『ワンダー 君は太陽』 “WONDER”は“ワンダー”としか訳せない

Wonder/ [Blu-ray] [Import] 『ワンダー 君は太陽』の予告編を見て、てっきり障碍のある少年の感動話だと思った私は浅はかだった。
 邦題の付け方についても、原題『WONDER』をただ片仮名に置き変えて、ほっこりした副題を添えただけの安易な仕事だと思っていた。よりによって「太陽」だなんて、どれだけ明るく温かい子だと云いたいのだ。私はそんな風に思ってしまった。反省している。

 『ワンダー 君は太陽』は、私なんかの予想を遥かに超える、スケールの大きい素晴らしい作品だった。
 一応の主人公は、頬骨等が形成されずに生まれてきたトリーチャーコリンズ症候群の少年、10歳のオギー・プルマンだ。数万人に一人が発症すると云われるこの病気のために、オギーの見た目は他の人と違っており、彼は人中を歩くたびに注目を浴び、学校ではひどくいじめられた。

 そのまま物語はオギーを中心に進むのかと思いきや、途中からオギーの姉ヴィアの視点に切り替わる。オギーが生まれてこのかた、両親は障碍のある息子につきっきりだった。両親の愛情を独り占めにするオギーとは裏腹に、ずっとほっぽらかされてきたヴィア。唯一の理解者だったお祖母ちゃんは死んでしまった。親友のミランダには、このところ避けられてばかり。いつも友達の輪の中にいるミランダは演劇クラブの主役なのに、自分は代役どまり。もちろん弟のことは好きだけど、ヴィアはいつも独りぼっちだ。

 さて、映画はこの姉弟のことを語っていくのかと思うと、さにあらず。視点は次にオギーのクラスメート、ジャック・ウィルに移る。
 家が貧しく、奨学金のおかげでどうにか今の学校に通えたジャック。学校では理科コースを選択したけれど、彼の学力ではとても授業についていけない。そこへやってきたのが、大金持ちとはいわないまでも裕福な家庭に育ち、成績は抜群で、特に理科が得意なオギーだった。金持ちの子供ばかりのこの学校で、仲間外れにされるまいと懸命なジャックには、一人毅然としているオギーが眩しい存在だった。

 一方、ヴィアの親友ミランダから見れば、ヴィアこそ恵まれた存在だった。両親が離婚し、パパは知らない女とハネムーン、同居するママは鬱病中の彼女にとって、両親と姉弟と犬とが助け合い、支え合う温かいプルマン一家は、理想の家族像だった。本当はヴィアと仲良くしたいのに、事情があって彼女に話しかけづらくなってしまったミランダは、孤独を抱えて苦悩する。

 誰もが何かを持っていて、誰もが何かを持っていない。持っていないことに思い悩み、孤独を募らせる一方で、他者から見れば憧れの的のものを持っている。けれども、持ってる人にとってそれはあって当たり前で、少しも顧みようとはしない。
 『ワンダー 君は太陽』は、障碍を抱えた特別な子供の話ではなかった。私たちの誰もが少しずつオギーであり、少しずつヴィアであり、少しずつジャックであり、少しずつミランダなのだ。オギーをいじめる大金持ちの子ジュリアンですら、高圧的な両親の下でストレスにさらされて生きている(原作者R・J・パラシオは、ジュリアンを主人公にした"続編"も書いている)。
 本作は 人間をステレオタイプの枠に押し込めず、一人ひとりが抱える異なる事情を敬意を払いながら描こうとしている。


ワンダー Wonder 単行本 「正しいことをするか、親切なことをするか、 どちらかを選ぶときには、親切を選べ。」
  (When given the choice between being right or being kind, choose kind. )
 本作に散りばめられた格言の中でも、ブラウン先生が最初に紹介するウェイン・W・ダイアーのこの言葉はとりわけ胸に沁みるだろう。
 なぜなら、何が親切なのか、とっさに判断するのは難しいからだ。

