【投稿】ガミラス第二帝国の戦争準備―ガトランティス軍とガデル・タラン(その2)― 『宇宙戦艦ヤマト2199』ガミラス考察補論集1 小説~ガトランティス戦争編~

宇宙戦艦ヤマト2199 Blu-ray BOX (特装限定版)
 T.Nさんから『宇宙戦艦ヤマト2199』に関する投稿の続きをいただいたので、以下に公開する。これは、先の投稿「イスカンダルの王権とデスラーの人物像について」の一部を構成するものだ。
 本稿もまた、前回と同じく二人のタラン――軍需国防相の兄ヴェルテ・タランと参謀本部参謀次長の弟ガデル・タラン――の対話形式を取りながら、ガミラスの軍政と用兵の実像に迫っている。特に今回は、ガミラスとガトランティスの戦争を考える上での五つのポイントの二番目、戦争に変化をもたらした敵、ガトランティス軍の姿が明らかにされる。
 一読されれば、これまで公表されたわずかな手がかり――艦艇の形状等――から、ここまで考察できるのかと驚かれることだろう。

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『宇宙戦艦ヤマト2199』 ガミラス考察補論集1

思考実験としての続編小説~ガトランティス戦争編~

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2. ガミラス第二帝国の戦争準備
 ――ガトランティス軍とガデル・タラン(その2)――


メカコレクション 宇宙戦艦ヤマト2199 No.06 ラスコー級 プラモデル ヴェルテは弟が表示したガトランティス艦のそれぞれを身じろぎもせずに見つめている。ラスコー級突撃型巡洋艦、ククルカン級襲撃型駆逐艦といったガトランティスの小型艦艇が窓状のホログラム中に表示されていた。二人にとって生涯忘れ得ぬ数多くの苦い思い出を持つそれらを、ガデルは一瞥すると兄の方に視線を移す。

 ガデルの今夜の講義の第二項目、「ガトランティス軍の姿」は、最初にその概要を述べるところから始まった。

メカコレクション 宇宙戦艦ヤマト2199 No.07 ククルカン級 プラモデル 「…まず最初に、ガトランティス軍の顕著な特徴について述べよう。彼らの戦い方と兵器システムは、従来の我が軍のシステムとはおよそ共通点が無いまでに異なっている。おそらくはアケーリアス時代の戦いの様式から独自の発達を遂げたものだろう。大まかには次のような特徴を有している。
 まず第一に、彼らは古代的な横隊戦列を好んで用いる。縦隊を基本とする我々とは全く異なり、彼らは横隊を基本隊形として陣形を構築し、各種の作戦行動を行っている。(※25)
 続いて第二に、彼らは艦隊戦において航空機の使用を重視している。詳細は後で述べるが、彼らは航空機を我々の実体弾(※魚雷とミサイルの事)と同じ用途に活用している。(※26)
 そして第三に、彼らは大兵力が正面から激突する“会戦”に対応した兵器システムを有している。彼らはその一連の兵器を用い、会戦において横隊戦列と縦隊戦列を組み合わせた用兵を行う。これは彼らの戦いの際立った特徴であり、我々の(大小マゼラン)世界では見られないものだ。そして“小マゼランと大マゼランの会戦”での悲惨な体験によりはじめて明らかになった事でもある。このガトランティスの用兵については後で詳しく言及する。
 …以上、ここではガトランティス軍の特徴について特筆すべき三つを挙げた。ここからはそれぞれについて、小官の見解を交えつつ詳細を述べていきたい」

 ガデルはガミラスから見たガトランティス軍の特徴について述べた。

(※25)映画「星巡る方舟」において、ガトランティスは五隻程度の艦を横一列に並べた隊形で作戦行動を行い、横隊を縦横に連ねた陣形を敷いて戦っている。この事からこの文章では、ガトランティスは大規模な戦いでは(銀河英雄伝説で見られるような)横隊戦列を形成して戦うと想定している。

(※26)宇宙で活動する艦載機とその母艦をそれぞれ「航空機」「空母」と称するのは、本来なら不適切であると考えられる。(SF小説では、宇宙を航行する機械に「空」という字を用いることは一般的ではない。)しかしながら、ヤマト2199では「航空機」「空母」という用語が劇中で用いられている為、この文章においても「航空機」「空母」という用語をそのまま用いる事としている。

 その話を聴くヴェルテは、弟が「俺」「自分」ではなく「小官」と自らを指して述べたのに気付くと一瞬だけ軽く笑みを浮かべた。弟は完全に参謀次長としての話し方をしている。ならばこれから聴く話は軍需国防相としての自分の職務に極めて有益なものとなるだろう。やはり弟との会話は得るものが多い。弟はどのような兵器システムの姿を語ってくれるのか。そう考えたヴェルテは、内心では久しぶりに期待と好奇心で心を躍らせていた。

 ガデルは「ガトランティス軍の横隊戦列」について言及を始めた。

 「…では、第一の特徴である『横隊戦列』について説明しよう。これまでの戦例から、ガトランティスは小競り合い程度の小規模な戦いでは我々と同じ縦隊で戦う事もあるが、大規模な戦闘では横隊戦列を好んで使用する事が分かっている。彼らの横隊戦列は古代、具体的にはイスカンダル帝国以前のそれと比べ次のような違いがある。
 一つは規模が極めて巨大である事だ。古代の横隊戦列が多くの場合、数百隻程度の規模だったのに対し、彼らの横隊戦列は数千隻から数万隻もの規模であり、展開する範囲も古代と比べ桁違いに大きい。
 そしてもう一つは、火力だけではなく機動力も重視している事だ。古代の(横隊)戦列が火力重視の艦艇で構成される鈍重な集団だったのに対し、ガトランティスの横隊戦列は機動性に優れた艦艇で構成され、火力を必要とする地点に迅速に移動できるようになっている。これはおそらくは戦列の巨大化に対応した措置であると思われるのだが、ともかく彼らの横隊戦列は次のような構造になっている」

 そのように言うとガデルはガトランティスの横隊戦列の立体モデルをホログラムボードに表示した。既に表示されていたガトランティス艦の立体モデルが小さくなり、反対に横隊戦列の立体モデルが膨れ上がるように広がり表示される。ガデルは更にそれをゆっくりと回転させて見せた。一枚の大きな戦列の背後にいくつかの小さな正方形が控え、更にその背後に小さな正方形を幾何学状に並べた図形が控えている。(※図26参照)
  ガトランティス軍とガデル・タラン 図26

 ガデルは自らが表示したモデルについて説明を始めた。

 「見ての通り、ガトランティス軍の(横隊)戦列は三つの構造から成り立っている。
 この内最前面の“第一戦列”は、百隻程度の“中隊”をいくつか束ねた“大隊”が縦横に連なる事で形成されている。その背後には小さな部隊がいくつか控えているが、これは第一戦列を形成する各大隊の予備と考えられている。(※図27及び図28及び図29参照)
  ガトランティス軍とガデル・タラン 図27

  ガトランティス軍とガデル・タラン 図28

  ガトランティス軍とガデル・タラン 図29
 そして第一戦列の後方には同程度の規模の“第二戦列”が控えている。この戦列は第一戦列の背後を自由に機動し、第一戦列の任意の箇所に投入され局所的な火力を飛躍的に増強する役割を果たす。第二戦列が投入された箇所の砲火は極めて強烈で、小マゼランと大マゼランでの会戦では我が方の縦隊戦列の実体弾(※ミサイル・魚雷)をことごとく防ぐ威力を見せた。(※図30及び図31参照)
  ガトランティス軍とガデル・タラン 図30

  ガトランティス軍とガデル・タラン 図31
 なお、この第二戦列はガトランティスの大侵攻以前には見られなかったものだ。我が軍は小マゼランと大マゼランの会戦で、万を超える彼らの軍勢と対峙した時に初めてこれを目撃した。おそらく“第二戦列”は、複数の軍団(※ここでの軍団は編制の単位としての軍団である。)が動員される事ではじめて可能になるシステムであると考えられる。その理由については第三の話題、『ガトランティスによる戦争の変化』の所で述べる。(※27)(※28)
 では、今度は装備の面から見たガトランティスの横隊戦列の性質について説明しよう」

(※27)文中でガデルが述べるガトランティス軍の姿は、あくまでガミラス側の認識であり実際の姿とは異なる事もあり得るとこの文章では想定している。ガトランティス人自身が考えるガトランティス軍の姿は、後日別記事にて記述する予定でいる。

(※28)ヤマト2199第18話で示されたように、ガミラスは万単位の巨大な艦隊を動員する事ができる。これと正面から戦争できるガトランティスは、ガミラスと同様に万単位の艦艇を動員し、更には巨大な戦列を形成するとこの文章では想定している。(※図32参照)
  ガトランティス軍とガデル・タラン 図32

 ガトランティスの横隊戦列の基本構造について説明した後、ガデルはホログラムボードの方を向き図を変化させた。小さく表示されていたガトランティス艦が再び大きく表示され、横隊戦列は単純な図形から多数の艦が整列するモデルへと変化する。

 ガデルは話を再開した。

 「ここに示したラスコー(級突撃型巡洋艦)とククルカン(級襲撃型駆逐艦)を見てもらいたい。良く知られているように、ガトランティスの小型艦艇は艦首砲を装備せず、防御も簡易シールドのみと貧弱である。これは我々と同様に艦の量産性を高める為であると考えられる。そうすることで彼らは横隊戦列の巨大化を実現し、艦首砲の不使用による火力の低下を補っている。
 次にラスコーとククルカンの砲塔配置を見てもらいたい。図から明瞭なように、ガトランティスの小型艦艇は艦の正面に最大の火力を投射できるようになっている。これは我々の(大小マゼラン)世界の古代型艦艇と共通した特徴である。しかしその一方で、ラスコーとククルカンは副砲塔を多数設置し、艦の横方向にもそれなりの火力を発揮できるようになっている(※図33参照)。このガトランティスの小型艦艇の砲塔配置は、横隊戦列の機動性を高める為の措置であると考えられる。
  ガトランティス軍とガデル・タラン 図33
 …この図を見てもらいたい。これは横隊戦列の機動の一例を示したものだ」

 そのように言うとガデルはホログラムボードの横隊戦列の図を変化させた。横隊戦列を構成する各艦が一斉に向きを変え、横隊戦列は横にスライドするような機動を始めた。真横、斜め、垂直方向とガデルが艦の向きを変える度に、横隊戦列はその方向へスライドするように動く。(※図34参照)
  ガトランティス軍とガデル・タラン 図34

 「…この(横隊戦列の)機動は主に、戦列が機動する敵を高速で捕捉する際に使用される。これを行うと、例えば古代型艦艇は艦首砲を敵に向けられない為火力が大幅に減少してしまう。これに対しガトランティス艦は艦首砲を装備せず、かわりに副砲を多数装備するため火力はそれ程減少しない。つまり、高速で機動し敵を横隊戦列の正面に捉えるという行動を採っても、その過程で常に砲火が劣勢にならないようにしているのだ。(※図35参照)
  ガトランティス軍とガデル・タラン 図35
 艦首砲の不使用と副砲の装備、そして船体の殆どをエンジンとする機動性能の重視(※図36参照)。こうしたガトランティスの小型艦艇の特徴は、本来高速の機動を行えば火力を発揮できない、即ち射撃戦が始まれば鈍重な動きしかできない横隊戦列に高い機動性を与える為のものであると考えられる。
  ガトランティス軍とガデル・タラン 図36
 従ってガトランティスの横隊戦列は、古代の横隊戦列とは異なり、火力と機動力の両立を図っていると言う事ができるだろう。それでは火力については、ガトランティス艦の装備はどのような貢献をしているのか」

 “火力と機動力の両立”というガトランティスの横隊戦列の特徴についてガデルは述べると、次に彼はホログラムボードに表示していたガトランティス艦を更に拡大し、輪胴砲塔の辺りを指で指し示した。彼は話を続ける。

 「…ここに示したガトランティス艦の輪胴砲塔に注目してもらいたい。このガトランティス特有の装備は非常に広い射界を持ち、しかも射撃の方向を瞬時に変える事ができる(※図37参照)。これを利用する事で、ガトランティスの横隊戦列は火力に関し独特の効果を発揮する事ができる」
  ガトランティス軍とガデル・タラン 図37

 ここまで言ったところでガデルはホログラムボードのガトランティス艦を小さくし、代わりに横隊戦列の図を再び変化させた。横隊戦列を構成するガトランティス艦の数がどんどん増えていき、ホログラムボードを埋め尽くす巨大な戦列となった。

 ガデルは火力の面から見たガトランティスの横隊戦列の性質について言及を始めた。

 「今ここに巨大な横隊戦列があるとしよう。この戦列がある一つの標的に集中射を行うとする。この一見簡単な行為を行うのに、例えば古代型艦艇ならいくつかの難題に直面するだろう。
 まず、標的が往々にして艦の真正面からあさっての方位にいるため、艦首砲を標的に向けるのに艦を大きく回転させねばならない。また、個々の艦は多くの場合自艦の真正面に敵がいるため、それと戦いつつ艦首砲を向けねばならない。これでは多数の艦首砲を向けるのに時間がかかり、目標を次々に変える迅速な集中射を行うのが難しくなる。多数の標的に高速で機動されると、その覆滅が困難になるのだ。
 これに加え、正面の敵を無視しあさっての方位へ艦首砲を向ける事自体が難しい事を考えると、集中射には旋回砲しか使用できず、戦列の規模の割に大した火力を集中できないという事態すら生じるだろう。つまり戦列が巨大化すると、古代型艦艇は状況に対応しづらくなるのだ。(※図38参照)
  ガトランティス軍とガデル・タラン 図38
 これに対しガトランティス艦は、その装備によりこうした問題に容易に対処する事ができる。
 まず第一に、輪胴砲塔の効能でどの方位にいる敵に対しても、瞬時に目標を切り替え集中射を行う事ができる。
 また、多数の輪胴副砲塔を装備し、艦の横方向や斜め方向にもそれなりの火力を発揮できるため、正面の敵と戦う最中に瞬間的にあさっての方位へ大量の砲火を浴びせ、すぐ正面の(敵との)戦いに戻るという芸当も可能である。(※図39参照)
  ガトランティス軍とガデル・タラン 図39
 これによりガトランティスの巨大な横隊戦列は、その規模に見合った大火力を集中する事ができる。戦列の局所的な火力を瞬時に高め、高速で機動する敵部隊を次々に粉砕できるのだ。結論としてガトランティスの小型艦艇は、『巨大な戦列における火力の効率的運用』という課題を、達成していると言う事ができるだろう。
 …以上、ここでまとめておこう。ガトランティスの横隊戦列は古代のものと比べ、規模が巨大で戦闘中も高い機動性を発揮する。また、巨大な戦列にもかかわらず、戦列前面のいかなる場所に対しても猛烈な砲火を素早く集中できる。そして集中射を行う標的を瞬時に切り替え、次々に砲撃する事ができる。これによりガトランティスは、巨大な戦列が持つ大火力を有効利用する事ができる。艦艇の機動と“火力の機動”により、必要な箇所に必要な火力を的確に供給できるのだ(※図40参照)。これは古代型艦艇では難しかった事だ。従って、ガトランティスの小型艦艇の『量産性や高い機動性能、輪胴砲塔と多数の副砲』という諸々の性質は、アケーリアス時代から横隊戦列が抱えていた課題を克服する為に発達したものであると考えられる」
  ガトランティス軍とガデル・タラン 図40

 「ガデル、質問しても良いか」

 ガトランティスの横隊戦列について総括したガデルに、それまでずっと弟の講義を聞いていたヴェルテが口を開いた。

 「“輪胴砲塔と副砲のシステム”の脅威についてだが、それはガトランティスの大侵攻後に認識された事なのか?
 ガトランティスの大侵攻以前に兵器開発局で行われた調査では、輪胴砲塔と副砲のシステムが我々の旋回砲よりも有用であるという見解は示されていない。論拠は次のようなものだ。
 第一に、多数の砲身を持つ輪胴砲塔は、我々の旋回砲よりも構造が複雑で高コストである事。
 第二に、砲塔を多数備えるガトランティス艦のシステムは、艦首砲ほどではないが少なくないエネルギーを消費するため、機動性能と両立させるのにエンジンの大型化が必須である事。
 そして第三に、こうした構造の艦に我々の艦隊が大損害を受けたという報告が前線から寄せられなかった事だ。
 これらの事から兵器開発局は、輪胴砲塔と副砲のシステムについて『高コストな割に効果は低い』と結論づけている。
 ガトランティスの小型艦艇が我々のものよりも高コストであるのは、例えばククルカン(級襲撃型駆逐艦)とクリピテラ(級駆逐艦)を見ればはっきりしている事だ。どちらも両軍の中で最も小型で最多の艦艇だが、ククルカンはクリピテラよりもずっと大きい船体とエンジンを有している。当然ククルカンは生産コストも高いと考えられていて、もし我々が同じ仕様の船を作れば、クリピテラの三倍近いコストを要するだろうと兵器開発局は試算している。(※図41参照)
  ガトランティス軍とガデル・タラン 図41
 こうした艦艇がコストに見合うだけの脅威になるというのは、ガトランティスの大侵攻で判明した事なのか?参謀次長としての見解を聞きたい」

 軍需国防相としての知見を交えたヴェルテの質問に対しガデルは答えた。

 「輪胴砲塔と副砲のシステムの効能は、兄さんの言う通りガトランティスの大侵攻によって判明した事だ。ガトランティスの横隊戦列のシステムはそもそも、規模が巨大になった時に初めてその真価を発揮する(※図42参照)。その為我が軍は(ガトランティス軍の)大侵攻で敵の大軍と対峙するまで、その脅威に全く気付かなかったのだ。更に言えば、我が軍は大侵攻以前の戦いでガトランティス軍に容易に勝利していた為、なおさらその装備に注意を払わなかった。その結果我々は正に、大侵攻を受けた際に大きなツケを払う事となった。それについては後で話すとして、講義を先に進めたい。よろしいだろうか」
  ガトランティス軍とガデル・タラン 図42

 ガデルは兄に確認を取った。兄が話の続きを促すと、ガデルは再び講義を再開する。

 ガトランティス軍の特徴について語るガデルの講義は、「横隊戦列」の話から次に「航空戦力」の話へと移っていった。

 「…それでは次に、ガトランティス軍の第二の特徴である『航空戦力』について説明しよう。ガトランティスは我々とは異なり、艦隊戦において航空機の使用を重視している。現代の我々が惑星の制圧や拠点防衛にしか航空機を用いないのに対し、彼らは広大な星間空間での艦隊戦においても、航空機を大々的に使用しているのだ。何故このような違いが存在するのか。それは、彼我の戦闘様式の違いに理由があると考えられる。(※29)
 まず、我々の側から見てみよう。一般に、高速の機動とゲシュタムジャンプを駆使する我が軍にとって、航空機は扱いづらい兵種である。艦艇を上回る機動性能を持つものの空間跳躍できない航空機は、我々の艦隊が多用する長距離の連続機動に追随する事ができない。また、母艦からの発進と収容に時間がかかるため、艦隊に航空部隊を随伴させると作戦のテンポが落ちてしまう。こうした欠点が機動戦の行われる戦場で致命的である事は、戦史を紐解くまでも無くガトランティスとの戦いで度々示されてきた。
 …次の図を見てもらいたい。これは(ガトランティスの)大侵攻以前の小マゼランで行われた典型的な戦いを示したものだ」

(※29)「ヤマト2199」や映画「星巡る方舟」の描写を見ると、ガミラスとガトランティスの航空機の扱いには顕著な違いが認められる。
 まずガミラス側の場合、第1話の冥王星沖海戦や第11話冒頭のガトランティス討伐戦にガミラス軍は空母を全く随伴していない。さらにドメル軍団で「航空戦隊長」の肩書きを持つライル・ゲットーは、ヤマト2199第15話において何故か巡洋艦や駆逐艦の部隊を率いてヤマトを攻撃している。これらの描写から、ガミラスは艦隊戦に航空機を用いていないと考えられる。
 一方、ガトランティス側はそれとは全く対照的に艦隊に空母を随伴し、航空機を積極的に使用している(※ヤマト2199第11話及び映画「星巡る方舟」の描写より)。

宇宙戦艦ヤマト2199 1/1000 ナスカ級キスカ 艦隊戦に航空機を用いないガミラスと大々的に使用するガトランティス――。対照的な両者の姿について言及するとガデルはホログラムボードに図を表示し、かつてガトランティスが大小マゼランに大挙侵攻する以前に行われた両者の戦いについて説明を始めた。

 「…この図の中央にいるのが我が軍の艦隊、そこから少し離れた宙域にいるのがガトランティス軍だ。ガトランティスは航空機を艦隊の前方に進出させ、我が方の艦隊に攻撃を試みる(※30)。対する我が方は敵機の接近を確認すると退却し、敵機を遠くへと釣り出す。敵機と敵艦隊が十分に離れた所で我が方はゲシュタムジャンプし、敵機の追撃を振り切る。離脱した我が方はすぐに再びゲシュタムジャンプし、敵艦隊のいる宙域に舞い戻る。敵艦隊を捜索し捕捉・撃滅した後(のち)、我が方はその場に留まらず離脱する。敵機は味方のいた宙域に戻った時には母艦が失われており、そのまま宇宙を漂流する他無くなり戦わずして全滅する。(※図43参照)
  ガトランティス軍とガデル・タラン 図43
 ここに示した戦例で留意すべき事は、航空機を発進させると、収容するまで母艦と艦隊は遠くへ移動できなくなるという事だ。たとえ航空機の発進後移動したとしても、航空機に空間跳躍能力がない以上、彼らを収容する為母艦と艦隊は必ず航空機の近辺に留まらざるを得ない。つまり、航空機を発進させると、艦隊は作戦レベルの機動性を喪失してしまうのだ。我が方からすれば、ゲシュタムジャンプで航空機を翻弄しつつ、敵艦隊を探し出し襲撃を仕掛けるのは容易な事であった。(※31)
 …次にこの図を見てもらいたい。これは先程述べた戦例の一局面で、敵艦隊を捜索する我が方の艦隊が空母を擁する敵部隊と遭遇した所だ。この時敵は空母を我が方から遮る様に横隊戦列を展開し、戦列の裏で空母は航空機を発進させようとする。これに対し我が方は実体弾(※ミサイル・魚雷)の集中射で戦列に突破口を開けると、一隊を突入させ空母を護衛部隊ごと包囲して撃滅する。(※図44参照)
  ガトランティス軍とガデル・タラン 図44
 (ガトランティスの)大侵攻以前の戦いにおいて、我が軍は航空機を使用しようとするガトランティス艦隊をしばしばあっさりと全滅させている。何故そうなったのか。それはひとえに、彼らが空母を持つ故に『動けなかった』からだ。我が方と接敵し、積極的に機動を仕掛けねばならない局面で彼らは航空機を発進させる為に“静止”し、我が方をただ受身となって待ち受けた。我が方は『有利な位置への機動』(※32)を仕掛け、この時期の敵が小兵力であった事もあり、容易に戦列を突破し空母を直接衝いた。敵は空母を護衛する為これまた動く事ができず、殆ど静止状態で我が方の射撃を浴びる事となった。(※33)
 この戦例が明瞭に示すように、空母を艦隊戦で積極的に活用しようとすると、艦隊は機動を仕掛ける時機を逸してしまう。有利な位置を巡り互いに高速の機動を駆使しあう機動戦において、これは正に致命的な事であった。
 …ここまでで我が方にとっての航空戦力についてまとめておこう。空間跳躍できない航空機と、艦隊機動の妨げになる空母のシステムは、高速の機動とゲシュタムジャンプを多用する現代の機動戦に適さない。その為機動戦を用兵の根幹とする我々は、艦隊戦に空母を用いていない。空母と航空機は専ら、動き回る事のない惑星の制圧や、向かって来る敵を迎撃するだけの拠点防衛にのみ使われている。広大な星間空間で機動戦を繰り広げる我々にとって、空母と航空機は補助的な存在でしかありえないのだ。(※34)(※35)
 …では、今度は立場を変えて、ガトランティスの側から航空機について見てみよう。彼らの戦いの様式では、航空機は一体どのような存在となるのか」

(※30)映画「星巡る方舟」にはガトランティス軍が空母を艦隊の前方に進出させる描写が出てくる。この描写から、攻撃機のデスバテーターには空間跳躍能力は無いと考えられる。もしデスバテーターが空間跳躍できるなら、対艦能力に乏しく格好の標的となる空母をわざわざ艦隊の前方に進出させる必要が無いからである。

(※31)ガミラス軍の索敵能力の高さを証明する事例として、ドメル軍団が極めて広大な銀河間空間をただ一隻で航海するヤマトの動向を把握し続けた事が挙げられる。およそ1万5千光年の広がりを持つ大小マゼラン銀河や、十数万光年の距離のある銀河間空間で活動するガミラス軍にとって、ワープ能力を持たない有人機が活動できる範囲内(狭いコクピットで操縦する事から、パイロットの体力の限界上艦隊からせいぜい数時間程度の距離内でしか活動できないと考えられる)にいる敵艦隊を捕捉するのは容易な事ではないだろうか。

(※32)「有利な位置への機動」とは、ガミラスの「機動戦」を構成する三つの戦闘形態の内の一つである。詳しくは前々回の記事「ガミラス第二帝国の戦争準備―イスカンダル帝国の興亡史―」の図7を参照の事。

(※33)空母は航空機の発着時に激しい機動を行えない為、この時に攻撃されると殆ど回避運動もできずに護衛部隊ごと全滅する可能性が高いと考えられる。従ってドメルのように創意工夫に富んだガミラスの指揮官は、航空機の発着の瞬間を衝いてワープ・襲撃を仕掛ける事もあったと考えられる。ヤマト2199でドメルが見せたガトランティスへの鮮やかな勝利は、そうした戦例の一つであったと想像する事もできるのではないだろうか。

(※34)文中でのガデルの発言のように、ガミラスでは航空機が主要な戦力と見なされていない事を窺わせる描写が劇中には幾つか存在する。
宇宙戦艦ヤマト2199 メカコレクション 大ガミラス帝国軍艦載機セット ~太陽圏の攻防編~
  • ガミラスの戦闘機が科学技術の遅れた地球の戦闘機と互角に戦っている事。ガミラスの艦艇が地球艦に対し絶望的な程の性能差を見せ付けたのに対し、ガミラスの戦闘機は不思議にもイスカンダルの技術供与を受ける以前の地球で作られたコスモファルコンと同等の性能しか持っていない。もっともこの件に関しては、地球の戦闘機はガミラスだけではなくガトランティスのデスバテーターとも互角に戦えている事から、ヤマト2199の世界では航空機に用いられる技術レベルはそもそも決して高くないと考える事もできるだろう。
     しかしながら、ヤマト2199第1話でコスモゼロを一気に振り切る機動を見せたスマルヒ偵察機の存在を考えると、ガミラスはその気になれば地球機を懸絶する戦闘機を開発・量産できるはずである。にもかかわらず“低性能”な機体しかガミラスに存在しないのは何故なのか。それはガミラスが元々航空機に技術や資源を投じる程の価値を認めていなかった為ではないだろうか。

  • 冥王星沖海戦やドメルのガトランティス討伐戦のような“正規の艦隊戦”に航空機が使用されていない事。

  • 宇宙戦艦ヤマト2199 メカコレ 大ガミラス帝国軍艦載機セット ~銀河の果て編~
  • 艦上爆撃機のスヌーカや艦上攻撃機のドルシーラが二線級の兵器とされてしまっている事。「宇宙戦艦ヤマト2199全記録集 vol.2」及び「公式設定資料集[GARMILLAS]」の記述によると、両機は辺境宙域が“主な活躍の場”とされ名実共に一線を退いた存在となっている。
 以上の描写から、筆者はこの文章において「ガミラスにとって航空戦力は補助的な存在でしかない」という想定を行った。

1/1000 ガイペロン級多層式航宙母艦「ランベア」 (宇宙戦艦ヤマト2199)(※35)スヌーカやドルシーラが“旧(ふる)い兵器”とされている事やガイペロン級空母にシュデルグのような“老朽艦”が存在している事から、ガミラスにおける“空母と航空機のシステム”は、元々ガミラスが帝国を形成する以前から存在していたと考えられる。当時のガイペロン級空母やスヌーカやドルシーラは、専らサレザー恒星系を侵略しに来る外敵を迎撃する(用兵的には“拠点防衛”に該当する)のに使われていたと思われる。
 一方、ポルメリア級空母は艦底部に地上掃射用の大口径レーザー砲を持つなど惑星制圧に適した仕様である事から、ガミラスが大小マゼランを征服していった時代に“惑星制圧用の兵器”として新規に開発されたと考えられる。(※図45参照)
  ガトランティス軍とガデル・タラン 図45

 ガミラスにとって航空戦力がどのような存在であるのかを丁寧に解説すると、ガデルは続いてガトランティス軍のシステムにおける航空戦力の姿について言及を始めた。

 「…この図を見てもらいたい。これは大侵攻以前の戦いと大小マゼランでの会戦から推定した、ガトランティス軍の用兵である。
 図の両端にそれぞれガトランティス軍と敵軍が布陣している。両軍は共に横隊戦列を敷き接近を開始する。ガトランティス軍は空母を先行させ、航空機でまだ本隊の遥か前方にいる敵軍を攻撃する。空母は敵を打撃すると同時にその数と動向を本隊に伝え、敵が予想外の位置に移動しないように牽制する。
 続いてガトランティス軍は、空母からの情報を元に前進を続け、空母と合流後に会敵する。彼我の横隊戦列が接触し射撃戦が始まる直前、ガトランティス軍は再び航空機を発進させ、遊撃隊として待機させる。戦列同士の射撃戦が始まると、ガトランティス軍は航空機に敵戦列の翼側を攻撃させ、自らの戦列も敵の側面に回り込むように機動を開始する。敵軍は航空機の妨害でガトランティス軍の機動に追従できず、ガトランティス軍に側面へと回り込まれる。こうして敵軍の横隊戦列は、弱点である側面に集中砲火を受けて崩壊する。(※図46参照)(※36)
  ガトランティス軍とガデル・タラン 図46
 この図のように、ガトランティス軍の用兵は横隊戦列同士が正面からぶつかり合う戦場を想定していると考えられる。こうした戦いの様式であれば、航空機は有用な存在になるだろう。戦闘の展開が緩慢で、空母の欠陥が問題にならないからだ。この様式は機動戦とは対照的に、彼我の戦列がゆっくりと接近して戦闘が始まり、戦闘中も戦列が激しく動き回らない。よって空母は航空機を発進させる時間を得られ、空母が艦隊機動の妨げになる事も無いのだ。
 空母から無事に発進する事さえできれば、航空機は丁度我々の実体弾と同じ役割を果たす事ができる。味方の戦列と交戦中の、敵戦列の機動を妨害する事だ。
 一般に航空機は、極めて貧弱な火力ゆえに敵戦列との正面切った撃ち合いには耐えられない。また、大量の数がなければ艦隊に大損害を与える事もできない。(※37)(※38)
 しかし、艦艇を上回る機動性能で敵戦列の端に回り込み、攻撃を加え敵の機動を妨害するだけなら、比較的少数(の兵力)でも任務を達成する事が可能である。従って、横隊戦列同士が戦うのであれば、航空機と空母のシステムは艦隊戦で有用な存在になると考えられる。
 …以上、ここでまとめておこう。ガトランティス軍は我々とは異なり、艦隊戦で航空機を大々的に使用している。我々が行う機動戦では航空機は足手まといにしかならないのに対し、彼らが想定する横隊戦列同士の戦いでは、航空機は効果的な戦力に成り得るからだ。航空機と、高い機動性を持つ彼らの横隊戦列を組み合わせる事で、彼らは古代的な横隊戦列を用いる敵を圧倒してきたのではないかと考えられる」

宇宙戦艦ヤマト2199 1/1000 ナスカ級キスカ
(※36)ガトランティスの航空機運用に関して、映画「星巡る方舟」ではナスカ級空母の前衛打撃群がヤマトに攻撃を加え、ヤマトの情報(艦種と行動)を本隊に連絡している。またヤマト2199第11話では、ドメル軍団と対峙したガトランティス艦隊が航空機を発進させようとしている。筆者はこれらの描写を元に文中におけるガトランティス軍の用兵を想定した。

(※37)「戦力の迅速な展開」という観点から見ると、空母のシステムは艦隊戦の規模が大きくなればなる程戦力としての効率が悪くなると考えられる。空母一隻あたりの艦載機数を多くすれば(カタパルトの数の制約から)航空部隊の発艦に時間がかかり、逆に艦載機数を少なくすれば多数の空母が必要となり部隊のコストが跳ね上がるからである。
 したがって航空機の使用を重視するガトランティスといえども、大量の艦艇で艦隊戦を行う以上、航空機のみで敵艦隊を覆滅する運用は行っていないと考えられる。

(※38)余談となるが、ガミラスは航空機だけではなくワープ能力を持つ宙雷艇も艦隊に随伴させていない。これは宙雷艇の武装が正面切った艦隊戦に堪えられないほど貧弱である為と考えられる。(逆に言えば、クリピテラ級駆逐艦の「貧弱なビーム兵装」や160mというサイズは、「敵艦と正面切って戦える最小限の仕様」であると想像する事もできるのではないだろうか。)

 「ガデル、また質問しても良いか」

 ガトランティスの航空戦力について総括した弟に、再びヴェルテが質問を始めた。

 「今説明してくれたガトランティス軍の用兵は、敵が空間跳躍を多用しない事が前提となっているのか?
 我々やかつての(大小マゼラン)諸国軍のように(ゲシュタム)ジャンプによる急襲と撤退を多用する相手には、航空機は索敵や(本隊の)会敵前の牽制攻撃に使えないのではないか。不意討ちの危険を考えれば、空母を艦隊から先行させる運用も為されないだろう。ガトランティスのエンジンは我々のものとは異なり、短時間の休憩を挟んでの連続ジャンプはできない性質を持つが、相手も同様のエンジンであるとの前提でこの用兵は成り立っているのか?」

 ヴェルテはガトランティスのエンジンの特徴について少し触れた。

 兄の問いかけに対し、ガデルが答える。

 「ご指摘の通り、ゲシュタムジャンプを多用する機動を行えば、航空機は翻弄されるばかりとなり索敵や牽制攻撃の役に立たなくなる。艦隊から先行する空母も、格好の標的となるだけだろう。従って、今述べたガトランティスの用兵は、まさしく敵が空間跳躍を多用できない事を前提としていると考えられる。
 それと、ガトランティス軍の航空戦力の重用ぶりを見る限り、彼らが低出力系統波動エンジンのような性質のエンジンとの戦いを、元々想定していなかった可能性は高いだろう」

 「つまり、彼らと我々の戦い方の相違は、採用している技術の相違からも生じているという事なのか」

 「そういう事になるな、兄さん」

 畳み掛けるように質問した兄に、ガデルは少し考えを巡らせると兄の見解に同意した。

 航空戦力に関するガミラスとガトランティスの違いは、両者の戦闘様式の違いから生じている。そして両者の戦闘様式の違いは、両者が用いる技術と関係している――。

 思いがけず技術と戦いの関係について話を振ってきたヴェルテに、ガデルは詳細な回答を始めた。

 「…そもそもガトランティスのエンジンは、以前兄さんが講義してくれたように次のような性質を持っている。
 第一に、出力が大きく空間跳躍距離に優れる。そして古代アケーリアスやイスカンダルとは異なり、大部隊が一斉に空間跳躍する事が可能である。この性質は、兄さんの言を借りれば『宇宙を漂流する帝国』であるガトランティスが、大軍団で外宇宙から飛来するのに必要不可欠なものであっただろう。(※39)
 続いて第二に、大出力であるが故に、大部隊が空間跳躍する際の空間負荷が大きい。その為大部隊が跳躍する際は、時空震や空間断裂等の事故を防ぐため整然とした隊形をとる必要がある。(※40)
 そして第三に、低出力系統波動エンジンとは異なり、短い休憩を挟んでの連続跳躍ができない。(※41)
 以上挙げた三つの性質の内、第二と第三の性質は、おそらくは我が方との戦い方の違いを決定的なものにしただろう。
 我々の行う機動戦が、そもそも古代に低出力系統波動エンジンが生まれた結果発達した事を思い返してもらいたい。大部隊の連続ジャンプが可能な低出力系統波動エンジンは、彼我の戦列が激しく動き回り、戦いの展開も素早い機動戦を生み出した。
 一方、大部隊の一斉跳躍が可能だが迅速な機動には制約のあるガトランティスのエンジンは、戦列の動きが少なく、戦いの展開も緩慢な横隊戦列同士の戦いという、アケーリアスや古代イスカンダルの時代の戦い方を継承させた。彼らは独自に生み出したエンジンを元に、古代の戦い方を改良する道を選んだのだ。
 従って、『採用している技術の相違も戦い方の違いに関わってくる』という、日頃兄さんが話している事はガトランティスについても当てはまると言えるのではないだろうか」

(※39)この文章では、イスカンダルとアケーリアスのエンジンは大部隊が一度に空間跳躍できないとしている。詳細については前々回の記事「ガミラス第二帝国の戦争準備―イスカンダル帝国の興亡史―」を参照の事。

300ピース ジグソーパズル 宇宙戦艦ヤマト2199星巡る方舟 ヤマトxガトランティスxガミラス(26x38cm)(※40)映画「星巡る方舟」では、ヤマトがシャンブロウに逃げた事を(空間航跡の解析で)探知したゴラン・ダガームが、旗下の艦隊に「全艦、空間跳躍の陣を敷け」と命じるシーンがある。筆者はこの描写を元に「ガトランティスのエンジンは空間跳躍の際に整然とした隊形をとる必要がある」という想定を行った。

(※41)ヤマト2199劇中では、ガミラス軍は大部隊で敵の直近にワープアウトして攻撃を仕掛け、さらにはごく短時間の休憩を挟んでの連続ワープを行っている。(ヤマト2199第10話、第15話)
 このようなワープを多用できる相手にワープ能力の無い航空機を使用することは、文中でガデルが述べたように敗北の原因にもなりかねないと考えられる。にもかかわらずガトランティス軍が艦隊戦に航空機を大々的に使用しているのは、ガトランティスのエンジンが短い休憩を挟んでの連続ワープの能力を持たず、それ故に上記の「航空機の問題」を認識する事が無かったからではないかと考えられる。

 「…古代アケーリアスに古代イスカンダル、そして我々。どれも皆、自らが持つ技術を最大限に生かす為に独自の用兵を発達させた。ガトランティスも例外ではなかったという事だな。よく分かった、ガデル。
 ところで、今まで話を聞いてみて思ったのだが、ガトランティス軍は様々な面で古代的な特徴を残した軍隊なのだな。だが彼らの大型艦艇は、中でも最も古代的な特徴を持つ存在ではないのか?それについての言及はこれから行うのか?」

 「無論そのつもりだ、兄さん」

 技術の話に続き、ガトランティスの大型艦艇の話を振ってきたヴェルテにガデルは短く応えた。

 「これから話す事は、ガトランティス軍のシステムと古代の戦いの関連性を強く意識させるものになるだろう。彼らは確かに、古代アケーリアスや古代イスカンダルの時代の戦いから、我々の(大小マゼラン)世界とは全く異なる進化の過程を辿ったんだ。
 では、話を再開しよう。これより、ガトランティス軍の第三の特徴、『会戦に対応した兵器システムと用兵』について説明を行う」

 ヴェルテの質問で多少くだけた口調となっていたガデルは、再び講義の為の改まった口調に戻ると、ガトランティス軍の第三の特徴について言及を始めた。

 「ガトランティス軍は従来の我が軍とは異なり、万を超える大軍が正面から激突する“会戦”に対応した兵器システムを有している。これまで解説を行った、ガトランティスの巨大な横隊戦列、それに対応した小型艦艇の装備、そして航空機。これらは全て、会戦に対応したシステムの一環である。我々はガトランティスの大侵攻によって初めて、彼らのシステムの本当の姿を目にしたのだ。
 それに加え、彼らは更に、会戦での使用に特化した特別な兵器を有している。それこそが彼らの大型艦艇であるのだ。『会戦に対応した兵器システム』の中核とも言うべきそれらは、用兵の観点から見れば次のような特徴を有している」

コスモフリートスペシャル 宇宙戦艦ヤマト2199 メダルーサ級殲滅型重戦艦 メガルーダ 多少熱のこもった口調で話を始めると、ガデルはホログラムボードにガトランティスの大型艦艇の立体図を表示した。メダルーサ級殲滅型重戦艦と、ガトランティス人が“大戦艦”と称する大型戦闘艦のホログラムが空中に浮かび上がる(※42)。ガデルはそれらに手をかざし、ホログラムボードから引き出すようにしてヴェルテの目の前へと持っていった。ヴェルテはホログラムを“受け取る”と、あたかも模型を観賞するかのように手でグルグルと回転させる。

(※42)ガトランティスの大戦艦はヤマト2199や映画「星巡る方舟」の資料に全く登場しない。その為、筆者は文章を書くにあたり大戦艦の仕様をメカコレクション・モデルの形状や他の艦艇との比較を基に独自に設定する事とした。(※図47と図48、及び図49と図50参照)
  ガトランティス軍とガデル・タラン 図47

  ガトランティス軍とガデル・タラン 図48

  ガトランティス軍とガデル・タラン 図49

  ガトランティス軍とガデル・タラン 図50

 兄が少しの時間をかけ二つの大型艦艇の形状を細部まで確認したのを見届けると、ガデルは話を再開した。

 「…図をよく見て頂けただろうか。図からも明瞭なように、ガトランティスの大型艦艇は大威力の艦首砲を装備し、艦の前方に最大の火力を投射できるように武装を配置している。また、強大な火力を有し重防御な半面、機動性能はそこそこでしかない。即ち、古代世界の大型艦艇と同じ構造を有しているのだ。(※図51参照)(※43)
  ガトランティス軍とガデル・タラン 図51
 更にガトランティスの大型艦艇は、部隊としては古代と同じく小規模な横隊戦列を敷いて戦う事が確認されている。つまるところガトランティスは、我々の世界では古代に消えた様式の兵器を現代でも使用していると言う事ができるだろう。この事実は、ガトランティスの兵器システムがそもそも、古代アケーリアスの時代に起源を持つのではないかという想像を可能にしている。
 では、ガトランティスの大型艦艇は会戦においてどのように使用されるのか。大小マゼランでの会戦から判断する限り、それらは小型艦艇や空母と組み合わされて“突撃縦隊”を形成し、敵戦列を突き破り破砕する役割を与えられていると考えられる。…この図を見てもらいたい。これはガトランティスの突撃縦隊を表したものだ」

(※43)ガトランティスのメダルーサ級には「盗掘」した異星文明の大口径ビーム砲が装備されている(「星巡る方舟」パンフレットより)。こうした事例から、筆者は古代アケーリアスや古代イスカンダルの時代の戦闘艦艇、特に波動砲を装備する古代イスカンダル艦と戦っていた諸種族の大型艦艇はこのような巨大火砲を装備していたのではないかと想像している。

 そのように言うとガデルはホログラムボードに突撃縦隊の立体モデルを表示した。一本の図太い直方体の表面に数千隻もの艦艇が配され、直方体の内部に小さな艦隊が配されている。ガミラスやかつての大小マゼラン諸国軍の縦隊戦列とはおよそ異なるその姿に、ヴェルテはうむ、と小さく唸った。(※図52参照)
  ガトランティス軍とガデル・タラン 図52

 ガデルは説明を続ける。

 「この彼ら独自の隊形は次のような構造になっている。まず、縦隊の先頭に大型艦艇の横隊戦列が配される。この戦列は古代の標準的なものと同じく、数百隻程度の小規模な戦列であり、敵の陣形に大火力を投射し突破口を開ける役割を持つ。これを構成する艦艇は大戦艦が殆どであり、メダルーサはごく少数だけ配されている。
 続いて横隊戦列の斜め後ろにラスコー(級巡洋艦)の部隊が配される。これらは大型艦艇の横隊戦列の側背を守り、横隊戦列が空けた突破口を広げる役割を果たす。
 ラスコーの部隊の後ろにはラスコーとククルカン(級駆逐艦)の混成部隊が追随し、突撃縦隊の側面を固める。
 尚、突撃縦隊の内部にいる部隊はナスカ(級打撃型航宙母艦)を中心とする空母部隊だ。この部隊は突撃縦隊が敵戦列を突破し敵を壊滅させる段階で大きな役割を果たすが、それについてはまた後で述べる。(※図53と図54、及び図55と図56参照)(※44)
  ガトランティス軍とガデル・タラン 図53

  ガトランティス軍とガデル・タラン 図54

  ガトランティス軍とガデル・タラン 図55

  ガトランティス軍とガデル・タラン 図56
 …以上が、ガトランティスの突撃縦隊の概要だ。この隊形は我々の世界の縦隊戦列と比べ、規模が格段に大きくそれ故に方向転換に時間がかかり、機動性に大きく劣る。しかし直進時の速度には優れ、何より絶大な衝撃力を発揮する。この隊形は純粋に、正面から対峙する敵の大軍を粉砕する為のものなのだ。
 それ故に、小兵力同士が戦っていた(ガトランティスの)大侵攻以前の戦いでは、ガトランティス軍は突撃縦隊を全く用いなかった。万を超える大軍同士が激突した大小マゼランでの会戦において初めて、ガトランティス軍は大型艦艇を投入し、我々はそれらが作る突撃縦隊の威力を目の当たりにした。
 それでは次に、会戦におけるガトランティス軍の用兵について説明しよう。巨大な横隊戦列や突撃縦隊といった、彼らの『会戦に対応した兵器システム』は、戦場でどのように組み合わされて運用されるのか」

(※44)図53にて記述したパンツァー・カイル(戦車の楔)の出典については以下を参照の事。
――歴史群像アーカイブVol.2 「ミリタリー基礎講座 戦術入門」 Gakken P.38

 ガトランティスの突撃縦隊の概要を説明すると、ガデルはホログラムボードに一枚の図を表示した。色の異なる二つの軍隊が向かい合っている。両者はそれぞれ二重の横隊戦列と思しき陣形を敷いていた。ガデルが解説を始める。

 「この図でこれから示すのは、小マゼラン及び大マゼランの会戦から推定した、会戦におけるガトランティス軍の用兵である。この図では、ガトランティス軍と敵軍が横隊戦列を形成して正面から向かい合い、激突しようとしている。
 ガトランティス軍は第一戦列の背後に第二戦列を配置し、突撃縦隊は後から空間跳躍で投入するべく戦場から離れた場所に置いている。対する敵軍も同様に、第一戦列の背後に予備の戦列を設け、更に別の予備戦力を戦場から離れた場所に置いている。(※図57参照)
  ガトランティス軍とガデル・タラン 図57
 まず、第一戦列同士の射撃戦が始まると、ガトランティス軍の戦列は積極的に機動を仕掛け、敵の戦力を浪費させる。具体的には敵の側面に回り込むように動き、敵がそれへの対処の為予備戦力を投入するように仕向けるのだ」

 解説を続けつつ、ガデルは図を変化させた。ガトランティス軍の第一戦列と、第二戦列の半分が横にスライドするように機動を始める。同時に、航空機と思しき小さな記号がガトランティス軍の戦列の背後に現れると、それらは敵戦列の側面に急速に回り込んだ。(※図58参照)
  ガトランティス軍とガデル・タラン 図58

 「図のようにガトランティス軍の第一戦列は、射撃戦を行いつつ敵戦列の左翼側面に回り込むように機動する。同時に第二戦列もまた、一部を残し第一戦列に追随して機動する。機動しない第二戦列の部隊は敵への押さえとして、敵が移動する第一戦列の左翼側背に回り込むのを防ぐ。そして空母部隊はガトランティス軍の巨大な戦列の背後で、航空機を安全に発進させ敵戦列の左翼側面に送り込む。
 一方、敵軍は自軍の左翼側面に回り込んだガトランティス軍の航空部隊の妨害により、ガトランティス軍の機動に追従できず側面に回り込まれる。(※図59参照)
  ガトランティス軍とガデル・タラン 図59
 その結果、敵軍は側面の防御の為に予備戦列の投入を余儀なくされる。ここでガトランティス軍は第二戦列を投入し、敵軍側面に更に圧力をかける。こうして敵軍は半包囲の態勢で著しく不利な状況となる」(※図60参照)
  ガトランティス軍とガデル・タラン 図60

 ヴェルテに背を向け解説を続けていたガデルは、ここで兄の方を向き図の一部を強調するように指で指し示した。

 「…ここで敵軍の配置に注目してもらいたい。ガトランティス軍にとって、戦いを左右する重要な地点が二ヶ所あるのに気付くだろう。一つは手薄となった敵軍右翼。もう一つはガトランティス軍が半包囲し攻め立てている敵軍左翼側面。こうした地点を戦いの“焦点”であると定義すると、ガトランティス軍はこの“焦点”に突撃縦隊を空間跳躍で投入し、敵軍を決定的に崩壊させる。(※図61参照)
  ガトランティス軍とガデル・タラン 図61
 では、ガトランティス軍はどちらの“焦点”に(突撃縦隊を)投入するのか。もし敵に予備戦力が残されていなければ、彼らは敵軍右翼に突撃縦隊を突入させるだろう。しかし、最初に想定したように敵軍が予備戦力を後方に置いている場合はどうなるか」

 ガデルはヴェルテに問いかけるように言うと、ホログラムボードの図を同じ二つの図に分けた。それぞれに敵部隊の記号を付け加える。

 図の一つ。ガトランティス軍右翼側面に敵軍の記号が現れ、ガトランティス軍の側面を攻撃する態勢となる。もう一つの図。ガトランティス軍右翼後方に敵軍の記号が現れ、ガトランティス軍の背後を襲う態勢となる。(※図62参照)
  ガトランティス軍とガデル・タラン 図62

 ガデルは図の解説を再開した。

 「反撃の為の戦力を有する敵軍は、味方が不利になった時点で形勢を逆転させる為、図で示した位置のいずれかに予備戦力を空間跳躍させるだろう。ガトランティス軍右翼側面、あるいは右翼後方。いずれの位置に空間跳躍させても、敵軍はガトランティス軍右翼を崩壊させて形勢を一気に逆転させる可能性がある。
 それ故ガトランティス軍は敵が予備戦力を投入後、それを撃破するべく突撃縦隊を敵軍左翼側へと投入する事となる」

 そのように言うとガデルはホログラムボードの二つの図を変化させた。

 図の一つ。ガトランティス軍右翼側面を脅かす敵軍予備戦力に対し、その側背を襲うようにガトランティスの突撃縦隊がワープアウトする。突撃縦隊は敵軍の予備戦力を横殴りに粉砕するとそのまま敵軍本隊の左翼側面に突入し、敵の戦列を崩壊させてしまった。(※図63参照)
  ガトランティス軍とガデル・タラン 図63

 もう一つの図。ガトランティス軍右翼の背後を脅かす敵軍予備戦力に対し、その背後を襲うようにガトランティスの突撃縦隊がワープアウトする。突撃縦隊は敵軍の予備戦力の隊列を突き破り崩壊させると、敵軍本隊の左翼正面に猛然と突進した。突撃縦隊は既に押し込まれ圧迫されていた敵の戦列を容易に突き破り、敵軍を崩壊へと追い込んだ。(※図64参照)
  ガトランティス軍とガデル・タラン 図64

 ガデルが解説を加える。

 「図のように、ガトランティス軍は投入された敵の予備戦力を粉砕できる位置に突撃縦隊を空間跳躍させる。投入された突撃縦隊は、敵の予備戦力を撃破するとそのまま敵軍左翼に突入し、敵の戦列を突き破り崩壊させる。
 敵戦列の崩壊後、ガトランティス軍の戦列は総突撃に移り、敵軍全体を覆滅にかかる。その際突撃縦隊は隊形を解いて散開し、壊乱状態の敵の包囲を行う。ここで、突撃縦隊が隊形内部に随伴させていた空母部隊が大きな効果を発揮する。それらは航空機を発進させ、逃げようとする敵部隊の動きを妨害する。航空機は味方が敵に追いつき包囲する手助けを行うのだ。高い機動性を持つガトランティスの小型艦艇は、より機動性の優れる航空機が足止めする獲物に群がり、敵を順次覆滅する事となる」(※図65参照)
  ガトランティス軍とガデル・タラン 図65

 敵の戦列を崩壊させた後、突撃縦隊はどのように敵を壊滅に追い込むのか。ガデルはそれについて言及すると、続いてガトランティス軍の用兵の特色について言及を始めた。

 「以上が、実戦から想定した『会戦におけるガトランティス軍の用兵』である。この用兵で留意すべき事として以下の点が挙げられる。
 第一の点。彼らは突撃縦隊を、戦いを左右する地点である“焦点”に投入し、勝利を決定付ける存在としている。その意味で突撃縦隊の中心たるガトランティスの大型艦艇は、正に彼らの兵器システムの中核であるのだ。
 第二の点。彼らは機動と大火力の併用により、戦いの“焦点”を作り出している。彼らの巨大な横隊戦列が戦闘中も高い機動性を発揮でき、しかも必要な箇所に大火力を投射できる事を思い返してもらいたい。彼らの戦列はその特性を用い、敵の布陣の弱点に移動し大火力を浴びせ、敵に予備戦力の投入を強要している。そうする事で、彼らは“焦点”を作り出し、更には敵の戦力を枯渇させ、突撃縦隊が戦いを決定付けられる状況を作り出しているのだ。
 第三の点。突撃縦隊が投入される“焦点”は、敵の配置の弱点とは必ずしも一致しない。図で解説したように、それは敵戦力が脆弱な場所であったり、逆に戦力の集中する場所であったりする(※図66参照)。何故そうなるのか。それは“焦点”が戦いを左右する重要な場所であるが故に、敵も多くの場合戦力を次々に投入して来るからだ。殊(こと)に大兵力同士が激突する会戦では、突撃縦隊はどの“焦点”に投入されても敵の大部隊と遭遇する可能性が高くなる。従って、ガトランティス軍は戦いの“焦点”を制する為、いかなる抵抗も排除できる大威力の大型艦艇を保有している。実にこれこそが、彼らが古代的な大型艦艇を現代でも用いる理由なのだ。
  ガトランティス軍とガデル・タラン 図66
 …以上、ここでまとめておこう。
 ガトランティス軍は従来の我が軍とは異なり、万を超える大軍が正面から激突する“会戦”に対応した兵器システムを有している。巨大な横隊戦列、小型艦艇の独特な装備、航空機、更には大型艦艇。これらは全て、会戦に対応したシステムの一環である。中でもガトランティスの大型艦艇はシステムの中核と言える存在であり、その装備と運用は古代世界の大型艦艇のそれをそのままの形で継承している。この事からガトランティスのシステムは、そもそも古代アケーリアスの時代に起源を持つのではないかと考えられる。彼らは我々の世界と全く異なる進化の過程を辿り、最終的に戦いの“焦点”といった、我々と全く異質の用兵概念を持つに至ったと推測される」

