【投稿】ガミラス第二帝国の戦争準備―ガトランティス軍とガデル・タラン(その2)― 『宇宙戦艦ヤマト2199』ガミラス考察補論集1 小説~ガトランティス戦争編~

宇宙戦艦ヤマト2199 Blu-ray BOX (特装限定版)
 T.Nさんから『宇宙戦艦ヤマト2199』に関する投稿の続きをいただいたので、以下に公開する。これは、先の投稿「イスカンダルの王権とデスラーの人物像について」の一部を構成するものだ。
 本稿もまた、前回と同じく二人のタラン――軍需国防相の兄ヴェルテ・タランと参謀本部参謀次長の弟ガデル・タラン――の対話形式を取りながら、ガミラスの軍政と用兵の実像に迫っている。特に今回は、ガミラスとガトランティスの戦争を考える上での五つのポイントの二番目、戦争に変化をもたらした敵、ガトランティス軍の姿が明らかにされる。
 一読されれば、これまで公表されたわずかな手がかり――艦艇の形状等――から、ここまで考察できるのかと驚かれることだろう。

---
『宇宙戦艦ヤマト2199』 ガミラス考察補論集1

思考実験としての続編小説~ガトランティス戦争編~

前回から読む

2. ガミラス第二帝国の戦争準備
 ――ガトランティス軍とガデル・タラン(その2)――


メカコレクション 宇宙戦艦ヤマト2199 No.06 ラスコー級 プラモデル ヴェルテは弟が表示したガトランティス艦のそれぞれを身じろぎもせずに見つめている。ラスコー級突撃型巡洋艦、ククルカン級襲撃型駆逐艦といったガトランティスの小型艦艇が窓状のホログラム中に表示されていた。二人にとって生涯忘れ得ぬ数多くの苦い思い出を持つそれらを、ガデルは一瞥すると兄の方に視線を移す。

 ガデルの今夜の講義の第二項目、「ガトランティス軍の姿」は、最初にその概要を述べるところから始まった。

メカコレクション 宇宙戦艦ヤマト2199 No.07 ククルカン級 プラモデル 「…まず最初に、ガトランティス軍の顕著な特徴について述べよう。彼らの戦い方と兵器システムは、従来の我が軍のシステムとはおよそ共通点が無いまでに異なっている。おそらくはアケーリアス時代の戦いの様式から独自の発達を遂げたものだろう。大まかには次のような特徴を有している。
 まず第一に、彼らは古代的な横隊戦列を好んで用いる。縦隊を基本とする我々とは全く異なり、彼らは横隊を基本隊形として陣形を構築し、各種の作戦行動を行っている。(※25)
 続いて第二に、彼らは艦隊戦において航空機の使用を重視している。詳細は後で述べるが、彼らは航空機を我々の実体弾(※魚雷とミサイルの事)と同じ用途に活用している。(※26)
 そして第三に、彼らは大兵力が正面から激突する“会戦”に対応した兵器システムを有している。彼らはその一連の兵器を用い、会戦において横隊戦列と縦隊戦列を組み合わせた用兵を行う。これは彼らの戦いの際立った特徴であり、我々の(大小マゼラン)世界では見られないものだ。そして“小マゼランと大マゼランの会戦”での悲惨な体験によりはじめて明らかになった事でもある。このガトランティスの用兵については後で詳しく言及する。
 …以上、ここではガトランティス軍の特徴について特筆すべき三つを挙げた。ここからはそれぞれについて、小官の見解を交えつつ詳細を述べていきたい」

 ガデルはガミラスから見たガトランティス軍の特徴について述べた。

(※25)映画「星巡る方舟」において、ガトランティスは五隻程度の艦を横一列に並べた隊形で作戦行動を行い、横隊を縦横に連ねた陣形を敷いて戦っている。この事からこの文章では、ガトランティスは大規模な戦いでは(銀河英雄伝説で見られるような)横隊戦列を形成して戦うと想定している。

(※26)宇宙で活動する艦載機とその母艦をそれぞれ「航空機」「空母」と称するのは、本来なら不適切であると考えられる。(SF小説では、宇宙を航行する機械に「空」という字を用いることは一般的ではない。)しかしながら、ヤマト2199では「航空機」「空母」という用語が劇中で用いられている為、この文章においても「航空機」「空母」という用語をそのまま用いる事としている。

 その話を聴くヴェルテは、弟が「俺」「自分」ではなく「小官」と自らを指して述べたのに気付くと一瞬だけ軽く笑みを浮かべた。弟は完全に参謀次長としての話し方をしている。ならばこれから聴く話は軍需国防相としての自分の職務に極めて有益なものとなるだろう。やはり弟との会話は得るものが多い。弟はどのような兵器システムの姿を語ってくれるのか。そう考えたヴェルテは、内心では久しぶりに期待と好奇心で心を躍らせていた。

 ガデルは「ガトランティス軍の横隊戦列」について言及を始めた。

 「…では、第一の特徴である『横隊戦列』について説明しよう。これまでの戦例から、ガトランティスは小競り合い程度の小規模な戦いでは我々と同じ縦隊で戦う事もあるが、大規模な戦闘では横隊戦列を好んで使用する事が分かっている。彼らの横隊戦列は古代、具体的にはイスカンダル帝国以前のそれと比べ次のような違いがある。
 一つは規模が極めて巨大である事だ。古代の横隊戦列が多くの場合、数百隻程度の規模だったのに対し、彼らの横隊戦列は数千隻から数万隻もの規模であり、展開する範囲も古代と比べ桁違いに大きい。
 そしてもう一つは、火力だけではなく機動力も重視している事だ。古代の(横隊)戦列が火力重視の艦艇で構成される鈍重な集団だったのに対し、ガトランティスの横隊戦列は機動性に優れた艦艇で構成され、火力を必要とする地点に迅速に移動できるようになっている。これはおそらくは戦列の巨大化に対応した措置であると思われるのだが、ともかく彼らの横隊戦列は次のような構造になっている」

 そのように言うとガデルはガトランティスの横隊戦列の立体モデルをホログラムボードに表示した。既に表示されていたガトランティス艦の立体モデルが小さくなり、反対に横隊戦列の立体モデルが膨れ上がるように広がり表示される。ガデルは更にそれをゆっくりと回転させて見せた。一枚の大きな戦列の背後にいくつかの小さな正方形が控え、更にその背後に小さな正方形を幾何学状に並べた図形が控えている。(※図26参照)
  ガトランティス軍とガデル・タラン 図26

 ガデルは自らが表示したモデルについて説明を始めた。

 「見ての通り、ガトランティス軍の(横隊)戦列は三つの構造から成り立っている。
 この内最前面の“第一戦列”は、百隻程度の“中隊”をいくつか束ねた“大隊”が縦横に連なる事で形成されている。その背後には小さな部隊がいくつか控えているが、これは第一戦列を形成する各大隊の予備と考えられている。(※図27及び図28及び図29参照)
  ガトランティス軍とガデル・タラン 図27

  ガトランティス軍とガデル・タラン 図28

  ガトランティス軍とガデル・タラン 図29
 そして第一戦列の後方には同程度の規模の“第二戦列”が控えている。この戦列は第一戦列の背後を自由に機動し、第一戦列の任意の箇所に投入され局所的な火力を飛躍的に増強する役割を果たす。第二戦列が投入された箇所の砲火は極めて強烈で、小マゼランと大マゼランでの会戦では我が方の縦隊戦列の実体弾(※ミサイル・魚雷)をことごとく防ぐ威力を見せた。(※図30及び図31参照)
  ガトランティス軍とガデル・タラン 図30

  ガトランティス軍とガデル・タラン 図31
 なお、この第二戦列はガトランティスの大侵攻以前には見られなかったものだ。我が軍は小マゼランと大マゼランの会戦で、万を超える彼らの軍勢と対峙した時に初めてこれを目撃した。おそらく“第二戦列”は、複数の軍団(※ここでの軍団は編制の単位としての軍団である。)が動員される事ではじめて可能になるシステムであると考えられる。その理由については第三の話題、『ガトランティスによる戦争の変化』の所で述べる。(※27)(※28)
 では、今度は装備の面から見たガトランティスの横隊戦列の性質について説明しよう」

(※27)文中でガデルが述べるガトランティス軍の姿は、あくまでガミラス側の認識であり実際の姿とは異なる事もあり得るとこの文章では想定している。ガトランティス人自身が考えるガトランティス軍の姿は、後日別記事にて記述する予定でいる。

