『バグダッド・カフェ』の淋しい男

 【ネタバレ注意】

 パーシー&エレオノーレ・アドロン夫妻が制作・脚本を担当し、夫パーシー・アドロンが監督を務めたこの映画は、どなり声といがみ合いがえんえん続く。
 こんな具合だ。

・旅行中に夫とケンカし、クルマを降りて一人歩く西ドイツの有閑マダム・ジャスミン。
・切り盛りしているカフェはうまくいかず、役立たずの夫を叩き出すブレンダ。
・ブレンダの言うことを聞こうともしない子供たち。
・下手なプレリュードを練習しまくるピアノの耳障りな音。

 米国の砂漠の中にポツンと建つバグダッド・カフェは、ジャスミンが暮らすドイツの山岳地方とは大違いだった。
 埃っぽい風と暑い太陽。ベルボーイもいないモーテル。主のブレンダは、はじめて見る黒人だ。

 『バグダッド・カフェ<ニュー・ディレクターズ・カット版>』の原題は『Out of Rosenheim(ローゼンハイムから)』。
 まだベルリンの壁があり、ドイツが東西に分断されていた1987年、西ドイツのバイエルン州ローゼンハイムを出たジャスミンと、砂漠に暮らす人々の交流を描いた映画だ。


 東西ドイツとは違うアメリカはどんな国か?

 それを端的に示す会話がある。
 映画の前半、ジャスミンの持ち物が男物ばかりなのを不審に思ったブレンダは、保安官を呼ぶ。
 しかしネイティブ・アメリカンとおぼしき保安官は、ジャスミンの身分証明証とビザを調べた後、ブレンダに告げる。
 「ルールさえ守ってれば何を着たっていい。ここは自由の国だ。」


 やがて耳障りだったピアノが優しく美しい音色をかなではじめるとき、人々の関係も表情も変わっていく。
 カフェには笑い声と歌声が溢れ、子供たちは店を手伝い、遠くからブレンダを見守り続けた夫も戻ってくる。
 映画は大団円を迎える。
 ただ一人を除いて。

 ドイツからの旅行者--ジャスミンの夫は、大団円の中にはいない。

 実は映画の前半に、ジャスミンが夫とのよりを戻せないだろうことを示す伏線がある。
 ジャスミンを調べた保安官は、調査結果を記録している。
 もしも夫が、砂漠に一人姿を消したジャスミンを心配して大使館に相談するなり捜索願を出すなりしていれば、保安官のもとにも連絡があったはずである。
 少なくとも、ビザが切れるまでバグダッド・カフェに居つくことにはならないはずだ。
 夫の仕打ちが判ったからこそ、ジャスミンは1度は離れたバグダッド・カフェに再びやって来たのだろう。


 しかし夫は冷たいだけの男なのか。
 忘れてしまって良い存在なのか?

 冒頭では、クルマを降りたジャスミンのために、コーヒーの入ったポットを道路に置いてやっている。
 ジャスミンを探し回り、バグダッド・カフェも訪ねている。
 そもそも妻と二人でディズニーランドに行こうというのだ、そんなに悪い男とも思えない。

 それでも夫は孤独なままだ。
 八方丸くは収まらないのである。


バグダッド・カフェ ニュー・ディレクターズ・カット版 Blu-rayバグダッド・カフェ<ニュー・ディレクターズ・カット版>』  [は行]
監督・制作・脚本/パーシー・アドロン  制作・脚本/エレオノール・アドロン
出演/マリアンネ・ゼーゲブレヒト CCH・パウンダー ジャック・パランス クリスティーネ・カウフマン ダロン・フラッグ G・スモーキー・キャンベル ハンス・シュタードルバウアー
日本公開/2009年12月5日 ニュー・ディレクターズ・カット版
     1994年 完全版
     1989年3月 初公開
ジャンル/[ドラマ]
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【genre : 映画

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