 「一つ質問しても良いか、ガデル」

 ガトランティスの「会戦に対応した兵器システムと用兵」について総括した弟に、ヴェルテが質問を投げかけた。

 「お前が解説の中で言及していた戦いの“焦点”は、我々の世界の機動戦には無い概念なのか?」

 「そうだ、兄さん」

 兄の問いかけにガデルは回答する。

 「今し方述べた戦いの“焦点”は、小官がガトランティスの用兵を説明する為に設けた概念だ。我々の世界の機動戦にこの概念は存在しない。
 従来の我が軍やかつての(大小マゼラン)諸国軍は、敵の配置の弱点を迅速に攻撃する事を追及して来た。その一方、“焦点”のように敵の戦力が集中し得る地点については、そのような場所を攻撃するという発想を持たなかった。逆にそうした行為は極力避けられていたのだ。
 従って、ガトランティスの大型艦艇が見せた、“敵の集中する箇所を火力で強引に粉砕する”という戦いは、我が軍にとって全く思いもよらない事だった。それは機動戦の概念とは全く異質であり、“焦点”という概念を導入しなければどうにも説明し難い事だった。こうした事実から、小官はガトランティスが我々の世界と全く異質の用兵概念や思想を持っていると確信している。
 これまで述べてきたように、彼らは我々と全く異なる装備を持ち、全く異なる戦いを行う。当然、我々が持たない全く異質の用兵概念や思想を持っていると考えるのが自然ではないだろうか」

 ガデルの回答に、ヴェルテは腕組みをして考え込んでしまった。

 “ガトランティスと我々はこうも異なるものなのか――。”

 自分達の世界とまるで異なる装備、用兵、そして思想。もし彼らの軍隊とシステムが、弟の言う通り古代アケーリアスの時代に起源を持つとすれば、その時代の“小規模な横隊戦列”のシステムがここまで異なる姿に変貌し得るとは。ヴェルテは弟から教えられた大小マゼラン世界の戦争史を思い返し、その戦いの姿の変遷とまるで異なる道を辿ったであろうガトランティスの歴史に、少しの間考えを巡らせたのだった。

 いくばくか時間が経過し、ヴェルテが何かしらの考えを纏めたのを見届けると、ガデルは兄に声をかけた。

 「…考えを整理して頂けただろうか。ここまでは、ガトランティス軍の姿について、その特筆すべき特徴を解説してきた。彼らのシステムは、その装備、用兵、思想のいずれもが従来の我が軍のシステムとおよそ共通点の無いまでに異なっている。
 それでは、彼らのシステムを俯瞰して見た場合、何が我々との最大の違いであり、特徴となるのか。最後にその事について述べておきたい」

 ガデルの今夜の講義の第二項目、「ガトランティス軍の姿」は、その数々の特徴を詳細に述べた末に最後の纏めへと入っていった。

 「ガトランティス軍のシステムと、従来の我が軍のシステム。両者はあらゆる面で異なるが、究極的には何が最大の相違となるのか。それは、ガトランティス軍のシステムが本質的に火力を重視し、『速度』を追求していないという事だ。
 この事は会戦での彼らの用兵を見れば明瞭となる。会戦において、彼らは戦力の展開に時間のかかる航空機を使用し、大火力で機動性の高くない大型艦艇により戦いを決定付ける。そして彼らは敵に予備戦力の投入を強要するのに時間をかけ、突撃縦隊を決して早急に投入しない。
 今一度、会戦での用兵について述べた辺りを思い返してもらいたい。ガトランティス軍は敵側面への機動に成功した後、すぐに突撃縦隊を投入せず、第二戦列で更に圧力をかけるという回りくどい手順を踏んでいたはずだ。彼らはそうする事で敵に更なる戦力の投入を強要し、(敵が)持てる戦力の大半を投入したと見定めてから突撃縦隊を投入するのだ。(※図67参照)
  ガトランティス軍とガデル・タラン 図67
 これに対し、従来の我が軍のシステムやかつての(大小マゼラン)諸国軍は、高速の機動やゲシュタムジャンプを駆使し、速攻による敵の弱点の打撃や包囲を行う事で敵を壊滅に追い込んできた。機動戦を行う我々の(大小マゼラン)世界は、作戦を遂行する『速度』を伝統的に競ってきたのだ。そして従来の我が軍のシステムは、より高速の機動戦を実現する為、大火力の航宙戦闘艦の放棄すら行った。
 ガトランティス軍のシステムは、こうした我々の世界の姿とは著しく対照的である。彼らは作戦の『速度』を重視せず、大型艦艇の大火力で敵戦列を突き破り、崩壊させる事を追及している。何故そうしているのか。それは、彼らが行う会戦という戦いの様態そのものに理由を求められる。
 そもそも、万を超える大軍同士が激突する会戦は、我が軍と(大小マゼラン)諸国軍が行ってきた規模の戦いとは全く異なる性質を持つ。その広大な戦場と巨大な兵力は、高速の機動を行うのであれ、空間跳躍を使うのであれ、速攻で敵の弱点の打撃や包囲を行う事を困難にする。それらを成すのは時間を要するようになるのだ。しかも、仮に弱点の打撃や包囲を成せたとしても、巨大な敵軍は簡単には壊滅しない。敵軍はかなりの長時間にわたり組織的抵抗を維持し、それで得た時間で反撃の態勢すら整える事ができる。従って、会戦で敵を撃滅するには、それとは別に何らかの手段で敵の抵抗を瓦解させる、即ち敵の隊列を崩壊させる方法論が必須となるのだ。
 ガトランティス軍のシステムは、正にこうした問題への解答である。彼らは巨大な横隊戦列の大火力と機動により、敵に戦力の投入を強要する。敵が戦力を枯渇させ新たな攻撃への対応力を失った所で、彼らは大型艦艇を投入し、その大火力で敵の隊列を突き破り崩壊させる。そうする事で、彼らは敵の大軍の撃滅を容易にしているのだ。
 …結論を述べよう。ガトランティス軍のシステムは、作戦の『速度』を追求せず、火力を重視する事で会戦に勝利している。これは会戦という戦いの様態そのものに適応した結果である。これに対し、従来の我が軍のシステムは会戦という戦いの様態に対応できなかった。我が軍は火力に欠け、機動の有効性も失われ、会戦に最初から適応したガトランティス軍に敗れる事となったのだ。その具体的な過程を、これから次の項で話していく事となるだろう」

 ガデルは今夜の講義の第二項目、「ガトランティス軍の姿」について総括を終えた。

1/1000 ガミラス艦セット1 (宇宙戦艦ヤマト2199) イスカンダル帝国の滅亡以降、戦いに「速度」を追及して来た大小マゼラン世界の軍隊。それとは正反対に速度ではなく火力を重視するガトランティス軍。このガトランティス軍の姿とは、実に「会戦」という戦闘形態への適応なのであり、従来のガミラス軍のシステムはこの戦いの様式に適応する事ができなかった――。

 大小マゼラン世界の戦争史から会戦という新しい戦場の姿まで網羅した解説を終えると、ガデルは講義を小休止した。

 部屋に束の間の静けさが戻る。それまでずっと長広舌を振るっていたガデルは、座椅子に身を沈め大きく息をつくと、物思いにひたるように静かに目を閉じ、そのまま動かなくなった。

 一方、椅子に座り弟の講義を聞いていたヴェルテは、ずっと腕を組み何かしらの考えを巡らせている。

 今夜のガデルの講義は最初の山場に差し掛かろうとしていた。ヤマトのバレラス襲来後、大小マゼランに大挙侵攻したガトランティスに何故ガミラスは敗れたのか。それまでは彼らが小マゼランに侵攻する度に勝利してきたにもかかわらず、何故彼らの仕掛けた大規模な戦争に大敗北を喫したのか。これから語られるガデルの答えは、おそらくは二人にとって少なからず心の痛む話であるに違いなかった。

 少しの時間が過ぎた。やがてガデルは、心の整理を付けたかのような表情で立ち上がった。椅子に座り相変わらず思索に没頭するヴェルテに、兄さん、と声をかける。弟に気付いたヴェルテが講義の再開を促すと、ガデルは頷き、兄の求めに応じた。

 「それでは講義を再開しよう。これより第三の話題、『ガトランティスによる戦争の変化』について解説する」

 ガデルは今夜の講義の第三項目について話し始めた。

 「…かつて、ガトランティスの仕掛けた大侵攻により、我々の世界は史上稀に見る戦争の変化を経験する事となった。それは、一言で言えば『火力戦の復活』という、イスカンダル帝国の滅亡から数千年ぶりに起きた巨大な変化だった。大小マゼラン諸国に勝利し、大侵攻以前の戦いでガトランティスに勝利を重ねてきた従来の我が軍のシステムは、この変化に対応する事ができなかった。大挙侵攻するガトランティス軍の前に、従来の我が軍のシステムは次々に問題を露呈し、ついには小マゼランの会戦において破滅的な敗北を喫するに至ったのだ。そしてそれに続く大マゼランの会戦では、我々はかろうじて勝利したものの、敵に対するシステムの劣勢ぶりが明らかとなった。
 それまで勝利を続けていた我が軍に何が起きたのか。その詳細について、これから解説を行う」

 そのように前置きを述べると、ガデルはホログラムボードに文字と図表を表示した。

(「ガミラス第二帝国の戦争準備―ガトランティス軍とガデル・タラン(その3)―」につづく)

宇宙戦艦ヤマト2199 Blu-ray BOX (特装限定版)宇宙戦艦ヤマト2199』  [あ行][テレビ]
総監督・シリーズ構成/出渕裕  原作/西崎義展
チーフディレクター/榎本明広  キャラクターデザイン/結城信輝
音楽/宮川彬良、宮川泰
出演/山寺宏一 井上喜久子 菅生隆之 小野大輔 鈴村健一 桑島法子 大塚芳忠 麦人 千葉繁 田中理恵 久川綾
日本公開/2012年4月7日
ジャンル/[SF] [アドベンチャー] [戦争]
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【theme : 宇宙戦艦ヤマト2199
【genre : アニメ・コミック

tag : 出渕裕 西崎義展 菅生隆之 小野大輔 諏訪部順一 中村繪里子 近木裕哉 園崎未恵 大塚芳忠 大友龍三郎

【投稿】ガミラス第二帝国の戦争準備―ガトランティス軍とガデル・タラン― 『宇宙戦艦ヤマト2199』ガミラス考察補論集1 小説~ガトランティス戦争編~

宇宙戦艦ヤマト2199 艦艇精密機械画集 HYPER MECHANICAL DETAIL ARTWORKS 弐 『宇宙戦艦ヤマト2199』に関するT.Nさんの投稿の続きを公開する。東西の古典のような対話形式を取りながら、豊富な資料に裏打ちされた考察は、ヤマト2199の世界の奥深さに気づかせてくれることだろう。

 本稿もまた、先に公開した投稿「イスカンダルの王権とデスラーの人物像について」の一部を構成するものだ。
 前回の後半からはじまった「2. ガミラス第二帝国の戦争準備――ガトランティス軍とガデル・タラン――」の続きとなる本稿は、軍需国防相である兄ヴェルテ・タランと参謀本部参謀次長である弟ガデル・タランの対話を通して、ガミラスの軍政と用兵の実像を明らかにする。今回は特に、ガミラスとガトランティスの戦争を考える上での五つのポイントの一つ、『機動戦に最適化されたシステム』を持つ従来のガミラス軍についてガデル・タラン参謀次長の口から語られる。

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『宇宙戦艦ヤマト2199』 ガミラス考察補論集1

思考実験としての続編小説~ガトランティス戦争編~

前回から読む

2. ガミラス第二帝国の戦争準備
 ――ガトランティス軍とガデル・タラン(承前)――


1/1000 ガミラス艦セット2 (宇宙戦艦ヤマト2199) 透き通った窓状のホログラム中に、クリピテラ級駆逐艦とケルカピア級高速巡洋艦、そしてガイデロール級戦艦とハイゼラード級戦艦が浮かんでいる。

 ヴェルテは弟が表示した、かつて自らが開発に関わったそれらの艦艇を真剣な目で見つめていた。その表情を一瞥すると、ガデルは解説を始めた。

 「我が軍はクリピテラやケルカピアのような“小型二等航宙装甲艦”を戦力の主体とし、一部の例外を除き全ての艦艇に同等の機動性能を付与している。ガイデロールやハイゼラードといった“航宙戦闘艦”でさえ、“航宙装甲艦”と同等の機動力を発揮できるのだ」

 ガデルは大小マゼラン世界に存在する、複数の種類の現代型艦艇について言及した。

 一般に大小マゼラン世界では、艦隊戦を行う主要な艦艇は「航宙装甲艦」と「航宙戦闘艦」という二つのカテゴリーに分類されていた。そのうち航宙装甲艦は軍用艦艇として最も一般的な艦種であり、イスカンダル帝国滅亡の時代から存在する「現代型艦艇」の等級である。一方、航宙戦闘艦は後の戦乱の時代に発達した艦種であり、航宙装甲艦よりも重武装・重防御の等級である。そして両者は更に、武装と防御の度合いによって一等、二等と等級分けされていた。(※1)(※2)(※3)(※4)

(※1)ガミラスをはじめとする大小マゼラン世界に存在する「現代型艦艇」についての説明は「2. ガミラス第二帝国の戦争準備――イスカンダル帝国の興亡史――」の後半部分を参照の事。

(※2)「宇宙戦艦ヤマト2199全記録集 vol.2」及び「公式設定資料集[GARMILLAS]」には、各種ガミラス艦艇について次のように記述している。

宇宙戦艦ヤマト2199 1/1000 ガミラス艦 親衛隊カラーセット
  • クリピテラ級航宙駆逐艦: 「二等航宙装甲艦。ガミラス艦艇で最も建造数が多い」と解説。
  • ケルカピア級航宙高速巡洋艦: 「二等航宙装甲艦」と解説。
  • デストリア級航宙重巡洋艦: 「二等航宙装甲艦」と解説。
  • メルトリア級航宙巡洋戦艦: 「二等航宙装甲艦」と解説。
  • ガイデロール級航宙戦艦: 「二等航宙戦闘艦」と解説。
  • ハイゼラード級航宙戦艦: 等級についての言及はないが「ガイデロール級の後継艦」と解説。
  • 1/1000 ゼルグート級一等航宙戦闘艦ドメラーズIII世 (宇宙戦艦ヤマト2199)
  • ゼルグート級一等航宙戦闘艦: 「大艦巨砲主義を好む中央軍総監のヘルム・ゼーリック元帥主導で建造された」と解説。
  • 特一等航宙戦闘艦<デウスーラ2世>: 「新型航宙戦闘艦」と解説。

 これらの資料の記述に出てくる「航宙装甲艦」と「航宙戦闘艦」は、ガミラス自身による自軍艦艇の分類であると考えられる。
 また、資料の記述を見ると、ガミラスには何故か「一等航宙装甲艦」と称される艦艇が存在しない事に気付く。これは何を意味するのか。筆者は「かつて存在していたが軍制改革により廃止されたのではないか」と考え、この文章において次のような想定を行った。

  • 大小マゼラン世界には元々一等・二等航宙戦闘艦と一等・二等航宙装甲艦という四種類の現代型艦艇が存在した。
  • 勃興期のガミラスは各種の軍制改革を行い、それにより一等航宙装甲艦が廃止され、二等航宙装甲艦に艦隊装備が一本化された。

(※3)クリピテラ級、ケルカピア級、デストリア級、メルトリア級は全て「二等航宙装甲艦」という同一カテゴリーに分類され、作中では同じ単縦陣に混在して配置されている。この事からこれらの艦は全て同等の機動性能を付与されていると考えられる。

宇宙戦艦ヤマト2199 艦艇精密機械画集 HYPER MECHANICAL DETAIL ARTWORKS 弐(※4)ヤマト2199第1話の冥王星沖海戦の描写を見ると、ガミラス艦隊にガイデロール級は一隻のみ存在し、他の二等航宙装甲艦の機動に随伴できている。また、ガイデロール級は「宇宙戦艦ヤマト2199全記録集 vol.2」及び「公式設定資料集[GARMILLAS]」では「航宙艦隊の旗艦として運用される」と記述されている。この事から、ガミラスではガイデロール級やハイゼラード級といった二等航宙戦闘艦は航宙装甲艦に随伴できる高い機動性能が与えられ、しかも限定的にしか配備されていないと考えられる。

 ガデルが話を続ける。

 「また、航宙装甲艦の分野では、我々は(大小マゼラン)諸国軍が配備していた“一等航宙装甲艦”を廃止し、より軽快な“二等航宙装甲艦”のみを採用している。一方、航宙戦闘艦の分野では、我々は幾つかの例外を除き“二等航宙戦闘艦”のみを限定的に配備している」

 ガデルは大小マゼラン征服に乗り出した頃のガミラスの艦艇史に軽く触れると、こうした装備が為された意図について言及を始めた。

 「我々がこのような兵器体系を構築したのは、ひとえに機動戦の原理により忠実な戦い方を志向したからだ。つまり、機動戦に不可欠の機動力と数で、敵を大きく上回る事を目指したのだ。(※5)
 具体的な面から見てみよう。
 まず第一に、艦隊の装備を二等航宙装甲艦に一本化する事で、我が軍は主に組織的な機動力で諸国軍を凌駕する事ができた。我々が大小マゼラン統一に乗り出した当時、諸国の艦隊は一等・二等航宙戦闘艦と一等・二等航宙装甲艦の四種類で構成されていた。機動性能の異なるこれらの艦艇は、軍事的には後発であった我々の眼には組織的な機動を妨げる要因に映った(※6)(※7)。その為我々は軍制改革において一等航宙装甲艦を廃止し、 軽防御だが軽快に動ける二等航宙装甲艦に艦隊の装備を一本化した。さらに我々は、航宙戦闘艦の配備を制限し、二等航宙装甲艦の機動に随伴できる、高速の航宙戦闘艦のみを艦隊旗艦用に配備した。これらの措置により、我が軍は諸国軍に対しより容易に高速の機動戦を仕掛けることが可能となった。
 続いて第二に、小型二等航宙装甲艦という、それまで(大小マゼラン)世界に存在しなかった艦(※8)を大量配備する事で、我々は圧倒的な数的優位を実現した。ケルカピアや、特にクリピテラはビーム兵装の数を抑える事でエンジンを小型化し、生産コストを大幅に縮小させた点が画期的だった。一方でこれらの艦は、敵の現代型艦艇を撃破するのに十分な砲を装備し、実体弾(※ミサイルと魚雷)の追加装備によりある局面において敵を圧倒する火力を発揮する事ができた。この我が軍の兵装の特色については、また後で述べる」

宇宙戦艦ヤマト2199 艦艇精密機械画集 HYPER MECHANICAL DETAIL ARTWORKS 弐
(※5)機動戦についての説明は「2. ガミラス第二帝国の戦争準備――イスカンダル帝国の興亡史――」の後半部分を参照の事。

(※6)ヤマト2199第8話ではレドフ・ヒスがガミラスの領土拡大を説明する場面が出てくるが、それを見るとガミラスはガミラス帝星のみの支配から段階的に大小マゼランを征服していったように見える。この事から、ガミラスはもともと大小マゼラン世界では弱小の勢力であり軍事的にも後発であったのではないかと考えられる。
 また、同じ場面から大小マゼランはいくつもの領域に分けられているように見える(ガミラス帝星を除くと大小マゼラン全体で十七領域余り)他、大小マゼラン諸国の存在について作中には次のようなセリフが出てくる。

  • 「我が帝国の領内にも、お前達のような青き肌を持たぬ者達がいる。併合した星間国家や植民星の劣等人種である。二等ガミラス人達だ」(第10話 メルダ・ディッツの発言)
  • 「私達ジレルの民は人の心を読む力を持っていた。それゆえ、周りの星々から疎まれ、恐れられ、滅ぼされた」(第25話 セレステラの発言)

 これらの事例から、大小マゼラン世界には少なくともガミラス以外に他種族を滅ぼすことのできる勢力や星間国家がいくつも存在したと考えられる。よって、筆者はこの文章において大小マゼランの政治勢力について次のような想定を行った。

  • 大小マゼラン世界は“列強”と称すべき星間国家がいくつも割拠し、同時にガミラス大公国のような単星系国家や星間航行技術を持たない種族が多数列強諸国と並立する形で存在していた。(その様子はスタートレック、あるいは古代中国の戦国時代と類似していたと想像することが可能だろう。)
  • ガミラスは戦国の七雄における秦と同様に、“遅れた弱小勢力”から改革により列強諸国を圧倒する軍事力を持つようになり、ついには大小マゼラン諸国を悉く滅ぼして大小マゼラン世界を統一するに至った。

(※7)この文章では帝国形成以前のガミラスを弱小の存在だったとしているが、そのような勢力が何故大小マゼランのワープゲートという宇宙の重要インフラを昔から管理していたのか。これにはイスカンダル帝国の滅亡後、戦乱が続いた大小マゼラン世界に成立した国際秩序が関係していると筆者は想像している。詳細については後日執筆する別章「3. ガミラス第二帝国のユリーシャ」にて言及する予定。

宇宙戦艦ヤマト2199 1/1000 ガミラス艦 親衛隊カラーセット(※8)ガミラスの装備する艦艇を見ると、例えばデストリア級とクリピテラ級は艦の大きさが全く異なり、違う艦種に見える。(現にこの二つの艦を目撃した地球側はデストリア級を戦艦、クリピテラ級を駆逐艦と分類した。)ところが、ガミラス側の分類では両者は両方とも「二等航宙装甲艦」であり、全く区別されていない。これは何故なのか。それは、クリピテラ級が「従来艦」たるデストリア級から派生する形で新規に開発された艦だったためではないだろうか。つまり、開発されてそれ程歴史がないために別カテゴリーに分類されず、例えば「駆逐艦」や「巡洋艦」のような確立された呼称で呼ばれていないのではないか。
 こうした推論とガミラスに存在しない「一等航宙装甲艦」の事例を考慮すれば、次のような想像をする事が可能ではないだろうか。
 「一等・二等航宙戦闘艦と一等・二等航宙装甲艦の四種類の艦艇が存在した大小マゼラン世界では、デストリア級と同程度の大きさの二等航宙装甲艦が地球での「駆逐艦」に相当する最小の艦艇だった。二等航宙装甲艦の中でも超小型のクリピテラ級は新たな分類が行われない程新しい艦艇だったのであり、ガミラスにとっては一つのイノベーションとなる艦であった――」
宇宙戦艦ヤマト2199 また、地球側から「巡洋艦」と分類されるケルカピア級がガミラスではデストリア級と同じ「二等航宙装甲艦」とされている事実もこの推論を支持しているように思われる。デストリア級より小型で他者には別カテゴリーに見えるケルカピア級は、ガミラスが領土を拡大していく途上で「星間通商破壊の目的に」(※「宇宙戦艦ヤマト2199全記録集 vol.2」及び「公式設定資料集[GARMILLAS]」の記述より)デストリア級から派生する形で新規に開発され、そのままデストリア級と同じ「二等航宙装甲艦」に分類されていると考えられるからである。

 ガデルは装備面で見たガミラス軍の「従来のシステム」について、その歴史を振り返りつつ解説を行った。ヴェルテは兄である自分の為ではなく、一般軍人向けの講演かと見紛う程整ったガデルの講義を聴きながら、昔の事を思い返していた。実の所ヴェルテは、ガデルと共にかつてガミラスで行われた「軍制改革」に関わった当事者の一人だったのである。

 一等航宙装甲艦が廃止され、クリピテラが開発されたガミラスの軍制改革は、ガミラス大公国を統一したエーリク・ヴァム・デスラー大公の死後に行われたものであった。彼の死後勃発した内乱が収拾され、彼の死によって中断されていたガミラスの大軍拡が再開されようとしていた時代。当時のガデル・タランは参謀本部付きの若き佐官であり、ヴェルテは内乱収拾の立役者たるアベルト・デスラーに登用された気鋭のテクノクラートだった。二人はそれぞれ、改革案を作成する用兵側と軍政側の実務担当官として軍制改革に携わった。(※9)

 エーリクの死後、ガミラスの動向に神経を尖らせ連合してガミラスを討伐する可能性もあった大小マゼランの列強諸国。それに対し、戦争準備を進めつつ征服意図がないかのように装っていたガミラス。両者の間で虚々実々の駆け引きが繰り広げられる中、軍制改革は計画された。改革の要点は二つあった。一つは戦力の急速な拡充を可能にする「軍システムの簡素化」である。そしてもう一つは諸国軍を打ち破れる「新しい兵器システムの策定」であった。これを行うのに、二人はそれぞれの担当分野で中心的な役割を果たしたのだった。

 ガミラスの軍制改革は、次のようなプロセスで策定された。まず最初に、用兵側の立案者としてガデルが「二等航宙装甲艦への艦隊装備の一本化」を提示した。これにより軍のシステムを簡素化し、艦艇数と部隊単位の機動力を増大させる。そして次にガデルは、以前から構想していた自身の用兵理論を軍政側に対し示した。

 ――諸国軍は複数の艦種と過剰なビーム兵装により資源が浪費され、機動力も失われがちとなっている。これに対し我が方は機動戦の原点に立ち返り、数と良好な機動性能、そして最低限のビーム兵装を以って諸国軍により高速の機動戦を仕掛けるべきである。

 これを受け軍政側の立案者であるヴェルテが提示したのが、クリピテラの開発コンセプトだった。

 ――波動エンジンから直接エネルギーを供給されるビーム兵装の数を抑えれば、エンジンを小型化し生産コストを大幅に縮小する事ができる。また、機動力に悪影響を及ぼさない程度に実体弾(※ミサイルや魚雷の事)を搭載すれば、火力の不足を大幅に補う事が可能である。(※10)(※11)

 ガデルは兄の提示したこの“小型航宙装甲艦”という、それまで大小マゼラン世界に存在しなかった艦艇の運用構想を新たに作成した。さらにそれを元に、ヴェルテ達軍政側がデストリアの改造案を提示する。(※12)

 以上のような用兵側と軍政側の緊密な対話により、ガミラスの軍制改革は形作られていったのだった。

宇宙戦艦ヤマト2199 艦艇精密機械画集 HYPER MECHANICAL DETAIL ARTWORKS 弐 こうして改革案が策定され、参謀本部に提出されると多くの人間がその主張に難色を示した。まず、改革案ではそれまで火力の中核を成していた航宙戦闘艦が殆ど削減される事になっていた。そして航宙戦闘艦を支援する、そこそこの火力と防御力を持つ一等航宙装甲艦もまた廃止される。さらに、この戦力の穴を埋めるのがビーム兵装の貧弱な多数の小型艦という事になっていた。端的に言って、軍制改革により創られるはずの新しい兵器システムは、それまでのものとは大きく異なる姿となっていたのである。

 このガデル達の改革案が受け入れられるまでには様々な紆余曲折があった。しかし最終的にはガデルの用兵理論を読んだデスラーが賛意を示した事で軍制改革は実施された。その進展と歩調を合わせるように、ガデルは参謀次長へと出世の階段を駆け上がり、ヴェルテは軍需国防相へと抜擢され、それぞれに手腕を振るう事となった。こうして、ガミラスは列強諸国を圧倒する軍事力の造成に成功し、諸国軍を次々に打ち破っていったのだった。

 ヴェルテはこうした昔の自分と弟の事績を振り返り、自分達がかつて創ったシステムを今再び作り直す事にある種の感慨を覚えていた。

 “――万物は流転する、か。”

 ヴェルテは昔読んだ哲学書の一節を心の中でそらんじた。(※13)

 物事には全て栄枯盛衰のサイクルがある。いかなる仕組みや制度も永遠に成功を収め続ける事はない。逆にそれらは成功を収める程、状況が変われば身を滅ぼす桎梏(しっこく)にすら成り得る。故にシステムを司る者は、絶えず自らを疑い適切な改変を施す知性と情熱を持たなければならない――。

 歴史書や哲学書、そして自らの政治的体験から形作った彼自身の信条を思い浮かべながら、ヴェルテは弟が次の話を始めるのを待っていた。

(※9)ガデル・タランの経歴に関して、筆者は機甲戦術の確立者であるハインツ・グデーリアンと類似したものであったと想定している。

(※10)映画「星巡る方舟」ではメガルーダ追撃の際、ヤマトの速力を上げるためにショックカノンや波動防壁の使用を制限し、その分のエネルギーを推力に回す描写がある。このことから波動エンジンのエネルギーは、攻撃力(ビーム兵装)と防御力(防御シールド)と推力に割り振られ、出力が一定ならば、これらの要素のどれかを増やせば別のどれかが減る関係にあると考えられる。こうした作中から窺える波動エンジンの性質をもとに、「クリピテラはビーム兵装を意図的に省く事で小型低出力のエンジンでも高機動を実現している」という想定をこの文章では行っている。

(※11)劇中に見られるような高速の機動を信条とするガミラス艦は、燃料タンクを必要としない波動エンジンの効能やガミロイドの使用による乗員及び居住スペースの節約により、艦内スペースの殆どをエンジンに充てていると想像できる。その為もしエンジンを小型化できれば、艦のサイズと生産コストを直接的かつ大幅に縮小できると考えられる。

(※12)デストリアはいくつかの外見的特徴から、大小マゼラン世界の伝統的な現代型艦艇の形状を良く残していると考えられる。
 また、この事からデストリアはガミラスに古くからある艦艇に改造を施して生まれたと筆者は想定している。(※図1参照)
  ガトランティス軍とガデル・タラン 図1

(※13)ヤマト2199第12話において、ヴェルテは「我々はどこから来て、どこへ向かっていくのか」と聖書に由来すると思われる言葉を述べている。

――イエスは彼らに答えて言われた、「たとい、わたしが自分のことをあかししても、わたしのあかしは真実である。それは、わたしがどこからきたのか、また、どこへ行くのかを知っているからである。しかし、あなたがたは、わたしがどこからきて、どこへ行くのかを知らない。」
ヨハネによる福音 第8章 14節

ヴェルテは聖書の記述と類似したガミラスの哲学書の一節を引用したと思われるのだが、この文章における彼の「万物は流転する(ヘラクレイトス)」という発言もまた、それに類似したガミラスの哲学書を引用したと思って頂けたら幸いである。

 ガミラス軍の「従来のシステム」について語るガデルの講義は、装備面での解説から編制面での解説へと移っていった。

 「…では次に、編制面から従来の我が軍のシステムについて解説する。我が軍の艦隊編制は、簡単には次のようになっている。第一に、我が軍は五隻程度の戦隊二個を一個小隊と為し、複数個の小隊を一個中隊と為している。第二に、中隊は小隊を任意に配置する事で一つの隊形を形成している。第三に、我が軍は二個中隊を一個大隊と為し、中隊同士で援護する事としている。なお、各中隊に属する小隊の数は固定されていない。各中隊にはそれぞれ、作戦時に任意の数の小隊が配属される。その数は、通常は二の倍数個である事が多い」(※14)

(※14)ヤマト2199劇中の描写を見ると、ガミラスは五隻前後の集団で戦っていることが多い(第3話、11話、15話、18話)。また、第15話のドメル軍団の布陣を見ると、五隻程度の縦隊が縦に二つ並んだ隊形で陣形が構成されているように見える(※図2参照)。この事から、筆者はガミラス軍の編制について次のような想定を行った。
  • ガミラスは五隻程度の戦隊二個を一個小隊としており、小隊が陣形を形成する基本単位になっている。
  • ドメル軍団の布陣で「五隻程度の縦隊が縦に二つ並ぶ」様子が示しているように、 ガミラス軍は基本的に二つの隊が互いに援護しながら戦うようになっており、中隊や大隊の編制にもそれが反映されている。
  ガトランティス軍とガデル・タラン 図2

 ガデルはホログラムボードに簡単な図を表示しつつガミラスの艦隊編制の基本について解説した。彼は更にその特色について話を進める。

 「この『小隊の組み換え』を行うシステムは、我々を含めた(大小マゼラン)諸国軍に共通のものであった。しかし、我々は過去の軍制改革において次のような仕組みをこれに付け加えた。
 それは常設の師団と旅団を設け、作戦時に旅団へ複数個の大隊を任意に配属させるようにした事だ(※図3参照)。この仕組みでは、旅団長は与えられた大隊から小隊を抽出し、各中隊に任意に配属させる(※図4参照)。これは旧来のシステムをより大規模にしたものだ。旧来のシステムでは、小隊の組み替えは一個大隊の中だけで完結しており、組み換えは大隊長の裁量で行われていた。これに対し我々は、小隊の組み換えを旅団長が行う事で大隊の枠にとらわれない大規模な組み換えを可能とした。その結果、我が軍は諸国軍と比べ遥かに自由に中隊の規模を変え、多様な隊形を作る事ができた」(※図5参照)(※15)
  ガトランティス軍とガデル・タラン 図3

  ガトランティス軍とガデル・タラン 図4

  ガトランティス軍とガデル・タラン 図5

(※15)ヤマト2199第15話のドメル軍団の布陣を見る限り、ガミラス軍は極めて柔軟に隊形を構築できるシステムになっていると考えられる。このガミラス軍のシステムに関して、作中には「戦闘団」や「空間機甲師団」という呼称が出てくることから、ガミラス軍は地球の師団戦闘団に類似した仕組みを有していると考えられる。また、ガミラスが軍事的に後発の存在であったと仮定すると、この仕組みは大小マゼラン世界に広く存在した編制のシステムを基にしたものであると想像する事も可能ではないだろうか。

 ガデルはガミラスの“師団システム”について述べると、ホログラムボードに大小マゼラン諸国軍の艦艇を表示した。それらは一等・二等航宙戦闘艦と一等・二等航宙装甲艦の四種類に区分されて並べられている。ガデルはそれらを軽く指し示し、兄に注目を促すと話を続けた。

 「…このような(諸国軍と異なる)仕組みを設ける事ができたのは、以下の理由による。
 一つは、艦隊の装備を二等航宙装甲艦のみに統一した事だ。それにより我々は、複数の艦種の混在で生じる不具合を回避できた。即ち、機動時に隊形を崩壊させる事なく、自由に中隊の規模を変えられたのだ。一方、四種類の艦艇が存在した諸国軍は、機動時に中隊の隊形が崩れないよう艦種毎に大隊を設け、『旅団による小隊の組み換え』を行う事はなかった。(※図6参照)
  ガトランティス軍とガデル・タラン 図6
 次に二つ目は、我々が巨大な数の艦艇を動員できた事だ。元来大小マゼラン随一の人口と金属資源を有する我々は、政治的統一によりそれらを戦争に動員する事が可能となった。 我々はこの利点を活用するべく軍制改革を行い、巨大な数の艦隊とそれらを効率的に動かせる仕組みを実現した。それがクリピテラの開発であり、常設師団と旅団の創設であったのだ。一方資源に乏しく、更に艦種の多様化と重装備化で限りある資源が分散する状態となっていた諸国軍は、我々と比べずっと少ない艦艇しか動員できなかった。この事は編制にも反映されており、殆どの場合諸国軍は複数の大隊をその都度集めて一個艦隊を編成していた。彼らはそもそも、常設の師団を必要とするだけの兵力が無かったのだ」

 ガデルはガミラス軍と大小マゼラン諸国軍の相違が生じた要因について述べた。その中でガデルが挙げた「ガミラスの人口と資源」は、ヴェルテとガデルという二人の兄弟にとってガミラスを語る上で欠くことのできない事柄であっただろう。なぜならそれらは、ガミラスの歴史を決定付けたと同時に二人が世に出る事を可能ならしめた要因だったからである。

 元来ガミラス帝星は、金属資源が希少な大小マゼラン銀河においては例外的に、希少金属(レアメタル)を代表とする恵まれた金属資源を有する惑星だった。(※16)ガミラス人は有史以来、その資源を狙う大小マゼラン諸族と戦い、交易し、貢納する歴史を重ねてきたのである。そしてガミラス帝星は、その陸地面積の大きさと、波動エネルギーを使用した食料プラントの恩恵により極めて膨大な人口を擁する事が可能だった。(※17)ガミラス人は長い時間をかけ、金属を採掘し地下の居住空間を広げ、互いに争いつつも数を増やしていった。こうして、時代が下りエーリク・ヴァム・デスラーがガミラス大公の地位に就いた頃には、ガミラスは大小マゼラン随一の人口と資源を有する勢力に成長していた。その宿痾ともいうべき政治的分裂が克服されれば、ガミラスは大小マゼランの覇者となるだけの力を持つまでになっていたのである。(※18)

宇宙戦艦ヤマト2199でわかる天文学: イスカンダルへの航海で明かされる宇宙のしくみ
(※16)科学書によれば、大小マゼランは炭素より重い元素(金属)の割合が天の川銀河よりもずっと少ないとされている。(半田利弘 「宇宙戦艦ヤマト2199でわかる天文学」 誠文堂新光社 P.144~P.147)
 また、ガミラスの資源に関して「宇宙戦艦ヤマト 新たなる旅立ち」では、暗黒星団帝国がガミラス帝星で希少金属(ガミラシウム)を強奪同然の形で採掘し、それを見た旧作デスラーが激怒して戦闘を行う場面が出てくる。
 これらの事から、この文章では「ガミラス帝星は金属の乏しい大小マゼランでは例外的に金属資源、特に希少金属(レアメタル)を豊富に産出し、それ故に多くの種族から狙われる存在だった」と想定している。

宇宙戦艦ヤマト2199 公式設定資料集<Garmillas>(※17)「公式設定資料集[GARMILLAS]」にあるガミラス帝星の地表図を見ると、ガミラスの陸地の割合は(地表だけではなく地下空洞においても)非常に大きいと考えられる。そのため、波動エネルギーによる食料プラントを利用すれば極めて大量の人口を養うことが可能であると考えられる。

(※18)科学書では、ガミラス帝星の地形について次のように推論している。

――惑星地形としてのガミラスの最大の特徴は地表が二重構造になっているともいえる点です。緑の外殻地表に対し、円形に近い窪地が多数あり、それらは底部が黄色く見えます。この地形は地球と全く異なるばかりでなく、イスカンダルともかなり異なっていてガミラス独特のものと言えます。
 (中略)
 しかしながら、ガミラスの窪地は単なる盆地ではありません。広い範囲にわたって広大な地下空洞で相互に繋がっているのです。その天井は平らな岩盤層のようです。空洞の広さを考えると、極めて強固な岩石である必要があります。地球上で強いて似たものを探すと溶結凝灰岩が思い当たります。これは、火砕流の堆積物が大量に積み重なり、その下層が溶解・圧縮してできた岩盤です。日本では大隅半島で広範に見られます。
 もしそうならば、ガミラスは広い範囲にわたって表面が火山灰に似た大量の粉砕物で分厚く覆われた時代があったことになります。全面が強烈に加熱圧縮された溶結凝灰岩で覆われた後、巨大隕石が衝突し多数の巨大クレーターができたというのがガミラスの基本的な地形の起源なのでしょうか。イスカンダル文明の過去を考えると、ガミラスで大規模破壊兵器が使用された疑いが出てきます。
(半田利弘 「宇宙戦艦ヤマト2199でわかる天文学」 誠文堂新光社 P.154~P.157)


 科学書の推論に基づいて考えれば、ガミラスには極めて活発なマグマの活動があったことになり、結果として極めて豊かな鉱床が形成されたと想像できる。(詳しくは鉱床学を参照の事。)また、地下の空洞は侵食でできたにしてはあまりにも巨大である事から、元々存在した空洞部分を人工的に掘削して広げたのではないかと思われる。
 筆者はこうした資料の記述と推論を元に、文章に記述したようなガミラスの地理条件と歴史の想像を行った。

 このガミラスの潜在力を自覚し、どのようにして顕在化させるかについて多くのガミラス人がエーリクの時代に議論を戦わせていた。ヴェルテとガデルは、そうしたガミラスの知識人達の流れを汲む一人であった。

 巨大な人口と資源を生かし、長きに渡り大小マゼランの列強諸国に従属してきたガミラスを(大小マゼラン)世界の覇者と成す。その為にエーリクはガミラスの知識人層の後押しを受けてガミラスの政治的統一を成し遂げた。そして彼の死後、ガデル・タランは軍事面から、ヴェルテ・タランは軍政面からガミラスの人的・物的資源を生かす取り組みを構想し軍制改革において実現させた。実にガミラスの軍制改革は、こうした時代状況とタラン兄弟の個性によりはじめて成し得た事であった。

 ガデルの講義に耳を傾けていたヴェルテは、弟が「ガミラスの人口と資源」について言及するのを聞くと、あらためて自らの過去とガミラスの現代史について思い返したのだった。

 ガミラス軍の「従来のシステム」について語るガデルの講義は、この項の最後の部分へと移っていった。

 「…以上、ここまでは装備と編制の二つの面から、従来の我が軍のシステムについて説明を行った。次はこの項の最後の締め括りとして、我々が従来のシステムでどのように諸国軍を破ったか、それについて解説を行う」

 そのように言うとガデルは、大小マゼラン世界において広く行われてきた機動戦の姿について言及を始めた。

 「まず最初に、諸国軍について簡単に述べておこう。我々が軍制改革で生み出した従来のシステムは、これまで述べたように幾つかの点で諸国軍を凌駕するものだった。しかしこのシステムは、それだけで勝利を確定させた訳ではない。諸国軍に対し実際に勝利を収めるには、更に戦場においていくつかの工夫を要したのだ。
 我が軍の従来のシステムは、ある意味では(大小マゼラン)世界の軍隊の歴史的変化に逆行するものだった。イスカンダル帝国が滅び機動戦が戦いの主流になると、艦艇は次第に重武装・重防御のものへと変化していったからだ。小国が群立し、資源が分散した世界で競う諸種族は、結局どの種族も敵を数で圧倒できる資源を確保する事ができなかった。そのため限られた資源を少数の艦につぎ込み、戦闘力を向上させる事で敵を上回ろうとするようになっていったのだ。
 その結果、機動性能はそこそこだが重武装・重防御の航宙戦闘艦が誕生し、昔からある航宙装甲艦と組み合わせて戦う手法が発達を遂げた。機動力と数に優れる航宙装甲艦が敵の動きを止め、打撃力に優れる航宙戦闘艦が止めを刺すという用兵が一般的となったのだ。(※19)
 …この図を見てもらいたい。これは現代の機動戦における典型的な艦隊機動を表したものだ」

(※19)この文章では大小マゼラン世界を「波動エネルギーや現代型艦艇が諸種族の間で使われ、古来から互いに交流があった」と想定しているが、こうした世界では諸国軍の艦艇はガミラス艦と基本的な形状や装備が似てくると考えられる。例えば地球の事例を見ると、文化的な交流があった古代地中海世界ではギリシアとフェニキアの軍船は互いに類似した形状と装備を有していた。また、同様に情報や文化が流通し内燃機関を使用する現代の水上艦艇は、国を問わず背負い式砲塔や凌波式艦首といった基本的形状を共有している。したがって、同じテクノロジーを有し交易等の交流もあった大小マゼラン諸国軍の艦艇は、細かい相違は多々あれどガミラス艦のような安定翼や無砲身砲塔を装備していたと想像する事ができるのではないだろうか。(※図7及び図8及び図9参照)
  ガトランティス軍とガデル・タラン 図7

  ガトランティス軍とガデル・タラン 図8

  ガトランティス軍とガデル・タラン 図9

 解説を中断すると、ガデルはホログラムボードに一枚の図を表示した。艦艇を表す赤と青の記号がそれぞれ縦一列に並び、単縦陣を形成している。ガデルは図に軽く触れると図を変化させた。赤と青の“艦隊”が、互いに相手を有利な位置に捉えようと機動を始める。両者は遠方から接近してすれ違うと、相手の後ろを取ろうと互いに追尾を始めた。戦いは反航戦からドッグファイトへと変化したのである。

 青と赤の艦隊は少しの間、互いに相手の尻尾を追いかけるように旋回していたが、突如青艦隊の艦艇が一斉にUターンした。青艦隊の進行方向が逆向きになる。そして、青艦隊の尻尾を相変わらず追いかけようとしていた赤艦隊に対し、“丁の字”の態勢となった。赤艦隊は青艦隊の懐に飛び込むのを避けようと彼らと併進する方へ急ターンする。結果、両者の機動は最終的に同航戦へと収束していった。(※図10参照)
  ガトランティス軍とガデル・タラン 図10

 ガデルが解説を再開する。

 「この図のように、現代の機動戦は艦隊が絶えず高速で動き、互いに高度な機動を駆使し合う。この機動戦に勝利するために発達したのが、複数の艦種とゲシュタムジャンプを駆使する手法だった」

 ガデルはホログラムボードに別の図を表示し、解説を続けた。

 「…手順を説明しよう。まず、二等航宙装甲艦が敵艦隊、殆どの場合敵も同じ二等航宙装甲艦だったが、ともかくそれらと接触し、同航戦の態勢に持ち込む。次に航宙戦闘艦が敵艦隊の針路上にゲシュタムアウトし、同時に一等航宙装甲艦が敵艦隊の真横を併進するようにゲシュタムアウトする。一等航宙装甲艦が敵に圧力を加えゲシュタムジャンプで逃げないようにする間(※20)、航宙戦闘艦は大火力を以て敵を先頭から順次撃破していく。(※図11参照)
  ガトランティス軍とガデル・タラン 図11
 以上のような戦い方が広く(大小マゼラン)世界で行われ続けていた。こうした用兵は、敵味方共に大軍を用意できず、数十から数百隻程度という小規模な艦隊同士が戦う条件下では極めて有効な手法だった。大軍を用いずとも、効率的に敵を壊滅に追い込めたからだ。しかし、この戦い方が長きに渡り行われ続けた結果、世界の軍隊は一つの陥穽へと陥っていった。一方が複数の艦種とゲシュタムジャンプで攻撃すれば、当然敵も同様の手段で反撃する。その過程で航宙戦闘艦同士の戦いが生じ、それに打ち勝つために不毛な性能競争が続く事となったのだ。
 航宙戦闘艦はビーム兵装と装甲が強化されていき、機動性能を維持するためにエンジンも大型化した結果、生産に莫大なコストがかかるようになった。そしてそれを支援する一等航宙装甲艦も、同様にビーム兵装と装甲が強化され、コストが増大していった。その結果、我々(ガミラス)が諸国と戦う時代にはどの国も、数が揃わず機動力もバラバラな戦力を抱える有様となっていた。かつてイスカンダル帝国を破った機動戦の原理が、半ば忘れ去られた状態となっていたのだ」

(※20)ヤマト2199劇中のガミラス艦やヤマトのワープの描写を見ると、いずれも砲撃を止めて少しの時間を置いてからワープしている。これは砲撃を続けると波動エンジンにワープに必要なだけのエネルギーを充填できない為であると考えられる。この事は逆に言えば、「敵に砲撃を行わせれば敵はいつまでたってもワープできない」事を意味する。従って、「そこそこの防御力と攻撃力を持つ」一等航宙装甲艦には敵に接近して砲撃戦を強要し、ワープできなくする役割が与えられると考えられる。

 大小マゼラン世界の機動戦の変遷について述べたガデルは、最後にガミラスと戦った諸国軍が陥っていた“大艦巨砲主義”への批判とも取れる発言を行った。

 “…ゼルグートの時と同じような話し方をしている”

1/1000 ゼルグート級一等航宙戦闘艦ドメラーズIII世 (宇宙戦艦ヤマト2199) ガデルの解説を聞きながらヴェルテは、ゼルグート級一等航宙戦闘艦を巡る過去の対立を思い出していた。

 かつて“大艦巨砲主義”を好んだヘルム・ゼーリック中央軍総監の主導で建造されたゼルグート級(※21)は、元々列強諸国が配備していた一等航宙戦闘艦に対抗する為に計画された艦艇だった。ガデル達の軍制改革により計画が破棄され、後になってゼーリックにより三隻のみ建造されたこの艦は、かつてガミラスで激しく争われた軍の路線対立の残滓とも言うべき存在だったのである。(※22)(※23)ゼルグート級についてガデルは、軍制改革が行われた時も、それが建造された時も舌鋒鋭く批判を繰り返していた。この時の口ぶりと、今目の前で講義を行っている弟の口ぶりが似ているようにヴェルテには感じられた。

(※21)「宇宙戦艦ヤマト2199全記録集 vol.2」及び「公式設定資料集[GARMILLAS]」の記述による。

(※22)資料の記述によればゼルグート級は最新鋭の艦艇という事になっているが、その割にはデウスーラ二世のように砲身付きのカノン砲塔を装備せず、大きさの割りに魚雷発射管も少ないというデストリア級と類似した古めかしい仕様になっている。これは本級の基本設計が(デストリア級と同様に)かなり古い為であると想像する事ができるのではないだろうか。

1/1000 ハイゼラード級航宙戦艦&メルトリア級航宙巡洋戦艦 親衛隊カラーセット(※23)ガミラスの砲身付きカノン砲塔に関して、「公式設定資料集[GARMILLAS]」にはそれが新しい装備である事を窺わせる次のような記述がある。
  • メルトリア級について「新型の三連装陽電子カノン砲塔を装備し」と記述される。
  • ハイゼラード級について「ガイデロール級航宙戦艦の火力等を増強した後継艦であり、カノン砲塔の装備により攻撃力が向上した」と解説される。

 ガデルの講義は大小マゼラン諸国軍の姿から、いよいよ“従来のガミラス軍”そのものへの言及へと移っていった。

 「では、こうした諸国軍に対し、我が軍はどのように戦ったのか。戦うにあたり我々は、まず最初に敵の要(かなめ)となる部分の破砕を目指した。その要とは何か。それは、我々の装備と同じ二等航宙装甲艦の部隊だった。
 今一度、諸国軍について述べたあたりを思い返してもらいたい。諸国軍は機動戦に勝利する為、複数の艦種とゲシュタムジャンプを駆使する用兵を行った。しかし、それが成り立つには一つの条件があった。『二等航宙装甲艦が敵を釘付けにできる事』だ。動き回る敵を同航戦の態勢に持ち込んではじめて、諸国軍は効果的な位置に航宙戦闘艦や一等航宙装甲艦をゲシュタムアウトできたのだ。もし、この前提が崩れたらどうなるだろうか。二等航宙装甲艦が壊滅し、敵を釘付けにできなくなれば航宙戦闘艦などは只の動きの鈍い標的と化してしまう。我々はその状態の実現を目指したのだ。
 敵の二等航宙装甲艦を破る為に、我々は何をしたのか。…この図を見てもらいたい。これは我が軍が採った典型的な戦い方を示したものだ」

 そのように言うとガデルは一枚の図をホログラムボードに表示した。二つの艦隊と思われる記号の群れが同じ方向へ併走している。ガデルが図を変化させると、一方の“ガミラス艦隊”の縦隊が前後に分かれ、もう一方の“諸国艦隊”の方へと同時に向きを変えた。進路を変更し並列の状態になった二つのガミラス艦隊は、諸国艦隊の縦隊へ向けて“トの字”の態勢で突入し、諸国艦隊の隊列を寸断してしまった。(※図12参照)
  ガトランティス軍とガデル・タラン 図12

 ガデルが解説する。

 「この図のように、我々は敵に積極的に近接戦闘を挑み、敵の縦隊戦列を寸断した。そうする事で、我々の艦艇は敵艦の砲火の脆弱な部分や死角に入り込み、集中砲火を浴びせて敵艦隊を壊滅させていった。(※図13参照)
  ガトランティス軍とガデル・タラン 図13
 この敵の縦隊戦列への突入は本来、成功すれば効果は絶大だが実行は難しい行為であるとされる。突入するまでの間、砲火の脆弱な艦の正面を敵の最も強力な火線に晒す事になるからだ。その為諸国軍は余程優勢でない限りこれを行う事はなかった。しかし我々は、小型航宙装甲艦の配備によりこの一見困難な用兵を可能とした。
 諸国軍が苦手としていた縦隊戦列への突入を我が軍が容易に行えたのは何故か。それは、我々の艦隊が大量の実体弾を装備していた為だ。ミサイルや魚雷といった実体弾はそもそも、弾道が直進するビームと違い味方の頭越しの射撃が可能である為、縦隊が進行方向へ大火力を投射するのに適している(※図14参照)。それ故に諸国軍もまた、我々と同様に実体弾を各種艦艇に装備させていた。しかし、我々は小型航宙装甲艦の配備により圧倒的な数的優位を確保した結果、実体弾の装備数でも敵を圧倒する事となった。 この図を見てもらいたい」
  ガトランティス軍とガデル・タラン 図14

