上げた。
『レオン』、『パンク侍、斬られて候』は、楽しく笑わせてくれたことに感謝して。
男女の心と体が入れ替わる『レオン』は、その始まり方を聞くと2016年の大ヒット作『君の名は。』あたりに似ていると思われるかもしれないが、『君の名は。』が遠隔地の男女が恋に落ちるきっかけとして入れ替わりを利用しただけで、恋の相手を探す旅が本筋だったのに対し、本作は男女が入れ替わったシチュエーションをどんどん追及する。セクハラしまくりの横暴な男が、女性として暮らすことで初めて女性を取り巻く社会の問題に気づいていく『レオン』は、ばかばかしい笑いの中に一本筋が通った快作だ。
『パンク侍、斬られて候』は、希代の傑作『エル・トポ』に通じる面白さ。超人的凄腕ガンマンの放つ弾丸を、仙人のような銃の達人が虫取り網で捕らえてしまう、あの『エル・トポ』の滑稽さを面白がれた人なら、本作の超人的剣客の活躍も楽しめることだろう。
【日本映画監督賞】
[是枝裕和] 『万引き家族』
【日本映画主演男優賞】
[リリー・フランキー] 『万引き家族』
【日本映画主演女優賞】
[安藤サクラ] 『万引き家族』
【日本映画助演男優賞】
[加藤剛] 『今夜、ロマンス劇場で』
【コメント】
2018年にお亡くなりになったことから挙げた。『今夜、ロマンス劇場で』で元気なお姿を拝見したばかりだったのに、たいへん残念である。
【日本映画助演女優賞】
[樹木希林] 『万引き家族』『日日是好日』
【コメント】
名優が亡くなられた。この方のおかげで、映画やテレビがいかに豊かになったことか。ご冥福を祈りたい。
【日本映画ニューフェイスブレイク賞】
[城桧吏(じょう かいり)] 『万引き家族』
【日本映画音楽賞】
「万引き家族」
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【外国映画作品賞】 作品数にて投票
「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」
「ブラックパンサー」
「レディ・プレイヤー1」
「ミッション:インポッシブル/フォールアウト」
「ワンダー 君は太陽」
「ブリグズビー・ベア」
「パディントン2」
「タクシー運転手 約束は海を越えて」
【コメント】
「危機にあって、賢者は橋を架け、愚者は壁を作る。」
『ブラックパンサー』のこの言葉を実践する、賢者たちの仕事を挙げた。娯楽としても申し分のない、逸品ばかりだと思う。
【外国映画 ベストインパクト賞】
[スティーヴン・スピルバーグ監督] 『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』『レディ・プレイヤー1』
【コメント】
傑作を連発する力量に、改めておそれ入った。ポストプロダクションの最中に別の作品の撮影を行い、並行してさらに別の作品のプリプロダクションを行う、ということは、仕事が途切れない監督なら普通にあることなのだろうが、スピルバーグのスピードと完成度は傑出している。しかも、その作品はハリウッドの良心ともいえるメッセージだ。これからも末永く活躍して欲しい。
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【私が選ぶいっぱい笑っていっぱい泣いたで賞】
「50回目のファーストキス」
【コメント】
長編映画としてすでに完成されたプロットに、福田雄一監督特有の小ネタを散りばめる方法が、思いのほか合っていた。これからも福田雄一監督のリメイクに期待したい。
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「ヴァレリアン 千の惑星の救世主」
【コメント】
『フィフス・エレメント』が好きな私にとって、こういう映画が何より嬉しい。スケールの大きな美しい映像、魅力的な俳優たち、いささかブラックなユーモア。観客の想像力に対抗できるのは、作り手のぶっ飛んだイマジネーションだ。
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この内容(以下の投票を含む)をWEBに転載することに同意する。
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以上の内容で投票した。
2018年度日本インターネット映画大賞ブログ投票者一覧はこちら。
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『泣き虫しょったんの奇跡』への共感

