『沈まぬ太陽』が沈みそう!

 太陽、すなわち日章旗を模した鶴のマークが沈みかかっている。

 鶴のマーク(鶴丸)で知られた日本航空は、いま厳しい経営環境にある。そんな中での映画公開は「タイミングが良すぎる」との声もあるそうだ。
 しかし、劇中で描かれる国民航空(NAL)のマークが花と月のような形で太陽に似ていないのと同様、『沈まぬ太陽』は日航(JAL)を描いた実録物ではなく、あくまでフィクションである。


 『沈まぬ太陽』は1962年から1986年に至る労使関係の歪みを描いている。
 労使関係の構築に失敗して企業が荒んでいくのは、航空業界に限ったことではない

 この作品は3時間22分に及ぶ堂々たる大作であり、とても見応えがあるのだが、いささか駆け足なのは否めない。
 映画ではよく判らないのが、不本意な海外勤務を強いられてきた主人公・恩地元が、なぜ会社を辞めずに異動を受け入れ続けたかだ。
 恩地は映画の中で「男の矜持(キョウジ)」と語ってるが、矜持ってなんだろう?
 辞めると矜持が傷つくのか?

 これについて原作者である山崎豊子氏は、主人公のモデルとなった人物の言葉を紹介している。
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彼は「私が辞めたら悲しむ仲間がいる。その一方で丸の内の本社で祝杯をあげる会社や第二組合の人間がいると思うと辞められなかった」とおっしゃいました。
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 はっきり云えば、かつての日本には、会社を辞めるというオプションがなかったのだ。
 辞めることは敗北すること、みっともないこと、恥ずべきこと。そんな見方が蔓延していたのだ。

 しかし起業家である宋文洲氏は、逃げることは決して負けではないという。
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嫌な組織が存在できる最大な理由はその構成員がそこから逃げないからです。逃げ出せば、間違いを犯している組織はなくなるのです。
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 『沈まぬ太陽』の主人公は、辞めないことが「男の矜持」だと考え、家族に苦労をかけ続ける。それでも妻はどこまでもついてきてくれて、反抗していた息子もやがて理解を示してくれる。
 ちょっと虫のいい話だが、若者が3年経っても会社を辞めず熟年離婚という言葉もなかった時代だから成立する物語だろう。

 もっとも、主人公のモデルとなった人物は、ナイロビ駐在中は王侯貴族のような生活をしていて、日本に戻ってからもことあるごとにナイロビへ行かせてくれと希望していたそうだ。
 私は映画を観ていて、主人公が象を撃ったり、象牙を居間に飾ったりする所業に、とても違和感を覚えた。


 ところで、主人公は懲罰人事のためにカラチ、テヘラン、ナイロビと海外をたらい回しにされるのだが、カラチ、テヘランを描く際にはもう少し現地への配慮があっても良かったろう。
 たしかに物語上は、海外勤務ばかり命じられて酷い目にあっているわけだから、嫌なところと感じさせる必要がある。
 しかし、一度映画という形になったからには、末永く残り、多くの人の目に触れる。
 主人公の不遇を語るには、不本意な人事であることを強調すれば充分であり、「よくこんなところにいられるな」なんてセリフは不要である。


 さて、出演陣には、出番の多寡にかかわらず素晴らしい役者が揃っていた。
 とりわけ加藤剛さんの枯れ具合と、上川隆也さんのカッコよさが印象的だ。
 公演中の『蛮幽鬼』では、主役で出ずっぱりなのに堺雅人さんにいいところを持っていかれた感じの上川隆也さんだが、『沈まぬ太陽』では颯爽と登場し、カッコよく締めくくってくれた!


沈まぬ太陽 Blu-ray(特典DVD付2枚組)沈まぬ太陽』  [さ行]
監督/若松節朗  脚本/西岡琢也  原作/山崎豊子
出演/渡辺謙 三浦友和 松雪泰子 鈴木京香 香川照之 戸田恵梨香 松下奈緒 上川隆也 加藤剛
日本公開/2009年10月24日
ジャンル/[ドラマ]

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