 ガデルはホログラムボードにデストリア級とクリピテラ級、そして諸国軍の二等航宙装甲艦の図像を表示し、ヴェルテに指し示した。

 「今ここに、二隻の敵の二等航宙装甲艦があったとしよう。我々はこの二隻の艦と概ね同じコストで、デストリア一隻とクリピテラ四隻を配備できた(※24)。それぞれの戦力を比較すると、ビーム兵装は同等である一方で実体弾では大きな差がつく。敵の二等航宙装甲艦は殆どの場合、デストリアと同程度の数の魚雷発射管を装備していたが、クリピテラは艦前方に投射できるものだけで四門の魚雷発射管と、八門のミサイル発射管を装備しているからだ。仮に敵艦の魚雷発射管をデストリアと同じ四門とすれば、単純計算で敵と我が方との間には六倍半もの差がつく事になる(※図15参照)。我々はこの圧倒的な実体弾の火力を利用する事で、敵の縦隊戦列への突入を容易なものとしたのだ」
  ガトランティス軍とガデル・タラン 図15

(※24)デストリア級やクリピテラ級といったガミラス軍の各種艦艇のコストはどのようなものだったのか。作中では参考になるものがないので、筆者は以下の歴史的事例を元にガイデロール級、デストリア級、ケルカピア級、クリピテラ級のコストの比率を8:4:3:1であると仮定して論考を進める事とした。
  • 旧日本海軍の戦艦・巡洋艦・駆逐艦の建造費は概ね8:3:1の比率になっている。(※資料1資料2参照)
  • クリピテラ級は「兵装を最低限に抑え戦時量産を念頭に置いている」点で松型駆逐艦に類似している。
  • 松型駆逐艦は建造費の資料にある夕雲型駆逐艦よりも遥かに生産性が高い。

 “低コストで数を揃えられる”特性を巧みに利用したクリピテラ級の効能について述べると、次にガデルはガミラス艦隊と諸国軍艦隊の図を表示した。それを変化させつつガデルは、「従来のガミラスのシステム」が用いた用兵について詳しく言及を始めた。

 「我々が採った戦い方について、具体的に説明しよう。我々は次のように雷撃と敵艦隊への近接戦闘を組み合わせた。
 まず、我が方の艦隊は同航戦の態勢で敵艦隊に接近する(※図16参照)。射撃戦の始まる距離(※8000km程度)まで近づいた所で、我が方は魚雷を敵の進路上へと発射する。この最初の雷撃で敵の機動が鈍る間(あいだ)、我が方は各中隊の隊列を敵に向け、並列の状態で敵戦列への突入を開始する。(※図17参照)
  ガトランティス軍とガデル・タラン 図16

  ガトランティス軍とガデル・タラン 図17
 次に我が方は、各中隊の隊列を敵に対し斜めの態勢で接近させつつ、魚雷とミサイルの第二撃を敵の隊列に向け発射する。敵の砲火が実体弾への対処で分散する隙に、我が方は一気に敵の隊列へと突入する。(※図18参照)
  ガトランティス軍とガデル・タラン 図18
 突入に成功し、敵の隊列を横切る際、クリピテラはミサイルを敵艦の直上や直下へと発射し止めを刺す。
 その後、我が方は敵の寸断された隊列に十字砲火を浴びせつつ、(敵の)縦隊戦列を蛇行するように横断を繰り返す。そしてビーム砲を用い、敵艦を順次撃破する。(※図19及び図20参照)
  ガトランティス軍とガデル・タラン 図19

  ガトランティス軍とガデル・タラン 図20
 以上のようにして、我々は敵の二等航宙装甲艦を壊滅させていった。
 敵の用兵の要となるそれら(二等航宙装甲艦)を撃破した後、我々は次に何を行ったのか。それは、敵軍全体の包囲・殲滅だった。我々は敵の二等航宙装甲艦の残存部隊や一等航宙装甲艦、そして敵戦力の中核となる航宙戦闘艦の覆滅を目指したのだ。
 殆どの場合、その機会は容易に訪れた。我々が敵の二等航宙装甲艦を撃滅している最中に、敵は主戦力を投入してきたからだ。
 今一度、表示された図を見てもらいたい。敵からすれば、危機に瀕した二等航宙装甲艦を救うのに二つの手段が有り得た。一つは交戦中の我が方に近接戦闘を挑み撃滅を試みる事。そしてもう一つは、我が方と距離を置きつつ味方の脱出を援護する事だ。
 いずれの手段を採るにせよ、我々はこうして現れた敵の主力をことごとく包囲し、敵全軍を壊滅させていった。
 …この図を見てもらいたい。これは我々が行った包囲の一例だ」

 そのように言うとガデルはホログラムボードに表示されていた図に手をかざした。ガミラス艦隊に隊列を寸断され、蹂躙されている諸国軍の二等航宙装甲艦部隊の図が、二つの同じ図に分かれる。ガデルはそれぞれに手を触れると、順番に図を変化させていった。

 最初の図。味方を救う為に諸国軍の主力がワープアウトし、ガミラス軍に突入する。すると混戦状態となった両軍の周囲にガミラスの大部隊がワープアウトし、両軍を丸ごと包囲した。包囲陣は短時間の内に縮小して諸国軍を圧迫し、その間に包囲陣内部のガミラス軍は包囲を抜け出す。包囲陣内部の諸国軍が壊滅していく間、包囲陣を抜け出したガミラス軍はその周囲を周回し、包囲を抜け出そうとする諸国軍の残存部隊を次々に襲い全滅させていった。(※図21参照)
  ガトランティス軍とガデル・タラン 図21

 二番目の図。交戦中の両軍の近辺に諸国軍の主力がワープアウトし、ガミラス軍と距離を置きつつ味方の脱出を援護しようとする。するとガミラス軍が諸国軍主力の近辺にワープアウトし、一等航宙装甲艦部隊と航宙戦闘艦部隊をそれぞれ個別に包囲してしまった。(※図22参照)
  ガトランティス軍とガデル・タラン 図22

 ガデルはガミラスが行った「包囲」について言及した。

 「図に示した包囲を行うのに、従来の我が軍のシステムは十分な効果を発揮した。
 例えば『機動戦における包囲』に必要な『数』は、軍制改革の成果により常に十分に用意できた。諸国軍は大抵の場合、戦場に数百隻から千隻程度、稀に連合して数千隻の兵力を戦場に展開したが、対する我々は複数の師団を動員する事で数千隻から一万隻の兵力を恒常的に展開できた。
 そして包囲を成す為の『機動力』では、艦種を統一した我々の艦隊は常に諸国軍を凌駕できた。
 さらに、我々の艦隊は師団と旅団のシステムにより、包囲を行うのに最適な布陣を戦場で素早く構築できた。特に『旅団による大規模な小隊の組み換え』は、航宙戦闘艦や一等航宙装甲艦を個別に包囲し、撃滅する隊形の構築を容易なものとした。(※図23及び図24及び図25参照)
  ガトランティス軍とガデル・タラン 図23

  ガトランティス軍とガデル・タラン 図24

  ガトランティス軍とガデル・タラン 図25
 一方、諸国軍はこうした我々の包囲に対し、対抗する術を持たなかった。高価で強力な航宙戦闘艦への注力ゆえに『数』で不足し、多様な艦種を抱えるが故に機動力に劣り、更にそれらが柔軟な隊形の構築をも妨げた。
 結論として、従来の我が軍のシステムは、『機動戦の原理を追及する』という一点において、諸国軍のシステムを完全に凌駕していたのだ」

 イスカンダル帝国の滅亡後、独特の歴史的変化を遂げた大小マゼラン諸国の機動戦をガミラスの考案した機動戦が凌駕し打ち破った。そのように話を纏めると、ガデルは今夜の講義の最初の項目について総括を行った。

 「…以上、ここまでは従来の我が軍のシステムについて、その装備や編制、戦い方を俯瞰して述べた。(兄さんが)既知の事柄についていささかくどいまでに説明したが、それにはきちんとした理由がある。それは、これから述べるガトランティスとの戦いで我が軍のシステムがどのように機能しなくなったのか、その過程と理由を述べるのに必須であったからだ。
 これまで説明したように、従来の我が軍のシステムは同じ機動戦を行う諸国軍に対しては極めて有効に機能した。それはひとえに、我が軍のシステムが機動戦の原理により忠実であった為だ。その意味で我々は正に、その論理を極限まで追求したという事ができるだろう。
宇宙戦艦ヤマト2199 艦艇精密機械画集 HYPER MECHANICAL DETAIL ARTWORKS 弐 ところが、それが我々にとっては一つの大きな陥穽となった。機動戦の論理を突き詰めた結果、我々はガトランティスのもたらした戦争の変化に全く対応できなくなっていたのだ。従来の我が軍のシステムが、どのように不適合を起こし機能不全となったのか。それをこれから一つ一つ検証して行く事となるだろう」

 今夜の講義の第一項目について語り終えると、ガデルは一息つき、続いて次の項目へと話を進めていった。

 「それでは次に、第二の話題、『戦争の変化をもたらした敵、ガトランティス』について解説する。かつて我が軍を破り滅亡の淵へと追いやったガトランティス軍とは、そもそもいかなる軍隊であるのか。これまでに判明した限りでは、ガトランティス軍は我々と全く異なる兵器システムを有し、全く異なる戦い方をする軍隊だった。彼らと我々の相違点とは何か。ここではそれについての説明を行う」

 そのように前置きを述べると、ガデルはガトランティス艦のいくつかをホログラムボードに表示した。

(「ガミラス第二帝国の戦争準備―ガトランティス軍とガデル・タラン(その2)―」につづく)

宇宙戦艦ヤマト2199 艦艇作例集 “ガミラス艦隊集結”編 (ホビージャパンMOOK 650)宇宙戦艦ヤマト2199』  [あ行][テレビ]
総監督・シリーズ構成/出渕裕  原作/西崎義展
チーフディレクター/榎本明広  キャラクターデザイン/結城信輝
音楽/宮川彬良、宮川泰
出演/山寺宏一 井上喜久子 菅生隆之 小野大輔 鈴村健一 桑島法子 大塚芳忠 麦人 千葉繁 田中理恵 久川綾
日本公開/2012年4月7日
ジャンル/[SF] [アドベンチャー] [戦争]
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【theme : 宇宙戦艦ヤマト2199
【genre : アニメ・コミック

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【投稿】ガミラス第二帝国の戦争準備―イスカンダル帝国の興亡史― 『宇宙戦艦ヤマト2199』ガミラス考察補論集1 小説~ガトランティス戦争編~

 引き続き、T.Nさんから『宇宙戦艦ヤマト2199』に関する投稿をいただいたので、以下に公開する。
 豊富な資料を駆使し、小説形式を織り交ぜながらヤマト2199の世界に迫る論考だ。先に公開した投稿「イスカンダルの王権とデスラーの人物像について」の一部を構成するものである。

 本稿では、次の興味深い論点が提示されている。その比類ない考察に、ヤマトファンは興奮を禁じ得ないだろう。
  • ガミラスが永きにわたり波動砲を持たなかったのは何故か。
  • ガミラスとイスカンダルには、実は科学技術の格差は存在しないのではないか。
  • スターシャが古代達に語ったイスカンダル帝国とはどのような国であったのか。地球の歴史を元に想像を試みる。
  • 波動砲を使った戦争の姿と、兵器としての限界

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『宇宙戦艦ヤマト2199』 ガミラス考察補論集1

思考実験としての続編小説~ガトランティス戦争編~

前回から読む

2. ガミラス第二帝国の戦争準備
 ――イスカンダル帝国の興亡史――


宮川彬良 波動砲に関する会議が終了し、その日の全ての業務が終わるとヴェルテとガデルは大型住居艦内にあるヴェルテの邸宅へと向かった。空中浮遊車に乗り、ガミラスの都市の特徴であるキノコ状のビル群の間を通り抜ける。かつての第二バレラスが備えていたのと同じ情景だった。住居艦は遷都に使用されるはずだった第二バレラスと同様に、住人が帝都バレラスと同じ生活を営めるような配慮がなされていたのである。官庁街を抜け、惑星上の大都市ほどではないがそこそこ大きい“市街地”を通り過ぎヴェルテの邸宅に到着すると、そこには二人の家族が食事を用意して待っていた。ヴェルテは自身やガデルの家族をも住居艦に住まわせていたのである。二人の一家はガデルが軍務で長期間家を空けがちだったため、ヴェルテの邸宅で一緒に暮らしていたのだった。

 食卓を囲み、ヴェルテ一家とガデル一家は久しぶりに全員揃った団欒の時間を過ごした。そこで二人と二人の妻、子供達は団欒らしい取り留めのない会話を交わす。話題の多くは艦内での暮らし向きや“市街地”での世間話、今住居艦がいるザルツ恒星系の話といったものだった。今現在、住居艦ではこのような光景を艦内の至る所で見ることができた。政府機関の多くが住居艦に移るに伴い、職員の家族達も住居艦に移り住むようになっていたからである。事実上の帝国の中枢として機能するようになっていた住居艦の艦内では、帝都バレラスを髣髴とさせる都市生活が営まれるようになっていた。タラン兄弟の家族達はそうした民間人の一人としての日々を送っていたのである。

 もっとも、住居艦の住人達の生活がバレラスと全く同じかというとそういうわけでもなかった。食事中、家族から住居艦が長く停泊するようならザルツを旅行しても良いかという話が出てきた。住居艦が新たなモジュールとドッキングする拡張工事が行われる場合、住居艦は数週間恒星系内に留まる事になる。その際住民には日程や機密保持等の条件が整えば恒星系内の旅行をする事も認められていた。また、住居艦内に設けられた商業区画での買い物の話も家族の話題の多くを占めていた。艦の停泊中は星系の業者が来て商業区画で食料から工業製品に至るまで様々な特産品の市が立つため、住民達はそれを楽しみにしていたのである。住民達にとって、住居艦での生活はさながら遠大な旅行をしているようなものでもあった。

 ヴェルテとガデルはこうした家族達の会話を聞きながらそれぞれに違った思いを巡らせていた。ヴェルテはこの住居艦での暮らしがうまく永続してくれたらいいと願っていた。艦内では総統はもうバレラスに戻らないのではという噂が流れるようになっていたが、この時点では総統が再び遷都を行うつもりでいるのかは不明であった。どちらにせよ、住居艦建造の責任者であったヴェルテは住居艦での住民達の暮らしがうまくいき、住居艦が帝国の当面の政治的中枢として機能する事を望んでいた。

 一方、ガデルは住居艦の暮らしは悪くないとは思っていたが、それでも帝都としてのバレラスの事が頭から離れないでいた。仮に総統がバレラスに戻るつもりがないのであれば、バレラスは一体どうなるのか。それに此処の住民達の暮らしも平穏であり続ける事はできるのか。帝国各地を巡回し続ける総統が政務をやりやすくするためという名目で住居艦に住む事になった人々とその家族達である。総統はバレラスに戻らないのではという噂が流れるようになっていても、ここでの暮らしはあくまで一時的なものと信じている人も多かった。ガデルは将来に一抹の不安を感じていた。このようにヴェルテとガデルは、帝国に一波乱もたらすかもしれない思惑の違いを孕みつつ家族との団欒のひと時を過ごしたのだった。

 食事が終わり、妻達は使用人達と食事の片付け、子供達は遊びへと散っていった。二人だけになったのを見計らうと、ガデルがヴェルテに言った。

 「ところで今日の話になるが兄さん、兄さんの部下は随分とハッキリものを言うのだな、驚いたよ」

 波動砲を巡る会議で、ヴェルテのスタッフがガデルにした直言の事だった。彼は地位が相当上のガデルに対し波動砲の運用に気をつけるよう臆する事もなく言ったのである。ヴェルテは言った。

 「なに、それだけ我々が波動砲について危惧しているという事だよ」

 「それは今日の事でよく分かった。だが波動砲は今度の戦争では必要になるものだ。危険であっても使わなければならない」

 ガデルの言にヴェルテはふむ、と少し考えた後で言った。

 「それにしてもガデル、元々は総統の気紛れで作られる事になった波動砲(※1)をお前が使いたいと言い出したのは今にして思えば意外だったな。デウスーラ二世の時は特に何も言わなかったお前が、デウスーラ三世を作った時は急に波動砲艦がたくさん欲しいと言い出したじゃないか。総統以外にそんな事を言う人がいるとは思わなかったぞ」

 「親衛艦を開発してくれた事には感謝しているよ、兄さん。あれを作るのは大変だったのだろう?」

 「純粋に技術的な話なら」

 ヴェルテは言った。

 「波動砲そのものの開発はさほど難しいものではなかった。原理自体は大昔から知られていたものだからな。言うなれば書物に書かれた古代の兵器を復元したようなものだよ。強いて言うなら、宇宙を引き裂く事のない技術の模索にひたすら時間をとられた事か。結局どうにもならなかったがね」

 ヴェルテの発言のように、ガミラスにとって波動砲を開発する事は実に容易なものであった。ガミラスは太古の昔よりイスカンダルに仕える僕として、彼らから波動エネルギーをはじめとする科学技術の知識を与えられ続けていたからである。何百年もの時間をかけてイスカンダルの科学技術を深く理解し、自家薬篭中の物としていたガミラスは、波動砲の開発に必要な知識の全てを非常に古い時代から持ち合わせていた(※2)。にもかかわらずガミラス人が歴史的に波動砲を持たなかったのは、むしろその波動エネルギーへの深い理解ゆえであった。波動エネルギーを古くから使用して来た結果、その有用性と危険性の両方を知り尽くしていたガミラス人は、同時に波動砲の危険性だけでなくその克服の困難さについてもよく理解していたのである。

 ヴェルテ・タランがデスラーの命により行った波動砲の開発は、ガミラス人が伝統的にやっても無駄と理解していた試みを再び行っていたに過ぎなかった。宇宙を引き裂く危険を回避できる画期的な技術を模索し続けたのである。しかしその試みは多くの先人達と同様無駄に時間を費やすだけに終わった。結局彼が考え付いたのは、波動砲の運用に細心の注意を払うという陳腐な方法論に過ぎなかったのだった。 

(※1)ヤマト2199の23話において、デスラーはスターシャに「ちょっとした思いつきでね、波動エネルギーを兵器に転用してみたのだよ」と述べている。この事から、ガミラスの波動砲は何らかの必要性があって開発が始まったのではなく単にデスラーの気まぐれで開発されたと想像することができるのではないだろうか。

(※2)ヤマト2199の劇中の描写や資料を見る限り、ガミラスは古い時代から波動エネルギーについて深い知識を持っていたと考えられる。例えば第18話でヤマトが回収したイスカンダルの波動コアには、ガミラスが少なくとも四百年以上前から宇宙で活動していたことが記録されていた。また、第七章パンフレットにはデウスーラ・コアシップに関して次のような記述がある。
 「――(コアシップの)ロケット状の艦体は、ガミラス古来の星を渡る艦の姿が継承されたもの。」
 これらのことから、ガミラスはかなり古い時代から波動エネルギーを使用していたと同時に、波動エネルギーについて深い知識と理解を有していると考えられる。

 ヴェルテは話を続けた。

 「むしろ難しかったのは艦の性能のバランスを考える事だった。親衛艦をデウスーラの護衛だけでなく敵の大軍の攻撃にも使うというお前と総統の要望を満たすためには、艦の火力と防御力、機動性能を非常に高い水準でバランスさせなければならなかった。そこが苦労の大半だよ。どれもこれもと欲張る無茶を強いられたからな、あの時は。それはそうとガデル、お前は何で波動砲を戦争に使いたいと言い出したんだ?波動砲は古代に廃れて以来、ずっと使われなかった兵器だろう?」

 ヴェルテは以前から考えていた疑問をガデルにぶつけた。軍需国防相としてガミラスの兵器開発にも責任を負う立場であったヴェルテは、総統とガデルの要請で波動砲の実用化に尽力してきたものの弟がどのような経緯で波動砲の使用を考えるに至ったかについて、まだ本人から体系的な話を聞いた事がなかった。ガトランティスとの大規模艦隊戦に波動砲が必要だと言われ想定される運用の詳細についてもよく知ってはいたが、根本的なことについては今まで訊く時間が取れなかったのである。その彼に対し、ガデルは言った。

 「それについてきちんと説明するには大小マゼランの戦争史から現代の我々の戦い方まで順を追って話す必要がある。聞きたいかい、兄さん」

 「ああ。ぜひ聞かせてくれ。丁度今日の“講義”はお前の番だろう?」

 「そういえばそうだったな。分かった、今夜はそれについて話そう。上に上がろうか、兄さん」

 ガデルがそう言うと、二人は邸宅の二階にあるガデルの私室へと上がっていった。二人が食後の話をするのに結構な時間が経っていたが、仕事の話をしているらしい二人の姿を家族達は遠慮して離れた所から見ていた。

 元々仲の良い兄弟であり、ガミラス帝国の軍政と軍事のそれぞれを担うテクノクラートであった二人は、仕事の時の打ち合わせだけではなく私生活においても軍政と軍事の様々な話題について話をする習慣を設けていた。例えば駆逐艦や巡洋艦といった様々な艦種をそれぞれどれだけの割合で生産すべきか、新規の艦艇の改良で用兵側が望む事は何か、といった軍政側と用兵側が行うべき対話を二人は非公式の場でも行っていたのである。その際の二人の対話は、多分に彼らの遊び心から一方が一方に対して行う個人講義の形で行われる事が多かった。二人は日により代わる代わる交代で、自身の教養を交えながら話を行っていたのである。軍事と軍政のそれぞれに一家言を持つ二人の会話は、実に多岐に渡るものであった。ヴェルテが講義を行う時は大小マゼランの歴史や技術史の話をする事が多かったし、ガデルが講義を行う時は大小マゼラン世界の軍事史や兵学の話をする事が多かった。今日はガデルが話をする番であった。

 「では、兄さん。」

 ガデルの私室において、ガデルがヴェルテに語りかけた。

 「兄さんはさっき、波動砲は古代に廃れて以降は使われなかったと言っていたね。兄さんがよく知っている通り、波動砲は古代イスカンダル帝国の時代に最も盛んに使用され、帝国が滅んで以降急速に廃れていったとされている。どうしてそうなったのだろうか?」

 ガデルはガミラスの知識人の間ではよく知られている歴史的事実について質問した。一般に、太古の昔より数多くの種族が宇宙で活動してきた大小マゼラン世界では、非常に古い時代から恒星間航行技術を持つ種族達の間で活発な交流がおこなわれていた。彼らは地球の部族や民族と同様に、互いに争い、同盟し、交易で文物を交換し合っていたのである。(※3)その結果、大小マゼランの歴史は諸種族の知識人の間ではある程度共有される知識となっていた。ガミラスの知識人達は――地球の例えば日本人が地球の反対側の地域の古代史を知っているように――他の種族から書物を輸入し、あるいは自ら他の星へ考古学調査に赴くなどすることで、古代イスカンダル帝国の時代の大小マゼラン世界について様々な事を知っていたのである。

(※3)第七章パンフレットのデウスーラ・コアシップに関する「ロケット状の艦体は、ガミラス古来の星を渡る艦の姿が継承されたもの」という記述から、帝国形成以前のガミラスは波動エンジンを搭載した船で交易を行っていたと考えられる。また、セレステラが第25話で森雪の前で語った「ジレル人は人の心を読む力のために周りの星々から疎まれ滅ぼされた」という独白からは、大小マゼラン諸種族が互いに同盟したり争ったりしていた事実をうかがう事ができる。

 ガデルの問いかけに対し、ヴェルテは答えた。

 「それは古代の“破局”で波動砲の危険性が誰の目にも明らかになったからではないのか?歴史書によれば、古代イスカンダル帝国は末期の時代に王位を巡る争いで大マゼランに一大惨禍をもたらしたとある。惨禍の詳しい内容はよく分かっていないが、彼らが兵器に多用していた波動エネルギーによるものではないかと一般的にいわれている。つまり、波動砲だよ。今日会議で披露したように波動砲で宇宙を引き裂いたのではないかと考えられている。ただ、この学説の難点は、では彼らがどうやってその惨劇を解決したのか全く分かっていないという事だ。解決できなければ大マゼランが今存在しているはずはないが、彼らがどのような技術を使ったのかは帝国の末裔のイスカンダルの女王に訊かなければ分からないだろうといわれている。困った事にね」    

 ヴェルテの発言は大小マゼラン世界に伝わる古代の文献の記述によるものだったが、それらの資料には古代イスカンダル帝国末期の事について次のように記されていた。

  • 「イスカンダル帝国は王位を巡る争いで大マゼランに一大惨禍をもたらした後、大マゼラン諸族に叛かれて滅亡した」
  • 「イスカンダル帝国は自らがもたらした大マゼラン銀河の一大惨禍を、正体不明の技術により沈静化した」

 文献中にある「惨禍」という部分については、波動砲による事故の事を指しているのではないかと大小マゼランの識者の間では言われていた。しかしその正確な内容はよく分かっておらず、ましてそれを解決した技術に至っては全く以て不明の状態だった。イスカンダル人自体がその秘密を明かさないまま帝国と共に滅んでしまったからである。その末裔であるイスカンダルの女王ならばその事について何か知っているのかもしれなかったが、今となっては誰にも問いただす術はなかったのだった。

 ヴェルテは言葉を続ける。

 「それはともかくとして、そもそも、波動砲は波動エネルギーの初歩の知識があれば製作できる兵器だ。大小マゼランに星間国家を築いた種族は今も昔もたくさんいるが、彼らは皆波動エネルギーを理解していたのだから、その危険性を知っていたとでも考えないと彼らが波動砲を持たなかった理由を説明できないのではないか」

 ヴェルテの回答は主に技術的な観点から述べたものであった。

 一般に大小マゼラン世界では、いくつか存在する空間跳躍の方法と技術の内(※4)、波動エネルギーが多くの種族の間で一般的に用いられてきた。その利用と普及の歴史は非常に古く、古代イスカンダル帝国の時代にまで遡る事ができる。古代イスカンダル帝国はその高度な波動エネルギーの技術を強力な武器とし、大マゼランに一大帝国を築いた。彼らは波動砲と称される波動エネルギーの兵器転用技術を秘密とし、どこにも伝える事がなかったが、それ以外の利用法は帝国が存在する間に大小マゼランに広まっていき、帝国が滅亡すると一気に普及していく事となった(※5)。波動エネルギーが普通に使用され、波動砲の製作が技術的に容易であるにもかかわらず――恒星間航行技術を持たないほど科学技術の遅れた地球人が波動砲をあっさりと開発できた事からもそれは明らかである――波動砲が長きに渡り使用されなかったのは、それが危険と理解されていたからと考えるしかない、というのがヴェルテの意見だった。

(※4)ヤマト2199の世界では、空間跳躍の方法はスタートレックのように何種類もあると思われる。例えば、ガミラスとガトランティスはワープアウトした時の描写が異なるが、これは両者の利用している空間跳躍の理論と技術がそもそも異なるのではないか、という想像を可能にしている。

(※5)その点では、波動エネルギーは地球の古代の製鉄技術とよく似たものであった。古代に初めて製鉄技術を確立したとされるヒッタイトは、鉄器を強力な武器としてメソポタミアを征服し、その製鉄法を極秘として周辺民族には伝えなかった。しかし鉄の製法はヒッタイトが紀元前1190年頃に滅亡すると周辺民族に知れ渡る事になり、エジプト・メソポタミア地方で鉄器時代が始まる事となったのだった。

 こうしたヴェルテの見解に対し、ガデルは言った。

宇宙戦艦ヤマト2199 コンサート2015 & ヤマト音楽団大式典2012 (特装限定版) [Blu-ray] 「宇宙を引き裂く危険性を皆知っていたから波動砲は使われなくなった、という事だね。それは兄さんが詳しい歴史学での一般的な見解だ。しかし、用兵学や軍事史の分野ではそのような見方は支持されていない。考えても見てくれ、兄さん。危険であっても役に立つなら、長い歴史の間で波動砲を使う人間は大勢いたはずだ。丁度我々がやろうとしているようにね。ところが、実際には波動砲は古代に廃れて以来、現代に至るまで全く使われる事がなかった。それは波動砲が戦いの役に全く立たなかったからだと考える事はできないだろうか。つまり、波動砲は危険なばかりか戦いの役にも立たなくなったから廃れた、というのが軍事史の分野での考え方なんだ」

 「どのように役に立たなくなったのか、それと役に立たないはずの兵器を何故今使おうとしているのか、というのが今日の話の主題になるわけだな」

 「その通りだ、兄さん」

 ガデルが相槌を打った。

 「よく知られているように、古代イスカンダル帝国は波動砲により宇宙の覇者となった。そして王家の内紛を経て大マゼラン諸族の反乱により滅亡した。反乱軍は波動砲を持たなかったにもかかわらず滅んでしまったのだ。イスカンダルの勃興も滅亡も、戦争の様相の変化が大きく関係していると考えられる。勃興の時代、イスカンダルの波動砲は当時の戦争の状況に有効であったがために彼らは宇宙の覇者となり得た。そして滅亡の時代、波動砲が用を成さない戦い方が行われるようになると彼らは滅んでしまった。実は現代の我々の戦い方は、この滅亡の時代に起源を持つと自分は考えている。そして、兄さんと自分が生きている現在、再び戦争の状況が様変わりした。この新しい状況下では波動砲は再び有効な武器となり得る。だからこそ自分は総統と兄さんに波動砲の配備を提案した、というのが今日話す内容になる」

 「お前がこれから話す事は参謀本部の戦史研究の成果なのか?」

 「そうだ。俺自身が前々から研究に携わってきた事柄でもあるんだ。そしてこれから話す戦争史は、軍の高級指揮官の間では知られている事でもある」

 ガデルはヴェルテの疑問に答えた。

 一般の人にはよく見過ごされるが、参謀組織は作戦を立てると同時に研究を行う組織でもある。平時においてガミラスの参謀本部では、戦時の戦争計画を立てるのに必要な地理や戦史、種族や文化の研究が盛んに行われていた。ガデルやキーリングのような参謀本部首脳部も例外ではなく、若い頃から様々な分野について調査や研究を行っている(※6)。研究者としてのガデルは今まで、星図の作成や古代の戦争史の研究と調査を手がけてきていた。彼と、他の参謀達による戦争史研究の成果は、軍の上層部の間では指揮官が知っておくべき知識として共有されていた。かのエルク・ドメルもガル・ディッツも、古代の戦史についてはよく知っていたのである。

(※6)近代参謀本部システムについては、史書には次のような記述がある。

――近代参謀本部システムを完成させたのは大モルトケ時代のプロイセン・ドイツ参謀本部である。プロイセン・ドイツ参謀本部こそが、参謀本部の理想型である。
 大モルトケが総長に任命されたときのプロイセン参謀本部は、ささやかな研究所的組織でしかなかった。だが、研究所的組織、すなわち頭脳集団として出発したことが、プロイセン参謀本部が巨大な軍事組織革命を引き起こす原動力となった。すなわち、大モルトケのプロイセン参謀本部の画期的な意義は、戦時の統帥機構としての活動にあるのではなく、戦時に備えて平時の間に徹底した仮想敵国軍と想定される戦場、さらには将来の戦争様相、用兵について研究を積み重ねていた点にあるのだ。
 予想される戦地について研究する上では地図情報が不可欠となる。1821年、参謀本部が陸軍省から独立したときのミュフリンク総長以降、第一次世界大戦勃発の1914年までの間、七人の総長がプロイセン・ドイツ参謀本部に在任したが、そのうち四人に陸地測量部すなわち地図製作部門での勤務歴があり、さらに三人には地図に関する著書がある。その典型が大モルトケである。
歴史群像シリーズ『決定版 太平洋戦争 第5巻』 P.112)

――トルコに派遣された大モルトケが陸軍大学校学生時代、最も熱心に聴講したのはベルリン大学の地理学者、カール・リッターの講義であった。リッターは歴史の舞台としての地理、自然環境と人間の経済、社会、文化生活のつながりを研究する人文地理学の祖と位置付けられている。そして大モルトケがトルコから送った通信をまとめて出版された『トルコ書簡』は、現在でも十九世紀のトルコを知る上で最良の文献の一つという評価を保っている。
(歴史群像シリーズ『決定版 太平洋戦争 第5巻』 P.115)


 また、第一次大戦直前のドイツ軍参謀総長だったシュリーフェンは第一次大戦の戦争計画であるシュリーフェンプランを考えるにあたり、古代ローマのカンナエの戦いを参考にしている(グラフィック戦史シリーズ 戦略戦術兵器辞典(4) 【ヨーロッパW.W.2】陸空軍編 P.83)。
 地球の参謀本部のような組織形態を持つガミラスの参謀本部でも、上記のような参謀達による戦史や地理や文化の研究が地球のそれと同様に盛んに行われているのではないかと思われる。

 「では、古代から話を始めよう」

 講義の前置きとなる会話を交わした後、ガデルはヴェルテに対し、大小マゼラン世界の戦争史の話を始めた。

 「太古の昔、大小マゼランから銀河系にかけての広大な領域で活動していた古代アケーリアス文明は、勃興期の古代イスカンダル帝国によって滅ぼされ、イスカンダルは大マゼラン、一説にはさらに小マゼランと銀河系をも版図に納める巨大な帝国を築き上げた。この“勃興の時代”における両者の戦いの姿は、それぞれ次のようなものだったと考えられている」

 ガデルが話しながら空中に手をかざすと、そこに奥行きのある窓状のホログラムが現れた。彼はこれからそれに図を描いて見せるのである。ガデルは話を続ける。

 「まず、アケーリアス文明だが、彼らがそもそも軍事的な思考を有していたかどうかには論争がある。歴史学、これは兄さんの方が詳しいと思うが、その分野ではアケーリアスは平和的な文明であったと言われる事が多い。昔から全ての文明の起源となったと称えられ、武勇で鳴らすイスカンダルが勃興するとあっという間に姿を消してしまったからだ。しかし、軍事史の分野では、いくつかの物的証拠から彼らは稚拙ながらも軍事的な思考能力を有し艦隊も保有していたと考えられている」

 ここまで言うとガデルは“ホログラムボード”にワープゲートネットワークの図を表示させた。

 「例えば、アケーリアスの遺したワープゲートネットワークを見ると、ネットワークを稼動させる中枢は大小マゼランからも銀河系からも離れたバラン星に置かれ、バラン星を通らなければ銀河系と大小マゼランのどちらにも迅速に移動できないようになっている。ワープゲートの配置がこのようになっているのは明らかに軍事的な配慮によるものだ。つまり、銀河系と大小マゼランのどちらに敵対者が現れても彼らがワープゲートを掌握できないよう、離れた場所に集中制御方式の中枢を置いているのだ(※7)。こうすれば、敵対者が勢力を広げようとした場合は中枢を停止させ、敵のワープゲートの利用を防ぐ事ができる。また、仮に敵がワープゲートを通り銀河系から大小マゼラン、あるいは大小マゼランから銀河系へ侵攻しようとしても、敵は必ずバラン星を経由するため、守備側は兵力をバラン星にのみ集中させれば容易に侵攻を食い止める事ができる。ワープゲートから顔を出す敵を片端から砲撃すれば、小兵力でも簡単にバランを守りきれるのだ」

(※7)劇中の描写を見る限り、ワープゲートネットワークを稼動させる中枢はバラン星にしか設けられていないと考えられる。例えばヤマトはバラン星の中枢を破壊してから全く敵の妨害を受けることなくサレザー恒星系に到達しているが、もし仮に小マゼラン方面にワープゲートネットワークを稼動させるハブステーションがあれば、ヤマトはおそらくワープゲートで先回りした小マゼラン方面軍の迎撃を受けていただろう。また、ヤマトを追ってサレザー恒星系へ向かっていた基幹艦隊はサレザーの防衛に全く間に合わなかった事から、銀河系方面にもワープゲートネットワークを稼動させるハブステーションは存在しないと考えられる。

 ガデルはワープゲートネットワークの図の表示を様々に変えながら、用兵家の視点からそれを解説してみせた。さらにそこから、古代アケーリアスの艦艇について言及していく。

 「このように、ワープゲートの配置を見るだけでも古代アケーリアス人が軍事的な素養を持っていたことを証明する事ができる。そしてこの事は同時に、彼らが少なくともワープゲートを守るための艦隊を保有していた事をも示唆している。ワープゲートが彼らの軍隊の実在を証明する有力な証拠となっているのだ。では、彼らの艦艇はどのようなものだったのか。絵画や文献、遺跡から推定すると、巨大建造物を好んで建造した彼らの艦艇は全長数kmにも及ぶ巨大なものであったとされている。根拠としては二つある。一つは彼らが遮蔽装置を使用したと文献に明記されている事だ(※8)。現在の我々が使用している基地用の遮蔽装置からも明らかなように、遮蔽装置は大出力の動力を必要とする。当然、それを搭載する艦は非常に巨大なものとなる。そしてもう一つは各地のワープゲートに船の動力と接続するためと思しき接続器の遺構が確認されている事だ。彼らは有事の際は、バラン星の中枢を停止し敵がワープゲートを使えなくした上で、自分達は艦の一隻をワープゲートに接続してそれを局所的に稼動させ、目的の場所に移動していたと考えられている(※9)。つまり、アケーリアス艦はワープゲートを安定して稼動させられるだけの巨大な動力を持つ船だったのだ」

(※8)映画「星巡る方舟」ではアケーリアス艦(シャンブロウ)が遮蔽装置を使用する場面が出てくる。また、アケーリアスの遮蔽装置の存在は外宇宙から飛来したと思しきガトランティスにさえ知られている事から、ガミラスでも古代アケーリアスが遮蔽装置を使用した事は知られているのではないかと思われる。

(※9)ヤマト2199第25話では、ゲール指揮下のガミラス艦部隊がワープゲートに電力ケーブルのようなものを繋ぎエネルギーを供給して稼動させる描写が出てくる。この事から、ワープゲートには艦からエネルギーを供給するための電気コンセントのような設備があると考えられる。筆者はこの設備はアケーリアス時代からのものではないかと想像している。

 「船については、ここまでは私が前にした講義と同じだな」

 ガデルが言及したアケーリアスの艦艇の特徴について、ヴェルテが感想を述べた。

 「古代アケーリアスは我々とは異なる空間跳躍の理論を持ち、それが船の大きさに関係していたという技術史の論文を前に紹介したが、採用している技術の相違も戦い方の違いに関わってくるのだろう?」

 ヴェルテの質問にガデルが答える。

 「そうだな。兄さんの言を借りれば、我々の艦艇は遮蔽装置もエネルギーシールドも技術的には可能だがあえて採用していない。現代の我々の戦い方とそれらは相性が悪いからだ。それについてはまた後で話そう。アケーリアスの話に戻ると」

 ガデルはアケーリアスの話に戻り、彼らの戦争についての話を始めた。

 「一般に、こうした巨大な艦は大量生産できない。また、我々の艦艇のように機敏に動いて敵弾をかわせないため、遮蔽装置で敵から姿を隠す必要性は大いにあっただろう。しかし遮蔽装置を用いれば、艦隊機動を行う事が困難になる(※10)。アケーリアスの戦い方は、文献だけではなくこうした艦の性質からも演繹して考えていく事ができる。まず、文献によるとアケーリアスの艦隊は、十数隻から百隻を大きく下回る程度のアケーリアス艦と、数百隻の“眷属”、あるいは“同胞(はらから)”と(彼らに)呼ばれた従属種族の中小艦で構成されていたと考えられている。
 その中でアケーリアス艦は、縦横に艦を連ねて動き回る事のない“横隊戦列”を形成したとされる。艦の巨大さと遮蔽装置のために、機動重視の縦隊を作って艦隊機動を行う事が難しかったからだ。基本的に彼らは、遮蔽装置で姿を隠した後は動かずに敵を待ち伏せたと考えられる。
 一方、眷属の中小艦はアケーリアス艦が待ち受ける地点に敵をおびき出す囮の役を引き受けていたとされるが、彼らもアケーリアスと同様に縦横に艦を連ねた横隊戦列を形成したと考えられている。アケーリアスで使われていた推進器では中小艦でも高速の機動は難しかった上に、なによりも敵味方の位置が激しく入れ替わる機動戦をやると待ち伏せるアケーリアス艦がうまく標的を狙えないからだ。
 従って、眷族の中小艦は横隊戦列を形成すると敵と正面から向かい合い、遠距離で撃ち合う射撃戦を行いつつ、ゆっくりと味方が待ち伏せる所まで移動していったと考えられている」

(※10)スタートレックのように艦が遮蔽装置を使って姿を隠すと艦同士の連絡が取れなくなり姿も見えないため(通信したりレーダー波を出したりすると敵に存在を暴露してしまう)、艦隊がまとまって機動するのは困難になると思われる。

 「当時の宇宙では、多くても数百隻程度の艦が小規模な横隊の戦列を組んで戦っていたのか」

 「そうだ。艦は大きくて鈍く、数も少ない。それがこの時代の艦の特徴だったんだ。そして当時の戦いは、こうした艦の特徴を反映して、あまり動かない小規模な横隊戦列同士が撃ち合うものだったとされている。古代イスカンダル帝国は、こうした戦いの様式に挑戦し、文字通り全てをひっくり返してしまったのだ」

 ガデルはヴェルテの言に答えて古代アケーリアスの戦い方の総括を行うと、古代イスカンダルについての言及を始めた。

 「では、アケーリアスに戦いを挑んだ古代イスカンダル帝国の艦艇はどのような特徴を持っていたのか。これについては、現代の我々はアケーリアスの場合よりもずっと豊富な史料を参考にする事ができる。より時代が新しい事に加え、同時代人がイスカンダルの艦と軍隊に注目して多くの文献を書き記したと思われるからだ。遺された絵画や文献によると、イスカンダル艦はアケーリアス艦よりもずっと小さな、全長六百m級の大型艦だったと考えられている。この事は昔行われたイスカンダル星の考古学調査でも裏付けられている。そうだね、兄さん」

 「ああ。宇宙からの重力測定でイスカンダル星の帝国時代の遺構を探査したところ、丁度それぐらいの大きさの船を作ったと思しき建艦ドックの跡が確認されている。イスカンダルは軍艦の大量生産は行わず、艦は地上の小さな施設で建造したと考えられているが、地上からはそれ以上の大きさのドックの遺構は見つからなかった。その事から、イスカンダルの船はそれらに収まる大きさ、つまりお前の言う六百m級の大きさだった可能性は高いだろう」

 ヴェルテはガミラスが行ったイスカンダルの考古学調査について話した。ガミラスは帝国を打ち立てて以来、大規模な考古学調査を大小マゼラン全域で何度か実施している。それらはアケーリアスの遮蔽技術をはじめとする古代の技術解明のために行われたものであったが、その調査対象にはガミラスが歴史的崇拝対象としてきたイスカンダルも含まれていた。イスカンダル星を調査する際、ガミラスはイスカンダルが一応は独立国であったことから地表を直接掘り返さず、地表の重力探査のような非破壊的手段で遺跡を調査していた。

 ヴェルテの発言にガデルはそうか、と言うと話を再開した。

 「大きさ以外にも、イスカンダル艦はアケーリアス艦とは全く異なる特徴を備えていたとされる。一言で述べるなら、帝国時代のイスカンダル艦は、重武装・重防御、機動性はそこそこだがそれでもアケーリアスの巨大艦よりは上回る、という船だったようだ。多くの文献がイスカンダル艦について『容易く船を沈め、星を破壊し、極めて堅牢』であると述べている。この事からイスカンダル艦は、有名な波動砲に加え有力な砲と強力なエネルギーシールド(波動防壁)を備えていた事が確実視されている。その姿は、いうなれば七年前にバレラスを襲ったあのヤマトのようなものであっただろう。イスカンダルの技術供与で作られたというあのテロン艦は、強力な砲(ショックカノン)とエネルギーシールドを備え、我々の艦艇の攻撃を全く寄せ付けなかった。古代イスカンダル艦は、あれよりもずっと大きな船体と動力を持ち、より強大な戦闘力を持っていたと考えられている」

 話をしながらガデルは、ホログラムボードに古代イスカンダル艦の復元画とヤマトの図を表示した。ヴェルテはヤマトの画像に見入ると、低い声でつぶやいた。

 「テロンの“イスカンダル艦”か……」

 ヴェルテはガミラスが行ったヤマトの技術調査の事を思い返していた。かつてガミラス艦に対して強大な戦闘力を見せつけ、バレラスに襲来し、果てはガトランティス軍の大侵攻をもたらすきっかけを作ったヤマトは(当然の事ながら)多くのガミラス人の興味を引く存在となっていた。ヤマトとはいかなる艦であるのか。こうした声を受け、兵器開発局はヤマトについて詳細な調査を実施した。

 調査にあたり彼らは、かつてヤマトに潜入したジレル人のミレーネル・リンケが得た「ヤマトはイスカンダルの技術供与で作られた」という情報に基づき、彼女の得たヤマトの艦内構造の情報と、大昔にガミラスがイスカンダルから受けた技術供与の記録、そして考古学調査を行ったイスカンダル艦艇の残骸(例えばヤマト2199第17話に出てきたイスカンダル船のような遺物など)とをそれぞれ比較してみた。その結果、ヤマトの波動エンジンの中枢部分はイスカンダルの艦船のそれと全く同じ構造をしている事が明らかになった。その事から、ヤマトは(外見はともかく)機能や性能の面で古代イスカンダル艦に類似したものになっているという結論をガミラスは下していた。ガミラスにとって、ヤマトは言わば古代のイスカンダル艦を現代に蘇らせたようなものだったのである。(※11)

(※11)イスカンダルの技術供与により建造されたヤマトは劇中において無類の攻撃力と防御力を発揮したが、では、技術供与を行ったイスカンダル自身が建造した戦闘艦はどれほど強力だったのだろうか?元々科学技術の遅れていた地球がイスカンダルを凌駕する船をいきなり作れるとは考えにくいので、筆者は古代イスカンダル帝国のイスカンダル艦をヤマトよりも強大な攻撃力と防御力を持つ船だったと想定している。なお、イスカンダル艦の全長を六百m級としたのはイスカンダルの恒星間連絡船シェヘラザード(宇宙戦艦ヤマト2199全記録集 vol.3公式設定資料集[GARMILLAS]の記述によれば全長三九二m)よりもずっと大きな船であっただろうと想定したためである。

宇宙戦艦ヤマト2199 ヤマトの画像を眺め何か考えているふうのヴェルテの顔をガデルは一瞥すると、兄さん、とヴェルテに声をかけた。ああ、とガデルに気付いたような顔をしたヴェルテにガデルは軽く笑みを浮かべると話を続けた。

 「…しかし、強大な戦闘力を持つ一方、イスカンダル艦は非常に数が少なかったと考えられている。アケーリアス艦と比べても少ない数しか配備されていなかったと思われるのだ。各種の文献には、『わずか十数隻のイスカンダル艦』という表現がたくさん出てくる。そのことから、イスカンダルの艦隊は十数隻のイスカンダル艦を中心とした構成だったと考えられている」(※12)

(※12)筆者はイスカンダル艦や親衛艦といった波動砲搭載艦の運用単位を十数隻、波動砲使用の上限を三十数隻と設定しているが、それは「宇宙戦艦ヤマト さらば愛の戦士たち」や「ヤマト2」に登場する地球防衛軍の主力戦艦の配備数に合わせたためである。(主力戦艦の配備数は書籍では十数隻とされ、「さらば」劇中のセリフによれば三十五隻と考えられる)

 そこまで言ったところで、ガデルはヴェルテに質問した。

 「ところで兄さん、イスカンダル艦の数の少なさはイスカンダルの技術の性質に深く起因していたと聞いているのだが、そこのところはどうなのだろうか」

 ガデルの質問に対し、ヴェルテは今までとは打って変わってガデルに軽い“逆講義”を行った。

 「イスカンダルの技術と機械は、我々、特に技術分野の人間の間では“高性能だが実用性と量産性に欠ける”というのが通り相場となっている。この特徴は技術史の研究によれば、古代イスカンダル帝国の時代から変わらなかったようだ(※13)。例えば…そうだな、波動エンジンを例にとってみよう。
 現在、我々の知っている波動エンジンは二つの系統に分ける事ができる。一つは“高出力系統”で、イスカンダルが歴史的に使用してきたものだ。もう一つは“低出力系統”で、我々や大小マゼラン諸族はこの系統を使用している。この二つの系統の内、高出力系統の特徴は“高性能だが扱いが極めて厄介”という一言に尽きる。かなり前、考古学調査の一環で発見されたイスカンダルの船を元にイスカンダルの波動コアとエンジンを再現する実験が兵器開発局で行われた事があった。この時復元されたエンジンは、我々のものと比べ非常に大きな出力を発揮したがその反面、故障が多くて到底我々の基準を満たさなかった。(※14)
 また、その実験では高出力系統波動コアの製造は極めて難しく、大量生産が困難である事も明らかになった。逆説的なことだが、史書で言及されているイスカンダル艦の配備数の少なさは、この種のエンジンが古代イスカンダルで使われていた事を示す一つの証拠になっているんだ、ガデル」

 興味深く話を聞く弟にヴェルテはさらに話を続ける。

 「実用性と量産性を犠牲にしてでも性能を追い求めるというイスカンダルの技術思想は、おそらくは彼らの居住する環境に起因したのではないかと言われている。知っての通りイスカンダル星は表面積の殆どを海洋が占め、人間の居住できる陸地は僅かしか存在しない。そのため、イスカンダル人の人口は陸地に見合う形で非常に少なくならざるを得なかったとされている(※15)。帝国を形成した時でさえ、その人口は現代の我々(※純血ガミラス人)を大きく下回っていたらしいのだ。その事は戦力の造成に非常に否定的な影響を及ぼしただろう。極端な事を言えば、艦の建造に人手を割けず、乗せる人間もいないという事にもなり得たからだ。
 現代の我々の場合、艦でも工場でも省力化が追及され、人は普通、指令室のようなシステムを支配する中枢部分にしか配置されていない(※16)。そうまでしても、我々はこれまで艦隊の人員の確保に悩み続けてきた。我々よりも遥かに人口の少なかったイスカンダルでは、問題は遥かに切実だっただろう。数より何より、性能を追求しなければならない必然性が彼らには確かにあったのだ。
 結局、史実からも明らかなように、イスカンダルは人員と数の不足を波動エネルギーという当時としては画期的なテクノロジーを極限まで追求する事で克服しようとした。イスカンダル艦はその一つの表れだよ。波動エネルギーの技術を用い、量産性と機械的信頼性を犠牲にしてでも攻撃力と防御力を極限まで追求した船。それがイスカンダル艦だったんだ。」

(※13)火星に到達した際にエンジントラブルを起こし爆発したイスカンダルの恒星間連絡船や人間の魂という“人身御供”が必要なコスモリバースシステム、頻繁に故障するヤマトの波動エンジンといった事例を見る限り、イスカンダルの技術と機械は「非常に高性能だが実用性に欠ける」という性格を元々持っているのではないかと思われる。

(※14)兵器開発局の実験と同様に“復元されたエンジン”であるヤマトの波動エンジンは劇中において頻繁にエンジントラブルを起こしている。また、ヤマトの航海日程はガミラスと戦っていた往路だけではなく戦闘の心配のない復路においても予定より大幅に遅れていたことが劇中のセリフで示されている(第25話)が、そうなった第一の原因として波動エンジンの不調が考えられる。つまり、エンジントラブルでワープできない日が多かったために航海日程の遅れが生じていたのではないか。そして復路において航海日程の遅れが相変わらず生じ続けていたところを見ると、結局ヤマトのエンジントラブルの問題は地球帰還まで解決できなかったものと考えられる。

(※15)公式設定資料集[GARMILLAS]にあるイスカンダル星の地表図を見ると、イスカンダルの陸地の割合は地球よりも小さいと考えられる。そのため、人間を養うのに必要な耕地や資源採掘地が限られ、必然的に養える人口が少なくなると考えられる。(さらに言えば、狭く貧しい故地を捨てて地中海全域に殖民を行った古代ギリシア人の事例を考えると、古代イスカンダルが帝国を形成した究極の要因をイスカンダル星の土地の乏しさに求める事もできるだろう。)

(※16)ヤマト2199第23話では第二バレラスの波動コア制御室周辺に全く人員が配置されていない描写が出てくるが、この事からガミラスは施設や艦の省力化が非常に進んでいると考えられる。

宇宙戦艦ヤマト2199 公式設定資料集<Garmillas> イスカンダルの地理条件と技術の関連性について述べた後、ヴェルテは簡単なまとめを行った。

 「以上のように、イスカンダルの技術とその産物であるイスカンダル艦はイスカンダル星の地理と自然条件に適合したものだったと考えられている。問題はそうした艦と技術がどのようにして戦場を支配するに至ったかなのだが、それについてはガデル、解説をよろしく頼む」

 再びガデルに講義のバトンが渡された。ガデルはうむ、と返答すると“勃興の時代”のイスカンダルの戦争について話を始めた。

 「勃興期のイスカンダルの艦隊とその戦い方は、当時のアケーリアス人の目にはおそろしく単純で安上がりに見えた事だろう。随伴艦を伴わない、たかだか十数隻のイスカンダル艦が縦横に展開して波動砲を発射するだけだったからだ。しかしその単純な戦い方はアケーリアス軍に対し非常に効果的だった。小規模な横隊戦列を組み動きも緩慢なアケーリアス軍の艦艇を、イスカンダルの波動砲は一気に薙ぎ倒してしまったのだ(※17)。戦いが始まると眷属達の部隊は波動砲の斉射を受けて全滅し、残されたアケーリアス艦もイスカンダル艦に対抗できずに覆滅された。イスカンダル艦は遮蔽装置で隠れたアケーリアス艦の攻撃を耐え切ると、アケーリアス艦の潜む宙域を丸ごと波動砲で掃射したのだ。遮蔽装置を使った戦いはイスカンダル艦には全く通用しなかった。古代の文献の記述から推定される両者の戦いは、以上のようなものだったと考えられている」