瀬川晶司氏の自伝を映画化した『泣き虫しょったんの奇跡』の素晴らしさを語るには、ストーリーの説明が欠かせないと思う。
ストーリーを説明すれば、『泣き虫しょったんの奇跡』の素晴らしさはお判りいただけるであろう。
したがって、本稿は『泣き虫しょったんの奇跡』のあらすじの紹介である。未見の方はご注意願いたい。
映画は、"しょったん"こと瀬川晶司が小学五年生になった春からはじまる。将棋好きだったしょったんは、担任の先生や父の言葉もあって、どんどん将棋にのめり込む。
そして早々に出現するのが、鈴木悠野(すずき ゆうや)という強力なライバルだ。同学年で将棋が強く、しかも家は隣同士という出来過ぎたシチュエーションの悠野と出会うことで、しょったんの負けず嫌いに拍車がかかる。
小学生にして対等以上のライバルが出現し、激しい戦いの火花を散らすなんて、『ちはやふる』のようなマンガのノリだ。展開が早すぎる気もするが、それだけに観ていて楽しい。
街の将棋道場へ通いはじめたしょったんと悠野は、大人相手の対局を経てめきめき強くなっていく。このあたりの描写も愉快で面白い。中学生のしょったんと悠野が大人顔負けの活躍をするのは痛快だし、彼らがちゃんと鼻を折られて、まだまだ学ぶことがあるのを教えられるのもいい。
そして、中学三年生での中学生名人戦、奨励会入会試験と、大きな試練がしょったんの前に立ちはだかる。
新進棋士奨励会とは、プロ棋士になるための養成機関だ。ここに入って26歳までに四段に昇段すればプロ棋士になれるが、この条件を満たせなければプロ棋士の道は永遠に閉ざされる。
うんうん、その過酷な制度は『聖の青春』でも語られたから知っている。だが、『聖の青春』のモデルになった村山聖(むらやま さとし)が、奨励会入会から2年11ヶ月という奇跡的なスピードでプロ棋士になった天才児だったのに対し、しょったんは22歳でようやく三段になれたものの、そこから先にはなかなか進めない。迫りくる26歳というタイムリミット、昇段をかけて三段の奨励会員たちが激突するリーグ戦、これらが映画をいやが上にも盛り上げる。
しかも、奨励会のエピソードは、心を揺さぶられる青春の光と影でいっぱいだ。
自分は何者かになれるのか、自分は何者なのかという悩み。ときにライバルであり、ときに友人である仲間たちと、傷つけ合い、慰め合う日々。タイムリミットが迫れば迫るほど、モラトリアムしてしまう人間の弱さ。そして、いち早くプロ棋士になっていく友人や、夢破れて奨励会を去る者を見るたびに、こみ上げてくる焦燥感と絶望。
ここにあるのは誰でも感じたことのある、又は今まさに感じていることばかりで、本作を観る人は共感せずにいられないだろう。
本作には、監督・脚本を務めた豊田利晃氏自身が、プロ棋士を目指して奨励会に9年間在籍していた経験が活かされている。
「ずっと奨励会の映画をやりたいと思っていて『しょったん』を読んで、これならできると思えた。親や友達、周囲との関係をすごくリアルに感じたんです。」
1969年3月生まれの豊田監督は、1970年3月生まれの瀬川晶司氏本人と1歳違い。劇中、しょったんがマスコミで報道される羽生善治氏の活躍に慄然とするシーンがあるが、1970年9月生まれの羽生善治氏はもとより、1969年6月生まれの村山聖氏や1969年10月生まれの佐藤康光氏(永世棋聖)の同世代として、豊田監督もまた将棋の世界にいたのだ。
「(引用者注・原作の小説と出会ったのは)いまから7~8年くらい前ですかね。『奨励会』の残酷さとか、相反する憎悪みたいなものもきちんと描かれていて『初めて奨励会をちゃんと捉えた小説を読んだ』という気がしたんです。『奨励会』出身といっても、僕が居たのは関西で瀬川さんは東京という違いがあるし、入ったタイミングは僕の方が早かったんですが、年齢が1つ違いだったこともあって『同じ年代の、同じような人の空気』というのが感じられた。」
「名人を目指して悪戦苦闘の日々でした。楽しみも苦しみも勝負の渦中に入ってしまうつらい時代で。勝つためにどうするかを日常から考えていく剣豪のような生活でした。海も山も行かず、普通のティーンエージャーではなくなってしまった。」
豊田監督のこの生き様が奨励会員に共通のものであろうことは、映画を観れば伝わってくる。将棋のことで頭がいっぱいのしょったんは、好意を寄せてくれる女性の気持ちにすら応えられない。