(※28)ヤマト2199第18話で示されたように、ガミラスは万単位の巨大な艦隊を動員する事ができる。これと正面から戦争できるガトランティスは、ガミラスと同様に万単位の艦艇を動員し、更には巨大な戦列を形成するとこの文章では想定している。(※図32参照)
  ガトランティス軍とガデル・タラン 図32

 ガトランティスの横隊戦列の基本構造について説明した後、ガデルはホログラムボードの方を向き図を変化させた。小さく表示されていたガトランティス艦が再び大きく表示され、横隊戦列は単純な図形から多数の艦が整列するモデルへと変化する。

 ガデルは話を再開した。

 「ここに示したラスコー(級突撃型巡洋艦)とククルカン(級襲撃型駆逐艦)を見てもらいたい。良く知られているように、ガトランティスの小型艦艇は艦首砲を装備せず、防御も簡易シールドのみと貧弱である。これは我々と同様に艦の量産性を高める為であると考えられる。そうすることで彼らは横隊戦列の巨大化を実現し、艦首砲の不使用による火力の低下を補っている。
 次にラスコーとククルカンの砲塔配置を見てもらいたい。図から明瞭なように、ガトランティスの小型艦艇は艦の正面に最大の火力を投射できるようになっている。これは我々の(大小マゼラン)世界の古代型艦艇と共通した特徴である。しかしその一方で、ラスコーとククルカンは副砲塔を多数設置し、艦の横方向にもそれなりの火力を発揮できるようになっている(※図33参照)。このガトランティスの小型艦艇の砲塔配置は、横隊戦列の機動性を高める為の措置であると考えられる。
  ガトランティス軍とガデル・タラン 図33
 …この図を見てもらいたい。これは横隊戦列の機動の一例を示したものだ」

 そのように言うとガデルはホログラムボードの横隊戦列の図を変化させた。横隊戦列を構成する各艦が一斉に向きを変え、横隊戦列は横にスライドするような機動を始めた。真横、斜め、垂直方向とガデルが艦の向きを変える度に、横隊戦列はその方向へスライドするように動く。(※図34参照)
  ガトランティス軍とガデル・タラン 図34

 「…この(横隊戦列の)機動は主に、戦列が機動する敵を高速で捕捉する際に使用される。これを行うと、例えば古代型艦艇は艦首砲を敵に向けられない為火力が大幅に減少してしまう。これに対しガトランティス艦は艦首砲を装備せず、かわりに副砲を多数装備するため火力はそれ程減少しない。つまり、高速で機動し敵を横隊戦列の正面に捉えるという行動を採っても、その過程で常に砲火が劣勢にならないようにしているのだ。(※図35参照)
  ガトランティス軍とガデル・タラン 図35
 艦首砲の不使用と副砲の装備、そして船体の殆どをエンジンとする機動性能の重視(※図36参照)。こうしたガトランティスの小型艦艇の特徴は、本来高速の機動を行えば火力を発揮できない、即ち射撃戦が始まれば鈍重な動きしかできない横隊戦列に高い機動性を与える為のものであると考えられる。
  ガトランティス軍とガデル・タラン 図36
 従ってガトランティスの横隊戦列は、古代の横隊戦列とは異なり、火力と機動力の両立を図っていると言う事ができるだろう。それでは火力については、ガトランティス艦の装備はどのような貢献をしているのか」

 “火力と機動力の両立”というガトランティスの横隊戦列の特徴についてガデルは述べると、次に彼はホログラムボードに表示していたガトランティス艦を更に拡大し、輪胴砲塔の辺りを指で指し示した。彼は話を続ける。

 「…ここに示したガトランティス艦の輪胴砲塔に注目してもらいたい。このガトランティス特有の装備は非常に広い射界を持ち、しかも射撃の方向を瞬時に変える事ができる(※図37参照)。これを利用する事で、ガトランティスの横隊戦列は火力に関し独特の効果を発揮する事ができる」
  ガトランティス軍とガデル・タラン 図37

 ここまで言ったところでガデルはホログラムボードのガトランティス艦を小さくし、代わりに横隊戦列の図を再び変化させた。横隊戦列を構成するガトランティス艦の数がどんどん増えていき、ホログラムボードを埋め尽くす巨大な戦列となった。

 ガデルは火力の面から見たガトランティスの横隊戦列の性質について言及を始めた。

 「今ここに巨大な横隊戦列があるとしよう。この戦列がある一つの標的に集中射を行うとする。この一見簡単な行為を行うのに、例えば古代型艦艇ならいくつかの難題に直面するだろう。
 まず、標的が往々にして艦の真正面からあさっての方位にいるため、艦首砲を標的に向けるのに艦を大きく回転させねばならない。また、個々の艦は多くの場合自艦の真正面に敵がいるため、それと戦いつつ艦首砲を向けねばならない。これでは多数の艦首砲を向けるのに時間がかかり、目標を次々に変える迅速な集中射を行うのが難しくなる。多数の標的に高速で機動されると、その覆滅が困難になるのだ。
 これに加え、正面の敵を無視しあさっての方位へ艦首砲を向ける事自体が難しい事を考えると、集中射には旋回砲しか使用できず、戦列の規模の割に大した火力を集中できないという事態すら生じるだろう。つまり戦列が巨大化すると、古代型艦艇は状況に対応しづらくなるのだ。(※図38参照)
  ガトランティス軍とガデル・タラン 図38
 これに対しガトランティス艦は、その装備によりこうした問題に容易に対処する事ができる。
 まず第一に、輪胴砲塔の効能でどの方位にいる敵に対しても、瞬時に目標を切り替え集中射を行う事ができる。
 また、多数の輪胴副砲塔を装備し、艦の横方向や斜め方向にもそれなりの火力を発揮できるため、正面の敵と戦う最中に瞬間的にあさっての方位へ大量の砲火を浴びせ、すぐ正面の(敵との)戦いに戻るという芸当も可能である。(※図39参照)
  ガトランティス軍とガデル・タラン 図39
 これによりガトランティスの巨大な横隊戦列は、その規模に見合った大火力を集中する事ができる。戦列の局所的な火力を瞬時に高め、高速で機動する敵部隊を次々に粉砕できるのだ。結論としてガトランティスの小型艦艇は、『巨大な戦列における火力の効率的運用』という課題を、達成していると言う事ができるだろう。
 …以上、ここでまとめておこう。ガトランティスの横隊戦列は古代のものと比べ、規模が巨大で戦闘中も高い機動性を発揮する。また、巨大な戦列にもかかわらず、戦列前面のいかなる場所に対しても猛烈な砲火を素早く集中できる。そして集中射を行う標的を瞬時に切り替え、次々に砲撃する事ができる。これによりガトランティスは、巨大な戦列が持つ大火力を有効利用する事ができる。艦艇の機動と“火力の機動”により、必要な箇所に必要な火力を的確に供給できるのだ(※図40参照)。これは古代型艦艇では難しかった事だ。従って、ガトランティスの小型艦艇の『量産性や高い機動性能、輪胴砲塔と多数の副砲』という諸々の性質は、アケーリアス時代から横隊戦列が抱えていた課題を克服する為に発達したものであると考えられる」
  ガトランティス軍とガデル・タラン 図40

 「ガデル、質問しても良いか」

 ガトランティスの横隊戦列について総括したガデルに、それまでずっと弟の講義を聞いていたヴェルテが口を開いた。

 「“輪胴砲塔と副砲のシステム”の脅威についてだが、それはガトランティスの大侵攻後に認識された事なのか?
 ガトランティスの大侵攻以前に兵器開発局で行われた調査では、輪胴砲塔と副砲のシステムが我々の旋回砲よりも有用であるという見解は示されていない。論拠は次のようなものだ。
 第一に、多数の砲身を持つ輪胴砲塔は、我々の旋回砲よりも構造が複雑で高コストである事。
 第二に、砲塔を多数備えるガトランティス艦のシステムは、艦首砲ほどではないが少なくないエネルギーを消費するため、機動性能と両立させるのにエンジンの大型化が必須である事。
 そして第三に、こうした構造の艦に我々の艦隊が大損害を受けたという報告が前線から寄せられなかった事だ。
 これらの事から兵器開発局は、輪胴砲塔と副砲のシステムについて『高コストな割に効果は低い』と結論づけている。
 ガトランティスの小型艦艇が我々のものよりも高コストであるのは、例えばククルカン(級襲撃型駆逐艦)とクリピテラ(級駆逐艦)を見ればはっきりしている事だ。どちらも両軍の中で最も小型で最多の艦艇だが、ククルカンはクリピテラよりもずっと大きい船体とエンジンを有している。当然ククルカンは生産コストも高いと考えられていて、もし我々が同じ仕様の船を作れば、クリピテラの三倍近いコストを要するだろうと兵器開発局は試算している。(※図41参照)
  ガトランティス軍とガデル・タラン 図41
 こうした艦艇がコストに見合うだけの脅威になるというのは、ガトランティスの大侵攻で判明した事なのか?参謀次長としての見解を聞きたい」