(※17)ヤマト2199第18話や23話ににおけるヤマトの波動砲の描写を見る限り、ヤマトの波動砲は物体が波動砲のビームに直接触れない限り物体を破壊できず至近弾が意味を為さないと考えられる。例えば総統府は波動砲が発射された際、大穴が開いて以降はビームに建物が触れなかったためそれ以上の破壊を免れたと考えられる。また、バラン星の基幹艦隊をかすめた波動砲のビームは艦隊を破壊することなくそのままバラン星へと向かっている。一方、ガミラスの波動砲は第23話でデスラーが総統府に突き刺さったヤマトに対し、デスラー砲を「出力を絞って」使用しようとしていた事から、出力と照射範囲を任意に変更できる仕様になっていると考えられる。波動砲の本家本元とも言うべき古代イスカンダルの波動砲は、ガミラスの波動砲と同様に出力と照射範囲を任意に変更できる仕様になっていたと思われる。広範囲を照射する事でイスカンダルの波動砲は敵艦隊を一度に薙ぎ倒す機能を付与されていたと想像できるのではないだろうか。

 「随分とあっさり勝負がついたように聞こえるのだが、本当にアケーリアスは為すすべがなかったのか?」

 ヴェルテの疑問にガデルが答えた。

 「当時のアケーリアス軍は複数の艦種から成る複雑な編成を持ち、陽動や待ち伏せといった複雑な戦術を駆使する事ができた。しかしその軍隊は、結局のところアケーリアス艦を全ての中心にして組み立てられた融通の利かないシステムだった。アケーリアス艦のために眷属の艦が奉仕し、アケーリアス艦が戦いの全てを決定付ける存在となっていたのだ。だからアケーリアス艦が敗れた時点で、アケーリアス軍は敗北するしかなかったのだよ、兄さん」

 ガデルはさらに補足して言った。

 「イスカンダルの波動砲は小規模な横隊戦列を組む眷属やアケーリアス艦に対し絶大な威力を発揮した。これとは対照的に、アケーリアス軍のシステムは波動砲の脅威に対抗できなかった。眷属の中小艦は火力を発揮するために横隊戦列を組めば波動砲で薙ぎ倒され、戦列を解いて散開すれば個々にイスカンダル艦の火砲(※ヤマトのショックカノンのような砲)の餌食となり、アケーリアス艦に敵を誘導する役割を果たせなかった。遮蔽装置が役に立たないアケーリアス艦は遮蔽を解いて自らイスカンダル艦隊に戦いを挑もうにも、彼らはあまりにも図体が大きく鈍重だった。アケーリアス軍のシステムはイスカンダル艦によって完全に破綻してしまったのだ。
 さらに言えば、巨大艦で構成されるアケーリアス艦隊は非常に高コストで、一旦破壊されれば戦力をすぐには再建できなかった。これに対し勃興期のイスカンダル軍はアケーリアスとはあらゆる意味で対照的だった。彼らの艦隊は単一の艦種だけで構成され、それ故に戦い方はただ波動砲を撃つだけの単純なものにしかなり得なかった。だがそれにより部隊の機動性はアケーリアス艦隊に勝り、しかもより低コストで戦力を造成できた。兄さんの言っていたイスカンダルの乏しい人的資源でも、彼らは必要な戦力をより簡単に賄う事ができたのだ。端的に言って、イスカンダル軍のシステムはアケーリアスと戦う上で極めて有効だった。だからこそ彼らはアケーリアスを極めて短期間の内に滅ぼす事ができたんだ」

 「つまりはイスカンダルの簡素なシステムが、アケーリアスの重厚で複雑なシステムを打ち倒したという事なのだな。だがガデル、“融通が利かない”という点ではイスカンダル軍もアケーリアス軍とよく似ているのではないか?波動砲に頼り切っていたというのが事実なら、波動砲が通用しない敵が現れればイスカンダル軍もたちまち負けてしまうのではないか」

 イスカンダル艦によるアケーリアスの敗北と滅亡の話を聞くと、ヴェルテはガデルに質問した。

 「兄さんの疑問はもっともな事だ」

 ガデルが答えた。

 「確かにイスカンダル帝国は、滅亡の時代に波動砲を無力化される事で滅んでいる。だがそこに至るまでにイスカンダル軍は、その姿を時代と共に変化させている。敵対者が波動砲への対策を講じるようになるとイスカンダルもまた、システムを変更する事でそれに対処していたのだ」

 そう言うとガデルはホログラムボードに図を表示し、用兵の観点から見たイスカンダル軍の変遷について話を始めた。最初に、敵対者が採った波動砲への対処策について語っていく。

 「アケーリアスとの戦いで見たように、数百隻程度の艦が横隊戦列を組み撃ち合う戦いでは、波動砲は常に最強の存在たり得た。波動砲の一斉射はそれだけで敵を全滅させる決戦兵器となったのだ。これに対抗するにはどうすれば良いか。答えは簡単だ。横隊戦列を組まずに小グループに散開し、敵の側面に回り込めばいいのだ。
 …この図を見てくれ。青がイスカンダル艦隊、赤が敵方だ。見ての通り、赤の敵軍は囮・本隊・予備の三隊に分かれている。まず、敵軍の囮がイスカンダル艦隊に接近し、イスカンダル艦隊を横隊戦列に展開させる。続いてイスカンダル艦隊の展開を確認後、囮は間合いを取り、同時に敵軍本隊は小グループ毎に散開し側面への機動を開始する。味方が機動する間、敵軍は予備を投入し、囮と共に遠距離からの射撃を続けイスカンダル艦隊を牽制する。本隊が側面へ回り込んだところで敵軍は囮と予備を前進させ正面と側面から射撃を浴びせる。(※図1参照)
  イスカンダル帝国の興亡史 図1

 …以上のような戦い方をイスカンダルの敵対者達は行うようになっていったと考えられている。こうした横隊戦列を組まない、散開した戦い方は何よりも波動砲による瞬時の壊滅を避けるためのものだが、イスカンダル艦のみで構成された初期のイスカンダル軍には効果的だったようだ。勃興の時代にアケーリアスを滅ぼした後、イスカンダル帝国は大マゼランの外へと遠征を繰り返しているが、それらはしばしばイスカンダルの敗退に終わったと伝えられているからだ。重要なのはこの戦術が数の差を前提としている事だ。イスカンダルの敵対者達は殆どの場合、数百隻の戦力でイスカンダル艦十数隻しかいないイスカンダル軍を攻撃していた。常に数で大きく上回るからこそ、囮を使い味方の機動を援護するという、少なくない犠牲が出るがともかくも戦える方策を採る事ができたのだ」

 イスカンダルの敵対者がどのように波動砲に対抗したのかを述べると、ガデルはそれに対するイスカンダル軍の変化について言及を始めた。

 「では、イスカンダルはこうした敵の戦い方の変化にどのように対応したのか。大量生産できないイスカンダル艦では数を揃える事は不可能だった。それに加え、単一の艦種しかない軍隊があまりにも柔軟性を欠く事は明らかだった。敵が戦い方を変えただけでイスカンダルは版図拡大の停滞を余儀なくされてしまったのだ。この問題に対しイスカンダルが出した答えとは、『従属種族の中小艦に自らの艦隊を支援させる』というものだった。つまり、かつて滅ぼしたアケーリアスのような姿へと、イスカンダル軍は自らのシステムを変化させていったのだ」

 ここまで話すとガデルは、再びホログラムボードに図を表示した。イスカンダル艦を表す青色の記号の背後に中小艦を表す記号が多数整列している。ガデルはそれを動かしながら話を続けた。

 「勃興の時代に大マゼランを征服した後、イスカンダルは小マゼランや天の川銀河で半世紀から一世紀もの間断続的な戦争を繰り返している。この“停滞期”の間に変化は進行していったようだ。古代の文献にはこれについて『戦列を組まない相手への対処のため』と述べているものがある。変化が完了し、再び版図の拡大を始めた時代のイスカンダル軍の姿は次のようなものだったとされている。
 まず、通常のイスカンダル軍は十数隻のイスカンダル艦と数百隻の従属種族の中小艦で構成されていた。中小艦の役割は陽動や牽制、掃討であり、敵への決定的な打撃はイスカンダル艦が受け持った。
 次に彼らがどのように戦ったのかを見てみよう。図に示したように、イスカンダル艦部隊のすぐ後ろを中小艦部隊が随伴している。最も基本的な運用では、中小艦部隊はイスカンダル艦が波動砲を発射したあと前進して残敵の掃討に当った。(※図2参照)
  イスカンダル帝国の興亡史 図2
 では、敵が散開して側面に回り込む戦術を採ってきた場合はどうするか。敵の囮と思われる部隊が後退した時点で、イスカンダル側は予備を除く中小艦部隊を側面に展開させる。側面に回り込もうとする敵が中小艦部隊と接触したら、イスカンダル側は予備を自軍の前面に展開させ、遠方から牽制攻撃を続ける敵部隊に応戦させる。前面の部隊が戦う間イスカンダル艦部隊は、自軍側面の敵を波動砲で掃射できる位置に機動し各個撃破を行う。(※図3参照)
  イスカンダル帝国の興亡史 図3
 ここで述べたのは中小艦部隊を防御に使ったケースだが、逆に攻撃的に運用する事もあったようだ。例えば 前進する宙域に敵が兵力不明の戦力を伏せている場合、中小艦部隊を前に出して敵を狩り出す戦術が採られた。中小艦部隊を先に交戦させ、イスカンダル艦部隊が敵側面に回り込み打撃する、或いは待ち伏せを行い敵を誘い込ませる、といった方策を状況に応じ使い分けたのだ。(※図4参照)
  イスカンダル帝国の興亡史 図4
 …以上のように、変化を遂げたイスカンダル軍はそれ以前に比べ、遥かに柔軟に状況に応じた戦いができるようになった。だが、これにはいくつか補足すべき事がある」

 変化したイスカンダル軍とその戦い方について語るとガデルはイスカンダル軍の中小艦の復元画をいくつか表示した。様々な外観をしたそれらを、新たに表示したイスカンダル艦の図像と並べる。六百m級のイスカンダル艦に比べ中小艦は半分以下の大きさしかなかった。イスカンダルに従属した大マゼランの諸種族が使用しただけにその外観は雑多なものであったが、一つの共通点があった。艦首に大型の固定砲が装備されているのである。波動砲でこそないものの、その艦首砲は中小艦が同時に備えていた旋回砲塔の砲よりも大威力である事は明らかだった。ガデルは再び話を始めた。

 「まず、従属種族の中小艦についてだが、中小艦部隊はイスカンダル艦が敵を波動砲で掃射できるように敵と距離を置いて戦う必要があった。そのため彼らはアケーリアスの中小艦と同様に横隊戦列を組んで戦ったとされている。イスカンダル帝国の時代においても、敵味方が艦首を向けて向かい合い、距離を置いて撃ち合う様式に変化は無かったのだ。
 もっとも、敵も同じような戦い方をしていた事には留意しておくべきだろう。古代の艦艇は現代とは異なり、どの種族のものも大威力の艦首砲を装備しているのが一般的だった。(※18)そのため古代の戦いは、戦列を組むにせよ散開するにせよ艦首砲の火力を最大限に生かすため距離を置いて撃ち合い、敵味方の位置がめまぐるしく変わる機動戦は一般的ではなかった。(※図5参照)こうした戦争の状況下では、波動砲は最強の艦首砲であるが故に有用な兵器であり続ける事ができた。実を言えばこれこそが、イスカンダルが波動砲で宇宙の覇者と成り得た最大の理由だったんだ」
  イスカンダル帝国の興亡史 図5

メダルーサ級殲滅型重戦艦 メガルーダ
(※18)ガトランティスのメダルーサ級には「盗掘」した異星文明の大口径ビーム砲が装備されている(「星巡る方舟」パンフレットより)が、古代の戦闘艦艇はこのような巨大な火砲を装備していたのではないかと筆者は想像している。では、「現代の艦艇」であるガミラス艦には何故巨大火砲が装備されていないのか。筆者はこれには歴史的な理由があるのではないかと想定している。詳しくはこの後の文章にて言及を行う。(尚、余談ではあるがメダルーサ級の大口径ビーム砲は正確には発掘品を解析し生産したものであると考えられる。そのように考えると、ガトランティスの科学技術は古代の発掘品の構造をリバースエンジニアリングで解明しガトランティス仕様に仕立て直して生産できるほどの高い水準にあると考えられる。)

 ガデルはイスカンダルの中小艦について語った後、古代アケーリアスからイスカンダル帝国に至る古代大小マゼラン世界の戦いを総括する発言をした。彼がヴェルテに示した古代の戦いの姿は、兵器開発者としてヴェルテが常に想定していた現代の戦い方とはおよそ異なるものだった。機動力よりも火力が重視される戦い。敵味方が入り乱れる乱戦にならず、艦が縦一列に並ぶ縦隊を束ねた縦隊戦列同士が有利な位置を取ろうとドッグファイトを繰り広げる事もない戦い。ヴェルテはガデルに言った。

大ガミラス帝国航宙艦隊 ガミラス艦セット3 「メルトリア級航宙巡洋戦艦&次元潜航艦UX-01」 「アケーリアスやイスカンダルの艦艇の復元画は私もよく見るが、いずれも巨大な砲を装備している。中小艦でさえそうだ。翻って我々は火力の中核になるデストリアやメルトリアに艦首砲を装備させていない。コストがかさむ上にエネルギー消費が大きく、機動性能が落ちるからだ。古代の艦艇は現代と違い、機動力よりも火力を重視しているが、それが波動砲を有用な兵器にしていた究極の要因だったわけか」

 「そういう事だ、兄さん」

 ガデルが答えた。

 「兄さんの言うように、戦いの様態が火力を最重視するものだったからこそ、波動砲とイスカンダル艦は戦場を支配し続ける事ができたんだ。
 しかし、この状況が変わったら波動砲はどうなるだろうか?これがイスカンダル軍の変化について補足すべき第二の事柄となる。今一度イスカンダル軍の変化を思い出して欲しい。システムを変更し一見敵への柔軟な対応力を身に着けたかに見えるイスカンダル軍だが、それでも最終的に波動砲に依存する点で変わらなかった事に注意しなければならない。戦いの様態が変わり自軍の『決戦兵器』が役に立たなくなると、かつてのアケーリアス軍同様、一気に崩壊する危うさをこのシステムは孕んでいたのだ。
 さらに言えば、長期的な視野で見ると、波動砲が衰退し戦場から姿を消すに至る芽は既にこの時に現れていたというべきだろう。かつては波動砲さえあれば容易に勝てたものが、波動砲が有効に機能するために多数の艦艇の支援を必要とするようになっていったからだ。波動砲の運用コストは上昇し、イスカンダル軍のコストも勃興の時代とは比較にならないぐらいに上昇した。戦争の様態が一変した滅亡の時代には、イスカンダル帝国は変化に応じる余力が残されておらず滅亡する事になる。
 火力を重視する戦争が、何故、どのように変わったのか。それをこれから話すのだが、その前に一つ兄さんに聞いておきたい事がある」

 今まで古代の戦争についてヴェルテに長広舌を奮っていたガデルが、急に話題を変えるかのようにヴェルテに質問を投げかけた。

 「滅亡の時代に戦いが変わった要因として二つを挙げる事ができる。一つは低出力系統波動エンジンの完成。もう一つは大マゼラン諸族の反乱だ。二つはイスカンダル帝国の統治と深く関わっていたと聞いているのだが、イスカンダル帝国の統治とはどのようなものだったのだろうか?」

 ガデルの質問に対し、ヴェルテは少しの間考え込んだ。顎の辺りに手をやり考えを巡らせる。多岐に渡るであろうその話題をどのように弟に話すか考えをまとめると、ヴェルテは口を開いた。

 「イスカンダル帝国の統治について語るにはいろいろ言及する必要があるが…そうだな、さしあたっては帝国の社会構造からはじめた方がいいだろう。そこからイスカンダルの波動エネルギーの施策と従属種族の話に繋げて行くことにしよう」

 まずそのように話を切り出すと、ヴェルテは古代イスカンダル帝国の統治の姿について言及した。

 「ではガデル、お前はイスカンダルがどのような帝国だったと古代の史料が記述しているか見た事があるだろう。曰(いわ)く、恐怖の帝国であると――。
 刃向かった数多くの種族を惑星ごと波動砲で滅ぼした古代イスカンダルは、宇宙の覇者としての武勇と共に恐怖のイメージで語られる事が多い。イスカンダルは巨大な帝国を維持するために、各種の方策を講じている。その中で最も有名なものの一つが、“造物主政策”として知られる種族の創造だ。(※19)彼らは反抗した種族の多くを根絶やしにする一方で、自らの忠実な僕(しもべ)となる新しい種族を創造している。(※20)種族の創造そのものは、古代アケーリアスも先史時代に行ったのではないかとも言われている。だが、記録が全く存在しない時代であるために、それを歴史学的に検証するのは困難であるとされる。これに対し、古代イスカンダルが行った造物主政策は、歴史上に記録が残るものとしては、その組織性と規模において史上例を見ないと史書では記述されている。特に帝国時代の中期には、拡大した領土での反乱防止と、兵士の確保の為たびたび行われたようだ。(※21)(※22)
 このように、古代イスカンダル帝国は、力による強圧的な統治がよく伝えられ、その支配を特徴付けると言われている。そうなった理由としては、当時のイスカンダル人の人口の少なさを指摘する説が一般的だ。被征服民に数で圧倒的に劣る彼らは、その反乱を恐れ、それへの対抗として軍の強化と恐怖支配を徹底するようになったと言うのだ。乏しい人口は、イスカンダルの技術だけではなく統治の性格をも決定付けたと言われているんだ。(※23)」

(※19)ヤマト2199劇中の描写や資料から、筆者は「ひょっとしたらガミラス人はイスカンダル人に創造されたのではないか」という想像をしている。(※詳しくは『宇宙戦艦ヤマト2199』 ガミラス考察補論集1 イスカンダルの王権とデスラーの人物像について の『1-1.ガミラスにおけるイスカンダル崇拝と古代の両者の関係』を参照の事)
 上記記事での論考に加え、いくつかの劇中描写と資料から、筆者はこの文章において「古代イスカンダル帝国もアケーリアスのように種族の創造を行ったのではないか」という想定を行った。

(※20)「古代イスカンダルは戦争で種族を滅ぼす一方、新たな僕となる種族を創造していた」と筆者が想像しているのは作品世界において次のような描写があるからでもある。
  • 作品世界でクローン人間をはじめとするヒューマノイドの製造が大々的に行われている事。例えばガミラスでは、親衛隊将兵の多くがクローン人間となっている。(※公式設定資料集[GARMILLAS] P.181より。)映画「星巡る方舟」においても、アケーリアスが宇宙の各地でヒューマノイドを創造した事が示唆されている。そうした世界であれば、忠実な僕を作る目的で種族の創造を行う者がいくつもいてもおかしくないのではないだろうか。
  • 波動砲による種族の抹殺が行われている事。ヤマト2199第24話においてイスカンダル帝国が波動砲で惑星を破壊するシーンが出てくるが、「大マゼランを血で染め上げた」程の破壊が波動砲により行われたのであれば、その後税や貢納を取り立てる種族はどこから調達したのか。征服以外にも惑星の再生と種族の“作り直し”が行われたと想像することができるのではないだろうか。
  • 人身御供が必要なコスモリバースの存在。そもそも何故コスモリバースシステムは開発され、「人身御供が必要」という仕様は改良されなかったのか(ガミラスが冥王星に多数設置していた無人環境改造プラントは人の犠牲を必要としない)。コスモリバースは元々帝国時代に次のように使われていたのではないか。「惑星と種族を滅ぼした後、予め捕らえておいた捕虜を人身御供にしてコスモリバースを稼動させる。それにより再生された惑星に新しい種族を創り住まわせる――。」このように考えれば、イスカンダルがコスモリバースを改良する必要を感じなかった理由を説明できるのではないだろうか。
  • ガミラスとイスカンダルの主従関係。劇中の描写を見る限り、ガミラスとイスカンダルは同じ親から生まれた兄弟というよりも主人と奴僕の関係に見える。もし太古のガミラスがイスカンダルから征服と支配を受けたのであれば、何故ガミラスはイスカンダルの帝国が滅んだと思しき時代になってもイスカンダルの為にワープゲートの管理のような労役に従事していたのか。(※ヤマト2199第18話の描写より。)ガミラスにとって、イスカンダルは自らの造物主であり文明を授けた恩恵者であったから、とでも考えないと説明しづらいのではないだろうか。(このように考えれば、ヤマト2199第18話においてデスラーが述べた「太古の昔に分かれた(ガミラスとイスカンダルという)二つの民族」という文言は、「我々はイスカンダルから“分岐する”という形で創造された」というガミラス特有の修辞的表現と解釈することも可能だろう。)

(※21)「宇宙で初めてあまねく種族を創った」と思しき古代アケーリアスの種族の創造は、ヴェルテ達にとって歴史学として検証不可能な程古い出来事であると考えられる。その手法も、「生物の進化に手を加える」という遠大なものであり、数十万年という時間を要したと思われる。(その為、アケーリアス文明は数十万年というスパンで存続したと想像できる。)
 これに対し、古代イスカンダルの造物主政策は、追放と強制移住により人工的なコミュニティーを多数作った古代アッシリア大量捕囚政策をモチーフとしている。軍役や労役を課すための種族を創造し育成するこの政策は、次のようなプロセスで行われたと筆者は想定している。
  • 最初に人工的に生成したヒューマノイドを数十万人という単位で惑星に移住させる。
  • 人口の急激な増大を促進する為の技術供与(医療・食料・居住地域の拡大)を行い、惑星居住者が数百万人から数千万人の規模まで増えるように促す。(※地球における人口爆発が主に発展途上国で起きていることを考えると、イスカンダルは創造した種族の文明レベルを人口が増えるまで意図的に“低く”保つ事も行ったと考えられる。)
  • 人口がある程度増えたところで中小艦や兵器を生産させる為の波動エネルギー等の技術供与を行う。

(※22)映画「星巡る方舟」のクライマックスにおいて、ジレル人のレーレライはその場にいた地球人とガミラス人に「同じアケーリアスの遺伝子を持つ、銀河の同胞よ」と呼びかけ、シャンブロウを発動させている。あくまで筆者の想像ではあるが、アケーリアスにとっては自らが創った種族も、その種族が創った人間達も、等しく「銀河の同胞」と捉えるのではないだろうか。

(※23)歴史上、支配者側が人口の少なさゆえに恐怖支配を徹底するようになった事例の一つに古代スパルタを挙げることができる。スパルタは十八歳以上の成年男子で構成されるスパルタ市民(人口八千~一万人)がヘイロタイと呼ばれる被征服民(人口約十五万人とも二十五万人ともいわれる)を支配していた。スパルタ市民は数で圧倒的に勝るヘイロタイの反乱に備え市民皆兵主義を導入し、日頃から厳しく軍事訓練を行ったとされる(Wikipedia「スパルタ」の記事より)。またスパルタはヘイロタイに対しクリュプテイア(軍事教練の一環として若年スパルタ人が夜にヘイロタイ達を襲い殺害する行事)に代表される恐怖支配を徹底して行った事でも知られている。
 また古代に限らず現代においても、シリアのアサド政権(少数のアラウィー派が多数のスンニ派を支配)やイラクのフセイン政権(少数のスンニ派が多数のシーア派を支配)のように社会的少数者が恐怖政治や強権政治を行う例は数多い。

 ここまで言うとヴェルテは、ガデルが表示していたイスカンダル軍の中小艦の復元画の方に視線を移した。

 「…具体的な面から見てみよう。ガデル、お前の表示したイスカンダルの中小艦は外見がまちまちになっているな。作戦行動をとるため性能は規格化されていたと言われるが、我々が征服地で生産している艦艇と違い、形状は全く統一されていない。これは生産工程、ひいては生産施設の運営自体をイスカンダル人が掌握していなかったために生じたとされているんだ。絶対数が少ない彼らは、帝国を維持できるだけの軍隊や兵器を全て自分達のみで賄う事はできなかった。史書によればイスカンダルは、従属種族に軍役を課して中小艦を生産させたとされる。
 だがこれは言うまでも無く危険な状態だ。従属種族はその気になればいつでも艦隊を設(しつら)えて反乱を起こせるからだ。現代の我々の場合、特に宇宙の工業施設は全て支配者たる一等臣民と名誉臣民が掌握している。そして被征服民に軍役を課して兵員や兵器を徴集していない。(※24)信頼性に欠ける上に反乱の温床になりかねないからだ。我々と正反対の施策を採らざるを得なかったイスカンダルは、したがって実際に度々、被征服民との戦争に見舞われる事になった」

(※24)劇中の描写を見ると、例えば地球を攻撃したザルツ人部隊は純血ガミラス人が使用しているのと全く同じ装備を使用している。また、劇中に出てくる二等臣民の部隊は(ヴァルケ・シュルツの例のように)規模が旅団程度に留まり、22話でフラーケン達がガミラス軍の人員不足について会話している事から部隊数も多くなかったと考えられる。この事はデスラー復権以前のガミラスでは征服地での兵の徴集は行われていなかった(希望者のみが義勇兵となる)ことを示唆している。

 艦艇史や技術史の観点からイスカンダル帝国の造艦に軽く言及した後、ヴェルテは反乱という次元を超える大規模な戦争(※25)がイスカンダル帝国内で何度も起きていた事を述べた。かつてヤマトがイスカンダル星に辿り着いた際、スターシャ・イスカンダル女王がヤマトの乗員にいみじくも語ったように、イスカンダル帝国は勃興から滅亡に至るまでの間、幾たびも「大マゼランを血で染め上げた」のである。ヴェルテは話を続ける。

(※25)例えば、古代ローマで言えば同盟市戦争に相当する内乱をイメージして頂ければ良いだろう。

 「これに対してイスカンダルはどのような施策を行い、また行い得たのか。
 人口の乏しいイスカンダル人は基本的に征服地の社会に干渉せず、貢納だけを要求したとされる。帰順した者は貢納と引き換えに帝国の保護を受け、自らの文化や社会の保持を許されるというやり方を採ったのだ。だが、その方策だけでは帝国を長期にわたり維持する事は不可能だっただろう。単純にそうするだけでは、従属種族達は帝国の支配が揺らぎでもすれば忽ち独立を求めて立ち上がるからだ。(※26)
 征服地の支配機構に手を付けず有力者の地位を保証し、時に帝国の位を与え登用するという施策も行われたとされるが、史実を見る限りそれでも諸種族の忠誠を繋ぎとめるには不十分だったようだ。(※27)
 イスカンダルのこうした事例を考えれば、帝国の支配を永続させるには人々が帝国に属する事で物質的な利益を得られ、なおかつ人々が帝国と言う一つの共同体の仲間であると意識するという、二つの条件を満たす必要があるだろう。我々の帝国は、正にそのような考えに基づき同化政策を推進している。征服地の人間にガミラスの製品を与え、ガミラスの生活様式を普及させる事で帝国を一つの共同体にしようとしているんだ」

(※26)近代以前に地球に存在した帝国はその多くが「征服地の社会に干渉せず貢納だけを要求する」統治を行っているが、その支配が揺らぐやたちまち支配下の諸グループが離反した事例は数多い。例えばセレウコス朝の場合、中核地域とされたシリア以外の東方領土はセレウコス朝成立後わずか五十年程で離反している。

(※27)征服地の有力者に官職を与える統治手法として有名なものに唐の羈縻(きび)政策がある。唐は服属した周辺民族の族長らをそのまま地方の行政機構(都督府・州・県)の長官に任命し、都護府がその長官達を監督した。しかしこの仕組みは周辺諸民族が独立の気運を高めるとあっけなく瓦解した。例えば突厥は七世紀半ばに唐に服属すると部族長達が都督府の長官である都督や州の長官である刺史に任命され、唐朝の官僚を都護とする燕然都護府の統制下に置かれたが、七世紀末に独立し突厥第二帝国を樹立している。

 「兄さんがやっている同化政策は、歴史に学んだものだったのか」

 イスカンダルの統治について語っていたヴェルテが、比較の対象としてガミラスの統治に触れたところでガデルが兄に尋ねた。ガデルにとって、兄が主体となって行っている同化政策の思想的背景を聞くのは初めてのことだったのである。今まで軍政について兄といろいろ語り合ってきたが、内政については基本的に関わる事無く深い知識も持たなかったガデルには、兄の語るガミラスの統治の話は新鮮な驚きであった。その弟に、ヴェルテは次のように答えた。

 「それだけではないが、過去の帝国の事例を参考にしているのは確かだ。ついでに言えば、人々に物質的な利益を与えるという点では、私はアケーリアス文明が参考になるのではと思っている。アケーリアスは太古の昔から現代に至るまで全ての文明の源と称えられているが、それはアケーリアスが巨大建造物の建設などで諸惑星に確かな恩恵を与えてきたからだ。そしてその建造物のいくつかはワープゲートを代表として今でも人々に利便性を与え続けている。我々も、そのような国造りを目指すべきだろう」

 ヴェルテの言葉には、単に実務家であるに留まらない、理想家としての彼の一面が現れていた。実のところ、ガミラスの同化政策とはいくつもの思惑が交錯する複雑な経緯を経て生み出された政策であった。征服地の同化を通して自らを支える忠臣を獲得したいデスラーと、純血ガミラス人を含む臣民の懐柔を目指す官僚団、そして征服地からの富により軍事力の増強を図る軍部。その全ての要望を満たす策として、各地に送り込んだ純血ガミラス人移民に事業を行わせる事は妙案と言えた。

 ――事業により移民達は富を得て、被征服民は財とサービスを与えられ、帝国政府に懐柔される。事業による生産の拡大は軍備拡充に直接に結びつき、さらにはガミラスの生活様式の普及を後押しする。結果として、共通の文化圏・共同体が誕生し帝国に帰属意識と忠誠心を持つ臣民が完成する。

 ガミラスが大小マゼラン征服に乗り出した当時、新進気鋭のテクノクラートだったヴェルテは、こうしたガミラスの同化政策の構想を纏め上げるのに大きな役割を果たしたのだった。(※28)

 遠大な構想と言うべき同化政策をヴェルテが纏め上げ得た背景には、彼の「ただ収奪するだけでは支配の永続は不可能」という、ごく現実的な判断と共に「被征服民に恩寵を施す事でその怨嗟を解消し、征服者と被征服民の融和を図る」という理想主義的な考えがあった。彼はガミラスの同化政策を、融和政策と位置付けていたのである。あくまで支配者側の一方的な考えであり、種族固有の文化の抹消にもつながる考えであったが、こと「帝国の支配を完成させる」という一点において、ヴェルテは一般的な純血ガミラス人とは少々異なる思想的立場にいた。(※29)

 もっとも、ヴェルテが理想主義的な考えを持ち得た要因として、アケーリアスのような過去の文明に憧憬の念を抱いていたという側面も否定する事はできないだろう。哲学と歴史を好む文人たる彼にとって、過去の歴史に範を求める発想はごく自然な事であった。(※30)

 軍人として「勝利か、死か」という無骨な世界に生きてきたガデルは、兄のそうした一面を自分には無いものと思っていたし、洗練された尊敬すべき美点であるとも思っていたのだった。

(※28)ヴェルテ・タランの同化政策の内容は第2節を参照の事。

(※29)ただし、ヴェルテは被征服民の政治的登用に関しては他の純血ガミラス人同様消極的であり、その態度が変わったのはデスラーがガミラスに復権して以降の事であった。詳しくは第2節を参照の事。

(※30)その意味でヴェルテ・タランは、ローマをはじめとする古代文明を理想、或いは模範とした大勢の地球人とよく似たメンタリティを確かに有していた。

超合金魂 「…イスカンダルの話に戻ろう」

 ヴェルテは再びイスカンダル帝国の統治について話し始めた。

 「帝国を形成して以来、我々は、おそらくはアケーリアスもだが、人々の忠誠を得るために物質的な恩恵を与える政策を実施している。しかし、これをやるには一つの条件がある。支配する側に一定以上の人的資源がある事だ。建造物の建設や物品の製造とは、優れて人間的な営みだ。それらを考え出し、生み出すには多くの人手を必要とする。まして、生活様式、言ってしまえば文化は、人の営みそのものである為に多くの人間の活動がなければ広まらない。一人や二人の傑出した人間がいるだけではどうにもならないのだよ。
 アケーリアスに文明を広め、人々に恩恵を施すだけの人的資源があった事は、(大小マゼラン)各地に残るアケーリアスの巨大建造物が証明している。これに対し、人口の乏しいイスカンダルはどうだったか。私の知る限り、イスカンダル帝国が建造したとされるものは大マゼランにおいてさえ殆ど見つかっていない。発掘される遺物の量もアケーリアス時代と比べ遥かに少ないんだ。つまり、イスカンダルは征服した者達に物質的な恩恵を殆ど何も与えられなかったと言う事だ。諸種族の上に君臨はしても、生産活動と軍隊のかなりの部分を彼らに委ねなければならなかったイスカンダルは、本質的に収奪するだけの存在にしかなり得なかった。
 人心を得る最大の手段を使えないのであれば、後は強圧的な手段で支配する他無い。貢納や軍役に不満を抱き、反抗する軍事力まで有する従属種族達への恐怖から、イスカンダル帝国はいかなる反抗も粉砕できる強大な武力と、反抗した者は絶滅させるという恐怖で以って星々を治めるようになったと言われる。これが歴史学で一般的に語られる、イスカンダル帝国の統治の姿なんだ」

 イスカンダルの統治に関するヴェルテの解説は、人口と言う要素が一つの国の社会や歴史に重大な違いをもたらすというものだった。アケーリアスとイスカンダルという二つの古代国家の相違。もし地球の知識人がヴェルテの話を聞いたなら、その人物はアテナイとスパルタ、ローマとカルタゴの相違を語る地球の歴史家達を脳裏に思い浮かべたことだろう。(※31)

(※31)人口の多寡がもたらした社会の相違に関して、アテナイとスパルタ、ローマとカルタゴのそれぞれには史書に次のような記述がある。

――アテナイとスパルタは全く異なった方法で、農業が戦争形態に押し付ける物質的、財政的、倫理的な制約を解消した。スパルタは隣国メッセニアの全住民を奴隷化した。どの都市国家も――テッサリアの封建制、あるいはクレタ島の孤立した都市でも――これほどの規模の奴隷化を実行したことはなかった。しかし、スパルタはこれでそのエネルギーを農耕にではなく、無料の食料を確保するための軍事トレーニングにむけることになったのである。アテナイも紀元前五世紀には海軍力に目を向けるようになった。やがて海外の属国から貢納を集めることで、穀物の収穫期と戦闘期間を一致させる必要がなくなった。アッティカ地方の農民が総力戦という新ブランドの戦争のための課税に応じようとしなくても、あるいはできなくても、アテナイとスパルタは同盟国を脅すだけで資金が調達できた。紀元前五世紀のアテナイはしばしばアッティカ地方から全面的に撤退して、住民の安全を守った。その間、艦隊は無傷でパトロールを続けたのである。
 こうしてアテナイとスパルタはポリスの経済的、軍事的制約から自らを解放したとはいえ、この二国の実情は全く異なっていた。アテナイは交易に熱心で、多数の外国人住民をかかえ、紀元前五世紀には海軍と見事に要塞化された都市や港湾を擁する国家へと発展した。アテナイはおそらくギリシアで最初の急進的な民主制国家だった。土地を持たない自由民にも選挙権を拡大したのである。また、アッティカ地方は当時のギリシアの基準から見れば人口――おそらく二十五万から三十万人――は多く、豊かだった。海運、鉱山収入、二十万エーカー以上の耕地があったのである。土地を持たない人々への選挙権の拡大で、政治に参画する市民の人口は二倍になり、かなりの規模の海軍の漕手が確保できるようになった。これが、その後の海外領土拡大と強化の原動力になった。
 (中略)
 これとは対照的に、スパルタは偏狭で孤立していた。海軍は小規模で、城壁もなく、貨幣経済とは全く無縁で、ラコニアの聖域に異邦人を歓迎するつもりなど全くなかった。その保守主義はアテナイの自由と同じくらい伝説的だった。年齢と階級による厳格な連隊編成は、人口が少ない――貧弱な人口はスパルタ人の呪詛の種だった――ことを意味していた。スパルタが一万以上の市民戦士を動員することはめったにない。アテナイとは違い、スパルタの戦略は単純だった。農奴(へロット)を抑圧せよ、ペロポネソス半島を北方人から守れ、できるだけ寡頭体制を支えよ、である。
(ヴィクター・デイヴィス・ハンセン「図説 古代ギリシアの戦い」 東洋書林 P.91~P.93)


――前264年、シキリア北端の都市メッサナへの干渉をめぐり、ついに両国は開戦した。第一次ポエニ戦争(前264~241)である。
 この戦争は本質的に、ローマの人口と陸軍、カルタゴの経済力と海軍の戦いであった。ローマは、市民権制度を堅固な柱とした天才的な統治および植民政策、そして同盟政策(「分割せよ、しかして統治せよ」)によってイタリア全域に培ってきた約三百万もの人口を抱え、膨大な兵力の重装市民軍の動員が可能であった。この軍隊は市民意識に支えられた高度な規律と士気を誇っていたが、基本的にはアマチュアの指揮官=選挙で任命された政治家に率いられるアマチュアの軍隊であり、練度も技量も決して高くはなかった。また当時のローマ人は海を知らず、開戦当初にはごくごく小規模の警備艦隊を持つのみであった。
 対するカルタゴの国制は、ローマのそれとは似ても似つかぬもので、あえて比べるならば、かつての第一回アテナイ海上同盟(デロス同盟)と軌を一にするものであった。カルタゴ市民権を持つ者の数は、せいぜい数十万でしかなかった。この数十万人が、野蛮に浮かぶ文明の砦として、内陸の原住民と各地の殖民都市を支配していたのである。ローマと同様、カルタゴの最高意思決定機関も元老院であったが、議員たちは富裕な商人貴族であった。人口が小であり、また貿易国家として長期戦が好まれなかったことから、カルタゴにはギリシアやローマのような市民軍制度はなく、貯えられた富を守るのはプロフェッショナルの傭兵部隊の仕事であった。これらの部隊を率いるのは同様にプロフェッショナルの将軍たちであったが、元老院の商人たちは決して彼らを信用しなかった。戦地より帰還した将軍たちは、元老院の百人委員会に詳細な報告を提出することを義務付けられ、敗北した者は、ほとんどの場合、召還され処刑された。将軍の誰かが華々しい戦功を挙げ、民衆の人気を集め、いずれは独裁者になることこそが、元老院の最大の悪夢であった。必ずしも安定しない体制防衛の必要から、外征したカルタゴ軍は優位な状況下でしばしば攻勢の中止を命ぜられ、軍事的な好機を逃すことも珍しくなかった。
 しかし、カルタゴの軍事力の真の中心は陸軍ではなく、戦闘艦数百隻を擁する海軍であった。熟達した海の民であるカルタゴ人は、紀元前五世紀、ジブラルタルを出てアフリカ大陸を周航する探検隊を送り出し、少なくとも西サハラ、後世のもっとも大胆な解釈ではギニア湾にまで達せしめていた。
(有坂純 「世界戦史 歴史を動かした七つの戦い」 学研M文庫 P.99~P.101)


 一人二人の天才だけでは文化は発展せず普及もしない、という文化論にも及ぶヴェルテの解説をガデルはじっくりと聴いた上で感想を述べた。

 「用兵の世界では、手持ちの兵、即ち人の数によって採り得る策がまるで変わってくる。統治も同じと言う事なのか、兄さん」

 これに対しヴェルテは次のように答えた。

 「人の数というのは確かに一国の社会に重大な影響を及ぼし得る。だが、統治の性格は他の要因で決まる事も多いんだ。ここで述べたのは、あくまでイスカンダルの場合は人口が大きな要因になったのではないか、という事だ。そこには注意しておいてくれ、ガデル。…では次に、イスカンダル帝国での波動エネルギーの施策について話を進めよう。諸種族を心服させる事ができず、強圧的に支配せざるを得なかったイスカンダルが、波動エネルギーで何を行ったのか」

 そのように言うと、続いてヴェルテはイスカンダル帝国の波動エネルギーの施策について言及を始めた。

大ガミラス帝国航宙艦隊 ガミラス艦セット4 ハイゼラード級航宙戦艦&デラメヤ級強襲揚陸艦 「ガデル、お前はイスカンダル艦に随伴した中小艦がどのような性能だったかよく知っているだろう。機動性能はイスカンダル艦同様そこそこ、火力は艦首砲を備え現代のハイゼラード(級航宙戦艦)より優秀、しかし防御は簡易シールドのみで低劣、といったものだった。建造コストは諸説あるがハイゼラードよりずっと上だったと言われている。
 イスカンダル艦に有効な支援を行う必要上、中小艦には波動エンジンが搭載されたとされる。イスカンダルは従属種族達に技術供与を行い、中小艦と共に波動エンジンをも生産させていたのだ。しかし、従属種族の反抗を防ぐ為、このエンジンにはいくつもの制約が設けられていた。まず、イスカンダルは従属種族達に波動コアの製造法を決して教えなかった。イスカンダルは彼らに、必要な数のみ波動コアを与えるようにしていたんだ。
(※32)そして、与えられた波動コアはイスカンダル自身が使用していたもの(※高出力系統波動コア)に比べ低品位のものだった。出力が低く、波動砲の装備はできない。必要最低限のスペック、それでもアケーリアスの中小艦より高性能だったとされるが、そういうものしか発揮できないようになっていた。しかも、イスカンダル製の機械の常として、信頼性も低い。全くの劣化品とも言うべきコアとエンジンだったわけだ。だが、実はこの従属種族達のエンジン。これこそが、現代の低出力系統波動エンジンの原型となったものなんだ」

(※32)ヤマト2199劇中において、地球に技術供与したイスカンダルは波動エンジンの製造法を教えたものの波動コアの製造法は教えなかった。これは地球人による波動エネルギー技術の盗用と悪用を防ぐための措置であったと考えられるが、同時にイスカンダルが帝国時代の昔から行ってきた歴史的手法ではないかとも考えられる。(余談ではあるが、イスカンダルが地球に与えた波動コアはイスカンダルの基準では中品位のものではないかと考えられる。ヤマトに使用されたこの波動コアは、確かにガミラス艦の波動コアを上回る出力を発揮しているが、古代イスカンダルの戦艦に匹敵するほど強力なものをイスカンダルがわざわざ地球に与えるとは考えにくいからである。)

 イスカンダルが歴史的に使用してきた高出力系統波動エンジンと、ガミラスや他の大小マゼラン諸族が現代において使用している低出力系統波動エンジン。二つのエンジンが、古代イスカンダル帝国の波動エネルギー政策に起源を持つことをヴェルテは述べた。高出力だが故障が多く大量生産が困難な高出力系統に対し、現代型の低出力系統のエンジンがどのように生み出されたのか。ヴェルテはその過程について話を進めた。

 「イスカンダルの支配を受ける従属種族達は、当然、あるいは必然と言うべきか、波動エンジンの自主開発に乗り出した。まず、波動コアをどのようにして製造するか。そこが最大の問題だった。何しろ原理も製造方法も分からないのだ。イスカンダルから与えられた低品位のコアを元に密かに研究が続けられたが、開発は困難を極めた。ただ模造品を作るだけで一説には百年以上を費やしたとも言われている。
 そうして創られた低品位のコアを元に、更に二つの方向で研究が進められた。一つはイスカンダル艦と同等の高出力波動コアを創る事。もう一つは低品位のコアを実用的なものに改良する事だ。つまり、故障が少なく大量生産できるものにするという方向だ。彼らは超高性能のエンジンだけではなく、中小艦を上回る優良な量産エンジンをも作ろうとしたのだ。
 前者の試みは、結局うまくいかなかったようだ。理由は高出力系統波動コア自体が抱えていた問題に帰せられる。一般に波動コアは、高密度――専門用語を使わずにそう言うが、高密度になるほどコンパクト化し高出力となる。(※33)高出力系統と低出力系統の違いとは、一言で言えばコアの密度の違いなのだが、高出力系統は高密度であるが故に安定化させるのが難しい。だからこそ大量生産が困難で完成品も故障が多かったのだ。イスカンダルはこの問題に目をつぶったままイスカンダル艦に使用していた。
 一方、従属種族達は波動コアを高密度かつ安定的なものにしようとしたが、これが大きな失敗だった。イスカンダルでさえ解決できなかった事を、元々波動コアの製造ノウハウが未発達の従属種族達が成功できる見込みはなかったのだ。結局、彼らの試みは満足いく成果を得られないまま、後者の試みの成功、即ち低出力系統波動エンジンの完成を迎える事になった。
 後者の試み、低品位コアの実用的な改良は、コアの高出力化に比べれば遥かに難易度は低かった。しかし、それでも低出力系統波動エンジンの完成までに百年から二百年もの時間を要したとされる。理由はエンジニアリングの本質に関わるものだ。
 一般に、機械を生産しやすく故障しないものに改良するにはありとあらゆるものを改善する必要がある。製造設備、生産ノウハウ、材料の選定に製品の評価。これら全ての改善は一朝一夕にはいかない。時間をかけて積み上げるしかないんだ。まして、従属種族はイスカンダルの目を警戒しつつゼロからそれを行っていかなければならなかった。だからこそ何百年もの時間を要したのだ。しかし、その結果生まれたエンジンは現代に通じるものだった。即ち、出力こそ低いが故障が殆ど無く、大量生産も可能という、現代の我々のものと同じ種類のエンジンが誕生したんだ。こうして、イスカンダル帝国が滅びる滅亡の時代には、従属種族達は低出力系統波動エンジンを量産できるようになっていた。
 一方、波動エンジンを密かに作ろうとした従属種族達の動きにイスカンダル帝国はどう対応したのか。当初、イスカンダル帝国は波動コアの研究自体を厳しく禁じていたとされる。禁を犯したものは滅ぼすという態度で挑んでいたんだ。しかし、帝国時代も後期になる頃には態度を軟化させ、低品位のコアに限り軍事目的以外での製造と使用を認めるようになったという。そうなった理由として様々な説が唱えられているが、ともかくそのような経緯を経て現代の低出力系統波動エンジンは広まっていったと考えられている」

(※33)現実に存在する「高性能になるほど原理的にコンパクト化できる」機器の一例として、大型加速器に使用されるクライストロンが挙げられる。クライストロンとは真空管の一種であり、電力の増幅に使用する高周波の波長が短いほど大電力を取り出すことができ、機器をコンパクト化できる。その反面、要求される工作精度等の技術的難易度は大きくなる。

 「兄さん、一ついいだろうか」

 ヴェルテによる波動エンジンの歴史の解説が一段落すると、ガデルが兄に尋ねた。何だというヴェルテにガデルは一つの質問をした。

 「イスカンダル帝国は支配した種族に波動エンジンの技術供与を行ったとの事だが、それは被征服民に恩恵を与えたという事にはならなかったのか?波動エンジンを(被征服民が)勝手に作り出した後期の時代はともかく、彼らに民生用にいくらか波動コアを与えてやれば懐柔できたように思えたのだが、どうだったんだ?」

 ヴェルテは少し考えを巡らせると、弟の質問に答えた。

 「…史実を見る限り、波動エンジンの技術供与は従属種族達の懐柔にはならなかったようだ。イスカンダル帝国は、その存続期間を通じて数多くの反乱が起きている。中でも滅亡の時代以前に起きた三つの大反乱は特に大規模なもので、多くの種族が反乱に加わりイスカンダルの心胆を寒からしめたと言われている。(※34)歴史書においても、イスカンダルが諸種族に波動エネルギーの恩恵を与えたとするものはいくつかの例外を除き殆ど無いんだ。その理由は…そうだな、大抵次のように説明されている。
 まず一つ、イスカンダル人の乏しい人的資源と生産力では大量の波動コアを作り与える事はできなかった。イスカンダルの低品位コアは高出力系統ほどではないにせよ製造に手間がかかり、大量生産が難しかった。そのため、波動コアは軍事用に供給するのが精一杯で民生用には殆ど供給されなかった。諸種族に恩恵を与えたとはっきり自覚してもらうには大量のコアの供与が必要だったろうが、それはそもそも無理な相談だったんだ。
 そして二つ目、波動エネルギーそのものは中小艦を建造する従属種族達にとってさほど魅力的ではなかった。当時の彼らの多くがアケーリアス由来の空間跳躍技術を既に持っており、交易船や食料プラント(※ヤマトに装備されたオムシスに相当する設備)といった民生の用途にそれを使用していた。彼らは軍事目的以外で波動エネルギーに大きな価値があるとは思わなかったようだ。実のところ、波動エネルギーの民生分野での利用と普及は、(イスカンダル)帝国以後の時代まで待たねばならなかったんだ。
 そして最後に三つ目。これが特に大きかったようだが、技術供与して作らせた中小艦の負担が非常に重かった。従属種族達からすれば、イスカンダルは自分達から収奪する為に技術を教えたと映っただろう。これについては後で詳しく話そう」

(※34)このイスカンダル帝国で起きた三つの大反乱は古代ギリシアのスパルタで起きた被征服民(ヘイロタイ)の反乱であるメッセニア戦争を元にしている。

 ガデルが腕組みをして考え込むように聞く中、ヴェルテは次の話題、イスカンダル帝国における従属種族について話を始めた。

 「では、次にイスカンダル帝国と従属種族の関係について話を進めよう。滅亡の時代へと至るまでにイスカンダルと支配下の諸種族との間に何があったのか。
 イスカンダル帝国は、先史時代から続いたアケーリアス文明よりも遥かに短命だったとはいえ、それでもかなりの長期にわたり大マゼランを支配している。その間、多くの種族が反乱を起こし滅ぼされる事となった。その多くはアケーリアスに縁(ゆかり)のある種族であり、イスカンダルは彼らを滅ぼした後に代わりとなる種族を創造している。そのため帝国が滅びる頃には大マゼランの種族のかなりの部分が入れ替わっていたと言われている。(※35)何故多くの反乱が起きたのか。それは多分に軍役の負担の重さや従属種族の地位の低さが原因であろうとされている。それぞれについてみていこう。
ゼルグート級一等航宙戦闘艦ドメラーズIII世 まず、従属種族達の軍役の負担がどれ程のものであったかを考えるのに、丁度イスカンダル軍のコストを試算した研究がある。これは兵器開発局で行われたものだが、主にイスカンダル軍の艦艇を我々が生産すればどうなるかという観点から生産コストを推定している。それによれば、イスカンダル艦はゼルグート(級航宙戦闘艦)を多少下回る大きさに、それを遥かに上回る火力と防御力を持つ事から、ゼルグートのおよそ二倍のコストを要するとしている。中小艦の場合は、メルトリア(級巡洋戦艦)程度の大きさにハイゼラード(級航宙戦艦)を上回る火力、技術的に未成熟な高コストの波動エンジンを搭載する事を考慮して、ハイゼラードの倍近いコストであろうと試算している。
 このように、イスカンダルの艦艇は非常に高コストだったと考えられているが、イスカンダル軍は史書によれば、最も版図を拡大した後期の時代には三百隻程度のイスカンダル艦と一万隻の中小艦を有していたと言われている。これだけの艦隊を造成するには、単純に考えても今現在大軍拡を行っている我々の艦隊のそれに匹敵するコストを要しただろう。現代の我々は艦艇生産を支配する側が行い、コストも負担しているが、イスカンダルはそれとは逆だった。被征服民は艦艇の生産を課せられ、その巨大なコストをも負担させられたんだ。
 こうした苛斂誅求に加え、従属種族達は軍中においても粗末な扱いしか受けられなかった。彼らの中小艦は戦うための有用な捨て駒であり、その低い地位は呼び名にも現れていた。イスカンダルは彼らを“下僕(しもべ)”と呼んでいたんだ。それは同じ従属種族を“眷属”、“同胞(はらから)”と称したアケーリアスとは対照的だった。
 以上のような重い軍役負担と冷遇ぶりから、多くの種族が帝国時代を通じて反乱を起こす事になったと言われている」

(※35)ヤマト2199のジレル人はイスカンダルに滅ぼされたアケーリアス由来の種族達の数少ない生き残りであると考えられる。映画「星巡る方舟」ではどの種族もアケーリアスの遺伝子を継ぐ同根であると示唆されているにもかかわらず、なぜアケーリアス文明を受け継いでいるのはジレル人だけなのか。それはイスカンダルによる大殺戮と種族の入れ替えがあったためと考える事ができるのではないだろうか。

 ヴェルテが従属種族についての話で最初に示したのは、巨大な軍事国家としてのイスカンダル帝国の姿だった。諸種族の反乱への恐怖が巨大な軍隊を生み、その負担が多くの反乱を引き起こし、それが更なる軍隊の拡大へと連鎖する。その結果としての宇宙の覇者か――。ガデルはそのように思いながら兄の解説を聞いていた。ヴェルテは話を続ける。

 「では、これ程反乱に見舞われながら、何故イスカンダル帝国は長期にわたって存続できたのか。一つにはやはり、彼らの統治が巧みだった事を挙げねばならないだろう。反乱の発生は押さえられなくても、それへの対応には優れていたんだ。彼らは反抗した者を根絶やしにする恐怖を見せつける一方、従属種族の文化や言語、宗教や政治体制に関する情報を詳細に収集し、それに基づく飴と鞭を使い分ける対応を採ったとされている。その意味では彼らは、決して無能な統治者ではなかったんだ。
 そしてもう一つの理由として、帝国末期を除き反乱を起こした種族達は決して一つに纏まろうとしなかった事も大きい。多くの種族が参加した三つの大反乱の時でさえ、反乱者達は互いの利害が揃わず別個に行動していたんだ。そして大反乱の際それに加わらない種族も多かった。イスカンダルはそうした種族達に反乱者の土地と財産を与える事で彼らを味方につけ、反乱を鎮圧していった。結局のところ、被征服民の全てが反抗しない限り、帝国の支配は揺らぐ事がなかったと言えるだろう(※36)」