ところがしょったんは、遂に四段に上がることなく26歳に達してしまう。将棋しかしてこなかった十有余年。なのに、もう棋士になる道は閉ざされた底なしの虚無感。
私たちはマンガや小説や映画の主人公が勝ち進む姿にエールを送るが、大多数の人にとって本当の人生は挫折や敗北の連続だ。勝ち進むヒーローなんて、スポットライトが当たっているいっときの姿でしかない。
しかもしょったんは、奨励会を退会した後になって、もっと真剣に将棋をやれば良かったと独白する。そうなのだ。人は往々にして、やらなければならないと判っていてもやらずに時を過ごしてしまう。他のことをしてごまかしてしまう。そして手遅れになってから後悔する。
とても他人事とは思えないしょったんに――人間臭いしょったんに、ますます共感してしまう。
将棋と決別したしょったんが、人生を立て直そうと大学に進む努力も、どうにかサラリーマンとして生活しようとする姿も微笑ましい。
やがて、将棋のプロとして生きるのではなく、ただ楽しんで将棋を指す心境に至る様子を見ていると、とても安らかな思いがする。
これだけでも充分に素晴らしい映画になったと思うが、『泣き虫しょったんの奇跡』はここからが本筋だ。奨励会のプレッシャーがなくなったしょったんは、アマチュアながらプロ顔負けの成績を収めるようになる。プロ棋士を相手にしても勝率七割を超える戦績で、遂に、これほど強いのだからプロになれるべきだと応援する人が現れるほどになる。
当時、奨励会在籍中に四段になれなかった者に、プロになる道はなかった。
だが、多くの人の尽力と本人の意志により、しょったんは特例としてプロへの編入試験を受けられることになる。
しょったんの勤め先の同僚も上司も、将棋道場の仲間たちも、プロになるチャンスを掴んだことをみんなが喜んでくれて、応援してくれる。
すっかりしょったんに共感していた観客もまた、彼を応援する気持ちは一緒だろう。
藤原竜也さん演じる通りすがりの男性が、「旧態依然とした体制に負けないでください」としょったんに声をかけるシーンがあるが、そのとおりだと思う。
しょったんは30歳を超えてしまったけれど、プロに伍して戦っている。26歳になるまでに要件を満たした者だけが(現在の実力はいざ知らず)プロ棋士という特権を独占し続け、いま現在プロ並みの実力がある者を排除する。そういった状況は将棋界だけに留まらず、世の中のあちらこちらで見受けられる。真の実力本位とはいえないその仕組みを不条理と感じることもあるだろうし、敗者復活を認めない無情さ(かつての敗者に復活されては困るという理不尽さ)に憤りを覚えることもあるだろう。そんな市井の人々の気持ちを、本作は――瀬川晶司氏の事績は――代弁している。
しょったんを応援する将棋道場の名前が「と金クラブ」なのも泣かせる。小学生のしょったんが教室の床に散らばった駒を拾っていたとき、通りかかった先生が拾ってくれた駒が「歩」だったことにも対応している。
ちなみに、「と金クラブ」とは、豊田監督が少年時代に実際に修行していた道場の名だ。
ただ、プロへの編入を目指すしょったんの戦いは、日本将棋連盟への挑戦ではなく、奨励会への復讐でもない。好きなことをやり続けたい、その純粋な気持ちが、共感の輪を広げたのだ。
面白いのは、しょったんが「プロにも勝っているのだから、自分をプロにしろ」と主張するのではなく、周囲の人が「プロになれるように応援したい」と申し出てくれたことだ。
「やっぱり瀬川さんの人格だと思いますね。」と豊田監督は述べている。「映画を観てもらえばわかるとおり、本当に周りが応援したくなるような人なんですよ。彼じゃなかったら、こんなことは起きなかったんじゃないかな。」

「だいじょうぶ、きっとよい道が拓かれます」
あのハガキは、実際に瀬川氏宛に届いたものを、そのまま再現したのだという。
涙とともに魂が浄化されるような感覚は、スクリーンから滲み出る豊田監督の心情によるところもあるかもしれない。
わずか9歳で奨励会入会試験に合格しながら、17歳でプロ棋士をあきらめて奨励会を退会した豊田監督は、インタビューに応えてこう語っている。
「過去は変えられないですからね…。勝てなかった自分をずっと憎んでいました。でも、映画を作ることで自己嫌悪は解けた気持ちがあります。将棋への恩返しもできたし、奨励会で10代を潰したことも無駄じゃなかったんだ、このために奨励会に入ったのかもしれないんだ、と思えました。」
この映画を観た後は、とても、とても気持ちが清々しい。

