『ボックストロール』 かわいくない魅力

ボックストロール [Blu-ray] こんな傑作が日本未公開だったとは!

 『ボックストロール』のBlu-ray/DVDのカバーアートをご覧いただきたい。
 少女の手を引いて逃げる少年。明らかに彼が主人公だが、ひねた感じの生意気そうな子供で、あんまり可愛らしくない。
 手を引かれている少女も、つぶれたアンパンみたいな顔で、可愛いヒロインとはいいがたい。
 少年少女と一緒に走っている奇怪な生き物たち――体を箱に入れた彼らがボックストロールなのだが――も、悪の手先の雑魚キャラに見える。
 だが、後方には赤い帽子の妙な奴らが迫っているから、必然的に彼らが「わるもん」なのだ。すると手前の奇怪な生き物たちは、「いいもん」ということになる。その姿形からは、とてもそう思えないけれど。

 日本はカワイイ文化の発信地であり、とりわけ可愛いモノが持てはやされる。全国津々浦々に可愛いマスコットキャラクターがおり、2008年にあまり可愛いらしくないマスコット「せんとくん」が登場したときは、ずいぶんと嫌がられたものだ。
 そんな日本で、どう見ても可愛くなく、格好良くもないキャラクターばかりの映画『ボックストロール』は、はなはだ不利な状況にあろう。

 ディズニーを辞職したジェフリー・カッツェンバーグが、見かけの美醜と内面の美醜は関係ないことをテーマに据えた『シュレック』を発表し、可愛らしさの総本山ディズニーにカウンターを食らわせたのは2001年のことだった。
 本作はその域をはるかに超えて、可愛くないキャラクターたちのドラマで、人間社会の偏見と狭量さを描き出す。

ボックストロール [Blu-ray] 登場するのは、虐げられているのに抵抗せず、目先の娯楽に流されるだけの人々や、プロバガンダに易々と乗せられて他者を攻撃する大衆だ。
 赤い帽子の男、害虫駆除業者のスナッチャーはたしかに「わるもん」なのだが、身分の低さと、努力しても報われない境遇に抗おうとして、倫理を踏み外してしまった哀れな人間だ。
 そして、人前で話すと立派そうだが、何もしない街の権力者。美食のことで頭がいっぱいで、行うのはせいぜいパーティーくらい。
 本作は、身分の上下と格差拡大が社会をどれほど歪ませるかを描き、指導者の無策の結果が最終的に弱者への皺寄せとして現れることを訴える。たしかに、ここに可愛いキャラや格好良いキャラの出る幕はない。可愛くしようと思ったらいくらでもできる人形アニメを通して作り手が描くのは、可愛らしさで覆い隠してはならない過酷な現実だ。

 キャラクターが可愛いかったり、格好良かったりすることの功罪はハッキリしている。
 可愛いければ注目を集めやすいし、好かれやすいから、多くの観客にリーチできる。
 けれども、可愛いとそれだけで受け入れられたり、許されたりしてしまうから、真の問題を掘り下げる妨げになりかねない。美醜に関係なく受け入れたり、許したりできるかを問う作品で、「可愛いから好き」「格好良いから好き」という感情を観客に抱かせてしまったら、それは失敗作だろう。
 このようなことを避けるため、たとえば『崖の上のポニョ』では、主人公ポニョの姿が可愛い幼女に見えることもあれば、奇怪な半魚人にも変化する。『シェイプ・オブ・ウォーター』では、人々が恐れる怪物であり、同時に女性が恋したくなるような「半魚人」の顔を作るのに、三年を要したという。


ボックストロール [Blu-ray] 本作は、まだ社会の不合理、不条理に染まっていない子供たちが、大人が疑問視しない慣習を打ち破り、世間を引っ繰り返すファンタジーだ。
 少年も少女もひねた感じで、ちょっと憎々しいくらいのデザインなのに、動き出すと不思議と好きになってしまう。彼らの冒険に付き合ううちに、これ以上ないデザインであることが判ってくる。この二人がとても個性的で、歯並びの悪さや、歪んだ唇等も含めた人物丸ごとに魅了されるからだ。薄気味悪いと思っていたボックストロールさえも、愛嬌たっぷりに見えてくる。これが作品の力というものだろう。

 日本未公開のまま終わりそうだった本作は、Blu-ray/DVDの発売に合わせ、期間限定で公開された。
 上映に踏み切った東京都写真美術館と配給会社のギャガ株式会社に深く感謝したい。


ボックストロール [Blu-ray]ボックストロール』  [は行]
監督/グレアム・アナブル、アンソニー・スタッチ
制作/トラヴィス・ナイト
出演/ベン・キングズレー エル・ファニング アイザック・ヘンプステッド・ライト ジャレッド・ハリス サイモン・ペッグ ニック・フロスト トニ・コレット
日本公開/2018年4月27日
ジャンル/[ファンタジー] [アドベンチャー]
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【theme : 特撮・SF・ファンタジー映画
【genre : 映画

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