(※36)反乱者が結束しなかった為失敗した従属種族達の反乱と同様の事例として、十九世紀のインドで起きたセポイの乱(インド大反乱)が挙げられる。インド北部で勃発しインド国土の三分の二にまで拡大したこの大反乱は、反乱を起こした諸グループが統制されることなくバラバラに行動したためイギリス当局に各個撃破され鎮圧されるという顛末を辿っている。

 ここまで語ったところで、ヴェルテは大きく息をついて話を小休止させた。巨大な軍事力と恐怖で以って宇宙に君臨し、諸種族の反抗を粉砕し続けたイスカンダル。この史上稀に見る帝国が、いかにして滅亡への道を辿ったのか。それについて話すため、ヴェルテは少し考えをまとめている様子だった。

 これまでヴェルテの話を考え込むように聞いていたガデルが口を開いた。

 「……恐怖と武断政治が(イスカンダル)帝国の実際の姿だったという事か、兄さん。現代の我々はイスカンダル帝国に様々なイメージを抱いている。宇宙の覇者、多くの敵を討ち滅ぼし、多くの種族を創造したという破壊と創造の体現者。恐怖の帝国のイメージも強いが、それ以上に現代(大小マゼラン)世界全ての人間がロマンと憧憬の念を抱く存在でもある。だが同時代の人間にとっては恐怖の圧制者でしかなかったのか。帝国への畏敬と憧憬のイメージは、全て後世になって生まれたという理解でいいのか、兄さん」

 「今までの話を聞けばそう思うだろう」

 ヴェルテは言った。

 「ところが、イスカンダル史を見るとそうとも言い切れないんだ」

 むっと意外そうな顔をしたガデルにヴェルテは続けて言った。

 「あまねく星々、その知的生命体の救済――。宇宙の救済を旨とする現代イスカンダルの有名な言葉だが、この思想と我々を含め大小マゼランの方々で見られる、救済者としてのイスカンダル信仰の起源は、皮肉にも破壊と殺戮に彩られた帝国時代にまで遡る事ができるんだ」

 数多くの種族を星ごと滅ぼした恐怖の圧政者と、地球をはじめとする数々の種族を救ってきた救済者。全く相反する両者が古代イスカンダルとどう結びつくのか。ヴェルテは話を再開した。

 「思想としてのイスカンダル主義(※37)と、イスカンダルへの信仰。それらは帝国後期の版図が最大となった時代に生じたとされている。時の王だったアサルコス・イスカンダル(※38)は、それまで帝国が進出を続けていた天の川銀河での版図を拡大し、長らく抵抗を続けていた小マゼランの征服を完成させた。彼の為した征服の中でも小マゼランの戦争は、とりわけ凄惨なものであったという。
 当時小マゼランはアケーリアス由来の有力な種族が数多く存在しており、彼らとの戦争は時にイスカンダル軍が敗走する程の激戦だったと伝えられている。そして戦争の結果、小マゼランの諸種族は殆ど全てが滅び去った。種族も、文明も、有人惑星も、全て失われてしまったんだ。一説には、現代の小マゼランに有人惑星が少ないのはその為であるとまで言われている。アサルコス王はこの戦争を深く後悔し、これ以降対外戦争を取りやめ『宇宙の救済』の実現を目指すようになったと伝えられている。
 このアサルコス王の逸話は、彼自身や後世の脚色があるとも考えられるが、王の救済者としての行いはある程度史料的に実証することができる。彼は小マゼラン征服後各地に勅令を発して軍役の大幅な軽減を行い、自身の救済の考えを宣伝した。そしてその考えに則り、造物主政策により創造された種族達に技術を教え、その発展に力を注いだ他、諸種族に対し彼らが密かに開発していた低出力系統波動エンジンの軍事目的以外での使用を認めたと伝えられている。
 このようにアサルコス王はそれまでの帝国の武断政治を転換したのだが、その中でも特に彼が征服活動を取りやめ、低出力系統波動エンジンの製造と使用を認めた背景については様々な事が言われている。
 まず一つ、これまでの反乱で多くの種族が滅ぼされた結果、中小艦を提供できる技術を持つ種族が枯渇しつつあった。造物主政策により新たな僕となる種族達が創造されてはいたが、彼らは生まれて日が浅く、兵士以外に提供できるものがなかった。兵器、特に中小艦の供給源は少数の種族に限られるようになっていたんだ。そのため彼らがそれまで厳しく禁じられていた波動エンジンの独自開発を行っていても、それを理由に滅ぼすのはためらわれた。創造した種族達が中小艦を提供できる程“育つ”までは、彼らの活動を黙認せざるを得なかったという訳だ。
 次に二つ目として、中小艦の供給源となる種族を育てるという側面がこの政策にはあった。反乱による種族の討滅と創造が繰り返された結果、当時帝国内に存在した種族の多くが宇宙船の建造技術すら持たない状態となっていた。彼らに波動エンジンを持たせ、造船技術と経済基盤の発展を促すためにも低出力系統波動エンジンとコアの製造を認める必要があったんだ。つまり、生産力の乏しいイスカンダル自身は大量の波動コアを提供できないため、かわりに諸種族へ在野の低品位波動エンジンの導入と製造を促したという訳だ。それにより、アサルコス王は諸種族、特に(宇宙船の建造技術すら持たない)未開だった者達に交易や惑星開発による発展の道を与えたと考えられている。(※39)
 次に三つ目だが、イスカンダルが諸種族の反乱をそれまでずっと粉砕し続けてきた事も理由に挙げられるだろう。高出力の波動コアさえ禁じておけば、従属種族達が低出力の波動エンジンを量産し反乱を起こしたとしても、これまで通り鎮圧できると帝国は考えていたようだ。史実を見る限り、帝国は後の滅亡の時代に顕在化する低出力系統波動エンジンの利点と脅威に全く注意を払っていなかったと考えられる。
 そして最後に、これは私個人の想像だが、アサルコス王もやはり一人の人間としてこれ以上種族を滅ぼすのはためらわれたのかもしれない。
 以上のようにして、イスカンダル帝国の拡大はアサルコス王の治世で終わりを告げ、現代型の低出力系統波動エンジンが諸種族の間に広まっていったと考えられている」

(※37)ヤマト2199におけるイスカンダル主義について、資料では次のような記述がある。

 ――ガミラス大公国は解体され<大ガミラス帝星>となり、デスラーは永世総統の地位に収まった。彼は「宇宙恒久の平和を達成させる為にはイスカンダル主義の拡大浸透が必要であり、その為には他星へ進攻し武力をもって併合するのが神の意思でありガミラス民族の使命である」と説く、<デスラー・ドクトリン>を宣言。周辺惑星国家への進攻を開始したのである。
(ヤマト2199第三章パンフレットより抜粋)

宇宙戦艦ヤマト2199 ――ガミラスは、アベルト・デスラー総統を頂点とする軍事独裁国家だった。武力により大小マゼラン銀河の統一を果たした彼の政策の根源には二連星の関係にあるイスカンダルが唱える平和主義――全宇宙の知的生命体の救済を理念とする〔イスカンダル主義〕があった。彼はその浸透のためとして他の星々への侵攻、武力併合を推し進めたのである。
宇宙戦艦ヤマト2199全記録集 vol.2 P.142より抜粋 )

これらの記述から、イスカンダル主義は次のような要素で構成される思想体系ではないかと考えられる。

    • 〔狭義のイスカンダル主義〕
    「あまねく星々、その知的生命体の救済」という言葉に代表される、イスカンダル自身が唱えるイスカンダルの行動規範を表した概念。

    • 〔広義のイスカンダル主義〕
    狭義のイスカンダル主義を掲げあまねく星々の知的生命体の救済を行ってきたイスカンダルを「宇宙を救済に導く尊い存在」として崇め、その理想実現に奉仕しようとする考え方。イスカンダルを歴史的崇拝対象としたガミラスで発達した思想体系。

    • 〔デスラー・ドクトリンにおけるイスカンダル主義の『拡大』『浸透』〕
    広義のイスカンダル主義に基づき、宇宙の救済を行うイスカンダルが尊い存在である事を広く知らしめ、より多くの人間に認めさせようとする政治行為。基本的に宗教の布教と同じ所業であり、デスラー・ドクトリンにおいては「宇宙恒久の平和を達成させるためにはイスカンダルが宇宙を救済に導く尊い存在である事を皆に知らしめ、その威光に従わせる必要がある」と主張された。また、その実現の為には武力侵攻や種族の討滅という狭義のイスカンダル主義に反する行いも辞さないとされた。(人々の救済を説くキリスト教やイスラム教の布教がしばしば征服と殺戮を伴っていたのと同じ事象である。)

(※38)“アサルコス・イスカンダル王”とは、筆者がアショーカ王をギリシア語風に変換して創作した人物である。(アショーカ王の祖父であるチャンドラグプタはギリシア語資料(プルタルコス)ではサンドロクプトスと表記されているため、それに因んだ命名を行った。)スターシャ・イスカンダルがヤマトの乗員に語ったように、イスカンダルはかつて大マゼランを血に染め上げた恐怖の帝国だった。それが何故宇宙の救済を掲げるようになったのか。これについては、アショーカ王に相当する人物がいたのではないかと想像することも可能ではないだろうか。アショーカ王は伝説によれば多くの大臣や兄弟を殺すなど暴虐を極め、カリンガ戦争で大量殺戮を行った末に自らの行いを深く後悔したとされる。それ以後王は対外遠征には消極的になり「法(ダルマ)の政治」の実現を目指すようになったという。

(※39)従属種族の反乱の後に創造された、アケーリアス由来の技術を持たない(即ち宇宙船の建造技術さえ持たない)種族達には波動エネルギーへの大きな需要があったと考えられる。彼らは一度アサルコス王から「波動エンジンを作っても良い」と許されれば積極的に低出力系統波動コアとエンジンの技術導入を行っただろう。イスカンダル側は将来の中小艦調達に向け彼らに波動エネルギーの技術供与を行う一方、彼らの低出力系統波動コア導入の動きを“黙認”したと想像出来るのではないだろうか。
 また、低出力系統波動エンジンを開発していた種族達は他の種族が低出力系統波動エンジンを導入する際ライセンス料を取ったと考えられる。その意味では開発者側の種族達にとってもアサルコス王の政策は利益のあるものだったと想像出来るのではないだろうか。

 地球の歴史上の帝国でもよく見られた、武断政治から文治政治への転換がイスカンダル帝国においても為された事をヴェルテは述べた。ガミラスとの戦争で滅亡に瀕した地球を救った現代イスカンダルの行動規範は、実にこの過程で形成されていったのである。ヴェルテは話を続けた。

 「…こうしたアサルコス王の政治がイスカンダルの声望を高めるのにどれだけ成果を収めたのかは定かではない。とはいえ彼は、歴史上に名高い王としてその名を記憶されている。はっきりしているのは、彼が現代イスカンダルの思想と救済者としてのイスカンダル信仰の原型を作ったという事だ。
 イスカンダル信仰の起源については、学説の一つに次のように述べているものがある。
 『アサルコス王の時代、当時未開だった種族達の間で王への崇拝と神格化が生じた。それらは数百年から千年以上の時間をかけて、イスカンダルそのものへの信仰へと変化していった――』
 この学説では、イスカンダルの歴史的イメージの反転は帝国の滅亡後長い時間をかけて生じたとしている。帝国の恐怖の記憶が薄れ、帝国の末裔達による星々の救済が行われ続けた結果、恐怖の帝国から宇宙の救済者、そして歴史的ロマンの体現者へと帝国のイメージは変化していったと述べているんだ。
 したがって、アサルコス王の時代、イスカンダル帝国そのものが同時代の諸種族に救済者と見られるようになったかについては、多くの論者は懐疑的だ。
 だが、これはあくまで私個人の考えなのだが、もしかすると王は、イスカンダルを宇宙の救済者として諸種族に認めさせるのに成功していたかもしれない。というのは、イスカンダル帝国が滅んだ時、王族達はイスカンダルの民のように反乱軍によって根絶やしにはならなかったからだ」(※40)

(※40)恐怖の支配者から救済者へとイメージが反転したイスカンダルと類似した歴史的事例として、アレクサンドロス・ロマンスを挙げる事ができる。アケメネス朝ペルシアへの遠征により破壊と殺戮を撒き散らしたアレクサンドロスは、東方では長らく悪しき侵略者としてのみ伝えられていた。しかし七世紀にイスラームが地中海世界におけるアレクサンドロスの伝承をイランに持ち込むと、それを皮切りにアレクサンドロスのイメージは「善き英雄」としてのものに変質を始めた。そして十二世紀頃に東方においても理想の君主としてのイメージが定着し、そのイメージの反転が完成している。(アレクサンドロスの死後千五百年を経てそのイメージが反転したことになる)

 イスカンダル帝国の統治について語るヴェルテの講義は、帝国の社会や制度にまつわる話題を遍歴した末に、いよいよその滅亡の話へと移っていった。

 「…では、そろそろイスカンダル帝国の滅亡について話を進めよう。これまで話したように、イスカンダル帝国は長い恐怖支配の果てに破壊者から救済者へと姿を変えた。しかし、その転換を果たしたアサルコス王の死後、帝国は僅か数十年で滅んでしまう。この滅亡の時代についての王家に関する記録は殆ど残っておらず、多くを推測に頼るしかない。
 まず、帝国滅亡のきっかけとなった、王位を巡る争いの起きた経緯だが、アサルコス王の晩年から記録が途切れている事から、その頃に政治混乱が起きたと推測されている。王自身の晩年はよく分かっていない。地位を追われ幽閉されたという伝説がある一方、諸種族の苦難を救う巡幸の旅の途上で没したとも言われている。争いが起きた理由も、王が急死した為と言う説や王の政策に反発した勢力がクーデターを起こしたと言う説があり分かっていない。
 ともかく、帝国時代の末期に起きた王家の内紛は、帝国を二分する凄惨な戦いとなり、大マゼランに一大惨禍をもたらしたと伝えられている。…まあこれは今夜(の会話)の一番最初に話した通りだが、その時に波動砲で宇宙が引き裂かれたとも言われている。イスカンダルはこの大マゼランの危機を何らかの方法で解決したようなのだが、それから二十年ほど後に帝国を滅ぼす一大反乱が起きた。史書によれば、大マゼランの全ての種族が帝国に叛いたと言う。大マゼランの一大惨禍は、帝国の声望を決定的に失わせてしまったらしい。
 この大マゼラン諸族の反乱はそれまでの大反乱とは幾つかの点で決定的に違っていた。一つは、反乱を起こした諸種族が統制された行動を取った事だ。彼らは『帝国を滅ぼす』という一点で結束し、バラバラに行動しなかった。そしてもう一つ、大マゼラン諸族の間には既に完成された低出力系統波動エンジンが普及していた。反乱軍の艦艇は現代型のエンジンを装備していたんだ。この新しい艦艇が、イスカンダル軍を破る決定的な要因となったようなのだ。
 この二つの要因により、内乱で弱体化していたイスカンダル軍は反乱軍に敗北し、全滅したと伝えられている。こうして、イスカンダル帝国は崩壊し、イスカンダル人もまた、帝国と共に僅かな王族を残し滅亡したとされている」(※41)

(※41)筆者は古代イスカンダル帝国を古代アッシリアやスパルタのような国だったのではないかと想像しているが、アッシリアについては史書には次のような記述がある。

――アッシリア人は歴史上ではひたすら武力を頼みとした民族として知られ、強大な軍事組織を持ち、軍事技術に多くの進歩をもたらした。しかし概して、極端な残忍さの故に記憶されている事が多い。彼らは世界で最初の巨大な軍隊と大帝国を作った。その成立には二つの要因がある。攻囲戦に秀でていた事、さらには徹底的な恐怖政治によって支配した事である。アッシリアの方針は、つねに、彼らに抵抗した者を見せしめにすることであった。これには、全住民の追放や、身体に恐ろしい罰を与える事も含まれていた。都市ニムロドの神殿から出土した碑文には、アッシュールバニパル王(前668~前626)が反乱を鎮圧した、ユーフラテス川沿いの都市スルの指導者達について述べている。「余は町の城門に柱を立て、反逆者の主だった者全ての皮をはぎ、柱を皮で覆った。ある者は柱の中に閉じ込め、ある者は串刺しにして柱に飾った」。こうした罰は珍しくなかった。さらに、このような非道な懲罰を記した碑文が、警告として帝国全土に建てられている。しかし、この種の国家公認の残虐さは逆効果だったように思われる。アッシリア人とその軍隊は敬意を払われ恐れられていたが、それ以上に憎まれており、帝国の支配地ではほとんど絶え間なく反乱が起きていた。このことは、アッシリアの歴史上、常に軍の水準を高める結果となっていた。中核となる兵士が極めて多くの経験を積む事ができ、常に臨戦体制にあったからだ。しかし長引く戦乱がついにはアッシリアの兵力を枯渇させた。前七世紀半ば、帝国は勢力が頂点に達した後、すぐに崩壊を始めた。帝国の諸民族はアッシリア人に深い恨みを抱いていたため、最初の亀裂が現れるやいなや機会に乗じ、終末は驚くほど早かった。前七世紀の終わりには、帝国の殆どいたるところで反乱が起きており、これは自由のための闘争だけでなく報復戦争でもあった。前612年、連合した反乱軍が首都ニネヴェを占領し焼き払った。聖書(ナホム書三章七節)によれば、世界で最も残忍な帝国の一つが無惨な最期を迎えたとき、中東全体が次のような感想を抱いた。「ニネヴェは滅んだ。誰が嘆くだろう?」
(サイモン・アングリム他 『戦闘技術の歴史1 古代編』 創元社 P.294~295)


 イスカンダル帝国の滅亡の話を語り終えると、ヴェルテは大きく息をついて言った。

 「…以上が、制度の面から見たイスカンダル帝国の統治の歴史だ。随分と長い話になったが、次はお前の番だな、ガデル。では聞かせてもらおうか、軍事面から見たイスカンダル帝国の滅亡と、波動砲が廃れていった過程を」

 イスカンダル史についての長く極めて詳細なヴェルテの解説が終わり、ガデルに話のバトンが手渡された。ガデルはヴェルテに了解したと短く答えると、少しの間ヴェルテが語ってくれた内容を頭の中で反芻させた。恐怖支配への対抗として諸種族の間に広まった低出力系統波動エンジンと、一大惨禍の果ての諸種族の離反。これに破壊者から救済者へのイスカンダルの変遷が複雑に絡み合う。簡単ではないが、それだけにガデルにとっては知的好奇心を満足させる内容の話だった。

 ヴェルテの話を頭の中で整理し終えると、ガデルはこれから話す波動砲の歴史について何から話すべきか考えを巡らせた。これから彼が話す内容もまた、兄と同じくらい長く詳細な話になるはずであった。宇宙の覇者だったイスカンダルが、どのようにして大マゼラン諸族に敗れ去ったのか。そして、最強の兵器だったはずの波動砲が、何故戦場から姿を消したのか。それは、イスカンダルの滅亡と不可分の話であるはずだった。

 少しの時間が過ぎ、話すべき内容を頭の中ですっかり纏め上げるとガデルは自らを納得させるように軽く頷いた。そして、古代の戦史についての解説を始めた。

 「…ではまず、古代の戦いについて軽くおさらいしよう。一般に、古代の戦いは機動力よりも火力が重視され、波動砲は正にその頂点に立つ存在だった。火力を最重視する戦いの様式が続く限り、波動砲を擁するイスカンダルは宇宙の覇者であり続ける事ができた。滅亡の時代、反旗を翻した大マゼラン諸族はこれに挑戦し、それ以降の戦いの全てを変えてしまったのだ」

 そのように話を切り出すと、ガデルは古代の戦争の変化に言及した。

 「火力を重視する戦争が、何故、どのように変わったのか。それには大マゼラン諸族の反乱と、低出力系統波動エンジンの完成が深く関係している。
 まず、大マゼラン諸族はこれまでの従属種族達の反乱の失敗に鑑み、自分達の戦い方を変える決心をした。これまで言及した古代の戦いのように、横隊戦列を組むにせよ散開するにせよ、火力に任せ遠距離からの射撃に終始するやり方では、イスカンダル艦に粉砕される可能性が高いと思われたからだ。大マゼランの諸種族が反乱に参加する以上彼らの数の優位は圧倒的だったが、過去の大反乱の失敗からそれでも勝利は覚束ないと考えられたんだ。その意味で過去の従属種族達の反乱は、戦いの様態を変える決定的な要因の一つとなった。
 そして、大マゼラン諸族には戦い方を変えるための道具が与えられていた。それが低出力系統波動エンジンだったのだ。この現代型のエンジンは、イスカンダルのそれと比べ出力こそ低いが低コストで大量生産ができ、機械的信頼性も高かった。軍用のエンジンとしては理想的なものに仕上がっていたんだ。
 それに加えこのエンジンは、大軍の迅速な機動が可能という、それ以前のエンジンには無い画期性を有していた。それは古代アケーリアスのエンジンにも、イスカンダル帝国のエンジンにもない利点だったと聞いているが、それで間違いないな、兄さん」

 低出力系統波動エンジンについてのガデルの質問に、ヴェルテが答える。

 「ああ、それで間違いない。低出力系統波動エンジンの利点とは、ごく短い休憩時間を挟んでの連続ジャンプ(※ゲシュタムジャンプ、ワープの事)が可能で、ジャンプ時の空間負荷が小さく数千隻以上の大部隊が一度にジャンプする事も可能である事だ。それはこのエンジンが低出力であるが故に可能になった事なのだが、同時にイスカンダルのエンジンとは全く対称的な性質でもあったんだ。
 イスカンダルの高出力系統波動エンジンは、高出力であるが故に一回のジャンプの跳躍距離が長く、長距離をより短期間で移動する事ができた。しかしその反面、短時間での連続ジャンプは不可能であり、しかもジャンプ時の空間負荷が大きく数百隻の部隊が一度にジャンプする事さえ困難だった。
 実はこれが、イスカンダル艦が常に少数で運用され続けた理由の一つだったのだが、大部隊の迅速な機動が困難と言う点では中小艦部隊も同じ問題を抱えていた。イスカンダル製の低品位コアを用いた中小艦のエンジンは、本質的にイスカンダル艦のそれより低出力なだけで同じ性格を持ち、連続ジャンプは不可能で、数千隻単位の大部隊の一斉ジャンプも困難だったんだ。その為、イスカンダル軍は大部隊がジャンプする際は一隊ずつ順番にジャンプさせていたと考えられている。
 一方、アケーリアスも状況はイスカンダルと似たり寄ったりで、彼らのエンジンも大部隊が一度にジャンプする事はできなかった。従って、低出力系統波動エンジンは大部隊の迅速な機動が可能と言う点で、両者のエンジンには無かった利点を確かに持っていたと言えるだろう」(※42)

(※42)ヤマト2199劇中の描写を見る限り、ガミラスの波動エンジンには次のような特徴があると思われる。
  • 短時間の休憩を挟んだ連続ワープができる他(第10話、第15話)、緊急ワープも可能(第23話)。これに対しイスカンダルのエンジンはそのいずれもできないと考えられる。(第15話でヤマトがワープアウト地点で攻撃された際、ヤマトはワープを行わずに逃げようとしている)
  • 大部隊が敵の直近にワープアウトできる。(第15話)
  • イスカンダルの波動エンジンと比べ出力が低く、ヤマトと同じサイズでは波動砲を装備できない。(波動砲装備を行うとデウスーラ2世のように艦体が大型化する)
  • 予告ナレーションの地球滅亡までの日数から逆算すると、復路においてヤマトは二ヶ月弱でサレザーからバラン星に到達している。これに対しガミラスの基幹艦隊はバラン星からサレザーまで移動するのに三ヵ月を要している。この事から、イスカンダルのエンジンは通常のガミラス艦のエンジンに比べ一回のワープの跳躍距離が長く、長距離をより短期間で移動する事ができると思われる。(ただし、第25話ではデウスーラ2世やセレステラの宙雷艇 がヤマトを先回りしてバラン星に到達しているので、ガミラスのエンジンの長距離機動能力は艦の性能や運用によって大きく変わると考えられる)

 低出力系統波動エンジンの特性とそれ以前のエンジンとの違いについてヴェルテが説明すると、ガデルは話を再開した。高出力系統のエンジンに対し空間跳躍距離という仕様上の性能では劣る一方、「大軍のワープによる素早い機動が可能」というこのエンジンが、古代の戦いをどのように変えたのか。

 「うむ、よく分かった、兄さん。では話を再開しよう。大マゼラン諸族が利用できた低出力系統波動エンジンは、大量生産が可能な上、兄さんが話してくれたように大部隊をゲシュタムジャンプで迅速に機動させる事が可能だった。大マゼラン諸族はその利点を生かすべく艦艇に大きな変更を加えた。…まずはこれを見て欲しい。ここに表示した中小艦と新しい艦艇を見れば、幾つかの違いを見て取る事ができるだろう」

 ガデルは話をしながらホログラムボードに旧来の中小艦と大マゼラン諸族の“新型艦艇”の図像を表示した。それぞれいくつも種類があったが、新しい艦艇にはいずれも艦首砲が装備されていなかった。しかも、旋回砲塔の配置が中小艦とは異なっている。ガデルはこの相違点について解説する。

 「見ての通り、大マゼラン諸族が創った艦艇には艦首砲が装備されていない。これは艦艇の建造コストを大きく引き下げ、量産可能なエンジンと相まって艦隊の短期間の造成を可能にした。こうすることで大マゼラン諸族は、新型艦艇の数の優位をイスカンダル艦や中小艦に対しより大きなものにしたんだ。それと同時に、エネルギー消費の大きい艦首砲の廃止は、艦のエネルギーを機動へと集中させ、新型艦艇に非常に良好な機動性能を持たせる事に繋がった。大マゼラン諸族は、軍の移動だけではなく個艦単位においても敵を機動力で圧倒する事を意図したのだ。
 火力ではなく、機動力の重視。これは砲塔の配置からも見て取る事ができる。砲塔の配置を見ると、中小艦が艦の前方に最大の火力を投射できるようになっているのに対し、新型艦艇は(艦の)横方向に最大の火力を投射できるようになっている。これは新型艦艇が機動力重視の縦隊で戦う事を想定していた為だ。従来の中小艦が火力を発揮するため横隊で戦っていたのとは対極の思想だった。(※図6参照)
  イスカンダル帝国の興亡史 図6
 このように、大マゼラン諸族は数と機動力でイスカンダル艦を頂点とするイスカンダル軍に戦いを挑もうとしていた。では、具体的にどう戦おうとしたのか。イスカンダル艦は波動砲により多数の艦を一度に薙ぎ倒せる火力を持ち、極めて堅牢なエネルギーシールドをも有している。対する新型艦艇は、機動力は非常に良好ながら火力は中小艦にさえ劣り、防御力は中小艦と同程度で貧弱だった。こうした船でどう戦ったのか。
 結論を先に言えば、大マゼラン諸族は現代的な“機動戦”を行う事で敵の波動砲を封じ、打ち破ろうとしたのだ。この試みは大きな成功を収め、後に戦いの様態を決定的に変え、波動砲を衰退させる直接の原因となった」

 火力を重視する戦争から機動力が求められる戦争へ――。イスカンダル帝国の滅亡の時代に生じた戦争の変化が、まず艦艇の構造の変化から始まった事をガデルは述べた。次に彼は、機動力を用いた新しい戦いの様式  である“機動戦”について説明を始める。

 「ここで機動戦の概念について簡単に説明しておこう。現代の(大小マゼラン世界の)戦いの主流となっている機動戦とは、戦闘力の主要な構成要素である『火力』と『機動力』のうち、機動力を用いる戦闘の事をいう。機動戦は、戦闘行動として『有利な位置への機動』、『包囲』、『近接戦闘』の三つの形態に分ける事ができる。(※図7参照)機動戦を行う者は、状況に応じこの三つの形態を使い分けるが、その転換は非常に素早く行われる。機動から包囲へ、包囲から近接戦闘へ、あるいは近接戦闘から包囲へ。こういった戦いの転換が素早く行われるため、戦場の状況が目まぐるしく変わるのが機動戦の特徴となる。
  イスカンダル帝国の興亡史 図7
 このような特徴を持つ機動戦を行うには、何よりも『速度』が必要とされる。速度を発揮するためには、指揮官の果断な判断は元より、機動の容易な縦隊を基本とする隊形と、機動を前提とした艦艇が必要となる。
 現代の我々の軍は、知っての通り機動戦を用兵の根幹に据え、それに適した兵器体系を構築している。例えば我々の艦艇は、火力や防御力は大した事ないが、機動性能がとにかく良好で数を揃える事ができる。この特性は、何より機動戦を行う為に必要となるものだ。理由は後で述べるとして、ここで兄さんに問いかけたい。現代の我々の艦艇と、(イスカンダル帝国)滅亡の時代に創られた新型艦艇が同じ構造をしているのに気付かないだろうか」

 ガミラスの用兵理論を交えた機動戦の説明(※43)を述べた後、ガデルは滅亡の時代に生まれた艦艇と、現代のガミラス艦の類似性に言及した。彼は更に話を続ける。

(※43)ガミラス軍は地球の軍隊と同様に、独自の用兵理論を発達させていると考えられる。ヤマト2199劇中の描写を見る限り、ガミラスは機動力を発揮する戦い方を用兵の根幹に据えていると考えられる。なお、ここで述べたガミラスの機動戦の分類は、地球の用兵書に記述される(本来の)機動戦の分類とは異なるものである。

 「低出力系統波動エンジンという現代型のエンジンを備え、火力より機動力を重視する構造。これは、現代の我々や、我々と戦った大小マゼラン諸国軍の艦艇と全く同じものだ。この点において、現代の艦艇の原型は滅亡の時代に生まれたという事ができる。更に、滅亡の時代の大マゼラン諸族の戦いを詳細に分析すると、そこには現代の機動戦と全く同じ姿を見て取る事ができる。大マゼラン諸族とイスカンダル帝国の戦いは、現代的な機動戦が行われた、史上初めての戦いだったと考えられるのだ。
 以上の事から、自分は現代の戦い方の起源がこの滅亡の時代にあると考えている。『現代型艦艇』と機動戦は、波動砲との戦いで生み出されたと結論できるのだ。(※図8参照)
  イスカンダル帝国の興亡史 図8
 では、機動戦はどのようにイスカンダルの波動砲を打ち破り、現代の戦いの主流となったのか。そして、現代型艦艇の特徴と性質は、機動戦とどう関係してくるのか。
 それらについて述べる為に、次は機動戦の三形態である『有利な位置への機動』、『包囲』、『近接戦闘』のそれぞれが、現代型艦艇の特徴とどう関係するかを述べよう。その上で、大マゼラン諸族とイスカンダル帝国の戦いを見てみる事にしよう」(※44)

1/1000 国連宇宙海軍 連合宇宙艦隊セット1
(※44)ガミラス艦が地球のキリシマ型やムラサメ型のように大威力の艦首砲を装備していないのは何故なのか――。この疑問への回答として筆者は劇中のガミラスの戦闘描写から「ガミラスは高速の機動戦を念頭に置いているためではないか」と考えている。艦に高速の機動を行わせるため重量とエネルギーのかさむ艦首砲を省いているのではないか。
 また、プラモデルを元にガミラス艦の内部構造を考えると、「波動エンジンの効能で燃料タンクが必要ない上にガミロイドの使用で乗員とその居住スペースを大幅に節約できるガミラス艦は艦の中央から艦首にかけて一体何が詰まっているのか」と疑問を覚える人もいるだろう。この問題については「ガミラス艦は内部の殆どがエンジンで占められている」と想像することができるのではないだろうか。劇中における高速を生かしたガミラス艦の戦い方や、波動エンジンやガミロイドといったガミラスの科学技術を考慮するとその方が合理的だからである。(艦橋が分離するゼルグート級航宙戦闘艦の場合、乗員が居住しているのは文字通り艦橋部分だけではないかと思われる。)
ゼルグート級一等航宙戦闘艦ドメラーズIII世 更に言えば、こうしたガミラス艦の構造は大小マゼラン世界に共通のものであり、歴史的な所産ではないかと筆者は想像している。つまり、イスカンダルの波動砲と戦うためにこうした艦の形質はそもそも生まれたのではないかという事である。(これについては図6及び図8参照)

 『現代の艦艇と戦いの源流はイスカンダル帝国滅亡の時代にある』という参謀本部の戦史研究で得た持論を話したところで、ガデルは話を小休止させた。今夜のガデルの講義の主要なテーマの一つである、「波動砲が古代に廃れた理由」はこれからが本論であった。ここまでのガデルの話を、ヴェルテは考え込むようにして聞き入っていた。技術史に造詣の深い彼にとって、滅亡の時代の艦艇の変化は既知の事柄であったが、それが波動砲を打ち破り衰退させる原因となったと言うのは初めて聞くことだった。彼が今まで読んだ技術史書や歴史書では、艦艇の変化は機動力を発揮できる現代型(低出力系統)波動エンジンの特性を生かす為であると解説されていたのである。そこでは現代型艦艇が波動砲を敗退させたという記述はおろか、波動砲とどのように戦ったのかという説明さえ為されていなかった。その意味で今ガデルが話している、参謀本部の戦史研究は彼にとって極めて示唆に富む内容であった。

 とはいえヴェルテは弟の話を聞きながら、一つの疑問を思い浮かべていた。滅亡の時代に生まれた現代型艦艇が、何故波動砲を衰退させる決定打となったのかと言う点である。ガデルが話してきたように、現代型艦艇が登場するずっと以前に波動砲への対抗策は考案されていたし、イスカンダル軍もそれによりしばしば敗北を喫していた。現代型艦艇など作らなくても、従来型の艦艇だけで波動砲を打ち破るには十分なはずだったのである。波動砲に対抗する上で、従来の艦艇と現代型艦艇は何が違っていたのか。それを説明できないからこそ、技術史書や歴史書は「現代型艦艇は波動砲を敗退させた」と記述していないのではないか。それに対する解答を、これからガデルは述べてくれるだろう。そのように思いながらヴェルテは、ガデルがホログラムボードに図を何枚か表示していくのを見ていた。

 少しの時間が過ぎ、話の準備が整うとガデルは講義を再開した。

 「ではまず最初に、機動戦の三形態の一つ、『有利な位置への機動』について話そう。この形態は、敵の側面や背後といった弱点に機動して攻撃を加えるというものだ。これは後で述べる包囲や近接戦闘に繋がる行動でもあるのだが、現代型艦艇は中小艦やイスカンダル艦といった古代型の艦艇よりもこれを行うのに適した構造をしている」

 そのように言うとガデルはホログラムボードに表示した図の一つを指し示した。

 「これはイスカンダル軍と、中小艦と同じ『古代型艦艇』の軍が対峙していると想定したものだ。この図では、青がイスカンダル軍、赤が敵方となる。ここで、敵軍の一隊がイスカンダル軍の側面に廻り込もうと機動を始めたとしよう。イスカンダル軍は中小艦の一隊で敵軍の機動の阻止を図る。この場合は古代型艦艇同士の戦闘となるが、彼我の機動力が同じなため、イスカンダル軍は敵軍の機動を容易に阻止できる。図を見ても分かるように、イスカンダル軍は敵軍の進撃路上に先回りし、艦首砲で迎撃する事ができるだろう」

 ガデルは話しながら図を変化させた。図上演習のように艦艇の記号が多数並ぶ図があたかもアニメーションのように動く。その図では、敵の側面に廻り込もうと斜め方向に進む敵軍艦艇を、イスカンダル軍艦艇が横にスライドして遮ろうとしていた。敵軍はイスカンダル軍よりも長い距離を進まなければイスカンダル軍の側面に廻り込む事ができない。同じ速度で進む両者の機動は、イスカンダル軍が敵軍の進撃を遮り、艦首砲で砲撃する所で終了した。(※図9参照)
  イスカンダル帝国の興亡史 図9

 ガデルは続けて解説する。

 「このようにイスカンダル軍が敵軍を遮ると、敵軍は機動を止めて応戦せざるを得ない。機動中は艦首砲を敵に向けて使用できないからだ。もし仮に、両軍が移動中に撃ち合いとなりイスカンダル軍が艦首砲を使えなかったとしても、両者が相手に向けられる旋回砲の数は同じなため、イスカンダル軍は敵軍に対し劣勢に陥る事はない」

 そう言うとガデルは図の一部を指で円を描くようになぞった。すると図が拡大され、両軍の艦艇が同航戦で撃ち合う様子が表示された。確かに両軍とも同じだけの旋回砲塔を相手に向け、射撃している。(※図10参照)ガデルの表示した図からは、古代型艦艇同士の機動戦は防御側が有利といえそうだった。ガデルは総括を述べる。
  イスカンダル帝国の興亡史 図10

 「こうした事から、古代型艦艇同士が戦う限り、イスカンダル艦を中小艦が援護するシステムはうまく機能する事ができた。現代型艦艇が登場するまでは、このシステムは鉄壁であったのだ。では、現代型艦艇が機動戦を行えばどうなるだろうか」

 ガデルは今まで操作していた図を消すと、別の図を指し示した。

 「今度は、イスカンダル軍と現代型艦艇の軍が対峙したと想定しよう。さっきの図と同様に、青がイスカンダル軍、赤が現代型艦艇の敵方となる。ここで、敵軍の一隊がイスカンダル軍側面への機動を仕掛けたらどうなるか」

 ガデルは先程と同様に図を変化させた。敵軍の現代型艦艇が敵の側面に廻り込もうと斜め方向に進み、それをイスカンダル軍艦艇が横にスライドして遮ろうとする。そこまでは前の図と一緒だった。しかし両者の機動の結末は違っていた。イスカンダル軍に比べ優速の敵軍艦艇が、イスカンダル軍艦艇の側面に廻り込むのに成功したのである。機動の途中、イスカンダル軍艦艇は艦首を敵に向け砲撃しようとした。しかし、敵軍艦艇はそれをかわしてイスカンダル軍の側面へと機動を達成してしまった。(※図11参照)
  イスカンダル帝国の興亡史 図11

 ガデルは解説する。

 「図のように、機動力に優れた現代型艦艇なら敵の艦首砲の迎撃をかわし、イスカンダル軍の側面に機動する事が可能だ。イスカンダル軍艦艇がそれを防ごうとすれば敵軍艦艇と同航戦を続けなければならないが、そうなるとイスカンダル軍艦艇は艦首砲を使用できなくなり、しかも撃ち合いで劣勢に陥ってしまう」

 ガデルが図をなぞると図が拡大され、両軍の同航戦の様子が表示された。現代型艦艇と古代型艦艇の戦いは、艦の横方向に最大の火力を投射できる前者が見るからに優勢だった。ガデルは話を続ける。

 「見ての通り同航戦を行うと、現代型艦艇の敵軍は全ての旋回砲塔を敵に向けられるのに対し、古代型艦艇のイスカンダル軍は一部しか旋回砲塔を向けられない。両者の射撃戦は敵軍が大きく優勢となる。イスカンダル軍艦艇は自らの最大の武器を封じられた上射撃戦で劣勢に陥るのだ。(※図12参照)この機動における現代型艦艇の優位は、現代型艦艇がゲシュタムジャンプを併用した場合更に顕著となる」
  イスカンダル帝国の興亡史 図12

 ガデルは別の図を指し示した。

 「…この図のように、イスカンダル軍の直近に敵軍がゲシュタムアウトすれば、現代型艦艇の敵軍は優速を生かし一気にイスカンダル軍の側背に廻り込む事ができる。(※図13参照)機動する部隊が大規模であれば、古代型艦艇のイスカンダル軍はこれに対応できずに撃破されてしまうだろう。こうした機動と攻撃は、低出力系統波動エンジンの実用化により初めて可能となった事だ。その意味でこのエンジンは、正に機動戦における現代型艦艇の優位を決定的なものにしたのだ。
  イスカンダル帝国の興亡史 図13
 以上、ここでまとめておこう。砲塔配置の工夫や現代型エンジンの装備により、現代型艦艇は古代型艦艇より巧みに『有利な位置への機動』を行う事ができる。これにより大マゼラン諸族は、イスカンダルの中小艦部隊を打ち破りイスカンダル軍のシステムを崩壊させる事となった」

 機動戦の三形態の一つ、『有利な位置への機動』についてのガデルの解説が終わったところでヴェルテが質問した。

 「有利な位置を巡(めぐ)って互いに機動する戦いは、現代型艦艇が中小艦を凌駕するということは分かった。なら、中小艦が機動せず遠距離からの射撃に徹した場合はどうなるのだ?敵の機動に無理について行くより艦の向きだけを変えて砲撃する方が簡単だろう。まして艦首砲の射程は現代の我々の艦載砲の数倍に及んだとされるのだから、敵の動きに追従するのは容易だったはずだ。遠距離からの砲撃だけで敵の機動を撃退する事はできなかったのか?(※図14参照)」
  イスカンダル帝国の興亡史 図14

 「良い質問だ」

 ガデルはそう言うと兄の質問に回答した。

 「それは“高速で機動する相手に静止した状態で砲撃すれば防御できるか”という話になる。結論から言えばそれは不可能だ。中小艦が機動せず艦首砲で迎撃しようとした場合、迎撃は中小艦の一方的敗北に終わっただろう。機動する現代型艦艇は最大戦速で敵弾をかわし、動かない中小艦に容易に命中弾を与えられるからだ(※45)」

(※45)「高速で機動する艦と殆ど静止した艦が撃ち合えば静止した艦が負ける」というガデルの説明を裏付ける描写がヤマト2199劇中には存在する。第11話冒頭のガミラスとガトランティスの戦闘シーンである。このシーンでは、フォムト・バーガーのガミラス艦部隊は空母を護衛するガトランティス艦に容易に命中弾を与える一方、彼らの砲火を殆ど回避している。これは最大戦速で機動するガミラス艦に対し、ガトランティス艦が空母を護衛する必要上殆ど動かない状態にあったため生じた現象であると考えられる。(※図15参照)
  イスカンダル帝国の興亡史 図15

 「もう一つ質問してもいいか」

 ガデルの回答にヴェルテは重ねて質問した。

 「古代と現代の旋回砲の射程の違いについてだが、古代の中小艦や大マゼラン諸族の現代型艦艇は、現代の我々を遥かに上回る遠距離から旋回砲の射撃を行っていたと技術史書では書かれている。艦首砲と同様に、古代の旋回砲は我々のものの数倍の射程を持っていたとされているんだ。ところが、古代と現代の旋回砲は出力等に殆ど違いはなかったと同じ書には記述されている。仕様が同じなのに何故ここまで射撃距離が違ったんだ?」

 ヴェルテの質問は古代と現代の艦隊戦の交戦距離に関するものだった。現代のガミラス艦の場合、通常は距離八千(km?)を切る辺りで射撃が開始される。(※46)これに対し古代の艦艇は、その数倍の距離である二万から三万(km?)もの遠距離で射撃を行うのが普通だった。(※47)しかも古代の戦いは、艦首砲だけではなくそれより遥かに小口径の旋回砲もそのような遠距離の射撃に使用されていた。ガミラス艦が装備するものと変わらないビーム出力と収束率であったにもかかわらずである。何故このような交戦距離の違いが生じたのか。ヴェルテはそれを戦史研究を行ったガデルに尋ねたのだった。(※48)

(※46)ヤマト2199第1話の冥王星沖海戦では地球艦隊とガミラス艦隊は距離七千五百(km?)から射撃を開始している。

(※47)ヤマト2199第3話において、収束型のヤマトの波動砲は二万三千kmの距離にある浮遊大陸を破壊しているが、より強大な出力を持つイスカンダル艦の波動砲は二万から三万km、あるいはそれ以上の距離の標的を拡散状態で破壊できたと考えられる。古代イスカンダルの波動砲は数万kmもの遠距離から行われる古代の射撃戦のチャンピオン的存在だったと想像する事ができるのではないだろうか。

(※48)映画「星巡る方舟」冒頭では、ガミラス艦隊が“通常の射程距離”以上の遠距離からガトランティス艦隊に向け射撃を開始している。何故ガミラス艦は遠距離射撃を行ったのか。「命中が期待できず、しかも命中しても破壊できない距離からはそもそも射撃しない」と考えると、ガミラス軍は“射程外”のガトランティス艦を撃破可能と見て射撃を行ったと考えられる。この事から、宇宙の戦いにおける交戦距離は戦いの様態によって大きく変化するのではないかと考えられる。(詳しくは後で述べるが、映画においてガミラス艦隊は横隊戦列を敷くガトランティス艦隊に対し、超遠距離からの射撃でも命中弾が期待できるため射撃を開始したと考えられる。)

 兄の疑問に対しガデルは答えた。

 「兄さんの言う古代と現代の違いは、一言で言えば戦いの様式の違いに起因しているのだが、それについて述べる前にまずは『射程』の概念について整理しておこう。一般に、宇宙における『射程』は、兄さんも知っての通り標的を破壊できる『最大射程』と、移動する標的に命中できる『有効射程』の二つに分ける事ができる。このうち有効射程は、最大射程に比べ距離が非常に短くなると同時に、戦いの状況によって極端に値が変わるものでもある。標的が動かなければ長くなるし、高速で動き回れば逆に短くなる。(※図16参照)それを踏まえた上で回答すると、古代の旋回砲の『有効射程』が現代の砲の数倍であるのはひとえに、古代の戦いが言わば『動きの少ない』ものであった為だ」
  イスカンダル帝国の興亡史 図16

 そのように言うとガデルはホログラムボードに横隊戦列の図を表示し、古代の戦いについて言及した。

 「図のように古代型艦艇が横隊戦列を形成していたとしよう。戦闘が始まれば彼らは艦首砲を敵に向け射撃を開始する。その際個々の艦はどのように敵弾を回避するだろうか。普通に考えれば艦側面のサブスラスターを噴射して艦を横滑りさせ、敵弾を回避するだろう。サブスラスターの推力を考えれば、回避運動を行った際の位置変化は小さいはずだ。また、横隊戦列自体も戦闘中は激しく動き回る事はない。このような戦いの様式なら、仮に敵が遠距離から砲撃しても命中弾が期待できるだろう。敵からすれば、標的があまり動かないからだ。したがって、横隊戦列や散開した部隊同士が艦首砲を敵に向け、撃ち合うのが主流だった古代の戦場は、敵味方共に敵弾回避の必要上相当な遠距離から射撃戦を行うことになった。(※図17参照)
  イスカンダル帝国の興亡史 図17
 旋回砲は艦首砲共々、現代の戦いの数倍の距離から使用されていたわけだが、射撃を行うにあたり古代型艦艇は、最初に砲門数の多い旋回砲で敵の動きを止め、次に大威力の艦首砲で敵艦のエネルギーシールドと装甲を突破し撃破するという使い分けを行っていたと言われている。ともあれ古代の旋回砲が現代のそれの数倍の有効射程を持っていたとされるのは、古代の戦いは射撃の特性から艦艇があまり動かない様式であった為だ。
 では、古代には極めて長大だった交戦距離が現代では何故短いのか。これも戦いの様式が大きく関係している」

 古代の戦場の姿について解説すると、次にガデルはホログラムボードにガミラス艦の縦隊の図を表示し、現代の戦いについて言及した。

 「知っての通り、我々の艦艇をはじめとする現代型艦艇は図のように縦隊戦列をとって戦う。この様式では戦列自体が戦闘中に大きく動き回り、個々の艦艇の回避運動も極めて位置変化が大きくなる。機動にメインスラスターを使用できるからだ。そのため敵は遠距離からの射撃では命中弾が期待できず、旋回砲の有効射程は古代と比べて非常に短くなる。(※図18参照)歴史的に言えば、旋回砲の有効射程が変化したのはイスカンダル帝国が滅び機動戦が戦いの主流になってからと言えるだろう。
  イスカンダル帝国の興亡史 図18
 …では、そろそろ本題に戻ろう。『有利な位置への機動』を仕掛ける現代型艦艇に対し、イスカンダル軍は対処し得なかったのか」

 ヴェルテの質問に丁寧に答えた後、ガデルは再び機動戦の話へと戻った。話題は大マゼラン諸族の現代型艦艇とイスカンダル軍の中小艦の対決から、イスカンダル艦との対決へと移っていく。

 「兄さんの質問のように、一箇所に留まったまま射撃を続ければ中小艦部隊は現代型艦艇に敗北する。それを避けようとすればイスカンダル軍は、中小艦部隊を敵に追従して機動させねばならない。しかしそれを行ってもイスカンダル軍のシステムは次の困難に直面した。まず、話したように中小艦では敵の機動を止められない。そして何より、機動を続ける味方が邪魔になって波動砲が使用できなくなる。イスカンダル軍は深刻なジレンマに陥ってしまうのだ。現代型艦艇が登場する以前なら、こうしたジレンマは生じなかった。敵が古代型艦艇で機動を仕掛けても、彼らは艦首砲を使う為必ずどこかで艦の向きを変え、機動を終了させたからだ。イスカンダル軍はそこで波動砲を使用すればよかった。
 しかし、現代型艦艇ではそうはいかなかった。艦首砲の無いそれらは機動を止める必然性が無かったからだ。それらはいつまでもイスカンダル軍の周囲を動き続け、旋回砲で攻撃を加え続けた。その方が最大の火力を発揮でき、イスカンダル軍の防御砲火もかわせたからだ。
 こうした現代型艦艇の特性により、中小艦にイスカンダル艦を支援させるシステムは破綻した。中小艦は全く戦いの役に立たなくなったのだ。従って、現代型艦艇と戦ったイスカンダル軍はどこかの時点で中小艦部隊の機動を止めさせ、イスカンダル艦自らが現代型艦艇を迎撃に出ざるを得なくなった。(※図19参照)
  イスカンダル帝国の興亡史 図19
 中小艦部隊が阻止行動を止めれば、当然の結果として現代型艦艇の部隊はイスカンダル軍を包囲に追い込む事ができる。そのため現代型艦艇とイスカンダル艦の対決は、包囲を行う現代型艦艇をイスカンダル艦が波動砲で迎撃するという形になった。果たして波動砲は状況を打開できるだろうか。史実を先に言えば、できなかった。それどころか波動砲は包囲により無力化されてしまったのだ。
 このことに関連して、次は機動戦の別の形態である『包囲』について話そう」

 機動戦の三形態の一つ、「有利な位置への機動」についてすっかり語り終えると、ガデルは機動戦の別の形態である「包囲」について話すべく資料の準備を始めた。ホログラムボードに図を表示させ、様々に変化させる。どのように話を進めるか考えをまとめているようだった。ヴェルテはその間、ガデルが語った内容を頭の中で整理する。弟が解説してくれた「有利な位置への機動」は、主に大マゼラン諸族の現代型艦艇とイスカンダル軍の中小艦の対決の話だった。イスカンダル艦を支援する中小艦を打ち破るのに、「有利な位置への機動」という戦い方は決定的な効果を挙げた。ならば、次に語られる「包囲」はイスカンダル艦、ひいては波動砲を打ち破るのに決定的な戦い方となるのであろう。ヴェルテはそう思いつつガデルが話すべき内容を頭の中でまとめ終わるのを待っていた。

 やがて、ガデルは作業を終えるとヴェルテの方を向き、宇宙の戦いにおける「包囲」について解説を始めた。

 「…では、まず最初に原則的な事から話を始めよう。一般に、宇宙の戦いにおける包囲は多くの用兵家が目指す事だ。現代の我々に限らず、滅亡の時代の大マゼラン諸族も、更にそれ以前のイスカンダルの敵対者達もそれを行おうとしてきた。何故か。それは単に敵を殲滅できるという理由からではない。包囲を達成すれば敵の砲火を分散させ、逆に味方の砲火を集中させる効果が期待できたからだ。それはイスカンダルの敵対者達にとって波動砲と戦う上で死活的に重要な効果だった。…まずはこの図を見て欲しい」

 そう言うとガデルはホログラムボードに向かい合い、表示モードを平面から立体へと切り替えた。やがて一つの立体ホログラムが表示される。大きな球の内部に小さな球が一つ入った映像だった。ある軍が別の軍を立体的に包囲しているのだろう。ガデルが説明する。

 「これはイスカンダル軍を敵が包囲したモデルだ。外側の赤い球が敵軍、中央の青い球がイスカンダル軍…正確には百隻程度のイスカンダル艦部隊だ。今、包囲されている中から三十二隻のイスカンダル艦が外側に向かって波動砲を発射したとしよう。包囲陣に対する波動砲の照射範囲は次のようになる」(※49)(※50)

(※49)ヤマト2199第18話や23話ににおけるヤマトの波動砲の描写を見る限り、ヤマトの波動砲は物体が波動砲のビームに直接触れない限り物体を破壊できず至近弾が意味を為さないと考えられる。(但し、ビームに触れた物体は大爆発を起こし周りの物体をも誘爆させる。)
 一方、ガミラスの波動砲は第23話でデスラーが総統府に突き刺さったヤマトに対しデスラー砲を「出力を絞って」使用しようとしていた事から、出力と照射範囲を任意に変更できる仕様になっていると考えられる。波動砲の本家本元とも言うべき古代イスカンダルの波動砲は、ガミラスの波動砲と同様に出力と照射範囲を任意に変更できる仕様になっていたと思われる。
 では、イスカンダル艦の波動砲はどれ程の範囲を照射できたのか。収束状態で発射されるヤマトの波動砲は二万三千kmの距離からオーストラリア大陸程の大きさ(四千km程度)の浮遊大陸を破壊している(※ヤマト2199第3話より)。
 この描写を元に、筆者は「より強大なイスカンダル艦の波動砲は二万kmの距離からは直径四千kmの範囲、そして三万kmの距離からは直径六千kmの範囲の艦艇を拡散状態で照射し破壊できた」と仮定し、論考を行う事とした。(※図20参照)
  イスカンダル帝国の興亡史 図20