 劇中で示唆される「アイスクリーム屋の出来事」が、ラクエル・パラシオに小説『ワンダー』を書かせるきっかけだったという。
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 数年前、息子たちとアイスクリームを買いに出かけた時のことです。上の子がミルクシェイクを買いに店内に入り、下の子とわたしは外のベンチで座って待っていました。当時下の子は3歳で、ベビーカーに乗せていました。ふと気づくと、となりに頭部の骨格に障害のある女の子が座っていました。女の子の友だち(姉妹だったのかもしれません)と、母親も一緒にいました。下の子は、その女の子を見上げた時、まさにみなさんが想像するような反応を見せました。おびえて、大声で泣き出したのです。わたしは急いでベビーカーごと遠ざけようとしました。息子のためというよりは、女の子を傷つけたくなかったからです。とっさに動いたものですから、そばにいた上の子が持っていたミルクシェイクをこぼしてしまい、なんというか、ひどい状況でした。ベビーカーを動かそうとするわたしを見て、女の子の母親は「それじゃあみんな、そろそろ行かなくちゃね」と優しく穏やかな声で言い、その場から立ち去りました。その言葉は、わたしの心にグサッと刺さりました。
 その日一日中、わたしは自分がとった行動について考えました。あの親子は、毎日、何度も、同じような場面に出くわすのでしょう。それこそ何度も何度も。彼女たちはいつも、どのように感じているのだろう? わたしは、子どもたちにどう教えれば、次に似たような状況になった時、より良い対応ができるのだろう? 「じろじろ見ちゃダメ」と教えるのははたして正しいのだろうか、あるいはそういう考え方自体、もっと根深いものではないだろうか? そうしたいくつもの考えが頭の中をめぐり、わたしは、息子たちに良い態度を示す機会を逸してしまったことを後悔したのです。
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 本作では、ジャックの母がアイスクリーム屋の出来事を彼に思い出させる。小さな子がオギーにおびえて泣き出す様子を、ジャックと母は見ていたのだ。そして、ラクエル・パラシオがやりたかったこと――アイスクリーム屋での出来事をもう一度やり直すかのように、母親が子供に教える場面が描かれる。

 ラクエル・パラシオは"あの時"のことを振り返って、次のように述べている。
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わたしがあの時すべきだったのは、下の子を遠ざけることではなく、女の子と、女の子の母親に話しかけることだったのです。仮に下の子が泣いても、それはそれ。子どもは泣くものです。彼には、彼のために、怖がることなど何もないよと言ってやるべきだったのです。単純に、わたし自身、ああした状況で、取り乱す以外にどうすれば良いか知らなかったのです。
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Wonder/ Import その日の夜、彼女はラジオからナタリー・マーチャントが歌う『WONDER』が流れてくるのを聴いた。偶然にもその曲は、障碍をもって生まれてきた子供の気持ちを歌ったものだった。
 その曲を聴いたとき、彼女は「“接し方が分からないと思われる側”を描こうと思った」という。


 WONDER――それは意味深い言葉だ。本作の邦題を『ワンダー 君は太陽』と付けたのは、いい仕事だったと思う。
 「sense of wonder」というSF用語がある。その訳語は「センス・オブ・ワンダー」だ。「wonder」に対応する日本語は存在しない。そのため「wonder」を訳すとしたら、片仮名で「ワンダー」と記すしかない。そう述べたのは、森下一仁氏だったと思う。「wonder」という語の意味――「驚嘆すべき」「不思議な」「奇跡のような」「素晴らしい」といったニュアンス――を、一語で表す日本語はないのだ。そのような検討を経て、ことSFに関しては「センス・オブ・ワンダー」という訳語が定着した。
 本作をご覧になられた方は、この主人公が、そして主人公に接した人々に起こる変化が、まさに驚嘆すべきで、不思議なほどで、奇跡のようで、素晴らしいことなのを、実感されたに違いない。そう、これは「ワンダー」と云うしかない。

 本作の副題「君は太陽」については、劇中の掛けことばを聞いた後なら、微笑ましくてうっとりするはずだ。
 息子(son)を中心に動いているプルマン一家は、太陽(sun)の周囲を回る地球に例えられる。父も母も姉も、いつもオギーを思いやり、気遣いながら暮らしている。「君は太陽」という副題は、オギーが明るく温かいことを表すのではなかった。草木が太陽のほうを向くように、みんながオギーを見つめている。その愛情の豊かさ温かさが、オギーを太陽に例えさせるのだ。

 トゥシュマン校長は静かに語った。
 「オギーは見た目を変えることができません。私たちが見方を変えるべきなのです。」
  (Auggie can't change how he looks. Maybe we should change how we see.)


Wonder/ [Blu-ray] [Import]ワンダー 君は太陽』  [わ行]
監督・脚本/スティーヴン・チョボスキー  脚本/スティーヴ・コンラッド、ジャック・ソーン
出演/ジェイコブ・トレンブレイ オーウェン・ウィルソン ジュリア・ロバーツ イザベラ・ヴィドヴィッチ ノア・ジュープ ダニエル・ローズ・ラッセル マンディ・パティンキン ダヴィード・ディグス ナジ・ジーター ミリー・デイヴィス ブライス・ガイザー エル・マッキノン ソニア・ブラガ
日本公開/2018年6月15日
ジャンル/[ドラマ]
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【theme : アメリカ映画
【genre : 映画

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