 軍需国防相としての知見を交えたヴェルテの質問に対しガデルは答えた。

 「輪胴砲塔と副砲のシステムの効能は、兄さんの言う通りガトランティスの大侵攻によって判明した事だ。ガトランティスの横隊戦列のシステムはそもそも、規模が巨大になった時に初めてその真価を発揮する(※図42参照)。その為我が軍は(ガトランティス軍の)大侵攻で敵の大軍と対峙するまで、その脅威に全く気付かなかったのだ。更に言えば、我が軍は大侵攻以前の戦いでガトランティス軍に容易に勝利していた為、なおさらその装備に注意を払わなかった。その結果我々は正に、大侵攻を受けた際に大きなツケを払う事となった。それについては後で話すとして、講義を先に進めたい。よろしいだろうか」
  ガトランティス軍とガデル・タラン 図42

 ガデルは兄に確認を取った。兄が話の続きを促すと、ガデルは再び講義を再開する。

 ガトランティス軍の特徴について語るガデルの講義は、「横隊戦列」の話から次に「航空戦力」の話へと移っていった。

 「…それでは次に、ガトランティス軍の第二の特徴である『航空戦力』について説明しよう。ガトランティスは我々とは異なり、艦隊戦において航空機の使用を重視している。現代の我々が惑星の制圧や拠点防衛にしか航空機を用いないのに対し、彼らは広大な星間空間での艦隊戦においても、航空機を大々的に使用しているのだ。何故このような違いが存在するのか。それは、彼我の戦闘様式の違いに理由があると考えられる。(※29)
 まず、我々の側から見てみよう。一般に、高速の機動とゲシュタムジャンプを駆使する我が軍にとって、航空機は扱いづらい兵種である。艦艇を上回る機動性能を持つものの空間跳躍できない航空機は、我々の艦隊が多用する長距離の連続機動に追随する事ができない。また、母艦からの発進と収容に時間がかかるため、艦隊に航空部隊を随伴させると作戦のテンポが落ちてしまう。こうした欠点が機動戦の行われる戦場で致命的である事は、戦史を紐解くまでも無くガトランティスとの戦いで度々示されてきた。
 …次の図を見てもらいたい。これは(ガトランティスの)大侵攻以前の小マゼランで行われた典型的な戦いを示したものだ」

(※29)「ヤマト2199」や映画「星巡る方舟」の描写を見ると、ガミラスとガトランティスの航空機の扱いには顕著な違いが認められる。
 まずガミラス側の場合、第1話の冥王星沖海戦や第11話冒頭のガトランティス討伐戦にガミラス軍は空母を全く随伴していない。さらにドメル軍団で「航空戦隊長」の肩書きを持つライル・ゲットーは、ヤマト2199第15話において何故か巡洋艦や駆逐艦の部隊を率いてヤマトを攻撃している。これらの描写から、ガミラスは艦隊戦に航空機を用いていないと考えられる。
 一方、ガトランティス側はそれとは全く対照的に艦隊に空母を随伴し、航空機を積極的に使用している(※ヤマト2199第11話及び映画「星巡る方舟」の描写より)。

宇宙戦艦ヤマト2199 1/1000 ナスカ級キスカ 艦隊戦に航空機を用いないガミラスと大々的に使用するガトランティス――。対照的な両者の姿について言及するとガデルはホログラムボードに図を表示し、かつてガトランティスが大小マゼランに大挙侵攻する以前に行われた両者の戦いについて説明を始めた。

 「…この図の中央にいるのが我が軍の艦隊、そこから少し離れた宙域にいるのがガトランティス軍だ。ガトランティスは航空機を艦隊の前方に進出させ、我が方の艦隊に攻撃を試みる(※30)。対する我が方は敵機の接近を確認すると退却し、敵機を遠くへと釣り出す。敵機と敵艦隊が十分に離れた所で我が方はゲシュタムジャンプし、敵機の追撃を振り切る。離脱した我が方はすぐに再びゲシュタムジャンプし、敵艦隊のいる宙域に舞い戻る。敵艦隊を捜索し捕捉・撃滅した後(のち)、我が方はその場に留まらず離脱する。敵機は味方のいた宙域に戻った時には母艦が失われており、そのまま宇宙を漂流する他無くなり戦わずして全滅する。(※図43参照)
  ガトランティス軍とガデル・タラン 図43
 ここに示した戦例で留意すべき事は、航空機を発進させると、収容するまで母艦と艦隊は遠くへ移動できなくなるという事だ。たとえ航空機の発進後移動したとしても、航空機に空間跳躍能力がない以上、彼らを収容する為母艦と艦隊は必ず航空機の近辺に留まらざるを得ない。つまり、航空機を発進させると、艦隊は作戦レベルの機動性を喪失してしまうのだ。我が方からすれば、ゲシュタムジャンプで航空機を翻弄しつつ、敵艦隊を探し出し襲撃を仕掛けるのは容易な事であった。(※31)
 …次にこの図を見てもらいたい。これは先程述べた戦例の一局面で、敵艦隊を捜索する我が方の艦隊が空母を擁する敵部隊と遭遇した所だ。この時敵は空母を我が方から遮る様に横隊戦列を展開し、戦列の裏で空母は航空機を発進させようとする。これに対し我が方は実体弾(※ミサイル・魚雷)の集中射で戦列に突破口を開けると、一隊を突入させ空母を護衛部隊ごと包囲して撃滅する。(※図44参照)
  ガトランティス軍とガデル・タラン 図44
 (ガトランティスの)大侵攻以前の戦いにおいて、我が軍は航空機を使用しようとするガトランティス艦隊をしばしばあっさりと全滅させている。何故そうなったのか。それはひとえに、彼らが空母を持つ故に『動けなかった』からだ。我が方と接敵し、積極的に機動を仕掛けねばならない局面で彼らは航空機を発進させる為に“静止”し、我が方をただ受身となって待ち受けた。我が方は『有利な位置への機動』(※32)を仕掛け、この時期の敵が小兵力であった事もあり、容易に戦列を突破し空母を直接衝いた。敵は空母を護衛する為これまた動く事ができず、殆ど静止状態で我が方の射撃を浴びる事となった。(※33)
 この戦例が明瞭に示すように、空母を艦隊戦で積極的に活用しようとすると、艦隊は機動を仕掛ける時機を逸してしまう。有利な位置を巡り互いに高速の機動を駆使しあう機動戦において、これは正に致命的な事であった。
 …ここまでで我が方にとっての航空戦力についてまとめておこう。空間跳躍できない航空機と、艦隊機動の妨げになる空母のシステムは、高速の機動とゲシュタムジャンプを多用する現代の機動戦に適さない。その為機動戦を用兵の根幹とする我々は、艦隊戦に空母を用いていない。空母と航空機は専ら、動き回る事のない惑星の制圧や、向かって来る敵を迎撃するだけの拠点防衛にのみ使われている。広大な星間空間で機動戦を繰り広げる我々にとって、空母と航空機は補助的な存在でしかありえないのだ。(※34)(※35)
 …では、今度は立場を変えて、ガトランティスの側から航空機について見てみよう。彼らの戦いの様式では、航空機は一体どのような存在となるのか」

(※30)映画「星巡る方舟」にはガトランティス軍が空母を艦隊の前方に進出させる描写が出てくる。この描写から、攻撃機のデスバテーターには空間跳躍能力は無いと考えられる。もしデスバテーターが空間跳躍できるなら、対艦能力に乏しく格好の標的となる空母をわざわざ艦隊の前方に進出させる必要が無いからである。