(※50)イスカンダル軍の球形陣の直径は四千km、それを包囲する包囲陣の直径は四万四千kmと想定している。

 ガデルはホログラムを変化させた。包囲されたイスカンダル軍から三十二の円錐状のビームが外側へ向かって伸びていく。波動砲のビームは包囲陣に到達すると変化を止め、包囲陣への波動砲の照射範囲が示された。その大きさは包囲陣に対しごく小さなものでしかなかった。もし一般人がこれを見たなら、「敵を一気に覆滅できる」という波動砲のイメージを裏切る結果に見えただろう。ガデルが解説する。(※図21参照)
  イスカンダル帝国の興亡史 図21

 「見ての通り、波動砲は包囲陣のごく一部しか照射できていない。ここで示した三十二隻というのは、今日の(デスラー砲運用の)会議で兄さん達が示した『宇宙を引き裂かない最大限の発射数』だ。(※詳しくは第3節を参照の事)それを以ってしても包囲陣を覆滅できていない。無理に例えば敵の三分の一を屠ろうとすれば同じ射撃を五、六回はしなければならないだろう。(※図21参照)そうなれば宇宙は引き裂かれてしまう。したがって、イスカンダル艦は自滅を避けようとすれば波動砲で敵を覆滅できない事になる。
 では、次はこの図を見て欲しい。これは横隊戦列をとる十六隻のイスカンダル艦が正面の敵に波動砲を発射したモデルだ」

 ガデルは別の立体ホログラムを表示した。十六隻のイスカンダル艦が展開して正面の敵戦列と向かい合っている。ガデルがホログラムを変化させると十六本の円錐状のビームが伸びて行き敵戦列を捉える。波動砲は敵戦列の殆どを照射していた。(※図22参照)ガデルが解説を加える。
  イスカンダル帝国の興亡史 図22

 「このケースでは波動砲は敵を殆ど照射できている。これで明らかなように、さっきのモデルより少ない砲数でも正面に集中させれば敵を一気に覆滅できる。イスカンダル艦が歴史上十数隻という少ない単位で運用された最大の理由がこれだ。正しく運用できればその程度の数でも、当時において標準的な数百隻規模の戦列を一気に撃滅できたのだ。
 以上、提示した二つのモデルから次の事が言えるだろう。正面に対し絶大な威力を持つ波動砲も、包囲されれれば砲火が分散し敵を覆滅できなくなる。宇宙を引き裂く危険を考えれば射撃を何回も行うことはできず、なおさら敵の撃破が困難になる。イスカンダルの敵対者にとって包囲は、したがって自らの身を守る戦い方となり得たのだ。
 では次に、今度は見方を変えて攻撃の観点から包囲について考えてみよう。先程の包囲のモデルをもう一度見て欲しい」

 そう言うとガデルはイスカンダル軍を敵が包囲した立体ホログラムを再び表示した。イスカンダル軍が発射した波動砲の表示をリセットすると、像は元の大きな球の内部に小さな球がある状態に戻る。ガデルは続けて言った。

 「百隻規模のイスカンダル軍が図のように小規模な球形陣をとり、それを包囲側が砲撃した場合砲火はこのようになる」

 ガデルがホログラムを変化させると、包囲陣から内側の球形陣へ向け数十本の細い棒状のビームが伸びていった。球形陣に到達したそれらは陣内で複雑に交差し絡み合い、球形陣はビームの塊で霞んで見えない状態になってしまった。(※図23参照)ガデルが解説する。
  イスカンダル帝国の興亡史 図23

 「見ての通り砲火が包囲の中心で極端に集中し、球形陣は支離滅裂の状態になってしまう。逆に今度は包囲された側が反撃したとしよう。さっきと同数の砲を発射したとするとその砲火はこのようになる」

 ガデルが再びホログラムを変化させる。球形陣から外側へ向け同じ数十本のビームが伸びてゆくが、包囲陣に到達したそれらはひどく疎らな状態だった。包囲の中心と外側では砲火の密度が全く異なるのが一目瞭然だった。(※図24参照)ガデルが解説を加える。
  イスカンダル帝国の興亡史 図24

 「…どうだろうか、外側へ行けば行くほど砲火の密度が薄くなってしまうのが分かるだろう。もし包囲された側が包囲の中心と同じ密度の砲火を包囲陣へ浴びせようとすれば、今の数よりずっと多くの艦が必要となる。
 これを包囲する側から見ればこう言い換えることができるだろう。『常に敵と同数以上の砲を揃えれば、敵に包囲で絶対的な優位に立てる』
 そして、今一度包囲された波動砲の件を思い出して欲しい。大威力だが極端に数の少ないそれは、包囲されると無力化し包囲を全く破ることができなかった。
 これらの事から一つの原則を導き出す事ができる。即ち、三次元空間における包囲は、砲の威力よりも数の方が重要な要素になってくるんだ。戦闘形態としての包囲は、攻める側も守る側も数を揃える事が決定的に重要になる
 ここで兄さんに問いかけたい。現代型艦艇である我々の艦艇は、火力や防御力は大した事ないが機動性能がとにかく良好で、数を揃える事ができる。これは何故だろうか」

 ガデルはヴェルテに問いかけを行うと、その答えを待つ事無く言葉を続けた。

 「機動力、そして数という我々の艦艇の特性。それこそが、機動戦の一形態である『包囲』を行うのに必要となるものだからだ。機動力で包囲を成し、数で以って敵を制圧する。これを行うが為に艦首砲やエネルギーシールドを省略してでも機動性と量産性を追求しているんだ。艦首砲の省略による火力の低下は、包囲で砲火を集中させれば十二分に補える。簡易シールドによる貧弱な防御も、高速の機動で敵弾をかわせば問題ない。その意味で我々の艦艇は、機動戦を為す速度こそが最大の武器となるのだ。古代の大マゼラン諸族も、同じ方法論を用いた。我々と同種の現代型艦艇に包囲を行わせる事で、その貧弱な火力と防御力を補ったのだ。
 以上、ここでまとめておこう。機動戦の一形態である『包囲』は、別の形態である『有利な位置への機動』により達成される。包囲により、包囲する側は敵の砲火を分散させて身を守り、逆に自軍の砲火を集中させ攻撃力を高めることができる。この性質により包囲は、攻める側も守る側も数を揃える事が決定的に重要となる。滅亡の時代、大マゼラン諸族はこうした『機動戦の包囲の原則』を用い、イスカンダル艦の波動砲を無力化しその強固なエネルギーシールドを突破しイスカンダル艦を撃破していった」

 「ガデル、質問してもいいか」

 宇宙における「包囲」の原則について、ガデルの解説が一段落するとヴェルテは質問した。

 「包囲は砲の威力よりも数が重要になるという事だが、なら何故古代の艦首砲は滅亡の時代までずっと使われ続けてきたんだ?イスカンダル軍を包囲して撃破する試みは滅亡の時代以前にもずっと行われてきたのだろう?お前が図で表示していたイスカンダル軍側面への移動と攻撃も包囲の内に入るのではないか。もしそうであれば『砲の威力よりも数が重要』という原則は繰り返し確認されていた筈だ。何故滅亡の時代以前の(イスカンダルの)敵対者達は艦首砲を捨てて艦をひたすら量産する方向に向かわなかったんだ?
 それともう一つ、包囲による砲火の集中についてだが、包囲の中心に留まるのではなく球形陣を膨らませて空間を確保すれば集中砲火を浴びる事は避けられるのではないか?」(※図25参照)
  イスカンダル帝国の興亡史 図25

 包囲の原則についてのヴェルテの疑問にガデルは答える。

 「兄さんの疑問についてそれぞれ回答すると次のようになる。
 まず、艦首砲が滅亡の時代まで使われ続けてきたのは、 機動が失敗した時の為に必須の装備だったからだ。包囲の為に機動を仕掛け敵に行く手を遮られた場合、戦いは正面からの撃ち合いとなる。そうなった時の為に艦首砲は必要とされたんだ。
 確かに兄さんの指摘どおり、イスカンダル軍を包囲で破る試みは滅亡の時代以前も数多く試みられてきた。滅亡の時代以前の戦いでイスカンダル軍が敗れたのは大抵それが成功した時だった。だから『包囲の原則』それ自体はかなり早い時代から認識されていたと考えられる。しかし艦首砲を廃し理論どおりの包囲を行うのは現実には困難な事だった。中小艦部隊を決定的に破る必要があったからだ。
 もし仮に、滅亡の時代以前のイスカンダルの敵対者が艦首砲を廃止し、現代型艦艇のような船を多数作ったとしてもおそらく滅亡の時代のような成功は得られなかっただろう。なぜなら、現代型艦艇の古代型艦艇に対する速度の優位や機動時の火力の優位は、あくまで相対的なものであって絶対的なものではなかったからだ。滅亡の時代以前にそのような船が現れれば、イスカンダル軍は中小艦に砲塔を増やす、エンジンを大型化するといった改良を施して不利な部分を補っていただろう。
 滅亡の時代、現代型艦艇が中小艦を決定的に破る事ができたのは低出力系統波動エンジンの装備によるところが大きい。敵の直近に大部隊でゲシュタムアウトできるこのエンジンのおかげで、現代型艦艇は小手先の改良ではどうにもならない程の機動力の差をつけることができたんだ。逆に言えば、このエンジンで中小艦を破る算段がついたからこそ、大マゼラン諸族は艦首砲を捨て去る決断ができたと言えるだろう。
 以上、艦首砲についてまとめよう。滅亡の時代以前、艦首砲は機動が失敗したときの為に必須の装備だった。艦首砲をなくすにはイスカンダルの中小艦部隊を機動戦で決定的に打ち破る必要があったが、それは低出力系統波動エンジンの登場まで待たねばならなかった。このエンジンにより、滅亡の時代の大マゼラン諸族は艦首砲を廃した現代型艦艇で中小艦部隊を打ち破り、理論通りの包囲を行うことができるようになった。
 …艦首砲についてはそれでいいだろうか、兄さん」

 ヴェルテの質問の内一つ目の疑問について回答するとガデルはヴェルテに確認を取った。ヴェルテが「よく分かった」と答えるとガデルは二つ目の疑問について回答を始めた。

 「では、二つ目の疑問について説明しよう。包囲が行われた時、包囲された側は狭い領域に固まれば砲火が集中して壊滅する。そこで包囲の中心から外側に向かって広がれば兄さんの指摘どおり集中砲火を避ける事ができる。包囲された側は空間を確保する事が重要になるのだが、それをやるにもやはり数が必要となる。なぜなら、包囲する側がされる側より数で大きく勝る場合、包囲される側は個々に分断・包囲され各個撃破される危険が高まるからだ」

 ホログラムボードに図を表示しつつ説明すると、ガデルは結論を述べる。

 「したがって、包囲された側が空間を確保するには包囲する側と同等以上の兵力が必要になる。(※図26参照)この事から次の事が言えるだろう。宇宙の戦いでは数で劣る側は包囲を受けると絶対的な危機に陥る。そのため(数で)劣勢な側は敵が包囲を仕掛けてきた場合、それが完成する前に自軍の一隊で敵の機動の阻止に努めそれに失敗した場合は敵の一隊に接近戦を挑み突破しなければならない。(※図27参照)結果として戦闘形態としての包囲は、それが為される過程で艦同士の接近戦が行われる傾向にある。殊に有利な位置への機動と、それに続く包囲が頻繁に行われる現代の機動戦は、かなりの確率で敵との近接戦闘が行われる。このことに関連して、次は機動戦の最後の形態である『近接戦闘』について話そう」
  イスカンダル帝国の興亡史 図26

  イスカンダル帝国の興亡史 図27

 機動戦の三形態の一つ、「包囲」についての解説が終わり、ガデルの講義は機動戦の最後の形態である「近接戦闘」の話題へと入っていった。ガデルはホログラムボードに図を何枚か表示すると、それ以上資料の準備に時間を掛ける事無く話を始めた。

 「機動戦の三形態の一つである『近接戦闘』は、今述べたように他の形態である『有利な位置への機動』や『包囲』を行う際、それを阻止しようとする敵との間で生起する事が多い。そして機動戦における近接戦闘の特徴は、他の二形態とはっきり区別できる戦いをしない事だ。つまり、近距離で敵味方入り乱れる状況であっても敵を小部隊レベルで包囲する事は行われるし、敵を効果的に打撃できる位置へ組織的に機動する事も行われるという事だ。他の二形態と違うのは、それらが敵と極めて近い距離で行われる事だ。
 こうした戦いでは『組織的な機動力』と『数』が重要になる。それぞれ説明しよう。
 まず、『組織的な機動力』だが、近接戦闘では艦艇が単独で戦うことはやってはならない事とされる。敵の格好の標的になるだけだからだ。多数で一隻を襲う、この戦争の基本を徹底するには、部隊が組織的かつ迅速に機動できなければならない。艦には機動性能が求められ、部隊には容易に機動できる隊形が求められる。
 そして『数』だが、近接戦闘では小規模な包囲が多数行われる。今まで話したように、宇宙での包囲は数が重要になるため、近接戦闘においても数が必要とされる。
 こういった数と組織的な機動力が求められる近接戦闘に、現代型艦艇は極めて適している。数を揃えられ、機動力に富み、機動が容易な縦隊をとって戦うからだ(※図6及び図8参照)。尚、余談ではあるが現代の我々は五隻程度の縦隊を円筒形に配置する隊形を取って戦う。これは近接戦闘で小規模な包囲ができるようにする為だ。(※図28参照)この隊形を始めとして現代の機動戦は、敵を近接戦闘で分断・包囲する様々なノウハウが考案され発展を遂げている」
  イスカンダル帝国の興亡史 図28

 話を続けながらガデルは、ガミラスの戦闘隊形を表した図を指し示した。五隻のガミラス艦による一列縦隊が縦に二つ並べられ、その計十隻のガミラス艦の縦隊が円筒状に配置されている。近接戦闘の際、ガミラスはこの円筒を狭めたり広げたりして敵の隊列を寸断し包囲に持ち込むのである。かつて地球艦隊やヤマトが目の当たりにした戦闘隊形の図をヴェルテに示すと、ガデルは近接戦闘の歴史について言及を始めた。

 「こうした機動戦の一環としての近接戦闘は、歴史的には滅亡の時代以降に一般的に行われるようになったとされる。それ以前の時代では、近接戦闘は包囲を突破するといったやむを得ない場合を除き殆ど行われなかった。というのは、近接戦闘は古代的な艦首砲が全く意味を成さない戦いだったからだ」

 そのように言うとガデルはホログラムボードの図の一つを指し示した。艦首砲の射界を示す扇状の図形を敵艦が横切る図だった。ガデルは説明を加える。

 「この図を見れば明瞭に分かることだが、艦首砲を備える艦は標的が接近すればするほどそれを艦首砲の射界に捉える事が難しくなる。(※図29参照)そして標的が味方の隊列に突入し混戦状態になれば大威力を持つ艦首砲の一斉射は行えなくなる。近接戦闘になると艦首砲は威力を封じられてしまうのだ。
  イスカンダル帝国の興亡史 図29
 そのため艦首砲による射撃戦が行われていた古代の戦場では、近接戦闘は包囲を突破するといったやむを得ない場合を除き避けられていた。敵味方とも相手が懐に飛び込んで来ないよう距離を置いて戦っていたんだ。 滅亡の時代、大マゼラン諸族はこの当時の戦いの方式に反し近接戦闘を機動や包囲と並ぶ戦いの主軸に据えた。理由は言うまでもなく波動砲を封じる為だ。一旦混戦状態を作り出してしまえばイスカンダル軍は波動砲を使えなくなる。戦いは敵弾を回避する機動性能と旋回砲の数で決せられ、そうなると高速で数に勝る現代型艦艇に分があった。イスカンダルとの戦いにおいて大マゼラン諸族は、機動と包囲でイスカンダル軍に大損害を与えた後、最後の段階で近接戦闘を挑みイスカンダル艦に止めを刺すこととなった。
 …以上が、現代型艦艇と機動戦の関係だ。長い話になったが、機動戦の三形態である『有利な位置への機動』、『包囲』、『近接戦闘』のそれぞれが現代型艦艇の特徴と密接に関係している事が分かっただろうか、兄さん」

 近接戦闘についての話を終えると、ガデルはこれまでの講義を総括し、ヴェルテに確認した。ヴェルテは少しの間腕組みをして考え込み、弟の講義の内容を頭の中で反芻させる。決して簡単ではない内容だったが、ヴェルテにとっては艦艇史にまつわる大きな疑問を解消してくれる講義だった。

 滅亡の時代に生まれた現代型艦艇が、何故波動砲を衰退させる決定打となったのか。それ以前の古代型艦艇でもイスカンダル軍を破ることはできたのに、波動砲に対抗する上で従来の艦艇と現代型艦艇は何が違っていたのか。ガデルが示した解答は、つまりはこういう事であった。

 機動戦が行われた場合、イスカンダル艦や中小艦等の古代型艦艇は現代型艦艇に対し機動で不利となり、包囲で更に危機に陥る。もしここで古代型艦艇が危機を打開しようと接近戦を挑めば混戦となり波動砲や艦首砲を封じられる。したがって機動戦を行えば現代型艦艇は古代型艦艇を決定的に打ち破ることができる ――。

 こういった説明は用兵学に通じていなければ不可能であっただろう。なるほど史書や技術史書で「現代型艦艇は波動砲を敗退させた」と解説されていないわけだ、とヴェルテは思った。

 今夜のガデルの講義は一つの山場を迎えた。何故波動砲は古代に廃れたのか。そして何故今、波動砲は使われようとしているのか。二つのテーマの内前者の理由の一端がガデルにより明かされた。次は古代イスカンダルがどのように戦いに敗れ滅び去ったのか、その姿が語られるだろう。

 ヴェルテは弟の語った内容を頭の中で整理し終えると、話の続きを促した。ガデルは分かったと頷くと、滅亡の時代に行われた古代イスカンダルと大マゼラン諸族の戦いについて語り始めた。

 「…では、話に入ろう。滅亡の時代の古代イスカンダル帝国と大マゼラン諸族の戦いはどのようなものであったのか。
 イスカンダル帝国が破れ滅びることになったこの戦いは、我々の星であるサレザー恒星系の近傍で行われた事から“サレザーの戦い”と称されている。まず、戦いまでの大まかな経緯から見てみよう。
 アサルコス王の死後、王位を巡る争いがあってから二十年程のち、大マゼラン諸族は一斉に反旗を翻した。反乱はイスカンダルが内乱で半壊した軍を再建する最中(さなか)に起きたとされる。反乱のきっかけは大マゼラン諸族に課せられた中小艦の軍役負担であったといわれるが詳細は不明だ。
 反乱軍の装備の充実振りから、反乱は周到に準備されたものだったとされる。大マゼラン諸族は互いに密約を交わし、現代型艦艇を創りそれを使う戦いを訓練した。イスカンダルは反乱の企てを察知できなかったようだ。内乱による体制の混乱に加え大マゼラン諸族が総がかりで計画の秘匿に努めたからだ。また、戦力が極めて急速に整備された事も大きい。イスカンダルにはある日突然大軍が姿を現したようにも見えただろう。
 反乱軍の戦力は次のようなものだった。まず、従来型の中小艦が二千隻。これは軍役で建造した分をそのまま流用したとされる。そして現代型艦艇が一万隻。大マゼラン諸族はこの新戦力を数年で造成したとされる。中小艦よりもずっと低コストな現代型艦艇だったからこそできた芸当と言えるだろう。
 対するイスカンダル軍の戦力はどうだったか。まず、戦力の中核であるイスカンダル艦は二百隻余りいたとされる。内乱で最盛期より数が減ったとはいえそれでも多数のイスカンダル艦が動員された。そしてそれを支援する中小艦が二千二百隻。大マゼラン全土で反乱が起きた為、イスカンダルは主に天の川銀河や小マゼランから戦力をかき集めたようだ」

 ここまで言うとガデルはホログラムボードに大マゼラン銀河の模式図を表示させた。彼は話を続ける。

 「この図を見て欲しい。反乱は次のような経過を辿った。まず、大マゼラン全土で暴動と蜂起が起こりイスカンダルの代官達が殺された。そして蜂起した大マゼラン諸族は、艦隊を大マゼランの四箇所に短期間で集結させると、一斉にサレザー恒星系へ向け進撃を開始した。
 対するイスカンダル軍はワープゲートを介し天の川銀河や小マゼランから中小艦を召集すると、サレザーで(大マゼラン)諸族軍を待ち受けた。そうしたのは次のような理由からと考えられる。
 まず、諸族軍の行動から、イスカンダルは反乱がバラバラに起きたのではなく組織的なものであると正しく認識した。そして、明確な意図の下行動する諸族軍を、サレザーから討って出て各個撃破するのは困難と判断した。なぜなら、四手に分かれて進撃する諸族軍の一つを攻撃した場合、攻撃された軍は後退して時間を稼ぎ、その間に残りの軍がサレザーに殺到する公算が大きかったからだ。その為イスカンダル軍は、サレザーの近傍で合流した諸族軍を迎え撃つ方策を採ったと考えられる」(※図30参照)
  イスカンダル帝国の興亡史 図30

 大マゼラン銀河の模式図に両軍の動きを表示させつつ、ガデルはそれぞれの軍の状況について解説した。その話し振りは非常に手馴れたものだった。用兵家であるガデルにとっては正に自らの専門分野である。ヴェルテは弟の解説を真剣な面持ちで聴いていた。ガデルはイスカンダル軍の思惑について言及する。

 「…イスカンダル軍は諸族軍の戦力をどのように見ていたのか。敵の各個撃破を目指さなかった事から、イスカンダル軍は諸族軍の艦艇を『足は速いが戦闘力は低い』と見ていたと思われる。イスカンダル軍の行動から判断する限り、彼らは逃げ足の速い敵を無理に追い掛け回すのではなく、敵に決戦を決意させ戦力を一つにまとめた所を叩くつもりだった。
 このイスカンダル側の判断は一定の合理性があった。イスカンダルの基準では、諸族軍の現代型艦艇は出力の低いエンジンを使った、速度が速いだけの貧弱な船に過ぎなかったからだ。大型火砲もなければ防御力も無い。こんな船がたくさん集まったところで射撃戦で脅威にならないし、むしろ纏めて撃破した方が反乱を早期に鎮圧できると考えていたようだ。それまで火力を最重視する戦いで最強の存在だったイスカンダル軍は、戦いの様態が変わろうとしている事に気付かなかった。そしてそれ故に、現代型艦艇の脅威を全く認識していなかった」

 重武装重防御の艦こそが戦場を支配する。こうした思想で長年勝利し続けてきたイスカンダル軍と、その思想を捨て去った諸族軍。戦いを前にしたイスカンダル側の思惑は、さながら旧約聖書のダビデと戦ったゴリアテのようであった。重厚な槍を手にし、重く堅固な鎧をまとったゴリアテの目の前に、肌着同然の姿のダビデが投石紐を片手に向かって来る。ゴリアテはダビデを簡単に倒せると思った事だろう。宇宙のゴリアテとなったイスカンダル軍は、この後どうなったのか。ガデルの話は両軍が戦端を開くところにさしかかった。

 「…こうしたイスカンダル側の事情から、諸族軍はサレザー近傍で合流を果たすことができた。合流後彼らはイスカンダル軍に決戦を挑むべく周囲に斥候を放ち、彼らを待ち受けるイスカンダル軍を発見した。こうしてサレザーの戦いは、両軍の望む形で戦端が開かれる事となった。
 戦いは、諸族軍がイスカンダル軍に襲撃を仕掛ける所から始まった。現代型艦艇の一隊が本隊から遠く離れて先行し、イスカンダル軍の前で申し訳程度に撃っては逃げる事を繰り返した。イスカンダル軍はあからさまな挑発を行う諸族軍の襲撃隊を見て、諸族軍が待ち伏せを行っていると判断し立体方陣を敷いた」

 戦いの経過を話していたガデルは、イスカンダル軍が敷いた陣形の立体図をホログラムボードに表示した。ガデルが説明を加える。

 「…これはこの時にイスカンダル軍が敷いた陣形だ。中央にイスカンダル艦百隻強の中核部隊があり、その前後左右上下の六箇所に中小艦部隊が配置された。中小艦部隊、それぞれ四百隻弱の背後には十六隻のイスカンダル艦部隊が配置され、中小艦部隊を援護する形になっていた。(※図31参照)
  イスカンダル帝国の興亡史 図31
 また、六つの中小艦部隊は複数のイスカンダル艦部隊が波動砲を使えるよう十分な距離を取って配置された。中小艦部隊と中央のイスカンダル艦部隊はおよそ四万(km?)程の距離をとっていたとされる。
 このように、イスカンダル軍は部隊の間隔が広い立体方陣を形成して前進した。どの方向から攻撃されても容易に対処できるこの陣形は、イスカンダル軍にとって効果が実証済みのものだった。過去の従属種族達の大反乱の際、イスカンダル軍はこの陣形で何倍もの数の反乱軍を打ち破ってきたからだ。…この図のように」

 ガデルはホログラムボードに表示していたイスカンダル軍の陣形図を変化させた。六つの中小艦部隊の一つに敵軍が攻撃を仕掛ける。応戦しつつ後退する中小艦部隊の背後で十六隻のイスカンダル艦部隊が動き、中小艦部隊の前に出て波動砲を発射、数で勝る敵を打撃する。その間に周囲のイスカンダル艦部隊が次々に増援に駆けつけて波動砲の一斉射を浴びせ、他の中小艦部隊が敵側面に機動する。最終的に敵軍はイスカンダル軍に半包囲され壊滅してしまった。(※図32参照)
  イスカンダル帝国の興亡史 図32

 図の変化が終わると、ガデルはもう一つ同じ陣形図を表示しそれを変化させた。次は六つの方向から敵が攻撃を仕掛けてくる。イスカンダル軍の立体方陣は包囲された状況である。六つの中小艦部隊が立体方陣の中心に向かってじりじりと後退する。その間中央にいたイスカンダル艦部隊が機動を開始し、包囲の手薄なところから強引に突破する。包囲を突き破ったイスカンダル艦部隊は六つの敵の一つを波動砲で壊滅させ、残りの敵も次々に屠っていった。強固なエネルギーシールドと強力な旋回砲(ショックカノン)を持つイスカンダル艦を、数百隻単位で打撃戦力に用いた戦いだった。(※図33参照)
  イスカンダル帝国の興亡史 図33

 滅亡の時代以前に行われた、従属種族の反乱軍とイスカンダル軍の戦いの戦例をヴェルテに示すとガデルは話を再開した。

 「もし大マゼラン諸族が古代型艦艇主体の戦力で戦いを挑んだとしたら、図で示したように勝利は難しかったかもしれない。おそらくイスカンダル軍は、立体方陣を敷いた自分達が惨敗するとは思っていなかっただろう。だが、諸族軍はイスカンダル軍がこの陣形を敷くのを待っていたのだ。諸族軍は現代型艦艇を一斉にゲシュタムジャンプさせイスカンダル軍に攻撃を仕掛けた。その結果イスカンダル軍に勝利をもたらしてきた立体方陣は、逆にイスカンダル軍に死をもたらす事となった」

 ガデルは変化させた状態のままとなっていたイスカンダル軍の陣形図を消した。そしてまた新しく同じ図を表示する。ガデルはホログラムの図に手をかざすとそこに図形を次々と書き加えていった。六つの中小艦部隊の近傍にそれぞれ四つの図形が、そして中小艦部隊の中間地点、丁度中央のイスカンダル艦部隊を立方格子状に包囲できる位置八箇所に図形が書き込まれた。(※図34参照)ガデルがヴェルテの方を向き解説する。
  イスカンダル帝国の興亡史 図34

 「今書き込んだ図形は諸族軍がゲシュタムアウトした地点だ。図をよく見て欲しい。中小艦部隊の周囲四箇所に現代型艦艇の部隊がゲシュタムアウトし、中小艦部隊と中小艦部隊の中間点、計八箇所にも現代型艦艇の部隊がゲシュタムアウトした。諸族軍は現代型艦艇一万隻の内六千隻を立体方陣外側の六つの部隊の攻撃に向け、四千隻を中央のイスカンダル艦部隊へと向けた。諸族軍は、ゲシュタムアウトした後イスカンダル軍の各部隊を各個に包囲するよう機動を開始した。図の変化を見てもらいたい」

 ガデルは図形を書き込んだイスカンダル軍の陣形図を変化させた。中小艦部隊の周囲にいる四つの現代型艦艇の部隊が筒状の隊形を作り、中小艦部隊の横隊戦列を背後のイスカンダル艦部隊ごとすっぽりと覆ってしまう。(※図35参照)そして中小艦部隊の中間地点にいる部隊はイスカンダル軍の立体方陣の内部へと一斉になだれ込み、球殻状の隊形を作って中央のイスカンダル艦部隊を完全に包囲してしまった。(※図36参照)
  イスカンダル帝国の興亡史 図35

  イスカンダル帝国の興亡史 図36

 「…図で示したように、諸族軍はイスカンダル軍の各部隊を各個に包囲した。(※図37参照)イスカンダル軍は諸族軍の機動を阻止できなかった。諸族軍は遠方から徐々に近づいて来るのではなくいきなり直近に大軍で現れ、高速で陣形内に雪崩れ込んできたのだ。現代型艦艇の強みが発揮された瞬間だった。立体方陣の各部隊の状況はどうだったか。個別に分けて説明しよう」
  イスカンダル帝国の興亡史 図37

 ガデルは立体方陣のホログラム図の、中小艦部隊のある辺りをいくつか手でなぞるようにして拡大させた。

 「まず、六つの中小艦部隊の内の一つ。諸族軍の現代型艦艇一千隻が中小艦の横隊戦列の側面四箇所にゲシュタムアウトし、筒状の包囲陣を作るように機動した。中小艦の戦列は側面を周回する諸族軍の射撃を浴びて崩壊し、生き残った中小艦はイスカンダル艦を捨てて、包囲陣の開口部から外へと逃亡してしまった。(※図38参照)
  イスカンダル帝国の興亡史 図38
 そして、別の中小艦部隊の一つ。さっきのものと同様、ゲシュタムアウトした諸族軍が筒状の包囲陣を作るように機動した。中小艦部隊はやはり諸族軍の最初の射撃で大損害を出したが、壊乱状態にならず戦列を解き、いくつかの集団に分かれた。そして諸族軍の機動を遮ろうと包囲陣に向かって機動を開始した。だが、この対応は逆効果だった。彼らは包囲陣に到達する前に壊滅したばかりか、イスカンダル艦は彼らが邪魔となり波動砲を撃てないまま、諸族軍の砲火を浴び続ける事となった。(※図39参照)
  イスカンダル帝国の興亡史 図39
 似たような事が他の中小艦部隊でも起きた。そのケースでは、中小艦が敵の砲火を回避する為戦列を解き、諸族軍の艦艇と同航戦を始めた。そして彼らが筒状の包囲陣の内側に沿っていつまでも周回を続けた為、イスカンダル艦は波動砲を撃てず敵の砲火を浴び続けた。その結果一部では味方の中小艦を敵ごと波動砲で砲撃する事態が生じた。サレザーの戦いについて記した史料の中には、『イスカンダル軍はある時点で同士討ちを始めた』と述べているものがある。中小艦部隊は最後には、イスカンダル艦の邪魔にならないよう包囲陣の中心に後退させられた後、壊乱状態となり包囲陣の開口部から逃亡するという顛末をたどった」(※図40参照)
  イスカンダル帝国の興亡史 図40

 現代型艦艇と中小艦部隊の戦いは、まさに機動戦の講義で解説した通りの経過を辿った事をガデルはヴェルテに示した。続いてガデルは残された一六隻のイスカンダル艦部隊について言及する。

 「こうして、中小艦部隊は撃破され、それを援護するはずだったイスカンダル艦部隊が丸裸の状態となって残された。イスカンダル艦部隊はこのまま全周囲にバラバラに波動砲を撃っても包囲陣を覆滅できないため、包囲陣の一角に波動砲の一斉射を浴びせた後、空いた穴から包囲を脱出しようとした。しかし、包囲陣は巧みに機動してイスカンダル艦部隊を逃がさなかった。このように動いたのだ」

 そう言うとガデルは別の新しい図を表示した。小さな円錐を大きな半透明の筒がすっぽりと覆っている。筒の表面には多数の円錐が筒を周回するような形で並べられていた。

ガデルが図を変化させる。最初に中央の円錐が先端を包囲陣である筒の開口部から側面の方へ向けた。すると筒の表面の円錐達が先端を筒の開口部へと一斉に向ける。続いて筒が円錐達を表面に沿わせたまま向きを変える。変化後の図は、中央の円錐と筒表面の円錐達が同航戦を行うような形となった。(※図41参照)
  イスカンダル帝国の興亡史 図41

 「…図で示したように包囲陣は機動し、イスカンダル艦と並走して射撃を浴びせ続けた。イスカンダル艦部隊がどのように方向を変えても、包囲陣は同じように向きを変え同航戦を行い続けた」

ガデルは諸族軍が行った複雑な艦隊機動を何でもない事のように話した。話を聞くヴェルテもそれを問題にする様子はない。これはひとえに、機械を操る情報処理の技術が極めて発達した大小マゼラン世界ならではの光景だった。ガミロイドやイスカンドロイドのような極めて高度なヒューマノイド・ロボットが使用される大小マゼラン世界では、太古の時代から大量の艦艇が一つの生き物のように運動できるソフトウェアとハードウェアの技術が存在していたのである。(※51)

(※51)ガミロイドやイスカンドロイドの存在を考えると、ガミラス艦をはじめとする大小マゼラン世界の艦艇は艦そのものが自律型ロボットのようになっており、半ば生物のような挙動を示すようになっている(例えば艦首の“目玉”の色が停止時・巡航時・戦闘時のそれぞれで変化する)という想像をすることが可能だろう。(更にいえば、昆虫の複眼状の機器を備えているガトランティス艦もまた、ガミラス艦同様に半ば生物のような振る舞いをみせるのではないかと想像することも可能だろう。)

 ガデルの話は包囲から逃れられなかったイスカンダル艦部隊の最期へとさしかかった。

 「…これにより、イスカンダル艦はその強固なエネルギーシールドを突破され次々に撃破されていった。彼らに最後の止(とど)めを刺したのは遅れてやってきた諸族軍の中小艦部隊であったかもしれない。諸族軍の中小艦二千隻は六つの隊に分けられ、それぞれイスカンダル軍の立体方陣外側の部隊への攻撃に投入された。一度にゲシュタムジャンプできない彼らは、それ故に遅れて戦場に到着し、生き残ったイスカンダル艦を艦首砲で狙撃した。実のところ諸族軍の中小艦は、イスカンダル艦撃破の切り札にされていたようだ。
 こうして、イスカンダル軍の立体方陣の外側にいた部隊は壊滅し、そこにいたイスカンダル艦は全て撃破される事となった」

 イスカンダル軍の立体方陣の外側にいた部隊がどのように壊滅したのか説明すると、ガデルは立体方陣中央にいたイスカンダル艦部隊について言及を始めた。

 「では、立体方陣の中央にいたイスカンダル艦部隊はどうなったか。彼らは機動する諸族軍を波動砲で砲撃しようとしたが、立体方陣外側の味方が邪魔になって満足な射撃ができず、なけなしの砲撃も分散して全く意味を成さない状態だった。その後包囲が完成すると、彼らは他のイスカンダル艦部隊と同様に一つに纏まって包囲から逃れようとしたが、包囲陣が巧みに機動したために失敗した。…これがその時の包囲陣の機動だ」

 ガデルは包囲陣の立体ホログラムを表示した。イスカンダル艦部隊を表す小さい円錐を大きな半透明の球が覆い、球の表面には多数の円錐が球を周回するように配置されていた。ガデルが図を変化させると球は筒状に変化して向きを変え、筒表面の円錐達と中央の円錐が同航戦を行う形になった。(※図42参照)
  イスカンダル帝国の興亡史 図42

 ガデルは話を続ける。

 「このようにして、イスカンダル艦部隊は包囲から脱出できずに射撃を浴び続けた。その後彼らは一つに纏まっての脱出は無理と悟り、二手に分かれて包囲陣に突入し包囲を食い破ろうとした。その結果諸族軍とイスカンダル軍との間で大規模な近接戦闘が起きた」(※図43参照)
  イスカンダル帝国の興亡史 図43

 ガデルの語る大マゼラン諸族とイスカンダル帝国の戦いは最後の段階を迎えた。中小艦部隊が壊滅し、それを援護するイスカンダル艦部隊が全滅していく中、イスカンダルの中核部隊が諸族軍との近接戦闘に突入する。ガデルはこのイスカンダル帝国そのものの終焉となった最後の戦闘について言及を始めた。

 「このサレザーの戦いの最後に行われた近接戦闘は、おそらく古代の戦いの中では最大規模のものであっただろう。この時点で両軍とも既に損害を出していて、イスカンダル艦部隊は百隻を割り、包囲していた諸族軍も数千隻に減少していた。イスカンダル軍としてはあくまで脱出を目的とした行動だったが、諸族軍はイスカンダル軍に猛然と襲い掛かり戦いは乱戦となった。イスカンダル軍は波動砲を完全に使用できなくなり、隊列もズタズタになった。こうなると数で大きく勝り、組織的な近接戦闘の訓練を重ねてきた諸族軍に分があった。
 イスカンダル軍はイスカンダル艦の強大な戦闘力を以て諸族軍の現代型艦艇を多数沈めたが、諸族軍に(イスカンダル軍の)立体方陣外側の部隊を撃滅した味方が加わるに及んで戦況は絶望的となった。この時の諸族軍の戦いは、犠牲を厭わない苛烈なものだったという。指揮官達は『イスカンダル艦を一隻沈めれば味方を百隻救える』と味方を鼓舞したと伝えられる。
 こうして、イスカンダル軍は敗れ去った。諸族軍は指導者以下多くの指揮官と兵力のおよそ半数を失うのと引き換えに、イスカンダル艦を一隻残らず殲滅したと伝えられている」(※52)

(※52)機動戦という新しい戦い方を編み出し、イスカンダル帝国の恐怖支配を終焉させた大マゼラン諸族にはエパミノンダスのような人物がいたと想像する事も可能だろう。エパミノンダスは過去のギリシアの戦いの研究により斜線陣を考案してスパルタを破った他、長年スパルタの恐怖支配を受けてきたヘイロタイ達を解放しスパルタを決定的に衰退させた。また、彼はスパルタとの最終決戦(マンティネイアの戦い)で勝利と引き換えに多くの上級指揮官達と共に戦死を遂げている。

 サレザーの戦いについて語り終えると、ガデルは一息ついて小休止した。そして、「波動砲が古代に廃れた理由」についての総括に入った。まず、イスカンダルと波動砲のその後について言及する。

 「以上が、サレザーの戦いの顛末だ。戦いに敗れたイスカンダル軍は全滅し、諸族軍はイスカンダル星を焼き払ったと伝えられる。伝説によれば、イスカンダル帝国最後の王は、地表と民が焼き尽くされる中、炎に身を投じて命を絶ったという。史料の語るところでは、この時生き延びるのを許されたのは僅かな数の王族達のみであったようだ。
 こうして、波動砲により宇宙に君臨したイスカンダル帝国は滅亡した。
 では、その後波動砲はどうなったのか。帝国を滅ぼすまでは結束していた大マゼラン諸族も、帝国が滅びると次代の覇権を巡って互いに争い始めた。この戦乱の時代に、いくつかの種族は波動砲を作り実戦に使用したとされる。しかしそれで戦場を支配し、大マゼランを統一する種族はついに現れなかった。滅亡の時代以降の戦争は、現代型艦艇と機動戦の有効性が繰り返し確認される場となったのだ」

 イスカンダルの滅亡について語ると、次にガデルはイスカンダル帝国以後の戦争の状況について言及した。

 「イスカンダル帝国が滅亡し、小国が多数群立する状態となった(大小マゼラン)世界の戦場では、殆どの場合数十から数百隻程度の現代型艦艇が機動戦を行っていた。そこに波動砲を持ち込んでも、もはやそれが活躍する余地は殆どなかった。波動砲搭載艦はゲシュタムジャンプや高速の機動を駆使する現代型艦艇に簡単に背後を襲われた上に、それを防ぐため護衛を付けたとしても、護衛が敵と戦うために機動を行えばその時点で波動砲は使用できなくなった。端的に言って、機動戦が一般化した戦場では波動砲は全くの役立たずとなってしまったのだ。
 こうして、波動砲は戦場から姿を消していった。それと同時に、波動砲を最強の武器たらしめた最大の要因である、横隊戦列で遠距離から射撃を行う“火力戦”の様式も廃れる事となった」

 今夜のヴェルテとガデルの会話の、主要な話題の一つがついに幕切れを迎えた。古代イスカンダル帝国と大マゼラン諸族の戦い、そしてその後の波動砲の衰退について語り終えたガデルはヴェルテに言った。

 「以上が、参謀本部の戦史研究で得た『波動砲が古代に廃れた理由』だ。『宇宙を引き裂く』という危険性以上に、『戦場で役に立たない』という事が決定的な理由となって波動砲は古代に姿を消した。そしてそれ以降、現代まで使われる事はなかった。…波動砲の歴史についてはこれで終わりだ、兄さん」

 ヴェルテが感想を述べる。

 「社会的な要因や技術的な要因で戦いの姿が変わり、それまで最強の兵器だった波動砲が使いようのない兵器に変わってしまったという事か。なるほど。戦争史の分野ではそのような見方をするのだな。歴史学の視点とは随分違う。示唆に富む良い講義だった。
 ではガデル、次を話してもらおうか。役に立たないはずの波動砲が、なぜ今使われようとしているのか」

 次の話を促すヴェルテに、ガデルは少し考えるように腕組みをして言った。

 「それについてだが、兄さん。今夜はそれも話すつもりだったが、いささか話が膨らみすぎて夜も遅くなった。続きは明日にしたいのだが、どうだろうか」

 「お前さえ良ければそれで構わないが、都合はつくのか、ガデル」

 「それは問題ない」

 ガデルはヴェルテに簡潔に答えた。

「デスラー砲の実射テストに出るのは明後日だ。細かい準備はあるが、夜に話をする程度の時間はとれる。それに波動砲についての自分の考えは兄さんに話しておかねばならない事だ。これも言わば軍務の一環だよ。明日も少し込み入った話になると思うがよろしく聞いてくれ、兄さん」

ガデルの言葉にヴェルテは軽く笑みを浮かべた。軍務を気遣っての発言に弟はこれも軍務だと返したのである。ヴェルテは分かったと短く答えると、弟に就寝の挨拶をした。二人は部屋から出ていくと、それぞれの家族の寝ている寝室へと向かっていった。

こうして、この日の波動砲にまつわる二人の対話は終了したのであった。



2. ガミラス第二帝国の戦争準備 ――ガトランティス軍とガデル・タラン――

宇宙戦艦ヤマト2199 艦艇精密機械画集 ――ヴェルテとガデルが古代イスカンダルと波動砲の歴史について語り合った翌日の夜。業務を終えた二人は、昨日と同様ヴェルテの邸宅に戻り食事を済ませるとガデルの私室へと向かった。昨日の話の続きをする為であった。

 書籍や端末と思しきものが並ぶ部屋の一角において、ガデルが話を切り出す。

 「では、兄さん。昨日の話の続きに入ろう。古代に廃れた波動砲が、なぜ今使われようとしているのか」

 昨日のガデルの講義は、古代に波動砲が廃れた理由を語ったところで中断していた。今日は現代の話である。古代イスカンダル帝国の滅亡後、使いようのない兵器となり現代まで使用されなかった波動砲が、何故今ガトランティスとの戦争で使われようとしているのか。

 ヴェルテはガデルの前で椅子に腰掛け、彼の話を真剣な面持ちで聴いていた。ヴェルテにとって今日の話は、軍需国防省の長として実施した事と正に関係する事だったからである。彼はこれまで、ガトランティスとの戦争に向け通常のガミラス艦を大量生産する一方、波動砲装備の親衛艦を開発し実戦配備を行ってきた。全てはデスラー総統とガデルの要請によるものであった。

 ――弟は何故役に立たないはずの波動砲の実戦配備を総統に提案したのか。ガトランティスが大マゼランに侵攻して以来、弟はにわかに波動砲に興味を示すようになった。歴史的遺物に過ぎない波動砲に何故、今さら注目するようになったのか。おそらくは、弟が思い描いている戦争の姿と関係しているのだろう。一体弟は、どのような戦争をしようとしているのか。

 そのような考えを脳裏に巡らせながら、ヴェルテは弟であるガデルの講義へと耳を傾けていた。

 ガデルの講義は序論の部分へと入った。

 「まず最初に、大まかな内容について話しておこうと思う。
 そもそも波動砲は、古代イスカンダル帝国の滅亡後急速に廃れ、現代まで使われることのなかった兵器だった。何故使われなかったのか。それは、古代イスカンダル滅亡の時代以降に行われるようになった機動戦に、波動砲の大火力が有効でなかった為だ。
 兵器としての波動砲は、横隊戦列を組み大火力を投射する戦い、即ち“火力戦”で最大の効果を発揮する兵器だった。その為火力の戦いから機動力の戦いへと戦争の様相が変わると、波動砲は活躍の場を失い命脈を絶たれて消えていったのだ。
 しかし、およそ数千年の時を経て、再び戦争の様相が変わろうとしている。我らガミラスという統一帝国の誕生、そしてガトランティスという同じ統一帝国との衝突により、戦争が大規模化した結果、再び戦いに火力が要求されるようになったのだ。
 こうした状況下では、波動砲は再び有効な武器となり得る。そこで自分はこの新しい戦争の様相に対応できるよう、軍と兵器システムの再構築を行った。波動砲の導入もその一環である。
 では、新しい戦争の様相とはどのようなものなのか。そして我々はそれにどう対応しようとしているのか。これらについて述べるために、これから次のように話を進めていきたい。
 まず第一に、従来の我々の軍隊のシステムについて解説する。従来の我が軍は、一言で言えば『機動戦に最適化されたシステム』を持つ軍隊だった。一方で我が軍は、同じく機動戦を駆使する大小マゼラン諸国軍を凌駕する特長を有していた。後(のち)の議論に向け、まずはそれらについて概観しておく。
 続いて第二に、戦争の変化をもたらした敵、ガトランティスについて述べる。ガトランティス軍は判明した限りでは、我々と全く異なる兵器システムを持ち、全く異なる戦い方をする軍隊だった。彼らと我々の相違点とは何か。それについて解説を行う。
 続いて第三に、ガトランティスによりもたらされた戦争の変化について述べる。この変化とは、一言で言えば『火力戦の復活』という、数千年ぶりに起きた巨大な変化だった。従来の我が軍のシステムはこの変化に対応できず次々に問題を露呈し、ついには小マゼランで破滅的な敗北を喫するに至った。続く大マゼランの会戦においても、我々はかろうじて勝利したものの敵に対するシステムの劣勢ぶりが明らかとなった。では、具体的に何が起きたのか。それについて解説を行う。
 続いて第四に、戦争の変化に我々がどう対応したのかについて述べる。我々は数千年ぶりという戦争の変化に対応するため、軍と兵器システムそのものの再構築を迫られた。その結果生まれたシステムは、機動戦で必須の機動力を損なわずに火力戦を行えるものとなった。波動砲はそこである重要な役割を担うことになる。新しいシステムとはどのようなもので、どのような戦い方をするのか。それについて解説する。古代に廃れた波動砲を現代に用いる意味も、そこで明らかとなるだろう。
 最後の第五に、新しい戦争のシステムの課題について述べる。このシステムはデストリア(級巡洋艦)やクリピテラ(級駆逐艦)といった従来の装備を使用しているが、これらはいずれ変更されなければならない。それについての自分の考えを述べて、この話を締めくくる事としたい」

 今夜のガデルの“個人講義”は昨晩のものとは違い、参謀本部で行われる講義と遜色ない程の整った内容になっていた。ガデルは職務の間に話すべき内容をしっかり頭の中で纏めてきたのだろう。ヴェルテはそのように思った。昨日の即興で行った講義とは随分と趣きが異なっていた。

 一方のガデルは、今夜の話を職務に準じたものにするつもりだった。昨日の話は雑談の延長のようなものである。だが今日話す内容は、これからガミラスが銀河系で行う大規模な戦争の帰趨に直結する事だった。講義を進める過程で自分はおそらく、軍需国防相としての兄の意見を求める事になるだろうとガデルは考えていた。

 兄弟としてのヴェルテ・タランとガデル・タランではなく、軍需国防相と参謀本部参謀次長が相対している。今夜の話は遊びではない。ヴェルテとガデルの二人はそうした意識で講義と対談を行おうとしていたのだった。

 ガデルの講義は本論に入った。

 「では第一の話題、『従来の我が軍のシステム』について解説する。ガトランティス軍の大侵攻を受けるまでの我が軍は、『機動戦に最適化されたシステム』を持つ軍隊だった。そしてそのシステムは、同じく機動戦を駆使する大小マゼラン諸国軍を凌駕する特長を有していた。この“従来のシステム”について、装備と編成の二つの面から説明する。
 まず装備についてだが、この図を見て欲しい」

 そのように話を切り出すと、ガデルはガミラス艦のいくつかをホログラムボードに表示した。

(「ガミラス第二帝国の戦争準備―ガトランティス軍とガデル・タラン―」につづく)

ヤマトガイズコレクション宇宙戦艦ヤマト2199』  [あ行][テレビ]
総監督・シリーズ構成/出渕裕  原作/西崎義展
チーフディレクター/榎本明広  キャラクターデザイン/結城信輝
音楽/宮川彬良、宮川泰
出演/山寺宏一 井上喜久子 菅生隆之 小野大輔 鈴村健一 桑島法子 大塚芳忠 麦人 千葉繁 田中理恵 久川綾
日本公開/2012年4月7日
ジャンル/[SF] [アドベンチャー] [戦争]
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【theme : 宇宙戦艦ヤマト2199
【genre : アニメ・コミック

tag : 出渕裕 西崎義展 山寺宏一 井上喜久子 菅生隆之 小野大輔 鈴村健一 桑島法子 大塚芳忠 麦人

【投稿】ガミラス第二帝国の戦争準備―ガデル・タランとヴェルテ・タラン― 『宇宙戦艦ヤマト2199』ガミラス考察補論集1 小説~ガトランティス戦争編~

 当ブログの読者であるT.Nさんから、『宇宙戦艦ヤマト2199』の世界を考察する投稿をいただいたので、以下に公開する。
 豊富な資料を駆使し、小説形式を織り交ぜながらガミラス社会の実像に迫る論考だ。先に公開した投稿「イスカンダルの王権とデスラーの人物像について」の一部を構成するものである。

---
『宇宙戦艦ヤマト2199』 ガミラス考察補論集1

思考実験としての続編小説~ガトランティス戦争編~

前回から読む

2. ガミラス第二帝国の戦争準備
 ――ガデル・タランとヴェルテ・タラン――


―― 1 ――

「宇宙戦艦ヤマト 2199」からの音楽 「…大した練度じゃないか。見事な艦隊運動だったよ、タラン君」

 大マゼランのとある星域において行われたガミラス正規軍師団と支援軍師団の合同訓練――正規軍師団と支援軍師団の共同作戦が、これからのガミラス軍の標準となる――において、デスラーは指揮した艦隊が、自らの意図した通りに動くのを見て賞賛した。

 「お褒めに預かり光栄です、総統」

 デスラーの賞賛を受けたガデル・タランが応える。彼はガミラス航宙艦隊全軍の訓練に責任を持つ立場だった。その成果を今、彼はデスラーに対し示してみせていた。

 ガミラス国防軍参謀本部の参謀次長であり、ヤマトのバレラス襲来後ヒス・ディッツ政権に属したガデル・タランは、政権が滅ぼされた際デスラーに赦され、元の役職と勤務を安堵されていた。彼は職務に復帰すると、彼同様デスラーに赦されたキーリング参謀総長以下参謀本部の殆どの人間達と共に、デスラー復権以来5年以上の歳月を軍の再建と訓練に捧げ続けてきたのだった。

 ガデルにとって、ガミラス第二帝国で大幅に膨れ上がった軍隊を訓練して精兵に仕立て上げるのは多大な労力を必要とはしても、決して手に負えない難事ではなかった。軍の指揮系統がヤマトのバレラス襲来以前と違い一本化されていたからである。

 ガミラス第二帝国成立以前のガミラス軍は、組織面でいくつもの問題を抱えた組織だった。まず第一に、航宙艦隊総司令の肩書きを持つガル・ディッツや同じく中央軍総監の肩書きを持つヘルム・ゼーリックといった名門貴族達が、それぞれ手勢のような部隊を率いて割拠している状態だった。これはガミラス帝国が形成されていく過程で生じた問題だった。
 デスラーの叔父エーリク・ヴァム・デスラー大公の治める「デスラー公国」が他の公国を征服・併合しガミラス大公国を統一していく際、デスラー公国は敵対する公国を滅ぼす一方、帰順した敵(や自国)の大貴族には帰順と引き換えに、相応の役職と権限と特権を与えていったのである。
 その結果、ガル・ディッツは空間機甲師団を始めとする航宙艦隊を(※1)、ヘルム・ゼーリックは植民星守備隊を始めとする軌道航宙軍をという具合にそれぞれが管轄の部隊を自らの手勢のように好きなように動かし――デスラーに睨まれない範囲でという制限はあったが――、各々の振る舞いをデスラー以外の誰にも邪魔できないという状態が生み出されていた。(※2)

