『崖の上のポニョ』は大人には厳しいか?
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長男の宮崎吾朗氏は1967年1月の生まれ。
たしかに息子さんが成長するにつれ、作品の対象年齢は上がっている。
1972年 宮崎吾朗氏 5歳 『パンダコパンダ』
1973年 宮崎吾朗氏 6歳 『パンダコパンダ 雨ふりサーカスの巻』
1978年 宮崎吾朗氏11歳 『未来少年コナン』
1984年 宮崎吾朗氏17歳 『風の谷のナウシカ』
そして息子さんが成人するときに、宮崎冒険活劇の集大成たる『天空の城ラピュタ』(1986年 宮崎吾朗氏19歳)を制作し、その後は息子さんの年齢にかかわらず作品を生み出している。
1988年 宮崎吾朗氏21歳 『となりのトトロ』
その宮崎駿監督が、対象年齢をグッと下げて『パンダコパンダ』以来となる5歳児向けの『崖の上のポニョ』を作ると聞いて、さては初孫かと思料したところ、本作が公開された2008年に、社内保育園を竣工したことや(すなわち、保育園が必要なほどスタッフにお子さんの誕生が相次いだ)、自身の初孫を授かったことを知った。
なるほど幼児向けの作品をつくる原動力に満ちるはずだ。
出来上がった本作は、子供たちの元気と自由を凝縮した魅力に溢れている。
津波に襲われた街をポニョと宗介がボートに乗っていくところなど、『パンダコパンダ 雨ふりサーカスの巻』を思い出して懐かしく感じた人も多いだろう。
藤岡藤巻と大橋のぞみによる1度聞いたら頭から離れない主題歌と相まって、子供にも、もちろん大人にも楽しい作品だ。
しかし『パンダコパンダ』を作ったときの宮崎駿監督は31歳、対して『崖の上のポニョ』を作ったときは67歳。36年前と同じように奔放には作れない。
労働組合の書記長も務めた宮崎監督だが、経営者を悪者扱いする階級闘争的な要素はルパン三世シリーズ『さらば愛しきルパンよ』(1980年)を最後に影を潜め、世の中はそんなに単純ではないことを作品に滲ませていくようになる。
そんな宮崎監督が、いままた子供に向けて楽しく自由奔放な作品をつくるにはどうしたらいいだろう。
本作で宮崎監督が出した結論、それは「たいへんなことは大人が引き受ける」ことだ。
『崖の上のポニョ』ではたいへんなことが起こっている。
津波のために街は水没、物的・人的被害は甚大だ。
しかもそれはポニョのせいだ。宗介にもかかわりがある。
誰もが文句を云いたい、悪者を探して糾弾したいシチュエーションだ。
しかしそれは大人の世界でのこと、大人が処理すべきこと。
幼児に不安を抱かせたりつらい思いをさせてはいけない。
これがもっと成長した少年・少女が相手なら、応分の責任を自覚させるという考えもあろう。
でも5歳の宗介や人間になったばかりのポニョは、大人が守るべき存在だ。
得てして「成長物語」は褒め言葉のように使われるが、宮崎監督は成長と称して大人の苦労の一端を担わせるようなことはしない。
だからこの映画に出てくる大人たちは、みんな子供に優しい。災害やその対策で苦労する姿は見せず、朗らかに振る舞う。客席の子供たちが大人に抱く期待と信頼を裏切らない。
わずかに描かれるのは、宗介の母リサとポニョの母グランマンマーレが、子供たちから離れて話し合うシーン。
それはそうだ、2人には相談すべきことがたくさんある。
でも具体的な話の内容を子供たち(客席の子供たちも含めて)に聞かせはしない。諸問題は大人だけで受け止めるのだ。子供たちが楽しく暮らせるように。
上映終了後、楽しげに主題歌を口ずさむ子供たちに囲まれつつ、宮崎駿の突きつけたものの重さを感じながら、私は映画館をあとにした。
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監督・原作・脚本/宮崎駿 (環境依存文字を避けるため「崎」と表記した。)
出演/山口智子 天海祐希 所ジョージ 土井洋輝 奈良柚莉愛 矢野顕子
日本公開/2008年7月19日
ジャンル/[ファミリー] [ファンタジー]

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