(※31)ガミラス軍の索敵能力の高さを証明する事例として、ドメル軍団が極めて広大な銀河間空間をただ一隻で航海するヤマトの動向を把握し続けた事が挙げられる。およそ1万5千光年の広がりを持つ大小マゼラン銀河や、十数万光年の距離のある銀河間空間で活動するガミラス軍にとって、ワープ能力を持たない有人機が活動できる範囲内(狭いコクピットで操縦する事から、パイロットの体力の限界上艦隊からせいぜい数時間程度の距離内でしか活動できないと考えられる)にいる敵艦隊を捕捉するのは容易な事ではないだろうか。

(※32)「有利な位置への機動」とは、ガミラスの「機動戦」を構成する三つの戦闘形態の内の一つである。詳しくは前々回の記事「ガミラス第二帝国の戦争準備―イスカンダル帝国の興亡史―」の図7を参照の事。

(※33)空母は航空機の発着時に激しい機動を行えない為、この時に攻撃されると殆ど回避運動もできずに護衛部隊ごと全滅する可能性が高いと考えられる。従ってドメルのように創意工夫に富んだガミラスの指揮官は、航空機の発着の瞬間を衝いてワープ・襲撃を仕掛ける事もあったと考えられる。ヤマト2199でドメルが見せたガトランティスへの鮮やかな勝利は、そうした戦例の一つであったと想像する事もできるのではないだろうか。

(※34)文中でのガデルの発言のように、ガミラスでは航空機が主要な戦力と見なされていない事を窺わせる描写が劇中には幾つか存在する。
宇宙戦艦ヤマト2199 メカコレクション 大ガミラス帝国軍艦載機セット ~太陽圏の攻防編~
  • ガミラスの戦闘機が科学技術の遅れた地球の戦闘機と互角に戦っている事。ガミラスの艦艇が地球艦に対し絶望的な程の性能差を見せ付けたのに対し、ガミラスの戦闘機は不思議にもイスカンダルの技術供与を受ける以前の地球で作られたコスモファルコンと同等の性能しか持っていない。もっともこの件に関しては、地球の戦闘機はガミラスだけではなくガトランティスのデスバテーターとも互角に戦えている事から、ヤマト2199の世界では航空機に用いられる技術レベルはそもそも決して高くないと考える事もできるだろう。
     しかしながら、ヤマト2199第1話でコスモゼロを一気に振り切る機動を見せたスマルヒ偵察機の存在を考えると、ガミラスはその気になれば地球機を懸絶する戦闘機を開発・量産できるはずである。にもかかわらず“低性能”な機体しかガミラスに存在しないのは何故なのか。それはガミラスが元々航空機に技術や資源を投じる程の価値を認めていなかった為ではないだろうか。

  • 冥王星沖海戦やドメルのガトランティス討伐戦のような“正規の艦隊戦”に航空機が使用されていない事。

  • 宇宙戦艦ヤマト2199 メカコレ 大ガミラス帝国軍艦載機セット ~銀河の果て編~
  • 艦上爆撃機のスヌーカや艦上攻撃機のドルシーラが二線級の兵器とされてしまっている事。「宇宙戦艦ヤマト2199全記録集 vol.2」及び「公式設定資料集[GARMILLAS]」の記述によると、両機は辺境宙域が“主な活躍の場”とされ名実共に一線を退いた存在となっている。
 以上の描写から、筆者はこの文章において「ガミラスにとって航空戦力は補助的な存在でしかない」という想定を行った。

1/1000 ガイペロン級多層式航宙母艦「ランベア」 (宇宙戦艦ヤマト2199)(※35)スヌーカやドルシーラが“旧(ふる)い兵器”とされている事やガイペロン級空母にシュデルグのような“老朽艦”が存在している事から、ガミラスにおける“空母と航空機のシステム”は、元々ガミラスが帝国を形成する以前から存在していたと考えられる。当時のガイペロン級空母やスヌーカやドルシーラは、専らサレザー恒星系を侵略しに来る外敵を迎撃する(用兵的には“拠点防衛”に該当する)のに使われていたと思われる。
 一方、ポルメリア級空母は艦底部に地上掃射用の大口径レーザー砲を持つなど惑星制圧に適した仕様である事から、ガミラスが大小マゼランを征服していった時代に“惑星制圧用の兵器”として新規に開発されたと考えられる。(※図45参照)
  ガトランティス軍とガデル・タラン 図45

 ガミラスにとって航空戦力がどのような存在であるのかを丁寧に解説すると、ガデルは続いてガトランティス軍のシステムにおける航空戦力の姿について言及を始めた。

 「…この図を見てもらいたい。これは大侵攻以前の戦いと大小マゼランでの会戦から推定した、ガトランティス軍の用兵である。
 図の両端にそれぞれガトランティス軍と敵軍が布陣している。両軍は共に横隊戦列を敷き接近を開始する。ガトランティス軍は空母を先行させ、航空機でまだ本隊の遥か前方にいる敵軍を攻撃する。空母は敵を打撃すると同時にその数と動向を本隊に伝え、敵が予想外の位置に移動しないように牽制する。
 続いてガトランティス軍は、空母からの情報を元に前進を続け、空母と合流後に会敵する。彼我の横隊戦列が接触し射撃戦が始まる直前、ガトランティス軍は再び航空機を発進させ、遊撃隊として待機させる。戦列同士の射撃戦が始まると、ガトランティス軍は航空機に敵戦列の翼側を攻撃させ、自らの戦列も敵の側面に回り込むように機動を開始する。敵軍は航空機の妨害でガトランティス軍の機動に追従できず、ガトランティス軍に側面へと回り込まれる。こうして敵軍の横隊戦列は、弱点である側面に集中砲火を受けて崩壊する。(※図46参照)(※36)
  ガトランティス軍とガデル・タラン 図46
 この図のように、ガトランティス軍の用兵は横隊戦列同士が正面からぶつかり合う戦場を想定していると考えられる。こうした戦いの様式であれば、航空機は有用な存在になるだろう。戦闘の展開が緩慢で、空母の欠陥が問題にならないからだ。この様式は機動戦とは対照的に、彼我の戦列がゆっくりと接近して戦闘が始まり、戦闘中も戦列が激しく動き回らない。よって空母は航空機を発進させる時間を得られ、空母が艦隊機動の妨げになる事も無いのだ。
 空母から無事に発進する事さえできれば、航空機は丁度我々の実体弾と同じ役割を果たす事ができる。味方の戦列と交戦中の、敵戦列の機動を妨害する事だ。
 一般に航空機は、極めて貧弱な火力ゆえに敵戦列との正面切った撃ち合いには耐えられない。また、大量の数がなければ艦隊に大損害を与える事もできない。(※37)(※38)
 しかし、艦艇を上回る機動性能で敵戦列の端に回り込み、攻撃を加え敵の機動を妨害するだけなら、比較的少数(の兵力)でも任務を達成する事が可能である。従って、横隊戦列同士が戦うのであれば、航空機と空母のシステムは艦隊戦で有用な存在になると考えられる。
 …以上、ここでまとめておこう。ガトランティス軍は我々とは異なり、艦隊戦で航空機を大々的に使用している。我々が行う機動戦では航空機は足手まといにしかならないのに対し、彼らが想定する横隊戦列同士の戦いでは、航空機は効果的な戦力に成り得るからだ。航空機と、高い機動性を持つ彼らの横隊戦列を組み合わせる事で、彼らは古代的な横隊戦列を用いる敵を圧倒してきたのではないかと考えられる」

宇宙戦艦ヤマト2199 1/1000 ナスカ級キスカ
(※36)ガトランティスの航空機運用に関して、映画「星巡る方舟」ではナスカ級空母の前衛打撃群がヤマトに攻撃を加え、ヤマトの情報(艦種と行動)を本隊に連絡している。またヤマト2199第11話では、ドメル軍団と対峙したガトランティス艦隊が航空機を発進させようとしている。筆者はこれらの描写を元に文中におけるガトランティス軍の用兵を想定した。

(※37)「戦力の迅速な展開」という観点から見ると、空母のシステムは艦隊戦の規模が大きくなればなる程戦力としての効率が悪くなると考えられる。空母一隻あたりの艦載機数を多くすれば(カタパルトの数の制約から)航空部隊の発艦に時間がかかり、逆に艦載機数を少なくすれば多数の空母が必要となり部隊のコストが跳ね上がるからである。
 したがって航空機の使用を重視するガトランティスといえども、大量の艦艇で艦隊戦を行う以上、航空機のみで敵艦隊を覆滅する運用は行っていないと考えられる。

