『クレイジー・リッチ!』 金持ちの不条理

クレイジー・リッチ! [Blu-ray] 出演者をアジア系の役者ばかりで固めた現代作品としては『ジョイ・ラック・クラブ』以来25年ぶりといわれ、しかも徐々に公開館数が拡大した『ジョイ・ラック・クラブ』と違い、米国で封切られるや三週連続で週末興行収入ランキング第一位を記録して話題になった『クレイジー・リッチ!』。

 日本が経済大国と呼ばれ、米国の反発を抑えるために米国に工場を建設して米国の労働者を雇用しはじめた1980年代とは隔世の感がある。当時のハリウッド映画では、事件の陰で糸を引いているのが日系企業だったり、米国に進出してきた日系企業の文化に付き合うために白人が苦労したりと、とかく迷惑な存在として描かれたものだった。

 出演者をアジア系の役者ばかりで固めることができたのは、原作者ケヴィン・クワンによるところが大きい。アジア系の役を白人の人気俳優に置き換えられることを避けたかったケヴィン・クワンは、高額なギャラを蹴ってまで、自分が映画の構想とキャスティングに全面的に携わることにこだわったという。[*]


 『クレイジー・リッチ!』のヒットの背景には、米国における非白人の増加や地位の向上、西洋的な基準でも美しく見える美男美女のアジア系俳優の登場等、いろいろあることだろう。加えて、主人公の顔立ちと名前は中国系でも頭と心はアメリカ人であることを強調し、祖先のルーツがどこにあろうとアメリカ人はアメリカ人だと主張する本作は、米国の観客にとって心地好い作品だったに違いない。
 それはともかく、見逃せない重大な要素は本作が経済格差を扱ったことだ。
 米国内の格差を扱ったら深刻すぎて洒落にならないところだろうが、舞台をアジアに広げたことで本作にはほんのりと非現実感が漂い、米国の観客が客観的に楽しめる作品になったのではないかと思う。

 本作が上手いのは、"貧しい"ヒロインがニューヨーク大学最年少の教授であること。貧困層ではないどころか、努力して今の立場を勝ち取った彼女は、どちらかといえば成功者の部類である。その彼女の言動には、成功者や富裕層の観客も共感しやすいはずだ。
 ところがそんな彼女でも、資産家一族に生まれたスーパーリッチな人々に囲まれたら、無粋な貧乏人としか見られない。彼女の大事な仕事だって、スーパーリッチにとっては貧乏人の取るに足りない慰み程度のものでしかない。

 もしかしたら観客の中には、自分が今の地位や富を手に入れることができたのは自分の努力の結果だとか、貧しい人は努力が足りないんだと思っている人がいるかもしれない。そんな人はニューヨーク大の教授でさえ玉の輿を狙う貧乏娘扱いされる本作を観て、本人の努力以前に貧富が決する世の不条理に改めて気がつくと良いだろう。

 仕事のできる女性が資産家一族の男性の実家を訪れて、あまりの大富豪ぶりに目を白黒させる映画といえば、本作と同じくピーター・チアレッリが脚本を手掛けた『あなたは私の婿になる』(2009年)がある。チアレッリが本作に起用されたのはこの作品があったればこそだろうが(ピーター・チアレッリは本作のジョン・M・チュウ監督と『グランド・イリュージョン 見破られたトリック』(2016年)でも組んでいるが、チュウ監督が本作に就任したのはチアレッリが脚本を仕上げた後なので、チアレッリの起用に監督との相性は関係ないだろう)、『あなたは私の婿になる』がどちらかというと、努力すれば成功すると思っていた主人公が「成功」とか「幸せ」の意味を考え直す話だったのに対し、本作はすでに財を築いた一族が考えを改める過程を描いている。

 加えて本作では、主人公に辛い思いをさせる資産家一族さえ、かつては非白人であるためにひどい差別を受けていた歴史も描かれて、単なる金持ちの嫌な奴らというステレオタイプにも陥らない。本作は金持ちの鼻をあかせて溜飲を下げる映画でもないのだ。


 近年は、王子様と結婚してハッピーエンドを迎えるシンデレラストーリーが否定される傾向にあり、特にかつてシンデレラストーリーを量産したディズニーが過去の"失態"を反省するかのごとくシンデレラストーリーを否定する作品を作りまくっている。
 だが、私はそんなに目くじらを立てなくてもいいんじゃないかと思っている。
 貧しいシンデレラはリッチな王子様と結婚したから幸せになったのではなく、恋した人と結ばれたから幸せなんだろうと思う。

[*] ハリウッド映画『クレイジー・リッチ!』、原作者の「男気」でアジア系女優が主演


クレイジー・リッチ! [Blu-ray]クレイジー・リッチ!』  [か行]
監督・制作/ジョン・M・チュウ
出演/コンスタンス・ウー ヘンリー・ゴールディング ミシェル・ヨー オークワフィナ ケン・チョン ソノヤ・ミズノ
日本公開/2018年9月28日
ジャンル/[ロマンス] [コメディ]
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【theme : アメリカ映画
【genre : 映画

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