 第二に、国軍の要職に就く彼ら名門貴族が権勢を振るうが故に、国制上の最高司令官であるデスラーは国軍を最高司令官として直接指揮できていない状態だった。国家元首であるデスラーは役職的に国家元帥であるゼーリックや航宙艦隊総司令のディッツの上に立ち、彼らの生殺与奪を握る存在であったが、国軍の指揮に関してデスラーは指揮権を独占できていなかったのである。この事はガデルの属する国防軍参謀本部にとっても望ましくない状況だった。彼らの管轄にない部隊が多数存在したからである(例えばディッツは航宙艦隊総司令部を国防軍参謀本部に並列する存在として設けていた)。

 そして第三に、各々好きなように振舞う国軍幹部達の度を越した専横やクーデターの可能性を防ぐため、彼らを監視し恫喝する親衛軍の創設を必要とした事である。ハイドム・ギムレーが率いていた航宙親衛艦隊はデスラーの黙認の下で拡大を続け、ヤマトのバレラス襲来時には国軍に比肩する規模にまで成長していたのだった(※3)。ガミラス国内の資源が、国軍と親衛軍の2つに分散する状態となっていたのである。

(※1)「宇宙戦艦ヤマト2199全記録集 vol.2」の「ガミラス組織図」を見ると、ディッツは明らかに空間機甲師団を「子飼いの部隊」として自らの手勢のように扱っていると思われる。
 その一方で彼は、「航宙艦隊総司令」の立場から、参謀本部管轄の一般師団を「借り受ける」という形式で指揮し、動かしていると考えられる。11話冒頭のディッツがドメルに言ったセリフ「ルントの第八軍を派遣した。グデル旗下の空間機甲軍もそちらに移動中だ」はそうした背景があると考える事ができるのではないだろうか。

(※2)読者の中には「ではゼーリックがバラン星に大マゼランの基幹艦隊を集めることが出来たのは何故か」と疑問を持たれる人がいるかもしれない。それについては次のように考える事ができるだろう。
 ――「宇宙戦艦ヤマト2199全記録集 vol.2」の「ガミラス組織図」を見る限り、ゼーリックは軌道航宙軍を直接指揮する立場にあるが、基幹艦隊に含まれる一般師団や空間機甲師団を直接指揮する立場にはない。そのため、彼は国軍の装備の監察に責任を負う「中央軍総監」としての立場から、「観艦式を行い国軍の状態を確認する」という名目で基幹艦隊をバランに集めたと思われる。そして艦隊に演説を行い、「心ある者よ共に立て(私の指揮下に入れ)」と扇動したのではないかと思われる。

(※3)ヤマト2199第五章パンフレットのハイドム・ギムレーの記述では、「建国時の親衛隊設立にも密かに関与し、やがて長官の地位に就くと、親衛隊を国軍に比肩するほどの軍事力を有する組織へと育て上げた」とある。航宙親衛艦隊は、劇中の描写において第二バレラスが崩壊した際に全滅したように見える事、親衛隊が反乱鎮圧を専らの任務としていた事等から規模としては数千隻程度だったのではないかと考えられる。(親衛隊はその規模故にではなく、国軍と遜色ない装備と組織を備えていた事から、パンフレット等では「国軍に比肩する」と解説されているのではないだろうか。)

 ガミラス第二帝国が成立した後、ガミラス軍の状況は問題がないとは言えなくとも望ましい方向へと改善された。まず、大貴族の多くがゼーリックの反乱事件やヒス・ディッツ政権滅亡の際に粛清され、親衛軍を除く国軍の全ての部隊が国防軍参謀本部の指揮下に移行した。特筆すべきはディッツがいなくなったことで、デスラーが国軍最高司令官と航宙艦隊総司令を兼務し、航宙艦隊の全てが彼の指揮下に入ったことである。今や彼は望めば艦隊を直接率いて戦うことができるようになったのである。
 次にデスラーの親衛軍、特に航宙親衛艦隊はヤマトのバレラス襲来時に全滅して以降再建されず、デスラーの身辺警護を勤める文字通りの親衛部隊と、親衛艦二百隻弱から成るデスラー直属の親衛艦隊にまで規模を縮小された。親衛隊に属し、一時はヒス・ディッツ政権により殆ど解体された国家軍警察や秘密警察、支配諜報局といった機構はデスラーにより国軍幹部を監視するため再び設置されたとはいえ、ガミラス第二帝国はその持てる資源を国軍の拡大のみに振り向けることができるようになったのである。
 ガデルは、ヤマトのバレラス襲来前以上の規模に拡大していくガミラス軍の育成を、誰にも邪魔される事無く行うことができるようになったのだった。

 デスラーが視察に訪れた合同訓練の演目は、部隊毎の機動演習になっていた。ガデルが中心となって訓練を施したガミラスの艦隊が、標的役となった別の艦隊に向かって進んでいく。デスラーが攻撃するよう指示を下すと、標的役に向かって進む一本の太い帯が、何本かの細い帯に分かれていった。行軍隊形から戦闘隊形へと展開したのだ。細い帯たちが、標的役の艦隊を包み込むように広がっていく。標的が包み込まれまいと様々に形を変え、動き回っても帯達は巧みに曲がり、旋回し、標的を捉える。標的を包み込んだ帯達は、小魚の大群の周囲を回遊するサメのように周囲を旋回し、それらはやがて標的を隙間無く覆う一枚の球殻へと姿を変えた。艦艇を円筒状に配置したガミラスの戦闘隊形が、複雑に機動しても隊列を全く崩すことなく標的を捉え、包囲を完成させたことに、デスラーは賞賛の言葉をガデルに与えた。

 ガミラス軍の合同訓練は、部隊毎の機動演習から、やがて敵味方に分かれての模擬戦へと移行した。支援軍師団主体の「前衛」が敵側を包囲しようとする。その前衛の周囲に、突如敵側の別働隊がゲシュタムアウトしてきて逆包囲しようとすると、正規軍師団主体の「後衛」が別働隊を叩いて前衛の脱出を援護し最初の対戦が終了した。
 次は攻守ところを変えて第2戦が始まる。前衛がビーム砲で敵側の動きを止める制圧射撃を行いながら敵側の前面に展開すると、前衛の背後で縦隊を形成した後衛がミサイルの大量発射で敵側の戦列に突破口を開ける。後衛が最大戦速で突入し敵側の戦列の突破に成功すると、最終的に敵側は前方を前衛に立ちふさがれ、後方は後衛に回り込まれて包囲されてしまった。
 再び攻守を変えて第3戦が始まる。前衛が敵側を攻撃し、偽装退却を行う。敵側が逃げる前衛を追撃し、前衛は後衛が待ち受けている地点まで敵側をおびき出すと、突如反転して逆襲に転じた。敵側は気がついたときには後方を後衛に回り込まれ、後衛の攻撃に対応しようにも前方の前衛の攻撃で思うように動けずついに包囲されてしまった。こうして、何回かの模擬戦を行ったところで合同訓練はその日の全ての演目を終了した。 

 演目の終了後、デスラーは訓練の行われた星域での、訓練視察の最後の締めくくりを行うべく指示を出した。

 「これより閲兵と訓辞を行う。閲兵後、訓練の成績優秀者を”デウスーラ”に呼びたまえ」

 観兵式の準備が始まった。これから艦隊の各部隊が整列し、分列行進して閲兵を受けるのである。全軍召集の合図となる勇壮な音楽が全てのガミラス艦の艦内に響き渡った。艦が隊列を組むと、音楽の合間合間に、それぞれ異なるサイレンのような音が艦内に流れる。艦隊機動時に隊列の変更を指示する合図である。何種類ものサイレン音が流れるたびに、艦列が分かれ、一つになり、様々な隊形を形作る。訓練に参加していた1万隻以上の艦艇が見せる行進の光景は、もし見物客がいたならさぞかし壮大な光景に見えた事だろう。こうした艦達の奔流のすぐ傍を、総統の座乗する「デウスーラ三世」は鎮座し、見守るのだった。

 支援軍の創設と、ガミラス帝星における大動員令によって巨大な規模の艦隊を造成したガミラス軍は、デスラーの命によりガデルが中心となって作成した『2202年8月1日規定』と呼ばれる操典(※日付は地球の西暦に換算した数値)で述べられている複雑な機動を修得するために、ガトランティスとの戦争を開始する直前の最後の2年間(つまりヤマトのバレラス襲来後5年から7年の時期)を厳しい教練と監視の下で過ごしていた。大マゼランの7箇所の星域に設けられた野営地で指揮を執っていたのは、兵達の訓練に責任を負うガデルを始めとする上級将校である。この時期の部隊は、艦艇の操作から複数の師団で構成される軍団レベルの機動まで、『2202年8月1日規定』の様々な部分の訓練と学習に時間をかけていた。訓練を確実に高いレベルにまで到達させるために監督官が派遣され、さまざまな戦術機動を行う兵達を視察し、下士官や下級将校に『2202年8月1日規定』についての知識を質問した。これに加えて、旅団レベルでは定期的に会合が持たれており、そこでは旅団長達が操典の戦術機動を達成するための細かいノウハウを議論し研究が行われていた。下級将校と下士官は、このような会合で新たに得られた知識を訓練や演習時に兵士達に伝える事が期待されていた。

 2年にわたる日常的な訓練は、兵士達にとっておそろしく単調なものだっただろう。士気を保つために、デスラーは野営地を訪問する努力を欠かさなかった。帝国の各地を巡回して支援軍兵士の応募の状況や艦艇・軍需品の生産の様子を視察する傍ら、近くの野営地に赴いて訓練を視察し、視察の最後には必ず兵士を慰撫するため壮麗な儀礼で彩られた大規模な軍事訓練観閲を行っていたのである。

 行進が終わると、艦艇の大群が整列する中、訓練の成績優秀者を乗せた連絡艇がデウスーラの周囲に集まり、搭乗者を順次デウスーラへと送り出した。ゼルグード級航宙戦艦よりも巨大な、全長一キロ前後もある艦に乗艦した将兵は、艦橋へと通される。彼らはデウスーラの巨大な艦橋に設けられた玉座の間でデスラー自らの閲兵を受け、直接の訓示を受けるのである。ガミラス帝国の総旗艦として建造されたデウスーラは、デスラーが座乗してガミラス軍を指揮すると同時に政務を行うための特殊な構造を艦の各所に設けていた。艦橋はその最たるもので、軍艦の艦橋としては異様に広い空間に、デスラーの玉座を境にして艦首側を操艦と指揮を行う司令室に、艦尾側を謁見を行う玉座の間としていた。玉座の間いっぱいに整列した何百人もの兵士や将校を、デスラーは一人一人に微かな微笑を投げかけ、時には親しく声をかけながら閲兵し、特に功績をあげた将校達と兵士達にデスラー(鉄?)十字章を授与していった。この種の勲章が大勢に与えられるのはガミラス軍の歴史においても初めての事だった。この事に関して、彼はナポレオンのような言葉をガデルに対し言っていた。

 「兵達を率いるには、飾り物がいるのだ。」

 整列する将兵を一人一人自らの目で点検し終わると、デスラーは玉座のある壇上へと戻り、全部隊の将兵に向けた訓示を始めた。玉座の間に整列する将兵に向かって語りかけるという形式で行われるデスラーの演説は、映像として各艦の艦橋のメインスクリーンや艦内のモニターに映し出され、将兵達は起立・不動の姿勢でこれを聞く。デスラーの訓示の内容は次のようなものだった。まず、「我が軍団」「我が副官」という言葉を用い直説法で兵士に語りかけ、野営地の部隊の最近の状況について熟知しているところを見せた。

 「諸君。我が軍団は、厳しい訓練に従事する傍ら、さらに多くの新兵を加え、部隊の規模を拡大させた。我々は、自らに課せられた課題をこなすだけではなく、新たな戦友を教え導く使命も引き受ける事となったのだ。達成するべき課題に加え、慣習や個々の事情の異なる者達をとりまとめ、精兵とするのがいかに難しい事か。こうしたことは貧弱な演習の言い訳にする事も可能なのだが、しかし、貴官達にはそれは不要だった。なぜなら、私は貴官達に完全に満足しているからだ」

 そして、訓練の内容に言及し、自らもまた戦術機動の知識や、『2202年8月1日規定』の内容に通じている事を示した。

 「…我が軍団は、敵が大兵力で形成する整然とした戦列をいかに崩し、包囲に追い込むかに意を用いてきた。包囲を完成させるためには、一隊が機動する間、別の一隊が射撃で敵戦列の動きを止める必要がある。しかし、これは言うまでも無く難しい事である。高速の機動を旨とする我々は、しばしば敵の戦列の眼前で、部隊を個々の旅団単位で旋回する必要に迫られ、敵の戦列からの集中砲火を浴びる事となるからである。しかし諸君はその難しい任務をよくこなした。一部の隊は戦列からの砲火により隊形が崩れる事を余儀なくされたが、それ以外のものは見事に射撃戦に対応し、戦列を翻弄した。支援軍第18旅団の働きは特筆に価するものである。優勢な敵砲火にも損害を出さず、逆に多数を撃破し機動を成し遂げたのだ。我が旅団長、ダゴンの特別な苦労があった事は明らかである…」

 デスラーの口からは時々批判も出たが、全体としては極めて肯定的な評価を下す。演説全体を通じてデスラーは旅団長達を賞賛する事に気を使い――旅団長には純血ガミラス人だけではなく一等臣民に昇格した元二等臣民が大勢いた――、将兵達に特別な敬意を払った。名を呼ばれ賞賛された将兵は皆一様に姿勢を正し総統への敬意を表した。訓示はやがて、戦いの大義へと話を移していく。

 「諸君。我々がそれぞれの故郷を離れて既に2年余りになる。だが、我々は決して徒(いたずら)に宇宙を放浪していたわけではない。大ガミラス帝国の再建、大小マゼラン諸族の復興。この宿願を果たすためである。…諸君。宇宙は広大である。我々の願いを果たすに足る富と惑星は眼前に広がっている。ゆえに、我々は十分に戦力を増強し、来るべき日に備えなければならない。銀河に揺るぎない足場を築き、蛮族と周辺の星々をことごとく討ち従え、偉大なるガミラス帝国を、再びこの大宇宙の盟主とするのだ!諸君の今までの苦労に感謝し、なお一層の忠誠を期待する。」

 こうして締めくくられたデスラーの演説に、全軍の将兵達は「ガーレ・デスラー」「ガーレ・ガミロン」の歓呼で応えたのだった。

 総じて訓練視察におけるデスラーの行動は、訓練中の将兵に敬意を払い、彼らの心を巧みに掴むものと言えた。彼は巨大な規模に膨れ上がっていく国軍、特に航宙艦隊が自分や帝国にとって信頼できる存在になるように一般将兵のレベルから軍を掌握しようと努めていたのである。

 それに加え彼は、将兵を精鋭に仕立て上げると同時に彼らからの支持も獲得できる仕組みを兵の育成システムの中に設けていた。訓練の監督官が下士官や下級将校に『2202年8月1日規定』についての知識を質問するのがそれである。こうする事で、殆どの場合艦艇や機器の操作の習熟のみが求められる下士官や下士官上がりの下級将校に対し、指揮官となるのに必須だが日々の業務をこなすだけでは身に着けることのできない高等用兵の知識――例えばある状況下で敵が何を考えどう動きうるか、それに対しこちらはどのように部隊を動かし戦うか、といった戦術シミュレーションと指揮・統制のノウハウであるが、これは地球であれば軍大学で学ぶ事柄だった――を学ぶ機会を与え、彼らが指揮官に昇進できる道を開いていたのだった。

 この”教育”では、優秀と認められた者は成績優秀者としてデウスーラで閲兵を受け、特に優秀な場合はデスラー十字章を授与されるという仕組みになっていた。この措置は国軍、特に航宙艦隊の拡大を見据えてのものでもあった。今訓練を行う最中にも、続々と新しい艦隊が造成されていた。デスラー十字章は授与された者が指揮官としての将来を嘱望されている事を周囲のものに示す格好の目印だったと同時に、新たに造成された艦隊を指揮する指揮官候補を選抜する装置としても機能していたのである。

 こうした努力や制度の結果、デスラーは新たに造成された正規軍師団や支援軍師団においても一般将兵の支持を獲得するのに成功した。従来から存在している部隊の将兵のデスラー支持は変わらなかったから――大マゼランの会戦に参加した将兵の多くが、下士官は将校に、兵士は下士官に昇進を果たした上に、彼らには指揮官に昇進できる道までもが用意されていた――、今や全ての国軍将兵のデスラーへの支持は揺るぎないものになったと言っても過言ではなかった。デスラーはこうした一般将兵の熱狂的支持と、各惑星社会で広く見られるようになった救済者としての支持を背景に、帝国の基盤を確固としたものにしていったのだった。


―― 2 ――

【Amazon.co.jp限定】宇宙戦艦ヤマト2199 アートキャンバス(深宇宙の魔響) ――惑星ザルツの恒星系。デスラーが視察に赴いた訓練野営地の近傍に位置していたこの恒星系に、訓練の視察を終えたデウスーラが戻ってきた。デウスーラに付随して帝国各地を巡回する大型住居艦を残し、デウスーラは訓練視察へと赴いていたのである。かつての第二バレラスよりは小さいがそれでもデウスーラをはるかに上回る巨艦へとデウスーラが近づいていく。

 「住居艦への接舷10秒前。9、8、7……」

 デウスーラは住居艦へのドッキング・シーケンスに入った。艦橋でオペレーターがカウントダウンを開始する。艦橋の窓を覆い尽くすかのように広がってくる住居艦の巨大な艦影を、玉座に座るデスラーは悠然と眺めていた。オペレーターの「ゼロ」という声と同時に、ずんという音響がデウスーラ艦内に鳴り響き、デウスーラはドッキングを終了した。デスラーと、とある任務のために訓練地から同行したガデルが住居艦に降り立つ。住居艦のデッキでは、ヴェルテ・タランとそのスタッフ達が整列していた。デスラー達を出迎えたヴェルテが言った。

 「総統。ザルツの自治政府代表と”生産施設運営者”代表が面会を求めております」

 デスラーが巡回先で必ず受ける多数の伺候や面会、請願の一つだった。デスラーは指示した。

 「応接の間に通せ」

 「ザー・ベルク」

 ガデルの兄でありヤマトのバレラス襲来後もデスラーの傍で仕え続けたヴェルテ・タランは、デスラー復権後、以前と同じく軍需生産面を統括する軍需省の長官と国防総省のトップを兼任する事となった。彼は元の地位に納まったその日から、ガミラス軍を再建するべく艦艇を中心とした軍需生産と兵器開発の陣頭指揮を執り続けていた。デウスーラ三世を建造し、デウスーラに付随する住居艦が完成すると、自らも住居艦に移り、デスラーやデウスーラと共に帝国各地の生産現場を視察する日々を送っていたのだった。

 デスラーが住居艦内に設けられた「応接の間」に向かうと、既に面会者が控えていた。デスラーはこうした多数の面会者や請願者に会うのに、時と状況によって面会する場所を使い分けていた。デウスーラの艦橋にある「玉座の間」と、住居艦に設けられた「応接の間」や「謁見の間」、そして有人惑星にある迎賓館である。地上でデスラーに会うというのでなければ、面会者達は宇宙船に乗ってデスラーに会いに行くことになるが、その時彼らは必ずデウスーラと大型住居艦、そしてその周囲を固める親衛艦の威容を目にすることとなった。ガミラス第二帝国に住む人々にとって、デウスーラと大型住居艦はそれぞれ帝国の「武の象徴」であり、「統治の象徴」であった。
それと同時に総統であるデスラーにとってのデウスーラと大型住居艦は、帝国各地を隈なく見て回り、帝国を統治していくのに絶対に必要な、「移動する宮廷」であり、何よりも「戦う宮廷」なのであった。

 豪勢な椅子と執務を行える大きな机が置かれた、地球で言う執務室のような風情の「応接の間」において、デスラー総統はザルツの自治政府代表達との面会を行った。彼らの陳情は以下のような内容だった。

 ――宇宙で生産される物品の内、民生品の割合をもう少し増やして欲しい、それが無理なら地上で工場を作るために軍需品の中から機械等の資材を少し分けてもらえないだろうか。そのかわり、支援軍に提供する人員を更に増やす。

 デスラーはヴェルテ・タランに訊いた。

 「タラン、艦艇の生産に余裕はあるのか」

 「ザルツでの生産のノルマは達成できていますが、余剰の品は他の生産が遅れている星の艦艇の艤装に回したい考えです」

 「なら、工兵隊の工作機械と装備の一部を貸与しよう。できるかね?」

 デスラーに訊かれたガデル・タランは可能ですと答えた。デスラーはヴェルテに指示した。

 「貸与している間に君は彼らに与える機械と資材を工面しておきたまえ。…それと」

 デスラーはザルツ人の名誉ガミラス臣民である”生産施設運営者”代表の方を向いて言った。彼はザルツ恒星系の宇宙や地上にある、ガミラスが築いた生産施設の運営者である一等ガミラス臣民や名誉ガミラス臣民達を統括する団体――地球で言えば業界団体がこれに近い―― の代表だった。

 「新たに作られる工場の半数は”他の星からの移民”に、残りは君の星の一等臣民達に与えてやりたまえ。人選は君に一任しよう。自治政府とよく相談して決めよ。自治政府は支援軍の人員提供の拡大枠を、タランと相談したまえ」

 「了解しました」

 デスラーは陳情者達に、新たに工場を作り、その半数を純血ガミラス人移民と少数ながらザルツに来た大小マゼラン諸族の移民――いずれも一等臣民である――に経営させ、残りをザルツ人の一等臣民に経営させるように指示した。ガミラス第二帝国の典型的な施策の一つだった。これから彼ら陳情者達は、移民達が惑星社会で円滑に活動していくのに必要な事――具体的には純血ガミラス人をはじめとする移民達が作る企業に現地住民を雇い入れ、一等臣民権を持つ現地住民との事業提携を通じて移民達が、各々惑星社会に入り込み活動していけるだけの人脈を作るのを後押しする事――を行い、惑星社会で経営をしていくのに適切な人間を選んでいく事になるのである。

 こうしたごく実務的な会話を交わした後で、デスラーは次のような言葉を面会者達にかけ、面会は終了した。

 「君達が帝国に捧げた忠誠と貢献はとても大きい。我々が銀河系で勝利を収めた暁には、君達ザルツの民は多くのものを手にする事ができるだろう。期待していたまえ」

 陳情の内容そのものは、戦時生産の真っ只中にあるガミラスにおいては非常にありふれたものであっただろう。しかしもし仮に、地球から使節が訪れてこの面会の場に居合わせたとしたら、使節はこの会話からガミラス帝国の統治について極めて多くの情報を引き出したに違いない。ザルツ自治政府代表達とデスラーとの間で交わされた会話には、ガミラス第二帝国の社会状況を窺うことのできるいくつもの重要な事柄が含まれていたからである。会話で注目すべき点は2つあった。一つは名誉ガミラス臣民がガミラス帝国において果たしている役割である。ガミラス帝国が惑星社会を支配する上で、名誉ガミラス臣民はどのような立場で、どのような活動をしているのか。そしてもう一つは、本来ならガミラスに征服され彼らに協力的になり得ないはずのザルツの自治政府が、なぜ自ら進んで支援軍兵士にする人間の提供拡大を申し出たのか、という点である。この事について理解するには、ガミラスの植民政策及び同化政策のあらましとその歴史から話をしていかなければならない。名誉ガミラス臣民も支援軍への人員提供も、それらの政策と深い関わりを持っていたからである。

 ガミラスの植民政策と同化政策は一体いかなるもので、どのような歴史を辿ったのか。以下の三つの時期に分けて話をしていきたい。
  • 第一帝国期(ガミラス帝国形成からヒス・ディッツ政権成立まで)
  • 動乱期(ヒス・ディッツ政権成立からガミラス第二帝国成立まで)
  • 第二帝国期(ガミラス第二帝国成立からガトランティス戦争直前の現在まで)
 デスラーとザルツ人の会話が垣間見せた名誉臣民と支援軍の不思議な姿は、実にこの三つの時期を経て形作られていったものなのである。


【第一帝国期――ガミラス帝国形成からヒス・ディッツ政権成立まで】

 かつてガミラス帝星に存在したガミラス大公国を統一し誕生したガミラス帝国は、版図を大小マゼランに拡大していく過程で多数の純血ガミラス人移民を征服した惑星に植民させていった。彼らの多くは元々、デスラーの叔父エーリク・ヴァム・デスラー大公の治める「デスラー公国」がガミラス大公国を統一する際に滅ぼした他の公国の民であり、デスラーとその政権に反感を抱き反乱を企てかねない存在だった。デスラー政権は潜在的危険分子である彼らを移民の形で体よくガミラス帝星から追放し、さらには彼らを懐柔するために征服先の土地や資産を与え、職の提供を行っていったのだった。

 では、彼ら移民達は移住先でどのように暮らしたのか。21世紀初頭の地球よりも遥かに科学技術と工業が発達した世界に生きる彼らは、古代ローマの植民市の住民のように建設された都市で個人商店を営み、あてがわれた農地を耕して暮らす、という(工業化された世界の人間から見て)素朴な生活を送ったりはしなかった。彼らは――21世紀初頭の地球で多くの人間が行っていたように――自らの住む居住地に留まらない、惑星規模の生産・商業活動を行おうとしたのである。

 純血ガミラス人の移民達は、生活の糧を得るため、そして何よりもガミラス政府に後押しされて、移住先の惑星で多数の実験企業を設立した。それらはガミラスの技術で作られる、例えば空中浮遊車のようなガミラス製品を売るディーラーであったり、惑星メランの碧茶といった惑星の特産品を売買する商社であったり、あるいはガミラスの技術に入植先の惑星固有の技術を加え製品開発と製造を行うメーカーであったりした。デスラーとその政権は、こうした純血ガミラス人移民の活動をある二つの政策に巧妙に結びつける仕組みを作り上げた。同化政策と、軍需生産の拡大である。

 ガミラスの同化政策は主に二つの要素から成り立っていた。一つは「政治的な同化」であり、被征服民の二等ガミラス臣民の中から有用な者を一等ガミラス臣民や名誉ガミラス臣民に登用し、デスラー政権を支え帝国を統治する支配エリートに彼らを加える事である。もう一つは「文化的な同化」であり、ガミラス的な生活様式を普及させ惑星社会のガミラス化を促す事だった。平たく言えば、古代ローマが征服地に対して行ったローマ化と同様の「征服地のガミラス化」である。

 では、ガミラスはどのようにしてそれを実現しようとしたのか。かつてのローマは浴場や劇場といった公共施設を建設することで征服地にローマ的な生活様式を広めていったのだが、ガミラスのやり方はそれとは少し異なっていた。ガミラスは征服地にガミラス的な都市を建設もしたのだが、それよりも遥かに、何よりも力を入れた事があった。それは、「ガミラスの技術で作られた工業製品を大量に惑星社会に供給する」という事だった。

 この施策は、ローマ風の同化政策を工業化された世界に適合させたものであると言えた。何故なら、生活空間に工業製品があふれかえる社会において、身の周りの製品の多くがガミラス製品に置き換わる事は、公共建築を行うよりもガミラス的な生活様式を普及させるのにずっと手っ取り早く直接的であり、効果的だったからである。(この状況を私達がイメージするには、例えば私達の家にある車や家電製品、机や棚、食器といった工業製品の数を数え上げ、それらが全てガミラスの製品に置き換わったと想像してみればいいだろう。また、テレビや車や音楽機器といった製品がもたらす娯楽がいかに私達のものの考え方や価値観に影響を及ぼしているかを考えれば、ガミラス製品の大量供給がいかに被征服民の価値観や考えをガミラス風に染め上げ得るものであるかを想像する事ができるだろう。)

 それに加え、工業製品の供給を行うガミラスの同化政策は軍需生産の拡大と極めて相性が良かった。工業製品と生産施設は全て兵器生産に応用できたからである。例えば宇宙で生産された品や交易品を運ぶ船を作る造船所は軍艦を生産する事ができたし、工場で作られる電子部品や資材は艦艇の艤装品に使用できた。このような事情から、ガミラスの同化政策は軍需生産面を統括する軍需省の長官と国防総省のトップを兼任するヴェルテ・タランを中心として展開される事となったのだった。

 同化政策を行うにあたり、ヴェルテが実施した施策は多岐にわたった。まず、土地や資産の取得に関して一等臣民の二等臣民に対する優先権を与え、一等臣民の財産への惑星政府の課税を制限するという「一等臣民の特権」制度を設けた。これはガミラス帝星からの移民達が既に文明と産業が高度に発達した大小マゼラン諸惑星に移住し、事業を起こすために必要な事であった。こうした星々は殆どの場合――21世紀初頭の地球と同様に――惑星全土に現地民が居住していて、惑星政府が移民達に与えうる土地は砂漠や極地といった、人の住むのが困難な場所しかなかったからである。そのため、移民達が事業を行うのに好都合な土地(都市の中心部や、都市近傍の田園地帯など)を取得し、惑星政府が彼らに税を課して「移民達に奪われた」土地や資産を奪回するのを防ぐために「一等臣民の特権」制度は設けられたのだった。

 次にヴェルテが行ったのは、多くの土地を征服戦争直後に接収し、そうでない時は相応の価値であるとガミラス側が判断した金額で買い取り――この点ではガミラス政府は二等臣民に対し一定の権利を認めていた――、そうした手段で獲得した土地と宇宙に多数の生産施設(造船所や工場、農業プラントなど)を築く事だった。そしてそれらを、純血ガミラス人移民の実験企業達に運営させた。事業者達はガミラス政府に払い下げられた設備を各々改良し、拡張しながら惑星社会での商業活動を行っていく事となったのである。

 以上のような法制度と施策を整えた上で、ヴェルテは軍需生産の拡大、中でも艦艇の生産能力を拡大していくのに必要な措置を次々と行っていった。特徴的なのは、そのことごとくが民生品の技術改良や大量生産と直接に結び付いていた事である。いくつか例示すると次のようなものが挙げられる。

 例えばガミラスは生産施設を宇宙に建造するにあたり、殆どの場合その位置を大規模な資源採掘が容易な多数の衛星を伴う気体惑星(太陽系で言えば木星や土星のような外惑星がそれにあたる)の傍に定め、一つの”工業宙域”を形成させた。この工業宙域は多数の工場と造船所を集中させた、地上の“工業地帯”を大きく上回る規模を持つものだった――三次元の宇宙空間は二次元の地上よりも施設を大規模にする事が容易にできる――が、こうすることでガミラスは所謂「規模の経済」を惑星社会に対して及ぼす事ができた。つまり、惑星全体の生活風景を塗り替えてしまう程の大量の製品を、その進んだ科学技術による超品質と惑星社会の在来品を下回る価格で供給できたのだった。(※1)(※2)

(※1)ガミラスが”工業宙域”の施策を実現できた技術的要因として、ガミロイドと波動エンジンの存在が挙げられる。有人惑星から遠く離れた工場や資源採掘場では専らガミロイドが働いていて、そこには人間は僅かしかいなかった。宇宙で工場を作る場合、そこで働く大勢の人間をどうやって宇宙で暮らせるようにするかが問題となり、また製造コストを大きく押し上げる要因となるのだが、ガミラスはその問題を回避することができた。
 また、波動エンジンを備えた輸送船は、広大な恒星系内をものの1日で移動し、大量の品を惑星に送り届ける事ができた。(因みにガミロイドのような高度なヒューマノイド・ロボットの技術がなく波動エンジンもなかった地球はガミラスのような工業宙域を木星等に設ける事ができず、大規模な工業施設は殆ど地球の地上に存在していた。そのため、ガミラス侵攻当時の地球の工業力は純粋な規模においてもガミラスが支配していた一星系のそれにすら大きく劣っていたのだった。)

宇宙戦艦ヤマト2199 公式設定資料集<Garmillas>(※2)ヤマト2199劇中の描写を見る限り、少なくともガミラスでは大規模な工業施設や艦隊を収容できるドックは宇宙に存在するのではないかと思われる。地上にある宇宙港の乾ドックは数千隻の艦隊を収容するだけの数はどう見てもない上に、19話で長い事ドック入りしていたり整備中だった空母4隻はドメル達を乗せるために空から降下してきた。この事はガミラスの主要な工業設備が宇宙にある事を示唆している。だからこそデスラーは23話で帝国の戦力造成の心配をすることなくバレラスを破壊しようとする事ができたのではないかと思われる。
 また、ガミラス帝星の静止衛星軌道上で建造された第二バレラス(※公式設定資料集[GARMILLAS]の記述より)を構成する各ブロックは、633工区のように各々がエンジンを備え自力航行できる事から、宇宙の工業施設で製造された後ガミラス帝星の静止衛星軌道に自ら移動して来て連結されたと思われる。(ついでに言えば、全長1500m以上もある惑星間弾道弾も事故で爆発した時の惨状を考えれば宇宙で製造されていると考えた方が自然だろう。)

 この工業宙域の形成は同時に、艦艇の大量生産をも容易にした。宇宙での生産は製品を運ぶための大量の船の需要を生み出し、需要を満たせるだけの船を生産する――建造ではなく、”生産”と呼ぶのがふさわしい規模だった――造船所は恒常的に軍用艦艇を生産できたからである。ヴェルテはこうした工業宙域をガミラスが征服した諸星系に設けていった。

 これ以外にもガミラスでは、艦艇や民生品の生産拡大と技術改良を同時に実現するために「規格の共通化」や「惑星の在来技術の摂取」といった措置が実施されている。ヴェルテは地上や宇宙で生産される電子部品や資材が、艦艇の艤装に直ちに使用できるように各種の規格を定めていった。この「共通規格の制定」は艦艇の生産に寄与すると同時に、新たな移民事業者の業界への新規参入を容易にし、事業者同士が共通の土俵で競争する事を促進した。そして彼は、ガミラスの技術に入植先の惑星固有の技術を加えて製品開発と製造を行うメーカーに対し、資金や制度面で積極的な支援を行った。彼らのもたらした技術的成果は直ちに艦艇や兵器の開発に取り入れられ、メーカーもまた、この措置により惑星社会で受け入れられる製品を作りそれらを社会に浸透させていく事ができたのだった。

 以上のようなヴェルテ・タランの同化政策は、デスラーとその政権に反感を抱き不満を爆発させかねない純血ガミラス人移民を懐柔し、惑星社会のガミラス化を開始するのに多大な成果を収めた。多くの純血ガミラス人移民が事業者や実験企業の勤め人となって経済的な成功を収め富裕になっていき、ガミラス政府は彼らに対し恩を着せる事ができたからである。彼らは、ガミラス政府のおかげで生計を立てる手段だけではなく富をも手にする事ができたのだった。

 政策の後押しを受けた純血ガミラス人移民達にとって、事業で成功を収めるのは容易なことだっただろう。彼らは帝国の国庫から借りた資金で帝国の用意した工場や土地や船を購入し、持ち前の進んだ科学技術を製品作りや交易に発揮する機会を与えられたからである。彼らの作る製品は、ガミラスよりも科学技術の遅れた惑星ではとてつもなく先進的な機能と品質を持ち、しかもその惑星の在来品よりも安価だった。その優位性と利便性は誰の目にも明らかで、「ガミラスの製品など買うな」という運動もそうした事実の前には空しいものでしかなかった。(例えば仮に21世紀初頭の地球がガミラスに征服されたとして、ガミラスが空中浮遊車やホログラムテレビを安価に売り出したと想像してみよう。空中浮遊車は悪路の影響を全く受けず、ホログラムは地球人にとって空想でしか存在しえなかった道具である。それらの品は地球の電気自動車も燃料電池車も、液晶テレビも全て時代遅れにして市場から駆逐してしまうだろうし、不買運動も効果がないのではないだろうか)

 それに加え、波動エンジンを備えた彼らの船が運んでくる諸惑星の珍奇な特産品は、征服地の惑星社会に大きな衝撃をもたらした。その結果、多くの人間がガミラスの移民達から商品を購入するようになっていったのである。惑星社会に住む多くの人間の目には、純血ガミラス人移民の成功は半ば約束されたものであるかのように見えたのだった。

 もっとも、純血ガミラス人移民の経済的成功の要因を国の政策だけに帰する事はできないだろう。彼ら純血ガミラス人は(自分達以外の種族を侮蔑する欠点を持つ一方で)元々非常に進取の気性に富んだ人達であり、その気風はどの惑星でも大いに発揮されたからである。彼らは入植先で故郷にはない文物や技術を貪欲に学び取ると、それらを自らの生活や技術体系へと積極的に取り込んでいった。この彼らの「美徳」は、特にガミラスと同等かそれ以上に科学技術が進んだ惑星において発揮された。彼らは征服地の文物や製品に使われる技術を学び取ると、それにガミラスの技術を加え、最終的に征服地の在来品を凌駕するものを作り出し惑星社会へと供給していったのである。その姿はさながら古代ローマ人のようであった。ローマ人は往々にしてローマ人以外を侮蔑する一方で、敵対した国の技術や文物を貪欲に学び取り、最終的に敵対者を凌駕するものを数多く生み出していったからである。

1/1000 ポルメリア級強襲航宙母艦 (宇宙戦艦ヤマト2199) このガミラス人の「進取の精神」を象徴するものとして、例えばポルメリア級強襲航宙母艦と偵察機FG156スマルヒを挙げる事ができる。「推進用の噴射口はなく、4基の重力制御装置により航行する」ポルメリア級と「翼端に装備した重力バランサーで機体制御を行う」スマルヒ(※公式設定資料集[GARMILLAS]の記述より)は、それぞれ征服地でガミラス人移民が摂取した技術を採用して開発された兵器であったが、両者は使用する技術だけではなくその外観もまた従来のガミラスのものとは大きく異なっていた。噴射ノズルを持たず四方に触手を伸ばしたような姿のポルメリア級は、ガミラス軍が昔から使用してきたガイペロン級航宙母艦と全く異質であったし、キャノピーが存在せず補助翼や姿勢制御ノズルを使用せずに機動を行える(※公式設定資料集[GARMILLAS]の記述より)スマルヒもまた、ツヴァルケ戦闘機をはじめとするガミラスの旧来機と異質な外観と特徴を備えていた。

1/1000 大ガミラス帝国軍 ガイペロン級多層式航宙母艦 シュデルグ (宇宙戦艦ヤマト2199) こういった異形の形状と技術仕様は運用やメンテナンスを行う上で多大なデメリットをもたらし得る(例えばポルメリア級のような形状ではガイペロン級に使用している乾ドックに艦体が収まらない)のだが、にもかかわらず本来非常に保守的であるはずの国軍は、これら「異形の兵器」を採用するだけでなく大々的に使用する事までやってのけた。この事からも、いかに純血ガミラス人が(軍民問わず) 進取の精神に富んでいたかを窺い知る事ができるだろう。このようなガミラス人の気風が生み出した兵器や民生品は、ガミラスと敵対し併合されていった惑星――ガミラスより科学技術が遅れた星だけではなく、同等かそれ以上の星であっても――のそれに対し大きな優位を持つ事となった。例えばスマルヒは地球の戦闘機が全く追従できない機動を見せた(ヤマト2199第2話)が、それはガミラスが征服地で獲得した技術の賜物だった。そして、軍で採用された技術が征服地でガミラス人移民の得た技術的成果のごく一部である事を考えれば、民生品の優位もまた推して知るべしであった。

 こうして、殆ど全ての征服地で大きな技術的優位を持つ事になったガミラスの工業製品は、被征服民の惑星社会に受け入れられていき、その結果として征服地に緩慢な速度ではあったがガミラス的な生活様式と文化が普及していく事となった。しかも、これには軍需生産の拡大もセットとなっていたのである。このガミラスの同化政策の成功を、ヴェルテ・タランはガミラス帝国の建国記念式典において次のような言葉で誇ったのだった。

 「同化政策も順調に進んでおります。帰順を示した者には滅亡ではなく二等臣民としての権利を。これが帝国繁栄の礎となっております」

 しかし、ヴェルテ・タランの同化政策は確かに大きな成功を収めたものの、にもかかわらず帝国が形成された時から抱える問題を完全には解決できていなかった。それどころか、時間の経過と共にその政策は綻びを見せるようになっていく。例えば政権に反感を抱いていた純血ガミラス人移民の場合、多くの者が入植先で富裕になり帝国に恩義を感じるようになっていったが、それでも経済的成功からとりこぼされた人々を中心に依然として少なくない人間がデスラーとその政権に対して反感を抱いたままだった。

 また、諸惑星の社会ではガミラスの事業活動により多くの二等臣民の在来事業者が圧迫されて倒産し、良くても廃業の瀬戸際へと立たされた。多くの場合(21世紀初頭の地球の名だたる巨大企業と同様に)惑星社会の有力者であった彼らは同様にガミラスに不満と反感を抱く二等臣民――ガミラスの企業のために失業に追いやられた人々や、戦争と”札束”で土地を奪われた人間、事業や納税や資産の取得などのあらゆる経済的な事柄で一等臣民たる純血ガミラス人と差別的な扱いを受ける事に憤る人々など、社会のあらゆる階層と階級の人々がガミラスに不満と反感を募らせていた――を糾合し、あるいは焚きつけてガミラスへの反乱を画策するようになっていった。

 この未だに残る”純血ガミラス人移民の反感”や帝国各地で鬱積していく”二等臣民の怒り”といった帝国の諸矛盾は、何かのきっかけさえあればたちまち帝国への反乱が続出する一大要因となった。ヤマトがガミラス帝国に侵入した時点では、その噂が流れただけで各惑星管区で蜂起が相次ぐ程状況は深刻になっていたのだった。

 この時に起きた反乱の中でも惑星オルタリアで起きた蜂起は、帝国の植民と同化政策の矛盾が象徴的な形で現れた事例であっただろう。この蜂起の中心になったのは都市や平野部に住む、オルタリアの経済活動を一手に担う人々であった。一方、経済上は僻地にしかならない山岳地帯の山岳民族は、惑星全土を巻き込む規模となった蜂起の最中(さなか)、蜂起とは距離を置いて戦いの惨禍を避けるために山上へと避難した。蜂起は決起民が首都を包囲し――純血ガミラス人移民が”占拠”し、事業を行っていた場所だった――、脱出した総督が反乱の鎮圧に出動した親衛隊に移民の救助を懇願する事態となった。これに対し親衛隊は無情にも、反乱者だけではなく総督や移民団をも抹殺する措置を採った。帝国や親衛隊にとって、移民はあくまでもオルタリア人同様に反旗を翻しかねない危険分子に過ぎなかったし、移民の保護を求める総督もまた、彼らを率いる「反乱予備軍の頭目」でしかなかったのである。こうして、親衛隊のハイドム・ギムレー長官はオルタリア総督に対し次のように言い放ち、オルタリアの全てを”焼き尽くした”のだった。(※3)

 「帝国と総統に反旗を翻す星は、大ガミラスの版図に存在してはなりません。総統への忠誠に欠けた、あなたもですよ、総督」

(※3)純血ガミラス人移民もろともオルタリアを殲滅した15話の描写は、ハイドム・ギムレーの残忍さゆえの行き過ぎた行為に見えるが、ガミラスの移民政策の歴史的経緯を考えれば帝国支配の徹底を図る上で一定の合理性があったと言えるだろう。親衛隊にとって、いつ反乱を起こすか分からない移民達は助けて帝都バレラスに連れ帰るわけにはいかなかったのである。

 結局のところ、ガミラス帝国で多くの二等臣民が反乱を起こした背景には、「純血ガミラス人しか帝国の受益者になれない」という現実があった。(もっとも、そのように言えばヴェルテ・タランは「帝国は進んだ科学技術による産物と恩恵を全ての人にもたらした」と反論しただろうが。)彼らの帝国への怒りを解決するには、何らかの政治的措置をとる必要があったが、実はガミラスの同化政策にはこの問題への回答が既に用意されていた。それが「文化的な同化」と並ぶガミラスの同化政策のもう一つの要素である、「政治的な同化」だった。

 「被征服民の二等ガミラス臣民の中から有用な者を一等ガミラス臣民や名誉ガミラス臣民に登用し、デスラー政権を支え帝国を統治する支配エリートに彼らを加える」というガミラスの「政治的な同化」政策は、政治的な地位だけではなく経済的な恩恵をも登用した者にもたらすものだった。何故なら、一等臣民や名誉臣民に登用された者は、純血ガミラス人移民と全く同様に事業者としての優遇を受ける事ができたからである。ガミラスの一等臣民事業者への政策がいかに彼らに富をもたらしたかを考えれば、もし諸惑星の有力者達を登用し(ガミラスの)工場等の資産を与え事業を行わせれば、彼らを富裕にし純血ガミラス人移民達と全く同様に懐柔する事が可能であると考えられた。そうなれば同じ「帝国の受益者」として彼らを帝国の統治に積極的に協力させ、「二等臣民の怒り」が糾合されて危険な事態に至るのを回避する事ができる。経済的な観点から見れば、ガミラスの同化政策には、「ガミラスの事業活動に被征服民を加える事で彼らの経済的な不満を緩和する」という要素も含まれていたのである。

 とはいえ、「被征服民を支配エリートに加える」ガミラスの「政治的な同化」政策は、帝都バレラスを中心に純血ガミラス人の猛反発を招き反乱を引き起こしかねない危険な政策でもあった。ガミラス帝国では純血ガミラス人の他種族に対する蔑視や差別が非常に一般的であり(※4)、ジレル人のミーゼラ・セレステラを除く中央政府閣僚の殆ど全員は純血ガミラス人以外の種族を登用する事に否定的だった。例えばガル・ディッツやガデル・タランは(多分に反乱を恐れて)軍中に二等臣民を僅かな数しか加えなかったし、二等臣民の部隊を規模や装備の面で決して優遇しなかった。純血ガミラス第一主義者だったヘルム・ゼーリックに至っては「政治的な同化」政策を憂い、貴族社会の復権を目指して反乱すら起こしている。被征服民の登用は、(特に第二帝国成立以前の)ガミラス帝国では唯一デスラーのみが行い得た事であった(※5)。

(※4)例えばメルダ・ディッツは10話の古代や山本との会話で二等臣民を劣等種族と言い放っている。21話の強制収容所所長はザルツ人を「帝国に寄生する劣等種族」と呼んでいたし、デスラーの女性衛士達も25話でジレル人のセレステラを「魔女」と侮蔑していた。作中で「他種族への差別をしない」とされていたドメル軍団でさえ、フォムト・バーガーは20話でザルツ人に対し面と向かって「信用できない」と言い放っているし、当のドメルまでもがセレステラを「あの女は魔女だからな」と侮蔑している(19話前半のハイデルンとの会話より)。また、19話と20話で活躍したザルツ人の第442特務小隊はパンフレットの説明によれば「常に激戦地に送られ戦い続け、いつしか精鋭と認識されるようになった」にもかかわらず、結局誰一人として一等ガミラス臣民に取り立てられる事はなかった。 

(※5)デスラーが被征服民の登用を行った要因として、彼が被征服民ばかりか純血ガミラス人にも数多くの敵を抱えていた事が挙げられる。いつクーデターを起こすか分からない名門貴族が国軍で跋扈し、デスラーやその叔父に祖国の公国を滅ぼされ反感を抱く者が大勢いるのが一等臣民の殆どを占める純血ガミラス人の実情だった。こうした状況下でデスラーは、自らの政権を確固としたものにするために種族や出自を問わず自分に忠実な人間を選抜し、政権を支える集団を作る必要に否応なく迫られていたのだった。

 デスラーはジレル人のミーゼラ・セレステラをはじめとする多くの被征服民や二等臣民を閣僚や一等臣民、そして名誉臣民に登用しているが、ヤマトのバレラス襲来以前の時期には、登用は機会を窺いつつ慎重に行われていた。何故なら、下手に大勢の二等臣民を登用すればゼーリックのような反乱が起きかねない上に、征服地の惑星社会の住民の支持を受けやすい元二等臣民の事業者が純血ガミラス人移民の事業者を競争で打ち負かし、せっかく懐柔した移民達が反政権側に逆戻りしかねなかったからだった。(この事から、同化政策の中心者だったヴェルテ・タラン自身は被征服民の登用に消極的だった。)従って、この時期に登用された人数は比較的少数にとどまり、二等臣民の反乱の抑止効果も限定的なものにならざるを得なかったのである。

 ガミラスの植民・同化政策が一定の成果を収める一方、同じ政策が生み出した矛盾に帝国は効果的に対処できない。この状況に劇的な変化が起きたのは、ヤマトのバレラス襲撃に端を発したガミラスの大動乱以降の事であった。


【動乱期――ヒス・ディッツ政権成立からガミラス第二帝国成立まで】

 ヤマトのバレラス襲撃によりガミラスが大動乱の時代を迎えると、大小マゼラン世界のあらゆる様相と同様に、ガミラスの植民及び同化政策を巡る状況も大きな変化を遂げる事となった。その過程は、帝国とそこに住む人々にとって苦痛に満ちたものであったが、概ね次のように進んでいった。

 まず、ヤマトのバレラス襲撃によりデスラーが死んだとされてヒス・ディッツ政権が成立すると、デスラー(と親衛隊)によりかろうじて抑えられていた帝国の諸矛盾が一挙に噴出し、帝国は瓦解の危機を迎えた。デスラーと帝星政府に反感を抱いたままだった純血ガミラス人移民は船を強奪してガミラス帝星に帰ろうとしたり、武器を作り帝星政府に反旗を翻す事までした。一方、ヤマト出現以来相次いでいた二等臣民の蜂起も激化して行き、ついには(ヤマトとの戦いで九死に一生を得たデスラーが潜伏していた銀河系を除く)帝国全土で大規模な反乱の嵐が吹き荒れる事態となった。

 この時期に起きた移民や二等臣民の蜂起は、究極的には”デスラーの死”がもたらした避けられない結果であったかもしれなかった。しかし、ヒス・ディッツ政権は蜂起の沈静化に失敗し、逆にそれらを帝国の手に負えないほどの規模に拡大させてしまった。その要因としては、次のようなものが挙げられた。

 第一に、ヒス・ディッツ政権は帝国に反感を抱く純血ガミラス人移民に対しその反感を解消する有効な手段を見出し得なかった。彼らはヴェルテ・タランが行った以上の方策をついに考え出す事ができなかったのである。

 第二に、ヒス・ディッツ政権は親衛隊に代わる暴力装置を設置しなかった(というよりも設置する前に政権が滅亡したという方が正確かもしれない)。帝国の同化政策で懐柔されなかった純血ガミラス人移民にとって、彼らを監視し、逆らった者の抹殺も辞さなかった恐るべき親衛隊が消えた事は、正に反乱を起こす千載一遇のチャンスであった。ヒス・ディッツ政権が強権を振るわないのを見た彼らは、各地で申し合わせたかのように一斉に反乱に立ち上がったのだった。

 そして第三に、ヒス・ディッツ政権はデスラーが登用した名誉臣民と一等臣民の身分降格を行い、二等臣民全体の激しい怒りを買う事態を招いた。バレラスを破壊しようとしたデスラーを否定する事で出発したヒス・ディッツ政権は、デスラーに登用された元二等臣民達の忠誠心を疑い、彼らが同郷の二等臣民を政治的に糾合し得る存在である事を危険視して――実際、デスラーは征服地の有力者を登用する事が多かったため政権側の危惧はあながち的外れというわけではなかった――、登用者に与えられた身分と(工場等の)資産を剥奪した。この措置は元々、二等臣民の蜂起の多発に直面したヒス・ディッツ政権が反乱の拡大防止のために行ったものであったが、それがさらなる反乱の激化に繋がってしまったのである。デスラーに登用された名誉臣民と一等臣民は、他の二等臣民達にとって自分達の境遇を改善する言わば「希望の星」になっていた事を政権は看過していた。

 以上のヒス・ディッツ政権の限界と失政の結果、ガミラス支配下の諸惑星の多くは、純血ガミラス人移民が逃亡したり決起する傍らで、二等臣民の反乱者がガミラスの工場を強奪し抵抗する移民と紛争状態になるという支離滅裂な状況へと落ち込む事となったのである。

 こうした騒乱は、ガトランティス軍が大マゼランに侵攻してくるに及んでついに頂点に達した。ガトランティス軍による大規模な劫略や奴隷狩りが行われ、そのさ中「純血ガミラス人を殺せば命だけは助かる」という流言飛語が飛び交い、それを信じた原住民が移民達と凄惨な殺し合いを繰り広げるという、正に地獄としか言いようのない惨禍が諸惑星の社会に現出したのだった。

 ガミラス帝国が混乱と惨劇の果てに滅び去ると誰もが絶望する中、帝国を救い、人々を文字通りの意味で救済したのがデスラーであった。

 大マゼランの会戦でガトランティス軍を破り大マゼランからガトランティスを一掃したデスラーは、帝国中を覆い尽くした惨禍を鎮めるために、ガトランティス軍とその奴隷船から助け出した諸惑星の臣民達――これには二等臣民だけではなく純血ガミラス人移民も含まれていた――の前で、自分こそが大小マゼラン全ての民の生活を守る存在である事を訴えた。そしてヒス・ディッツ政権に”デスラーの息のかかった者達”と危険視され身分降格された名誉ガミラス臣民や一等臣民を復位させ、同政権に対し反旗を翻した二等臣民の多くを赦し、純血ガミラス人移民が移民先で得た資産をあらためて安堵していった。

