『Dr.パルナサスの鏡』は亀なのか?

 【ネタバレ注意】

 『Dr.パルナサスの鏡』の主人公は、テリー・ギリアム監督である。
 なにしろテリー・ギリアム自身が「僕自身に関することを描いている。アーティストたちの葛藤だ。」「(主人公が乗っている)馬に引かれたボロボロの馬車は、僕自身を表わしているんだよ」と語っている。

 主人公パルナサス博士をテリー・ギリアムに脳内変換すると、次のようなあらすじである。

                    

 テリー・ギリアムは、物語を紡ぐことが人々の暮らしに欠かせないと考えて、映画を作り続けてきた。
 自分だけでなく、世界中の映画作家が作品づくりをしているから、人々は生活していけるのだ。

 しかし、テリー・ギリアムが作るような現実離れした映画は、現代の観客には相手にされない。
 テリー・ギリアムの耳に、「もっと刺激や悪徳がいっぱいの映画の方がウケるぞ」と悪魔がささやく。
 それでもテリー・ギリアムは、自分が良いと思う映画に観客が入るはずだと信じ、悪魔のささやきに抵抗する。
 だが現実は、テリー・ギリアムの映画ではまったく金にならない。
 いつも資金繰りに奔走しなければならず、家族や友人に苦労をかけている。

 そんなとき、1人の敏腕プロデューサーが現れる。
 彼は口がうまい上に、客が喜ぶ方法にたけている。
 テリー・ギリアムは、プロデューサーの助言を取り入れて路線をちょっと変更してみた。プロデューサーの宣伝の上手さもあり、これまでにないほど客が入る。
 しかし喜んだのも束の間、プロデューサーは金儲けと目に見える成功を追い求める男で、過去には子ども向けの映画で荒稼ぎしていたことが判る。
 プロデューサーの云うとおりに作ったのでは、大切なものを見失うと思ったテリー・ギリアムは、プロデューサーと決別する。

 けれども、事態は悪くなるばかり。
 皮肉にも、苦労していた家族や友人は、テリー・ギリアムと別れた途端に生活が安定し、成功を収めることができた。
 もはや大スクリーンで作品を上映することはかなわないテリー・ギリアムだったが、細々とセルビデオを販売して暮らすのだった。

 悪魔のささやきとも、適当に折り合いながら。

                    

 アーティストの葛藤を扱った映画といえば、たとえば北野武監督の『アキレスと亀』がある。売れない画家が芸術に挑み続ける物語だが、俊足のアキレスがいくら走っても亀に追いつけないというゼノンのパラドックスのように、画家は永遠に評価されない。
 パルナサス博士の幻想館も、その努力が誰からも理解されない点では同じだ。
 だが『Dr.パルナサスの鏡』は、『アキレスと亀』ほど内省的でも痛々しくもない。
 奇想天外で不可思議な映像は、色鮮やかで楽しい。

 そしてテリー・ギリアムは、こんなトボけたことを云っている。
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 「例えば、ロンドンで大雪が相次ぐと、語られるのはビジネスへの悪影響ばかり。楽しいこともあるかもしれないのに。だから、幻想館は呼びかける。『この世界を別の角度から見て違う人生を想像してごらん、そうすれば、あなたの現実は変わりうる』と」
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 たしかに、楽しいことがあるかもしれない。
 しかし、楽しくないこともある、とシニカルに付け加えるのがテリー・ギリアムだ。
 その流儀は、本作でも変わらない。


 なにしろテリー・ギリアムは、子ども向け冒険ファンタジーのはずの『バンデットQ』でも、ハッピーエンドにしないのだ。
 『Dr.パルナサスの鏡』と『バンデットQ』にはちょっと似たところがある。様々な異世界が登場することや、生意気なのに憎めない小人や、敵役としての悪魔など。

 ただ異なるのは、トム・ウェイツが演じる悪魔の扱いだ。
 『バンデットQ』の悪魔はものものしくていかにも悪そうで、戦い甲斐があったけれど、トム・ウェイツ演じるMr.ニックは古い飲み友達のようなヤツなのだ。
 林檎を差し出されたら、つい食べてしまうような。


Dr.パルナサスの鏡 [Blu-ray]Dr.パルナサスの鏡』  [た行]
監督・制作・脚本/テリー・ギリアム  脚本/チャールズ・マッケオン
制作/ウィリアム・ヴィンス、エイミー・ギリアム、サミュエル・ハディダ
出演/ヒース・レジャー クリストファー・プラマー ジョニー・デップ ジュード・ロウ コリン・ファレル リリー・コール アンドリュー・ガーフィールド ヴァーン・トロイヤー トム・ウェイツ
日本公開/2010年1月23日
ジャンル/[ファンタジー]
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【theme : 特撮・SF・ファンタジー映画
【genre : 映画

tag : テリー・ギリアム ヒース・レジャー クリストファー・プラマー ジョニー・デップ ジュード・ロウ コリン・ファレル リリー・コール ヴァーン・トロイヤー トム・ウェイツ

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