(※38)余談となるが、ガミラスは航空機だけではなくワープ能力を持つ宙雷艇も艦隊に随伴させていない。これは宙雷艇の武装が正面切った艦隊戦に堪えられないほど貧弱である為と考えられる。(逆に言えば、クリピテラ級駆逐艦の「貧弱なビーム兵装」や160mというサイズは、「敵艦と正面切って戦える最小限の仕様」であると想像する事もできるのではないだろうか。)

 「ガデル、また質問しても良いか」

 ガトランティスの航空戦力について総括した弟に、再びヴェルテが質問を始めた。

 「今説明してくれたガトランティス軍の用兵は、敵が空間跳躍を多用しない事が前提となっているのか?
 我々やかつての(大小マゼラン)諸国軍のように(ゲシュタム)ジャンプによる急襲と撤退を多用する相手には、航空機は索敵や(本隊の)会敵前の牽制攻撃に使えないのではないか。不意討ちの危険を考えれば、空母を艦隊から先行させる運用も為されないだろう。ガトランティスのエンジンは我々のものとは異なり、短時間の休憩を挟んでの連続ジャンプはできない性質を持つが、相手も同様のエンジンであるとの前提でこの用兵は成り立っているのか?」

 ヴェルテはガトランティスのエンジンの特徴について少し触れた。

 兄の問いかけに対し、ガデルが答える。

 「ご指摘の通り、ゲシュタムジャンプを多用する機動を行えば、航空機は翻弄されるばかりとなり索敵や牽制攻撃の役に立たなくなる。艦隊から先行する空母も、格好の標的となるだけだろう。従って、今述べたガトランティスの用兵は、まさしく敵が空間跳躍を多用できない事を前提としていると考えられる。
 それと、ガトランティス軍の航空戦力の重用ぶりを見る限り、彼らが低出力系統波動エンジンのような性質のエンジンとの戦いを、元々想定していなかった可能性は高いだろう」

 「つまり、彼らと我々の戦い方の相違は、採用している技術の相違からも生じているという事なのか」

 「そういう事になるな、兄さん」

 畳み掛けるように質問した兄に、ガデルは少し考えを巡らせると兄の見解に同意した。

 航空戦力に関するガミラスとガトランティスの違いは、両者の戦闘様式の違いから生じている。そして両者の戦闘様式の違いは、両者が用いる技術と関係している――。

 思いがけず技術と戦いの関係について話を振ってきたヴェルテに、ガデルは詳細な回答を始めた。

 「…そもそもガトランティスのエンジンは、以前兄さんが講義してくれたように次のような性質を持っている。
 第一に、出力が大きく空間跳躍距離に優れる。そして古代アケーリアスやイスカンダルとは異なり、大部隊が一斉に空間跳躍する事が可能である。この性質は、兄さんの言を借りれば『宇宙を漂流する帝国』であるガトランティスが、大軍団で外宇宙から飛来するのに必要不可欠なものであっただろう。(※39)
 続いて第二に、大出力であるが故に、大部隊が空間跳躍する際の空間負荷が大きい。その為大部隊が跳躍する際は、時空震や空間断裂等の事故を防ぐため整然とした隊形をとる必要がある。(※40)
 そして第三に、低出力系統波動エンジンとは異なり、短い休憩を挟んでの連続跳躍ができない。(※41)
 以上挙げた三つの性質の内、第二と第三の性質は、おそらくは我が方との戦い方の違いを決定的なものにしただろう。
 我々の行う機動戦が、そもそも古代に低出力系統波動エンジンが生まれた結果発達した事を思い返してもらいたい。大部隊の連続ジャンプが可能な低出力系統波動エンジンは、彼我の戦列が激しく動き回り、戦いの展開も素早い機動戦を生み出した。
 一方、大部隊の一斉跳躍が可能だが迅速な機動には制約のあるガトランティスのエンジンは、戦列の動きが少なく、戦いの展開も緩慢な横隊戦列同士の戦いという、アケーリアスや古代イスカンダルの時代の戦い方を継承させた。彼らは独自に生み出したエンジンを元に、古代の戦い方を改良する道を選んだのだ。
 従って、『採用している技術の相違も戦い方の違いに関わってくる』という、日頃兄さんが話している事はガトランティスについても当てはまると言えるのではないだろうか」

(※39)この文章では、イスカンダルとアケーリアスのエンジンは大部隊が一度に空間跳躍できないとしている。詳細については前々回の記事「ガミラス第二帝国の戦争準備―イスカンダル帝国の興亡史―」を参照の事。

300ピース ジグソーパズル 宇宙戦艦ヤマト2199星巡る方舟 ヤマトxガトランティスxガミラス(26x38cm)(※40)映画「星巡る方舟」では、ヤマトがシャンブロウに逃げた事を(空間航跡の解析で)探知したゴラン・ダガームが、旗下の艦隊に「全艦、空間跳躍の陣を敷け」と命じるシーンがある。筆者はこの描写を元に「ガトランティスのエンジンは空間跳躍の際に整然とした隊形をとる必要がある」という想定を行った。

(※41)ヤマト2199劇中では、ガミラス軍は大部隊で敵の直近にワープアウトして攻撃を仕掛け、さらにはごく短時間の休憩を挟んでの連続ワープを行っている。(ヤマト2199第10話、第15話)
 このようなワープを多用できる相手にワープ能力の無い航空機を使用することは、文中でガデルが述べたように敗北の原因にもなりかねないと考えられる。にもかかわらずガトランティス軍が艦隊戦に航空機を大々的に使用しているのは、ガトランティスのエンジンが短い休憩を挟んでの連続ワープの能力を持たず、それ故に上記の「航空機の問題」を認識する事が無かったからではないかと考えられる。

 「…古代アケーリアスに古代イスカンダル、そして我々。どれも皆、自らが持つ技術を最大限に生かす為に独自の用兵を発達させた。ガトランティスも例外ではなかったという事だな。よく分かった、ガデル。
 ところで、今まで話を聞いてみて思ったのだが、ガトランティス軍は様々な面で古代的な特徴を残した軍隊なのだな。だが彼らの大型艦艇は、中でも最も古代的な特徴を持つ存在ではないのか?それについての言及はこれから行うのか?」

 「無論そのつもりだ、兄さん」

 技術の話に続き、ガトランティスの大型艦艇の話を振ってきたヴェルテにガデルは短く応えた。

 「これから話す事は、ガトランティス軍のシステムと古代の戦いの関連性を強く意識させるものになるだろう。彼らは確かに、古代アケーリアスや古代イスカンダルの時代の戦いから、我々の(大小マゼラン)世界とは全く異なる進化の過程を辿ったんだ。
 では、話を再開しよう。これより、ガトランティス軍の第三の特徴、『会戦に対応した兵器システムと用兵』について説明を行う」

 ヴェルテの質問で多少くだけた口調となっていたガデルは、再び講義の為の改まった口調に戻ると、ガトランティス軍の第三の特徴について言及を始めた。

 「ガトランティス軍は従来の我が軍とは異なり、万を超える大軍が正面から激突する“会戦”に対応した兵器システムを有している。これまで解説を行った、ガトランティスの巨大な横隊戦列、それに対応した小型艦艇の装備、そして航空機。これらは全て、会戦に対応したシステムの一環である。我々はガトランティスの大侵攻によって初めて、彼らのシステムの本当の姿を目にしたのだ。
 それに加え、彼らは更に、会戦での使用に特化した特別な兵器を有している。それこそが彼らの大型艦艇であるのだ。『会戦に対応した兵器システム』の中核とも言うべきそれらは、用兵の観点から見れば次のような特徴を有している」

コスモフリートスペシャル 宇宙戦艦ヤマト2199 メダルーサ級殲滅型重戦艦 メガルーダ 多少熱のこもった口調で話を始めると、ガデルはホログラムボードにガトランティスの大型艦艇の立体図を表示した。メダルーサ級殲滅型重戦艦と、ガトランティス人が“大戦艦”と称する大型戦闘艦のホログラムが空中に浮かび上がる(※42)。ガデルはそれらに手をかざし、ホログラムボードから引き出すようにしてヴェルテの目の前へと持っていった。ヴェルテはホログラムを“受け取る”と、あたかも模型を観賞するかのように手でグルグルと回転させる。

(※42)ガトランティスの大戦艦はヤマト2199や映画「星巡る方舟」の資料に全く登場しない。その為、筆者は文章を書くにあたり大戦艦の仕様をメカコレクション・モデルの形状や他の艦艇との比較を基に独自に設定する事とした。(※図47と図48、及び図49と図50参照)
  ガトランティス軍とガデル・タラン 図47

