『2012』 災厄でも助かる条件

 フィリップ・ワイリーとエドウィン・バーマーの合作『地球最後の日』(1933年)は、1951年1998年に映画化され(1998年版は『神の鉄槌』も混ざっているが)、さらに2010年にも映画の公開が予定されているという。
 この小説は児童向けの本にもなっているので、馴染みのある方も案外多いのではないか。

 私も講談社の少年少女世界科学名作全集を再録した少年少女講談社文庫(ふくろうの本)で『地球さいごの日』を読んだくちだ。
 地球の崩壊を前にして、2隻の宇宙船「ノアの箱舟号」と「ノアのはと号」を建造して脱出を図る、というスケールの大きな物語には、魅了されたものである。

 とはいえ、ちょっとひどい話である。
 当然のことながら、2隻の宇宙船に全人類を乗せるわけにはいかないので、少数の男女だけが選ばれる。その選択基準は、計画を推進する者から見て「優秀である」という、なんとも主観的のものであった。
 選ばれなかった人々が暴徒と化して殺到するのは当たり前。
 それに対して「選ばれた人々」と宇宙船を守る戦いは、思えばむごい行為である。


 映画『2012(にせんじゅうに)』では、もっとえげつなく、はっきりした基準がある。

 災厄を逃れられるのは、10億ユーロ(約1,328億円)という巨額の金を払える金持ちだけだ。
 一般庶民は、虫ケラのように死んでいく(という表現は虫に対して失礼だが)。
 ここでは『地球最後の日』にあった、次代を若者に託すという観点すら失われている。
 キウェテル・イジョフォー演じるヘルムズリー博士によるヒューマニズム溢れる演説も、聞いているのは政治家と金持ちだけであり、空疎でしかない。

 同じくローランド・エメリッヒが監督の『インデペンデンス・デイ』では、米国大統領が全人類を代表するかのような演説を行い、ドイツ人エメリッヒの「これでアメリカ人は喜ぶだろう」と言いたげなシニカルな視点が印象的だった。
 前作『紀元前1万年』も文明への批判、懐疑心を漂わせていた。

 しかし『2012』はそれら以上にシニカルだ。
 米国大統領が黒人だったり、ラマ僧を登場させてチベット問題をにおわせたりと、現実の社会を反映しつつも、天変地異が何もかも呑みこんでいく。
 映画の観客の中に、1人当たり10億ユーロという金を払える人はいないだろうから、観客はみんな背景の一部として死んでいく虫ケラの1人でしかない。
 ジョン・キューザックが『1408号室』に続いて売れない作家を演じ、庶民代表を務めるが、彼にしても自分の家族のことしか考えていない。
 この映画で描かれるのは、人々の身勝手さと政府への不信感であり、ドイツ人エメリッヒの視点は相変わらず辛辣だ。
 しょせん、地獄の沙汰も金次第ということか。

 一足先に公開されたサム・ライミ監督の『スペル』(原題の意味は「私を地獄まで連れてって」)でも、貧富の差が描かれていた。
 サブプライムローン問題以降の世情が、ハリウッド映画にも色濃く反映しているのだろう。


 しかし、そんなこんなも『2012』の圧倒的な映像と音響が吹き飛ばす。
 その大迫力は、ローランド・エメリッヒの面目躍如である。
 この作品は、映画館で大音量にビリビリ振るえながら観るのが相応しい。

 エメリッヒはおそらく、この映像を作りたかっただけなのだろう。


2012 [Blu-ray]2012(にせんじゅうに)』  [な行]
監督・脚本・製作総指揮/ローランド・エメリッヒ  脚本/ハラルド・クローサー
出演/ジョン・キューザック キウェテル・イジョフォー アマンダ・ピート オリヴァー・プラット ダニー・グローヴァー ウディ・ハレルソン
日本公開/2009年11月21日
ジャンル/[パニック] [サスペンス]

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tag : ローランド・エメリッヒ ジョン・キューザック キウェテル・イジョフォー アマンダ・ピート

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