瀬川晶司氏のプロ編入の後、日本将棋連盟はプロ棋士への編入試験を正式に制度化した。奨励会を経なくてもプロになる道が拓かれた。

監督・脚本/豊田利晃
出演/松田龍平 國村隼 イッセー尾形 松たか子 美保純 小林薫 永山絢斗 染谷将太 渋川清彦 駒木根隆介 野田洋次郎 新井浩文 早乙女太一 妻夫木聡 上白石萌音 石橋静河 板尾創路 藤原竜也 渡辺哲 大西信満 奥野瑛太 遠藤雄弥 山本亨 桂三度 三浦誠己
日本公開/2018年9月7日
ジャンル/[ドラマ] [伝記]

『シュガー・ラッシュ:オンライン』 ディズニー帝国の逆襲

以前の記事に書いたように、前作『シュガー・ラッシュ』は、多元宇宙もののSFに通じる痛快作だった。ゲームセンターの各ゲーム機がそれぞれ一つの世界になっており、高層マンションの住民から邪険にされる格差社会の「フィックス・イット・フェリックス」や、怪物サイ・バグと激戦を繰り広げる「ヒーローズ・デューティ」の世界や、お菓子の国のレースゲーム「シュガー・ラッシュ」といった異世界が、ゲーム・セントラル・ステーションを介して繋がることで、様々な冒険の舞台を提供していた。
多元宇宙ものの続編がつくられる場合は、さらに異質な世界が登場してスケールアップするのが常套手段だ。
キース・ローマーの『多元宇宙の帝国』の続編『多元宇宙SOS』では、数多の時空連続体を監視する"帝国"ですら知らなかった、猿人が支配する世界から襲撃を受けて、"帝国"が危機に陥る。フィリップ・ホセ・ファーマーの階層宇宙シリーズは、宇宙を創造する力を持つ上帝と対決した一作目『階層宇宙の創造者』からさらにスケールアップして、二作目『異世界の門』で上帝の一族が勢揃いし、未知の世界を舞台に上帝同士が戦ったり協力したりの虚々実々の駆け引きを繰り広げた。
『シュガー・ラッシュ』の続編『シュガー・ラッシュ:オンライン』でも、主人公たちはゲーム機の世界よりも"高次元"の別世界へ跳躍する。それがインターネットの世界だ。
Wi-Fiルーターを通ってネットワークへ飛び出していく描写が秀逸だ。インターネットの通信では、送信したいデータの前後に制御用の情報を付加し、電気信号に変換した上で通信回線へ送り出している。データを制御情報で包み込むこの過程をカプセル化と呼ぶが、『シュガー・ラッシュ:オンライン』では、大男ラルフと少女ヴァネロペそれぞれが、文字どおりカプセルの中に入って通信ケーブルを移動していく。彼らがネットワーク上の各サイトを訪ねる際には、小さな乗り物で送り届けられており、パケット(packet=小荷物)という単位で通信するネットワークの特徴をよく表している。
驚いたことに、たどり着いたインターネットの世界は、前作の多元宇宙のような描き方ではなかった。
前作では、ゲーム・セントラル・ステーション(電源タップ)を介して個々の世界(ゲーム機)に移動できたから、本作でもIX(Internet exchange point)を介して様々な世界(Webサイト)に移動する描き方もできたはずだ。
だが、本作の作り手は、インターネットを巨大なビルが林立する大都会のように表現した。GoogleのビルやPinterestのビルや天猫(テンマオ)のビルが立ち並び、インターネットに接続した人々のアバターでごった返す巨大な都市を、ラルフとヴァネロペはさまよい歩く。
この表現の違いが、前作と本作の印象を異なるものにしている。前作では様々な世界を股にかけて冒険したラルフたち。"高次元"の別世界へ舞台を移した本作では、さらに風変わりな世界を転々とするのかと思いきや、彼らはビルからビルへ移動するものの、それはあくまで一つの大都市の中の出来事に過ぎない。
映画を作るに当たって、ワンウィルシャーを取材したことが影響しているのだろう。
ワンウィルシャーとは、ロサンゼルスにある30階建てのオフィスビルで、米国及び環太平洋地域を結ぶネットワークの最重要拠点である。各階にはコンピューターと通信機器の詰まったシステムラックが林立し、無数のケーブルが機器を結んでいる。ここからインターネット上の多くのサービスが発信され、また、ここを経由して他のサービスに接続されるのだ。
「この建物は、文字どおり上から下までケーブルと筐体でいっぱいです。」前作に引き続き監督を務めたリッチ・ムーアはこう語る。「インターネットをどのように表現するのか。それについては、ここの取材で得たものが出発点でした。」
林立するシステムラックは劇中の高層ビル群に、無数のケーブルは空中を行き交う交通網に、そしてラックやケーブルを収容するワンウィルシャービルは大都市のようなインターネット空間として、本作のビジョンに反映されている。
ラルフとヴァネロペはこの世界で様々なサービスに遭遇する。オークションサイトのeBay、動画投稿サイトのバズチューブ、オンラインレースゲームのスローターレース、検索エンジンのノウズモア(KnowsMore)等々。本作では、その一つひとつが建物として表現されている。スローターレースの建物内にはレース用の仮想空間が広がっており、レースを終えたら建物を出るという寸法だ。