  ガトランティス軍とガデル・タラン 図48

  ガトランティス軍とガデル・タラン 図49

  ガトランティス軍とガデル・タラン 図50

 兄が少しの時間をかけ二つの大型艦艇の形状を細部まで確認したのを見届けると、ガデルは話を再開した。

 「…図をよく見て頂けただろうか。図からも明瞭なように、ガトランティスの大型艦艇は大威力の艦首砲を装備し、艦の前方に最大の火力を投射できるように武装を配置している。また、強大な火力を有し重防御な半面、機動性能はそこそこでしかない。即ち、古代世界の大型艦艇と同じ構造を有しているのだ。(※図51参照)(※43)
  ガトランティス軍とガデル・タラン 図51
 更にガトランティスの大型艦艇は、部隊としては古代と同じく小規模な横隊戦列を敷いて戦う事が確認されている。つまるところガトランティスは、我々の世界では古代に消えた様式の兵器を現代でも使用していると言う事ができるだろう。この事実は、ガトランティスの兵器システムがそもそも、古代アケーリアスの時代に起源を持つのではないかという想像を可能にしている。
 では、ガトランティスの大型艦艇は会戦においてどのように使用されるのか。大小マゼランでの会戦から判断する限り、それらは小型艦艇や空母と組み合わされて“突撃縦隊”を形成し、敵戦列を突き破り破砕する役割を与えられていると考えられる。…この図を見てもらいたい。これはガトランティスの突撃縦隊を表したものだ」

(※43)ガトランティスのメダルーサ級には「盗掘」した異星文明の大口径ビーム砲が装備されている(「星巡る方舟」パンフレットより)。こうした事例から、筆者は古代アケーリアスや古代イスカンダルの時代の戦闘艦艇、特に波動砲を装備する古代イスカンダル艦と戦っていた諸種族の大型艦艇はこのような巨大火砲を装備していたのではないかと想像している。

 そのように言うとガデルはホログラムボードに突撃縦隊の立体モデルを表示した。一本の図太い直方体の表面に数千隻もの艦艇が配され、直方体の内部に小さな艦隊が配されている。ガミラスやかつての大小マゼラン諸国軍の縦隊戦列とはおよそ異なるその姿に、ヴェルテはうむ、と小さく唸った。(※図52参照)
  ガトランティス軍とガデル・タラン 図52

 ガデルは説明を続ける。

 「この彼ら独自の隊形は次のような構造になっている。まず、縦隊の先頭に大型艦艇の横隊戦列が配される。この戦列は古代の標準的なものと同じく、数百隻程度の小規模な戦列であり、敵の陣形に大火力を投射し突破口を開ける役割を持つ。これを構成する艦艇は大戦艦が殆どであり、メダルーサはごく少数だけ配されている。
 続いて横隊戦列の斜め後ろにラスコー(級巡洋艦)の部隊が配される。これらは大型艦艇の横隊戦列の側背を守り、横隊戦列が空けた突破口を広げる役割を果たす。
 ラスコーの部隊の後ろにはラスコーとククルカン(級駆逐艦)の混成部隊が追随し、突撃縦隊の側面を固める。
 尚、突撃縦隊の内部にいる部隊はナスカ(級打撃型航宙母艦)を中心とする空母部隊だ。この部隊は突撃縦隊が敵戦列を突破し敵を壊滅させる段階で大きな役割を果たすが、それについてはまた後で述べる。(※図53と図54、及び図55と図56参照)(※44)
  ガトランティス軍とガデル・タラン 図53

  ガトランティス軍とガデル・タラン 図54

  ガトランティス軍とガデル・タラン 図55

  ガトランティス軍とガデル・タラン 図56
 …以上が、ガトランティスの突撃縦隊の概要だ。この隊形は我々の世界の縦隊戦列と比べ、規模が格段に大きくそれ故に方向転換に時間がかかり、機動性に大きく劣る。しかし直進時の速度には優れ、何より絶大な衝撃力を発揮する。この隊形は純粋に、正面から対峙する敵の大軍を粉砕する為のものなのだ。
 それ故に、小兵力同士が戦っていた(ガトランティスの)大侵攻以前の戦いでは、ガトランティス軍は突撃縦隊を全く用いなかった。万を超える大軍同士が激突した大小マゼランでの会戦において初めて、ガトランティス軍は大型艦艇を投入し、我々はそれらが作る突撃縦隊の威力を目の当たりにした。
 それでは次に、会戦におけるガトランティス軍の用兵について説明しよう。巨大な横隊戦列や突撃縦隊といった、彼らの『会戦に対応した兵器システム』は、戦場でどのように組み合わされて運用されるのか」

(※44)図53にて記述したパンツァー・カイル(戦車の楔)の出典については以下を参照の事。
――歴史群像アーカイブVol.2 「ミリタリー基礎講座 戦術入門」 Gakken P.38

 ガトランティスの突撃縦隊の概要を説明すると、ガデルはホログラムボードに一枚の図を表示した。色の異なる二つの軍隊が向かい合っている。両者はそれぞれ二重の横隊戦列と思しき陣形を敷いていた。ガデルが解説を始める。

 「この図でこれから示すのは、小マゼラン及び大マゼランの会戦から推定した、会戦におけるガトランティス軍の用兵である。この図では、ガトランティス軍と敵軍が横隊戦列を形成して正面から向かい合い、激突しようとしている。
 ガトランティス軍は第一戦列の背後に第二戦列を配置し、突撃縦隊は後から空間跳躍で投入するべく戦場から離れた場所に置いている。対する敵軍も同様に、第一戦列の背後に予備の戦列を設け、更に別の予備戦力を戦場から離れた場所に置いている。(※図57参照)
  ガトランティス軍とガデル・タラン 図57
 まず、第一戦列同士の射撃戦が始まると、ガトランティス軍の戦列は積極的に機動を仕掛け、敵の戦力を浪費させる。具体的には敵の側面に回り込むように動き、敵がそれへの対処の為予備戦力を投入するように仕向けるのだ」

 解説を続けつつ、ガデルは図を変化させた。ガトランティス軍の第一戦列と、第二戦列の半分が横にスライドするように機動を始める。同時に、航空機と思しき小さな記号がガトランティス軍の戦列の背後に現れると、それらは敵戦列の側面に急速に回り込んだ。(※図58参照)
  ガトランティス軍とガデル・タラン 図58

 「図のようにガトランティス軍の第一戦列は、射撃戦を行いつつ敵戦列の左翼側面に回り込むように機動する。同時に第二戦列もまた、一部を残し第一戦列に追随して機動する。機動しない第二戦列の部隊は敵への押さえとして、敵が移動する第一戦列の左翼側背に回り込むのを防ぐ。そして空母部隊はガトランティス軍の巨大な戦列の背後で、航空機を安全に発進させ敵戦列の左翼側面に送り込む。
 一方、敵軍は自軍の左翼側面に回り込んだガトランティス軍の航空部隊の妨害により、ガトランティス軍の機動に追従できず側面に回り込まれる。(※図59参照)
  ガトランティス軍とガデル・タラン 図59
 その結果、敵軍は側面の防御の為に予備戦列の投入を余儀なくされる。ここでガトランティス軍は第二戦列を投入し、敵軍側面に更に圧力をかける。こうして敵軍は半包囲の態勢で著しく不利な状況となる」(※図60参照)
  ガトランティス軍とガデル・タラン 図60

 ヴェルテに背を向け解説を続けていたガデルは、ここで兄の方を向き図の一部を強調するように指で指し示した。

 「…ここで敵軍の配置に注目してもらいたい。ガトランティス軍にとって、戦いを左右する重要な地点が二ヶ所あるのに気付くだろう。一つは手薄となった敵軍右翼。もう一つはガトランティス軍が半包囲し攻め立てている敵軍左翼側面。こうした地点を戦いの“焦点”であると定義すると、ガトランティス軍はこの“焦点”に突撃縦隊を空間跳躍で投入し、敵軍を決定的に崩壊させる。(※図61参照)
  ガトランティス軍とガデル・タラン 図61
 では、ガトランティス軍はどちらの“焦点”に(突撃縦隊を)投入するのか。もし敵に予備戦力が残されていなければ、彼らは敵軍右翼に突撃縦隊を突入させるだろう。しかし、最初に想定したように敵軍が予備戦力を後方に置いている場合はどうなるか」

