『僕のワンダフル・ライフ』 生きる目的

A Dog's Purpose (Blu-ray + DVD + Digital HD) 犬の気持ちも観客の気持ちも、本当によく判っている!
 『僕のワンダフル・ライフ』には感激した。

 犬を題材にした映画は多い。ジャンルも犬の扱いもそれぞれだから一概には云えないが、大半の映画は犬と関わる人間のドラマだ。あるいは人間を犬に擬して、人間で描きたいことを犬に演じさせたファンタジーだ。観客が人間なのだから、犬を出しても人間ドラマにするのは間違っていない。それらの中には素晴らしい作品もたくさんある。

 だが、判ってないな~と思うことも少なくない。犬の映画に来る観客には、犬が好きな人が多いだろう。犬好きにとって人間は脇役なのだ。犬が人間のそばにいるところを見たいのではなく、ましてや人間のように思考して人間のように振る舞う犬が見たいのでもない。犬らしい、犬そのものをいっぱい見たいのだ。

 犬好きが重視するその最大のポイントを、しっかり押さえてくれるのがラッセ・ハルストレム監督だ。前作『マダム・マロリーと魔法のスパイス』のように異文化、異国の人々に丁寧に配慮した映画を作るハルストレム監督は、相手が人間でなくてもその存在を最大限に尊重する。同監督の『HACHI 約束の犬』は、犬好きを感服させるとともに、大泣きさせる映画だった。そして本作『僕のワンダフル・ライフ』は、『HACHI 約束の犬』以上に犬目線で、犬主体の犬ドラマだった。素晴らしい!!

 本作はベイリー、バディ、ティノ、エリーといった犬たちが、人間と交流しながら生きていく物語だ。彼らにとって人間が大切な存在であるときもあれば、そうでもないときもある。本作のベイリー、バディ、ティノ、エリーは同じ犬の生まれ変わりという設定なので、彼らの人間への接し方が変わるわけではない。犬はいつでも愛情たっぷりなのに、人間のほうがそれに応えられないことがある。
 本作は、そんな人間との暮らしを、ベイリー(あるいはバディ、ティノ、エリー)のモノローグで楽しく楽しく綴っていく。モノローグの連続がなぜ楽しいかといえば、犬は楽しい生き物だからだ。犬は全力で遊び、全力で甘え、全力で舐める。犬目線であれば、何もかも楽しい。本作はその様子をあますところなく描き出す。

A Dog's Purpose (Blu-ray + DVD + Digital HD) 子供の頃、働く犬のことを知った私は、なぜ犬が働くのか判らなかった。牧羊犬はなぜ羊を誘導するのか。警察犬はなぜ行方の知れない人を探すのか。いかなる義務感、使命感を持ってやっているのか、それをどうやって躾けるのか、不思議でしようがなかった。やがて犬と接する機会ができて、犬の動機がなんだか判った気がする。犬は楽しいからやっているのだ。羊を追うのが楽しいから、牧羊犬は走るのだ。宝探しをするのが楽しいから、警察犬はそこら中を嗅ぎまわるのだ。彼らはいつだって全力で遊んでいるのだ。

 『僕のワンダフル・ライフ』が素晴らしいのは、犬は本当にこういうことをするな、たしかにこう思っているんだろうな、という、その迫真の度合いが半端ではないからだ。そして、好きなら顔を舐めればいいのに、どうしてこの男女は舐め合わないんだろう、といった人間観察が、ユーモアたっぷりで鋭いからだ。一緒にいれば楽しいのに、一緒に遊べば楽しいのに、なぜ人間にはそれができないのだろう。


 原始、人間はオオカミに餌をやり、一緒に狩りをするようになった。オオカミは狩りの役に立ったから、人間は彼らとともに過ごすことが多くなった。飼い慣らされたオオカミが、やがて犬になった。そんな通説に反論するのが、進化人類学の研究者ブライアン・ヘアとヴァネッサ・ウッズ夫妻だ。夫妻は、犬の助けがなくても人間は他の大型肉食動物より狩りに秀でていたこと、人間は狩りで競合する肉食動物を生かしておかず、オオカミも絶滅に追い込んでいることを挙げ、人間の側にオオカミと共存する必然性はなかったと説明する。
 人間が彼らを選んだわけではないのだ。彼らが人間を選んだのだ。食料と安全な居場所を提供してくれる存在として。代わりに彼らが人間に与えたのが、愛情だ。楽しい時間だ。モフモフした彼らがそばにいるだけで、人間は癒される。

 犬の一生は短い。個体差はあるものの、せいぜい14~15年くらいしか生きていない。対する人間は何十年も生きるから、たいていの場合、犬は死ぬまで人間に面倒を見させることができる。ここは犬の身勝手なところだ。彼らは残された人間がどんなに悲しむかも知らずに、とっとと逝ってしまうのだ。犬からたっぷりと愛情をもらっていた人間にしてみれば、急にその供給が途絶えるのだからたまったものではない。まれに人間が先に逝くと、犬は大パニックに襲われるという。それほど犬と人間との絆は強い。

A Dog's Purpose (Blu-ray + DVD + Digital HD) 本作の原作小説『野良犬トビーの愛すべき転生』は、愛犬を亡くした恋人のために書かれた物語だという。
 短いあいだしか生きられなかった犬だけど、どこかで生まれ変わって平和に暮らしているんじゃないだろうか。今、目の前にいる犬は、一緒に暮らしたあの犬の生まれ変わりじゃないだろうか。犬を亡くした人ならすがりつきたくなるようなそんな思いを、形にしたのがこの物語だ。
 生まれ変わりなんて本当にあるのか?
 そんなことはどうでもいいのだ。残された人間には物語が必要だ。やがて別の犬と暮らしたとしても、それは前の犬に対して申し訳ないことじゃない、悪いことをしてるんじゃない、そう肯定してくれる物語が必要なのだ。
 犬と引き裂かれたままでは、人間は死んだも同然だから。


 本作の原題は『A Dog's Purpose(犬の目的)』。題名が示すとおり、主人公の犬が生まれ変わりを繰り返しながら生きる目的を探求する、哲学的な作品だ。
 生まれ変わりを通して、主人公は何度も一生を送りなおす。あるときは他の犬に恋をして、暖かな家庭を持つのが目的だと思う。またあるときは警察犬になり、任務を全うした喜びを人間と分かち合いたいと思う。
 他方、人間は過去の出来事に囚われて苦しんだり、未来に起りそうなことに喜んだり、見込みが潰えて絶望したりと、過去や未来のことに気持ちが左右されてばかりいる。一緒にいれば楽しいのに、独りで過ごしていたり、わざわざいがみ合ったりする。

 様々な境遇を経て、ベイリーがたどりつく結論はシンプルだ。

 「ただ今を生きる。今を一緒に生きる。それが犬の目的。」
 (Just be here now. Be - here - now. That's it. That's a dog's purpose.)

 たしかにそうだ。
 人間も犬とおんなじだ。地球上の生きとし生けるものに違いがあろうはずがない。これは人間にとっても真理であろう。


A Dog's Purpose (Blu-ray + DVD + Digital HD)僕のワンダフル・ライフ』  [は行]
監督/ラッセ・ハルストレム
出演/ブリット・ロバートソン K・J・アパ ジョン・オーティス ペギー・リプトン デニス・クエイド ジョシュ・ギャッド
日本公開/2017年9月29日
ジャンル/[ドラマ] [犬] [ファミリー] [ファンタジー]
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