「Oh My Disney」を訪ねたエピソードを観ながら、私は、ディズニー帝国には敵わないと思った。
前作では、会社の垣根を越えていろんなゲームのキャラクターが登場し、観客にアーケードゲームの楽しさを想い起こさせてくれた。セガのマスコットキャラクターでもあるソニック・ザ・ヘッジホッグや、カプコンのリュウやベガや、バンダイナムコのパックマン等々、人気キャラクターが一堂に会す様は圧巻だった。
本作でも歴代のディズニープリンセスだけでなく、スター・ウォーズシリーズのC-3POやストームトルーパー、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のグルート、『トイ・ストーリー』のバズ・ライトイヤー等、人気キャラクターが続々登場する。ピクサーの『メリダとおそろしの森』の主人公メリダ王女が、ディズニープリンセスの中では外様扱いされていたり、群衆に交じってスタン・リーのアバターが歩いていたりと、観客をくすぐるネタもたっぷり用意されている(カイロ・レンの駄々っ子ぶりをおちょくるギャグも予定されていたが、さすがにこれはルーカスフィルムに止められたそうだ)。
けれども、多種多様なキャラクターが揃いながら、恐るべきことに今回は会社の垣根は越えないのだ。スター・ウォーズシリーズを作るルーカスフィルムも、多くのアメコミヒーローを保有するマーベルも、『トイ・ストーリー』等を作ったピクサーも、みんなディズニーに買収されてしまった。GoogleやPinterestにキャラクターはいないから、本作でインターネットの世界を賑やかすキャラクターたちはディズニーが所有するものばかり。「Oh My Disney」のエピソードは、ディズニーによる壮大なセルフパロディでしかないのだが、それが通用してしまうのは、世界的な人気を有するキャラクターがことごとくディズニーのものになっているからであり、他社のキャラクターを借りずとも充分に人気キャラ大集合のエピソードを作れてしまうからだ。
だから、残念ながら『LEGO ムービー』や『レゴバットマン ザ・ムービー』で会社の垣根を越えて人気キャラが集合したときのような驚きはない。それよりも、多くのものがディズニーに呑み込まれ、ディズニーの商品と化していることを改めて思い知らされ、私は恐ろしいくらいだった。
すでにディズニーは20世紀フォックスの買収も進めている。今後はX-MENやファンタスティック・フォーはもとより、プレデターや猿の惑星もディズニー作品の一環として扱われていくのだろうか。

けれども、二人の思いは対照的だった。
ラルフはインターネットで用事を済ませたら、とっととアーケードゲームの世界に帰りたい。インターネットなんて長居するとこじゃないと考えている。
対してヴァネロペは、「シュガー・ラッシュ」よりもっと過酷で、難度が高くて、やり甲斐のある「スローターレース」を離れたくない。毎度同じことの繰り返しでしかない「シュガー・ラッシュ」の生活に戻るなんて、まるで気乗りがしなかった。
親友だった二人の気持ちは、未知の世界に接したことでどんどん乖離してしまう。
本作の原案作りを担当したジョシー・トリニダードは云う。「私たちは観客に二人のさらなる友情を見せようとは思いませんでした。見せるべきは、二人の関係がどう発展するかなのです。」
![シュガー・ラッシュ DVD+ブルーレイセット [Blu-ray]](http://ecx.images-amazon.com/images/I/71Sw9xpKDYL._SL160_.jpg)
「シュガー・ラッシュ」のタイトルを引き継いだ『シュガー・ラッシュ:オンライン』の日本版公式サイトでも、ヴァネロペの位置づけはラルフより上になっており、ヴァネロペが主人公の扱いだ。ディズニー映画は少女のもの、少女が喜ぶ作品として宣伝しようという意図がありありとしている。
しかし、『シュガー・ラッシュ』の原題は『Wreck-It Ralph(ぶっ壊せ、ラルフ)』であり、米国版ポスターはラルフを大きく扱っている。本作の原題も『Ralph Breaks the Internet(ラルフ、インターネットをぶっ壊す)』であり、本シリーズは一貫してラルフ一人が主人公だ。