 ガデルはヴェルテに問いかけるように言うと、ホログラムボードの図を同じ二つの図に分けた。それぞれに敵部隊の記号を付け加える。

 図の一つ。ガトランティス軍右翼側面に敵軍の記号が現れ、ガトランティス軍の側面を攻撃する態勢となる。もう一つの図。ガトランティス軍右翼後方に敵軍の記号が現れ、ガトランティス軍の背後を襲う態勢となる。(※図62参照)
  ガトランティス軍とガデル・タラン 図62

 ガデルは図の解説を再開した。

 「反撃の為の戦力を有する敵軍は、味方が不利になった時点で形勢を逆転させる為、図で示した位置のいずれかに予備戦力を空間跳躍させるだろう。ガトランティス軍右翼側面、あるいは右翼後方。いずれの位置に空間跳躍させても、敵軍はガトランティス軍右翼を崩壊させて形勢を一気に逆転させる可能性がある。
 それ故ガトランティス軍は敵が予備戦力を投入後、それを撃破するべく突撃縦隊を敵軍左翼側へと投入する事となる」

 そのように言うとガデルはホログラムボードの二つの図を変化させた。

 図の一つ。ガトランティス軍右翼側面を脅かす敵軍予備戦力に対し、その側背を襲うようにガトランティスの突撃縦隊がワープアウトする。突撃縦隊は敵軍の予備戦力を横殴りに粉砕するとそのまま敵軍本隊の左翼側面に突入し、敵の戦列を崩壊させてしまった。(※図63参照)
  ガトランティス軍とガデル・タラン 図63

 もう一つの図。ガトランティス軍右翼の背後を脅かす敵軍予備戦力に対し、その背後を襲うようにガトランティスの突撃縦隊がワープアウトする。突撃縦隊は敵軍の予備戦力の隊列を突き破り崩壊させると、敵軍本隊の左翼正面に猛然と突進した。突撃縦隊は既に押し込まれ圧迫されていた敵の戦列を容易に突き破り、敵軍を崩壊へと追い込んだ。(※図64参照)
  ガトランティス軍とガデル・タラン 図64

 ガデルが解説を加える。

 「図のように、ガトランティス軍は投入された敵の予備戦力を粉砕できる位置に突撃縦隊を空間跳躍させる。投入された突撃縦隊は、敵の予備戦力を撃破するとそのまま敵軍左翼に突入し、敵の戦列を突き破り崩壊させる。
 敵戦列の崩壊後、ガトランティス軍の戦列は総突撃に移り、敵軍全体を覆滅にかかる。その際突撃縦隊は隊形を解いて散開し、壊乱状態の敵の包囲を行う。ここで、突撃縦隊が隊形内部に随伴させていた空母部隊が大きな効果を発揮する。それらは航空機を発進させ、逃げようとする敵部隊の動きを妨害する。航空機は味方が敵に追いつき包囲する手助けを行うのだ。高い機動性を持つガトランティスの小型艦艇は、より機動性の優れる航空機が足止めする獲物に群がり、敵を順次覆滅する事となる」(※図65参照)
  ガトランティス軍とガデル・タラン 図65

 敵の戦列を崩壊させた後、突撃縦隊はどのように敵を壊滅に追い込むのか。ガデルはそれについて言及すると、続いてガトランティス軍の用兵の特色について言及を始めた。

 「以上が、実戦から想定した『会戦におけるガトランティス軍の用兵』である。この用兵で留意すべき事として以下の点が挙げられる。
 第一の点。彼らは突撃縦隊を、戦いを左右する地点である“焦点”に投入し、勝利を決定付ける存在としている。その意味で突撃縦隊の中心たるガトランティスの大型艦艇は、正に彼らの兵器システムの中核であるのだ。
 第二の点。彼らは機動と大火力の併用により、戦いの“焦点”を作り出している。彼らの巨大な横隊戦列が戦闘中も高い機動性を発揮でき、しかも必要な箇所に大火力を投射できる事を思い返してもらいたい。彼らの戦列はその特性を用い、敵の布陣の弱点に移動し大火力を浴びせ、敵に予備戦力の投入を強要している。そうする事で、彼らは“焦点”を作り出し、更には敵の戦力を枯渇させ、突撃縦隊が戦いを決定付けられる状況を作り出しているのだ。
 第三の点。突撃縦隊が投入される“焦点”は、敵の配置の弱点とは必ずしも一致しない。図で解説したように、それは敵戦力が脆弱な場所であったり、逆に戦力の集中する場所であったりする(※図66参照)。何故そうなるのか。それは“焦点”が戦いを左右する重要な場所であるが故に、敵も多くの場合戦力を次々に投入して来るからだ。殊(こと)に大兵力同士が激突する会戦では、突撃縦隊はどの“焦点”に投入されても敵の大部隊と遭遇する可能性が高くなる。従って、ガトランティス軍は戦いの“焦点”を制する為、いかなる抵抗も排除できる大威力の大型艦艇を保有している。実にこれこそが、彼らが古代的な大型艦艇を現代でも用いる理由なのだ。
  ガトランティス軍とガデル・タラン 図66
 …以上、ここでまとめておこう。
 ガトランティス軍は従来の我が軍とは異なり、万を超える大軍が正面から激突する“会戦”に対応した兵器システムを有している。巨大な横隊戦列、小型艦艇の独特な装備、航空機、更には大型艦艇。これらは全て、会戦に対応したシステムの一環である。中でもガトランティスの大型艦艇はシステムの中核と言える存在であり、その装備と運用は古代世界の大型艦艇のそれをそのままの形で継承している。この事からガトランティスのシステムは、そもそも古代アケーリアスの時代に起源を持つのではないかと考えられる。彼らは我々の世界と全く異なる進化の過程を辿り、最終的に戦いの“焦点”といった、我々と全く異質の用兵概念を持つに至ったと推測される」

 「一つ質問しても良いか、ガデル」

 ガトランティスの「会戦に対応した兵器システムと用兵」について総括した弟に、ヴェルテが質問を投げかけた。

 「お前が解説の中で言及していた戦いの“焦点”は、我々の世界の機動戦には無い概念なのか?」

 「そうだ、兄さん」

 兄の問いかけにガデルは回答する。

 「今し方述べた戦いの“焦点”は、小官がガトランティスの用兵を説明する為に設けた概念だ。我々の世界の機動戦にこの概念は存在しない。
 従来の我が軍やかつての(大小マゼラン)諸国軍は、敵の配置の弱点を迅速に攻撃する事を追及して来た。その一方、“焦点”のように敵の戦力が集中し得る地点については、そのような場所を攻撃するという発想を持たなかった。逆にそうした行為は極力避けられていたのだ。
 従って、ガトランティスの大型艦艇が見せた、“敵の集中する箇所を火力で強引に粉砕する”という戦いは、我が軍にとって全く思いもよらない事だった。それは機動戦の概念とは全く異質であり、“焦点”という概念を導入しなければどうにも説明し難い事だった。こうした事実から、小官はガトランティスが我々の世界と全く異質の用兵概念や思想を持っていると確信している。
 これまで述べてきたように、彼らは我々と全く異なる装備を持ち、全く異なる戦いを行う。当然、我々が持たない全く異質の用兵概念や思想を持っていると考えるのが自然ではないだろうか」

 ガデルの回答に、ヴェルテは腕組みをして考え込んでしまった。

 “ガトランティスと我々はこうも異なるものなのか――。”

 自分達の世界とまるで異なる装備、用兵、そして思想。もし彼らの軍隊とシステムが、弟の言う通り古代アケーリアスの時代に起源を持つとすれば、その時代の“小規模な横隊戦列”のシステムがここまで異なる姿に変貌し得るとは。ヴェルテは弟から教えられた大小マゼラン世界の戦争史を思い返し、その戦いの姿の変遷とまるで異なる道を辿ったであろうガトランティスの歴史に、少しの間考えを巡らせたのだった。

 いくばくか時間が経過し、ヴェルテが何かしらの考えを纏めたのを見届けると、ガデルは兄に声をかけた。

 「…考えを整理して頂けただろうか。ここまでは、ガトランティス軍の姿について、その特筆すべき特徴を解説してきた。彼らのシステムは、その装備、用兵、思想のいずれもが従来の我が軍のシステムとおよそ共通点の無いまでに異なっている。
 それでは、彼らのシステムを俯瞰して見た場合、何が我々との最大の違いであり、特徴となるのか。最後にその事について述べておきたい」