 このようにして戦争の惨禍と混乱を収拾し、二等臣民や純血ガミラス人移民の生命と財産を守ったデスラーは、二等臣民の支持だけではなく純血ガミラス人移民の全面的な支持をも獲得する事に成功した。戦争の勝利により、デスラーはようやくにして”反乱予備軍”の純血ガミラス人移民全てに、自分に刃向かうよりもその支配を受け入れた方がましだと、認めさせる事ができたのだった。

 その上でデスラーは、それまでを上回る規模の、帝国全体の何千という臣民(純血ガミラス人、二等臣民を問わず)を帝国の支配エリートである名誉ガミラス臣民に登用し、さらにそれを遥かに上回る数の二等臣民に一等臣民権を授与していった。そして登用した臣民達に土地や生産施設等の資産を与え、大規模な植民を開始した。

 これは純血ガミラス人に対して行ったのと全く同じ施策だった。つまり、デスラーが「二等臣民の怒り」に対して提示した解決法は、彼らのうち特に危険な階層や有用な者(例えば反対勢力を糾合しうる惑星の有力者や貧困者など)に自身と家族の暮らしを支える手段を与え、富を得られるようにすると同時に彼らの多くを純血ガミラス人移民と全く同じ立場にしてしまう、ということだったのである。これを行うのに、ガトランティス軍により無人の地となった惑星や土地、所有者のいなくなった工場が数多くあった事は幸いした。大量の登用者に与える物には困らなかったのである。そして破壊しつくされ無人となった土地への入植は、大量の工業製品と仕事の需要を生み出す事となった。

 規模を拡大した植民と並行して、昇格した一等臣民や純血ガミラス人の移民達が植民先の惑星社会で円滑に活動するため、デスラー復権からガミラス第二帝国成立にかけての時期にそれまでの制度をより発展させた仕組みが整えられていった。この新しい仕組みで重要な役割を担ったのが、デスラーに登用された大勢の一等臣民達と、諸惑星の名誉ガミラス臣民達であった。


【第二帝国期――ガミラス第二帝国成立からガトランティス戦争直前の現在まで】

【Amazon.co.jp限定】宇宙戦艦ヤマト2199 アートキャンバス(宇宙駆ける艦) ――こうして、これまで度々「帝国の支配エリート」という言葉と共に言及してきた名誉ガミラス臣民について、ようやく説明できるところまで来た。この節の冒頭でデスラーが面会したザルツ人の名誉ガミラス臣民を思い出してみよう。彼は面会に際し、惑星ザルツ自治政府代表と同席していた。この事が示すように、彼ら名誉臣民はデスラーを頂点とする帝国政府と惑星社会の橋渡しをし、帝国の惑星支配の中核となる人々である。では、名誉ガミラス臣民は惑星社会においていかなる地位であるのだろうか。 また、ガミラス帝国が惑星社会を支配する上で、名誉ガミラス臣民はどのような活動をしているのだろうか。

 一般に名誉ガミラス臣民とは、次のように定義される身分である。

 「名誉ガミラス臣民は一等ガミラス臣民より上の”デスラーの朋友”と称すべき身分で、帝国の支配エリートはこの名誉ガミラス臣民と一等ガミラス臣民の高官・将軍・首長といった上層部とで構成される。名誉ガミラス臣民は種族を問わずデスラー個人に認められた者のみがなることができ、その登用や解任はデスラーの一存で決められる。名誉ガミラス臣民は一代限りの身分であり、その子供は一等ガミラス臣民となる。」

 デスラーは純血ガミラス人だけではなく幅広い出自や階層の人々から名誉ガミラス臣民を登用したが、登用された人々は多くの場合帝国に貢献したと認められた人間か、あるいは貢献できると思われた人間だった。具体的には、戦いや研究や事業で功績を挙げた者や諸惑星の有力者等である。彼らは登用後、総統への忠誠と引き換えに名誉臣民の”権利”として個々の事情に応じガミラス社会で名誉とされる職や財産を与えられた。例えばガミラス帝国建国記念式典の日に名誉臣民となったヒルデ・シュルツの事例では、彼女はまだ幼く勤労者としての経験がない事から彼女にはイスカンダル皇女や政府要人の付き人というガミラス社会において名誉とされる役職が与えられている。また、惑星社会の有力者――21世紀初頭の地球は名だたる巨大企業が社会の有力者となっていたが、それと同様に諸惑星の有力者も惑星有数の事業者である事が多かった――が登用された場合、登用された者には農場プラントや工場等のガミラスの生産施設が一代限りの財産として無償で与えられた(※6)(※7)。

(※6)同様に生産施設を与えられた一等臣民の場合、施設は有償であり殆どの場合帝国の国庫から資金を借りて購入していた事から、この点が名誉臣民と一等臣民の違いであるといえた。

(※7)工業宙域に代表されるガミロイド主体の工業生産は、ガミラスの経済を地球とは全く異なるものにしていた。宇宙でガミロイドが資源採掘し、製品を作り、ガミロイド自身の保守部品もガミロイドが作るという生産サイクルには、人件費をはじめとする費用が全くと言っていいほどかからない。必要なのは工場をゼロから作ったり設備を追加したりするための設備投資だけで、それ以外では費用を気にせずひたすら生産を続けることが可能である。
 そのためガミラスでは、地球では大問題とされる「過剰生産設備」がどの星系でも平然と行われていた。つまり、本来の需要を上回る数の工場を建造し、過剰に生産される分は全て兵器生産に廻していたのである。むしろガミラスでは、最初から民需をはるかに上回る数の工場を建造し、その一部を一等臣民や名誉臣民に与えていたと言う方が実態に近いかもしれない。
 そしてガミラスには、ガミロイドが働き通常は兵器を生産している国有工場の生産ノウハウの改善や、工作機械の改良を行わせるために人間の事業者に工場を与え事業を行わせるという発想も存在していた。大勢の事業者に試行錯誤を行わせ、その中で成功したモデルを選び出して国有工場に適用していたのである。

 このように名誉臣民には社会の有力者から比較的下位の者まで含まれていたが、ガミラスの統治を語る上で重要なのは前者の事例である。惑星社会の有力者でありガミラスから生産施設を与えられた名誉臣民は(これまで純血ガミラス人移民が莫大な富を築いた経緯を説明してきたように)、それにより巨大な富を獲得した。ガミラスの科学技術を用いる事業者として、彼らは惑星社会の経済的支配者の一員となったのである。

 また、名誉臣民は”デスラーの朋友”という立場を利用してガミラス当局に自らが推薦した二等臣民の一等臣民への昇格(※8)を優先的に審査してもらえた事から、彼らの元には惑星社会から大勢の人間が集まる事になった。何故なら、二等臣民から昇格した一等臣民が同じ二等臣民を推薦した場合、純血ガミラス人の掌握するガミラス当局はあまりに多くの二等臣民が雪崩を打って自らと同じ一等臣民になる事を恐れてなかなか審査を進めたがらなかったからである。そのため、ガミラスにおける政治的有力者であり経済的な庇護者にもなれる名誉臣民の下に、我こそは一等臣民に推薦・登用してもらおうと多くの能力と野心を持つ人間が集まり、党派が形成されていった。その結果、名誉臣民はその経済力と相まって絶大な権勢を惑星社会で持つ事となり、しばしば惑星の自治政府を容易に動かせる存在となったのである。

(※8)4話のシュルツとゲールの会話から判断すると、二等臣民から一等臣民への昇格は一等臣民の推薦が必要であると考えられる。ただし、23話のノラン・オシェットの「(デスラー砲破壊の阻止を)総統が知れば自分は一等ガミラスになれる」とのセリフをみると、デスラーが認めれば一等臣民の推薦がなくても一等臣民に昇格できると思われる。

 しかし、この絶大に見える名誉臣民の富と権勢は、ひとえにデスラーの信任によって成り立つものでもあった。もし彼の信任を失い名誉臣民の身分を廃されると、その富と権勢はたちまち散逸してしまったのである。したがって、彼らは文字通りデスラーの信任を得続けるために、帝国の政策と支配の第一線に立つ事となった。いくつか例示すると次のようなものが挙げられる。

 まず、彼らは与えられた生産施設で事業を行う一方、それらを絶えず改良し、拡張していく事が期待された(これを行わせるがために、デスラーは惑星社会の有力な事業者を名誉臣民に登用する事が多かった)。彼らはヴェルテ・タランの指導の下、ガミラスの技術に惑星社会固有の技術を取り入れ発展させるというガミラスの技術改良政策と軍需生産拡大の実践者となったのである。(※ガミラス第二帝国成立以前は、これが主要な役割だった。)

 そして、デスラーがガミラスに復権しガミラス第二帝国が成立すると、彼ら名誉臣民は前述の役割に加え惑星社会におけるガミラスの事業者達の指導的存在となり、一等臣民の移民達(純血ガミラス人だけではなく他の大小マゼラン諸族も含まれていた)が植民先の惑星社会で円滑に活動していけるように数々の施策を実施するようになった。その際特に注意が払われたのは、惑星社会で排外主義が力を持ち移民と彼らの事業が排斥されないようにする事だった。これを行う上で重要となったのが、一等臣民権を持つ現地住民の存在である。移民達が現地住民と事業提携を行い、惑星社会で排斥の対象とされない製品作りと販売が行われるように様々な措置が採られた。例えば移民側が作る部品と現地民側が作る部品を混ぜて一つの製品にする、移民側が作った製品を現地民側が現地のロゴをつけて販売する、現地民側がデザインしたものを移民側が製造する、といったものである(つまり、私達21世紀初頭の地球でもごく普通に行われている手法をガミラスも行ったといえる)。

 これらの措置を推奨し行わせる一方、名誉臣民は(ガミラスの技術政策の一環で)現地民事業者と移民事業者の技術交流を主導した。この施策は現地住民と移民の双方に利益をもたらした。現地住民はガミラスの科学技術を習得でき、移民は惑星社会で活動するためのコネと人脈、及び現地の固有技術を得られたからである。そして、これらの事業提携や技術交流を推奨し、時に強要するために「一等臣民より上の身分にしてデスラーの朋友」という名誉臣民の地位は大きな効果を発揮した。名誉臣民はここでもガミラスの技術改良政策と、ガミラス第二帝国の掲げる「多種族の統合」という理念の実践者となったのだった。

 以上のように、名誉ガミラス臣民は帝国の政策を惑星社会で推進する主体となったのだが、彼らにはさらにもう一つの重要な役割があった。惑星の自治政府とデスラーの仲介役となる事である。ヤマトのバレラス襲撃以前、デスラーはよく”お忍びで”帝国各地を視察し――15話のガミラス政府閣議の場面において、ヴェルテ・タランは視察で不在の総統に関して「総統の気紛れはいつもの事だよ」と述べている――、視察先で登用した名誉臣民や一等臣民から征服地の現状をつぶさに聞いていた。これにより各地で鬱積していく”二等臣民の怒り”についてよく把握し、ガミラスに復権した際にそれを大きく緩和する施策を行い得た経験から、彼はガミラス第二帝国の成立以降、諸惑星の自治政府と頻繁に交渉をもつ機会を設けていた。名誉臣民はその仲介役を担っていたのである。

 名誉臣民が仲介するデスラーと惑星自治政府の交渉は、時間が経過するに従いガミラス第二帝国が諸惑星を統治するための重要な仕組みとなっていった。ことに、ガトランティスとの戦争の準備の進展と共にその重要性はさらに増す事となった。彼は支援軍へ人員を提供するように諸惑星を説いて回っていたからである。

 支援軍を創設するにあたり、デスラーは諸惑星の自治政府に対し、支援軍はガミラス第二帝国が掲げる「多種族の統合」の理念を具現化したものである事、兵士は最終的に一等臣民権を与えられる事、そして戦争に貢献した惑星は征服地の入植により多大な富を得られる事、という三つの点を強調して支援軍創設への協力を要請した。反応は上々であり、中でもザルツをはじめとするいくつかの惑星は自治政府が率先して人員募集を行う程の協力振りを見せた。

 いくつもの惑星自治政府が支援軍への人員提供に積極的だったのは、やはりこれまでのガミラスの移民政策の成功が大きく関係していたと言わなければならない。ガミラス帝国が大小マゼランを統一して此の方、ガミラスによって送り込まれた一等臣民の移民達が入植先で莫大な富を得て富裕になってゆくさまを多くの二等臣民達が見ていた。多くの二等臣民にとって一等臣民権を得る事は、ガミラス帝国で経済的成功を収める第一の条件と思われるようになっていたのである。(※9)

 惑星自治政府達の支援軍への協力の度合いは、大量の人間が一等臣民となった惑星ほど強まる傾向があった。諸惑星の自治政府はその殆ど全てが第一の政治目標として、差別的な待遇の改善と純血ガミラス人に奪われた土地や資産の奪回を目指していたのだが、大量の人間が一等臣民に登用された惑星では、その目標の多くが達成されると、惑星の外に目を向け宇宙へ進出していこうとする気運が高まるようになっていったからである。その動機はやはり、ガミラスの移民事業に触発された富への渇望であった。支援軍に大量の人間を送り込み、一等臣民権を得た元兵士達を征服地に入植させて事業を行わせれば、彼らの故郷の惑星社会はガミラス帝星のように多大な富を得る事ができる。ガミラス帝国は一等臣民に収入の一部を自らの生まれた星へ貢納として納めるよう法で定めていたため(※10)、支援軍への人員提供は惑星社会と自治政府にとって半ば将来の富が約束された事業と捉えられていた。端的に言って、大量の人間が一等臣民となった星々は、自分達が収奪される側からガミラス帝星同様に収奪を行える立場になったという事に気付いたのだった。

(※9)ヤマト2199の4話において、一等臣民に推薦してやろうというグレムト・ゲールの言葉にザルツ人のガンツは憧憬の表情を浮かべていたが、そこには二等臣民にとって一等臣民権がいかに魅力的であるかというガミラス帝国の事情を見て取る事ができるのではないだろうか。

(※10)一等臣民の出生惑星への貢納は、移民が行っていた故郷の家族への仕送りに着想を得て作られた制度である。この制度の下では、例えば純血ガミラス人移民は自らの生まれたガミラス帝星に貢納し、植民先で生まれた世代は植民した惑星に貢納する事となる。この制度によって、各地に移民を送り出したガミラス帝星には莫大な富が流入する事となった。また、この制度は大量の人間が一等臣民に登用された惑星では彼らが生み出す富を惑星社会に還元する役割を果たした。これによって以前は純血ガミラス人移民に収奪されるばかりだった富の多くを、惑星社会は取り戻す事ができたのだった。

 惑星ザルツは、こういった星々の中でも特に典型的な事例の一つであると言えた。ヤマトがバレラスに襲来する以前から少なくない数の義勇兵をガミラスに提供していたザルツは、(ガミラス帝国建国記念式典においてヴァルケ・シュルツの忠誠ぶりをデスラーが見た事もあって)デスラーの注目を受けた事で彼がガミラスに復権して以来、彼と深い関わりを持つようになっていた。彼によって非常に多くの者が一等臣民に登用されガミラスの事業者となり、「帝国の受益者」の一員となることのできたザルツは、ガミラス帝星同様に帝国の各地へと移民を送り出すと共に支援軍へも社会ぐるみで大量の人間を送り出すようになっていったのである。全ては総統への忠誠を示すため、そして自らの星の発展のためであった。


 ……以上が、ガミラスの植民・同化政策のあらましと歴史である。ここまで俯瞰する事ではじめて、この節の冒頭で総統とザルツ人が交わした会話の意味を理解する事が出来るだろう。ガミラス第二帝国において、名誉臣民とはいかなる存在であるのか。そして、被征服民であるはずのザルツ人が何故自発的に支援軍の人員提供を申し出たのか。

 ガミラス第二帝国における名誉臣民は、総統に忠誠を誓い帝国の国力増強政策を推し進める主体だった。そしてそれは、彼らが移民と惑星住民、総統と惑星自治政府の橋渡しをする事で実現されていた。その意味で名誉臣民とは、まさしくガミラス第二帝国の掲げる理念、「多種族の統合」の実践者であった。

 そして、名誉臣民を媒介とした結びつき以外にも、総統とザルツは支援軍を通じて相互依存の関係を築き上げていた。総統は兵士を欲し、ザルツは富を得るための征服地を欲していたのである。

 「多種族の統合」の理念の下、富を得る機会を「帝国の恩恵」として諸惑星の人間に巧みに配分する事――。これこそが、総統デスラーがガミラス第二帝国を築き上げ、さらにはガミラスを再び宇宙に覇を唱えんとする存在にする事のできた秘訣であった。


 ――ザルツ人とデスラーの面会が終了した後。ヴェルテ・タランはデスラーに面会した自治政府代表及び生産施設運営者代表と実務の打ち合わせに入っていた。まず彼らザルツ人達からザルツの経済の現状を細かく聞き取り、ザルツに提供する機械等の資本財の量について交渉する。それがまとまると、ヴェルテは支援軍に新規に提供される人員の数についての交渉を始めた。

 交渉を行いながらヴェルテは、ヤマトのバレラス襲来以前のガミラスを思い返していた。当時彼は帝都バレラスで、今と同じくガミラスの軍需生産拡大の指揮を執り続けていたが、軍需国防相として内心ではガミラスの拡大政策に危惧の念を抱いていた。ガミラス帝星だけで軍隊の需要を満たし続ける事ができるのか、と。しかしその解決のために被征服民と交渉する事になるとは夢にも思っていなかった。ヴェルテは総統が復権されてからのガミラスは確かに変わったと思った。

 ヴェルテの感慨通り、ガミラスの兵員を巡る状況は変わっていた。ガトランティスとの戦争を目前とする頃までにザルツをはじめとするいくつかの惑星は、帝国の尖兵、あるいは共犯者として、ガミラス帝星と並ぶ主要な兵士の供給源となっていた。ガミラス帝国の戦力造成に責任を持つヴェルテにとっては、この状況は願っても無いことだっただろう。航宙艦隊を例にとると、彼の長年の政策努力によりガミラス帝国は、デスラーがガトランティス軍を破り復権した時点で年間1万2000隻を超える戦闘艦艇を生産し前線に送り出す工業力を有していた。ガトランティス軍の侵攻を受けた後でさえこれだけの生産能力を有していた事は全く驚くべき偉業であると言えたが(※11)、旧来のガミラスは帝国中で続々と生産される艦艇に乗せる人間を用意する事ができないでいた。極端な事を言えばガミラスは、「乗る人間のいない艦艇がゴロゴロしている」という状態だったのである。総統デスラーの支持基盤は叔父のデスラー大公から受け継いだデスラー公国に限られ、兵士の供給も殆どそこに依存していた。兵士となる人間の不足が、旧来のガミラス帝国の大きな泣き所となっていたのである。

(※11)この数字は駆逐艦、巡洋艦、戦艦といった大きさの異なる艦艇を単純に合計したもので、生産される艦種の割合によって多少上下するものでもある(例えば駆逐艦の割合が大きければ数値は上昇するし、戦艦の割合が大きければ数値は下がる)。ガミラスで生産される戦闘艦艇数の大雑把な目安程度と御理解頂きたい。
 また、この数字には惑星間弾道弾や要塞等の巨大構造物や、輸送船等の大型船舶の生産は含まれていない。戦力的に全く優遇されていなかったはずの太陽系攻略軍が巨大な惑星間弾道弾を多数格納できる巨大基地や、無人環境改造プラントのような艦艇よりずっと大きい巨大建造物を短期間で建造した事からも、ガミラスは戦闘艦艇だけではなくこれらのものを同時に生産していけるだけの工業力を有していると考えられる。(艦艇よりも遥かに巨大であるにもかかわらず使い捨ての惑星間弾道弾の事例を見ると、ガミラスにとってはプラントや船の船体といった大型構造物の製造は極めて容易な事で、それよりも波動エンジンの方が遥かに製造の難易度が高いのではないかとも思われる。)
 この巨大な工業力こそガトランティスが奴隷と並んで垂涎してやまない”獲物”であった。ガミラスはガトランティスの侵攻により小マゼランと銀河系の工業施設を失い、工業力の大部分が存在した大マゼランでは工業施設を殆ど無傷で防衛する事に成功していた。

 しかし、今やこの帝国の弱点も、ガミラス第二帝国の体制が固まるにつれ大きく改善されるに至った。支援軍とデスラーがガミラス帝星で発した大動員令により、ガミラスは必要な兵員を調達する目処をつける事ができた。ヴェルテはデスラーと共に帝国各地を巡回しながら、ガミラスの同化政策が着実に実を結んでいる事を実感していた。ヴェルテが行ってきた数々の施策は、デスラーの手でさらに形を整えられ、ガミラス第二帝国に再び大規模な戦争を行えるだけの力をもたらしつつあった。あとは、帝国の同化政策の成果を自らの目で確認し、それらを最大限に活用する努力を続けるのみである。

 ガミラスの軍需面での戦争準備は、一つの完成形を迎えようとしていたのだった。


 
―― 3 ――

【Amazon.co.jp限定】宇宙戦艦ヤマト2199 星巡る方舟 アートキャンバス(発艦!α2) ――ザルツ人とデスラーの面会が終わったその日の夕刻。デウスーラと大型住居艦はザルツ恒星系の工業宙域に移動していた。外惑星の周囲を漂う多数の造船所や工場の中からある施設に向かって、住居艦は接近していく。輸送船や工作船といった多数の宇宙船が飛び交う中、住居艦はザルツの工業宙域で建造中だったその”施設”の前でゆっくりと速度を落とすと、やがて静かに動きを止めた。

 「住居艦の新規ブロック、接続準備開始せよ」

 住居艦の周囲を飛び交う作業船と、住居艦内の各所に放送が鳴り響いた。これから住居艦に新たなモジュールが接合されるのだ。新規の居住区画と、エンジン区画が追加され、さらに住居艦は巨大になっていく。ガミラスの巡洋艦が小さく見えるほどの巨大な塊が住居艦へと接近していった。その光景を作業者だけではなく、住居艦に住む多くの人間がモニター越しに見ていた。ある者は作業の監督としてそれを見守り、残りの者は純粋な興味からその光景を眺めている。そうした住民の一人、ヴェルテ・タランは弟のガデル・タランや副官達と共に、会議室の大きなホログラムモニターの前に陣取り、作業を見守っていた。

 「壮観な光景だな、兄さん」

 「技術屋の楽しみだよ、こういうのを眺めるのは」

 素直に感嘆するガデルに、ヴェルテは軽く笑みを浮かべて言った。モニターには、垂直に切り立ったブロックと住居艦の巨大な接合部分が映し出されていた。それはさながら、巨大なフィヨルドの両岸にそびえる断崖絶壁を眺めているような情景である。作業者でなくとも、眺める人全てを圧倒するような壮大さがそこにはあった。

 「帝国の各地でブロックを継ぎ足しているのだろう?最後には第二バレラスよりも大きくなるのか?」

 「最終的にはな。だがそれはまだまだ先のことだ。今は総統と我々が移動しながら政務を行えるよう機能を拡充している最中だ。こいつ(住居艦)は言わば移動する政庁であり、都なんだよ、ガデル」

 モニターに見入るガデルに対し、ヴェルテが簡単に説明した。

 総統が宇宙を長期間巡回しながら生活するためという名目で建造された大型住居艦は、基本形が完成するとデウスーラと共に帝国各地を巡回しつつ、各地で建造されるモジュールとのドッキングを繰り返していた。新規にモジュールが接合され区画が拡張されていくのに伴い、ヴェルテ・タラン直卒の軍需省と国防総省を皮切りに兵器開発局などの政府機関が次々とバレラスから住居艦へと異動してゆく。ガトランティスとの戦争を目前に控えた今(※ヤマトのバレラス襲来から7年後)では、政府機関の多くが住居艦に移され、艦は事実上の「帝国の都」と言ってよい程の様相を持つまでになっていた。公式にはあくまで総統が帝国を巡回するための非常措置であるという説明が為され、今でもガミラス帝星は首都星でありバレラスも帝都のままであった。しかし、それにしては大型住居艦は「帝都」としての機能と形式を整えつつある。総統はバレラスに戻るつもりはないのではないか、という噂がそこかしこで聞かれるようになっていた。

 ヴェルテの話を聞きながらガデルは住居艦が完成したらバレラスはどうなるのかと内心で思ったが、その事は口には出さずにおいた。かつてバレラスを破壊しようとしたデスラーの所業の是非に話が飛びかねない話題である。建設的な会話になるとは思えなかったし、そんな事よりも考えなければならない課題が山積していた。今日は重要な事を兄と打ち合わせしなければならないのだ。

 密かに忙しく考えを巡らせていたガデルの顔をヴェルテが一瞥する。ヴェルテは弟が何を考えているか敢えて訊くことなく彼に言った。

 「ではガデル、本題に入ろう」

 ヴェルテに促され、会議室にいた全ての人間が席に着いた。長大なテーブルを間に挟み、片側をヴェルテとそのスタッフ達が、反対側をガデルと副官達が陣取り互いに向かい合う。全員が着席したのを確認すると、ヴェルテが口を開いた。

 「では諸君。これより、デスラー砲搭載艦の運用シミュレーションについての説明会を執り行う」

 デスラー砲、即ち波動砲の運用についての打ち合わせ――。これこそがガデルが考えていた”課題”の正体であった。ヴェルテが話を続ける。

 「総統の座乗艦と親衛艦に搭載されたデスラー砲は、皆が知っての通り”宇宙を引き裂く”危険性を有している。それを回避する技術は長年の努力にもかかわらずついに発見される事なく、我々はデスラー砲搭載艦が多数配備される現状を迎える事となった。戦争を目前に控え、我々はデスラー砲を安全に使用するための運用シミュレーションを実施した。今日はその解析結果についての報告と、用兵側からの質問及び討議を行うものとする」

 ヴェルテはその場にいた者全員に、会議の主旨を話して聞かせた。

 ヤマトがバレラスを襲ってから7年の歳月が経つ。ガミラスではデウスーラ二世に史上初めて搭載された波動砲は、その後実用化されていくつかの艦艇に装備される状況となっていた。その艦艇の一つが総統の座乗するデウスーラ三世である。デウスーラ三世には、改良が施され機能と信頼性が向上した大出力の波動砲(ハイパーデスラー砲と呼称)が装備されていた。デスラーは帝国の武の象徴として、デウスーラに最大最強の兵器を搭載する事を欲したのである。デウスーラに座乗するとさらに彼は、自身が率いる戦力として、波動砲装備の親衛艦二百隻弱から成る親衛艦隊の創設へと踏み切った。彼はガトランティスとの戦争に向け、ガミラス軍への波動砲の限定配備を断行したのだった。ヴェルテとガデルが行うこの会議は、現状では親衛艦隊のみに装備された波動砲の運用を確立するための、極めて重要な会議であった。

 「では、まず最初に、用兵側から示された親衛艦の運用を今一度確認しておきましょう」

 会議の進行役を務めるヴェルテ側スタッフの一人が議題を提起した。続いて別の一人が説明を始める。

 「親衛艦は四隻で一個小隊と為し、これが基本的な運用単位となります。さらに四個小隊は一個中隊と為し、大規模艦隊戦の際は一個中隊が親衛艦隊から各軍へ増援として分派されます。分派された中隊は味方の突撃縦隊の前面に展開し、デスラー砲を発射、敵の戦列に破口を開けます。突撃縦隊は破口が形成され次第ミサイルの一斉射で破口を拡大し、突破口を形成、突撃に移ります。親衛艦はデスラー砲発射後、突撃に追従せず、エネルギーを充填、次の使用に備え待機。親衛艦の基本運用は以上のもので間違いないでしょうか」

 「それで間違いない」

 ガデルはヴェルテ側スタッフの説明に答えた。では続いてシミュレーション結果の提示に移りますとスタッフが述べると、テーブルの中央にホログラム映像が現れた。そこには十六隻の親衛艦から発射される波動砲のビームが円錐状に広がっていく様子が映し出されていた。円錐の内外の空間が赤、橙、青と色分けされている。

 「これはデスラー砲が空間に与える負荷を示したものです。負荷の高い順に白、赤、橙、青と表示され、空間が裂けるほどの負荷が集中した箇所は白で表示されます。映像で示したケースは用兵側で想定している艦の間隔と、ビームの照射範囲でデスラー砲を使用したものです。映像を見ての通り白い箇所は見られません。標準的な使用では宇宙が引き裂かれる危険性はないと言えます。さらに艦の間隔とビームの照射範囲を変えてみます」

 このように述べた後、説明するスタッフが別のスタッフに指示を出す。するとホログラムの映像が様々に変わる。これは艦の間隔を狭めてデスラー砲のエネルギーが狭い箇所に集中した場合、これはデスラー砲を拡散状態での使用から極端に収束させた状態での使用に切り替えた場合、という具合に様々な波動砲の使用条件でシミュレートした結果がホログラムに表示され、スタッフが説明を加える。いずれのケースでも”宇宙が引き裂かれる”結果は示されなかった。

 「では結論として、一個中隊で使用する限りどのように使用しても宇宙が引き裂かれる心配はない、という理解で良いか」

 ガデルがスタッフに訊いた。

 「一個中隊で一回斉射する限りにおいては問題ないとシミュレーション結果では予想されます。ただし」

 ガデル達に説明していたスタッフが先ほどまで彼らに見せていた映像の一つを再び表示する。

 「デスラー砲を極度に収束させ一点に向け集中発射した場合、目標点の空間の負荷はご覧のように非常に高くなります。もし一個中隊以上の艦で同じ射撃をした場合、あるいは一個中隊で何度も同じ射撃をした場合、空間の負荷は臨界点に達し空間断裂が発生する、つまり宇宙が引き裂かれる可能性が極めて高くなります」

 「一箇所でデスラー砲を安全に使用できる数は一個中隊まで、それも過度に集中しない射撃を二、三回のみということか」

 「味方の安全を第一に考える場合そうなります。仮に戦場で危機に陥り一個中隊以上の艦艇数でデスラー砲を使用するとした場合でも、二個中隊までが限度でしょう。それ以上の数では全く安全が保障できない、というのが小官の見解です」

 ガデルとスタッフのやり取りが一段落したのを見計らって副官の一人が質問した。

 「一箇所で使用できるデスラー砲が一個中隊までなら、大規模な会戦で複数の軍と親衛中隊が行動する場合中隊と中隊の距離はどれぐらいとれば良いのか」

 「会戦に際し一個軍(※此処での「軍」は、編成の単位としての「軍」である)が展開する標準的な範囲と同じ距離をとれば、複数の中隊がデスラー砲を使用しても相互に影響はないと考えられます」

 この質問を皮切りに、ガデルの副官達が次々と質問を始めた。

 「大部隊、例えば一個軍がゲシュタムアウトした直後にデスラー砲を使用した場合、空間に与える負荷はどれぐらいか」

 「デスラー砲を使用する毎に空間が受ける負荷がどのように変化するか、相関関係を示したものを提示頂きたい」

 「デスラー砲使用後やゲシュタムアウト直後のように空間が不安定になる状況でデスラー砲の斉射を行う場合、デスラー砲の出力と照射範囲を変えれば安全は保たれるのか。そうであるなら、相関関係をプロットしたものはあるか」

 質問の多くは様々な状況でデスラー砲を使用した場合の空間にかかる負荷と、その時に使用する波動砲の望ましい出力と照射範囲に関するものだった。ガミラスの波動砲はデウスーラ二世に装備された最初期のものから一貫して出力と照射範囲を任意に変更できる機能を付与されていたが(※1)、ガデル達用兵側はそれを惨劇をもたらすことなく波動砲を使用するのに利用しようとしていたのである。

(※1)ヤマト2199第23話でデスラーは総統府に突き刺さったヤマトに対し、デスラー砲を「出力を絞って」使用しようとしていた。この事から、ガミラスの波動砲は開発当初から出力と照射範囲を任意に変更できる仕様になっていると考えられる。

 専門的な数値の飛び交う質疑応答がしばらく続いた後、会議は次の議題へと移行した。ある意味では用兵側が最も確認しておかなければならない事項、波動砲がもたらす危険そのものについてであった。

 「これまでの質疑応答により、デスラー砲の運用に関して満足できる回答を頂いた。礼を申し上げる。では次の確認事項として、デスラー砲の危険性についてお聞きしたい。もし宇宙が引き裂かれた場合、その規模はどれだけのものになるのか」

 副官の質問に今まで答えていたスタッフ達とは別のスタッフが回答した。

 「デスラー砲による空間断裂の規模は、使用されたデスラー砲の数により規模が大きく変わってくると考えられます。しかし、最も小規模な場合でも最終的には一つの恒星系を丸ごと飲み込む規模になると思われます。また、断裂が広がる速度ですが、これについては不確定要素が多く正確な予測は困難です。ただ断裂の最終的な規模を考えると、断裂発生からごく短時間で会戦を行っている敵味方両軍を飲み込む規模に広がるのではないかと思われます」

 「空間断裂は最大でどれぐらいのものになると考えられるか」

宇宙戦艦ヤマト2199でわかる天文学: イスカンダルへの航海で明かされる宇宙のしくみ 「おそらくは数光年の規模にまで拡大すると思われますが、どこまで広がるかは予測がつきません。しかし被害の深刻さを考えると単純な大きさはもはや問題にならないかもしれません。島宇宙の中心にある巨大質量ブラックホールをも遥かに上回る規模になることは確実だからです。巨大質量ブラックホールが島宇宙を回転させる程の影響力を星々に及ぼしている事を考えると、ブラックホール同様空間に開いた穴である空間断裂は周囲の恒星系にも巨大な影響をもたらすでしょう。下手をすれば島宇宙全体の空間や星々が破壊される事になるかもしれない、というのが小官が懸念している事です」

 惨事が起きれば全軍が星系ごと消滅し、あまつさえ島宇宙までもが巻き添えとなる。この回答にガデルと副官達は腕組みをして考え込んでしまった。彼らの顔は皆明瞭に次のように語っていた。

 ”…ある程度予想はしていたがここまで危険とは――”

 細心の注意を払えば惨劇をもたらすことはないが、一旦それが起きるととてつもない規模となる。不測の事態が当然のように起こる戦場で波動砲をうまく活用しきれるのか。ガデルは内心で葛藤した。こうならないために兄のヴェルテと様々な手段を今講じているが、それでうまくいくだろうか。最善を尽くしているはずという思いと本当に波動砲を使用してよいのかという不安が心の中でせめぎあい、ガデルは少しの間沈黙し熟考を続けたのであった。

 やがて、ガデルは口を開いた。

 「デスラー砲の危険性は数値では表せないほどのものである、そういう理解で良いか」

 「はい。願わくば、閣下。デスラー砲の運用には細心の注意を払って頂きたく存じます」

 ガデルの問いにスタッフは直言とも諫言ともとれる回答をした。彼の口から飛び出た遠慮のない物言いに副官の何人かが「立場をわきまえよ」という顔をしたが、ガデルは意に介さなかった。ガデルは少し考えを巡らせるとスタッフに言った。

 「分かった。こちらも惨劇をもたらさないよう最善を尽くそう。では、最後に」

 ガデルが会議の最後の議題を述べた。

 「以上の質疑で示されたデスラー砲のデータを元に、親衛艦隊はデスラー砲の実射訓練を行うものとする。訓練を行う数個中隊の親衛艦にデスラー砲の運用シミュレーションを”学習”させてもらいたい。時間はどれだけかかるか」

 親衛艦の戦術コンピューターに波動砲の運用シミュレーションの結果を入力し、様々な状況に応じて適切な波動砲の出力と照射範囲を自動で算出できるようにする作業の事だった。スタッフが答える。 

 「ソフトウェアを艦に学ばせ艦自身が適切に使いこなせるようにするのに1日頂けますでしょうか」

 「よかろう。では明後日、我々は三個中隊を率い大マゼラン外縁部にてデスラー砲の実射訓練を行うものとする。会議が終了次第ただちに作業にとりかかってもらいたい」

 「ザー・ベルク」

 会議は最後のまとめに入った。今まで会議の様子を見守っていたヴェルテが言った。

 「本日の会議はこれで終了とする。用兵側にはシミュレーション結果の検証のため、デスラー砲発射時の空間負荷の実測データを後日渡してもらいたい。我々はそれを元にシミュレーションモデルを改良し、より正確な予測が立てられるようにする。その上で再び会議を開催するものとする」

 「了解した」

 ヴェルテの言にガデルが答えた。二人は立ち上がって歩み寄ると、会議の終了のしるしに握手を行った。その場にいた者達も立ち上がり、めいめいに握手する。

 こうして、ガミラスの波動砲の運用を巡る最初の会議はここに終了したのだった。

(「ガミラス第二帝国の戦争準備―イスカンダル帝国の興亡史―」につづく)

【Amazon.co.jp限定】宇宙戦艦ヤマト2199 アートキャンバス(浮遊大陸脱出)宇宙戦艦ヤマト2199』  [あ行][テレビ]
総監督・シリーズ構成/出渕裕  原作/西崎義展
チーフディレクター/榎本明広  キャラクターデザイン/結城信輝
音楽/宮川彬良、宮川泰
出演/山寺宏一 井上喜久子 菅生隆之 小野大輔 鈴村健一 桑島法子 大塚芳忠 麦人 千葉繁 田中理恵 久川綾
日本公開/2012年4月7日
ジャンル/[SF] [アドベンチャー] [戦争]
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【theme : 宇宙戦艦ヤマト2199
【genre : アニメ・コミック

tag : 出渕裕 西崎義展 山寺宏一 井上喜久子 菅生隆之 小野大輔 鈴村健一 桑島法子 大塚芳忠 麦人

【投稿】ガトランティス戦争開戦までのガミラス―ガミラス第二帝国― 『宇宙戦艦ヤマト2199』ガミラス考察補論集1 小説~ガトランティス戦争編~

 T.Nさんの補論「イスカンダルの王権とデスラーの人物像について」の一部を構成する思考実験小説を以下に公開する。

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『宇宙戦艦ヤマト2199』 ガミラス考察補論集1

思考実験としての続編小説~ガトランティス戦争編~

――デスラーズ・ウォーから本編までのあらすじ――
 ヒス・ディッツ政権のガミラスが内乱に陥った好機を捉え、ガトランティスが小マゼランに侵攻。小マゼラン方面軍は全滅し、小マゼランはガトランティスの手に落ちた。そしてついに大マゼランにガトランティスの大軍が侵攻し、帝国の各地が劫略と奴隷狩りの惨劇を迎える。軍事力の崩壊したヒス・ディッツ政権には為すすべがなく、帝国は滅亡の危機を迎える。
 そこへデスラーが銀河系方面軍を率いて潜伏先の銀河系より舞い戻り、ガミラス全軍に自身の生存を訴えた。将兵達は帝国滅亡の危機を前にして建国の英雄に全てを賭ける事を決意、全軍がデスラーの元に寝返る。ガミラス全軍を糾合したデスラーはガトランティス軍を巧妙な罠にかけて撃滅し、指揮官のバルゼーを敗死させる。続く掃討戦でデスラーはガトランティス軍を大マゼランから一掃し、帝国各地で奴隷として連れ去られようとしていた臣民を救出した。
 こうして大マゼランは危機を脱し、ヒス・ディッツ政権はデスラーに滅ぼされてしまう。その後デスラーは小マゼラン奪回の兵を出すが、ガトランティスは小マゼランを「無人の野」にして銀河系に移動した後だった。小マゼランをも帝国の手に取り戻したデスラーは「大小マゼラン諸種族の推戴を受ける」という形式で「大小マゼラン諸種族の第一人者としての総統」に就任、ガミラス第二帝国を建国したのだった。


1. ガトランティス戦争開戦までのガミラス――ガミラス第二帝国――

 ――ヤマトのバレラス襲撃から7年後――

 ガトランティスが大マゼランに侵攻し、デスラーにより撃退されてから5年以上の歳月が流れた。ガミラスとガトランティスの両帝国にとってこの5年間というものはまさに、両国が自らの支配体制を固め、それぞれが甚大な損害を被った戦力を再建し次の戦争を行うための準備期間でもあった。

 デスラー率いるガミラス軍は大マゼランの会戦において、ガトランティスの大マゼラン攻略軍を全滅させ大マゼランから彼らを叩き出すのに成功したものの、それまでにガミラスが失った戦力は極めて膨大なものだった。
 ガミラスが保有していた戦力のうち、戦略予備と位置づけられていた基幹艦隊1万隻余はガトランティス軍侵攻以前にヤマトにより3000隻を残して全滅した。小マゼラン方面軍2万隻弱はガトランティス軍により殲滅された上、大小マゼランのガミラス地上軍も侵攻したガトランティス軍に軒並みなぎ倒されてしまった。デスラーが銀河系方面軍の、地上部隊も含めた文字通りの全軍を率いて大マゼランに戻って来た時には、ガミラス帝星を除く殆どのガミラス領有人惑星がガトランティス軍の劫略と奴隷狩りを受ける惨状となっていたのだった。
 デスラーはガミラス帝星のあるサレザー恒星系に逼塞を余儀なくされていたガミラス軍航宙艦隊に自身の生存を訴え、巧みな弁舌で将兵を味方につけた。そして彼は自ら率いる銀河系方面軍1万隻と小マゼラン方面軍の残余5000隻、そして基幹艦隊3000隻を糾合し、ガトランティス軍に勝利した。続く掃討戦でデスラーはガトランティス軍を大マゼランから叩き出し、何ヶ月かの準備の後に小マゼラン奪回の兵を挙げ、小マゼランをも帝国の手に取り戻した。小マゼランでの抵抗は殆どなかった。ガトランティスは小マゼランの資源と人間を洗いざらい接収して「無人の野」とした後、銀河系へと移動していたのである。こうして、デスラーは大小マゼランを帝国の手に取り戻す事に成功した。
 しかし、帝国に復権したデスラーの手元に戦力として残されたのはおよそ1万5千隻の艦艇と銀河系方面軍の地上部隊、そして大マゼランの地上部隊の僅かな生き残りのみであった。デスラーはヤマトのバレラス襲撃以前の半数以下にまで激減してしまった戦力を元に、自らの帝国を再び大小マゼランに築き上げていったのだった。

 ヤマトがバレラスを襲撃して以来流れた7年という歳月は、ガミラス帝国の歴史をそれ以前とそれ以後に分けて記述するほどの重大な変化を大小マゼラン世界にもたらした。中でも、ガトランティスの大小マゼラン侵攻が帝国に与えた影響はとりわけ大きなものだっただろう。大小マゼラン世界の政治秩序が文字通りひっくり返ってしまったからである。
 これまでガミラスが大小マゼラン世界で喧伝してきたイスカンダル主義――イスカンダルを『宇宙の救済者』として奉じようとする考え方――と、ガミラス帝国以前より大小マゼラン世界のそこかしこで存在してきた救済者としてのイスカンダルへの信望は、ガトランティス軍の劫略と奴隷狩りにイスカンダルが何一つ行動を起こせなかった事から大きく失われてしまった。
 反対に、ガトランティス軍を撃退し大マゼラン諸惑星の住民をガトランティスの奴隷船から救い出したデスラーは、「大小マゼラン、ひいては宇宙の救済者」という声望を大小マゼラン世界で獲得するに至った。
 遥かな昔よりガミラスはイスカンダルを「文明をもたらし、宇宙を救済に導く」存在として崇拝し、至高の存在として奉じてきたのだが、両者の大小マゼランにおける立場は今や完全に逆転したのだった。

 大小マゼランを帝国の手に取り戻し、その支配者の座に再び収まったデスラーは「大小マゼラン諸種族の推戴を受ける」という形式で「大小マゼラン諸種族の第一人者としての総統」に就任した。
 デスラーがガミラスに復権して以降の帝国をガミラス第二帝国と呼ぶなら(あくまで便宜上の呼称であり、正式な国号はあくまでガミラス帝国である)、ガミラス第二帝国はそれまでの純血ガミラス人のみが多種族を強圧的に支配する帝国から多種族が統治に参画する「大小マゼラン諸種族の世界帝国」へと変貌を遂げつつあった。
 デスラーは帝国各地を精力的に巡回して各惑星社会のガミラス化を促し、ガミラス的な生活様式を普及させ――ガミラスの「同化政策」の骨子だった――、帝国全体の何千という臣民(純血ガミラス人、二等臣民を問わず)を帝国の支配エリートである名誉ガミラス臣民に登用し、さらにそれを遥かに上回る数の二等臣民に一等臣民権を授与した。こういったことの全ては実のところ、ガミラスが大小マゼランを統一した直後からデスラーによって手が付けられていたのだが、ガトランティスの大小マゼラン侵攻はそれらを一気に促進する契機となったのである。

 大マゼランの会戦でガトランティス軍を破り、大マゼラン各地で掃討戦を行う過程でデスラーはガトランティスの奴隷船から助け出した諸惑星の臣民達――これには二等臣民だけではなく純血ガミラス人移民も含まれていた――の前で、自分こそが大小マゼラン全ての民の生活を守る存在である事を訴え、ヒス・ディッツ政権に身分降格された名誉ガミラス臣民や一等臣民を復位させ、同政権に対し反旗を翻した二等臣民の多くを赦し有用な者を名誉ガミラス臣民や一等臣民に登用し、純血ガミラス人移民が移民先で得た資産をあらためて安堵していった。
 そして、デスラーは登用した名誉ガミラス臣民や一等臣民に土地や資産を与え、大規模な植民を開始した。かつてガミラス帝星の純血ガミラス人に対して行ったのと同じ施策である。そのための土地や資産は十分に存在した。ガトランティス軍により無人の地となった惑星や土地が数多くあったからである(特に小マゼランがそうだった)。
 ガトランティス軍に焼き払われた惑星には環境改造プラント(ガミラス軍が太陽系の冥王星に設置したのと同種類の施設で、惑星の環境をごく短期間で作りかえることができた)を設置して環境の再生に着手し、登用した者達に将来与える土地を確保した他、各地に調査担当者を派遣して無人となった土地の権利関係を正確に調査した上で区画を整理して、それらを個人に割り当てていった。

 植民計画で土地政策と並行して行われたのが、登用した名誉ガミラス臣民や一等臣民への職の提供である。デスラーは同化政策の一環で有人諸星系の宇宙や地上に以前から建設されていた生産施設(工場だけではなく、農場プラントも含まれる)を再稼動させ、戦争により荒廃した諸惑星に物資や物品を供給し、その生産や販売の仕事を彼らに任せた。
 ガミラスが建設したこれらの生産施設は、元々ガミラスの技術で作られた製品を大量に惑星社会に供給し、 ガミラス的な生活様式を普及させ惑星社会のガミラス化を促すためのものだった。ガトランティス軍はこれらの施設をガミラス帝星よりも優先して狙い、無傷で接収しようとしたが、大マゼランの会戦で敗れたガトランティス軍があっという間に一掃された結果、デスラーに殆ど破壊されることなく奪い返される事となっていたのである。
 ガミラス製品の大量の供給とそれらを使用した地上の復興計画は、ガミラス的な生活様式の急速な普及を促した。これまで緩慢な速度で進んでいた諸惑星のガミラス化が、ガトランティスの侵攻によって結果的に一気に促進されるようになったのだった。

 デスラーがガトランティス軍を破った直後から行った一連の施策は、かつてデスラーの叔父やデスラー本人に征服されたガミラス帝星の公国の民――ガミラス帝国は元々、ガミラス帝星に存在したガミラス大公国を構成する複数の公国のうち、デスラーの叔父が治めるデスラー公国が他の公国を征服することで形成された――や二等臣民といった、帝国の支配する人々のうち不満を爆発させる可能性のある階層を選び出して、彼らに自身と家族の暮らしを支える手段を与えるものだった。ガミラスの大小マゼラン統一以来デスラーにより行われていたこれらの施策(植民と登用、職の提供)は、戦争の勝利によりはるかに行動の自由を得た今、その活動をよりいっそう大規模に再開されたのだった。政治的に彼はこれによって利益を得て、数多くの人々に恩を着せたと同時に、裕福な市民の数を大小マゼラン全体で大きく増やしたのである。
 その結果、ガミラス第二帝国に非常に重要な成果がもたらされた。大小マゼラン諸種族の中にガミラスやデスラーに対する忠誠心と感謝の気持ちが育まれたことである。少なくない人々が、自分たちが帝国の犠牲者ではなく、受益者だという意識を持つようになっていった。彼らは帝国という共同体の一員となったのである。彼らにとってデスラーは、紛れもない「救済者」であった。

 ガミラス第二帝国において、デスラーへの支持は今や大小マゼラン世界全体に広まっていた。彼が「大小マゼラン諸種族の第一人者としての総統」に就任することができたのも、大小マゼラン諸種族の間で広く見られるようになった支持のおかげだった。
 これはそれまで、ガトランティス侵攻以前のガミラス帝国におけるデスラーの支持基盤が叔父のデスラー大公から受け継いだデスラー公国に限られていたのと比べると格段の変化といえた。彼の権力基盤は非常に強固なものとなっていったのである。

 デスラーはこうした大小マゼラン諸種族や登用した臣民、純血ガミラス人移民達――元々はデスラーとその叔父に滅ぼされた公国の民であり、潜在的危険分子として追放同然の移民となり、土地や資産・職の提供を受け、ガトランティス軍による惨禍から救われた結果デスラーを支持するようになっていた――の支持を背景に、ガミラスの軍事力の再建と更なる増強を推し進めていった。
 この「大軍拡」においてデスラーが行った軍制改革のうち、特筆されるものに「支援軍の創設」がある。彼はヤマトとガトランティスにより半壊状態となったガミラス軍を再建するため、二等臣民を大規模に戦力化した「支援軍」を創設した。
 支援軍は以下のような仕組みを持つものだった。

・反乱の可能性を抑えるため、一つの部隊に複数の種族の兵士を混合した混成部隊にする。このようにすれば、例えばザルツ人やオルタリア人等の異種族同士は利害が必ずしも一致しないため、1つの種族だけで構成される部隊に比べて一部の反乱がたちまち全体に波及する危険性をかなり抑えられる。

・従来の二等臣民の部隊は(ヴァルケ・シュルツが率いていた二等ガミラス旅団のように)規模が旅団程度に留まり、部隊数も多くなかった(そのためガトランティス軍の大小マゼラン侵攻以前には、諸惑星に駐留するガミラス地上軍に深刻な兵力不足を補う目的で大量の機械化兵が配備されていた)のに対し、支援軍は最大の部隊単位が師団に拡大され部隊数も大幅に拡充された。ガミラス軍の部隊単位としての軍及び軍団は、支援軍の師団と一等臣民の正規軍師団の混成部隊となった。

・旅団長と師団長は一等ガミラス臣民が務める。旅団長以上のポストは一等臣民が殆ど全てを占める軍団等の上級司令部との打ち合わせが増えるため、身分の違いによる軋轢が生じるのを回避するためにもそのような仕組みが取り入れられた。旧来の二等ガミラス旅団の旅団長は支援軍創設に伴い全員一等臣民に昇格する事となった。

・支援軍の将兵は一定年数(10年程度)の勤務で一等臣民に昇格でき、その子供にも一等臣民権が与えられる。ただし、旅団長になる者は一定年数が過ぎていなくても一等臣民に昇格する。

 一定の兵役期間を過ぎると一等臣民権が授与される支援軍は(古代ローマの支援軍と同様に)多種族をガミラス人として統合する装置となり、ガミラス第二帝国が「純血ガミラス人の帝国」から「大小マゼラン諸種族の帝国」へと変貌する後押しとなっていった(この事はイスカンダルにとって、イスカンダルが「純血ガミラス人の上位に立つ至高の存在」から帝国の支配する数多の星の一つに過ぎなくなる事を意味していた)。
 この支援軍とデスラーによる名誉ガミラス臣民・一等臣民への登用は、ガミラス第二帝国がもはや効力を失ったイスカンダル主義に代わり掲げるようになっていた「多種族の統合」という帝国の理念が、言葉だけではない実質を伴うものであるとして大小マゼラン諸種族に捉えられた。支援軍はガミラス軍が抱えていた深刻な兵員不足の問題を大きく改善し、ガトランティスとの戦争を開始する頃にはガミラス全軍のおよそ半数が、こうした支援軍で占められるようになっていたのだった。

 支援軍の創設と拡大に並行し、デスラーは一等臣民で構成される正規軍師団(殆どが純血ガミラス人で占められていた)の増強を断行した。ガミラス帝星において「大動員令」を発し、大勢の市民をガミラス軍、特に航宙艦隊に徴集したのである。この徴兵は、対象をバレラスの存在する「デスラー公国」だけではなく他の公国にも大きく拡大して実施された。
 その結果、少なくとも数字の上ではガミラス正規軍はヤマトのバレラス襲来以前の兵力水準を回復した(航宙艦隊の場合、数にして4万隻程)。これに支援軍を加えると、ガトランティス戦争直前のガミラス軍はヤマトのバレラス襲来以前に倍する戦力を造成し、さらにそれらを増強させる目処を立てていたのである(ガトランティス戦争直前のガミラス軍航宙艦隊はおよそ7万5千隻の戦闘艦艇を擁していた)。
 この大幅に膨れ上がった戦力をどのようにして帝国の安定に寄与し、信頼できる存在にするのか。その事が、ガトランティスとの戦争を控えたガミラス第二帝国の最後の課題となっていたのだった。

(「ガミラス第二帝国の戦争準備―ガデル・タランとヴェルテ・タラン―」につづく)

ヤマトメカニクス2199: 宇宙戦艦ヤマト2199モデリングアーカイヴス宇宙戦艦ヤマト2199』  [あ行][テレビ]
総監督・シリーズ構成/出渕裕  原作/西崎義展
チーフディレクター/榎本明広  キャラクターデザイン/結城信輝
音楽/宮川彬良、宮川泰
出演/山寺宏一 井上喜久子 菅生隆之 小野大輔 鈴村健一 桑島法子 大塚芳忠 麦人 千葉繁 田中理恵 久川綾
日本公開/2012年4月7日
ジャンル/[SF] [アドベンチャー] [戦争]
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