本作では、そこからさらに前進し、気が置けない仲間との平凡な日常に安住していたラルフが、友の離反という大きな変化をどう受け止めるかが描かれる。
インターネットの世界が大都会を模していることも、ここで効いてくる。それは、林立するシステムラックを視覚化しただけではないのだ。本作は、変化に満ちた都会に飛び込もうとする若者と、変化に乏しい田舎暮らしに満足する中年者の物語なのだ。だから、「スローターレース」の仮想空間でさえ都会の一部として描かれ、前作のお菓子の国や機械生命体の惑星のような突拍子もない世界は出なかったのだ。
本作は、ラルフとヴァネロペ、二人の生き方のどちらが良いとか悪いとかは云っていない。都会で様々な刺激に触れる生き方も充実しているだろうし、勝手知ったる環境で同じことを繰り返してこそ味わえる満足感もあるだろう。
二人の考え方の違いには、過去の経験の差も影響しているのだと思う。いくつもの世界を旅して命懸けの冒険の果てにようやく自分の居場所を見つけたラルフと、基本的に「シュガー・ラッシュ」の生活しか経験していないヴァネロペでは、今の生活への満足感が違ってとうぜんだし、新しい世界への興味の持ち方も異なるだろう。
ともあれ本作では、親友がそばにいることを心の支えにしてきたラルフが、その支えなしに生きる覚悟を決めなければならない。前作以上の成長を求められるのだ。
ディズニーの作品は、往々にしてステレオタイプの悪役が登場し、そいつをやっつけることがクライマックスという単純な勧善懲悪の構造に陥ることがある。近年は工夫が凝らされ、悪役の動機が我が子を失った悲しみだったり(『ベイマックス』)、人種差別への抵抗だったり(『ズートピア』)と、複雑な人間性を描く試みがなされているが、本作はその極北とも云えるだろう。本作でラルフとヴァネロペを襲うのは、ヴァネロペと離れたくないと思うラルフの複製――すなわち、ラルフ自身の肥大化したエゴなのだ。終盤、ラルフは自身のエゴと対決しなければならなくなる。その闘いはあまりにも痛ましく哀しい。
輝かしい未来のある若者を主人公にすることが多いウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオの長編アニメーション映画にあって、自分の居場所を見つけ終えたラルフを主人公に据えた上、その心理的な葛藤をクライマックスに持ってくるなんて、『シュガー・ラッシュ:オンライン』はたいへんな野心作だ。大いに称賛されてしかるべきだろう。
加えて、昨今の映画の常として、LGBTへの目配せがあるのも本作の特徴だ。
摩天楼の上から真っ逆さまに落ちたラルフはディズニープリンセスたちに救われるが、この過程で映画の作り手は、偶然を装ってラルフに女装させ(白雪姫のドレスを着させ)、ベッドで眠るところを王子様(『プリンセスと魔法のキス』のカエルの姿のナヴィーン王子)のキスで目覚めさせる。
以前なら、ドレスを着るのも王子様にキスしてもらうのも女性だけにしか許されなかった。これをあえて男性主人公にさせるのだから、ディズニーも変わったものである。
ただ、あくまで偶然のシチュエーションを装っているところは、イルミネーション・エンターテインメントの怪盗グルーシリーズがゲイ賛歌の大合唱で映画を締めくくったのに比べると、まだおずおずやっている感がある。
それでも、ディズニーは世の中の変化を捉えようとしている。とても好ましいことだと思う。

監督・原案/リッチ・ムーア、フィル・ジョンストン
脚本/フィル・ジョンストン、パメラ・リボン
原案/ジム・リアドン、パメラ・リボン、ジョシー・トリニダード
出演/ジョン・C・ライリー サラ・シルヴァーマン ガル・ガドット タラジ・P・ヘンソン アラン・テュディック ビル・ヘイダー
日本語吹替版/山寺宏一 諸星すみれ 菜々緒 小鳩くるみ
日本公開/2018年12月21日
ジャンル/[ファンタジー] [アドベンチャー] [ファミリー] [コメディ]

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【theme : ディズニー映画】
【genre : 映画】
tag : リッチ・ムーアフィル・ジョンストンジョン・C・ライリーサラ・シルヴァーマンガル・ガドットタラジ・P・ヘンソン山寺宏一諸星すみれ菜々緒小鳩くるみ