 ガデルの今夜の講義の第二項目、「ガトランティス軍の姿」は、その数々の特徴を詳細に述べた末に最後の纏めへと入っていった。

 「ガトランティス軍のシステムと、従来の我が軍のシステム。両者はあらゆる面で異なるが、究極的には何が最大の相違となるのか。それは、ガトランティス軍のシステムが本質的に火力を重視し、『速度』を追求していないという事だ。
 この事は会戦での彼らの用兵を見れば明瞭となる。会戦において、彼らは戦力の展開に時間のかかる航空機を使用し、大火力で機動性の高くない大型艦艇により戦いを決定付ける。そして彼らは敵に予備戦力の投入を強要するのに時間をかけ、突撃縦隊を決して早急に投入しない。
 今一度、会戦での用兵について述べた辺りを思い返してもらいたい。ガトランティス軍は敵側面への機動に成功した後、すぐに突撃縦隊を投入せず、第二戦列で更に圧力をかけるという回りくどい手順を踏んでいたはずだ。彼らはそうする事で敵に更なる戦力の投入を強要し、(敵が)持てる戦力の大半を投入したと見定めてから突撃縦隊を投入するのだ。(※図67参照)
  ガトランティス軍とガデル・タラン 図67
 これに対し、従来の我が軍のシステムやかつての(大小マゼラン)諸国軍は、高速の機動やゲシュタムジャンプを駆使し、速攻による敵の弱点の打撃や包囲を行う事で敵を壊滅に追い込んできた。機動戦を行う我々の(大小マゼラン)世界は、作戦を遂行する『速度』を伝統的に競ってきたのだ。そして従来の我が軍のシステムは、より高速の機動戦を実現する為、大火力の航宙戦闘艦の放棄すら行った。
 ガトランティス軍のシステムは、こうした我々の世界の姿とは著しく対照的である。彼らは作戦の『速度』を重視せず、大型艦艇の大火力で敵戦列を突き破り、崩壊させる事を追及している。何故そうしているのか。それは、彼らが行う会戦という戦いの様態そのものに理由を求められる。
 そもそも、万を超える大軍同士が激突する会戦は、我が軍と(大小マゼラン)諸国軍が行ってきた規模の戦いとは全く異なる性質を持つ。その広大な戦場と巨大な兵力は、高速の機動を行うのであれ、空間跳躍を使うのであれ、速攻で敵の弱点の打撃や包囲を行う事を困難にする。それらを成すのは時間を要するようになるのだ。しかも、仮に弱点の打撃や包囲を成せたとしても、巨大な敵軍は簡単には壊滅しない。敵軍はかなりの長時間にわたり組織的抵抗を維持し、それで得た時間で反撃の態勢すら整える事ができる。従って、会戦で敵を撃滅するには、それとは別に何らかの手段で敵の抵抗を瓦解させる、即ち敵の隊列を崩壊させる方法論が必須となるのだ。
 ガトランティス軍のシステムは、正にこうした問題への解答である。彼らは巨大な横隊戦列の大火力と機動により、敵に戦力の投入を強要する。敵が戦力を枯渇させ新たな攻撃への対応力を失った所で、彼らは大型艦艇を投入し、その大火力で敵の隊列を突き破り崩壊させる。そうする事で、彼らは敵の大軍の撃滅を容易にしているのだ。
 …結論を述べよう。ガトランティス軍のシステムは、作戦の『速度』を追求せず、火力を重視する事で会戦に勝利している。これは会戦という戦いの様態そのものに適応した結果である。これに対し、従来の我が軍のシステムは会戦という戦いの様態に対応できなかった。我が軍は火力に欠け、機動の有効性も失われ、会戦に最初から適応したガトランティス軍に敗れる事となったのだ。その具体的な過程を、これから次の項で話していく事となるだろう」

 ガデルは今夜の講義の第二項目、「ガトランティス軍の姿」について総括を終えた。

1/1000 ガミラス艦セット1 (宇宙戦艦ヤマト2199) イスカンダル帝国の滅亡以降、戦いに「速度」を追及して来た大小マゼラン世界の軍隊。それとは正反対に速度ではなく火力を重視するガトランティス軍。このガトランティス軍の姿とは、実に「会戦」という戦闘形態への適応なのであり、従来のガミラス軍のシステムはこの戦いの様式に適応する事ができなかった――。

 大小マゼラン世界の戦争史から会戦という新しい戦場の姿まで網羅した解説を終えると、ガデルは講義を小休止した。

 部屋に束の間の静けさが戻る。それまでずっと長広舌を振るっていたガデルは、座椅子に身を沈め大きく息をつくと、物思いにひたるように静かに目を閉じ、そのまま動かなくなった。

 一方、椅子に座り弟の講義を聞いていたヴェルテは、ずっと腕を組み何かしらの考えを巡らせている。

 今夜のガデルの講義は最初の山場に差し掛かろうとしていた。ヤマトのバレラス襲来後、大小マゼランに大挙侵攻したガトランティスに何故ガミラスは敗れたのか。それまでは彼らが小マゼランに侵攻する度に勝利してきたにもかかわらず、何故彼らの仕掛けた大規模な戦争に大敗北を喫したのか。これから語られるガデルの答えは、おそらくは二人にとって少なからず心の痛む話であるに違いなかった。

 少しの時間が過ぎた。やがてガデルは、心の整理を付けたかのような表情で立ち上がった。椅子に座り相変わらず思索に没頭するヴェルテに、兄さん、と声をかける。弟に気付いたヴェルテが講義の再開を促すと、ガデルは頷き、兄の求めに応じた。

 「それでは講義を再開しよう。これより第三の話題、『ガトランティスによる戦争の変化』について解説する」

 ガデルは今夜の講義の第三項目について話し始めた。

 「…かつて、ガトランティスの仕掛けた大侵攻により、我々の世界は史上稀に見る戦争の変化を経験する事となった。それは、一言で言えば『火力戦の復活』という、イスカンダル帝国の滅亡から数千年ぶりに起きた巨大な変化だった。大小マゼラン諸国に勝利し、大侵攻以前の戦いでガトランティスに勝利を重ねてきた従来の我が軍のシステムは、この変化に対応する事ができなかった。大挙侵攻するガトランティス軍の前に、従来の我が軍のシステムは次々に問題を露呈し、ついには小マゼランの会戦において破滅的な敗北を喫するに至ったのだ。そしてそれに続く大マゼランの会戦では、我々はかろうじて勝利したものの、敵に対するシステムの劣勢ぶりが明らかとなった。
 それまで勝利を続けていた我が軍に何が起きたのか。その詳細について、これから解説を行う」

 そのように前置きを述べると、ガデルはホログラムボードに文字と図表を表示した。

(「ガミラス第二帝国の戦争準備―ガトランティス軍とガデル・タラン(その3)―」につづく)

宇宙戦艦ヤマト2199 Blu-ray BOX (特装限定版)宇宙戦艦ヤマト2199』  [あ行][テレビ]
総監督・シリーズ構成/出渕裕  原作/西崎義展
チーフディレクター/榎本明広  キャラクターデザイン/結城信輝
音楽/宮川彬良、宮川泰
出演/山寺宏一 井上喜久子 菅生隆之 小野大輔 鈴村健一 桑島法子 大塚芳忠 麦人 千葉繁 田中理恵 久川綾
日本公開/2012年4月7日
ジャンル/[SF] [アドベンチャー] [戦争]
ブログパーツ このエントリーをはてなブックマークに追加 Yahoo!ブックマークに登録
関連記事

【theme : 宇宙戦艦ヤマト2199
【genre : アニメ・コミック

tag : 出渕裕 西崎義展 菅生隆之 小野大輔 諏訪部順一 中村繪里子 近木裕哉 園崎未恵 大塚芳忠 大友龍三郎

最新の記事
記事への登場ランキング
クリックすると本ブログ内の関連記事に飛びます
カテゴリ: 「全記事一覧」以外はノイズが交じりますm(_ _)m
月別に表示
リンク
スポンサード リンク
キーワードで検索 (表示されない場合はもう一度試してください)
プロフィール

Author:ナドレック

よく読まれる記事
スポンサード リンク
コメントありがとう
トラックバックありがとう
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

これまでの訪問者数
携帯からアクセス (QRコード)
QRコード
RSSリンクの表示